the telephones 「埼玉六連戦 〜Start Over From SAITAMA〜」 僕たちは Live House Hearts 2021.7.31 夜の部 the telephones
15周年のアニバーサリーイヤーがまさかのコロナ禍真っ只中に当たってしまったということで、本来ならばもっと大胆かつ盛大なライブなども予定されていたであろうthe telephonesはそのアニバーサリーイヤーを終えて通常営業へ。
the telephonesにとっての通常営業とはもちろん各地のライブハウスを巡ってライブをやりまくるということであるが、この金曜日、土曜日、日曜日は地元である埼玉のライブハウスでの3days、しかも即完したことで1日2回の計6連戦という、メジャーデビューしたばかりの若手バンドがキャパの小さいライブハウスでツアーを組んだらあまりに人気が出てしまってチケット取れない人が多発しているから急遽2回公演にしたという感すらある。このライブは2日目の夜公演である。
もともとはこの日は越谷EASY GOINGでの開催予定だったのだが、越谷EASY GOINGのスタッフに新型コロナウィルス感染者が出てしまったために急遽前日と同じ西川口Heartsでの開催に。この会場に、西川口という街に来るのがかつてthe telephonesとTHA BLUE HERBが2マンを行った2013年以来である。
検温と消毒を経て実に久しぶりのHeartsの場内に入ると、カレーなどのフード類までもが充実していることでおなじみのこのライブハウスでもドリンクがポカリスエットイオンウォーターと水の2種類だけになっているということに今の状況を思い知らざるを得ないが、客席の立ち位置が区切られているこの会場はこんなにキャパが小さいライブハウスだったんだな、ということも思い知る。
開演前には明らかにノブによるものと思われる、9mmの菅原卓郎のモノマネをしているであろう影アナが流れる中、開演時間の18時になるとおなじみの「Happiness, Happiness, Happiness」のSEでメンバー4人が登場し、被っていたアフロカツラをステージ袖に投げ捨てたところで、石毛輝(ボーカル&ギター)の髪が少し金髪が混じった髪色になっていることを察知する。ノブ(シンセ)は鮮やかな金髪、長島涼平(ベース)はヴェルディ川崎ライクなバンドのサッカーTシャツ、松本誠治(ドラム)はセンター分けの長髪という出で立ち。
この6連戦は初日を涼平、この日を誠治、3日目を石毛がそれぞれセトリを決めており、前日の涼平がセトリをプロデュースした初日も昼の部と夜の部でセトリが全く違うものになっていたのだが、この2日目も誠治がすでにSNSで上げていた昼の部とこの夜の部で全くセトリが異なるものになるというのが、冒頭のほぼインストと言っていい「Congratulations!!!」から始まるという点からもよくわかる。
石毛のメタル的なギター、ノブのサンプラーを駆使したシンセ、そしてこの曲を冒頭に持ってきた誠治のドラムというメンバーのソロ回し的な演奏が否が応でも観客のテンションを高まらせてくれるという意味では、レア曲ではあるとはいえ、この曲を1曲目に持ってきたのは間違いなく正解だと言えるだろう。タイトルになっているフレーズを誠治がコーラスするというのもこのセトリを考案した誠治ならではだよな、と思うくらいにこうしてライブで聴くのは久しぶりの曲だ。
白いシャツを着たノブがシャドーボクシングをするかのように腕を振るアクションが見られるようになった「Changes!!!」は昨年リリースの最新アルバム「NEW!!!」からの曲であり、すでにフェスなども含めてライブの定番曲となっているtelephonesならではのディスクパンクな曲。
さらには活動休止前にリリースされた「Jesus」ではサビで涼平が飛び跳ねるようにしてベースを弾き、このコロナ禍の中でもアルバムをリリースしてツアーやフェス出演などのライブをしてきて、今年も止まることなく活動を続けてきたバンドだからこそのグルーヴを感じさせてくれる。
ノブのシンセのサウンドが観客を踊らせまくり、石毛が間奏で狭いステージだからこそ少し間合いを測りながらもおなじみのロンダートをステージ上で決めてみせる「HABANERO」は
これまでに様々なライブアレンジが加えられてきた曲であるが、今はごくシンプルに音源に近い形になっている。それもまたバンド側のファンへのサービスというか配慮のような意識もあるのかもしれない。
越谷からこの西川口へと急遽会場が変更になってしまって混乱させてしまったことを石毛は観客に謝っていたが、そもそも越谷から西川口はそんなに離れていないし、バンド側は何ら悪いことをしたわけではない。もちろん越谷EASY GOINGのスタッフも。むしろそれでもこうして中止せずに西川口でライブを開催してくれて本当にありがとうございますという気持ちでしかないために、そこまで謝らなくても、と思うが、その辺りがtelephonesのメンバーの誠実さである。急遽2daysで開催させてくれた西川口Heartsに感謝を告げることも含めて。
誠治がサンプラーパッドを叩くイントロによって始まる「Night Parade」(「SUPER HIGH TENSION!!!」のラスト曲)はこうして前半で演奏されるとは全く思っていなかった曲であるが、セトリを考えた誠治からしたら
「こういう曲を必ずしも最後に演奏しなきゃいけないっていうこともないじゃないですか」
というメンバーへの提案を含めたセトリであるという。確かにこうした、the telephonesのアルバムの最後に収録されている壮大な曲はライブでも本編ラストくらいしか演奏される場所がないと我々も思っていたし、きっとメンバーもそう思っていたであろうが、そうした固定概念を覆して、バンドのセトリに新たな選択肢の幅を広げさせるような選曲だったとも思う。どこか西川口という街の夜の公演で演奏されるのが似合う曲であるとも言える。
それは「We Love Telephones!!!」の最後の曲の前(最後の曲である「Drums, Basses, Guitars, Keys, And Your Love And Voice.」はこの日の昼の部の本編最後で演奏したらしい。聴いたら確実に泣いていただろう)である「I’ll Be There」もそうである。当時のアルバムリリースツアーなどでは何度となくライブで聴いた曲もこうして聴くのは本当に久しぶりであるが、この曲の壮大なメロディもまた早くもライブが終わるかのような感覚に陥るくらいに、ライブのクライマックスで演奏されてきた曲だ。
しかしながらこれらの最近ライブで演奏されていなかったいわゆるレア曲たちは昨年末の段階ではメンバーがみんなほとんどどう演奏すればいいかを覚えておらず、ファンからリクエストが来ても得る覚え、あるいは全くわからずに演奏されないという状態だった。
そんな状態から今一度自分たちのライブで演奏していなかった曲と向き合い、文句なしのクオリティにまで仕上げてくるというのも間違いなくこうした曲を聴きたいと思っていたファンの思いを汲んでのことであろう。どれだけ4人で練習したりしてきたのだろうか。そうした苦労などを全く明かすことはないバンド、メンバーたちであるが。
「大好きなDJへ」
と石毛が言って演奏されたのはもちろん「FREE THROW」であるが、浮遊感溢れるこの曲のサウンドはやはり近年の曲とは少し違う感触を得るのは間違いない。しかしながら今この曲を聴くことによって
「love and peace
into a sunshine
are you happy???」
という歌詞が本当に刺さる。今の世の中が全くそう思えないものになってしまったから。それでもこの曲を聴くことによって、音楽はこの歌詞を体現するためにあるということを強く実感するのだが、それはどんな時でも我々のことを笑顔にしてきてくれたthe telephonesが鳴らしているからだ。個人的にはtelephonesと出会った時の曲を今この状況でもこうしてライブで聴けているということも相まって、本当に感動していた。
ここで改めてセトリプロデューサーの誠治から、このライブのセトリが
「それこそ「Night Parade」を必ずしも最後にやらなくてもいいじゃないですか、っていうメンバーへの提案」
という意識によるものであることが明かされる。普段は誠治の発案したセトリは叩き台には上がるけれども採用されることが全くないという事実も。それだけにこの日のセトリは貴重なものということである。涼平は
「誠治君のMCって相槌とか打ちにくいよね。話に入っていけない」
と16年目の今になって誠治のMCにダメ出ししていたけれど。
ループするフレーズが徐々に激しくなっていき、それを引っ張るのが誠治のリズムというのがドラマーだからこその選曲であると思える、ノブがロボットダンスを披露する「New Phase」、さらには「Tequila, Tequila, Tequila」と最新アルバム「NEW!!!」の曲をバランス良く配置するあたりも誠治なりのバンドの見せ方を感じられるが、特に「Tequila, Tequila, Tequila」はライブではもうほぼ毎回と言っていいくらいに演奏されている曲であるけれど、観客の踊りっぷりや腕の上がり方を見ていると、声が出せない=telephonesのライブの醍醐味であったみんなで歌うということが出来なくても曲そのものの良さでライブの空気を持っていくことができる曲になったのだと思うし、この曲が先行リリースされた時点で「NEW!!!」がtelephonesにとっての最高傑作になることはわかっていたことでもあると言っていいだろう。
するとここで誠治、涼平、石毛がグルーヴィーな演奏をする中でノブがダンスの仕方を観客に提示するのがおなじみの「Don’t Stop The Move, Keep On Dancing!!!」へと至るのだが、ノブのこの日のダンスは何かを揉み揉みするというもので、かつてTVなどでも問題として報道されていたくらいに埼玉県屈指の治安が良くない街(夜の街)として知られる西川口だけにそうした振りになったのかと思いきや、決してそういうわけではなかったということがアンコールで明かされた。石毛も歌いながら何かを揉むようなアクションをちょっと疑問を感じながらやっていたのは面白かったけれど。
「カバーをやります。何のカバーかは誠治君のTシャツがヒントです」
と言って誠治のTシャツに注目が集まる中、
「今日はもともとは越谷でやる予定だったから、越谷の先輩の曲を」
と言って演奏されたのは、かつてtelephonesの休止前ラストライブにも出演してくれた先輩、dustbox「Bitter Sweet」のカバー。
ノブがほとんどシンセを弾かずにステージ上をはしゃぎまくるというのはスリーピースのメロディックパンクバンドであるdustboxのサウンドに合わせたものであろうけれど、やはりパンクでありながらもダンスミュージックを中心とした様々な音楽を吸収してきたtelephonesらしいグルーヴと、同じハイトーンでありながらも声質が全く違うSUGAと石毛のボーカルという要素もあって、完全にtelephonesの曲になっていた。というかこの4人が演奏すれば誰のどんな曲でもtelephonesの曲になるということをこれまでのカバーでも実感してきただけに、こうしたカバーはこれからも何かにつけて演奏して欲しいものだし、埼玉の先輩への、ライブバンドへの、ライブハウスへのリスペクトに満ちていた。そしてdustboxのライブが観たくなった。
そしてこの終盤で演奏されることによってより高まりを募らせてくれる「Monkey Discooooooo」からは観客が心で歌うディスコソングのパートへ。石毛が間奏でブリッジギターを披露するのも、そのギターの音も本人が言うように完全にゾーンに入った、ディスコの向こう側に我々を連れて行ってくれるが、さらに「urban disco」ではノブが涼平の方まで歩いて行って、2人で1本のマイクで
「I am disco!!!」
を叫ぶというパフォーマンスも。ノブの思いつきによるものだからか、涼平が少し驚いていたのが面白かった。
すると石毛は
「ライブハウスをめぐる状況は日々変化している。またライブが出来なくなるかもしれない。だから今この瞬間だけは楽しもう!」
と言って、この状況でもライブができる限りはディスコし続けていくという意思を示すように最後に「Do the DISCO」を演奏した。もちろんコロナ禍であるということを完全に忘れることはできない。声を出して一緒にディスコを叫べないということがどうしたってコロナ禍であることを突きつけられてしまうからだ。それでも、こうしてtelephonesのライブを見ていられる楽しさは他のどんなことにも代え難いものだ。こういう楽しいことがあるから、それを目標にして日々を生きていくことができる。どうか音楽がまた止まることがありませんように。
アンコールではこの埼玉六連戦Tシャツにメンバーが着替えて登場すると、来月に渋谷duoで開催される台湾のバンドとのリモート対バンの内容の説明と告知をし、さらには正式には翌日に発表されるというライブ情報をこうしてライブハウスに来てくれている人に先に公開してくれる。telephonesはいつだってそうして目の前にいてくれる人を何よりも大事にしてきたし、そうした部分もまたライブハウスバンドだなと改めて思う。
この埼玉での3日間のセトリはそれぞれ涼平、誠治、石毛が考えたものになっているのだが、アンコールの選曲だけはノブがその時の気分や状況で選ぶということで、この日のノブセレクトは
「西川口はキレイなビッチがたくさんいる街だから」
と西川口のイメージを口にし、だからこそ「Don’t Stop The Move, Keep On Dancing!!!」での揉み揉みダンスの意味合いが変わってくる中で演奏されたのは「Beautiful Bitch」。思いついてすぐにこの曲を演奏できるというバンドの状態にまでもって来れているというのは本当にさすがであるが、この曲もまたやはりコーラスでメンバーとともに声を出して歌いたいし、今こうして我慢してルールやガイドラインを守っているのも、いつか必ず来るその日に繋げるためであるという約束にも似たものだ。
演奏が終わってメンバーが去る際には石毛は
「明日も来る人(翌日は熊谷で2回ライブ)はまた明日。今日だけっていう人はまたどこかのライブハウスで!」
と再会を約束し、最後にステージを去ったこの日のセトリ発案者の誠治には客席から一際大きな拍手が送られていた。石毛の「また明日」という言葉によって、明日もまたtelephonesのライブが見れる、しかも石毛選曲のセトリのライブが見れるということを楽しみにしながら、実に8年ぶりに訪れた西川口Heartsを後にした。近くに住んでいたらきっとしょっちゅうライブを観に来るだろうし、コロナ禍が明けたらここの看板メニューであるカレーを食べながら酒を飲めれば、と思っていた。
1.Congratulations!!!
2.Changes!!!
3.Jesus
4.HABANERO
5.Night Parade
6.I’ll Be There
7.FREE THROW
8.New Phase
9.Tequila, Tequila, Tequila
10.Don’t Stop The Move, Keep On Dancing!!!
11.Bitter Sweet (dustboxカバー)
12.Monkey Discooooooo
13.urban disco
14.Do the DISCO
encore
15.Beautiful Bitch
文 ソノダマン