一曲目の“Ame (B)”が流れた瞬間の衝撃は今でも思い出すことができる。
「サカナクションのCD入れなかったっけ?」と「なんだこの音楽!」とが一緒になった感情だった。
日本のバンドの音楽とは思えなかった。オペラだと思った。
前作に収録された“ナイトフィッシングイズグッド”でもQueenのようなオペラ的な多重コーラスがあったが、まさかそれが最初にやってくるとは思ってもいなかった。
彼らは“セントレイ”でテレビ出演を果たし知名度を一気にあげたのだが、“セントレイ”は確かにキャッチーでわかりやすい曲だけど、言ってしまえば「サカナクションでなくても作れる曲」だった。
“Ame (B)”でテレビに出ていたらもっと違う結果になっていただろうなと思った。
“Ame (B)”の衝撃が忘れられなくて今でもこのアルバムには好印象を持ち続けているのだが、“セントレイ”がなければ完璧だったなと思う。
「先行シングル」という概念がなければ完璧だったなと思う。
“セントレイ”のテレビ演奏がなければ今日のサカナクションがいないこともわかっている。
“セントレイ”が収録されていなければこのアルバムが売れなかったであろうこともわかっている。
このアルバムが多くの人に聴かれることもなかったであろうこともわかっている。
現在のサカナクションが寡作なのは、この体験があるからなのだと思う。
サカナクションでなければ作れない音楽を作らなくてはならない。だから時間がかかってしまう。
サカナクションが進化してその才能を爆発させていくにつれ、より“セントレイ”が異質になっていく。
アルバムリリース当初は“セントレイ”が収録されていることに対して疑問を抱かなかったのだが、だんだんとこのアルバム自体も聴き返すことが減っていってしまった。
過去の曲が大胆なアレンジを施され、ライブに欠かせないピースになっていくように、
“セントレイ”もどうか昇華させてほしい。