a flood of circleはコロナ禍の2020年においてもアルバム「2020」をリリースし、そのツアーを飛ばすことなく回ってきた。
それは「転がり続けるロックンロールバンド」としての意思の示し方でもあったと思われるが、そんな「2020」のリリースツアーのファイナルがこの日の新木場STUDIO COAST。ここでフラッドのワンマンを見るのはベストアルバム「BLUE」をリリースした10周年ツアーのファイナル以来だろうか。前作「CENTER OF THE EARTH」のツアーでは長野やら水戸やらいろんな場所まで行ったけれど、ご時世的にもこの日が今回のツアーの最初で最後。
入り口で検温を済ませてから場内に入ると、床に立ち位置が記されているというのは昨年アルバムリリース直後に行われたリキッドルームでのライブなどと変わらないが、まぁ空いているというか何というか、こればかりは4月1日という社会人がメインである客層的になかなか行きづらい日だけに仕方ないとも言える。アルバムが本当に素晴らしかった(2020年の個人的年間ベスト1位)だけに実にもったいないというか、少しでも多くの人に見てもらいたい気持ちはやはり強いが。
開演前にはこの世の中の状況でスタンディングでのライブをやるということに対する入念な注意喚起を促すアナウンスが流れると、19時に場内が暗転。薄っすらとステージからは光が射すのだが、それがフラッドのライブにおいては実に珍しいLEDスクリーンであることに気づいたその刹那、ギター、ベース、ドラムが一斉に鳴る。「2020」のオープニング曲である、その名も「2020 Blues」だ。
アルバムは「2020」と題されながらもコロナの影響をほとんど受けずに作ったと佐々木亮介(ボーカル&ギター)はインタビューやリリース時の爆音視聴会で語っていたが、そんな中にあってもやはり
「世界の終わりの闇の中で
それが一体なんだっつーんだよ?」
と、この世の中であっても新たなスタートを切るこの曲は今の状況だからこそ響く曲であると改めて感じるが、ステージには紗幕がかかっており、紗幕越しに演奏するメンバーの姿とその影が、青木テツ(ギター)のコーラスを超えたシャウトと言うようなその声に宿る気合いが涙を誘う。バンドがちゃんとここまで来れて、その姿を我々がこうして見ることができている。そんな喜びと、目の前で鳴っている爆音のロックンロールのカッコ良さ。それが極まると人は感動してしまうのである。
アルバムリリースのはるか前に渋谷QUATTROで行われたライブ時に観客の合唱が録音された「Beast Mode」のコーラス部分で紗幕が落ちると、メンバーの姿がはっきりと見えるように。亮介はこの日は赤い革ジャンを着用しており、渡邊一丘(ドラム)はトレードマークと言っていいくらいの長い髪がはるか昔のことのように短い髪を保っている。というかより短くなって好青年的な見た目になっているような感じすらある。
観客はサビではリズムに合わせて腕を上げるが、やはりこの曲はコーラスを録音した場面に居合わせたということもあり、「あの頃は普通に歌うことができたし、リリースされてない新曲なのにみんなでコーラスを大合唱していたんだよな…」と少ししみじみしてしまう。そうして歌うことができなくてもフラッドのライブが素晴らしいことに全く変わりはないけれど。
亮介によるサビの歌唱から始まる「ミッドナイト・クローラー」は「2020」以前の曲であるが、前半のアッパーな流れをさらに燃え上がらせるように、広いステージの上でテツは頭を振りながらギターを弾き、HISAYOも華麗なステップを踏みながらベースを弾く。
この曲のプロデューサーである盟友・田淵智也によって「フラッド全部盛り」というくらいに盛り込まれた早口歌唱も含めて、亮介の独特のしゃがれた、ロックンロールでしかない声は久しぶりの広い会場を制圧するくらいによく出ている。
その声があるからこそ「ファルコン」の
「ブチ壊せ」
というサビのフレーズがこの上ないくらいにロックンロールさを感じさせるものになっている。
一応ステージのスクリーンは風景などの映像を映し出しているのだが、それに目が行かないのはあまりにバンドの演奏している姿から目が離せないカッコよさを放っているからである。だからこそ主張が強すぎない影響にしているのかもしれないけれど。
ギターのリフから一気に激しいサウンドのサビに雪崩れ込む「The Beautiful Monkeys」はこのバンドきっての人気曲の一つであるが、アルバムがフラッドど真ん中のロックンロールサウンドを驀進しているものであるからか、それに合わせたような過去曲が挟まれていく。
この曲ではおなじみの光景だったダイブはもちろん、声を出すこともできなければ、前に押し寄せることもできない。それは「やろう」と思ってやるものではなく、バンドの演奏によって衝動を掻き立てられて「気づいたらそうなってる」というようなものであるが、そうなってしまうような曲ばかりが次々に放たれていくため、その衝動を抑えるのが大変だ。
でもバンド側はだからといってヌルい演奏をすることは全くない。むしろこれでもかというくらいにその衝動を刺激する音を鳴らし、観客はグッとこらえて腕を上げるのみにとどめる。フラッドのファンにはちゃんとそうした自制心が備わっているのがよくわかる。自分が衝動を必死に抑え込んでいるだけに。
亮介がギターを下ろしてステージを闊歩し、時にはテツと向かい合うようにして歌うのは「ヴァイタル・サインズ」であるが、亮介ハンドマイクシリーズの中でもトップクラスの獰猛さを持つ暴れ馬ソングであるだけに、本来ならばこのCOASTの客席の中に突入して行って、ど真ん中の頭上に煌めく巨大ミラーボールの下で歌うのが最も似合う曲である。今はそのパフォーマンスをすることができない、しないという亮介もまたやはり自制心をちゃんと持っているし、それがファンにも確かに伝わっていて、ファンを信用しているからこそ、このご時世でもライブハウスでスタンディングでのライブができているのだけれど、やはりまた近い未来にはこの会場で満員の観客の上を歩いていく亮介の姿が見たいものだ。
「「2020」ツアーのファイナルにようこそ。東京、帰ってきました」
と、フロム東京バンドだからこそのツアーを回ってきてのファイナルでの東京でのライブという挨拶をすると、タイトルの通りに我々の精神を自由に解放する「Free Fall & Free For All」では間奏のブレイクで一丘が思いっきり振りかぶって演奏へ…と思いきや、スティックが吹っ飛んでしまい、亮介に笑われながら
「せっかくなんでここでみんなと一緒にカウントしたいんですけど、今は声が出せなくてそれができないんで、俺のワンツースリーフォーに合わせて手拍子でお願いします」
と、アクシデントがあったことで言葉を挟むのだが、全然手拍子させる気ないじゃんというくらいに超高速でカウントして演奏に突入していく。その一丘の姿を見た亮介は本当に楽しそうな表情をしていた。
「ファイナルだからこその(笑)」
と、そんなアクシデントすらもツアーを完走したバンドへのプレゼントだと言わんばかりに。
そんな中で「2020」の中でも唯一と言っていいミドル〜バラード枠の曲になるのが「人工衛星のブルース」。こうしたタイプの曲ではよく「宇宙」や「月」というモチーフが使われるあたりに亮介のロマンチストさが表れているが、そうした曲のメロディの美しさもまたフラッドの魅力の一つというか、とかく勢い重視になりがちなロックンロールというスタイルの中でフラッドが15年間も走り続け、強固なファンベースを築いているのはそのメロディの力があるからだ。それはロックンロールとともにスピッツから強い影響を受けている亮介ならでは。
そんな亮介が
「ここにいるスーパースターのみんなに捧げます」
と言って演奏されたのは、「2020」の中においてその亮介のメロディメーカーっぷりが最も発揮されたと言える「Super Star」。
でもいくら我々に捧げられても、やっぱり我々にとってはフラッドこそがスーパースターなのだ。こんなに素晴らしい曲とアルバムを作って、こんな状況の中であっても我々の前に来て爆音のロックンロールを鳴らしてくれる。
「何度でも闇を割いて会いに来たぜ」
と目の前で歌ってくれるロックンロールバンドこそ、間違いなく僕のスーパースターだ。その姿は我々に闇の中でも生きていく力をくれる。もしフラッドも我々が目の前にいることで転がっていく力を得られているのならば、そんなに嬉しいことはない。
そんな感動的な曲のアウトロが一気に加速していくと、そのままご機嫌に別れを告げるパンクナンバー「ベイビーそれじゃまた」へと繋がっていく。特にこれでライブが終わりというわけでもないし、このタイミングでこの曲が演奏されたのはどういうことだろうか。ツアーファイナルだからこその再会の約束としてか、
「いいね いいね はどうでもいいね
泣きたい夜は 泣いていいんだ
会えない日も 忘れないでね
君に歌ってる」
という「Super Star」にもつながるようなフレーズあってこそだろうか。
この状況でもここまでツアーを18本回ってきたこと、そのツアーで1回も打ち上げをできず、初めての打ち上げがないツアーになったことによって健康になったことを語る(最近のライブでは亮介の声に不調の時がないのもその影響か?)も、HISAYOはそろそろ生ビールが恋しい様子。
そんな中で渡邊のドラムがゆったりとリズムを刻み、亮介のボーカルが乗るのはこの季節のツアーだからこその「春の嵐」。イントロの演奏では亮介、テツ、HISAYOの3人が一気にステージ前に出てくるのだが、奥村大(wash?)から始まって数々のギタリストたちによって鳴らされてきたこの曲で、テツが史上最高というくらいにAメロからギターを弾きまくっている。加入後から「フラッド最後のギタリスト」としてバンドを牽引してきた存在のテツが、この名曲にこの4人だからこそのまた新たな命を吹き込んでいる。新しい曲が生まれてバンドが更新されていくだけではなく、過去の曲もがこうして更新されていく。これからも我々は何度となくそうしたフラッドの姿を目にできるはずだ。
ダンサブルなパーティーチューンの「Whisky Pool」ではサビで観客がリズムに合わせて手を叩く中、間奏では亮介が
「紹介します、ギター俺!」
と言って自らギターソロを弾き、テツも
「ギター、亮介!」
と亮介にギターソロを委ねる。アルコールシリーズの最新作にして、2作目のウイスキーをテーマにした曲であるが、果たしてこのシリーズは一体どこまで続いていくのだろうか。なかなかアルコールを飲みに行くことができない状況でもあるが、この曲のようにウイスキーのプールに溺れたいものである。それはメンバーが1番そう思っているかもしれないが、基本的にはギター、ベース、ドラムというシンプルなフォーマットでここまでサウンドやジャンルや雰囲気を変えることができるというのもまたロックンロールバンドとしては随一の幅広さである。そこにはコーラスではなくフレーズによってはボーカルも務めるテツの存在も大きい。
亮介のクリーン目なボーカルで
「あなたが生きてる今日は史上最高だ
悲しい夜を超えたら また会えるように
遠く離れても決して忘れないで
そこに宛てて叫んでいる歌があること」
という、バンドが我々に、我々がバンドに抱いている思いをそのまま歌詞にしたかのようなサビの歌詞の「天使の歌が聴こえる」はさらに
「新しい歌が生まれたら また会いにいくよ」
「いつでも 生きてりゃ 変わるかも知れない惑星の上で
さあ 変えにいこうぜ」
というフレーズがこの世界でも前を向いて歩いていくポジティブさを与えてくれる。そう、フラッドはいつだって前向きだ。それは亮介の思考がそうであるだけに歌詞にも現れるものだと思うが、あらゆる逆境という逆境に晒され、それでも止まることなく転がり続けてきたフラッドだからこそその前向きさに説得力を感じざるを得ないし、変えることが非常に困難なように思える今の世の中の状況もバンドの状況も、
「さあ 変えに行こうぜ」
と思うことができる。諦めることなんかさらさら考えていない。
そして一転して重いロックンロールサウンドが鳴らされると、
「歌ってくれ ロックンロールバンド 今日が最後かも知れない
聴かせてくれ ロックンロールバンド だから今日を生きていく
暗闇の奥で光を見たのさ
とばしてくれ ロックンロールバンド だから今日も歌っている」
というフレーズが今まさにこんな状況だからこそより深く刺さる「ロックンロールバンド」。
昨年リクエストを募った配信ライブでもこの曲をやって欲しいと口にしていたファンがたくさんいたが、それはやはりフラッドのファンがみんなこの曲は今こそ鳴らされるべき曲であるということをわかっていたということだし、バンドもこうしてその思いを汲み取ったということである。
その重いロックンロールサウンドはそのまま「2020」屈指の名曲にしてフラッドの、日本のロックシーン屈指の名曲である「Rollers Anthem」へと連なっていく。
この状況であっても、これまでにメンバーがいなくなったり入れ替わったりしてきた状況であってもフラッドは転がることをやめなかった。それはきっとこれから先にもっととんでもないことが起きてもそうだろう。
ただそうして転がり続けるということを良く思わない人もいる。実際に今回のツアーは緊急事態宣言中でも延期も中止もすることなく回っていただけに、ファンからも批判的、懐疑的な声がないわけではなかった。
それでも、転がり続けてきた、ブランクを生まなかったからこそ、フラッドはライブを重ねて、誰もが停滞せざるを得ないこの状況でもバンドとしてさらに進化を果たすことができた。
「間違ってないぜ 証明しよう
間違ってないぜ 俺は信じてる
削れ続けても 涙溢れても
この胸に
響いてるんだ」
という歌詞の通りに、音を鳴らす姿がバンドの選択が間違っていなかったことを証明している。
それはそのまま、配信も含めてこうして今このライブを観ている我々や、このツアーの各地に参加した人たちへも
「間違ってないぜ」
と肯定しているということだ。この状況でも(特にツアー前半の大阪や名古屋はよりタフな状況だった)ライブハウスに足を運んでくれる人の存在がなかったらこうして最後までツアーを完遂することが出来なかったかもしれない。そう思えるのはこの曲が
「これは生き延びちゃった俺らの歌」
だから。アルバム発売に先駆けてMVが公開された時から名曲確定な曲であった(それはかつてのライブハウスの熱狂の瞬間を捉えたMV含め)が、東京だけじゃなく、全国各地で演奏されてきたことによってその輝きはさらに増し、全国にいる生き延びちゃった俺らの歌になったのだ。これをロックンロールと呼ばずに何と呼ぼうか。
そんな「Rollers Anthem」の余韻が残る中、亮介、テツ、HISAYOの3人が一丘のドラムセットの前に集まって合わせるようにして音を鳴らす。キメ連発による「プシケ」である。
「東京 ぼんやりしてる!」
と亮介が歌詞を変えて歌うと、間奏での1人ずつ音が重なっていく「俺の大事なメンバー紹介」を経て、思いっきりタメるようにして亮介が、
「a flood of circle!」
と叫び、亮介、テツ、HISAYOの3人がステージ前に出てくる。その瞬間のカタルシスはライブじゃないと絶対に体験できない。もともとインディーズ期からライブ音源が残されてきたこの曲はそんな「ライブだからこそ」ということを最も感じさせてくれる曲である。そんなメンバーの背後のスクリーンには「FIFTHTEEN」の文字が映し出されていた。いろんな人と演奏し、その度にメンバー紹介も変わってきたこの曲はフラッドの15年の歴史を象徴するような曲でもある。いろんなことがありすぎたくらいにあったバンドだけれど、こうしてその文字を背負って演奏する姿はこれまでで最も頼もしく感じる。
そして「プシケ」とともにこのバンドのライブで鳴らされ続けてきた「シーガル」へ。この状況になってからもこの曲は何度かライブで聴いている。サビをみんなで大合唱できないのも少しは慣れた。それでも亮介の「イェー!」の合図で一斉に観客が飛び上がり、
「明日がやってくる それを知ってるからまた
この手を伸ばす」
という歌詞に呼応するように観客が真上に手を伸ばす。
「俺たちとあんたらの明日に捧げます!」
という亮介の常套句の通りに、明日を自分の手で掴み取るかのように。
その景色を見ていたら「ああ、フラッドは、我々は大丈夫だ」と思えた。もちろん自分はこのままのライブの状況でいいなんてこれっぽっちも思っていない。また前みたいな、ロックンロールによって湧き上がる衝動をバンドと観客がお互いにぶつけ合うようなライブハウスに戻って欲しいと心から願っている。
でもそれがまだできなくても、フラッドのライブの素晴らしさは全く変わることはない。声や行動で示すことはできないけれど、バンドが放つロックンロールの衝動に熱狂し、感動することができる。それだけはこれから先どんなことがあっても決して失われることはない。フラッドがこうしてどんなに批判されるような状況でも自分たちなりのやり方を信じて転がり続けていく限りは。
そんな今の状況を亮介は、
「今は未来に笑えるための種みたいなもんだと思ってる。きっと未来になって今のライブの映像を見たらみんな笑ってるよ。
「みんなマスクしてライブ見てるじゃん(笑)」
って。
それは曲を作るのもそうで。家で歌いたいから作るんじゃなくて、こうやってライブで歌いたいから、それを想像して家で曲を作ってる」
と話した。
亮介も近い未来にこの状況を懐かしめる日が来ることを確信している。そしてこうしてライブをして生きていくことが人生そのものになっている。それはつまり我々がこうして目の前にいることをいつも思い浮かべているということだ。
だから亮介は
「みんなの歌が聴けないのは少し残念だけど」
と言って、最後に
「歌を聴かせてくれ」
というフレーズから始まる「火の鳥」を、このライブを見ている人全てに捧げるように演奏した。
その言葉の後に
「何度でも俺を蘇らせる もう無理だって日も 君の声が」
というサビのフレーズを聴くと、まるで我々が歌ってきた姿と声が亮介に勇気と立ち上がる力を与えてきたのようだ。もちろんその要素も含んでいるのだろうけれど、爆音試聴会で初めて聴いた時は居なくなってしまった人のことを思い浮かべざるを得なかったこの曲のメッセージが少し変わった。それはやはりこうして目の前で言葉を発し、目の前で音を鳴らし、目の前で歌い、目の前でそれを観ることができるライブだからこそだ。フラッドがこうしてツアーをやってくれて本当に良かったと思った。ただでさえ傑作であるアルバムの曲をもっと好きになれたから。
アンコール待ちの際にはここまで曲中に映像が映し出されていたスクリーンに、亮介が田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN,THE KEBABS)と談笑している姿が。
亮介「a flood of circle、今年で15周年だからさ、フラッドちゃんのために曲書いてくれない?」
田淵「そんなめでたい事なら全然やるよ!」
と2つ返事で田淵がフラッドのために曲を書くことが決まると、それだけにとどまらず、山中さわお(the pillows)、SIX LOUNGE、THE BACK HORN、Reiという親交の深い面々がフラッドのために書いた曲をバンドが演奏するという、「トリビュートでもカバーでもない」「ギフトアルバム」をリリースすることが告知される。
メンバーがそれぞれの曲の断片を聴いている姿も映し出されるのだが、それぞれの新曲として書いたんじゃないのかという山中さわおとSIX LOUNGE、
一丘「将司さん(山田将司)がビルボードとかでスーツ着て歌ってる姿が見える」
というTHE BACK HORNに続き、Reiの曲がギターも歌唱も紛れもなくReiの曲そのものであるだけに、果たしてフラッドがどう乗りこなしていくのかとも思うが、これまでにも様々なアーティストの曲をフラッドと亮介はカバーしてきた。
その中には中島みゆき「ファイト!」や東京事変「群青日和」という女性ボーカル曲もあったし、フィッシュマンズ「いかれたbaby」などロックンロールとはかなり距離がある曲もあった。でもそのどれもが亮介が歌うと、フラッドの曲でしかない、亮介のものでしかないロックンロールになるし、ブルースになる。それを経験してきたからこそ、このギフトアルバムが間違いないものになるのがわかっているし、そんな予想をはるかに飛び越えていくくらいのものにすらなるのだろう。
さらには6月に開催が発表されている主催フェスにNothing’s Carved In Stone、GLIM SPANKY、w.o.d.の3組が出演することも発表。ギフトアルバムもただリリースするだけでは絶対終わらないだけに、フラッドはこの足踏みしてしまいそうな状況であっても15周年の大きな花火を打ち上げようとしている。それができるのも、こうしてこのツアーの最後までたどり着くことができたからだ。このツアーの経験はこれから先もバンドの大きなマイルストーンになっていくはずだ。
そしてテツとRUDE GALLERYがコラボしたイカしたジャケットをテツ、HISAYO、一丘の3人が着てステージに登場すると、「2020」の中でまだ唯一演奏されていなかった「欲望ソング (WANNA WANNA)」でさらにアッパーに、ロックンロールにドライブさせていくのだが、テツのコーラスが完全にコーラスという枠を飛び越えてシャウトじみたものになっている。もう今日で喉を潰してもいいというくらいに。その溢れ出すエネルギーがバンドを、観客をも引っ張っている。テツはステージ上の口数こそ少ないが、そんな姿に思わず胸が熱くなる。
亮介はいつも
「まだまだここからがスタートだと思ってる」
と言う。それは15年目である今も変わらずにそう言う。本気でそう思っているから。まだまだロックンロールにフレッシュな気持ちで向き合っていることができているから。
そんな思いはテツが細身の体を動かしながらギターを弾いてコーラスを歌う様が実に決まっている「GO」でそのまま音となって現れる。明確に今この曲をやる意味がハッキリしているアンコールの選曲だ。
そしてメンバーとともに観客も手拍子を打ち鳴らすのは、かつて10周年を迎えた際のこの会場でのライブで演奏されたことを今でも鮮明に覚えている「ベストライド」。
「俺たちのベストはいつも今なんだよ」
というフレーズにいつもこれ以上ない説得力が宿っているのは、フラッドがどんな状況でも止まらずにライブを重ねまくってきたから。それは今の世の中でも変わることはない。最後の追い込みをかけるように亮介、テツ、HISAYOが前に出てきてさらにビートが性急になった時の楽しさは間違いなく記録を塗り替えていた。
毎回毎回、フラッドのライブは「もうこれ以上はないだろう」というくらいの凄まじい余韻を与えてくれる。それを毎回感じることができるということは、フラッドのライブが毎回過去を更新しているということだ。だからこうしてこのバンドのライブに行くのはやめられないし、もっともっといろんな場所でライブを見たくなるんだ。
今、自分たちがやるべきこと、やりたいことを今までと変わらずにやる。それこそがロックンロールであるとこの日のフラッドは教えてくれた。
演奏が終わると一丘が最後に
「元気でね」
と言ってメンバーがステージを去り、スクリーンにはバンド名が映し出されていた。間違えられることも多い、レコード店でア行に並ぶのかハ行に並ぶのか実にわかりづらいそのバンド名がこの上なく誇らしく感じられた。
そうしてメンバーが去って客電が点いてもなお、終演を告げるアナウンスが流れるまで、さらなるアンコールを求める手拍子が全く鳴り止まなかった。コロナ禍になって、今までよりもライブを早く終わらないといけないことはきっとみんなわかっている。それでもこんなにももっと聴きたいという人がいたことがこのライブがどれだけ素晴らしかったかを物語っていたし、アナウンスが流れた後の大きな拍手は「ありがとう」と口に出すことができない我々観客によるバンドへの最大限の感謝の示し方であった。
2020年が良い1年だったという人はほとんどいないだろう。行きたい場所に行けず、見たい景色は見れず、会いたい人に会うこともできない1年だった。
それでもそんな2020年に最もポジティブなことを挙げるとするならば、それはフラッドが「2020」という最強のロックンロールアルバムをリリースし、そのツアーを回ってバンドをさらに進化させたということだ。誰がなんと言おうと、このバンドを、この生き様をロックンロールと呼ぼう。
1.2020 Blues
2.Beast Mode
3.ミッドナイト・クローラー
4.ファルコン
5.The Beautiful Monkeys
6.ヴァイタル・サインズ
7.Free Fall & Free For All
8.人工衛星のブルース
9.Super Star
10.ベイビーそれじゃまた
11.春の嵐
12.Whisky Pool
13.天使の歌が聴こえる
14.ロックンロールバンド
15.Rollers Anthem
16.プシケ
17.シーガル
18.火の鳥
encore
19.欲望ソング (WANNA WANNA)
20.GO
21.ベストライド
文 ソノダマン