6月から始まった、[Alexandros]の「ALEATRIC TOMATO」ツアーはライブハウスを経てアリーナ編へと突入。今月のアリーナ4daysは横浜アリーナ2daysと日本武道館での2daysからなるもので、この日は横浜アリーナの2日目。
前週にはクラブチッタでFC会員限定の公開ゲネプロ&ライブも行い、3日前には「閃光」が主題歌となっている劇場版ガンダム最新作「閃光のハサウェイ」のロングヒットを記念しての山下公園のガンダム立像前でのライブなどもあり、完全にバンドはライブモード。広い会場であればあるほど力を発揮するバンドであるということを何度となく実感させてきただけに、こうしてアリーナで見れるというのが実に楽しみだ。
ステージは横浜アリーナを横に長く使うという作りであり、かつてこの会場でワンマンを行った時と異なるというのは収容人数の上限などの今の状況でのライブ発表時の要素による部分もあるだろう。
もちろん消毒と検温をしてからの入場であり、席は両サイドを開けたものとなっている。今のこのバンドと会場そのものの規模を考えると破格の動員の少なさである。
平日であれど早めの18時に諸注意を告げるアナウンスが流れると、開演前はツアータイトルが映し出されていたステージ背面のモニターにはライブハウスの時と同様に俯瞰での観客が少しずつ入場しては椅子に座っていくという映像が流れるのだが、それは明らかにこの横浜アリーナのものではないだけに、この日のものではないということがわかるのだが、その映像にはあえてガラスにヒビが入っていたり、映像が乱れるようになったりと、同じように見えて若干手が加えられている。それを見ていて、もしかしたらこうしてお行儀よく1席空けて並んで椅子に座る、入場時間が分散されたりするというコロナ禍だからこその行儀の良い形でのライブはもう終わりを迎えつつあるという希望を込めているかのように感じられた。
そんな映像が流れながらメンバー4人とサポートキーボードのROSEが登場するのだが、ジャケット着用というフォーマルな川上洋平(ボーカル&ギター)は髪をちょんまげのように上で結き、黒縁メガネをかけているという出で立ちもまたライブハウスの時とは全く違うものになっている。
それぞれが楽器を手にするとリアドのドラムを合図にしてセッション的な演奏が始まり、その姿が1人ずつ画面に映し出されることによって、メンバー紹介も兼ねたものになっている。かなり長尺なインストの演奏であるが、果たして曲となったりするのだろうか。「偶発的」という意味の「ALEATRIC」というツアータイトルにピッタリな曲であるようにも思うのだが。
その「ALEATRIC」に続いてライブハウス編では「TOMATO」というタイトルがついていたのだが、セッションが終わるとスクリーンにはそのトマトのアニメーション映像が。それが何故か雲に隠されるようになり、その雲が晴れていくと、そこにはトマトではなくて満月が現れて「ムーンソング」へという、リリースされたばかりだった「閃光」を1曲目に据えていたライブハウス編とは全く違うライブになるということがこの冒頭の10分くらいでよくわかる。
メガネをかけたままの川上のハイトーンボイスはやはりこの広いアリーナを完全に包み込むような、まさに月まで届くかのような伸びやかさを持ち、この男には2daysの2日目という要素は喉を消費して声が出なくなるというようなものとは無縁であることがよくわかる。この曲を横浜アリーナで聴くと、収録アルバム「EXIST!」のツアーでここでワンマンをやった時のことを思い出したりもするけれど、その時には唯一いなかったメンバーであるリアドがサトヤスの意思を引き継ぐようにして高い打点のシンバルを叩く姿と音はまさに[Alexandros]のドラマーだなと思える。
オープニングからの映像もこうした広いアリーナだからこそより映えるものであるし、横浜アリーナならではの客席中央の天井からぶら下がる4面モニターにもその映像が映し出されているのだが、そこに振動するスピーカーの映像が流れるというところからも、よりキックなどのリズムが強調されたアレンジになっているのがわかるのは、これまでも様々なライブアレンジが施されてきた「Run Away」。川上はハンドマイクとなってステージを歩き回りながら歌い、ROSEのサウンドもシンセによる効果音的なものとなっているのがシンプルなダンスミュージックの要素を増していることを感じさせる。
それは「Fish Tacos Deli」というアメリカの路地裏に存在しているかのような店の名前の照明がスクリーンに映し出された「Fish Tacos Party」も同様であるが、やはりキックを強調したダンスミュージックの要素を強めながらも、高速四つ打ちという感じではなく、むしろテンポは落ちているような感覚すらある。磯部寛之(ベース)がライブではコンガを叩くこともあった曲であるが、今回はベースとコーラスに専念することによって、リアドがよりパーカッシブなドラムを叩くというようにリズムが抜本的に変化しているのがテンポが違うように感じる理由だろうか。こうしたダンスミュージック的なアレンジはこの横浜アリーナが石野卓球(電気グルーヴ)が主催していたダンスミュージックの祭典である「WIRE」の会場だったことも思い出させる。それくらいにクラブミュージックとしてのダンスアレンジという感覚が色濃い。
「暴れたい皆様、お待たせいたしました!」
と川上が観客を早くも煽る「Beast」ではステージから炎が吹き出し、川上は上手から伸びる通路の方までハンドマイクで歌いながら歩いていく。それによってギターを一手に担う白井眞輝のリフもリズム隊も実に獰猛と言えるサウンドに一気に変化するのだが、スクリーンには曲の歌詞が次々に映し出されることによって、
「何回人生試したって 何が正解かわからないよ
なら“間違って”もいいんじゃない?
やぶれ
かぶれ
はぐれかけても」
「どっちも間違いで正しいよ」
という歌詞がコロナ禍における人と人との分断を嫌になるくらい見てきたからこそ、一方の完全な正解などないというメッセージとして強く刺さりながら、
「握手はなくたっていいけど 手と手を取り合いたい」
というフレーズでまさに手と手を取るような仕草を見せた川上と白井のように、こうして好きなバンドのライブに集まれば思想が異なっても分断されるようなことなんてない、同じ方向を向くことができるのに、と思ってしまう。
「Beast」のアウトロで再びギターを手にして演奏に加わっていた川上は、警報的な音が鳴ってから始まる「Girl A」ではさすがロックスターというような、ギターを抱えてジャンプしまくるという、この瞬間を写真に収めたいと思ってしまう姿を間奏で何回も見せてくれる。近年はギターを弾く曲も減ってきているし、それはそれで川上のフロントマンとしての輝きを感じさせてくれるものになっているのだが、やはりギターを持って弾いている川上の姿は本当にカッコいいと思う。
そんなカッコいいロックバンドとしての姿を見せてくれる4人の姿をカメラのレンズの中で捉え続けるような映像の演出によって、まるでこのライブそのものが壮大かつリアリティに満ち溢れた映画のように感じさせてくれる「アルペジオ」ではコーラス部分をメンバーが歌いながらも、川上はいたってコロナ禍になる前のライブと変わらないように
「横浜!」
と観客を歌わせるかのように煽る。それでもやはり客席から声は全く聞こえないのだが、川上は
「聞こえてるぞ!」
と叫ぶ。それは幻聴では決してなく、その声を聴いてきた光景が彼の脳内には今も残っていて、こうして目の前に観客がいてくれることでそれがより鮮やかに蘇っているのだろう。何よりもライブのやり方というか自分たちのパフォーマンスは決して変えないというあたりに、このバンドのファン、観客への信頼を感じることができる。どれだけ今まで通りに煽ってもみんなルールを破るようなことはしないはずだ、という。
そんな一体感を感じるような空気は川上がギターを下ろしてシェイカーを振るイントロと、タイトル通りに雷が光る映像によって始まる「Thunder」によってまたガラッと変わる。川上のファルセットボーカルが印象的な曲であり、やたらとファンの人気投票で上位にランクインする曲。そうした要素がこうして近年のワンマンではよく演奏される曲という位置まで持ってきたのだろうけれど、その曲すらも今までよりもさらに構築感の強いアレンジになっている。それは「Bedroom Joule」というコロナ禍だからこそのアレンジによるアルバムの存在が大きかったのかもしれないが、一人一人の、一つ一つの音を丁寧に、でもあくまでもロックバンドとして積み上げているような、そんな演奏をしているように感じた。
川上がアコギ、磯部がなんとタンバリンという形で演奏されたのは原曲はストレートなギターロックと言ってもいい「Swan」であるが、その編成とキーを落としたアレンジが、水中で水泡のみが浮かぶという映像に合わせた水深バージョンというようなものになっており、水面の鮮やかさよりも水中の孤独さをその音の研ぎ澄まされ方によって感じさせるものになっている。この曲は確かに原曲も切ない部分も感じさせる曲であるが、ここまでそっちに振り切れるとはと驚きのアレンジであり、こうした部分にこそただセトリを見て「この曲をやった」というだけでは計ることができない[Alexandros]のライブの奥深さと中毒性がある。きっと次にこの曲をライブで聴けた時はまた全く違うものになっているはずだ。
そのまま川上がアコギを持って弾き始めたのは「city」のイントロであり、このアレンジでこの曲が来るか!と思っていたら、そこにズダダダというドラムが入ってこない。すると次は「You’re So Sweet & I Love You」、さらには「Waitress, Waitress!」とイントロのみを弾き、その度にその曲が聴きたい派が拍手するというこの場でのリアルタイムでの人気投票的なリアクションに川上も
「これ面白いな(笑)」
と言いながら、結果的に演奏されたのはアコギを弾きながら歌う「Travel」という、イントロを弾いていた曲たちとは似ても似つかない結果に。しかしながらこうしてこの曲が演奏されるというのはそうそうない機会だし、その曲がより一層しっとりした切なさを感じさせてくれるようになっているというのはバンドの表現力の進化によるものだろう。全英語詞の曲であるだけに川上の持ち前の発音の良さもフルに発揮されている。
ここまで曲と曲の間隔がほとんどなくテンポ良く曲を連発してきただけに、ここで初めてのMC。
川上「神奈川出身だから横浜アリーナは地元みたいなもん」
磯部「地元って言っていいのかよ(笑)」
と言いながらも、それぞれの出身地である相模原と愛知出身の人がどれだけいるのか手を挙げてもらい、意外なほどに愛知出身の人が多かったために
川上「君たちはどこから来たの(笑)」
と笑いながら、それぞれがバンドを始める前からこの会場に思い出があり、
川上「初めてOasisを見たのもここでした。全然やる気がないOasis(笑)
動かなすぎて等身大パネルが置いてあるのかと思った(笑)」
と川上はリスペクトするバンドにも容赦なく口にするのだが、それはそうしつ期待を超えるようなライブを見せてくれなかったというのが反面教師になっているからこそ、今の[Alexandros]の持ちうる全てを出し尽くすというライブスタイルになった部分もあると思う。
そんな川上以上にこの横浜アリーナに強い思い入れを持っているのが白井であり、初めて見に行ったライブがこの会場で行われたメタリカで、その次にBLANKY JET CITYのラストライブもここで見ている。さらには専門学校時代の恩師がこの横浜アリーナのすぐ隣にある専門学校に異動して教育に当たっていたのだが、バンド初の武道館ライブに招いた時にものすごく喜んでくれたその恩師ももう天国に行ってしまった、と普段ステージ上では無口な白井が喋るだけに、より一層しんみりしてしまうのだが、その恩師とこの会場で見たブランキーに捧げるようにして白井が歌ったのは「赤いタンバリン」。
Zepp Hanedaの時は白井が歌ったのは「Sweet Days」だっただけに、ブランキーの曲をもこうして変えてくるというか、屈指の名曲であり代表曲である「赤いタンバリン」は満を辞しての選曲という感じもするが、コーラス時とも全く違う白井のボーカルは完全にベンジー(浅井健一)が憑依していると言ってもいいものであり、白井が本当にブランキーが大好きなんだなというのがそのボーカルスタイルからもよくわかる。
そんな白井ボーカルから、シンプルなロックンロール的なイントロが鳴らされただけで「これは!?」と思ったのは、かつて「city」のカップリング(なのでもう11年前)に収録されていた「You Drive Me Crazy Girl But I Don’t Like You」。まさか今になってこの曲が聴けるなんて全く予想していなかったが、この曲を聴くとロッキンに初出演した時に川上が浴衣を着て登場して1曲目にこの曲を演奏していたことを思い出す。(サトヤスは海パンだった)
その頃にはこのバンドがここまで大きくなるなんて全く想像してなかった…と言いたくなる。普通のバンドならば。でもこのバンドにおいてはここまで来るってその時からわかっていた。それぐらいに当時から同じステージに出ていたバンドとはオーラが違っていたのだ。この日の原曲そのままの演奏がそれを思い出させてくれるし、今や超レア曲と言えるこの曲でもサビで腕が上がるくらいにちゃんと知っている観客もさすがである。
先ほどのMCでは川上は
「マスクをしているから顔が見えなくて、みんながより美人に見える(笑)」
と言っていたのだが、それを撤回するように
「皆さんはマスクをしていてもしていなくても本当に美人です!」
と言い、スクリーンにも明らかにスタッフが事前に選んでいたであろう美人な観客がアップで映ると、そんな美人なあなたを奪い去りたいとばかりに、ライブハウスではアンコールで演奏されていた「Dracula La」がこの位置で演奏される。
磯部は曲が始まるや否や下手に伸びる通路に走っていき、その先にあるマイクスタンドに向かってコーラスすると、2コーラス目では白井も上手側通路に歩いていくという、ステージ自体が横に長いだけに、いろんな方向に目を向けなくてはならない忙しい展開に。川上は
「不安を取り除いてくれ、リアド!」
とラスサビではリアドをフィーチャーして、リアドはバスドラの連打などで激しくそれに応えるのだが、やはりこの曲はイントロが鳴るだけでどんな状況であっても楽しくさせてくれるし、今までに数え切れないくらいに大合唱してきたコーラス部分は今はメンバーしか歌うことはできないけれど、なんだかその合唱が聞こえているような感覚になる。それは自分の脳内に刻み込まれている記憶によるものでもあるだろうし、観客が声を出せないのがわかっていてもバンドが煽ることをやめないからだ。そうして今までと変わらない形でライブをやってくれるからこそ、今までと変わらないように聞こえてくる感覚になる。
スクリーンにも澄み切った青空が映し出されると、イントロの爽やかなサウンドからしてその映像にピッタリな「月色ホライズン」では間奏で改めてメンバー紹介も行われる。その際にはそれぞれのソロ回し的な演奏も挟まれつつ、川上が一言ずつ添えて紹介するのだが、ROSEを「いないと成り立たない存在」と評しつつ、白井は
「無口そうに見えて楽屋では1番喋る。いつか皆さんにもそんな白井さんの姿を見せたい(笑)」
と紹介していたが、最近は酒を飲んでいる場面が配信されることもあっただけに、そんな白井さんに気付いている人もすでにたくさんいると思われる。
そうしたメンバー紹介を終えると最後のサビに戻ってくるのだが、そこに至って「あ、間奏でメンバー紹介していたんだった」ということに気付かされる。それくらいにMCかのようなメンバー紹介だったが、それを曲中、しかも屈指の爽やかを持つこの曲でやるなんて誰がどう考えたのだろうか。
そうしたメンバー紹介を経て「Philosophy」という感動的な大曲へと至るのだから、この振り幅の大きさには驚いてしまうが、しかしそれらも全て[Alexandros]の持ちうる要素である。
とはいえもともとこの曲は「18祭」というNHKの企画での合唱曲として作られた、いわば観客も含めた全員で歌うことが前提である曲である。それを全員で歌うことができない今の状況でも演奏する。そこにはこの日何回も川上が口にしていた、
「まだ楽観視は出来ないけど、希望はなくさないように」
という意識が現れている。今みんながマスクして歌えないこの光景を見た後ならば、きっと歌える時が来たらこの曲の感動は何倍にもなる。だからこそ、歌えないしマスクをしている観客の姿がスクリーンにはずっと映し出されていたのだ。
それはもはやクライマックスであり、エンドロールと言ってもいいくらいのものでもあったのだが、[Alexandros]のライブはまだまだこのくらいでは終わることはない。
ライブハウス編でも演奏されていたことによって、こうして今回も演奏されるということはもしかしたらこの曲はこれからライブで良く聴ける曲になるんだろうか?とも思う「This Is Teenage」での
「Come on!」
のフレーズを白井と磯部が揃って歌うサビの突き抜けたキャッチーさはこの状況を抜けた先の光としてまた今後もこうしてライブで聴きたいと思わせてくれる。
そして川上がイントロからギターを掻き鳴らす「Starrrrrrr」からは問答無用の[Alexandros]の代表曲であり名曲の連打に次ぐ連打になるのだが、
「普段ならみんなに歌ってもらっている部分を自分で歌うから負担が大きい」
という言葉の最たる曲がこの曲だろう。リアドの四つ打ちのキックが響く中、これまでは観客全員で大合唱していた
「彷徨って途方に暮れたって
また明日には 新しい方角へ」
というフレーズを川上が1人で歌う。
「この場所で この乱れた時代で
傷付きながら 己の歌を刻んでいく」
「連なっていく連なっていく
その続きを 今 生き抜いていけ」
という合唱フレーズに続く歌詞は、まるで今の状況の世の中での[Alexandros]と我々ファンの生き様そのものである。そしてやはりどこか脳内ではみんなの合唱が聞こえているかのような。それは川上のボーカルがそんな我々の思いも乗せて響いていたからかもしれない。
そんなバンドと我々の生き様そのものというような曲は
「風になって
風になって
風まかせになっていく
あと少しで自分に戻れそうなんだ
あてもなくて
あてもなくて
風道乗り出していく
現在会ったら何を思うかな」
と歌う「風になって」へと繋がっていく。CMで大量にオンエアされていたということもあるが、近年リリースしてきた曲たちが完全に新たなバンドの代表曲になっている。それはバンドがバンド自身を更新してきているという証だ。今年はこの曲をスカパラが演奏して川上が歌うという予想だにしない光景が見れたのも、風まかせになっていたバンドの生き様ゆえだろうか。
そしてその近年の曲がバンドの新たな代表曲になっているという存在の最たるものが、数日前にはこの会場から少し離れた場所である山下公園のガンダム立像の前でも演奏された「閃光」であることは間違いないだろう。
ライブハウス編ではこの曲は1曲目に演奏され、川上もギターを弾きながら歌っていたのだが、山下公園でのライブでもハンドマイク歌唱になっており、この日も川上はハンドマイク歌唱で、サポートギターとしてROSEのバンドメイトであるTHE LED SNAILのMULLONが登場してギターを弾く。これは川上がこの曲を歌いやすいようにという変化であるのは間違いないし、実際にライブハウス編よりもはるかに歌いやすそうになっている。それは同時にこの曲が実に歌うのが難しい曲であるということでもあるのだが、今まで通りのライブの形、ギュウギュウのライブハウスやアリーナのスタンディングエリアでこの曲を演奏したらイントロからモッシュやダイブが頻発して、川上もバンドも観客のその昂りを見て負けじとさらに力を引き出されていく。そんなバンドと観客の素晴らしい相乗効果が起こるのが間違いない曲だというのがこうしてライブで聴いていると本当にわかる。それは[Alexandros]のライブがただアッパーな曲、盛り上がる曲を演奏するというだけではない、我々の精神を解き放ってくれるようなものであるということだし、そういうバンドだからこそこうしてずっとライブを観てきたのだ。「閃光」はこの状況下でもそんなことを思い出させてくれる曲だ。そんなライブも閃光のようにあっという間に終わってしまうということも。
ライブハウス編では1曲目に演奏していたこの「閃光」を最初に演奏しなかったということは、てっきり最後の曲にするのかと思っていた。それくらいにライブそのものを締められる曲だと思っているから。
しかしそれでもなおも続くというのはこのバンドのただでは帰さんというサービス精神の賜物であるとともに、自分たちもまだまだライブがやりたいということでもある。
ということで、川上が再度ギターを持つと、リフの迫力がアリーナを飲み込むスケールを持つ曲となった「Mosquito Bite」へと雪崩れ込み、間奏では川上と白井のリフブラザーズが拳を合わせると、メンバーはリアドの方を向いてキメを打ちまくる。音が重いからこそ、そのキメを打つ姿もさらにカッコよく見えるけれど、この曲のコーラスがみんなで歌うというイメージがあまり湧き上がってこないのはキーが低い故に頑張らなくても出せる声だからだろうか。
そして川上がギターを下ろすしてエフェクターを操作してノイジーな音を発してから、切ないイントロとともにスクリーンにはまるでこのライブ、この曲の演奏の一瞬一瞬を思い出の中に封じ込めるかのように川上の歌う姿、それぞれの演奏する姿が写真のように撮られては映し出されていく。
ああ、この時が来てしまったかと思ってしまうのはこの「PARTY IS OVER」がライブの終わりを告げる曲であるから。川上は下手の通路まで歩きながら
「僕のつまらない場所」
のフレーズでカメラにアップで自身の股間を映し出すという、カメラマンが倒れそうなパフォーマンスをして和ませてくれたりもするのだが、
「PARTY IS OVER NOW」
というコーラスフレーズではスクリーンにそのフレーズが鮮やかに映し出されるだけに、ああ、終わってしまうという寂しさ、切なさも募ってくるのだが、サビでは川上に合わせて観客も腕を左右に振って笑顔でこのライブを終えようとするのだが、同じようにスティックを左右に振るリアドが距離的には離れていても川上と全く同じ向きでスティックを振っているのを見て(結構こういうのはメンバー同士でバラけることもある)、正式に加入したのは最近とはいえ、やはりこのメンバーはどこか心の深い部分で繋がりあっている4人なんだなと感じていた。
「PARTY IS OVER NOW」
というフレーズがステージが暗くなったぶん、より鮮明にスクリーンに映るだけに本当にライブが終わったんだな、と思いながら。
メンバーがステージから去って観客がアンコールを待つ中でその
「PARTY IS OVER NOW」
が
「PARTY IS NOT OVER」
に変わり、さらに「CLAP」という手拍子を促すものに変わって観客が手拍子をしてメンバーを待ち構えると、再びメンバーがステージに登場し、まるでこうした日のようなことを言うんだろうなと思わざるを得ない心境を曲で表現するような「あまりにも素敵な夜だから」へ。
スクリーンにはTVのカラーバーのような鮮やかな色彩が映し出され、その両サイドに置かれたミラーボールも美しくて光る。その光とオシャレでありながらもロックさも感じさせてくれるサウンドがこの夜をより素敵なものとして彩ってくれるのだが、川上は歌い終わった直後に歌詞を間違えたことを素直に告白して、2サビだけをもう一回演奏する。磯部には
「この曲、演奏もコーラスもすごく難しいから、間違えられると合わせる余裕がない(笑)」
と苦言を呈されていたが、こうしてサビだけをもう一回演奏したいくらいにメンバーもこのパートを気に入っているという。
我々が「PARTY IS OVER」から「あまりにも素敵な夜だから」という流れで感じていたのと同じように、メンバーもやはり
磯部「あ〜帰りたくないな〜」
川上「昨日は終わってもまだ明日もあるって思ってたからね」
とライブが終わってしまうことへの寂寞感を感じていたようだが、それは珍しく話を振られたリアドの
「楽屋の弁当がきのこが入っているのが、きのこが嫌いな俺へのいじめなのかと(笑)」
という言葉でガラッと変わる。ちなみに楽屋の弁当が牛丼だった時は何故かきのこ牛丼がチョイスされていたという。
そうしてBIGMAMA在籍時からファンにはよく知られていたリアドのきのこ嫌い(エノキだけは食べられるらしい)がファンにも伝えられると、
「ありもしないストーリーを描きたくないですか!」
と言って演奏されたのはもちろん「ワタリドリ」であるが、もちろん最も知られている曲だろうけれども、もはやこの曲をやらなくてもワンマンは成立するくらいにドロスはこの曲ありきのバンドではない。それでもこの曲をこうして今演奏するのはサービス精神はもちろんのこと、本来ならばいろんな場所でこの曲を演奏するはずだった夏フェスがほとんどなくなってしまったからだろう。(RUSH BALLは例外としても)
そんな、普段なら飽きるくらいに演奏するこの曲ですら、こうしてライブで聴けるのは貴重な機会になってしまったし、それは演奏する側も同じ思いだろう。だからこうしてこの曲を演奏するのだし、飛び跳ねまくる観客も、ハンドマイクの川上と入れ替わるように左右の通路に歩み出していく白井と磯部も本当に楽しそうに演奏していた。白井はいつものようにポーカーフェイスだけれど、その音や挙動から楽しんでいることはしっかりと伝わってくる。
そして最後に演奏されたのは、まさかの新曲。白井がイントロでタッピングを披露するというのはオリジナル曲としては新機軸と言えるものであるが、何よりも川上の
「世界一のバンドになってやる!」
という改めてのバンドの野望を
「Rock the world」
というフレーズから強く感じさせる、「閃光」でさらに広がったファン層を丸ごとかっさらってさらなる高みへと向かっていくような、あんな凄い曲を出した直後にまたこんなアンセム的な曲ができるのか!?と驚いてしまうような曲。
「もっと大きなところでお会いしましょう!」
という川上の言葉はこの曲によって間違いなく現実になる。もっと見たことないところまでこのバンドは我々を連れて行ってくれる。そう確信せずにはいられない、ファンへの最高のプレゼントと言っていいものだった。
演奏を終えるとステージはすぐに真っ暗になり、去っていく姿すらも見えづらい暗さだったのだが、この日はセンター席4列目という位置で見ていたので、最後の最後にステージから去っていく白井が深々と観客に向かって頭を下げる姿がしっかりと見えた。クールな彼がこのライブを心から楽しんでいたことの証拠であったし、山下公園での配信ライブで「閃光」の英語歌詞バージョンを演奏していた時に、カメラに表情を映されるのを避けるようにしてなぜかめちゃくちゃ笑っていたことを思い出していた。
その暗くなったステージのスクリーンにはQRコードが映し出され、それを読み込むとスマホには12月17日と18日にZepp Tokyoで年末ライブが開催されるという告知が表示されていた。それを見た瞬間に、そうか、何度となく見てきたドロスのZepp Tokyoもこれで最後なんだな、となくなってしまう場所への切なさを感じながらも、最後にあの会場でまたドロスのライブが見れるということの喜びも感じていた。
この状況下だからライブハウスであってもライブハウス的な楽しみ方はできないとはいえ、Zepp Hanedaですでにツアーを見ている。それでもやはり、[Alexandros]のライブは「ツアーをどこか1本見れればいい」というものではないということを改めて思い知らされるくらいに、選曲も流れも内容もアレンジも全てがガラッと変わったものとなり、やはりドロスには大きな会場、大きなステージが本当によく似合うと思った。
すでにチケットを取っている武道館も2日目だけじゃなくて初日も行きたくなってしまったし、行っても満足することしかないはず。だって無理してでも前日も来れば良かったと思ってしまっていたのだから。刻み込めるだけ、今の[Alexandros]を脳に、体に刻みつけたいのだ。
1.ムーンソング
2.Run Away
3.Fish Tacos Party
4.Beast
5.Girl A
6.アルペジオ
7.Thunder
8.Swan
9.Travel
10.赤いタンバリン
11.You Drive Me Crazy Girl But I Don’t Like You
12.Dracula La
13.月色ホライズン
14.Philosophy
15.This Is Teenage
16.Starrrrrrr
17.風になって
18.閃光
19.Mosquito Bite
20.PARTY IS OVER
encore
21.あまりにも素敵な夜だから
22.ワタリドリ
23.新曲
文 ソノダマン