9mm Parabellum Bullet 「カオスの百年 vol.15」 2ndステージ:エレクトリックSet Billboard Live TOKYO 2021.12.13 9mm Parabellum Bullet
9mm Parabellum Bulletにとって実に久しぶりのBillboardでのライブである。以前はアンプラグドという形だったが、今回は2部制であり、1部がACでの9mmで、2部は通常のエレクトリックというスタイル。
そもそも六本木という街がそうであるのだが、なかなか会場の厳かさがライブハウスの空気や雰囲気が当たり前の自分にとってはいるだけでアウェーという会場であるだけに、個人的にも実に久しぶりのビルボードでのライブである。
1部、2部ともに今回のライブでは9mmの曲に合わせたオリジナルドリンクが提供されており、2部は「白夜の日々」をモチーフにした、9mmにとってのガソリン的な焼酎「いいちこ」ベースの「白夜の六本木」。いいちこなりの酒のキツさもありながらも柑橘系を使ってサッパリとした口当たりに感じるあたりは確かに「白夜の日々」を使った色合いにピッタリな味である。
各々が席に座ってそうした酒を飲んだり、あるいは高価なディナーを楽しんでいたりすると、開演時間の20時に場内が暗転して、突如として爆音でATARI TEENAGE RIOT「Digital Hardcore」のSEが流れるというあまりにこの会場に似つかわしくないオープニング。
前方客席下手からメンバーが出てきてステージへ、というのはビルボードでのおなじみであるが、この日は為川裕也(folca)を加えての5人編成で、菅原卓郎(ボーカル&ギター)こそいつもよりもフォーマルな出で立ちであるように感じるけれど、ギター小僧でしかない滝善充、いつになったら散髪するのかと思う中村和彦(ベース)、クールなかみじょうちひろ(ドラム)というメンバーの出で立ちは普段と全く変わらない。1部の服装がどうだったのかはわからないが、完全にいつもの9mmがいつもの9mmのライブをやろうとしているのがこの段階ですでにわかる。
なのでそれぞれが楽器を手にすると卓郎が
「9mm Parabellum Bulletです」
と挨拶してキメの演奏を炸裂させる。痛快なくらいに完全にいつもの9mmのままでビルボードのステージ上で音を鳴らしている。さすがに立ち上がる観客はいないけれど、そうなってもおかしくないというか、この時点ですでにそうされてしまいそうになっている。
そんなメンバーがライブでおなじみのイントロアレンジを加えてから演奏する「Discommunication」でスタートすると、そのサウンドもメンバーのアクションも完全にいつもの9mm。なんならいつもより狭いステージで9mmがライブをしているというくらいに9mmである。なので観客も椅子に座りながらも腕を上げてバンドの演奏に応えているのがビルボードでありながらも「座席指定の椅子あり、でも至近距離」というライブハウスともホールとも違う感覚を与えてくれる。
とはいえビルボードはその会場の雰囲気からすると意外なくらいにあんまり音響は良くないので、そんな会場でこうしてバンドはいつもと変わらぬ爆音での演奏をしていると、卓郎の声が最近のライブの中ではかなりキツそうに感じる。それは「ハートに火をつけて」のサビで最初に顕著に感じたところであるのだが、そもそもこうしたサウンドを鳴らす想定の音響ではない会場であろうだけに仕方ないとも思える。
さらにビルボードは1回のライブの時間もかなり短い(それでもチケット代は普段のライブよりはるかに高い)だけに、「Discommunication」→「ハートに火をつけて」という立ち上がりはこの日はライブでも定番のシングル曲を連発するようなライブになるのだろうか?とも思っていたのだが、そんな予想を心地良く、そして爆音で裏切ってくれるのは「カルマの花環」という選曲であり、滝も頭をブンブン振りながらギターを弾きまくりコーラスを叫ぶかのように歌い、かみじょうの高速ツーバスが否が応でも観客側にもそうしたノリをしたくさせる。
同期のイントロの音が鳴ってから、滝も和彦も前に出てきてさらに爆音の演奏が繰り広げられた「生命のワルツ」での滝のギターをブンブン振りまくる姿は仮にこの会場に「バンドのことはよく知らないけれど、ディナーと酒を愉しみながら音楽を聴きに来た」という人がいたとしたら食事を口に運べないような恐怖体験になるんじゃないかというレベルであるのだが、その滝のいつもと全く変わらないパフォーマンスがいつもと全く変わらない9mmとしてのこのビルボードのライブを引っ張っている。
ここまではビルボードを燃やすかのような爆音と、それに合わせた赤を中心とした照明の色だったのが一気に雰囲気が変わるのは「今日、今やるの!?」という夏のインスト曲「The Revenge of Surf Queen」であり、一気に青くなった照明がその爽やかなサウンドを演出する中、リズムに合わせて観客が手拍子するというおなじみの場面は、確かに季節外れではあるけれども、この会場でこうして聴くのが似合っているかもしれないとも思う。まさかこの曲がこの日演奏されると予想していた人がいるだろうかとも思うけれど。
さらには「DEEP BLUE」のバラードと言っていい「いつまでも」と予測不能な選曲が続くのだが、この曲をこうしてようやく9mmのライブがまた当たり前のように見れるようになってきた今になってから目の前で卓郎が歌うのを聴くと、本当に「いつまでも」こういう日や時間が続いていて欲しいと心から思う。この曲ではボーカルが聴こえにくいのが最も残念に感じてしまったけれど。
次々と曲を演奏していくというテンポの良さもまたビルボードらしからぬものであるが、卓郎自身も
「ビルボードでこんなにツーバス連打するバンドが今までいたでしょうか(笑)」
と、通常の9mmのライブをこの会場でやることの特異性を口にすると、
「いつもの俺たちのライブだけど、いつものビルボードのライブじゃない」
というこの日のライブを一言で集約するかのような言葉も飛び出しながら、
「俺たちが前にビルボードでライブをやったのは9年前のMTV Unpluggedっていうライブで。DVDとCDにもなってるから今でもその時のライブは見れるし聴けるけど、その時にやっていた曲をやります」
と言って演奏されたのは「金曜ロードショー」のテーマ曲である「フライデーナイト・ファンタジー」のカバー。確かにかつての映像での演奏も見ているのだが、この日はここまでが爆音だっただけに逆に、この曲こんなに穏やかな感じで演奏する曲だったっけ?とも思ってしまうのだが、それはやはりこの曲はUnpluggedの延長にある曲であり、卓郎がアコギを弾くのも含めてそうしたイメージが定着しているからだろう。この日もUnpluggedでのライブでこの曲が演奏されていたら、きっとこんな感想は抱かないはずだ。
その「フライデーナイト・ファンタジー」はビルボードならではの選曲と言えるのだが、それに加えてこちらもまさかの「夏が続くから」という、今この曲やる!?と驚かざるを得ない選曲。「The Revenge of Surf Queen」といい、普通なら夏にやるライブのセトリだとも思うのだが、もしかしたら9mmは夏フェスもなくなり、ほとんど何もすることができなかった今年の夏がまだ続いているのかもしれない。そしてそれを我々にも取り戻させてくれようとしているのかもしれない。アッパーな夏の真っ只中ではなく、過ぎゆく夏を回想するような切なさを湛えたこの曲を今聴いていたらそんなことを思っていた。
個人的には9mmの中で最もビルボードの雰囲気が似合うと思っている曲の一つが「カモメ」であり(もう1曲の「キャンドルの灯を」はこの日は聴けなかったが)、照明を暗くしたステージの周りを見渡すと客席のテーブルの灯りが間接照明のように場内を照らしている。今までも何度となくこの曲に浸ってきたけれど、この日、この会場で聴いたこの曲はやはり格別だった。アウトロでの轟音になって目が覚めるような感覚も含めて。
さらには「スタンドバイミー」の
「ただ近くにいよう 未来はわからないから」
というフレーズもまた今になって聴くとまるでこうした状況になるのがわかっていたようですらある。今のこの世の中の状況も混沌(カオス)そのものであるが、この曲が収録された「Waltz on Life Line」も内容やそこに至る経緯も含めて実に混沌としたアルバムだった。つまり、あのアルバムは今こそ再評価されるべきアルバムなんじゃないかとも思う。あまりこうしてライブでやっていない曲もたくさんあるからこそ。
すると卓郎はギターをエレキに戻しながら、
「来年の9mm Parabellum Bulletの活動を発表します。まず毎年恒例の3月17日のワンマンライブを六本木EX THEATERでやります」
と、毎年恒例の結成日とされている日のワンマンライブを来年はこの会場のすぐ近くにあるEX THEATERで行うことを発表。さらには、
「アルバムも作ってリリースします!」
と、止まらざるを得なかった去年から今年にかけてを経て、また来年からは猛スピードで駆け抜ける9mmの姿をたくさん見れることを予感させてくれるし、こうした発表をライブを観に来てくれた人に誰よりも早く伝えてくれるという変わらぬ9mmのライブバンドっぷりが本当に嬉しい。そうした、我々に音楽や予定、計画を直接伝えてくれる場所がこれ以上なくなりませんようにと思う。
そんな告知からラストスパートとばかりに、ビルボードを光で包むというよりは焼き尽くすかのように獰猛なサウンドの「新しい光」が鳴らされると、間奏ではギター3人に加えて和彦までもが円を描くような陣形になり、かみじょいが打つキメ部分でネックを掲げる。ステージが広くないからこそ、そしてそれをはっきりと見える客席の作りだからこそ、そこにはメンバーの意思が完璧に重なり合っているからこそできる芸当だということがよくわかる。
さらにはその壮大なイントロが鳴らされた段階で観客が座りながらも腕を振り上げ、
「さあ両手を広げて すべてを受け止めろ」
のフレーズで歌詞通りに両手を広げて9mmの爆音を全て受け入れる「太陽が欲しいだけ」ではサビで為川がマイクを通さずとも口ずさんでいる姿がしっかり見える。彼がこの曲を、9mmの音楽を、9mmというバンドを本当に愛してくれているからこうしてサポートを務めてくれているということがその姿から伝わって泣きそうになってしまう。太陽というものとはかなり遠いこの会場だけれど、9mmとしてステージに立っている5人はそんな場所でも我々をありったけの力で照らしてくれている。それが欲しいだけなのだ。
すると曲間で滝が何やらアピールをしているのだが、それはシールドのおそらくジャック部分が折れたということで、慌ててスタッフが出てきて修復すると、
「ビルボードでシールド折れた人が今までにいるのだろうか(笑)
次で最後の曲だけど、ここですんなりいかないのが9mmらしい(笑)」
と言う卓郎も、レゲエのようなリズムを刻んでその場を繋げるかみじょうと和彦も、そんなトラブルすらも心から楽しんでいる。かしこまってライブを観るような格式高さのあるビルボードが全くそんな感じがしなくなっていた。ただただ9mmがいつものようにライブをやるのを楽しんでいて、我々はその姿を見て楽しんでいる。まさにライブハウス・ビルボードというような。
そんなライブのラストはシールドを交換した滝が間奏で弾いてないのに爆音が鳴っているように感じるというフリーキーさを見せる「Punishment」で、その滝は最後のサビ前には
「オイ!オイ!オイ!オイ!」
と観客を煽りまくり、かみじょうは超高速でツーバスを踏む。このビルボードでこの曲がいつもと全く変わらないどころか、いつも以上の爆裂さでもって演奏されるだなんて誰が想像していただろうか。これを座って見てるって多分この先ないだろうな、と思いながら周りを見たら、みんな腕を振り上げたり頭を振ったりしていた。今まで来たビルボードのライブとは全く違う光景だった。でもそれは今まで見てきた9mmのライブの光景そのものだった。
9mmは普段のライブでは本編が終わってすぐにSEが流れて、それでも観客が手拍子をしてアンコールを求めて…という流れなのだが、この日はSEが流れず、かなり時間が経ってからメンバーが再びステージへ。やはり本編の爆裂っぷりから回復する時間が必要だったのかとも思ったけれども、メンバー(特に1番キツそうな滝)は実に爽やかにステージに戻ってきて、
「せっかくだからツーバス踏んだ回数を数えておけばよかった。ビルボードでこんなにやったバンドいないでしょって(笑)」
と、やはり自分たちのライブがビルボードの歴史の中でも異質なものであることを口にしてから鳴らされた「The World」ではステージ背面のカーテンが開き、六本木の夜景と街並みがメンバーの背後に出現する。
自分はビルボードがこうした演出があるというのを見てきたので、正直「太陽が欲しいだけ」のイントロでカーテンが開くんじゃないかと予想していたのだが、それが外れたこの曲の演奏中には広場にあるスケートリンクを整備する車が走る様子や、イルミネーションを手を繋いで観るカップル、タクシーに乗り込む人など、それぞれの人間模様が見えるのだが、
「目を凝らして焼き付けてみる
明日も僕らが生きていく世界を」
のフレーズ越しに観る六本木の景色は、自分が生きていくにはあまりにリアリティがないというか、キラキラし過ぎていた。でもそんな自分に合わないような世界でも生きていかなければならない。それはあまりにも夜景をバックにするのが似合わな過ぎる轟音バンドのライブだからこそそう感じたのかもしれない。
ビルボードの持ち時間的にこれで終わりかと思ったら、卓郎が「もう1曲」とばかりに指を出し、「キャリーオン」が演奏される。それはこんな世界でもこれからを我々を道連れにするかのように
「君を必ず連れて行くよ」
と、さらに先の場所まで連れて行こうという宣誓と約束そのものだった。六本木の夜景の中にいる人たちとはきっと関わることはない人生だろうけれど、何年かに1回、こうしてその夜景の前で演奏する9mmの姿を見るのは悪くないなとも思っていた。
演奏を終えると滝があっという間に客席上手の通路から捌けていき、卓郎は為川を紹介すると、和彦とかみじょうは何やら笑い合っている。その姿から、今になって9mmは本当にこのバンドであれることを心から楽しんでいるんだなと思った。それはライブができない期間があったからこそ、改めてそう感じられるようになったのかもしれないが、その姿や卓郎と和彦がいつも以上に真横などのあらゆる方向の観客にしっかり目線を向けながら丁寧に頭を下げる姿を見て、大丈夫だ、9mmはこれからもずっと続いて行くはずだ、と思った。
だって、ビルボードでこんなにも爽快感とともに「今日は勝った。何に勝ったのかはわからないけど、このライブを見れたんだから勝ちだ」と思えるようなライブを見たことは今までなかったから。それはやはり、いつもの9mmのワンマンを見た後に抱く感情と同じものだった。
1.Discommunication
2.ハートに火をつけて
3.カルマの花環
4.生命のワルツ
5.The Revenge of Surf Queen
6.いつまでも
7.フライデーナイト・ファンタジー
8.夏が続くから
9.カモメ
10.スタンドバイミー
11.新しい光
12.太陽が欲しいだけ
13.Punishment
encore
14.The World
15.キャリーオン
文 ソノダマン