本来ならばロッキンが開催されていたはずのこの3連休。しかしながらなくなってしまったものはもう戻ってこないし、どうにかして自分なりに音楽を楽しむ方法を見つけなくてはならないということで、Panorama Panama Townのワンマンへ。
ドラマーの脱退やバンド名の表記の変更がありながらも、近年はthe telephonesの石毛輝をプロデューサーに迎えた新曲もリリースしており、この日はファンからのリクエストライブに加えて、???という始まる前まで内容がわからない企画も含めたワンマン。この8月8日を「パノパナの日」と制定しているバンドならではのライブである。
16時30分というやたらと早い時間なのは通常のライブだけでなくて何かと盛りだくさんなこの日のライブだからであるが、その時間を過ぎるとメンバー3人が登場し、
岩渕想太(ボーカル&ギター)「こうやってPanorama Panama Townを好きな人たちに会えるのも久しぶりだなって。パナフェスも今年は出来なかったんで、お祭りみたいなことが出来なかったなって」
という挨拶とともに、この日のライブの内容を説明。岩渕と浪越康平(ギター)は弾き語り、タノアキヒコ(ベース)はDJという形でそれぞれのやりたいことをやってからのリクエストライブとなるのだが、それゆえにあまりキャパが大きい会場ではないFlowers Loftでの長丁場でのライブということで、
浪越「扉の外のバーでもモニターに音と映像を流してるんで、興味ない人の時は休憩しながらそこで見ていてくれれば(笑)」
と笑わせながら、まずは岩渕の弾き語りへ。
マイクには飛沫拡散防止のシールドが取り付けられ、そのマイクスタンドの前に岩渕が座ると、今回のバンドのセトリには入れられなかったという「Sad Good Night」、学生時代に書いた、今自分で聴くと青さを感じてしまうという「パン屋の帰り」を弾き語りで歌うのだが、ヒップホップやミクスチャーの要素を強く感じるパノパナのサウンド、曲からすると驚くくらいに岩渕の弾き語りからはフォークの要素を強く感じる。もともと1人で曲を作る時はこうした形で生み出したものをバンドで練り上げていく段階でミクスチャーになっていくんだろうか、というくらい。
そんなフォークの要素は父親が大好きだという井上陽水の「人生が二度あれば」のカバーで、それが岩渕のルーツであることがわかる。声質は決してフォークシンガーっぽくはないのだが、ギターの弾き方も含めて滲み出るフォークっぽさはしかしこの曲においては井上陽水の中でもそこまで有名な曲ではないからか、岩渕が歌うことによって新曲のようにすら聴こえてくる。
そんな感覚は実際に
「多分バンドではやらないと思う、できたばかりの新曲」
の弾き語りでの披露で形になる。
「両親が通っていたジャズ喫茶 今はカウンターに座ってアイスコーヒーとサンドウィッチ」
という歌詞も実にフォークっぽいそれであるが、それは休みの日にしょっちゅう新宿へ出かけ、新宿が自身にとってのディズニーランドというくらいに大好きな北九州出身の岩渕が、もし新宿で生まれ育っていたら、というテーマで書かれたもの。確かにここまで私小説な歌詞の曲をパノパナのバンドサウンドでアレンジするというのはなかなか想像がつかないが、であるならばどんな形でこの曲が世に出ることになるのかというのも楽しみなところである。
そしてラストはこちらも今回のバンドでのライブではセトリに入らない「On the Road」で、その歌声や歌う姿からはこうしたギリギリをすでに超えているような世の中の状況であっても、音楽を止めることなく進んでいくという意志を感じさせた。背後に設置されたペットボトルの水の位置がやたらと高く、キリンが首を伸ばすようにしていちいち立ち上がって水を飲んでいたのが面白かった。
1.Sad Good Night
2.パン屋の帰り
3.人生が二度あれば (井上陽水のカバー)
4.新曲
5.On the Road
転換を経て、次はステージではなく客席の1番奥に設置されたDJブースにて、SICK BOYによる DJ。まぁ完全にタノでしかないのだが、本人は「タノの親友のDJ」を演じているだけに、そういう設定でこれからも通すらしい。
しかしこれがビックリするくらいに本格的なDJで、これまでのアー写やライブの出で立ちを見ていてもヒップホップが好きなのがすぐにわかるくらいにヘッズ感の強いタノであるが、最初は女王蜂とDAOKOによる「金星」をかけたのかと思いきや、パノパナの「月の裏側」をマッシュアップしたり、Perfume「Love the World」をさらにバキバキなサウンドにアレンジしたりと、ダンスミュージックにも強い趣向を持っていることがよくわかるし、普通に曲を流すだけかと思っていたのをひっくり返されるくらいのクオリティ。さすがSICK BOYを名乗るだけはある。
ヒップホップ好きらしさで言うと、Perfumeから一気にテンポを落としての(この辺りの繋ぎも完全に本職のDJである)スチャダラパー「サマージャム’95」というこの時期、暑くて外に出たくないというか、そもそも出ることを推奨されない現在の夏にシンクロしてしまう名曲でそれを示すのだが、果たしてパノパナの客層の若さ的にこの曲を知っている人がいるのだろうかという感じもしてしまう。
でもそうした知らない音楽との出会いというものがDJの醍醐味でもあるし、好きなバンドのメンバーが好きな曲であるというのはファンからしてもしっかり聴いてみたくなるはずだ。
(そう思うのは自分が石毛輝などのDJで聴いた曲を掘ったりしてきた経験があるからだ)
だからこそ、今は調べればすぐに曲名がわかるアプリとかもあるけれど、タノには種明かし的な形になってしまうかもしれないが、この日にかけた曲や使った曲のネタを公開してみんなに知らせて欲しいと思う。いや、この日1番衝撃的だった、っていうくらいに本当にマジのDJっぷりだった。
メンバーそれぞれのソロの最後は浪越の弾き語り。すでに弾き語り経験もある浪越であるが、それを見ていない側からすると、ギターを弾くのはともかくとして、歌う姿はなかなか想像できないものである。
ソロでの弾き語りなので当然岩渕と同様にステージ中央のマイクスタンド前の椅子に座ると、エリック・クラプトンの「Hey Hey」からという実に渋いスタート。浪越の声はクラプトンのような渋さはないというか、やはりボーカリストのそれではないのだが、こうした選曲もやはりボーカリストというよりも、ギタリストの弾き語りであるということを強く感じる。
するとまさかの岩渕と共通するルーツがこんなところにあったとは!と思わずにはいられない井上陽水のカバーはこちらは「少年時代」という超王道であるが、それはこの時期、8月を意識してのものだったのだろうか。同じ井上陽水の曲を聴くとやはり岩渕のボーカリストとしての技量の高さを思い知ることにもなるのだが。
ここでヘルプメンバーとして、バンドのサポートドラマー、オオミハヤトを呼び込むと、リズムとコーラスを加えた形で再びエリック・クラプトンのカバー「I SHOT THE SHERIFF」へ。
「保安官を撃った」
というタイトルを浪越は丁寧に観客に説明するのだが、オオミは曲の意味を全く知らなかった様子。とはいえ、こうして弾き語りの選曲を比べると、フォークを感じさせる岩渕と、ブルース色の濃い浪越という対比がハッキリするし、その2人が同じバンドをやっているということがより面白く感じられる。しかもどちらもバンドのサウンドやライブからは全くと言っていいくらいに感じられないジャンルである。
オオミと入れ替わりでヘルプメンバーとして登場したのはすでに自身も弾き語りをした岩渕。浪越の横に座ると、2人が大好きなThe Strokesの2ndアルバム「Room On Fire」の最後に収録されている「I Can’t Win」を岩渕がスマホで歌詞を見ながら歌う。2人はよくThe Strokesの話をしており、その時々によって好きな曲が変わるらしいが、今はこの曲であるという。弾き語りという形態だと全く曲のイメージが変わるが、それはジュリアン・カサブランカスのクールかつ低めのボーカルと岩渕のボーカルの違いかもしれない。個人的にはこうしてThe Strokesの曲を聴いていると、サマソニにヘッドライナーとして出演した時の素晴らしいライブを思い出す。
さらには最近自身がサポートやレコーディングに参加しているというUK PROJECT所属の若手ユニット、peanut buttersの「波乗りnammy」を1人だけで弾き語り。タイトルからして
「俺と一緒に作るのを念頭においている曲だろう」
と言っていたが、先日peanut buttersのライブを見た時にはこうして浪越が関わっているとは思わなかったし、ましてやこういう形でこのユニットの曲を聴くことになるとは。POLYSICSの曲をカバーすることも含めて、もしかしたらこれからシーンの中で大きな存在感を発揮するユニットになるのかもしれない。
そして最後は以前の弾き語りの時に非常に評判が良かったというパノパナの「俺ism」をMOROHAみたいに弾き語りするというものなのだが、サビ以外が本当にMOROHAそのものというか、UKのようにギターを弾きながらアフロのようにスポークンスタイルで歌うというスタイルになっており、個人的には笑ってしまうくらいにめちゃくちゃ面白くて、評判が良かったというのも実によくわかるのだが、周りの人が全然笑ってなかったのはMOROHAをあまり知らないのか、あるいは笑うのを我慢していたのか。そういう意味でもいつかMOROHAと対バンしてこの弾き語りをやってみて欲しいな、と思うけれど、本家を前にしたら余興みたいになってしまうかもしれないとも思う。
1.Hey Hey (エリック・クラプトン)
2.少年時代 (井上陽水)
3.I SHOT THE SHERIFF (エリック・クラプトン)
4.I Can’t Win (The Strokes)
5.波乗りnammy (peanut butters)
6.俺ism
そうしてメンバーそれぞれのソロを終えると、15分ほどの換気タイムとセッティングを経ていよいよバンドでのライブに。
3人とオオミがステージに登場すると、やはりそれぞれのソロの時とは違う緊張感が表情からも感じられるが、人気投票の10位の曲から順番に演奏していくというこの日のセトリは重心の低く重いロックサウンドの「ラプチャー」からスタートする。つまりはこの曲が10位であるということであるが、この曲を選んだファンがたくさんいるということがパノパナのファンの特異さ、バンドの特異さを表している。それはメンバーがこの曲のランクインを意外だったと話していたことからもわかるだろう。
こうした人気投票によるセトリでライブをやる時は得てしてほとんどライブでやらないレア曲や、初期の曲に票が集まるという傾向があるが、やはりデビューミニアルバムのタイトル曲である「SHINKAICHI」が選ばれるというあたりはそうした人気投票セトリらしさを感じさせる。昔から聴いている人にとっては思い入れも強いし、近年ファンになった人にとってはあまりライブで聴けていないであろう曲である。
そんな中で個人的に意外だったのは、タイトル通りにパノパナのミクスチャーロックにサイケデリックさを振りかけた「マジカルケミカル」から、タノがサングラスをかけて夏っぽさを感じさせながら演奏された「HEAT ADDICTION 〜灼熱中毒〜」という流れ。
もちろんこうしたライブで盛り上がる曲ではあるのだが、いわゆるパノパナのど真ん中からは少し外れている曲であるというか、率直に言うとかなり変な曲だからである。(特に「マジカルケミカル」は)
しかしながらそんな曲が選ばれるということは、時にはどこに軸があるのかということがわかりづらくもあったパノパナの持つ多様な音楽性がファンには丸ごと愛されてきたということである。「HEAT ADDICTION 〜灼熱中毒〜」は岩渕も
「この時期にピッタリな曲」
と言っていたが、こうしたライブハウスだけでなく、より暑さを感じさせる夏の野外フェスでも聴いてみたくなる曲だ。
「クラリス」からは岩渕のマシンガンのように次々に言葉が繰り出されるラップも、タノの体を激しく揺さぶりながら弾くベースもさらに激しさを増していく。それだけに飄々として見える浪越の姿との対比が面白いが、それでもそのギターの音からは燃え盛る情熱を感じるし、
「順位のとおりにやってるのにちゃんとライブの流れになってる」
と、確かに流れが全く違和感がない。順位の通りの順番に演奏すると1曲ごとに機材やチューニングを変えたりというテンポが悪くなることもあるだけに、こうしていつものライブと全く変わらない流れで演奏できているのは奇跡的と言っていいかもしれない。
そんな流れは岩渕がハンドマイクになることによって、さらにラップ、ボーカルにキレが増し、それがタノのうねりまくるベースと相まってバンド全体のグルーヴをさらに強力なものへと押し上げていく「リバティーリバティー」「世界最後になる歌は」と続いていく。自分が今までに見てきたこのバンドのライブでもこのバンドのライブでの強さを充分過ぎるほどに感じさせてくれた曲たちであるだけに、この上位にランクインしているのも実に納得のいくところであるし、歓声を上げることもなくその場で動かずに腕を上げて見ている観客の盛り上がりっぷりを見ていると、こんな世の中の状況でなければさぞや激しい客席の盛り上がりになっていただろうなと思う。それがバンドのグルーヴによって衝動的に起こるだろうな、と思うくらいに否が応でも体も心も沸騰させてくれるような演奏である。
曲間を繋ぐようなメンバーによるセッション的な演奏が始まると、
「ランクインしてないけど、次の曲をやる前に演奏してから繋げたい」
と言って、自分たちの出てきた神戸の街やシーンも含めた自己紹介的な「パノラマパナマタウンのテーマ」を挟んで、第3位となった「ロールプレイング」へという流れは本当に人気投票ライブとしてではない、通常のライブそのものであるが、岩渕のラップボーカルはこの終盤に来てさらにキレ味を増し、それがバンド全体のグルーヴにまで波及している。自分は多分オオミのドラムになってからライブを見るのは初めてであるが、すでにかつての4人でのライブのグルーヴをはるかに凌駕していると思うくらいにバラバラな個性を持った今の4人(それがよく現れたソロコーナーだった)の音が合わさって一つの大きな塊になっている。
また、このFlowers Loftには初めて来たのだが、新しいライブハウスということもあってか、客席からステージを照らす可動式の照明はもちろん、音も非常に良い。どこから聞いてもそれぞれの音がクリアに聴こえる。それだけにパノパナの演奏技術の高さやグルーヴの強さをしっかりと受け止めることができる。
そんな中で2位にランクインした「MOMO」を岩渕は、
「作った時はそんなに好きな曲じゃなかった」
と評していた。ライブでは毎回演奏されているくらいの曲であるし、堀越のハイトーンなギターとうねりまくるリズム、さらにはタノのコーラスと岩渕のボーカルの絡み合いなど、パノパナのグルーヴの化身っぷりを最も感じさせてくれる曲であるだけに、メンバーも自信があった曲だと思っていたのだが、そうではなかったというのは実に意外だ。
しかしそんな曲がこうして毎回ライブで演奏され、人気投票で2位にまでなったというのは、「MOMO」という曲がライブで成長し、その成長はバンドとファンの両者によってもたらされてきたものであることを実感せざるを得ない。このグルーヴこそが、ライブじゃないと感じられない、目の前にいるバンドが音を鳴らさないと感じられないものだ。それを感じさせてくれる曲がちゃんとファンに愛されている。なかなかデビュー時の期待ほどには突き抜けきれない状況が続くバンドだけれど、大事な部分を理解してくれている人がいてくれるということは確かであるし、幸せなことなんじゃないかと思う。
そんな曲たちを抑えての堂々の1位は「フカンショウ」。
「まるで何かの条件反射 目立つもの見りゃくだらん却下
人の個性は許さない 出る杭打つやつ
(ほっといてくれ!)
言葉尻から捕まえる そしてプロフィールから粗探し出す
正義の名の下 pick up take it down
(ほっといてくれ!)」
などの歌詞はまさに今のオリンピックなどによるゴタゴタをそのまま歌詞にしたかのようですらあるし、そんな歌詞を岩渕は2018年の段階で生み出していたというあたりに彼の社会への視点の鋭さを感じさせるとともに、日本は本当に全く変わらない、前進できていないんじゃないかとすら思ってしまう。
それでも、メンバー脱退や岩渕のポリープ手術など、なかなか思うように活動が軌道に乗らなかったバンドはしっかりと、1歩ずつでも確かに前進することができている。今回のこの人気投票制のライブはそんなバンドの歩みを確かめるようなものだった。
「来年もパノパナの日をやっても、人気投票はやらないだろうな。もっと曲が増えてからじゃないと」
と岩渕は言っていたが、7年目のバンドの現状確認はこういう形だった。それがさらに数年後(人気投票をやるとしたら10周年のアニバーサリー?)にどんな形になっているのか。またその時にこの日のことを思い出しながら、バンドの歩みを確かめ合うことができたら、と思う。
しかしながらこれではライブは終わらず、インスタライブでの配信も含めたアンコールへ。今回の人気投票は中間発表もあったのだが、その中間発表時には6位に入っていたのだが、最終結果では18位にまで落ちてしまい、
「この曲を俺たちが救ってあげないと」
という意味合いを持って演奏されたのは「ホワイトアウト」。ラップ歌唱から祭囃子的なビートに急展開するという大胆なアレンジはこのバンドならではの、普通なら別の曲を1曲に融合させたというような曲だろう。この曲が最初はTOP10に入っていたというのは大健闘だったんじゃないかと個人的には思う。
さらには惜しくも11位だったと明かされて演奏されたのは、岩渕のスポークンワード的な歌唱による
「測らせてたまるかい
泣き笑う表情を
何歳だとか何千万稼げるだとか今どうだって
数合わせの命なんて
たった一つも存在しねえ!
数字の中だけで
死んでいく才能よ
何のために持ってるか分からない
貯金箱かち割って
無責任な旅に出よう
道筋ならば俺が決めてやる」
という歌詞が順位という数字上の概念を全てひっくり返す「$UJI」。メンバーたちも覚えていないくらいに久しぶりにライブで演奏した曲らしいが、以前にSWEET LOVE SHOWERのFOREST STAGEに出演した際にリリースされたばかりの新曲として演奏された時のことはよく覚えている。あの時のライブでのハマりっぷりからすると定番曲になっても良さそうな気もしていたし、やはりこうして今聴いても抜群にカッコいい曲なのだが。
そして岩渕がギターの弦が切れて急遽サブギターに交換しながら、今のギリギリでライブが出来ているという状況をしっかり自分たちで把握しているからこそ、こうして目の前に来てくれてライブが出来て嬉しいということを語り、さらには今絶賛レコーディング中であり、年内にはなんらかの新しい作品がリリースされることを告知して最後に演奏されたのは、最新曲の「Strange Days」。
「消えかかってた衝動
閉ざしてた心
抑えようとしたって何度も湧き上がって
君と出会った事で
回り出した世界
届かなくてもいいよ 全部出し切って」
という歌詞はこのコロナ禍に見舞われて塞ぎ込んでいたバンドの再生のストーリーそのものであるが、これまでも何度もピンチを乗り越えてきたこのバンドだからこその説得力がここには刻まれているし、ミクスチャーしかりThe Strokesしかり、どちらかというとアメリカの音楽からの影響を強く感じることが多かったパノパナにおいては最もニューウェイヴなどのイギリスのロックの要素を感じさせるロックサウンドになっている。
それはきっとプロデューサーの石毛輝によってもたらされたものでもあると思われるが、かつて自分が学生の頃に聴いていたSUPERCARのナカコーは後に自分がリアルタイムでライブに行きまくっていたthe telephonesのプロデューサーとなり、そのtelephonesの石毛輝がこうしてパノパナのプロデューサーになった。
そうして音楽は循環し、受け継がれていく。好きなバンド、好きな音楽が繋がっていく。時には新たな扉を開いてくれる。ラップではなくメロディを、グルーヴもありながらもどこか曇りのあるサウンドも、これからのパノパナの新しい武器になっていくはず。この曲が軸になるであろう、年内にリリースされる新しい作品が本当に楽しみだ。リリースしたら、telephonesかYap!!!と対バンしてくれないだろうか。
コロナ禍になる前に新宿の小さいライブハウスなどで行われていたサーキットイベントなんかにパノパナが出ていると、すでにロッキンやラブシャ、ビバラのステージに立っていた経験や、そこに至るまでのあらゆるバンドを抑えてのデビューに導いたライブの地力とグルーヴの強さ、パフォーマンス力など、他の若手バンドたちとは全く違うレベルにいるように感じていた。
でもそもそもを考えると、2016年のラブシャのオープニングアクトで初めてライブを見た時の、それこそその3年前に先輩のTHE ORAL CIGARETTESがおなじくオープニングアクトとして我々の前に姿を現した時のような「これはとんでもないバンドが出てきたな…」という衝撃を、あの当時演奏していた曲を聴いたことによって思い出していた。
あの衝撃の通りに順調にはいかなかったけれど、コロナ禍になって一度リセットされたというか、飛び抜けてるバンド以外はほとんどがどんな位置にいるのかが見えづらくなった現状はこのバンドにとってはむしろチャンスと言えるかもしれない。ライブを見てもらえる機会さえあれば、存在を知っていようが知らなかろうが見てくれた人に間違いなく「かっけぇな…」と思わせるライブができるバンドだからである。
何よりもミュージシャンにも感染者が増えてきて、ライブが中止になったりすることも増えてきている中でこうして無事に長丁場のライブを完遂することができたということに心から拍手と感謝を送りたいし、そうしてこれからもライブを繋いでいって欲しい。こうしてライブがあることで、めちゃめちゃ生きてるって思えるから。
1.ラプチャー
2.SHINKAICHI
3.マジカルケミカル
4.HEAT ADDICTION 〜灼熱中毒〜
5.クラリス
6.リバティーリバティー
7.世界最後になる歌は
8.パノラマパナマタウンのテーマ
9.ロールプレイング
10.MOMO
11.フカンショウ
encore
12.ホワイトアウト
13.$UJI
14.Strange Days
文 ソノダマン