前日に続いてのヤバイTシャツ屋さんの「You need the Tank-top」ツアーZepp Tokyoワンマン。無謀とも思える(メンバーの体力面で)5days10公演もこの日がもう4日目でこの1部が7公演目。ここまで自分が見た2公演はともに2部だったので、毎回変わるライブの内容はもちろん、早い時間でのライブがどういうものになるのかという意味でも全くマンネリ感を感じたり飽きたりすることはない。(そもそもそう感じたらここまでチケットを取らない)
この日も検温と消毒を経て、ヤバTのリミックス音源が流れる椅子が並べられたZepp Tokyoの中へ。前日の2部はカメラが入っていたのがすぐにわかったが、この公演はそれはないようだ。
1部ということでライブを観るには早めの時間である16時になるとおなじみの「はじまるよ〜」の脱力SEが流れてメンバーが登場。するとしばたありぼぼ(ベース&ボーカル)がトレードマークとも言える、ピンクの道重さゆみのTシャツではなくて紫色のこのツアーの物販のTシャツを着ていることに今のヤバTの連戦っぷりを感じさせる。(オーバーサイズのものを着こなしているのが実にしばたらしい)
もりもともTシャツは毎回変えているけれど、こやまだけ全く不変の上下黒で統一されているあたり、一体この男はこのセットを何着所有しているんだろうかとすら思えてくるが、そのこやまが
「Zepp Tokyo 4日目ー!テンション上げて行こうぜー!」
と、観客に言いながらも自分たち自身にもそう言い聞かせるように叫ぶと、今ツアーおなじみのライブ中のルールをやはりテンション高く口にしてから、観客に手を高くあげることを促す。
その手で観客が手拍子をし、こやまとしばたは自身の頭を片手でリズミカルに叩くようにして始まったこの日の1曲目は「癒着☆NIGHT」。こやまは演奏する順番がどれだけ変わっても「新曲」と紹介するのは変わらないが、自身が歌わないパートではしばたはステージ端の方まで行って最前列にいる観客に目線を合わせ、こやまも逆サイドの上手の方へと体を反るようにして動きながらギターを弾く。
前日の2部の公演では最終盤を担った、それくらいの強さを持つヤバTのアンセムの一つであるが、それが冒頭で演奏されることによって、
「今夜はめちゃくちゃにしたりたいねん」
という歌詞の通りにこのライブがめちゃくちゃなことになるという期待が膨らんでいく。ただ曲や順番を入れ替えるだけでなく、きちんとそこに意味を持たせるものになっているというあたり、本当に各ライブ1本1本を吟味して全てに純度100%で望んでいるのだろう。
「新しいアルバムのツアーですけど、最近やってない珍しい曲もやります!」
と言って演奏されたのは、初期のヤバTの定番曲であった「ネコ飼いたい」なのだが、その演奏がもはやハードコアパンクかというくらいの激しいサウンドと姿になっている。
自分はライブは「やればやるほど良くなる」という説を提唱している。(たまにずっと真夜中でいいのに。などのそれに当てはまらない特異な存在もいるが)
ヤバTもこの1年で他の誰よりもライブをやり、そこでしか得られない経験値を獲得することで、停滞せざるを得ないコロナ禍においてもバンドとしてのレベルを上げてきたのだが、こうした初期からある曲を今ライブで聴くことによって如実にそのことを実感する。それはバンドだけならず曲すらも進化させているということに。
リリースされたばかりの最新シングル収録曲である「Bluetooth Love」はやはり客席中がMVのTikTok風なダンスで溢れるのだが、自分が参加したライブ3本全てで演奏されているということはこの曲はこれからヤバTの新しい代表曲となり、フェスやイベントでも演奏される曲になっていくのは間違いない。
それくらいのポップさと、Bluetoothを恋愛の距離感に例えた秀逸な歌詞はヤバTだからこそ作り出せるものであるし、しばたの超ハイトーンなボーカルの上手さがバンドをさらに1段階上の場所に引き上げたことを物語っている。
「You need the Tank-top」の曲も公演ごとに演奏する曲を入れ替えているのだが、この日ここで演奏されたのはこれまでも系列グループ店などへの癒着的な愛を歌ってきたヤバTがついにその母体グループのことを直接歌うことにした「J.U.S.C.O」。歌詞は洋楽的な響きすら感じるが、要するにジャスコは今はイオンになっているということである。そのサウンドはスラッシュ、ファストコアパンクと言っていいくらいに激しさと速さを備えたものであり、まず間違いなくイオン店内では流れることのないタイプの曲である。
そんな激しい曲が新作アルバムに収録されているということは、ヤバTはリリースを重ねるごとにパンクさを強めているということでもある。普通はパンクバンドはパンクから始まり、歴を重ねるごとにポップな方向へと広がっていくというのは日本のパンクバンドの先輩たちが示してきた道であるが、そもそも当初からパンクでありながらもどこまでもポップでありキャッチーであったヤバTはどちらかに進むのではなく、そのどちらをも強化、アップデートしてきたのである。だからこそパンクさもより磨きがかかって強さと速さを増しているし、それはメンバーが演奏力を向上させてきたからこそできることだ。
そんなパンクな空気を少し変えるのは、前日の2部では最後に演奏された「かわE」。
「やんけ!」
の大合唱をすることは今はまだできないけれど、
「心で歌ってくれ!」
と言ってから声は出せなくても拳を振り上げる観客の姿を見て、しばたは両腕で大きな○を作り、こやまも
「ありがとうー!」
と叫ぶ。メンバーには確かに観客の心の合唱が伝わっているのだろうし、それがわかるのはこの曲がこれまでに作り出してきた景色がみんなの脳内に刻み込まれているからだ。
そんな、早くも涙が出そうなくらいのクライマックス感を出しながらも、MCではこやまとしばたが観客の拍手をタモリのように仕切ったかと思いきや、
こやま「我々ヤバイTシャツ屋さんはラジオ番組をやってるんですけど、土曜日の16時はまさにそのラジオ番組が放送されている時間なんですよ。みんな今ここにいるっていうことはラジオ聞いてないやん。#ヤバラジでリアルタイムでツイートしてないやん。にわかやん(笑)
みんな今俺たちの写真撮っていいから、#ヤバラジで
「私はにわかなのでヤバラジを聞かずにライブに来ています」
ってツイートして!」
と言うと本当にメンバーがポーズを取る撮影タイムへ。そのままツイートしている人がまだいるのに、
「なんでみんなライブ中なのに携帯いじってるん?早くしまって!」
という流れまで完璧にこやまにZeppが支配されている。もはやMCを毎回変えるというレベルの話ではなくなってきている感すらある。
そうしてマスク越しでも笑い声が漏れてしまいそうなことをした後に演奏されるのが、ヤバT最速クラスのBPMの疾走パンクナンバーの「Tank-top in your heart」というあたりも実にズルいというか、感情の起伏が激しすぎるというか。こやまが限定ライブに行っていたというくらいに影響を受けているマキシマム ザ ホルモンの要素も強く感じさせる部分のスケールもさらに大きくなっているが、
「Tank-topの力で さあ、Punk Rockを超えれるか
破るんや自分で裂く」
というフレーズは今でもヤバTがパンクであり続ける意義そのもの。シーン登場時から自分はその歌詞の着眼点の鋭さと発明っぷりからヤバTを「パンクバンドの最新進化系」(=タンクトップ)と評してきたが、その思いは今でも全く変わっていない。
そんなパンクさの後に演奏されることによってポップなメロディとボーカルの伸びやかさが際立つ「はたちのうた」が続く。関西のテレビ番組の20周年に向けて作られたという曲であるが、歌詞のテーマは最新シングル収録の「くそ現代っ子ごみかす20代」にも通じるものがあり、それはヤバTのバンドとしてのテーマの1つであるが、
「180まで生きてやる!」
という宣誓的なフレーズを聞くと、まだちょっとというかかなり先であるヤバTのバンド20周年の時にもこの曲を聴いていたいし、20を超えた時の歌が生み出されることにも期待したくなる。
2日目の2部では最後に演奏され、ヤバTがライブハウスという存在を背負ってツアーをしていることを感じさせた「Give me the Tank-top」はこの日はこの位置で演奏されたのだが、演奏に入る前に一瞬薄暗いステージを白い光が照らし出す様が、ヤバTとメンバーの上に聳えるタンクトップくんがライブハウスの守り神のように感じるくらいの神々しさであった。
観客が元気いっぱいに高く飛び跳ねているのは当たり前だが、こやまもまたギターを弾きながら高く飛び跳ねている。そこには疲労という要素は全く感じられない。ただこうしてライブハウスに立ってこの曲を演奏している喜びのみをひたすらに感じさせてくれるのだ。
さらには前日の2部では1曲目に演奏された「ハッピーウエディング前ソング」もこの日はこの後半で演奏される。
「Zepp Tokyo 4日目、開催おめでとうー!ありがとうー!」
とこのライブの開催を祝すようにこやまが口にするのは変わらないけれど、曲中の思いっきり声を張り上げて歌う様は連戦続き、さらには3時間後にもう1本ライブが控えているボーカリストのものとは全く思えない。これまでの最大公演数を更新する長いツアーであっても、この後のために温存しようという意識は全く感じられない。全てをここで出し切ろうとすらしている。
だがMCになるとそんなシリアスさを全く感じさせないのがヤバT。この日はもりもとの生誕1万日目(誰が気づいたんだろうか)であるということで、もりもとに今後の豊富を聞くのだが、
「毛布」「豆腐」「オウム」
など、似たような言葉を連想させるゲームみたいになっていき、明らかにスタッフ的な人すらも笑ってしまうくらいの展開に。これがツアー65本目の仕上がったMCらしいが、むしろ1本目や2本目はどんなMCをしていたのかが気になってきてしまう。
そのもりもとの生誕1万日目を祝うべく演奏されたのは、曲中ずっとスポットライトを当てられていたことからも、もりもとの曲と言っていい「げんきもりもり!モーリーファンタジー」であるが、
「もりもと!」
のフレーズ時にしばたがもりもとの方をいちいち振り向くのが芸が細かくて面白い。なのにもりもとの語り部分ではこやまともども無表情で座って演奏するというもりもとへの無関心っぷりに変わってしまうのだが、その語りでの
「こやまくんもしばたさんも東京のみなさんも」
というZepp Tokyoだからこそのアレンジには声を出せない代わりに腕を高く上げて観客はもりもとへの愛と感謝を表明する。
そんな楽しいライブも早くもラスト2曲に。ここまで来ても何の曲が来るのかという確証が全く持てないのがヤバTのライブであるが、この日はここで「無線LANばり便利」が演奏されたことにより、全体的に見てもテーマは「パンク」と言っていいライブだろう。
タイトルフレーズも、
「Wi-Fi!」
の発明的なコールも行うことはできないのは少し寂しいけれども、そんな気持ちを吹き飛ばすように、自身の歌わない部分で上手サイドまで出てきてそちら側の観客に頭を下げたりしたことによって全速力でマイクまで戻ることになったしばたが珍しく普段よりも声を張り上げて、叫ぶようにして歌っていた。その姿に本当にこのライブで燃え尽きてもいいくらいの気概を持ってライブをしていること、きっと観客と同じことをメンバーも思ってくれているということが伝わってきて、思わずグッと来てしまう。それは決して言葉にしているわけではないし、もしかしたらそう思っていないかもしれないけれど、その演奏する姿を見て、音を聴いているとそんなことが頭に浮かんでくるのだ。
そんなこの日の最後の曲は「You need the Tank-top」のリード曲の一つでもある、
「頭空っぽにして楽しもうぜ!」
と言って演奏された「NO MONEY DANCE」。
「yeah!!!!!」
の部分でこやまとしばたが目の部分でピースサインをするのが実に可愛らしいが、最後に演奏されるということはこのライブで演奏された曲の流れを汲んでいるということである。自分がこのライブで感じたテーマは「パンク」。だからこそ最後に演奏されたこの曲では椅子がない、堅苦しいルールもないライブハウスでモッシュとダイブと汗にまみれながらみんなでこの曲を歌っている未来が確かに見えた。
それはこやまが演奏終了後に毎回口にしている
「本来のライブハウスはもっと凄いから」
というライブハウスの姿そのものだ。その景色が見たいから、ライブハウスがなくならないようにヤバTが活動し、それを観に行く。
「みんなで一緒に頑張っていきましょう!」
とこやまが言うように。
「同じライブは2度とない」とは良く言われることであるし、自分も心からそう思っている。でも内容や演出が全く同じライブを複数回見ても、どれがどの日だったのかわからなくなってしまうのも本音だ。きっとヤバTのメンバーも自分たちが行ったライブでそう思うことがあったからこそ、こうして同じツアーの中でも全く違うライブを毎日やっているのだろう。そうすることで全てのライブがより一層特別なものになるということをわかっているから。
とはいえ、観客側ですら疲労を感じても仕方がないのに、メンバーはこれだけの本数のライブなのにそんな素振りを全く見せない。これだけ本数が多いと、それはメンバー以外のものによって組まれたものを消化してるんじゃないか?と思うのは、昔に過酷なツアーを行って消耗・疲弊してしまったバンドがいることを知っているからであるが、ヤバTはどっからどう見ても自分たちがやりたいからこの公演数のツアーをやっている。
サウンドもそうであるが、その「自分たちがやりたいことを何と言われようと貫く」という姿勢こそが、ヤバTがパンクバンドたる最も大きな理由なんじゃないだろうか。
1.癒着☆NIGHT
2.ネコ飼いたい
3.Bluetooth Love
4.J.U.S.C.O
5.かわE
6.Tank-top in your heart
7.はたちのうた
8.Give me the Tank-top
9.ハッピーウエディング前ソング
10.げんきもりもり!モーリーファンタジー
11.無線LANばり便利
12.NO MONEY DANCE
文 ソノダマン