今年3月にニューアルバム「CENTER OF THE EARTH」をリリースし、各地の対バンツアーを経て4月には主催フェス「A FLOOD OF CIRCUS」を開催した、a flood of circle。その間には早くもニューシングル「The Key」をリリースしており、その生き急ぎっぷりは一切の減速も許さないレベル。
そのアルバムのリリースツアーはワンマンツアーへ。その初日はこれまでに何度も立ってきたおなじみの千葉LOOK。なんやかんやでこのキャパを即完させているのはちょっと嬉しいところだ。
18時を少し過ぎると場内が暗転しておなじみのSEが流れてメンバーが登場。スティックを掲げた渡邊一丘(ドラム)を先頭にするのも、最後に佐々木亮介(ボーカル&ギター)が出てきたのもいつも通り。日によって色が変わる亮介のこの日の革ジャンは黒。
「おはようございます、a flood of circleです」
という亮介がおなじみの挨拶をした刹那、場内に鳴り響く割れんばかりの爆音ロックンロール。メジャーデビューしてから10年を超えたバンドに今も宿る初期衝動の証としてセルフタイトルを冠した「CENTER OF THE EARTH」の1曲目である「Flood」でスタートしたのだが、もう鳴らされた瞬間に眠さとか疲れとかそうした甘えが全て吹っ飛ばされるような感覚になった。ツアー初日とはいえそもそもが年中ライブをしているバンドであるので(このツアーの直前もBRADIOの対バンツアーに出演していた)、もう鳴らされている音のキレ味もさることながら、リリースされたばかりの新作アルバムのツアー初日の完成度では全くない。
さらに「The Beautiful Monkeys」というぶっ飛ばし用。もうイントロのジャカジャカと刻むギターフレーズの段階で狭い千葉LOOKの中はモッシュとダイブの嵐。そのアウトロとイントロをつなげるような「Vampire Killa」とひたすらにロックンロールをぶっ放していく。青木テツはブンブンと頭を振りながらギターを弾きまくり、「Blood Red Shoes」ではHISAYOのゴリゴリのベースのイントロがさらなる高揚感を煽っていく。
そう、今回のアルバム「CENTER OF THE EARTH」が完全に「ロックンロール」に焦点を絞ったものになっているので、アルバム曲以外の演奏曲も完全にロックンロールモード。なので久々に「Rodeo Drive」という曲も演奏されたのだが、亮介はソロで現行のUSのR&Bやトラップなどを取り入れた音楽を作っていて、それはかつてはフラッドにも取り入れていきそうな空気もあったのだけれど、ソロというそうした自身の興味が赴く音楽を作れる場所があるからこそ、フラッドではロックンロールに振り切ることができているし、それは何よりもロックバンド感を強く感じさせる、この4人だからのものになっている。
前日に同世代であるNICO Touches the Wallsの光村が
「今のロックバンドとしてどう生きていくかっていうことを日々考えている」
と言っていたが、亮介もそれを考えた上で過去最高にフラッドをロックンロールという方向に振り切らせたのだろうし、両者は世界中のありとあらゆる音楽(最新のものからルーツミュージックまで)を貪欲に聴きあさっているという音楽マニア同士であることを考えると、今の世界と日本の音楽の状況を考えるとそうした意識が働くのは当然のこととも言える。
「今日の作戦…ガンガンいこうぜ!」
と亮介が防御一切なしのひたすらに攻めまくる宣言をするとキメ連発のイントロのリズムに正確に反応できる客席を見て、やはり久々のワンマンは違うなと思いながら、この曲がフラッドの新たな代表曲と言っていい位置に来ているんだなと思う「美しい悪夢」から、
「頑張れ 言わないけど
頑張れ 言えないけど
頑張れ 歌っているよ」
という、確かにフラッドは聴き手の背中を押すような曲をたくさん作ってきてはいるけれど、こんなにストレートな応援歌はなかったよな、と思わせる「Youth」はタイトルとは裏腹にもう自分たちが「Youth」と呼べる世代から徐々に離れてきているからこそ歌えることなのかもな、とも思う。歌詞にある
「グレッチもアップルも君に敵わない」
というフレーズには「マーシャル」「フェンダー」というボーカリストでありギタリストならではの単語も追加されているのがライブならでは。
しかしながら
「君ら暑過ぎるから涼しいやつを」
と言って一旦クールダウンするように勢いというよりも丁寧に音を鳴らすようにして演奏されたのは今作のアルバム唯一のバラード曲である「スノードームの夜」。フラッドには数々の名バラードがあって、それもまた魅力の一つであり、亮介のメロディメーカーっぷりをそこで遺憾無く発揮してきたわけで、それはロックンロールに振り切ったアルバムであっても変わらない部分である。この時期にやるのは少し意外だったけれど。
するとイントロだけではなんの曲かわからないような演奏が始まる。新作の曲のイントロのライブアレンジなのかな?と思っていたら、テツのギターが煌めくようなフレーズを鳴らす。その名の通りのサウンドの「プリズム」だ。(メジャー2ndフルアルバム「PARADOX PARADE)
きっと、会場に来ていた人でこの曲が演奏されるなんて思っていた人はいないだろう。実際にこうしてライブで聴くのはおそらく曽根巧が最後にサポートギターを務めた、東京キネマ倶楽部での全曲演奏ライブ以来。
演奏後には客席から
「テツ、えらい!」
という声が上がった。その通りに、こうしたレア曲はメンバーが固定されて、昔の曲を掘り起こすように練習したり合わせたりしないとライブで演奏されるようにはならない。フラッドはこれまでに数えきれないくらいにギタリストが入れ替わってきたし、そのたびにリセットされて、なかなかフェスなどで演奏されるような代表曲くらいしかライブでできないような時期もあった。みんなあの頃のもどかしさをまだ覚えているからこそ、こうしてこの曲を聴けるような状態にまでバンドを持ってきてくれたテツに心から感謝している。
自分自身、もうこの曲は聴けないだろうなと思っていた。そもそもがいろんなバンドのギタリストがレコーディングに参加したという経緯があるからか、「PARADOX PARADE」の曲は演奏頻度が少ない。でも今こうしてまたこの曲を聴けている。新曲も聴けて、昔の曲も今の最強の状態でアップデートされて聴くことができる。だからこれからも諦めかけていたあんな曲やこんな曲がまたライブで聴ける日がきっと来る。もっともっとフラッドのライブをたくさん見たい理由がまた増えてしまった。
佐々木「ツアーに出る前ってガッツリ入念にリハをやるんだけど、うちのボス(HISAYO)が気合い入りまくってるから、「最後のリハ終わりに決起集会やるよ!」って言って。スタッフも「じゃあ予約します!」っていう気合いを見せたんだけど、いざ当日になったら姐さんがすっかり忘れてて行けなくなって(笑)
テツも行けなかったから、最近は長年コンビ組んでる漫才コンビみたいにあんまり2人きりで喋らなくなった俺とナベちゃんだけになって(笑)
スタッフも気を使って喋ったりしてたんだけど…(笑)」
HISAYO「私がいると間に私が入って喋っちゃうからね(笑)」
一丘「でもその時に話したことで…いや、やっぱりこれは言わない!(笑)」
というこのバンドのオリジナルメンバーである亮介と一丘の独特な距離感を感じさせる。その感じは非常によくわかるものではあるけれど。
そんな裏話の後に演奏されたのは人気アニメのタイアップに起用されたことによってまた新たな扉を開いた「The Key」。
「ロックンロールは死んでも 俺たちは生きてる
新しい歌 歌う君こそ未来を開けるキー」
というフレーズは
「最近はロック生き伸ばしっていうよりもぶっ壊してまた新しく作った方がいいんじゃないかって」
とインタビューで語っていたモードに入っている亮介の心境をそのまま表しているが、その新しく作られるロックンロールを鳴らすのはやっぱりこのバンドであって欲しい。もうバンドの存在は新しいものではなくても。
最近はアンコールであったり、春の時期だけだったりという演奏のされ方をしてきた「春の嵐」がここで演奏されたことによって客席はさらに熱気と激しさを増していく。
続く「光の歌」もまさかフラッドからこんなにもストレートなタイトルの曲が鳴らされるとはというくらいに光の射す方へ手を伸ばすロックンロール。序盤からわかってはいたけれど、休むような時間が全然ない。それはまるでこのバンドの生き方そのもののようだ。
亮介「テツ、今日の客のテンションはどうだ!?」
と問いかけると、
テツ「熱いね〜!」
と返した、ツアーのサブタイトルにもなっている「ハイテンションソング」からは文字通りさらにハイテンションに。タイトルフレーズではテツ、HISAYO、一丘の3人がそれぞれコーラスを務め、そうした部分からもバンドの新しい可能性というか、無二の声を持つ亮介のボーカルに誰のどういう声を被せるかというところで曲の感じ方やイメージはだいぶ変わってくると思う。
そして手拍子が響く「Dancing Zombiez」からはクライマックスへ。アウトロでは亮介とテツが激しいギターバトルを見せると、
「俺たちとあんたらの明日に捧げます!」
という決まり文句の後に演奏された「シーガル」では最後のサビで亮介が
「歌え!」
と言うと、観客それぞれが声を張り上げる大合唱。合唱もやはりバンドによって全然違うのが面白いのは、女性の観客も多いにもかかわらずフラッドの合唱は実に野太い。みんな上手く歌おうなんてこれっぽっちも思っていない。ひたすらデカい声で歌おうとしている。その振り絞るような声が重なっていく様が確かに自分たちの明日に向かっていくための活力になっていく。また生きてこうしてこの曲をフラッドを愛する人たちと一緒に歌えるようにと。
そして最後に演奏されたのはアルバムタイトル曲である「Center Of The Earth」。ロックンロールでありながら飛び跳ねたくなるようなポップさを含んだサウンドに
「サンキューベイビー 最後まで笑ってくれて
まともじゃなくても大好きだよ
サンキューベイビー バイバイは言わないぜ
次の光の中へ」
という歌詞は間違いなく今ここでこの曲を聴いている人たちに向けられている。メンバーの後ろに描かれた、バンドロゴではないアルバムタイトルでありこの曲のタイトルが描かれた地球のフラッグが眼に映る。今、この瞬間この場所が我々にとって地球の中心だった。
HISAYOの髪がベースに絡まってしまい、ベースを持ったままステージを去って笑いが起こっていたが、アンコールでは普通に登場すると、何の前触れもなく演奏が始まったのは、「The Key」にカップリングとして収録された、東京事変「群青日和」のカバー。亮介が歌うとどんな曲でもロックンロールになるというのはこれまでのバンドでのカバーや弾き語りでも証明してきたが、この曲もその例に違わず。それはそのまま亮介の声がどれだけロックンロールの力に満ちているかというのを表しているし、やはりこの男はロックンロールを選んだだけじゃなくてロックンロールに選ばれたんだな、と思う。
そして、
「バイバーイ」
と言って演奏されたのは軽快な4つ打ちリズムの「世界は君のもの」。おなじみの
「羽を揺すって」
のフレーズの後に亮介がマイクから距離を取ると、
「飛ぶだけ!」
の大合唱。この瞬間の地球の中心はこの場所であり、その世界はこの場所にいた我々のものだった。
「ツアー行ってくるわ!」
と言ってステージを去っていった。
もう何度こうして書いてきただろうか。フラッドはいつだって今が最高だと。それは「CENTER OF THE EARTH」というアルバム、それを提げたこのツアーの初日も間違いなくそうだった。亮介がこの日言った、
「まだまだやれる。まだまだいける」
という言葉は間違いなく真実であり、この会場にいた人全員が思ったことだ。10年以上ライブを見続けているけれど、その気持ちは年々増している。しかもこれまでに様々な紆余曲折がありながら。そんなバンドは他にいない。
だからこそ、このツアーは行けるだけ行って、見れるだけ見ておかなきゃな、と思う。今までも欠かさずツアーは行ってきたし、初日の千葉LOOKだって何回も見てきたが、こんなに同じツアーを何本も行きたいと思ったことは今までない。そう思えるのは間違いなく今のライブが最高かつ最強の状態のものだから。だからこの日みたいに、ここが地球の中心だと感じることができる場所を増やしたいのだ。
それをこの上なく感じられたこの日、6月9日。いわゆるロックの日は、このバンドによってロックンロールの日になったのだ。
1.Flood
2.The Beautiful Monkeys
3.Vampire Killa
4.Blood Red Shoes
5.Backstreet Runners
6.Rodeo Drive
7.美しい悪夢
8.Youth
9.スノードームの夜
10.プリズム
11.The Key
12.春の嵐
13.光の歌
14.ハイテンションソング
15.Dancing Zombiez
16.シーガル
17.Center Of The Earth
encore
18.群青日和
19.世界は君のもの
文 ソノダマン