3日目。このフェスというかロッキンオン主催のフェスは渋谷陽一が悪魔と契約している(byストレイテナー・ホリエアツシ)ので雨がほとんど降らないのだが、この日は珍しく雨模様。そるに伴って実に寒い気候となっている。
12:00〜 THE BAWDIES [GALAXY STAGE]
前説の山崎洋一郎が
「昨日はアジカンのゴッチとかストレイテナーのホリエ君とか、初日はKing Gnuの常田君とかと「2019年はどのアーティストのアルバムが良かった?」っていう話をしたんだけど、彼らは洋楽とかもすごい聴くアーティストたちだから、ビリー・アイリッシュとかカニエ・ウェストとかの名前が上がったんだけど、このバンドのようにストロングスタイルなロックンロールバンドは世界を見てもいません!」
と紹介した、THE BAWDIES。その言葉はバンドにとっても、毎回ツアーに参加する我々ファンにとっても実に嬉しいものだ。
しかしいつもなら流れるSEが流れない。そのまま暗闇の中に現れたのはROYのみ。すると2019年にリリースされたアルバム「Section #11」の最後に収録されているピアノ弾き語り曲「STARS」で始まるという、ほとんどの人にとっては「?」が浮かぶであろう展開。ツアーではアンコールでこの曲をやっていたけれど、まさかフェスでやるとは。しかもROYのピアノも(ツアーが始まるまでは全然弾いたことがなかったらしい)ツアー初日の時よりもはるかに慣れているというか馴染んでいるというか。弾き終わった後に悪戯っぽい笑顔を浮かべるのは変わらないが。
するとバンドメンバーも合流してROYもベースを持って
「THE BAWDIESでーす!」
と挨拶してこちらも「Section #9」収録のこのフェスでは初めて演奏されるにもかかわらず「LET’S GO BACK」のサビで大合唱が起こる。
最初に「STARS」を演奏したのも含めて、やはりバンドは「Section #11」に強い手応えを感じている。それが2010年代の最後にTHE BAWDIESのライブに新しい風を吹かせているし、慣れ親しんだこのGALAXY STAGEでのライブであっても冒頭2曲が新曲なだけに受けるイメージは全く違う。
「乗り遅れないでくださいね!乗り遅れたらこうなりますよ!」
と言って演奏された「IT’S TOO LATE」に続いても新作からの「Skippin’ Stones」へ。ロックンロールという軸はそのままにポップさ、キャッチーさを感じさせるこの曲はこれからもこうしてフェスという場でも長く演奏されていく曲になっていきそうだ。
そうして新曲群がセトリに多く入るようになると当然ながら過去曲が漏れてしまうようになるのだが、「KICKS!」からスタートするメドレーによってこれまでの代表曲もしっかりカバー。ワンマンでもこうしたメドレーはおなじみであるために全く違和感はないし、「KICKS!」がAメロ、「LEMONADE」がBメロ、「KEEP YOU HAPPY」がサビというようにすら感じる形で構成されている。
そんな中で突如としてROYが
「驚く方がいるといけないので、我々は「HOT DOG」という曲の準備に入ります!」
と言うと、寸劇のように衣装を変えることなくメンバーはマイクの前に立ち、
ROY「色んなことがありましたよ。TAXMANがレコーディングの歌入れの時に親知らずを抜いてきて全然歌えなくなったり(笑)」
とROYが笑いながら喋ると、MARCYが
「渡辺、アウトー」
と言ってパンやソーセージでお尻をしばかれるという年末恒例のガキの使いの笑ってはいけないシリーズの劇場。最終的にパンとソーセージにROYが挟まれるようになることで「HOT DOG」の演奏に突入していく。
そして「BLUES GOD」とさらに新曲を演奏したため、結果的にセトリの半分が新曲になるという変化っぷり。THE BAWDIESはなかなかフェスでセトリが変わらないという少しもどかしく感じてしまうところもあったが、
「ベストアルバムを超えるアルバムを」
という意識を持って作られた「Section #11」の曲たちによってそれは確実に変わりつつあるし、ロックンロールという一つのスタイルを貫きながらも確実に自分たちのこれまでを更新している。
そんなライブの最後を飾るのは「JUST BE COOL」。最後のサビ前で思いっきりロングシャウトをしたROYが
「良いお年をー!」
と言って最後のサビに突入した。それは前年と同じ締め方。できることなら毎年1年の終わりにこうやってロックンロールパーティーで「良いお年を」と言ってもらいたい。それくらいに楽しかった。
近年は夏フェスなどでは厳しい状況も多くなってきたTHE BAWDIESだが、このフェスでは毎年GALAXYが規制がかかるくらいに満員になる。ただ満員になるだけじゃなくて、最後にはあまり曲を知らないであろう、初めて見に来たっぽい人もみんな声を出して飛び跳ねまくっている。それを見ると毎年、まだまだこのバンドはいけるって思わせてくれる。最高傑作のアルバムを提げたツアーが終わった春にはどんな状態になっているのだろうか。
1.STARS
2.LET’S GO BACK
3.IT’S TOO LATE
4.SKIPPIN’ STONES
5.KICKS! 〜 LEMONADE 〜 KEEP YOU HAPPY
6.HOT DOG
7.BLUES GOD
8.JUST BE COOL
13:05〜 Base Ball Bear [GALAXY STAGE]
06/07の元旦にこのGALAXY STAGEで初出演してから実に14年連続出演となる、Base Ball Bear。数年前まではEARTH STAGEに立っていたが、近年はGALAXY STAGEに戻ってきた。
おなじみのXTCのSEでメンバーが登場すると、小出祐介(ボーカル&ギター)がギターを鳴らして「17才」からスタートし、さらに「ドラマチック」と満員のGALAXY STAGEの観客が喜ぶ代表曲の連発っぷり。室内の冬フェスであるがこの曲を聴くとまるで夏フェスに来ているかのようだ。
すると2019年リリースのEP「Grape」収録の「いまは僕の目を見て」というバンドの最新系を見せる選曲。とはいえサウンド自体は実にストレートなベボベのギターロック。一時期はホーンやキーボードなどの様々な楽器の音を取り入れて新しいベボベのサウンドを模索していた時期もあったが、今はベボベの軸が定まっているし、それはかつて4人だった頃から「自分たちの出す音だけでライブを作る」というバンドのスタイルに回帰している。
「今日はなんとNUMBER GIRLが同じ日に出ているという。我々はかつてZepp TokyoでNUMBER GIRLのラストツアーのセミファイナルのライブをみんなで見に行きまして。ライブ後にZeppにある観覧車にみんなで行って、頂上で「俺たちも絶対ここでライブやるぞー!」って叫んだりして。すごい世界線に来たなって思います」
と自分たちがバンドを始めるきっかけになったNUMBER GIRLと同じ日にフェスに出れている感慨と実感の無さを語ると、バンドの代表曲である「changes」、さらにスリーピースのサウンドになったことによって間奏がコンパクトな形になった「十字架 You and I」、さらには「Stairway Generation」と、これまでにこのフェス、このステージで何度も演奏されてきた代表曲が続く。
すでに年明けにアルバムリリースが決定しているだけに、もっと新曲が多く占めるようなライブになるかとも思ったが、フェスらしい選曲の中に新曲を忍ばせるという実にわかりやすい形になった。
すると小出が、
「2019年も同世代のバンドが活動終了したりと、いろんなことがありました」
と語る。その「活動終了」という言い方からして、間違いなくそれはNICO Touches the Wallsのことだろう。同世代というかメンバー同士に同い年のメンバーがいて、かつ同じ千葉県の高校出身のバンド。バンド同士のわかりやすい繋がりはなかったけれど、かつてこのバンドの堀之内大介(ドラム)とNICOの光村龍哉が一緒にDJイベントをやったりしていた(チャットモンチーも一緒に出ていた)だけに、寂しい思いがあるのだろう。でもベボベはそんな先に終わることを選んだバンドたちの意志を継いで、自分たちは少しでも長くバンドを続けようとしている。それが音に滲み出ているからこそ、バンドの演奏も、昔はぽわーんとしていた空気を醸し出していた関根史織(ベース)も含めたメンバーの姿も本当に頼もしく感じる。
何より、ベボベが活動を続けていて、終わってしまったバンドの名前を出したりすることによって、我々はその存在を忘れないでいることができる(忘れることは決してないけれど)し、そうした言葉をきっかけに終わってしまったバンドの音楽に触れる人がいるかもしれないな、とも思う。
そして最後に演奏されたのは12月に先行配信されたばかりの来るべきアルバムのリード曲「Cross Words」。「ポラリス」以降の3人というバンドの編成を強く打ち出したテーマの曲は「C3」というやはり「3」という数字が刻まれた、新しいベボベとしてのアルバムの重要な位置を担う曲になるはずだ。
小出はNUMBER GIRLの話をしていたが、止まっていたバンドが動き出したのではない、続けてきたバンドだからこその強さを今のベボベは本当に感じさせてくれる。いつか、小出が口にしていた活動終了したバンドが戻ってくる時があるのだとすれば、何十年後でもいいからその時は2マンをやるのを見てみたい。両バンドをずっと見てきても叶わなかったことだから。
リハ.The CUT
1.17才
2.ドラマチック
3.いまは僕の目を見て
4.changes
5.十字架 You and I
6.Stairway Generation
7.Cross Words
14:00〜 OKAMOTO’S [COSMO STAGE]
こちらも11年連続出演という、フェスの歴史を作ってきたバンドであるOKAMOTO’S。かつてはGALAXY STAGEに出演していたこともあるが、近年はこのCOSMO STAGEが主戦場になってきている。
ボーカルのオカモトショウの口髭がかなり濃くなって、映画で観たQueenのフレディー・マーキュリーっぽくなっている中、かつては全く弾いていなかったアコギを弾きながら歌うドリーミーなサウンドの「Dancing Boy」からスタート。
続いて演奏された新曲もショウがアコギを弾きながら歌い始めた時はバラードかな?と思ったのだが、途中からハマ・オカモトのバキバキのベースと赤い色の髪が混ざって見た目が派手になったオカモトレイジのドラムがグルーヴしていくロックンロールな展開に。こういう曲もメンバーの卓越した演奏力とアレンジの引き出しの多さあってこそだろう。
「すげえ人入ってんじゃん!ありがとう!」
と満員の客席を見て嬉しそうにハマ・オカモトが口にすると、バンドがサントラまで担当した映画「HELLO WORLD」の主題歌「新世界」へ。「天気の子」かなんかを映画館に見に行った際にその映画の予告で曲が流れたのを聴いた時にはOKAMOTO’Sの曲だと気付かないくらいに壮大なポップさの曲。タイトルとおりにバンドが新たな世界の扉を開いた曲と言っていいのかもしれない。
コーラス部分ではやはり満員の観客の腕が上がりながら大合唱となった「BROTHER」から、ラストはブラックミュージカルをこのバンドならではのセンスで取り入れたというか、もはや完全に自分たちのものとしてロックにしたバンドの新たな代表曲「90′S TOKYO BOYS」。
2019年は「HELLO WORLD」やオカモトコウキ(ギター)のソロアルバムリリースなど、新しい展開を見せた1年となったが、最初にこのフェスに出演した時はまだインディーズであり、「どうやらダウンタウンの浜田の息子がいるバンドらしい」という噂によって見に来た人が多いというくらいのガレージバンドだった。
それから生粋の音楽マニアによるバンドらしい進化をで果たしてきたバンドであるが、今も根底にある強さはグルーヴとライブの地力であるというのは変わっていない。
1.Dancing Boy
2.新曲
3.新世界
4.BROTHER
5.90′S TOKYO BOYS
14:30〜 KEYTALK [EARTH STAGE]
もはやEARTH STAGEでもおなじみの存在となった、KEYTALK。ひたすらにライブをしてきた2019年の最後のライブとなる。
EDM要素が強いSE(たまにそういう時があるけどなぜ「物販」じゃないのかよくわからない)でメンバー4人が元気良く走って登場すると、小野武正がギターを刻むイントロによる「BUBBLE-GUM MAGIC」からスタート。ちょっと大人なKEYTALKの一面を見せたこの曲はリリース時は戸惑いを感じていた人も多かったけれど今となってはこの5万人規模の会場を揺らす曲に成長している。バンドは横浜スタジアムでのワンマンを目標にしているが、そこでも間違いなく映えるような曲になっている。
武正のギターと巨匠の伸びやかなボーカルが絡むダンスロック「コースター」から早くも首藤義勝がスラップベースを披露する「MATSURI BAYASHI」で観客を踊らせまくると、普段フェスではやらない曲という冬らしい「プルオーバー」という意外な選曲。これは持ち時間が長いこのフェスのこのステージだからこそ聴けた曲だと思うとバンドがこのステージまで辿り着いたことに感謝したくなるが、2019年リリースのアルバム「DON’T STOP THE MUSIC」収録の、義勝のメロディメーカーっぷりが際立つ「アカネ・ワルツ」と続くことによって「プルオーバー」が実にシンプルに感じる。
ポップなサウンドによってメンバーも観客も飛び跳ねる「Love me」から、冬であっても完全に気分は夏になる「Summer Venus」へ。間奏のEDM部分で巨匠がいつものように踊ろうとすると、スペシャルゲストとして最近巨匠がこのパートでダンスを踊っているネタをやっている芸人・しゅんしゅんクリニックPが登場して本家のキレの良いダンスを披露。
するとせっかく来てくれたということで、しゅんしゅんクリニックPがネタを披露。
「眼科の先生、メガネが結構多い」
「女医の先生、あんまり白衣着ない」
という医者あるあるを披露していったのだが、八木優樹(ドラム)のこのフェスではおなじみの「EARTHでアス!」のネタや武正のちょっとテンション低めの「ぺーい」も含めて少し長く感じてしまうというか、ここをもうちょっと削ればもう1曲できたんじゃないかと思ってしまう。
とはいえ終盤には「アワーワールド」というフェスではなかなか聴けないKEYTALKのパンクらしさを感じさせてくれる曲を演奏してくれたりと、普段のフェスとは違う曲を聴けたという意味では満足度は高い。
そんなライブの最後、つまり2010年代の最後にこのバンドが演奏した曲はやはり「MONSTER DANCE」。武正はサビでギターを弾かずにお立ち台に立って振り付けを踊ったり、八木がホイッスルを吹く際に思いっきり可愛さアピールをするかのような顔をカメラに向けたりと、このステージで見るとこのバンドのそうしたカメラの使い方やバンドの見せ方が非常に上手いなと思う。しかもそれはフロントマン1人とかではなくてバンド全員が持ち合わせている要素。そのキャラクターの強さはそのままライブでの楽しさにつながっている。
KEYTALKが2010年代に最も飛躍したバンドの1つであることは間違いない。しかし持っているポテンシャルからするとまだまだメンバーもファンも満足していないはず。バンドはスタジアムを見据えて活動しているだろうけれど、2020年代にそこにたどり着くことはもちろん、もう一つ上の場所までいけるだろうか。実はまだロッキンオンジャパンの表紙もやっていないだけに。
1.BUBBLE-GUM MAGIC
2.コースター
3.MATSURI BAYASHI
4.プルオーバー
5.アカネ・ワルツ
6.Love me
7.Summer Venus w/しゅんしゅんクリニックP
8.アワーワールド
9.MONSTER DANCE
15:45〜 KANA-BOON [EARTH STAGE]
もうこのEARTH STAGEに出るようになって何年経つだろうか。しかし今年が去年までと違うのはこのバンドが4人ではなくて3人になったということ。
なのでサポートベーシストのヤマシタタカヒサを加えてステージに登場すると、谷口鮪(ボーカル&ギター)が
「いきなり行くぞー!」
と言って初っ端にバンド屈指の名曲である「シルエット」からスタートし、そのまま「盛者必衰の理、お断り」で鮪の早口ボーカルが次々に言葉を放っていくとともに、ヤマシタと小泉貴裕(ドラム)のリズム隊がさらに力強さと速さを増していく。ヤマシタはそもそも実に上手いプレイヤーであるが、夏からサポートをしてきたことによってグルーヴがさらに噛み合ってきている。それだけにこの日が最後のサポートと聞くと少しもったいなく感じてしまうけれど、ヤマシタにも同じくサポートを務めてきたカミヤマリョウタツ(PELICAN FANCLUB)にもそれぞれ自分たちのバンドがある。それだけに2020年からは新しいサポートを迎えて活動していこうと決めたのだろう。
「彷徨う日々とファンファーレ」という今のこのバンドの現状を言い当てているかのようなタイトルの曲を経てからの「結晶星」では間奏で鮪と古賀隼斗(ギター)が顔を見合わせながら笑顔でギターを弾く。よく意見がぶつかることがあると自分たちで言っている2人であるが、3人になったことによって結束が強くなったのかもしれない。その姿には思わずウルッとしてしまう。
「せっかくなんで冬っぽい曲を」
と言って演奏された「スノーグローブ」はこうしてライブで聴くのは実に久しぶりだ。雪が降っているような切ない情景が浮かぶが、それでも KANA-BOONらしい疾走感があるのは「TIME」期までの曲だからだろう。
「みんなフェス飯なんか食べた?何食べたい?チャーハン?じゃあチャーハンをみんなで食べましょう」
と言って演奏された「ないものねだり」ではヤマシタが間奏部分で手を叩くというめしだが担ってきたパフォーマンスを見せる中、「フルドライブ」でさらに加速すると、鮪が改めてヤマシタへの感謝を告げて2020年にホールツアーを行うことを発表し、
「この1年で貰ったものをこれから返しにいく」
と改めてバンドを続けていくことを宣言。そのバトンを観客に渡すかのような「バトンロード」で終わり…かと思いきや、最後にさらに2019年に生み出した新たな名曲「まっさら」を演奏した。最後に過去曲ではなくて新しい曲を演奏するということ。それはバンドが前に進み続けていることの何よりの証明だ。
KEYTALK→ KANA-BOONというEARTH STAGEの並び。メジャーデビュー時に「4つ打ちダンスロック」と批判されることも多くあった両者は今や完全にその枠を飛び越えた自分たちの音楽を鳴らすようになった。その結果としてこのEARTH STAGEに立ち続けている。
決して悲しい空気にするような話し方はしない。でもKANA-BOONにとって今年は間違いなく最も激動の年だったし最も悲しいことがあった1年だった。でもそれは同時に我々にとってKANA-BOONの音楽とバンドの存在がどれだけ大事なものなのかを再確認させる1年になった。
憧れていたアジカンのように、ずっと同じメンバーで活動し続けるバンドではいられなくなってしまった。でもそれが叶わなくなってしまったからこそ、憧れではない自分たちだけの道をこれから進むことができる。これからもどうかよろしく。
リハ.ハグルマ
リハ.ディストラクションビートミュージック
1.シルエット
2.盛者必衰の理、お断り
3.彷徨う日々とファンファーレ
4.結晶星
5.スノーグローブ
6.ないものねだり
7.フルドライブ
8.バトンロード
9.まっさら
その後にMOON STAGEで滋賀発の若きロックンロールバンド、climbgrowを途中から見る。出演が発表された時、まだこの規模のフェスに出るのは早いと思っていた。JAPAN’S NEXTでもまだそこまで大きいステージに立っていないし、普段のツアーもまだ他の出演者に比べたら規模が小さいから。だから杉野泰誠(ボーカル&ギター)も
「もっとガラガラになると思っていた」
と言っていたのだが、その予想を良い意味で覆すくらいにたくさんの人が見に来ていて、しかもみんながちゃんと曲を知っていた。だからか、普段は「全員ぶっ殺す」的な顔をしている杉野は今まで見てきたどのライブよりも楽しそうな顔をしているように見えたし、実際に
「楽しいっすね」
と言っていた。きっとこれから毎年年末や8月の週末はスケジュールが埋まるようになるんだろうな、とも思うけれども、このタイミングでベースの田中仁太が脱退を発表したのは転がり続けるロックンロールバンドとしての宿命なのだろうか。それでもこのライブを見ると、未来は俺らの手の中だと思わずにはいられない。
17:00〜 175R [COSMO STAGE]
SEが鳴り始めてメンバーがステージに現れた時にはすでに客席は満員に近い状態になっていた。しかし175Rは2年前にギターのKAZUYAが脱退し、10月にはドラムのYOSHIAKIがジストニアであることを公表して治療に専念することを決意。サポートに同じ時代を駆け抜けてきた盟友・STANCE PUNKSの佐藤康を迎えた編成での出演である。
いきなりのスカのリズムを取り入れたギターサウンドで踊らせながらの「ハッピーライフ」で大合唱を巻き起こし、その光景を見たかなり髪が伸びたSHOGOも
「みんな年末に「ハッピーライフ」を歌うと来年幸せになれるっていうジンクスを知ってるんだな!」
と満足気。ISAKICK(ベース)も同じように客席を見て笑顔を浮かべていたが、かつてに比べるとだいぶ太ったように見える。(元からメンバーの中では太っていたキャラであったが)
再始動後のバンドの心境をストレートに歌詞に託した「これから」、MCU(KICK THE CAN CREW)こそ登場しなかったのでラップ部分はオミットされていたが、タイトル通りにオレンジ色の照明がステージを暖かく照らす「ORANGE」、活動休止前の混沌とした、パンクだけでない自分たちの音楽を模索していた中にも代表曲と並んでも遜色ないような曲があるということを示してくれる「new world」、
「今日はパーティーだぞー!」
と言って踊らせまくった英語歌詞の「Party」から、最後はやはり会場の隅から隅まで大合唱を巻き起こした「空に唄えば」。かつて青春パンクブームの寵児的な存在として、ブームが過ぎ去った後にはすぐに売り上げも人気も縮小してしまったが、あれから15年以上経っても楽曲は全く色あせることはない。
もう9年くらい前か、このフェスのGALAXYのトリのライブで175Rは活動を休止した。あれから形は変わってしまったけれど、僕らが過ごしたあの日々は何にも変わらずあの日のままだし、ハルカミライを好きな人たちにも今も響くんじゃないかと思う。ここから見える景色を僕は今も信じてる。ライブを見るたびにそう思える。
1.ハッピーライフ
2.これから
3.ORANGE
4.new world
5.Party
6.空に唄えば
18:00〜 ハルカミライ [COSMO STAGE]
月初にはこの幕張メッセで360°ワンマンを完遂した、ハルカミライ。おそらくこの規模のステージで見れるのはこの年が最後だろうというくらいに超満員。そもそも幕張メッセでワンマンをやっていることからしても今の最適なキャパはGALAXY STAGEだろう。それでも昨年のMOON STAGEよりは1段階大きいステージになっているのだが。
サウンドチェックの段階で橋本学(ボーカル)以外の3人がステージに登場すると、小松謙太(ドラム)が
「照明さん、音響さん、ローディーの○○さん、今年もお世話になりました!」
と年内最後のライブだからこそライブを支えてくれているスタッフに感謝を告げる。それは実にハルカミライらしい光景であった。
リハで橋本がいないにもかかわらず曲を連発し、普段はコーラスを務める須藤俊(ベース)と関大地(ギター)が歌いながらも、観客の大合唱で曲として成立させている。
そのままメンバーはステージにとどまったままですぐに橋本も合流すると、「君にしか」でいきなりの満員の観客の大合唱。関はステージを転げ回りながらギターを弾いたため、
「なんで今日ダイブしてないのにそんなにギター下手なの?(笑)」
と言われてしまう。しかし「カントリーロード」の最後の
「抱きしめてくれ歓びの歌」
のフレーズを橋本が声を張り上げて歌うのになんでこんなに心が震えるのだろうか。
それはその歌にありったけの感情を乗せて歌っているからだが、このバンドのライブでは普段は観客だけでなくメンバーも客席にダイブしまくるのだが、ロッキンオンのフェスではダイブが禁止されているだけにそれをやらない。その代わりにステージの端から端まで全員が走り回りながら演奏し、「俺達が呼んでいる」ではメンバーがステージ前に並んで肩を組んで歌う。さらに「春のテーマ」では橋本がマイクスタンドを最前の観客に思いっきり伸ばす。セキュリティの人たちもどうするべきか戸惑っていたが、最前の観客が歌うと無事にバンドの演奏に戻る。ダイブ禁止のライブだからこそ見れるような光景であるが、これはこれで普段は見れない特別なものだ。
幕張メッセワンマンの直前にリリースされた「PEAK’D YELLOW」も「ダイブが禁止されてるフェスに何本か出た時にこういう曲が必要だと思った」とメンバーは語っていたが、ダイブのあるなしにかかわらずこのバンドのライブは本当に凄い。結局はダイブがあろうとなかろうと凄いバンドは凄いということをこのバンドは示してくれる。
橋本は
「幕張メッセで今月ライブやるの3回目。もう地元って言ってもよくない?(笑)
地元のライブハウス幕張メッセって(笑)
俺の地元は凄い田舎なんだけど、年末になると家に帰ってこいとか言われる人もいるだろうよ。でもこういうとこに来て音楽を聴いてるって凄い良いよ。みんなそれを選んだんだろ?みんな自分自身に拍手!」
とこの場所にいる人全員を称えるとTシャツを脱ぎ捨てて上半身裸になり、小松も含めて全員で肩を組んで「世界を終わらせて」のサビを大合唱すると、
「今日、こういうライブに初めて来たやついるか?」
と問いかけると数人の腕が上がり、それを見ると
「良いもん見つけたな。楽しいだろ?」
と言い、周りの観客がその人たちに向かって拍手をする。その誰も拒まないような温かさこそがこのバンドのライブが持つ空気感そのものであるし、観客も初めて来てくれた人がこれからハルカミライのライブで何度も一緒になる仲間が増えたことを歓迎しているかのような。それはメンバーの人間性、ライブから感じられる人間らしさの極致みたいなものがそうさせてくれるのだ。
そして最後に「アストロビスタ」を演奏すると、橋本は
「来年もよろしく!…ウソウソ。一生よろしくー!」
と叫んだ。誰にでも言えるようなことのようでいて、意外と誰も言っていない。でもこのバンドはそれを言える。本気でそう思っているから自分で口に出すことができるのだ。究極の人間による音楽でありライブ。2019年、最もライブを観れて良かったと思うのはいろんな場所で見たこのバンドのライブだった。
ワンマンを観た後のフェスのライブとなると持ち時間からしても物足りなく感じがちだし、なんならその前のREDLINEでのライブとやっている曲はほとんど変わっていない。それでも間違いなくこの日、このステージでしか見れないライブだった。もうこのバンドのライブに触れたら、フェスで他のバンドと被った時にこのバンドを見ないという選択をすることができなくなってしまう。若くしてもはやBRAHMAN的な見たら毎回ベストアクトになってしまうというジョーカー的な存在。いや、ジョーカーじゃなくてエースだ、このバンドは。だからもちろんこの日もベストアクト。
リハ.ファイト!
リハ.ファイト!
リハ.ラブソング
リハ.フュージョン
リハ.Tough to be a Hugh
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ファイト!
4.俺達が呼んでいる
5.春のテーマ
6.PEAK’D YELLOW
7.世界を終わらせて
8.アストロビスタ
その後にEARTH STAGEでついに復活したNUMBER GIRLのライブを「透明少女」から数曲だけ見る。ずっと止まっていたバンドとは思えないサウンドと演奏のキレ味。それは向井秀徳をはじめ、全員がそれぞれ音楽を鳴らし続けてきた現役のミュージシャンでありバンドマンだからこそ誰一人として錆びることのないライブができているんだろうなと思う。きっと2020年はもっと見れる機会があるはず。
19:00〜 THE KEBABS [COSMO STAGE]
ボーカルがa flood of circleの佐々木亮介、ギターが元serial TV dramaの新井弘毅、ベースがUNISON SQUARE GARDENの田淵智也、ドラムが元ART-SCHOOLの鈴木浩介というスーパーバンド、THE KEBABS。実に意外なこのフェス出演、しかもいきなりのCOSMO STAGEのトリというスロットである。
先に田淵、新井、鈴木の3人がステージに登場すると、最後にフラッドの時の革ジャンとは違う長いコートを着た亮介がステージに現れると、「THE KEBABSのテーマ」からどストレートなロックンロールを連発。
亮介は普通にライブ中にも酒を飲みながら歌っているのだが、「ジャキジャキハート」で早くも酒を飲み切ってしまって曲中に袖におかわりを所望しに行くとボーカル部分を歌わずに田淵がコーラスをしているだけという状況になってしまい、
「佐々木、お前のパートだろ!」
と田淵に突っ込まれてしまう。そんなことが許されるくらいにこのバンドのライブは自由だ。だからこそ「THE KEBABSのテーマ」を何回も演奏するということもしてしまう。毎回歌詞のパターンをちょこちょこ変えているのがアドリブにしては気が利きすぎている。
しかしながらやはりそこは稀代のメロディメーカー2人を擁するバンドというか、歌詞はシュール過ぎてもはや深読みのしようがないくらいのレベルであるが、まだ全国流通の音源が出ていないにもかかわらず一回聴いたら覚えてしまう、歌えてしまうくらいのキャッチーさを持っている。
「THE KEBABSのテーマ」を新井に特化したバージョンの歌詞で演奏したりしながら、駆け抜けるように次々に曲を演奏していく。
「Are you crazy?クレイジーなの大好き。クレイジーなの最高!」
と亮介は言っていたが、もうセトリを見ただけで最もクレイジーなのはこのバンドであるということがわかる。
とはいえ曲数は多くても曲そのものは短いだけにあっという間に終わってしまうと、
「アンコールが好きじゃないみたいなんだよねぇ」
と言ってなんとまたもや「THE KEBABSのテーマ」を演奏。本編だけで計4回も演奏するというのは実にクレイジーだった。
しかしながら最も印象的だったのはメンバー全員が本当に楽しそうに演奏していたこと。特に鈴木があんなに笑いながら演奏するドラマーだということをART-SCHOOLにいた時代だけでは全く想像できなかった。2020年にはついにアルバムリリースとそのリリースツアーも控えているが、もはや全く余技バンドではない立ち位置になってきているだけに、これからどんなペースで活動していくのだろうか。フラッドで2019年にアルバム1枚とシングル2枚、ソロでもアルバムをリリースしていながらこのバンドも並行している亮介はクレイジー極まりないし、次からはフラッドもまたこのフェスで毎年観たいものだ。
1.THE KEBABSのテーマ
2.ジャキジャキハート
3.すごいやばい
4.恐竜あらわる
5.THE KEBABSのテーマ
6.枕を変えたら眠れない
7.THE KEBABSのテーマ
8.メリージェーンしらない
9.猿でもできる
10.ガソリン
11.THE KEBABSのテーマ
19:30〜 サカナクション [EARTH STAGE]
この日のトリはサカナクション。2010年代に何度となくこのステージのトリを飾ってきたこのバンドにとって2010年代最後のライブもこのステージになる。
THE KEBABSが終わってすぐにEARTH STAGEにたどり着くと、すでに1曲目の「新宝島」が終わるタイミングだった。タイムテーブル的には1曲目から間に合わないはずなのだが、それが間に合うということはTHE KEBABSが相当に時間を巻いたということであるが、山口一郎が
「みんなまだまだ踊れる?」
と問いかけての「夜の踊り子」ではEARTH STAGE中の満員の観客が踊りまくり、2019年についにリリースされたアルバム「834.194」収録の「モス」ではスクリーンに映像も映し出される。
岩寺基晴のギターがギターロックバンド感を強く感じさせる「Aoi」と序盤はアッパーな曲が続く中、いつの間にかステージには紗幕が張られており、そこに東京の様々な風景が映し出される「ユリイカ」、その紗幕にオイルアートが投影される「years」、さらに「834.194」収録の「ナイロンの糸」に至るまで、これまでにサカナクションが作り上げてきた映像や演出を駆使した総合芸術としてのライブをフェスという場でも見せてくれる。
山口のコブシを効かせたボーカルが岡崎英美の奏でるシンセサウンドの上で力強く響き渡る「陽炎」からは再びアッパーなダンスフロアに変貌していき、「ネイティブダンサー」の曲中の手拍子が響くと、暗闇の中でステージにはラップトップが横並び状態となっての「ミュージック」では曲最後のサビでラップトップからバンド編成に戻ってさらなる熱狂を生み出していく。
そして「アイデンティティ」で満員の観客が手を振る姿が山口の驚きを呼ぶと、そのままアウトロのコーラスが「ルーキー」のイントロになっていく。ライブでは恒例の流れであるが、やはりこの繋がり方は実にライブで聴いていてテンションが上がるというか今でもサカナクションのライブの核を担っているパートだと思う。
「今ので最後の曲だったんだけど、今日はアンコールの時間をもらっているので、もう1曲だけやらせてもらっていいでしょうか?」
と言うと、スクリーンにはMVが映し出されたのは山口本人が出演したCMに使われていたことでも話題を呼んだ「忘れられないの」。歌謡曲と言ってもいいようなサウンドによるポップなメロディに乗って誰よりも山口一郎が自由に踊りまくっていたし、この曲が新しいサカナクションの代表曲になると同時に「834.194」が新たなサカナクションのスタンダードになることを感じさせたライブだった。
何よりもサカナクションのライブバンドとしての素直な凄さ。それは演出や映像がなくてもきっとそう思えるものであるが、演出や映像はそれをより増幅させるために欠かせないものだ。
かつてthe telephonesやOGRE YOU ASSHOLEとともに2010年代の10年を作ろうとしていたサカナクションの集大成のようなライブ。
そして音楽と様々なカルチャーを密接させるような活動も行ってきたサカナクションだからこそ、山口一郎の
「2020年も音楽とサカナクションをよろしくお願いします!」
という最後の言葉はサカナクションがこれからも戦っていくという宣言であるかのようだった。
もう10年前のこのフェスの09/10でサカナクションはGALAXY STAGEのトリとして出演し、これからこのバンドが日本の音楽シーンを引っ張っていくんだろうなと思わせてくれるようなライブを見せてくれた。翌年の10/11からEARTH STAGEに立ったこのバンドは日本の音楽の可能性やライブの可能性をさらに押し広げる存在となった。果たして2020年代はこのバンドにとってどんな時代になるのか。せめて次のアルバムは6年も待たずに聴きたいけれど。
1.新宝島
2.夜の踊り子
3.モス
4.Aoi
5.ユリイカ
6.years
7.ナイロンの糸
8.陽炎
9.ネイティブダンサー
10.ミュージック
11.アイデンティティ
12.ルーキー
13.忘れられないの
文 ソノダマン