すでに2ndアルバムの「Galaxy of the Tank-top」の段階でアリーナでできるくらいの状況だったとはいえ、ヤバイTシャツ屋さんはワンマンでは「大きい会場で1回やるよりもZeppで5日間できるバンドでありたい」として、ライブハウスでのワンマンにこだわってきた。(ライブハウス以外の場合はサンリオピューロランドなど通常のライブ会場ではない場所)
そのZeppでの5daysを10公演で果たしたからこそと言えるのか、ついにそんなヤバTがアリーナ会場として大阪城ホールでのワンマンライブを開催。ライブタイトルの「まだ早い。」は5年前に大阪BIG CATで行ったワンマンライブと同じタイトルである。
すでに昼から物販は整理券が配られ、静岡のハンバーグ店さわやかと同じシステムの呼び出しシステムが取られているというあたりは物販の人気っぷりをバンドサイドがわかっており、落ち着いてきたとはいえ、このコロナ禍の中で長い列に並ばないようにという配慮が伝わってくる。
それだけ物販が人気のバンドであるがゆえにバンドのTシャツやタオルを身に纏ったファンがたくさん集まる中、検温と消毒を経て場内に入ると、1席ずつ間隔を空けているとはいえ、改めて大阪城ホールの広さに驚く。よく武道館と比較されることも多い会場であるが、武道館のような上に高くというよりは縦に長い(幕張メッセイベントホールに造りは似ている)だけにより一層広く感じる。
開演時間の17時30分になると、ステージ背面のスクリーンにはバンドのマスコットキャラのタンクトップ君が映し出され、自らを
「大人気キャラ」
と言いながら、春のZepp Tokyoまでのライブではメンバーがステージに出てきてから行っていた「声出し禁止」「その場で飛んだり拍手したりするのはOK」というライブの注意喚起を行うのだが、その段階でこの日のライブがこれまでと異なるオープニングになることを予感させる。しかし
「顧客のみんな、いつもルールやマナーを守ってくれてありがとう」
とタンクトップ君が言っているのを聞くだけでなんだか涙が出てきてしまうのはなんなんだろうか。
そのタンクトップ君のアナウンスから間もなくしてステージが暗転すると、いつもの「はじまるよ〜」の脱力SEではないけれど、聴き馴染みのあるミュージカル風の音楽が流れ始め、ステージ上にはメンバーではなく白いTシャツにジーンズ姿の男が。そこにガールフレンドがやってくるが、アイスクリームを男性の袖につけてしまい、男性が袖を引きちぎってTシャツがタンクトップに変貌し、総勢20名ほどの男女によるタンクトップダンサーたちがミュージカル的にダンスを踊るのは、1stフルアルバムのオープニング曲として「何だこの始まり方は!?」と発売時にリスナーを驚愕させた「We love Tank-top」。アイスクリームをぶつけてしまった女性もタンクトップ姿になってミュージカルを終わらせるとメンバーが登場してそのままパンクバージョンのこの曲を演奏するという、「今これをやるのか!」という驚きのオープニングがそのままこの日のライブがやはりある意味ではバンドの集大成的なものになるということを予感させる。
こやま(ボーカル&ギター)はいつもの通りの黒ずくめ、しばた(ベース&ボーカル)は最近のおなじみの金髪に道重さゆみTシャツ、下はジャージで、もりもと(ドラム)はやはりライブキッズスタイル。それは音楽の上では驚きを提供するけれど、決して見た目で出オチになるようなネタはやらないというこのバンドのアリーナであっても変わらない姿勢を感じさせてくれる。
「ヤバイTシャツ屋さんでーす!」
とこやまが挨拶すると同時に、一瞬耳に入るだけで感動してしまうぐらいにエモーショナルなイントロのギターサウンドが鳴らされるのは「ハッピーウエディング前ソング」であるが、メンバー背後にあるスクリーンにはまさに結婚しようとしているタンクトップ君とその彼女の可愛いアニメーションが映し出される。
これまではライブハウスメインということで、そもそもワンマンではスクリーンを使うことすらほとんどしたことがなく、だからこそ常に1番見せたいバンドの演奏をしっかり見せるという、演出はあくまで曲の良さを引き立てるためのものというくらいにとどめていたのがこの日はやはりアリーナということでそこにも少し変化がある。とはいえその演出や映像が主役ではなく、あくまで主役はバンドの演奏する姿であるということは変わりようがない。
「キッス!キッス!」「入籍!入籍!」
というコーラスというか煽りはこのアリーナ規模でみんなで歌えたらさぞや爽快だろうなぁと思う。今はそれをみんながしっかりルールを守って声を出さないでいる。そして特にしばたは演奏している時の視線がいつも以上に横に向いている。それはほぼ真横のスタンド席にいる観客の方を見ていた。そうした来てくれた観客への配慮と感謝が演奏している姿からしっかりと伝わってくる。
そのタンクトップ君が映し出されていたスクリーンには「Tank-top of the world」からはメンバーの演奏する姿が映し出される。フェスなどでは当たり前のようにメインステージに立つようになってからはそうした姿を見ることも増えたけれど、ワンマンでこうしてメンバーが演奏している姿がスクリーンに映っているというのはやはりどこか新鮮だが、
「Go to rizap!」
のコーラス部分ではそのフレーズのリズムに合わせてステージ前から火柱が上がるというのもまたアリーナワンマンならではの演出である。2コーラス目のそのコーラス部ではこやまが
「もりもと!」
と言ってもりもとのみがコーラスするのだが、1回ごとにコーラスに力強さが増していくというあたり、もりもとのテンションをさらに高まらせていくという意味合いにも感じられる。
そうした声が出せないのでメンバーによるコーラスのみで、というのは「無線LANばり便利」のラスサビ前でもそうであるが、その部分では客席の映像が感動的なアリーナライブのもののように映し出される。いや、それはその通りなのだが、そこで歌われている歌詞は
「無線LAN有線LANよりばり便利」
というものであるだけに、実にシュール極まりない。スクリーンにはやはりタンクトップ君などの映像が映し出されているのだが、
「世界のどこでも君と繋がれる」
というサビ後半のフレーズで観客が飛び跳ねまくっている中で大量のタンクトップ君が手を繋いで輪になっているというのも実にシュールである。
冒頭から疾走しまくるメロコア・パンク色濃い「Universal Serial Bus」とスマホ繋がりの曲が連発されるのだが、その演奏の力強さたるや。ライブハウスで聴いているパンクが広い会場になると物足りなさを感じることもあったりするけれど、今のヤバTに全くそんなことはない。それはすでにフェスなどではこの規模以上のステージに立っているという経験も少なからずあるのだろうけれど、USBについて歌った曲ヘドバンが起こっているというのはやはりシュールであるけれど、観客側がそうしたくなるくらいのリズムの重さとサウンドの強さ。それはこやまとしばたのボーカルも含めて、ヤバTの鳴らす音はこの規模でも一切物足りなさを感じさせない。席がアリーナの真ん中あたりだったということもあるけれど、スクリーンがあるくらいの会場特有の距離の遠さも感じないどころか、むしろいつも通りに近くにいるように感じられる。それはメンバーが常に我々顧客と同じ視点を持って活動してきたということも影響しているのだろう。
そんなパンクから喰らった衝動を今でも忘れることがなく、今も自分たちがパンクを鳴らしていきたいと思っていることが歌われた「Tank-top Festival 2019」は2021年になっても色褪せることが全くないし、その呪縛はこうして大阪までパンクバンドのライブを観に来ている我々もそうである。何よりもこの前半のTank-topシリーズの連打っぷりが、ヤバTが鳴らしてきたTank-top=パンクロックの歴史を感じさせてくれる。
するとここでこやまによる
「この景色を見てわかりました!ヤバイTシャツ屋さんはついに売れました!」
と永遠のネクストブレイクから抜け出した宣言から、しばたが率先してのおもしろMCへ。
しばた「べっぴんさん、べっぴんさん、べっぴんさん、べっぴんさん、べっぴんさん、べっぴんさん…」
こやま「いや、今日のお客さんレベル高っ!」
という絶妙なツッコミも冴え渡ると、こやまの学生時代の思い出をキャッチーなパンクサウンドに乗せて大阪城ホールという大舞台で鳴らす「sweet memories」ではスクリーンにメンバーの姿が映し出されるからこそ、この曲でのしばたが演奏中に本当に表情豊かな姿を見せていることがよくわかる。間奏ではギターソロを弾きに前に出てきたこやまの前にしばたが出てきてベースを弾き、さらにこやまがその前に出てきてギターを弾き…と、その楽器を演奏する姿だけで笑わせてくれるのがヤバTのライブならではである。
「ちちんぷいぷい、お世話になりましたー!」
と言って演奏された、関西のテレビ番組のために作られた「はたちのうた」ではサビのタイトルフレーズのこやまのボーカルが本当に実に良く伸びる。こやまはよく「でっかい声で歌う!」とツイッターなどでも発言しているが、それが観客の耳だけではなく心に刺さる表現方法であるということを体でわかっているんだろうと思う。その姿を見ていると、本当に180歳まで生きているんじゃないかとすら思えるくらいに3人とも生命力に満ちている。
しばたがぴょんぴょん飛び跳ねながらこやまサイドのカメラに近づいていき、そのカメラ目線の表情が真顔なのが実に面白い「メロコアバンド〜」では間奏で観客を一斉に座らせるのだが、椅子があるだけにみんなすぐに座れてしまうというのはこのコロナ禍になって以降の変化である。それだけに間奏が持て余し気味になってしまうというところも含めて。
ここまではそうしてヤバTのパンクさ、メロコアっぷりに焦点が当たる曲が連発されてきた(おもしろMCを挟みながらも曲間がほとんどないためにめちゃくちゃライブのテンポが良いというのもヤバTのライブのスタイルである)のだが、ステージが少し薄暗くなると、こやまが少しオシャレなコード進行のギターを弾く「眠いオブザイヤー受賞」へとガラッと雰囲気が変わるのだが、まさかこの曲がこのライブで演奏されるとは、と思ってしまうあたり、やはりヤバTのワンマンはどんなセトリになるかというのがこの後も含めて想像がつかない。
「今年度最高のミルフィーユ」
というもりもとによるキメ台詞にはこやまが少し食い気味でサビの歌を重ねるあたりがライブならではの、このバラードと言える曲すらも決して聴いているだけにはならずに体を揺らしながら楽しめる所以でもある。
そうした意外な選曲の後には、それぞれがやりたい曲を出し合うというコーナーが設けられるのだが、そうして演奏されたのは、まずはこやま選曲の、しばたが作曲した「ベストジーニスト賞」であり、なぜこやまがこの曲を選んだのかはわからないが、それはしばたによる曲中のやたらとリズムが複雑な手拍子による手拍子&レスポンスの光景をこのアリーナ規模で見たかったというのもあるのだろうか。
その「ベストジーニスト賞」を手がけたしばたが選んだのは、こやまに「「眠いオブザイヤー受賞」と展開が同じ」と身も蓋もないことを言われた「珪藻土マットが僕に教えてくれたこと」。同期のピアノの音も使いながら、切ないこやまの実体験が歌われるのだが、誰もが日常生活で口や耳にしながらも他に誰も歌詞に使ったことがないことを曲にしているというヤバTの発明っぷりを感じさせてくれる曲だ。こやまがめちゃくちゃ名曲バラードを歌っているかのようなアクションをしているのも実に面白い。
そしてもりもとが選んだというか、勝手に「もりもとはこれ」と決められたのは、もりもとのことを歌った、初聴きの人は爆笑間違いなしの「げんきもりもり!モーリーファンタジー」で、もりもとの台詞的なボーカルに、まさにファンタジーな(「モーリーファンタジー」はゲーセンだけど)カラフルな照明が照らされ、さらには炎までも上がるという明らかにこの曲のイメージを超えまくる演出が。もりもとがフィーチャーされまくる曲ではあるが、ライブで聴くとしばたの高速超ハイトーンボイスがあってこその曲であるということもよくわかる。
そんなメンバー選曲ゾーンを終えると、「泡 Our Music」ではステージ両サイドからタイトル通りに泡が吹き出してくるという演出が。スクリーンにはその泡を見て飛び跳ねて指差している、親と一緒に来ていた子供の姿が映し出されたのだが、親子でライブに来ることができていて、2人とも本当にヤバTのライブを楽しんでいる。こんなに美しい景色が他にあるだろうかと思うし、そんな景色を作ってくれた、見せてくれたヤバTには本当に感謝しかない。きっとこの会場にいたたくさんの人に、将来は家族でヤバTのライブに来れるかもしれないという希望を与えてくれたのだから。コロナ禍にあってもライブやライブ会場が怖いものではなく、家族で楽しむことができるものであり場所であるということも。
一転してしばたのゴリゴリのベースのイントロで始まり、タンクトップ君ではない人型のシルエットがタイトル通りにタンスの上で踊っているという映像がシュールなものばかりだったこの日の演出の中でも群を抜いてシュールだった「DANCE ON TANSU」では観客も飛び跳ねながら、タンスの上ではないにしろ踊りまくり、腕を左右に振りまくる。ヤバTがこうしたダンスロックな曲を作ることができるのもこのしばたのベースなどのリズムの強さがあってこそなのは間違いないだろう。
何故かこやまがもりもとの住所やLINE IDを言ってしまいそうになり、もりもとがガチで止めるという事案になると、この日はゲストが来ているということで紹介されたのは、ぷりてぃ〜♡パーティーの2人。ヤバTのファン以外の人からしたら完全に誰だそれ的なゲストであるが、それは明らかにmihimaru GTをモチーフにしたであろう、「Bluetooth Love」のMVに出演していたユニットである。
ということは演奏するのはもちろん「Bluetooth Love」で、MVでのぷりてぃ〜♡パーティーの振り付けを覚えている観客によるダンスが見ていて実に楽しいのだが、そのぷりてぃ〜♡パーティーの2人はマイクを持ってはいるものの全く喋らず、当たり前だが曲中もヤバTが演奏して歌っているので全口パク。なのにメンバーの前にいるから存在感だけは際立ちまくるというMV同様の形になり、ぷりてぃ〜♡パーティーのボーカルの横で無表情でギターを弾くこやまの姿が地味にめちゃくちゃ面白い。
そんなぷりてぃ〜♡パーティーの2人は最後まで一言も発することなくステージを去っていく(一応グループの名前が描かれたDJ卓も用意されていたが、当然何にも使われていない)と、
「言いたいことは全部この曲に込めてます」
とさらに気合いを込めるようにして歌い始めたのが
「肩幅が広い人のほうが肩幅が狭い人よりも発言に説得力が増す
肩幅が広い人のほうが肩幅が狭い人よりもみんなから支持される」
という、「言いたいことってこれなんかい!」と観客誰もが心の中でツッコミを入れたであろう「肩 have a good day」というあたりが本当にヤバTでしかない。そのメッセージに不釣り合いなくらいに壮大なオーケストラアレンジが施されたサウンドはある意味ではOasis「Don’t Look Back In Anger」のヤバTバージョンと言えるのかもしれない。もりもとの口笛ソロは緊張していたのか、最初は少し音があまり出ていないようにも感じたけれど、それをすぐに取り戻すというあたりにもりもとの口笛吹きとしての逞しさをも感じさせる。その口笛ソロの時のこやまとしばたのドラム台に座っての真顔っぷりと、観客からはほとんど見えないのにもりもとを笑わせようとしているかのようなこやまの変顔もやはり演奏しながらもこちらを笑わせてくれるパフォーマンスである。
そんなアリーナクラスに響くようなバラードから、ラウドと言っていいようなサウンドで始まり、サビで一気にキャッチーに突き抜ける「くそ現代っ子ごみかす20代」へと繋がるという流れの振り幅の大きさも実にヤバTらしいのだが、ここまでですでに20曲近く演奏しているというのにまだまだ終わる気配が全くないし、バンドの演奏はむしろより力強さが増し、グルーヴがより強くなっているようにすら感じられるのだから、やはりヤバTはとんでもないライブバンドである。見た目からは想像できないくらいの体力と精神力を3人が有している。
「ヤバTのライブに久しぶりに来たっていう人!楽しい曲ができたから、最近の曲も聴いてくれな〜!」
とこやまが観客に問いかけてから演奏されたのは、きっとここにいる人たちはみんなこの曲をちゃんと知っていたであろう「NO MONEY DANCE」。タンクトップ君にのしかかる税金が実に重そうにスクリーンに映し出される中、メンバーだけによるコーラスの掛け合いが響く。まだ観客は誰もライブで一緒に歌ったことがないこの曲は、果たしてこのアリーナ規模で全員で思いっきり歌ったらどんな景色になるのだろうか。それを見るまではまだまだヤバTのライブに行き続けなくてはならないし、ヤバTにもライブを続けてもらわないといけない。
そう思ったのは、こやまがこの「まだ早い。」というライブタイトルを掲げた5年前のライブに来ていた人がいるかを問いかけると、数は多くはなくても確かにそのライブに行っていた人たちが手を挙げており、
「まだ残ってくれてはるんや」
と感慨深げに呟きながら、
「バンドはどれだけ続けたいと思っても、聴いてくれる人、ライブに来てくれる人がいなかったらバンドは続けられない。5年前とかに一緒にライブやってたバンドも続けることが出来なくなったバンドもたくさんいる。みんながこうやってライブに来てくれる、応援してくれるからバンドを続けられる。今日、この景色を見て、まだまだ当分バンドを続けられると思いました」
と言っていたからである。ましてやこのコロナ禍になって、
「音楽を聴く人、ライブに行く人が少なくなっているのがよくわかる」
とも言っていた。それは仕方がないことなのかもしれないけれど、ヤバTはいつも
「自分が行けるタイミングになったらでいいから、今日は来れなかった人もまたライブハウスで会えたら」
と言う。それはまだまだバンドを続けるつもりしかないからだ。ずっと続けていれば、かつてライブに来てくれていた人にもまた会える。今こうしてライブに来てくれている人にもまた会える。あくまで人と人のぶつかり合いであり、想いの交歓。それがヤバTのライブであるということが実によく伝わってくるようなこやまのMCだった。
そんな言葉にはしばたももりもとも笑顔で時に頷いたりしながら聞いていたし、だからこそその後に演奏された、ヤバTの熱い部分をストレートに表現した最初の曲と言える「サークルバンドに光を」のエモーションが爆発して、ステージも客席もただただ感動するしかなかったのだ。
こやまは8年前にサークルでこのバンドを始めた時はこんな景色を見れるようになるなんて想像していなかったという。その間にはもしかしたらバンドを辞めたくなるような出来事もたくさんあったかもしれない。それでも続けてきたからこそ、
「サークルバンドに光を サークルバンドに光を
鼻で笑われて 見向きもされんな
サークルバンドに光を 照らしておくれよ
もうやめられへんところまで来てしまいました」
という歌詞をこんなに広い会場のステージで歌うことができているし、そんなこの日のライブは「誰でも使える言葉を使って誰にも歌えん歌を歌う」というヤバTの発明的なスタイルの歴史をただただ音楽だけで総括するようになっていたし、こやまはその後の
「ノリと勢いだけ そんなことないと 分かる人は分かってるはず」
というフレーズを明らかに他のフレーズよりも語気を強くして歌っていた。それは今でもノリと勢いだけのバンドだと思われている悔しさが完全に晴れてはいないし、それが今もバンド最大の原動力になっている。そういう意味ではわかりやすいくらいにわかりやすい、弱者の逆襲としてのロックバンドの物語であるが、自分はヤバTをノリと勢いだけのバンドじゃないとわかるような人間で本当に良かったと思っている。だからこそ今までも素晴らしいライブをたくさん観ることができたのだし、こうやって大阪まで来てこんなに素晴らしい光景を観ることができているのだから。
そんなエモーショナルにならざるを得ない流れで「とりあえず噛む」という、ロッテのガムのタイアップだからこその
「考えすぎるのはやめろって 悩みすぎるのはやめろって」
というさりげないタイアップ企業の名前を入れた歌詞は本当に天才であるとしか言えない(「泡 Our Music」もそうであるが)のだが、サウンド自体はここから終盤にかけてより一層激しさを増していくことを予感させるような、ストレートなツービートサウンドになっている。今年は千葉ロッテマリーンズの本拠地であるZOZOマリンスタジアムでこの曲を聴くことが出来なかったが、来シーズンはまた聴くことが出来るだろうか。(2年前まではイニング間に球場で流れていた)
「みんな、両手を高く挙げてー!手拍子!」
と言うと、メンバーが頭を叩くのに合わせて観客が手拍子する「癒着☆NIGHT」はやはり今でもこやまは「新曲」と紹介するが、もはやそれも込みでのこの曲という感じにすらなってきている。
「今夜は めちゃくちゃにしたりたいねん」
というサビのフレーズはこのライブ終盤に聞くとさらにこちらのテンションをめちゃくちゃに上げてくれるし、そのサビでのこやまとしばたのハーモニーはやはり終盤になるにつれてさらに強くなってきている。もうすぐ終わってしまうからこそ、悔いが残らないくらいに全力で全てを出さなければ、という思いがメンバーの声や音から強く伝わってくるかのようだ。
それは
「みんな、声が出せなかったり、ライブハウスみたいに体をぶつけ合ったりできなくて、窮屈な思いをさせてごめんな!」
とこやまが、コロナ禍になる前とは楽しみ方が変わってしまった、変わらざるを得なかった客席に向けた言葉を口にしてからの「ヤバみ」ではテンポの恐るべき速さという形で現れるのであるが、一瞬、しばたが叫ぶようにして歌ったように聞こえた。むしろ普段はバンドの安定感を担っている存在と言える彼女がそれくらいに感情を剥き出しにしている。このライブが、この景色がリミッターを振り切らせている。数え切れないくらいにライブで聴いてきたこの曲が、今までで1番感動的に響いた瞬間だった。
そしてラスト2曲として演奏されたのは、やはりこやまが
「自分がまた行けるっていうタイミングになったらでいいから、またライブハウスで会いましょう!」
と、アリーナでワンマンをするバンドになってもなおライブハウスで再会の約束をしてからのライブハウス讃歌「Give me the Tank-top」。それはこれからもヤバTはライブハウスで生きていくというバンドであり続けるという意思表示でもあったし、それをこの曲はその音で、
「脳と体が求めている Tank-top を!
うるさくてくそ速い音楽を もっと浴びるように 着るように 聴く」
「やっぱ俺らまだ逃れられませんわ
ほらまた帰っといで 激しく飛び込め
いつだって 優しく包み込む Tank-top again」
というメッセージで示している。そう、激しいサウンド、激しいライブであるにもかかわらず、ヤバTの音楽とライブは我々を優しく包み込んでくれる感覚になる。それは特に最新アルバム「You need the Tank-top」の曲に顕著に感じるものであるが、それはそのアルバムとそのツアーを通して、ヤバTには守りたいものがあって、それを自分たちが行動することによって守ろうとしている姿を見てきたからである。そしてその守ってきたものはちゃんとこうしてたくさんの人がヤバTの音楽を通して集まれる場所に繋がっている。そうした想いが染み込んでいるからこそ、この曲は歌始まりで曲が鳴らされた瞬間に感動してしまうくらいの曲になった。
そんなライブの最後に演奏されたのは「かわE」。実質的なライブのオープニングだった「ハッピーウエディング前ソング」もあって、「NO MONEY DANCE」や「Give me the Tank-top」もある。つまり、ヤバTには今やライブの最後に演奏できるくらいに全てを担える曲がたくさんある。そんな中でもヤバTの名前と歌詞のセンスの凄まじさ(リリース年に関ジャムでいしわたり淳治が年間ベストソング1位に選出した)を世に広く知らしめたこの曲はやはりこうした集大成的なライブでは最後に演奏されるべき曲なのである。
と思っていたら、オープニングのタンクトップダンサーたちも再び登場してこの曲に合わせた振り付けを踊り、否応なしに集大成感、ライブのラスト感はさらに増す。そうした特別な演出もありながらも、やはりこやまとしばたが体を左右に振りながら演奏する姿はかわE越してかわFであり、そもそもヤバTの音楽、ライブがかっこE越してかっこF、いや、GH…とそのカッコよさはとめどないのである。結局のところ、やはりヤバTの軸はそれなのである。ひたすらに音楽を鳴らすということ。それが最もかっこEを超えるものになることをメンバーはわかっているから。それを貫いた初のアリーナワンマンの本編だった。
本編が終わった去り際でこやまがすでに観客にアンコールを求める手拍子を求めるように手を叩くと、その大きな手拍子に導かれるようにしてメンバーが再びステージへ。すると演奏するより前にステージに並んで写真を撮ろうとするのだが、しばたが自分の位置が決まらずにもりもとにキレたり、ようやく並んだと思ってらカメラマンがいなかったりというあたりも実にヤバTらしい、完璧には決まらないからこその面白さを感じさせてくれる。
するとこやまはこうしてアリーナで初めてワンマンをやれたことはな感謝しながらも、まだ顧客のみんなと果たせていない約束があることを語り始める。それはてっきり紅白歌合戦出演かと思ったのだが、昨年の3月に開催される予定だった、志摩スペイン村でのスペシャルライブ「スペインのひみつ」のことであった。
まだ開催できる目処は立っていないものの、必ずスペイン村でスペインの秘密を解き明かそうとしているこやまは、
「ちょっと行ってくるわ!」
と言ってステージから去ると、スクリーンには志摩スペイン村にキャラクターたちが集まっている映像が映し出され、そこにこやまが合流してキャラクターたちを紹介しながら、早くみんなに来て欲しいと思っているというキャラクターの声を代弁する。
スクリーンには「LIVE」という文字が映っており、あたかもこやまが大阪城ホールからワープしたかのようですらあるのだが、この時間にしては明るすぎるし、何よりもこやまの髪型が今と違うものである。
そうしてこやまが大阪城ホールに帰還すると、そのキャラクターたちがスクリーンに映って踊ったりする中(何人かはタンクトップ君のグッズを持ったりしている)、志摩スペイン村のテーマソングとして関西圏ではおなじみであるという(関東民なんで全く知らなかった)「きっとパルケエスパーニャ」を演奏するのだが、それはMCも含めてヤバTが志摩スペイン村とそこでのライブをやることを決して忘れていないということを示すためのものだった。
実際自分自身、その志摩スペイン村のライブのチケットを取っていたのだが、コロナ禍になって延期が発表された時には、これは厳しいだろうなと思っていた。テーマパークでのライブという普通のライブと比べてさらにハードルが高いものであり、ヤバTは延期にしているうちにさらに先へと進んでいく。
だからこそ中止になっても仕方がないと思っていたのだが、こうして大阪城ホールまで来て「きっとパルケエスパーニャ」を聴いていて、どうやって志摩スペイン村まで行くか、どこに泊まってどんな美味しいものを食べるか。ワクワクしながらそんな計画を立てていたのを思い出したのだ。それは自分だけではなく全ての顧客がそうした思いを持ってチケットを取っていただろう。ヤバTはそんな顧客の思いに今もなお応えようとしている。行くと決めていた人たちに悲しい思いをさせないように。この「きっとパルケエスパーニャ」にはそんな想いが確かに滲んでいたように感じた。
志摩スペイン村のキャラクターたちに感謝を告げて映像が終わると、そのまま今度は「かいけつゾロリ」のアニメタイアップ曲である「ZORORI ROCK!!!」へと繋がるのだが、演奏中には客席の様子が映し出されると、親と一緒に来た幼い子供がこの曲で飛び跳ねまくっている姿が次々に映し出される。
それは「泡 Our Music」の時もそうだったが、子供はこの曲を聴いてヤバTの存在を知って、こうしてライブに来てこの曲が聴けて本当に楽しそうにしている。それがロック、ライブの入り口になっている。あのくらいの年齢の時からヤバTの音楽に触れることができるのが羨ましいなと思ったし、ただ親についてきたというだけではなく、子供が自発的にヤバTのライブを楽しんでいるということが本当によくわかる瞬間だった。
そうしたこの日だからこそ、大きい会場だからこその曲から、ある意味ではヤバTの原点を、その原点が生まれた大阪で歌う「喜志駅周辺なんもない」はおなじみの手書きの喜志駅やなんば、天王寺などが描かれた地図がスクリーンに映し出されるも、コール&レスポンスなしバージョンということで、コール部分ではウキウキで歌っていたメンバーがレスポンス部分では真顔で棒立ちになっているという姿が実に面白い。ある意味ではコロナ禍で今までのような声を出す楽しみ方が出来なくなったからこそできる面白いパフォーマンスを追求した形である。最後には瑛人「香水」の歌詞をそのままこの曲のサビに乗せるという近年お馴染みのパフォーマンスをすると、
「「香水」はもう俺たちの曲だ〜!」
とこやまは言うのだが、さすがに「香水」を奪われたら瑛人が可哀想すぎるというものだろう。いつ聞いてもビックリするくらいに曲に歌詞がハマっているけれど。
そしてラストはやはりヤバTをヤバTたらしめた曲である「あつまれ!パーティーピーポー」で観客は飛び跳ね、腕を左右に振りまくる。
「えっびっばーっでぃっ!」
のコーラスは思わず声が出てしまいそうになるが、こやまは曲中に
「ヤバTを続けさせてくれてありがとうー!」
と叫んだ。きっとここにいた人たちはみんな踊りまくりながら心の中で
「ヤバTを続けてくれてありがとう!」
と返していたはずだ。
しかしながらそんな感動的と言えるような場面を経てもなお、
「急遽もう1曲やります!照明さんとかついて来れるかな〜!ヤバイTシャツ屋さんが最初に作った曲!」
と言って「ネコ飼いたい」を演奏すると、さすがにスクリーンには何も映ることがなかったが、照明はしっかり曲に対応していた。それは5年前の「まだ早い。」と同じエンディングであったからだが、この曲が最後に演奏されたことによって、ヤバTが結成当初からこの規模に見合う曲を作っていたことがよくわかると同時に、まだまだヤバTで見たい景色があるなと思った。それはこの曲の大合唱パートをこうしたアリーナでの、ヤバTが好きな人しかいないワンマンでみんなで歌うこと。それはきっと近い将来に現実になるし、その日が来た時にはヤバTが守り続けてきたライブハウスやライブシーンが本当の意味で元に戻っているはずだ。それが見れるんならまた大阪にだったどこにだって行きたいと思った。やはりいつものように最後にこやまとしばたが楽器を抱えたままジャンプするキメのかっこE越してかっこFな姿を見て本当にそう思った。まだ舐められてるというか、軽く見られているところもたくさんあるだろうけれど、そのヤバTのバンドとしてのカッコよさが、せめてこの長々とした文章を読んでくれている人にくらいは伝わって欲しいと思っている。
こやまは演奏後に全てを出し尽くしたかのように両腕を膝についていたが、最後に3人は一言ずつ挨拶。とりわけ、もりもとの
「僕はずっとアリーナやドームでワンマンをやるバンドに憧れていたから、夢が叶った。本当にありがとうございます」
と、いつもとは少し違う、ちょっと目が潤んでいるようにすら感じた言葉は、10-FEETやマキシマム ザ ホルモンというアリーナでできるのにあえてライブハウスでやるバンドに影響を受けてきたこやまとは異なり、ヤバTを始める前は大きな会場で爆音を鳴らすようなハードロックが好きだったというもりもとの影響源を感じさせるものだったし、もりもとの夢が叶った瞬間に居合わせることができてこちらも本当に幸せだと思った。
しかしヤバTは特段記念日でもなければ周年でもないこのタイミングでなぜこうした集大成的なライブをアリーナ会場でやることにしたのだろうか。確かにアリーナ会場でのワンマンも徐々に増えてきているし、規制も緩和されてきているけれど、ある程度そうした状況になるのを見越してこの規模でのライブを決めたんじゃないかと思う。
それはコロナ禍になって、ライブはずっと行ってきたけれど、なかなか人がたくさん入ることはできない(地方のライブハウスなんか1回数十人レベルだった)状態で、ヤバTを好きな顧客同士もきっとなかなか会うことができないようなこの1年半くらいだった。だからこそ、ヤバTを愛している人たちが今だからこそ集まることができる、今もヤバTを好きで仕方がない人がこんなにいるということをバンドだけでなく顧客にも景色として見せてくれるためにこのライブを決めたんじゃないだろうか。それがいつしか、5年に1回くらいでいいから「まだ早い。」が恒例になって、またそれを実感できる日が来てくれればと思う。
また、こやまはこの日
「ヤバTは本当に運が良かった」
と言っていた。もちろんキュウソネコカミも「相当の運とタイミング重要」と歌っていたように、運も間違いなくあるだろうけれど、ヤバTがここまでバンドを続けられた、この規模まで来ることができたのは、誰も歌ったことがない、誰もこれまでにやったことがないことを、ひたすらにキャッチーな良い曲として音楽にすることができれば、それをライブでカッコいいバンドとして鳴らすことができれば、必ずそれを評価してくれる人がいる、その音楽に見合った場所まで行けるということを証明していたんじゃないだろうか。
できるタイミングはいくらでもあったのに敢えてそれをやらずにここまで来たヤバT初のアリーナワンマンはそんなことを感じさせてくれる、誰もに希望を抱かせてくれるものだったのだ。
1.We love Tank-top
2.ハッピーウエディング前ソング
3.Tank-top of the world
4.無線LANばり便利
5.Universal Serial Bus
6.Tank-top Festival 2019
7.sweet memories
8.はたちのうた
9.メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲
10.眠いオブザイヤー受賞
11.鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
12.ベストジーニスト賞
13.珪藻土マットが僕に教えてくれたこと
14.げんきもりもり!モーリーファンタジー
15.泡 Our Music
16.DANCE ON TANSU
17.Bluetooth Love feat.ぷりてぃ〜♡パーティー
18.肩 have a good day
19.くそ現代っ子ごみかす20代
20.NO MONEY DANCE
21.サークルバンドに光を
22.とりあえず噛む
23.癒着☆NIGHT
24.ヤバみ
25.Give me the Tank-top
26.かわE
encore
27.きっとパルケエスパーニャ
28.ZORORI ROCK!!!
29.喜志駅周辺なんもない
30.あつまれ!パーティーピーポー
31.ネコ飼いたい
文 ソノダマン