個人的年間ベストディスク、2019年の3位にデビューミニアルバム「Hello my shoes」、2020年の2位に1stフルアルバム「From DROPOUT」。こんなに作品、楽曲に高い評価をしている若手アーティストは他にいないというくらいに自分の中で特別な存在になっているのが秋山黄色だ。
さらに「From DROPOUT」リリース以降も大型タイアップによるシングル、配信曲を連発し、さらにちょうど1週間前には早くもそのタイアップ曲たちが収録された2ndアルバム「FIZZY POP SYNDROME」をリリースと、この男の創作意欲は止まることを知らないが、しかしライブにおいてはアルバムをリリースしたにも関わらず、2020年は渋谷QUATTROワンマンが配信になったりと、本来ならばフェスなどでも高く飛翔するはずだったのが全くライブがなくなってしまった。
素晴らしい作品と曲をリリースしているのにその曲たちをライブで聴くことができないというのは実にもったいないこと極まりないが、個人的にはCOUNTDOWN JAPAN 19/20以来、めちゃくちゃ待ちまくってようやくライブを観ることができる瞬間が来たのが、この日のZepp Tokyoワンマンだ。
すでに名古屋と大阪でもワンマンを行っているが、キャパを減らしているとはいえ、前に見たワンマンが渋谷のO-Crestという小さなライブハウスだったことを考えると、大きくなるスピードのあまりの速さに驚かずにはいられない。
検温と消毒を経てから2日連続でZepp Tokyoの中に入ると、やはり客席には椅子が敷き詰められており、1席空けてというもはやおなじみになってしまったというくらいの状態。客席は若い人が多いのはもちろんだが、秋山黄色のグッズを身につけている人が非常に多い。ライブを観に行くことは出来なくても、いつかこれを着てライブを観に行けるようにと通販で買ったグッズをようやくライブに着て行くことができる。そんな感覚で溢れているようにすら見える。
緊急事態宣言が延長された都内での公演ということで平日ながら開演時間を繰り上げられた18時を少し過ぎた頃、場内が暗転するとSEが流れてステージにはスモークが焚かれるという幻想的な雰囲気の中でサポートメンバーの井手上誠(ギター)、片山タカズミ(ドラム)、Shnkuti(ベース)の3人とともに金と黒が入り混じった髪色の秋山黄色がステージに登場。
秋山黄色を初めて見るという人であればこそ、登場してきた姿を見ただけで、今の状況では禁止されている歓声を上げてしまいそうになるだろう。しかしそれを人差し指を口に当てて「シー」と制する秋山黄色。ファンの心理と今のライブという興行が置かれている状況をとても良くわかっている。
そんな場面もありながら、すぐに演奏に入るわけでもなく、スマホを取り出していきなり客席を背景に自撮り。その自由さというか奔放さは演奏前からフルに発揮されている。
ギターを肩にかけると、曲に入る前にセッション的な演奏が繰り広げられる。この時点でまだツアー3公演目とは思えないくらいの音とグルーヴを発し、もはや「秋山黄色とサポートメンバー」というよりは「この4人で秋山黄色というバンド」と思えるくらいに。
そんな演奏をしてからようやく歌い出したのは、「FIZZY POP SYNDROME」のオープニング曲である「LIE on」。薄暗いステージの奥に照明によって幾何学模様の図形が次々に浮かび上がっているのを見ると、そうした大きな会場だからこそできるような演出を背負える場所まで本当に来たんだな、と、ついこの間まで渋谷の小さいライブハウスで観ていた秋山黄色がZeppのステージに立っていることを実感する。
決してアッパーに始まるというわけではないが、挙動不審なスーパーギタリストの井手上は早くもステージ上を動き回りながらそのギターをギャンギャン鳴らし、秋山黄色も音源では普通に歌っている部分も思いっきり声を張り上げて歌う。
その本能の赴くままに歌い演奏するというのが秋山黄色のスタイルであり、それはサビだけ聞くとキャッチーなギターロックという定型的なサウンドのようでいて、片山の凄まじいまでのキメの連打に次ぐ連打が繰り広げられる「サーチライト」でもそうであるが、曲に合わせて会場が明るくなると、観客が一気に手を挙げる姿がよく見える。みんな本当にこの時を待ち焦がれていたんだろうなというのがよくわかる。
「生きるのが上手いってのは
傷つけるのも上手いんだよ 自分のことすら」
というフレーズは曲の雰囲気は光に満ちたアッパーなものであっても拭いきれない秋山黄色の本質が窺えるし、そんな秋山黄色が
「もがけ僕らの足」
と歌うからこそ、我々も全てが思い通りにいかない世の中でも少しずつでも前へ前へと歩いていこうとすることができるのだ。
「ミニアルバムからの曲!」
と言って演奏されたのは「Hello my shoes」に収録されている「とうこうのはて」。これまではライブの最後に演奏することも多かったこの曲がこの位置で演奏されているということに、すでにフルアルバムを2枚リリースした今の秋山黄色の手札の揃いっぷりを感じるが、間奏での井手上のギターソロでは井手上がステージ中央でギターを弾きまくっている隙に井手上の立ち位置である上手側まで走って行って、井手上がコーラスするようのマイクの向きを変えてしまう。
ソロを弾き終わって自身の位置に戻った井手上がマイクの向きを直すことなく、秋山黄色自身の方を向きながらコーラスをしていたことに秋山黄色が笑ってしまったからか、コーラスをしながら元の向きに直すのだが、これまでに何度となく観客の大合唱を生み出してきた最後のサビ部分では
「心で唱えてくれ!」
と叫んであえてマイクから離れる。そうした理由はこの後の本人のMCで明らかになるのだが、
「有限の青春から 音と楽だけ盗み出した」
というフレーズは登校することがなくなった今も秋山黄色という男の生き様を1行で示した名フレーズだと思う。これまでに何度もライブで歌詞をその時に本人がハマっていたり、飲みたかったりする商品名に変えて歌われてきた、
「コンビニで安酒買えそう」
というフレーズはこの日は原曲の通り。
すると
「ここまでの3公演の中で1番鼻の調子が良い」
と言いながらティッシュで何度となく鼻をかみながら、
「俺はこの会場(Zepp Tokyo)にめちゃくちゃ強い思い入れがあって。今は言わないけど、2〜3年後になったら言おうと思う」
と、このZeppのステージに立っていることの感慨を口にした。イベントなどでもこのステージには立ったことがないだけに、間違いなく誰かのライブを観客として観に来た経験があるのだろうけれど、昨日までここで5daysを行っていたヤバイTシャツ屋さんから、会社員時代からずっとここでライブをすることを夢見ていた細美武士(ELLEGARDEN,the HIATUS,MONOEYES)、そしてこの秋山黄色に至るまで、あらゆる世代のあらゆるアーティストが目標にしてきた場所。アーティストの数だけ思い入れがあるし、Zeppは「次は武道館」というところまで見えてくるような場所だ。そこに秋山黄色が立っている。でもここまで来ることはO-Crestで見ていた時からわかっていた。そのくらいの曲とライブのスケールを当時から秋山黄色は有していたから。
しかしながらそのZeppへの思い入れといい、
「去年とかに本当はライブをしに行くはずだったライブハウスがなくなってしまったりして…。みんな、ライブは好きですか?」
という総括的な問いかけといい、まだ3曲しかやっていないのにライブが終わる直前みたいなMCになっているのは、演奏中もそうであるがMCも本能のままに、何も事前に考えることなく、その時に頭に浮かんだことを口にしているからだろう。だからやや長くなったりもするのだが、それくらいに目の前にいてくれる人に対して伝えたいことがあるのだ。
そうしたMCからは、
「想像したより背は伸びた
でも食うねるねるね」
「夜にモンスター飼って飲んでんの
頭がおかしいぜ」
と、リズミカルなサビを片山とShnkutiのリズム隊がグルーヴさせていく「Bottoms Call」と、まだ発売から1週間というスパンではあるが、このツアーが明確に「FIZZY POP SYNDROME」のリリースツアーであることを感じさせる。
最初に聴いた時は「モンスター飼って」は「モンスター(エナジー)買って飲んでる」(眠れなくなる)という意味だと思っていたのだし、「食うねるねるねるね」も「食う寝る寝る寝るね」という「宇都宮のニート」という称号を持つ秋山黄色ならではの歌詞だと思っていたのだが、それも含めたダブルミーニングであるだろうし、紫や緑の照明は実に体に悪そうな成分を想起させる、この曲にピッタリな演出になっている。
すぐさま繋がるように演奏されたのは秋山黄色の地元にあるという橋の下で楽器を演奏していたという経験がそのまま「荒川アンダーザブリッジ」的なタイトルになった「宮の橋アンダーセッション」であるが、まさにセッションというような奔放かつ激しい演奏を繰り広げると、最後のサビ前ではブレイクを入れ、水まで口にする秋山黄色。
「これ、このツアー中に編み出した…」
と言った瞬間にサビに突入していくというのは編み出してからまだ数日とは思えないくらいの阿吽の呼吸っぷり。そのサウンドからは若かりし頃の青春の風景が頭に浮かんでくるが、秋山黄色はrockin’on JAPANのインタビューで
「俺は経験したことや自分が思ったことしか歌にすることができない」
と言っていた。確かに今までの曲もそうした曲だったからこそ秋山黄色でしかない曲、作れない曲になっていたのだが、この曲はその最たるものと言えるだろう。
秋山黄色がギターを背中に回してサンプラーを操作するのは「FIZZY POP SYNDROME」の中では最もトラック的なサウンドの「ホットバニラ・ホットケーキ」であり、秋山黄色はヴォコーダーを通しているのか声にエフェクトを施して歌いつつ、バンドの演奏は実に音数が少ない削ぎ落とされたものになっているのだが、それが徐々にロックバンド的な熱量を帯びていき、最終的にはShnkutiも飛び跳ねまくりながら演奏するという爆発力を発揮していく。
これもインタビューで話していたことであるが、今時のソロアーティストでこんなにもギターを鳴らしているロックな人は珍しいと。それに対して秋山黄色は「ギターが好きだから」と言いつつ、
「ギターの音を使わないのって海外がそうだからそうしてるんじゃないですか?」
とR&Bやヒップホップの要素を強めて洋楽的になっていく日本のポップミュージックに対する自身の的確な視点を口にしていたが、秋山黄色も決してロック一辺倒ではない多彩なサウンド(それがこの「ホットバニラ・ホットケーキ」には顕著だ)の曲を作り出しているのだが、やはりそうした様々なサウンドの曲であっても根っこにあるのはロックであるというのがライブを見ると実によくわかる。ある意味ではその意志を具現化するためのメンバーたちであるとも言えるだろう。
秋山黄色がクセになったかのようにサンプラーを連打しまくって始まった「月と太陽だけ」は片山の4つ打ちのドラムがリズミカルでありながら、ダンサブルというよりはタイトル通りにロマンチックな曲として仕上がっている。そんな曲であっても秋山黄色は場面によっては声を張り上げるようにして歌うので、全くライブのペース配分というものを考えていないのだろう。
転換時間と言ってもいいくらいにしばしステージが真っ暗になり、薄明かりがステージ中央を照らすと、そこには椅子に座ってギターを弾く秋山黄色が。隣では井手上も椅子に座ってアコギを弾くという形で演奏されたのは、何かと話題の映画の挿入歌になった「夢の礫」。
感動的な映画で流れる曲にふさわしいバラード曲であるのだが、秋山黄色はそうしたポップサイドの曲もこの曲のような素晴らしい名曲として作り出すことができるし、場内が薄暗いからこそ客席の天井で光を浴びながら回るミラーボールの輝きが本当に美しかった。途中からは片山もウインドチャイムなどで参加していたが、あくまでドラムではなく、Shnkutiも参加していなかっただけにアコースティック編成と呼んでよかったものだったのかもしれない。
椅子が片付けられると通常のバンド編成になって演奏されたのはドラマ主題歌であった「モノローグ」。秋山黄色の張り上げながらもファルセットを駆使したりというボーカルは素晴らしい伸びっぷりを見せてくれるが、昨年出演したCDTV ライブライブ!ではこの曲を歌いながら秋山黄色が無人状態の客席部分に降りて行って練り歩くという秋山黄色の存在を知らなくても見た人に爪痕を残すパフォーマンスをしてみせたのだが、そうした破天荒なパフォーマンスは観客が客席にちゃんと存在している今はできないけれど、歌や演奏からは確かにそうした破天荒にならざるを得ない衝動を感じる。この曲もまたバラードと言える曲なのかもしれないが、やはり秋山黄色のそうした曲はロックそのものだ。
オープニング同様というかその続きのようなセッション的な演奏がこれからまた何かが始まるというような予感を抱かせたのは人気アニメ「約束のネバーランド」のオープニングテーマとしてまさにここから始まるという感覚を抱かせる「アイデンティティ」なのだが、やはり人気アニメのタイアップ曲ということもあってか、この曲が始まった時の観客のリアクションはこの日1番良かったと言えるかもしれない。
きっとこの曲を聴いて秋山黄色に出会ったという人もいるのだろうし、そういう人がライブ会場まで足を運んでくれたのならば、タイアップをやってよかったと思える。
「好きに生きたい 好きに生きたい
選んだ未来なら笑えるから」
という最後のフレーズは学問の成績が芳しくなく、音楽以外に選べる職業がなかった秋山黄色の生き方そのもののようであり、過酷な運命を背負いながら仲間たちと幸せを求めるアニメの主人公たちの姿と重なる。どう聴いても秋山黄色のものでしかない曲がアニメの登場人物のことを思い起こさせるというのは、このタイアップはなるべくしてなったというか、秋山黄色がやるしかなかったタイアップと言えるかもしれない。
ギターのイントロではじまりながらもリズム隊だけの削ぎ落とした音になったりと、音数が少ない中で展開していってサビではそのグルーヴが爆発して、間奏でもロックバンドでしかない演奏を見せてくれるのは昨年の「From DROPOUT」収録の「Caffeine」であるが、そういえばこの曲も配信でしかライブで演奏されたのを見たことがなかった曲である。それだけに4人の音が徐々に重なっていく様を見ていると、音源でサウンドを聴いているだけだと非バンド的な曲かと思ったりもするのだが、実際に初めてライブで演奏しているのを見ると、こんな風にバンドとして構成されているんだな、と思えるし、それはこの4人だからこそのライブならではのアレンジである。ともあれ、ようやくライブで聴くことができたという安堵感は何物にも変え難い。
そしてイントロのキメを何度も何度も連発している間に秋山黄色が
「前回ワンマンをやった会場は渋谷のO-Crestっていうところで、300人くらいだった。今日は一体何人いるんでしょうか?
でもこうやって今の状況でライブをやるのって本当に大変なんだよ。この1時間ちょっとのためにいろんな人が走り回って。みんなもそのために安くないチケットを取って見に来てくれて。初めてライブを見に来たっていう人もいるだろうし、いきなり規模が大きくなって戸惑ってる人もいると思う。
一年ほどお待たせしてしまいましたが、俺が秋山黄色です!」
と、叫ぶと、ドラム台の上に乗って音を合わせていた井手上とShnkutiが思いっきりジャンプして「猿上がりシティー・ポップ」へ。
「アイデンティティ」や「夢の礫」が大きなタイアップを獲得しても、やはりこの曲が秋山黄色の代表曲であると今でも思えるのはこの曲が今まで見せてくれた景色があるとともに、
「もう一度どこかで会えたらいいないいないいなって」
と歌うように、こうしてまた秋山黄色に会うための約束の曲であり、
「何より愛したいんだ 居場所くらいは」
と歌うように、ライブハウスが居場所であるミュージシャンと我々のための曲だからだ。
O-Crestのキャパでは、秋山黄色の顔が肉眼でもはっきり見えた。いや、正確には前髪が長くて目元までは見えていなかったが。
Zeppになると物理的な距離は遠くなる。前髪をかき上げるようにして目を露出していても、なかなか肉眼でそれをハッキリと見えるような距離ではなくなった。
でも、O-Crestの時からこのキャパで秋山黄色がライブをやっている景色は想像ができた。それがこうして現実になっている。惜しむらくはソールドアウトとはいえキャパが100%ではないことと、想像していたような、モッシュやダイブができるような状況ではなくなってしまったこと。それでも、目の前に映るたくさんの観客とそれを前にして「猿上がりシティー・ポップ」を歌う秋山黄色の姿は、やっぱりあの時に感じた感覚は間違ってなかったんだよな、と思わせてくれる。これからも、一生一緒なんて思えるようになりたいんだ。
さらに暴発するパンクナンバー「クソフラペチーノ」では井手上もShnkutiもステージを激しくステージ上を動いたり回ったりという、なぜそんなに動きながらそんな凄い演奏ができる?というパフォーマンスを見せる。
自分は10年くらい前から井手上がギターを弾いている姿を見てきたし、Shnkutiも自身のバンドで演奏している姿を見たことがあるが、片山も含めて普通ならこの3人はなかなか交わることがない、同じステージに立って演奏することはないだろうと思うくらいに、いるフィールドも年代もやっている音楽も違う。でも秋山黄色のライブではそんな人たちが一緒に音を鳴らしていて、3人ともが秋山黄色の奔放さに引っ張られているようなパフォーマンスを見せている。この3人をそうさせてしまうくらいのパワーや魅力が秋山黄色という人間とその楽曲にはあるということであるし、そうしてこの3人が集まって自我を解放しているのと同じように我々も普段は全く違うフィールドや年代や音楽の趣味の人間たちであっても、秋山黄色という存在とその音楽がその全ての人を包み込んでくれる。そしてその円はこれからもより大きくなっていく。
あまりに激しい演奏をしたためか、
「本当はスッと次の曲に行きたいんですけど、大幅に休憩します!」
と言って、ステージに座り込み、寝そべったりスマホを取り出したりする。これはなんと母親に電話していたそうであるが、
「多分パチンコに行っている」
という理由で出ず。すると休憩から起き上がって、
「みんなここに好きな音を聞きに来てると思うんだよね。好きな曲は聴けた?
緑黄色社会っていうバンドの小林壱誓(ギター)ってやつが親友なんだけど、俺はドンって行ってバン!ってやるようなライブが好きだし、自分もそういうライブがやりたいと思ってるから、いざこういう拍手しかできない状況になって、俺はどうしたらいいかね?って壱誓に聞いたら全然反応無くてずっとスマブラやってて(笑)
でもこうやってライブやってると、みんなも好きな音を聞きに来てるけど、俺も好きな音を聞きに来てるんだなってわかった。それはみんなが出してくれる声だったんだって」
と、自身がライブに求めているものに気が付いたことを語る。
もうドンと行ってバン!っていう長嶋茂雄監督の野球解説みたいな擬音しかない言葉であっても、この日を含めて秋山黄色のライブを見てきた人はそれが意味するものがわかるはずだ。己の内にある衝動を自分の声とギターに乗せて思いっきり放つ。完成度とか構築というよりも、どれだけその放ったものが観客の心に伝わったかどうか。それが声というリアクションで返ってくる。
決して全曲観客みんなで大合唱する、という形のライブをするタイプではないけれど、きっと秋山黄色はこれから先も続くこのツアーやその後のライブ活動においても、その自分が望む形のライブを取り戻すためにこうしてステージに立ち続けていくのだろう。その日が来たらまた「とうこうのはて」も「猿上がりシティー・ポップ」も、もっと大きなところでもっとたくさんの人で歌えるようになっているだろうし、それを秋山黄色がビックリするくらいに浴びせてあげたいものだ。
そんなライブの最後に演奏されたのは、「FIZZY POP SYNDROME」のラストを飾る「PAINKILLER」。「LIE on」同様の照明の演出の中、サイケデリックとも言えるような音像が秋山黄色の抱える傷を抉り出していき、秋山黄色はそこから解放されるようにやはり曲後半になるにつれて張り上げるように、叫ぶように歌う。これがリリースから1週間しか経っていない曲のライブでの姿なんだろうかと思うくらいに素晴らしかった。
「境界線を超えるから道連れにしてくれ」
ポップとロック、メジャーとマイナー、オーバーグラウンドとアンダーグラウンド…あらゆる境界線を秋山黄色に超えていって欲しい。どこまで行っても秋山黄色は絶対に本質は変わらない、今いる人や前からいる人を置き去りにするようなことはしないのがわかっているから。その景色が見えるような場所まで我々も、道連れにしてくれ。
観客の手拍子に応えて割とすぐに秋山黄色はステージに出てきたが、
「手拍子と拍手ばっかりでみんな手が痛くなってるだろうから早めに出てきた」
ということであるが、すぐに曲をやるつもりではなく、体力回復の時間に。
思えば「Hello my shoes」のリリースライブの時は3マンという短い時間だったにもかかわらず、「やれる体力が残ってない」という理由でアンコールをやらなかった。それくらいに体力を使い切るようなライブをやっていたということであるが、ライブのやり方自体は秋山黄色は全く変わっていない。ただライブを繰り返してきて体力の最大値は確実に向上している。
ギターのシールドで遊ぶようにしていた井手上をいじると、そのままメンバー紹介へ。それぞれが「普通の自分の楽器の音ではない音」を出すあたりは実に秋山黄色のバンドらしい捻くれっぷりが現れているが、そんなメンバーを伴った自分を
「尖ってるから意図的にあえて感謝をしないっていう風に生きていて。特に深い意味はないんだけど。でもそんな俺でもこうやってライブ1本やるのにたくさんの人が関わっていて、みんなが来てくれているのを見ると感謝せざるを得ない。みなさん本当にありがとう。大好きです」
と捻くれていることを自認しながらも、最後には素直に感謝を告げた。秋山黄色がそんなことを言うのは聞くのは初めてでビックリしてしまったのだが、レイドバックしたサウンドの「ゴミステーションブルース」の
「声を上げて石を投げる人を横目に
黙って後についてきた人だけに言う
俺はゴミじゃない」
というフレーズは秋山黄色のその心境を表しているようであり、100%まともな、規範的な人間ではないかもしれないけれど、だからこそ本当に人間らしい、音楽も人間的にも魅力的な男だなと思える。
それで終わってもおかしくないかなとも思った。前述の通りにアンコールをやるような体力を残してライブをやるようなアーティストではないから。しかし曲終わりで片山が4つ打ちのキックを鳴らし続ける。このリズムは「クラッカー・シャドー」?とも思いながら、
「まだやってない曲が1曲ある!」
と言って演奏されたのは、秋山黄色の始まりの曲とも言える「やさぐれカイドー」。タイトル通りのやさぐれ具合がさらに暴発するような、「もうこれ違う曲って言った方がいいんじゃないか?」と思うような、この4人で凄まじくアップデートされた爆発的な演奏によって秋山黄色のボーカルもさらに激しさを増していく。
間奏ではリズムに合わせた手拍子を、「演奏中なら自然にやるのに言われたり注目を浴びたりするとやらない」ギタリストこと井手上に無茶振りしたりする中、
「俺は絶対今日のことを忘れないから!みんなも忘れられないように、人間がここまで大きな声で歌ってギターを弾けるっていうところを見せてやる!」
と言い、最後のサビでさらに爆音でギターを鳴らし、思いっきり叫ぶようにして歌った。それは今までに聴いたどの「やさぐれカイドー」よりも素晴らしい、「届けたい」という思いに溢れた演奏と歌唱で、それは会場にいた人たちに間違いなく届いていたはずだ。
演奏が終わると、
「本当にありがとう!」
と言ってダブルピースをしてステージから去っていった。我々に否が応でも残らざるを得ない凄まじい余韻以上に、本人が最もこのライブへの手ごたえを感じていたのかもしれない。思いっきり豪速球を投げるだけじゃなくて、それを相手がしっかりキャッチすることができていたことを感じていたかのように。
およそ2時間という過去最長のボリューム。そこには過去最高に秋山黄色の感情が言葉と音に乗っていた。
秋山黄色はまるでファンの心を読めるかのように、1ミリを媚びていないのにファンの心理に配慮したようなことを常に発している。
だからなのか、その言葉を受け取っている秋山黄色のファンの人たちは本当に素直な人たちだ。自己啓発セミナーに引っかかったりしないか心配になるくらいに。
こうして大きな会場になるにつれて、前までのように目の前にステージがあるくらいにすぐ近くで見ることはできなくなる。そこで距離を感じてしまったり、離れていく人も普通ならいる。有名になる、規模が大きくなるというのはそういうことと同義だ。
でも秋山黄色のファンはみんな秋山黄色がもっと広い会場でライブをやること、もっと多くの人に音楽が届くことを願っている。自分との距離が物理的に遠くなることをわかっていても、秋山黄色の音楽がさらに広く、多くの人に届くべきものであることをわかっているからだ。
もしかしたらSNSでバズったり、タイアップに起用されたりするよりもしっかり音楽を聴いてもらえるようになるのはそうしたファンの人による、心からの言葉なのかもしれない。秋山黄色はこのライブの翌日に25歳の誕生日を迎えたが、日付けが変わった瞬間からファンそれぞれがいろんな絵や言葉で秋山黄色の生誕を祝っていた。
今回のツアーは「Lv.2」というタイトルがついている。去年行われるはずだったツアーの続編という意味合いもあるだろうけれど、RPGにおけるレベル2というのはまだ物語開始直後、ドラクエならスライムくらいしか倒せないような段階だ。(この日「スライムライフ」も聞きたかった)
でも今の秋山黄色は、何回目の強くてニューゲームなのか、あるいはレベル2でも鬼や魔王を倒せるくらいの能力を持っている。それぐらいにとんでもないライブをやっているということだ。これからも秋山黄色のレベルが上がっていく姿をずっと見ていたいし、もう少しレベルが上がる頃にはこの男が日本の音楽シーンを塗り替えてしまっているかもしれない。そんな、光の粒がここにある。
1.LIE on
2.サーチライト
3.とうこうのはて
4.Bottoms Call
5.宮の橋アンダーセッション
6.ホットバニラ・ホットケーキ
7.月と太陽だけ
8.夢の礫
9.モノローグ
10.アイデンティティ
11.Caffeine
12.猿上がりシティー・ポップ
13.クソフラペチーノ
14.PAINKILLER
encore
15.ゴミステーションブルース
16.やさぐれカイドー
文 ソノダマン