すでに年明けからgo!go!vanillasとの所属レーベルの新年会的なライブも行っているし、何よりも昨年リリースのアルバム「BLAST OFF!」のツアーは年を跨いで行われているだけあり、2022年も、この状況であってもTHE BAWDIESは止まらずに転がり続けていくということを自分たちの活動をもって示している。
そんな「BLAST OFF!」のリリースツアーもいよいよこの日のZepp DiverCityがファイナル。なかなかこの日々悪くなってきている状況ゆえにチケットを持っていても行くのを断念したという人もたくさんいるんだろうなというのを感じてしまう席の空き具合(前の方の席ですらも空いている)であるが、メンバーが元気にツアーファイナルまで辿り着けたということにまずは感謝と安堵である。
開演時間の18時を過ぎると、SEではなくまだBGMが流れているというのに立ち上がってリズムに合わせて手拍子をする観客たちが現れる。それはこのライブを心から待ち侘びていたことがわかると同時に、もしかしたらツアーの他の箇所でもこの曲が流れたらそろそろ始まるということをわかっているくらいにこのツアーに参加してきた人たちなんじゃないかとも思うのは、実際にその直後に場内が暗転したからである。
しかしながら「あれ?」と思ったのは、暗転した後に流れたのはおなじみの「ダンス天国」でも「SOUL MAN」のSEでもなく、まるでのっそりと歩くようなサウンドであり、まさにその音に合わせておなじみのスーツ姿の4人が腕を振りながらリズムを合わせるように揃って歩いてステージに登場。MARCY(ドラム)だけ明らかに気恥ずかしげに歩いているのが早くも少し面白いのだが、そうしてそれぞれが立ち位置に着いて楽器を手にすると、ロケットが宇宙に飛び立つようなカウントダウンが始まり、そのまま「BLAST OFF!」の1曲目の「YA! YA!」でまさに飛び立つようにして始まるというオープニングはこれまでのTHE BAWDIESのライブとは違う、このツアーならではのものである。
そのこのツアーならでは、かつこうした広い会場ならではと言えるのは、演奏中のメンバーの背後にレーザーでタイトルが文字として映し出されているという演出もそうであるが、この辺りは昨年に開催した日比谷野音でのライブの演出を引き継いでいるとも言える。JIM(ギター)は早くもステージ上を飛び跳ねながらギターを弾きまくり、短い金髪というヘアスタイルになったTAXMAN(ギター)のコーラスがROY(ボーカル&ベース)の日本のロックシーンの宝と言ってもいいくらいの野太い声に重なっていくことによってロックンロールとしてのキャッチーさを感じさせるようになっている。
そのキャッチーさはアルバム通りの曲順で演奏された「OH NO!」も同様なのだが、とにかく爆音である。もう爆音でロックンロールを鳴らすというTHE BAWDIESとしてのスタイルはさらに定まったように思えるし、その爆音の最大の要素でもあるJIMとTAXMANのギターの音の迫力は月初にライブを見てからわずか3週間ほどしか経っていないとは思えないくらいに進化している。その後もこのツアーをガンガン回ってきたことによる成果をライブが始まってすぐに感じることができる。
レーザーによる演出は曲によって使ったり使わなかったりであるということがわかるのは、JIMが身を捩るようにしてギターを鳴らし始め、MARCYの力強いバスドラのリズムによって始まる「BLUES GOD」がレーザーを使わずに真っ赤な照明がメンバーを照らすのみというシンプルな演出だったことでわかるのだが、この曲は前作アルバムの「Section #11」に収録されている曲である。だからこそROYは、
「前回の「Section #11」というアルバム、我々も大好きな作品でございます。でもそのアルバムを出して、ツアーを回っている途中でコロナ禍になってしまって、ツアーを最後まで回り切ることができませんでした。
その悔しい気持ちをロックンロールの楽しさや光を感じられるものとして昇華したのが今作の「BLAST OFF!」というアルバムになっています。その光を感じられる曲を」
とこの「BLAST OFF!」が紛れもなく前作「Section #11」というTHE BAWDIESとしての一つの完成形を見たアルバムであり、それを伝え切ることが出来なかったからこそ生まれたものであることを語るのだが、「光」と言ったので最近やってなかった「SUNSHINE」をやるのだろうか?とも思ったのだが、そんなわけはなく、今作収録曲の中で光を感じさせる曲である「SUN AFTER THE RAIN」であった。
TAXMANの弾くキャッチーなギターフレーズ、そこに入ってくる3人の強いキメ、ROYのボーカルとTAXMANのコーラスという曲の全ての要素が、先行配信された2年前よりもさらに光を感じさせるものになっているのは、ライブで演奏されるようになったのがコロナ禍になって以降であり、ライブで演奏するたびにこの世の中に、今目の前にいる人に光が射しますようにという願いを込めてきたからであろう。そうしていろんな場所でこの曲を聴いてきた人たちが光を反射させてこの曲がさらに強い光を放つようになった。リリース時よりも明らかに曲が成長しまくっているのがよくわかるし、それはバンドとファンが一緒になって成長させてきたのだ。
JIMがイントロから腰に手を当てて踊るように軽やかにステージ上を動き回るのは「I DON’T WANNA」であるのだが、音源には入っているホーンなどのバンドサウンド以外の音はライブでは鳴っていないというこの4人だけで演奏するライブアレンジになっており、それがこの曲を音源以上にロックに感じさせてくれるのだが、そもそももし同期などでそうした音を流していたとしても、あまりにメンバーの鳴らす音が爆音過ぎて全く聞こえないんじゃないかとすら思う。それは同時にロックンロールバンドでありライブバンドとしての矜持とも言えるだろう。
「僕にも1曲歌わせてください!」
とTAXMANが言うと、「BLAST OFF!」のTAXMANメインボーカル曲である「LOOKER SUGAR」を歌い始め、ROYとは全く違う爽やかな声質を持つTAXMANが歌うからこそ、ビートルズ直系のビートバンドとしてのTHE BAWDIESの姿を感じさせてくれる。しかしながら自身がメインボーカルではなくて目立てないことに明らかに不満そうなROYは曲が終わると、
「早く下がって」
と言ってTAXMANを後ろに下がらせてから、MVでのガイコツになったメンバーのイラストがレーザーで描かれる「KICKS!」へと入っていき、「HEY!」というキャッチーなコーラスで観客は腕を上げるのだが、この曲はROYとTAXMANのツインボーカルと言ってもいいような曲であるだけに、結局はTAXMANも前に出てきて歌うことになるのだが。
そのROYの発言をTAXMANは曲が終わっても根に持っており、
「お前さっき下がれって言ったよな?」
とROYに向けて話し始めるのだが、結局それでもいじられるのはMARCYであり、このツアー中にライブ前に気合いを入れるために円陣を組んでMARCYが声をかけるのだが、それがいつも
「終わったら気をつけて帰りましょう」
というライブが終わった後のことへ向けた気合いを入れるものになっていた、さらには新年会ライブの時に後輩の前でカッコつけて
「行けるのかー!」
って言っていた、というエピソードで爆笑を巻き起こすのだが、
「走る時に空気抵抗を避けるために顔を斜めにして走るので、目的地より右側にたどり着くMARCYさんです!」
という紹介にはMARCY本人も
「今のは初めて面白かった」
と笑わざるを得なかった様子。
そのMARCYはいつも以上に真面目にこのツアーをこうして最後まで迎えることが出来たこと、この状況の中でもこうしてライブに来てくれた人への感謝を告げると、そのMARCYのカウントから
「乗り遅れないでくださいね!」
と「IT’S TOO LATE」に突入して、サビでは観客の腕が左右に揺れる中、ROYが曲の締めに超ロングシャウトをかますのだが、その長さも声量も明らかに今までよりもさらに増している。それはやはりツアーを回って、ライブをやればやるほどに各々がさらに進化して、それが重なり合うことでバンドとしての進化につながることを示しているのだが、さらにレーザーの光がメンバーの背後で弾けるような演出の「RUN AROUND」でもラスサビ前にROYが超ロングシャウトを決める。
そもそも「IT’S TOO LATE」であれだけのロングシャウトを決めておきながらも曲間なしですぐに「RUN AROUND」に入るというだけでも凄まじいのだが、続け様にそれ以上の超ロングシャウトを放つ(この曲ではTAXMANのファルセットコーラスも含めて声に少しエフェクトをかけていた気もするが、それとは違って自身の力でより強い歪みを声に与えていた)というROYの喉はどうなっているのだろうか。これから先ライブをさらに重ねたら一体どんなシャウトをするようになるのか。それをこれから先もずっと見て、聴いていたいなと思うくらいに凄まじかった。
そんなバンドの新たな面を音源でもライブでも感じさせてくれる「BLAST OFF!」にはROYが口にしていたように、1曲だけカバー曲が入っている。それはアイズレー・ブラザーズの「WHY WHEN LOVE IS GONE」なのだが、正直言って原曲を聴いたことがなかっただけに、日比谷野音でのライブでカバーだと明かされなかったらオリジナルの新曲だと思うくらいに、ROYのベースを起点にグルーヴしていくバンドサウンドは完全にTHE BAWDIESの曲でしかない。そうして今まで触れてこなかった音楽を知ることができて、それがTHE BAWDIESを作ってきた要素であることを知ることもできる。かつてはカバーアルバムもリリースしているが、これからもこうしたカバーをやって我々にいろんな音楽を聴かせて欲しいと思う。なかなかSNSで紹介しているのを全てカバーすることは難しいだけに。
「BLAST OFF!」におけるミドル枠が「YES OR NO」であるというのは音源を聴いたら誰しもがそう思うだろうけれど、実際にライブで演奏されるとそのイメージが全く変わるというのは曲後半からアウトロにかけてサウンドが一気にノイジーかつロックンロールに変化するからであり、この曲はアルバムの中で最もライブで化けた曲と言えるかもしれない。なかなかこれから先ライブで演奏される機会はないと思われる位置の曲だと思うからこそ、このツアーに参加できて、こうしてそのライブでの変化を目の当たりにできて本当に良かったと思う。
そうしたライブならではの要素を感じられるからこそ、そこからの「ROLLER COASTER」のサビで一気に視界が開けていくように浮上する感覚たるや、まさにローラーコースターが最高到達点まで行ってから一気に急降下するかのような。そのサビでの「HEY!」のコーラスも今はROY以外のメンバーが歌うのに合わせて腕を上げることしかできないが、近い未来にはバンドと観客が一緒になって歌えているようになっていたらと思う。
するとステージが暗くなって、メンバーは楽器を下ろして何やら準備をしている。それはもはやおなじみと言っていいであろう「HOT DOG」劇場のためのものなのだが、この日は
ROY=ピカチュウ
TAXMAN=サトシ
JIM=ダイバーシティのジムリーダー
MARCY=JIMのパンポケモン
という、やってそうでやってなかったポケモンバージョンなのだが、それぞれの身に付けている小道具がもはや小劇場並みのレベルになってきているし、JIMの持っているモンスターボールもおそらくはポケモンセンターの店舗で買ってきたと思われるので、もしかしたらこの劇場がライブで1番金がかかっているのかもしれないとさえ思う。
その劇場はピカチュウとパンポケモンが対戦し、ROYがMARCYに10万ボルトという名の本気のビンタをお見舞いするのだが、ピカチュウの尻尾攻撃がパンポケモンの頭部のパンに挟まってホットドッグのようになり…というストーリーなのだが、オープニングもエンディングも普通に初期ポケモンのアニメの曲がそのまま使われていたので、この日は至るところでカメラが回っていたけれど、この劇場は全カットされる可能性が非常に高い。確かにライブで実際に見るからこその面白さであるし、これは実際にライブに来た人だけが見れるというものになるのかもしれない。
その劇場から急いでそれぞれが楽器を持っての「HOT DOG」は
「HOT DOG、ゲットだぜ!」
とROYの曲フリもポケモンバージョンとなり、やはりさらに会場を熱く燃え上がらせてくれ、最後のサビ前ではカウントに合わせてJIMと観客が高く跳び上がる。やっぱりTHE BAWDIESのロックンロールは最高に楽しい。この曲はいつもそれをこれ以上ないくらいに感じさせてくれる。
するともう長い髪から汗が滴りまくっているJIMが手拍子を速いテンポで叩きまくり、観客もそれに合わせて高速の手拍子を鳴らすのはもちろん音源でもその手拍子の音が入っている「DO IT」で、
「皆さんがやめたらこの曲が止まりますからね!」
とROYが煽ることによって観客が頭の上で高速手拍子を打ち鳴らすのだが、こんなに高く腕を上げてこんなに速く手拍子を打つのがこんなにキツいとは全く思わなかった。コロナ禍になってから声が出せない代わりに拍手をしたりする機会は非常に増えたけれど、この曲で手拍子をしているとまだまだ手を叩くということに慣れなければいけないし、その部分を鍛えなければいけないとも思う。バンドも少なからずそのコロナ禍でも一緒にライブを作れるという形でこうした曲にした部分もあるだろうけれど、他の曲でのバンド以外の音と違ってこの曲はライブでこそ加えることができるバンド以外の音である。
するとTAXMANが急にギターを弾きながら歌い始めたのはこの日2曲目の自身がメインボーカルを務める「RAINY DAY」であり、ツアー中でもこのTAXMANメインボーカル曲は各地で演奏する曲が変わっているんだろうなということが周りの何箇所もツアーに行ってきたであろう人たちのリアクションを見てよくわかる。メインボーカルではないROYが恨めしそうにTAXMANの方を見ているのとは裏腹にTAXMANは
「お台場ー!」
と間奏で叫んで観客の拍手を受け、何故だかMARCYもこの曲を叩いている時は今まで以上に眩しいほどの笑顔を見せていた。
するとやはりROYはTAXMANが歌ったことに加えて「お台場ー!」と叫んだことにも
「他のバンドでメインボーカル以外の、ステージの端っこにいる奴が「お台場ー!」なんて叫んだりしないだろ!」
といちゃもんをつけるのだが、TAXMANは
「いや、君のボーカルは本当にリスペクトしているし、こんな黒人みたいに歌える日本人は他にいないと思ってるよ」
と褒めたかと思いきや、
「でもずっとその声を聴いてるのはみんなキツいだろうから、俺が俺の声を注入してるの」
と観客がROYの声を聴き続けるのがキツいと思ってるだろうというマイナス面への配慮だったことを明かし、ROYに
「俺の声を聴くのがキツい人がこんなにここに集まるわけないだろ!」
ともっともな返しを受ける。しかしながらそれでもやはりいじられるのはMARCYであり、
ROY「MARCYさんはドラマーだからか、年々喋り方がリズムになってきて、川柳みたいになってるんですよ。我々がフジロックに出た時にアーティストエリアに菅田将暉さんがいたんですね。(RADWIMPSのゲストボーカルとして出演した)
そしたらそれを見たMARCYさんが、
「フジロック やっぱりいたよ 菅田将暉」
って川柳みたいに報告してきて(笑)
だからツアー中にも「わっしょい川柳」っていう、僕とTAXMANが最初の5・7を言って、最後の5をMARCYさんにお願いしてたんですよ。
新潟では
「新潟の お米は美味しい そりゃそうだ」
大阪では
「大阪で ここから始まる なんでやねん」
っていう、もはや5ですらなくなってて(笑)今日はファイナルなんで、決めてもらいましょう!」
と言うと、明らかにやりたくなさそうなMARCYがROYに文句を言いながら、
「東京の ここで迎えた わらべうた」
という川柳を完成させ、
「俺の歌はわらべうただったの!?」
とメンバーを戸惑わせながらも「LET’S GO BACK」というわらべうたを演奏するのだが、この曲はリリースされてからコロナ禍になる前までずっと演奏されてはサビのコーラスで大合唱が起きていた曲だ。それが今では歌うことができるのはメンバーだけという状況が改めて切なくさせるのであるが、それでもこんなにたくさんの人がこの状況でもここに集まってバンドの演奏に合わせて腕を上げている、それだけでこんなにも楽しいと感じることができる。そう思うとなんだか感動してきてしまった。もちろんそれはこのコロナ禍の中でもTHE BAWDIESがバンドとして進化してきたことがわかるライブを見せてくれているから感じることである。
そしてすでにフェスやイベントなどでも毎回演奏されている、メンバーが茶道に挑むMVも必見の「BLAST OFF!」のリード曲の「T.Y.I.A.」をサビのタイトルフレーズを心で思いっきり歌うように呼びかけると、そのサビではレーザーでタイトルフレーズが映し出されるのだが、最後にはレーザーが「茶」という文字を描くのはTHE BAWDIESのライブスタッフたちの遊び心だろうけれど、この曲の荒々しいロックンロールを目の前で聴いていると、この世の中の状況そのものを切り開くことができるかはわからないけれど、この世の中の状況によって鬱々としがちな我々の心の靄のようなものを切り開いてくれるのはこうしたロックンロールなのだと思うし、メンバーやスタッフもそう信じているからこそこうして止まることなくロックンロールを鳴らすことを選んでいる。そうした信念が音から滲み出ている。
そんなライブもいよいよ最後の曲を迎える。最後に演奏されるのは、ROYが再び「Section #11」のツアーを回り切ることが出来なかったことの悔しさを語り、その中に収録されている、こちらも今やライブでは定番になりつつある「SKIPPIN’ STONES」。リズミカルなメロディに合わせて観客も指でカウントしたり、腕をあげたりする中、間奏でROYが手拍子を煽りながら
「皆さん、BLAST OFFできますか!行くぞー!」
と叫ぶと、テンポが倍くらい速くなるとともにMARCYのビートを基軸にサウンドも一気に激しくなる。もちろんその音に合わせて観客も飛び跳ねまくり、もはや席指定ならではの少し遠慮せざるを得ない感じは全くなくなっていた。というかそんなことを考えていられる感じではなくなっていた。それくらいに夢中にさせてくれるロックンロール。本当に凄いバンドだと今まで数え切れないくらいに思ってきたけれど、やっぱりこの日もそう思った。
アンコールではメンバー全員がジャケットを脱いでシャツ姿で登場すると、明らかにツアーを終わらせたくなくて感傷的になっているのがわかるROYが
「「BLAST OFF!」は12曲入りで、ここまで11曲やりましたんで、最後の1曲。夏の曲ですけど、今は完全に冬真っ只中です(笑)それでも終わっていく夏を思い返すだけじゃなくて、次の季節を待ち侘びるように聴いてもらえたらと思います。
声を出したりするようなコロナ禍になる前のライブにはまだ戻れないし、そこに戻りたいなって後ろを向いているだけじゃなくて、戻れないからこそ前を向いていきたいと思っております」
と曲に込めた思いを語り、光を灯すように観客にスマホライトを掲げてもらうと、その光景を見たJIMは
「ちょっと待ってこんなの無理だよ!」
と感極まって顔を客席から背けるようにしてから、
「大変な状況だけど、今本当に幸せだよ!」
と言った。それはROYも口には出さないけれど表情が感極まっていた。
THE BAWDIESは憧れの場所に立っても、憧れの人と一緒にライブをしても決して泣くことはしなかった、むしろ笑顔を見せることによって観客も笑顔にしてきたバンドである。そんなバンドがステージ上で見せた涙からは、このツアーをどんな思いを持って回ってきたのかが滲み出ていた。
そしてその思いがゴスペル的とも言えるような「END OF THE SUMMER」のメンバー全員のコーラスに重なっていく。アルバム発売前に去年の日比谷野音のライブで初めて聴いた時から、これまでのTHE BAWDIESとは全く違うタイプの素晴らしい名曲ができたと思っていたが、この日のこの曲のコーラスにはこのツアーで全国を回ってきたことによって見てきた景色やそこに来てくれた人の思いが確かに乗っていた。それを感じられるものになっていたからこそ、客席でも涙を流すくらいに感動している人がたくさんいた。JIMが言うように、この瞬間、我々も本当に幸せだった。
そんな光をさらに強力なものにするべく、最後に演奏されたのは「JUST BE COOL」で、最後のサビ前にブレイクを入れると、ROYは
「行くぞお台場ー!」
と真ん中に立つボーカリストとして叫ぶ。JIMもTAXMANもギターを抱えてジャンプすると、観客はさらに席があることによる遠慮なしに跳びはねまくる。もう体が勝手にそう反応してしまうような、血湧き肉躍るロックンロールが目の前で鳴らされているから。いつか、ツアーを何十本も回る時に、そのほとんど、できれば全てについていくことができたら最高に幸せだと思えるだろうな、と思っていた。
演奏が終わると、パンパンという手拍子に導かれて若大将ことTAXMANが法被を着てステージに戻ってきて、おなじみのわっしょいが行われるのだが、この日はツアーファイナルということで、「BLAST OFF!」バージョンの、ロケットが飛び立っていく姿を表すようなわっしょいに。
TAXMAN仕切りのために本来ならマイクを持たなくてもいいROYが喋りまくり、またMARCYに「わっしょい川柳」をやらせようとちょっかいを出したりする様は本当にツアーが終わってしまうことの寂しさも感じさせたが、観客全員で飛び立つようなわっしょいをする姿は、これからまた新たな場所へバンドが旅に出ていくように感じた。ROYはステージから捌けたかと思ったらまた戻ってきてポーズを決めて帰るという自分が目立ちたくて仕方ない感じを最後まで出して笑いを誘っていたけれど。
THE BAWDIESは変わらない。でも変わらないままで進化するというのは、ドラスティックに変わりながら進化をするというわかりやすさがないだけに、実は物凄く難しいことだと思う。
今は世界的に「ロックバンドが全然いない、下火」みたいに言われることも多々あるし、世界中のありとあらゆる音楽を掘りまくっている音楽マニアであるメンバーもそれをわかっているだろうけれども、ロックンロールバンドという存在であることの矜持はあれど、そもそもバンドだからどうこうという意識はないだろうと思う。
それでも、THE BAWDIESのようなロックンロール、ガレージ、ソウルミュージックへの愛とリスペクトを現代を生きる自分たちの音楽に昇華するスタンスの音楽が時代の追い風を受けたことは一度もないし、THE BAWDIESがもし時代に合わせにいくようなタイプのバンドだとしたらとっくに日本語で歌ったり、わかりやすいサウンドの音楽をやっていることだろう。
つまりTHE BAWDIESは時代に合わせることを全くしないまま、自分たちがやりたいことを貫き通しながら、横浜アリーナや日本武道館という場所に立った。それは時代を自分たちの元に引き寄せたのである。そんなことができる選ばれたバンドだけが持つ魔法や力が今もTHE BAWDIESのライブには確かにある。それをコロナ禍の中でも感じさせてくれた「BLAST OFF!」ツアーだった。
1.YA! YA!
2.OH NO!
3.BLUES GOD
4.SUN AFTER THE RAIN
5.I DON’T WANNA
6.LOOKER SUGAR
7.KICKS!
8.IT’S TOO LATE
9.RUN AROUND
10.WHY WHEN LOVE IS GONE
11.YES OR NO
12.ROLLER COASTER
13.HOT DOG
14.DO IT
15.RAINY DAY
16.LET’S GO BACK
17.T.Y.I.A.
18.SKIPPIN’ STONES
encore
19.END OF THE SUMMER
20.JUST BE COOL
文 ソノダマン