2019年10月の大阪城ホールでの山内総一郎(ボーカル&ギター)の凱旋ライブにしてバンドにとっての15周年を祝ったフジファブリックも2020年以降に予定していた様々なライブや企画がなくなってしまった。
そんな中でも昨年からこの状況に合わせた形でライブを開催し始め、3月には多彩なゲストを迎え、バンドのサウンドもカラフルに変化してリスナーを驚かせたニューアルバム「I Love You」をリリース。そのリリースツアーのファイナルとなるのがこの日のZepp Tokyo2daysの2日目。個人的にはいろいろとスケジュールが合わなかったことによって大阪城ホール以来のワンマンである。
この日また東京での感染者が増加したからだろうか、検温と消毒、写真撮影ポスターは1人1ショットまでという感染対策が施されているが、どこかここ最近の中でも厳重なように感じる。
最近は蔓延防止措置などによって平日のライブの開演時間も早くなってきているが、この日もその例に漏れず18時30に城内が暗転すると、ライブが始まるというワクワクした気持ちをより昂らせてくれるような楽しげなSEが流れ、まずは白シャツ姿がトレンディさ(もう言わない言葉だろうか)を感じさせる金澤ダイスケが先頭で登場して観客の手拍子を煽ると、続いて登場したサポートドラマーの伊藤大地とハイタッチをするような、踊るような仕草を見せてから2人はそれぞれの持ち場につき、やはり手拍子を促すのはおなじみのハットを被った出で立ちの加藤慎一(ベース)であり、最後に山内総一郎が登場して4人が揃い、拍手が一際大きくなるとSEから「I Love You」のオープニングナンバーの「LOVE YOU」の演奏へと繋がっていく。
発売前にアルバムタイトルと曲タイトルを見た時にはどんなラブソングなんだろうかと思いもしたけれど、この曲はファンキーかつご機嫌な、ほぼインストに近いと言っていい曲であるというのがフジファブリックらしい心地良い裏切りっぷりであるが、この曲の演奏では短いながらも各々の演奏を強調したソロっぽいパートも含まれ、観客はリズムに合わせて手拍子をする。この日はツアーファイナルということで配信も行われているが、バンドが目の前で演奏している姿にリアクションが起きるというのはやはりライブの醍醐味であると思わせてくれる。
同じようにイントロで金澤と加藤が手拍子をし、やはり観客がそれに合わせる形で手拍子して始まるのは「SHINY DAYS」。その手拍子を促していた金澤と加藤もそれぞれボーカルとして歌うパートがあるという常に変化、進化していくバンドであるフジファブリックらしさを感じさせる曲である。
これはアルバムと同じ流れであるが、意外なほどにシンプルな、それ以外に何も演出するものがない中で唯一光る照明がまさに「SHINY」な真っ白の光となってメンバーと客席を照らす。まるで巨大な倉庫の中で4人が演奏している姿のMVを我々が見ているかのようだ。ここでもソロ的な演奏も挟まれ、バンドのグルーヴがツアーを経てきて最高の状態にあることを伺わせる。
伊藤大地の激しいドラムの連打から始まる「efil」は「LIFE」収録曲であり、最新作から遡るとやや古めの曲ではあるのだが、さらに「MUSIC」収録の「会いに」で山内は
「Zepp Tokyo、会いに来たよー!」
と叫ぶ。
「君のいる所に会いに行くよ 会いに行くよ
君の住む街に会いに行くよ
君に言葉持って行くよ」
というフレーズはそのままフジファブリックがこうしてツアーを行っている理由にして意味そのものを歌っているが、山内の伸びやかな歌声は音源での志村正彦の声とどこか重なって聞こえてくる。それは山内の歌唱力の向上=フジファブリックというバンドとしてのボーカルの向上であるからで、だからこそこの曲の歌詞は4人で我々観客に会いに来てくれたかのような感覚に陥らせてくれる。
その山内がツアーファイナルを迎えることができたことの感慨とこうして会場に来てくれた観客、配信で見てくれている人への感謝を口にし、
「声を出しちゃいけないですけど、笑い声が漏れるのは仕方ないですからね。笑わせられるかわからないけど(笑)
あと、ハミングはオッケーらしいですよ」
と、オッケーと言われてもどのタイミングでそれを活用すればいいんだ、と誰もが思う中、「I LOVE YOU」の中でもR&Bの要素を導入したムーディーな「たりないすくない」へ。音源では前日に初の有観客ライブになるロッキンの出番がいきなりのトリであることで音楽ファンを驚愕させたYOASOBIのikuraこと幾田りらをゲストに迎えた曲であるが、さすがにこの日は登場することなく山内が1人で歌うのだが、それが全く違和感のないものになっているというあたりがツアーを経てさらに山内の歌唱力と表現力が向上したことを示していると言っていいだろう。
山内がスタンドからマイクを外し、Aメロ部分をステージ下手に歩き出しながら歌ったのは「東京」であり、前の曲から続くムーディーなモードがフジファブリックの描く東京の情景を感じさせてくれるし、それはこの会場がある意味では東京の一つの象徴(フジテレビなどがあり、海を埋め立てて作ったレジャースポットとして)であるお台場のライブハウスだからこそ感じられる要素でもあるだろうか。紛れもなく、華やぐ東京である。
そのR&Bなどの要素を取り入れた今のフジファブリックらしさを最も強く感じさせるのは先行シングルの「楽園」だろう。しかしどこかそれだけでなく歌謡曲の要素も感じさせるのはどこか昼ドラ的なドロドロとした不穏さを感じさせる歌詞によるものだろう。ステージ下手半分が紫に、上手半分が緑に照らされるという照明の効果がそれをさらに強く感じさせるものになっている。
するとここで金澤によるMCタイムとなるのだが、なぜか今回金澤には配信の人にも向けた試みとして、金澤専用カメラが導入されており、そのカメラが話している金澤を至近距離で撮影するという、逆にこれは現地よりも配信でどう写っていたのかが気になってしまう。加藤を真ん中の山内のポジションに呼んで2人でツアーを振り返る(弁当の話など)というもので、マイクから離れた山内がずっと腕を組んで2人の会話を聴いているのが実にシュールだ。
そんな展開の後にシリアスなロックサウンドで聴き手、つまりは我々の背中を押す「Dear」が演奏されるというコントラストも実にフジファブリックのメンバーのパーソナリティを表しているが、さらには加藤がピンスポットの当たる中で怪談を話し始めるというとんでもない流れに。しかもそれが結果的にオチがない、ただただ不気味かつ意味不明な話になっており、しかもその後に「I Love You」というタイトルに最もふさわしい、
「白くなったその髭も 丸い背中も悪くない
棚から奪ったレコード 今でも最高さ」
というフレーズが山内の言う通りにそれぞれにとっての大切な人の存在を思い出させてくれる「手」が演奏されるというのもまた感情の起伏が実に激しい。
とはいえ、今のフジファブリックのライブで最も映えるのはこうして山内が歌いあげるタイプの楽曲だ。とかく変態性のあるポップさがフジファブリックらしさというイメージになっているけれど、3人になってから生み出してきたこうしたタイプの曲と山内のボーカリストとしての向上がそのイメージを少しずつ変えてきている。少なくとも自分は今のフジファブリックのこうした曲をもっと聴きたいと思っている。
すると山内がアコギ、金澤はピアニカに持ち替えるというアコースティック編成で、金澤の己の道を突き進むというスタイルのテーマソング的に演奏されたのは、伊藤大地のシンバルとパーカッションを緩やかに叩くというリズムも相まってアコースティックバージョンとなった「Walk On The Way」。
これはまたガラッと曲のイメージが変わるアレンジだな、と思っていたら、そのまま山内がアコギを弾き、金澤のピアノが伴奏的に歌に寄り添うという歌を前面かつ中心にしたアレンジとなった「陽炎」が演奏される。
この曲が今演奏されるというだけで驚きであるのだが、演奏中に周りでは人目を憚らずに泣いている人がたくさんいた。まだ到来していないのに、でも懐かしさを感じる夏を思い起こさせてくれるようなアコースティックのアレンジと山内のボーカルの表現力。それは泣いている人からしたらかつてこの曲を歌っていた志村の姿を呼び起こさせたのかもしれない。そんな、目には見えない情景すらをも今の山内のボーカルは描き出すことができるし、きっとどんなに他の歌が上手い人がこの曲を歌ってもそうは感じることはできない。そこに染み付いている、滲み出している経験や記憶が声と歌に乗っているからだ。その出来事が胸を締めつける。
そんな感動的なアコースティックからさらにバンドの編成はミニマムになっていくのは、山内がギターを弾かずに歌に専念し、やはり金澤のピアノがそれを支えるように鳴らされる「あなたの知らない僕がいる」である。音源では秦基博とコラボし、デュエット的な形で収録されていた曲であるが、こうして山内が1人で歌っているとやはり元からこの形だったんじゃないかと思うくらいにその歌う姿は神々しさすら感じさせるものになっている。
そして事前に告知されていたこの日のゲストであるJUJUがステージに招かれる。真っ赤なドレスを着ているというのは間違いなくコラボ曲のタイトルに合わせたものだろうけれど、もともとはJUJUがフジファブリックの「手紙」をカバーし、自身のライブに山内を呼んで一緒に歌ったという形で交流が始まっただけに、どちら側からも
「ダメ元でお願いしたら快諾してくれた」
という関係性に。そうしてフジファブリックのことを話したくて仕方がないというJUJUはこうしてバンドのツアーの中の1日というライブに参加するのが初めてであると言い、
「フジファブリックのファンの方々はみんな良い人そう」
と言ってくれた。それはこの日のライブを最初から見ていればわかると思われるが、この状況下で行われているライブということを参加者全員が骨の髄までわかって臨んでいる空気しかなかった。もともとが激しいノリとかをするバンドではないけれど、それにしても開演前から場内は本当に落ち着いていた。
そんなJUJUとのコラボはもちろん「I Love You」収録のJUJU参加曲「赤い果実」。JUJUが
「私がニューヨークに住んでた時からの知り合いなのかって思うくらいに私のことをわかっている曲」
と評していたが、山内もJUJUの存在ありきでの曲であることも話していた。コラボ曲ということで間奏でフェイクを入れたりというアレンジはしながらも、決してJUJUが歌いあげるようなタイプの曲ではないが、だからこそ山内はJUJUとボーカリストとして対等に渡り合っている。まさかそんな風に思える日が来るなんて、3人になった当初は予想だにしていなかった。
ステージを去るJUJUを大きな拍手が見送ると、すでにこの日様々な場面で美しい光景を描き出していた観客の装着するフラッシュバングル(これまでのツアーで装着してきた加藤はファイナルのこの日に限って忘れてきたらしい)を山内が白く発光させることを促し、装着していない人はスマホライトを点けてかざすことによってまさにバンドと我々の未来を光が包むような景色となったのは「光あれ」。
先行リリース時はバンドファンにはあまり評判のよろしくない小林武史プロデュースということで一抹の不安を与えたりもしたが、「I Love You」の最後に収録されていることからもわかる通り、アルバムのメッセージを最も体現しているのはこの曲だ。
「光あれ!
歩き出すあなたに
遠くまで降り注ぐ愛の光」
という歌詞も一言で言うならば「I Love You」に変換できる意味を持っている。アルバム自体がこの曲にたどり着くためのものと言ってもいいし、それはこの光がなかなか見えづらいこの時代、この状況だからこそより強い力を発揮しているんじゃないだろうか。
そうして「I Love You」の曲を全て演奏しただけに、もうこれでライブが終わってもおかしくないような大団円感すらあったのだが、それでもまだライブは終わらず、4人の鳴らす音(特に曲にスピード感を与える伊藤大地のドラム)が合わさって一つの大きな塊となり、それを
「全身全霊全てを掴むよ
僕の手の中には生まれたての希望
羽ばたく翼その先に何が見える?分かるだろう?
高鳴る気持ち共にこのまま今旅に出よう」
というメッセージを込める「ポラリス」で一気にアッパーに振り切ると、フジファブリックの変態的なポップさを感じさせるというか、随一の踊れる曲であるにも関わらずこうしてストレートな曲が多いアルバムのツアーの中で聞くことによって「やっぱり変な曲だよなぁ」と思ってしまう(それは歌詞のシュールさも含めて)「バタアシParty Night」と続く。この曲のサビでのコーラスは声を出してメンバーと一緒に歌いたい人も多かったと思われるが、この曲以外でも一緒に歌うことができないからこそ、金澤のコーラスの重要性にも気づける場面が多かったはずだ。
そして山内が
「本当に、行き詰まったところが始まりなんですよ」
と曲の歌詞を観客に投げかけた「徒然モノクローム」はまさに今の3人でのフジファブリックというバンドそのものが行き詰まったところが始まりだったからこそ、今のこうした状況(山内さえもツアーが始まる時は迷いもあり、ステージに立つ足が震えていたという)が行き詰まりを感じるかもしれないけれど、それもまた一つの始まりの瞬間であることをこの曲の持つ力と、この曲とともに歩んできたフジファブリックのストーリーが感じさせてくれる。
実際に山内も、
「これまでもずっとそうだったけれど、みんなに元気を与えようとしてライブをやってきたのに、やっぱりみんなから僕らは元気や勇気をもらっている」
と言っていた。自分が歌うと決めた時から、常に山内の支えになっていたのはこうして目の前にいてくれた人たちの存在なのだろう。そんなことが頭に浮かんでいたから、撮影OKだったにもかかわらず、全く写真を撮ろうと思う瞬間が自分にはなかった。画面に残しておくよりも、自分の目に焼き付けておきたいと思ったのだ。そこまで我々を信用してくれているボーカリストの歌う姿を。
そしてラストはその山内が
「大切な何かをZepp Tokyoで見つけたよー!」
と叫んで始まった「LIFE」。それはこれからもフジファブリックというバンドにとってのLIFEとはこうして観客の前に立って音を鳴らすことであるという決意表明のようであったし、加藤がネックを左右に振りながらベースを弾く姿が観客の左右に振る腕とシンクロしていた。それはここにいた誰もが同じ気持ちだったということだ。
アンコールではメンバーがライブグッズなどに着替えて登場すると、昨年開催できなかった対バンライブ「フジフレンドパーク」を9月に2daysで開催することを発表。まだ対バン相手は発表されなかったし、ここから9月までの予定は特に発表されなかった。今年は毎年フジファブリックが出続けてきたロッキンへの出演もない。この日演奏されなかった「若者のすべて」を最後の花火が上がる夏の野外で聴くことはできるだろうか。今年のその光景もきっと、何年経っても思い出してしまうんだろうなぁ。
山内はこれからもそうして、
「会える場所をたくさん用意します!曲をたくさん作って、会える準備をします!」
と言った。この状況でもそう言ってくれる、我々に会いたいと思ってくれている、それがこの状況でライブに行くという選択をしている我々にとってどれだけ救いになっていることだろうか。だからこそライブハウスの中はもちろん、日常でも感染しないように生活していかなければならないよなと改めて思う。感染してしまったら、バンドが会える機会を作ってくれても会えなくなってしまうから。
そうして最後に演奏されたのは山内が歌い上げる歌唱をしながらも、リズムにはどこか疾走感を感じさせる「手紙」。
「さよならだけが人生だったとしても
きらめく夏の空に君を探しては
ただ話したいことが溢れ出て来ます
離れた街でも大事な友を見つけたよ
じゃれながら笑いながらも同じ夢追いかけて
旅路はこれからもずっと続きそうな夕暮れ」
というフレーズはもう会えなくなってしまったあの人に向けたようであり、それでもこれからもバンドとして旅を続けていくことを誓うかのよう。そこに説得力を持たせるのはやはり山内のボーカルの見事さ。ここまでに何回も書いてきたことだけれど、間違いなく「I Love You」というアルバムとこのツアーはそれがあるからこそここまでの満足度と完成度を持つことができたのだ。演奏を終えた4人がステージ前まで出てきて腕を上げて頭を下げてステージから去っていった後に規制退場を待ちながらスマホを開いたら開演から2時間以上経っていた。この状況になってワンマンでもライブが短くなりつつある中でここまでのボリュームでツアーを回ってくれるところに、本当にフジファブリックは我々に「I Love You」と思ってくれているのを感じていた。
いわゆるライブハウスで生きているというようなタイプのバンドではない。でもそうしたタイプではないフジファブリックは去年からすでにライブハウスで有観客のライブをやっている。
それは山内の言葉の通りにフジファブリックが目の前にいてくれる人の存在によってここまでバンドを続けて来ることができたということを誰よりもメンバーたちがわかっているからである。だから自分たちにバンドを続けさせてくれた人たちのところに会いにいく。直接音を届けに行く。「I Love You」というあまりにストレートかつ捻りのないようにも見えるタイトルのアルバムは、フジファブリックの活動理念そのものだった。それを示したツアーのファイナルだったのがこの日だった。きっとこれからもフジファブリックとそのファンには光があるはずだ。
1.LOVE YOU
2.SHINY DAYS
3.efil
4.会いに
5.たりないすくない
6.東京
7.楽園
8.Dear
9.手
10.Walk On The Way
11.陽炎
12.あなたの知らない僕がいる
13.赤い果実 feat.JUJU
14.光あれ
15.ポラリス
16.バタアシ Party Night
17.徒然モノクローム
18.LIFE
encore
19.手紙
文 ソノダマン