渋谷O-Crestの元店長である、ムロ氏が主催する夏フェス、MURO FES。これまでに晴海埠頭ターミナル、新木場STUDIO COAST、お台場特設会場と開催場所を移しながら開催されてきたが(オリンピックなどのさまざまな事情もあり)、今年はサマソニのGARDEN STAGEとして使われている、幕張海浜公園にて開催。
アコースティック含めてステージは5つと、コンパクトな会場ながらステージの数は過去最高に増え、1日総勢40組近い、普段はライブハウスを主戦場にしているバンドたちが集結。2daysなので前日も開催されており、この日は2日目。
11:00〜 INKYMAP [MU-STAGE LEFT] (OPENING ACT)
2日目のオープニングアクト、八王子の4人組バンド、INKYMAP。
このフェスは第1回のトップバッターがSUPER BEAVERだったように、Crest系とも言えるようなこのフェスの姿勢を示すようなバンドがステージに立ってきた。
このINKYMAPもまた真っ直ぐでエモーショナルなギターロックという実にこのフェスらしいバンドだし、Kazuma(ボーカル&ギター)の
「腕を挙げろ!」
という煽りと、Ryosuke(ベース)とTatsuo(ドラム)によるシンプルなリズム隊の演奏もそう思わせるのだが、Junのギターは時折テクニカルなフレーズを挟んでくる。
わずか20分、4曲という短い時間のライブだったが、ムロ氏が
「今年はINKYMAPを出せないと思ってたんだけど、こうしてオープニングアクトで出てもらうことにした」
と言っていたことからもわかるように、このフェスにとってこのバンドは必要不可欠なバンドだったんだろうし、まだ朝の11時という時間にもかかわらず、トリであるアルカラの稲村やトリ前であるハルカミライの橋本らが袖からずっとライブを見ていたのはその証明であったし、実にこのフェスらしい光景だった。
11:30〜 ABSTRACT MASH [MU-STAGE RIGHT]
主催者であるムロ氏の全くまとまりながない挨拶(BAYCAMPのP青木もそうだが、なぜフェスの主催者はこんなに喋りが下手な人ばかりなのか)と、
「20時に完全音止めだから1分足りとも押せません!」
という出演者への注意喚起をすでにスタンバイしていたステージでずっと聞いては時折ツッコミを入れていたのが、この千葉県出身のバンドである、ABSTRACT MASH。Nothing’s Carved In Stoneのボーカルの村松拓がもともとやっていたバンドである。
NCISがバッチバチな音のぶつかり合いのバンドであるためにそのボーカルの村松のバンドというとそんなイメージを持ちがちだが、演奏はいたってシンプルで、村松の力の抜けた感じもどちらかというと弾き語りをしている時の感じに近い。
「俺たち、8年活動休止してたんです。だからこういうフェスとか出るの初めてで。緊張してます(笑)」
と、武道館でワンマンすらやったバンドのボーカルとは思えない発言なのだが、やはり達人の集団的なバンドであるNCISとは全く違うのだろう。
シンプルゆえにメロディが強く生きているし、それゆえに村松の英語歌詞のボーカルの上手さもよくわかる。それはNCISでの経験によって上手くなった部分ももちろんあるだろうけれど、こうしてライブで聴いていると、生形真一がELLEGARDEN休止後に始めたバンドのボーカリストになぜこの男を選んだのかというのがわかるような気もする。
「8年活動休止して。みんなそれぞれレベルアップしてここに辿り着いたらよかったんだけど。でも俺たちはまたバンドに恋したくてバンドをやることにしました。今日出てるバンドはみんなそれぞれいろんな思いを持って音を鳴らすはず。いろんなバンドを見て、何組かでも良いなって思えるバンドがいたら音源聞いたり、またライブに行ったりしてみてください。そうしてバンドに恋してください」
という村松の発言からは、ここに至るまでにいろんなバンドの姿を見てきたからこその責任感のようなものが感じられたし、NCISというバンドをやっていてもまだまだバンドがやりたいという純粋な思いが消えることはない。バンドで生きていくっていうのは面倒なこともあるだろうけれど、やっぱりステキなことなんだろうな、とこのバンドの存在は思わせてくれる。
1.Where’s my stand
2.Nothing can be printed with you
3.Silent Wheel
4.Save the World
5.Aspili
12:00〜 Age Factory [MU-STAGE LEFT]
以前、髪型を丸坊主にした清水エイスケの髪は少し伸び、薄い緑色に染めているのが目を惹く、Age Factory。
リハからそのまま本編になだれ込むと、清水のギターのディストーションと魂の絶叫が轟く。いわゆるグランジやオルタナティブと言われるようなサウンドであるが、西口直人(ベース)と増子央人(ドラム)によるリズムが凄まじく重いし強い。いくらギターが尖っていても、リズムが強くないと説得力がないというのを思い知らせてくれるし、それは3人が目指すものややりたいことが一致していないとまた説得力を持たない。またリズム隊の2人のコーラスも実に力強く楽曲を彩っている。
「そこを歩いてる人たち、見る目ねぇな。俺たち見ないでどうすんだよ」
とビッグマウスというか不敵な言葉を次々に清水は放つが、それが全く嫌味に聞こえないのは放っている音があまりに強すぎるから。音源を聴くよりも何十倍、何百倍もライブの方が良い。そういう意味でのライブバンドである。
「俺たちが世界の中心だ!」
と「WORLD IS MINE」を鳴らしたり、
「わかるやつだけでいい。わかるやつだけついてこい」
と言ったりというその姿勢には一切のブレがないが、自分の世代としてはこのバンドのサウンドはlostageを彷彿とさせる。でもこのバンドがlostageを見ていた時の感覚と違うのは、明確にこのバンドはもっと上、もっとデカいところに行こうという野心を感じるところ。
実際に清水はインタビューで
「このバンドで紅白歌合戦に出たい。そしたらめちゃくちゃ面白くないですか?」
と言っていた。まだそれが実現するような景色は浮かばないけれど、おそらく本気でそう思っているし、自分たちの音楽をわかりやすくするのではなく、今の自分たちの音楽をわかるやつを増やしていく。そういう戦い方をこのバンドはしている。
で、そのために1番重要な楽曲のクオリティとライブの実力。「See you in my dream」はキャッチーさも持ち合わせているとはいえ、まだまだこれ以上の曲が出てきそうな予感がしている。
ライブの実力はすでにこれ以上凄くなったらどうなってしまうんだと思ってしまうくらいのレベル。それだけに、10月に行われるリキッドルームでのワンマンを見てみたいとも思った。たった25分間でそこまで思わせるようなライブをこのバンドはやっている。
リハ.ロードショー
1.GOLD
2.CLEAN UP
3.WORLD IS MINE
4.Puke
5.See you in my dream
6.TONBO
12:30〜 忘れらんねえよ [MU-STAGE RIGHT]
リハの時点から観客の合唱が巻き起こっていた、忘れらんねえよ。決してこのフェスを代表するバンドというわけではないけれど、何度もこのフェスには出演している。
リハではギターの盟友タナカヒロキ(LEGO BIG MORL)、ベースのイガラシ(ヒトリエ)というメンバーたちとともにステージにいた柴田隆浩(ボーカル&ギター)だが、時間になって最近はもはや自分の曲にしようとしている感すらある[ALEXANDROS]の「ワタリドリ」のSEが流れると、なぜか客席中央におり、観客の上をワタリドリのように運ばれてステージへ。そのまま「ワタリドリ」のサビを歌うのだが、あまりにキーが高すぎて失笑が起こるレベルの歌唱になっており、逆に川上洋平がどれだけ歌が上手いのかということがよくわかってしまう。(柴田もその高いキーが出ないだけで、決して歌が下手なわけではない)
さらには「宮迫と亮!」「頑張れ!」というあまりにタイムリー過ぎるコール&レスポンスもするのだが、そんな展開を一瞬で無効化してしまう名曲「この高鳴りを何と呼ぶ」で本格的なライブのスタートを切ると、「ばかばっか」では間奏でおなじみの客席を泳いでビールを飲みに行くという展開に。客席中央にいるスタッフのところまで観客に運ばれていくとビールを受け取って一気飲みするのだが、受け取る→体を反転させる→観客に支えられながら立ち上がるという一連の流れをビールを全く溢さずにできる柴田はもはやこのパフォーマンスに関しては達人と言っていいくらいの領域に突入している。
ダンスナンバーこと柴田がハンドマイクで歌いながら踊りまくる「踊れひきこもり」もそうだが、このバンドメンバーで演奏されることによって忘れらんねえよの音楽のロックンロールさがよりシャープに浮かび上がってくる。そもそもが演奏技術のあるメンバーたちだからというのもあるが、それが一つのバンドとしてしっかり絡み合っている。
間奏の「西野カナのようなパート」ではスペシャルボーカルとして、LEGO BIG MORLのカナタタケヒロが登場してカンペガン見で歌唱し、そのままLEGOの「RAINBOW」のサビのフレーズまでも演奏。柴田はカナタが登場した瞬間に女子たちがカナタの方しか見ないことに不満気ではあったが、もともと柴田と梅津の2人組だった時代にタナカヒロキがサポートギタリストとして参加し始めた時は、忘れらんねえよとLEGO BIG MORLがこんなに仲が良くなるとは全く思ってなかった。音楽のスタイルも、何よりビジュアルが全く違うから。でも梅津の卒業と同時にタナカもサポートから卒業したかと思いきや、今でもこうしてサポートを務めているし、柴田とタナカのタカヒロキというユニットを組むまでに派生している。
見た目がどうとかではなく、本気で音楽とバンドを愛するもの同士だからこそこうして深い関係性を築くことができたのだろうし、オリジナルメンバーの2人がいなくなってから、柴田の1番近くにいてくれたタナカには忘れらんねえよのファンとして心から感謝である。
そしてラストは女々しい柴田の心情がパンクなサウンドによってブーストされる「俺よ届け」から、これまた忘れらんねえよならではの「だっせー恋ばっかしやがって」。
この流れは今の忘れらんねえよの魅力を最大限に伝えようとするものだったが、面白いパフォーマンスではなく、忘れらんねえよのそうした精神であったり音楽がしっかりと届いているような手応えを感じた。ロッキンやCDJでも過去最高に大事なステージを任されてきている今、忘れらんねえよはまだまだ思い描いた場所まで行ける。
そして言及したいのは、柴田1人になってから忘れらんねえよのベースとしてバンドを支えているイガラシのヒトリエが3人で動き出したこと。その決断に至るまでには様々な葛藤も、いろんな意見もあったと思う。
でもイガラシはたった1人になってもバンドであろうとする忘れらんねえよの姿を、柴田の姿を見てきたし、それをしっかりとバンドという形にするために自身の力を持てる限りに注いできた。そこで経験してきたり、見てきたものがヒトリエが再始動する上で、少なからずきっかけになっているはず。我々が忘れらんねえよを見ていて思うのと同じように、イガラシもきっとバンドを続けるという意志がどれだけカッコいいものなのかをわかっているはずだから。
リハ.バンドやろうぜ
リハ.忘れらんねえよ
1.ワタリドリ
2.この高鳴りを何と呼ぶ
3.ばかばっか
4.踊れひきこもり w/ カナタタケヒロ
5.俺よ届け
6.だっせー恋ばっかしやがって
13:00〜 tricot [MU-STAGE LEFT STAGE]
最近はボーカル&ギターの中嶋イッキュウが川谷絵音率いるジェニーハイにも参加していることで話題になっている、tricot。かつては小さいステージを担ってきた時期もあったが、すっかりこのフェスではおなじみの存在。
いきなりの爆音とともに、新ドラマー吉田雄介のリズムとステージ中央に位置するベースのヒロミ・ヒロヒロ、黒と金が混ざり合った髪色のキダモティフォのキメ連発による変拍子が複雑過ぎてどのタイミングで音に乗るべきなのかが全くわからなくなる「TOKYO VAMPIRE HOTEL」から、早くもtricotらしさ全開。かつて「美人バンドマンまとめ」みたいなものに2人が名を連ねたイッキュウとヒロミはより美人と言えるような出で立ちになっている気がする。(当時キダはそれに自分だけ入っていないことにショックを受けていた)
そんなキメと変拍子連発なtricotらしさは全く変わらないどころか、そのキレ味の鋭さは間違いなく進化しているが、そんな中でも「WABI-SABI」では音の抜き差しの妙を見せてくれ、そこにこそさらなるこのバンドの進化を感じる。やはり決してわかりやすいことではないけれど。
キダがステージ袖で見ていた、アルカラ稲村の目の前まで行ってギターを弾いた「おちゃんせんすぅす」ではタイトルフレーズを歌う時に3人が腕を下から上に挙げるのが面白くて観客もついついマネしてしまうし、ヒロミが「踊れ!」と言うと間奏では激しい演奏によるダンスタイムへ。
「今年も出れて嬉しいです」
と、イッキュウのMCは言葉少なく控えめに、ひたすらにその音に自分たちの思いを込めるかのようにラストの「メロンソーダ」は複雑な演奏のようでいてメロディのポップさを確かに感じさせる中、アウトロでは3人がステージを転がり回りながら演奏。なのでその姿があまり見えないのだが、そんな状態でも音が途切れたりすることはないというのはこのバンドの卓越した演奏技術があるからこそできることだし、その普通に演奏するだけではないやりたい放題っぷりが、tricotってこういうバンドだったよなぁと改めて思わせてくれた。服がまくれたりしまくっていたのは少し心配になったけど。
tricotはこのフェスに出始めた時は、巨大なフェスにガンガン出まくっていたし、ロッキンオンジャパンでも
「次のシーンの本命はこのバンドだ!」
的な推され方をしていた。メンバーチェンジもあったし、なかなかその通りにはならなかったけれど、そもそもがライブで生きてきたバンドなのだからそうしたバンドが集まるこのフェスのように、このバンドが生きていく場所は確かにある。
リハ.おやすみ
1.TOKYO VAMPIRE HOTEL
2.WABI-SABI
3.おちゃんせんすぅす
4.大発明
5.メロンソーダ
13:30〜 BRADIO [MU-STAGE RIGHT]
すでにホールでワンマンをやったりもしているだけに、このフェスの中においては決してライブハウスだけではない景色もたくさん見ているバンドである、BRADIO。
華々しい打ち込みのホーンの音が鳴る「Flyers」でスタートすると、サビでの手の振りであったりと、一瞬でこの会場をファンキーかつハッピーなものに変えてみせる。
そもそもこのフェスはかつてはMy Hair is BadやBLUE ENCOUNTも出演したことがあったりと、エモーショナルなギターロックバンドがメインにいるイメージが強いフェスである。それだけにファンクを軸とするようなバンドはほかに全くいない。それは無二の個性であると同時にアウェー感にも繋がりかねないのだが、このバンドの持つファンク感はスタイリッシュなファンクではなく、暑苦しいファンク。だから数々の暑苦しいバンドが輝きを放ってきたこのフェスにおいて全くアウェー感を感じさせないし、真行寺貴秋(ボーカル)が間奏でなぜかスクワットを始めたり、キメのリズムに合わせてポーズを取りまくる最新シングル「O・TE・A・GE・DA!」もすでにバンドにとっての代表曲であるかのような盛り上がりを見せている。
真行寺のダンス指南をしてからの「Back To The Funk」ではEarth, Wind & Fire「SEPTEMBER」を真行寺が口ずさんだり、大山聡一(ギター)と酒井亮輔(ベース)によるBRADIOバンドのグルーヴィーなソロを披露したりする中、会場中の観客たちが楽しそうに踊る。この観客全てを巻き込んでいく陽性のエネルギーはこのバンドの持つパーティー感があってこそ。
最後にその真行寺のソウルフルなボーカルが響き渡る「スパイシーマドンナ」を演奏し終えた頃には、ライブハウスの延長と形容されることの多いこのフェスの会場が完全にダンスフロアになっていた。演奏を終えると真行寺は「いったいいつまで?」と思うくらいに長い時間客席に向かって頭を下げていたが、それはこのバンドがいつも最後に放つ、
「音楽は素晴らしい!」
ということを改めてバンド側に教えてくれたこのフェスの暖かい観客への感謝の深さを示しているようだった。
リハ.Boom! Boom! ヘブン
1.Flyers
2.O・TE・A・GE・DA!
3.Back To The Funk
4.スパイシーマドンナ
14:15〜 Suspended 4th [RO-STAGE RIGHT]
2週間前のJAPAN’S NEXTでライブを見て衝撃を受けた、名古屋の4人組バンド、Suspended 4thがこのフェスにも登場。
しかし、時間になるなりワシヤマカズキ(ボーカル&ギター)は
「ずっとここにいちゃダメだ。鈍る。シーン変えてくぜ」
と口にした。いい意味で常にライブハウスでともにライブをやっているバンド同士の仲間意識や連帯感が強いこのフェスであるが、見方によればそれは少し馴れ合いや向上心のなさのようにも見えてしまう。
「シーンを変える」と口にしたように、このバンドはこのフェスのトリであったりというレベルではなく、なんならきっとすぐ隣にあるZOZOマリンスタジアムでワンマンをやるくらいの野心を持っているだけに、このフェスの常連的な立ち位置には止まっているつもりはないのだろう。
JAPAN’S NEXTの時と同様に、早くも新しい時代のロックアンセムというようなスケールの大きさを野外のステージで見せつけるような「INVERSION」からスタートするのだが、MU-STAGEが10tトラックの荷台に機材を組んでいるのに対し、このRO-STAGEは4tトラックの荷台とステージも小さいし、出音もかなり小さい。(音被りという要素も踏まえてだろうけれど、音も正直に言って良くない)
しかしながらというか、だからこそというか、このバンドの音のキレとグルーヴのレベルの違いがよくわかる。「シーンを変える」というのは大口ではなく、自分たちの鳴らす音に確信を持っているからこそ言える言葉であるというのがライブで聴くと一発でわかる。
サワダセイヤのまるでミッシェル・ガン・エレファント時代のアベフトシを見ているかのようなマシンガンのごときギターソロが炸裂しながら、曲中ではメンバー同士が顔を見合わせてフリーキーなセッション性も生まれていく。
サングラスをかけたデニス(ドラム)がリズムを刻みながらワシヤマとフクダヒロム(ベース)の方を見て、
「お、そう来るのか」
とメンバーのプレイに反応するかのように笑みを浮かべる。すでにある曲をそのままなぞるのではなく、その場の雰囲気や自身の気分や感情によって曲が形を変えていく。インストの路上ライブで鍛え上げられてきたこのバンドだからこそできる、その日その瞬間だからこそのライブ。何よりもメンバー自身がそれを1番楽しんでいるのが見ていてよくわかる。
「曲変えるわ」
と言っていきなりセトリを変えたりしたのもそうだが、何の決まりごとも作らずにライブをやるバンドだからこそ、最後の「ストラトキャスター・シーサイド」の途中でいきなり「VENEZIA」を挟んだりということもする。
このバンドは演奏が非常に上手いのだが、そこには上手くないとできないことをやるという意識がある。だし、その上手さが全てバンドのカッコよさに繋がる要素になっている。
「PIZZA OF DEATHからSuspended 4thです」
とワシヤマは挨拶をしていたが、そのPIZZA OF DEATHから今週リリースされる新作から、このバンドの快進撃が間違いなく始まる。
1.INVERSION
2.BIG HEAD
3.Betty
4.ストラトキャスター・シーサイド 〜 VENEZIA
15:00〜 バックドロップシンデレラ [MU-STAGE LEFT]
この時間の前にMU-STAGE RIGHTには四星球が出ていた。その四星球の盟友と言える、このフェスではおなじみのバックドロップシンデレラはサウンドチェックで四星球の「クラーク博士と僕」を演奏するという愛情を見せていた。
本番では紅一点のベーシストのアサヒキャナコが夏だからかいつにも増してセクシーというか露出度の高い衣装で登場すると、アフロヘアの豊島”ペリー来航”渉(ギター&ボーカル)が「およげ!たいやきくん」のメロディに合わせて
「ムロフェスはいろんなことを分かり過ぎてる〜。四星球〜バックドロップシンデレラ〜打首獄門同好会の流れは最高〜」
とこれまでに切磋琢磨しながらバンドを続けてきた仲間たちへの言葉を歌にすると、隣のステージでセッティングをしていた打首獄門同好会の大澤会長は笑顔で手を振る。
そうしたコミカルな要素が強い並びの真ん中に位置するバンドだが、豊島のカッティングギターを軸にしたスカの要素も強いパンクサウンドによって、びっくりするほど超満員の観客たちは踊りまくるというよりはモッシュとダイブが繰り広げられる激しさに。
このバンドのコミカルさを自身のメッセージにした「フェスだして」はかつてフェスから全くお呼びがかからないことに対する状況を歌った曲であるが、豊島は
「「フェスだして」って歌ってますけど、このムロフェスには第1回から出させてもらってます。つまり、我々のフェス伝説はこのフェスから始まったんです!」
とまだフェスに出れなかった時代から出ていたこのフェスへの感謝を告げ、このバンドの代名詞とも言える「ウンザウンザ」シリーズ(未だに「ウンザウンザ」がなんなのかは全くわからない)はそのフェスへの愛と魂を込めたような演奏によってさらに客席は激しさを増していく。
そんな中で歌いながら機動力の高さを感じさせるステップを見せていた、でんでけあゆみ(ボーカル)はRIGHTとLEFTのステージの間にあるやぐらによじ登り、その上に立って歌うという圧巻のパフォーマンスを見せる。(かなり高いだけに危険な感じもしたけれど)
そしてラストの「さらば青春のパンク」では豊島の呼びかけによって客席一面に超巨大サークルが出現。でもそれはただはしゃぎたいとか騒ぎたいというようなノリによるサークルではなく、このバンドの音楽を最大限に楽しむための観客のパフォーマンスであるように感じたし、このバンドはそれを引き出せるような存在になっていた。まだキワモノバンド的なイメージが強かったこのフェス初出演時にこのバンドがこんな大きな存在になるなんて思っていた人がいただろうか。いや、メンバーには最初からこの景色が見えていたからここまでバンドを続けてきたのかもしれない。
リハ.クラーク博士と僕
リハ.フェスでれた
1.台湾フォーチュン
2.フェスだして
3.本気でウンザウンザを踊る
4.サンタマリアに乗って
5.月あかりウンザウンザを踊る
6.さらば青春のパンク
15:30〜 打首獄門同好会 [MU-STAGE RIGHT]
四星球→バックドロップシンデレラと続いてきたコミカルなバンドの流れをいったん締めるのは、打首獄門同好会。もはや大型フェスで万単位の人を動員するレベルの人気バンドである。
サウンドチェックの段階から「ヤキトリズム」を演奏して空腹感を煽りまくっていたのだが、それと同時にうまい棒を客席にばら撒いていたので、この日の1曲目は「デリシャスティック」。最近はデカいフェスではスクリーンに映像が映し出されることも多かったが、この日はスクリーンがないのでモニターを持ち込んでVJがそれを操作。映像というよりも歌詞をメインに映し出すものになっていた。
しかしコミカルな要素を持つバンドの流れと言えど、青春パンク的な四星球、スカの要素の濃いバックドロップシンデレラと比べると、このバンドのサウンドははるかにラウド。それでも初めてこのバンドのライブを見たであろう人が爆笑していた「きのこたけのこ戦争」という曲のテーマ自体はコミカルなものであるし、音楽性こそバラバラな3組に通じるのは「目の前にいる人たちを音楽で笑顔にしたい」という精神性である。
「昨日と今日開催されてきたこのフェスももう後半戦。このフェスが終わったら明日は月曜日です。だからきっとみなさんこう思っていることでしょう」
と「はたらきたくない」を演奏するあたり、ネガティブなようにも感じてしまうが、最後まで曲を聴くとしっかり現実を見つめて前に歩き出す力をくれる。
「お台場からこの海浜幕張に場所を移したこのフェス、前までより海が近い!」
といちいち曲の前フリが上手い「島国DNA」ではマグロのバルーンが客席を飛び交い(この曲自体はお台場で開催されていた時も演奏されていたけど)、
「皆さま、今日は日曜日、今は夕方16時くらい。あと2時間もすれば始まるアニメの主題歌をフライングでみんなで歌いましょう!」
と「おどるポンポコリン」のラウドカバーもこのタイミングに相応しい選曲にしてみせる。
そしてラストは
「今年の夏は晴れの日が少なくて、秋の収穫が心配になりますが、みんなで大豊作を祈りましょう!ご唱和ください!」
とやはり最後は「日本の米は世界一」で締めたが、ライブを見る前よりライブが終わって後になると空腹感が凄まじく増していた。
2年前のこのフェスでもそうだったし、このバンドはバックドロップシンデレラとセット的に扱われやすい。しかもこの2組が揃って野外フェスに出ると、どんなに天気が悪い時でも晴れるらしい。それまでは曇天だったこの日も、このバンドの時間には太陽が見えていた。Dragon AshやBase Ball Bearに次ぐ、新たなフェスシーンの太陽神バンドの出現なのかもしれない。
リハ.ヤキトリズム
1.デリシャスティック
2.こどものねごと
3.きのこたけのこ戦争
4.はたらきたくない
5.島国DNA
6.おどるポンポコリン
7.日本の米は世界一
16:00〜 TOTALFAT [MU-STAGE LEFT]
コミカルなバンドが続いた流れから一変。ライブハウスの延長線上と言えるこのフェスにはうってつけの存在と言えるTOTALFAT、このフェスには2回目の登場となる。
4人がステージに登場すると、Kuboty(ギター)が左目に眼帯のようなものをつけている中、サングラスをかけたJose(ボーカル&ギター)がサビを高らかに歌い上げる「夏のトカゲ」でスタートし、気分はすっかり夏に。いや、実際に夏ではあるのだが、より暑く、より爽やかに、そして曇天の雲を吹き飛ばすような爽快感に満ちている。
パンク・メロコアシーンの最大のダンスアンセムと言える「PARTY PARTY」を早くも前半に投下すると、空へ願いを込めたような「晴天」で大合唱が轟く。
序盤からリフトする観客たちに「もっとみんなこっち来い!」と言わんばかりに手招きしていたShun(ベース)によるライブとロックバンドを信じる真っ直ぐなMCを放つと、スケールの大きいこのバンドのパンクサウンドによって、決して規模が大きいとは言えないこのフェスの会場が一気に広くなったように感じる。
そしてBunta(ドラム)がタンクトップを脱ぎ捨てて上半身裸になると、ラストは仲間の大切さ、こうして居場所と言える場所があることの大切さを感じさせてくれる「Place To Try」で観客たちが肩を組んでグルグルと回りながら大合唱すると、メンバーが目配せをしてから、
「まだ時間ある!いける!」
とファストなメロコアチューン「DA NA NA」を追加し、やはりダイバーが続出。決してメロコア・パンクバンドが多いわけではないこのフェスではあるが、やっぱり夏の野外にはこのバンドのような音楽がよく似合う。
しかしそう思わせてくれる、本当に楽しいこの4人でのライブも、見れるのはもう数えられるくらいしかない。すでに発表されているが、Kubotyがこのバンドのメンバーではなくなった時に、このバンドはどんなライブをするようになるんだろうか。そんな想像することすら出来なかった瞬間はそこまで迫ってきている。
リハ.スクランブル
1.夏のトカゲ
2.PARTY PARTY
3.晴天
4.ONE FOR THE DREAMS
5.Place To Try
6.DA NA NA
16:30〜 LONGMAN [MU-STAGE RIGHT]
LONGMANのベース&ボーカルのさわはセッティングをしつつ、TOTALFATのライブをまるで1人のファンのように飛び跳ねながら見ていた。そんなメロコアの先輩から直接バトンを受け取ったLONGMAN。
これぞメロコア!なファストチューン「OPENING」でスタートすると、アッパーかつ陽性のパンクサウンドによって次々にダイバーが転がっていく。
ひたすらにストレートなメロコアバンドであり、だからこそシンプルに、そのメロディを磨き上げ、さわとひらい(ボーカル&ギター)による男女混声のハーモニーがそのメロディをさらに際立たせている。
男女混声のハーモニーという言葉はヤバTの曲のフレーズであるが、その編成やサウンドから、このバンドはヤバTに通じる部分があるというか、男女混声のメロコアの王道を歩いているのがこのバンドで、ヤバTはあえて王道とは違う道を歩いているというか。
しかし共通するのはともにメロディを何よりも大事にしており、それを最大限に生かすような曲を作っているということ。短い持ち時間である中でひたすらに曲を連発するスタイルもそうだが。
タイトルからしてついつい飲みたくなる「BEER!」を終えたあたりで、赤い色の髪を結わいていたさわが髪を解き、体を揺らしながら髪も振り乱してベースを弾く。
そのまま最後まで全速力で駆け抜けるようなライブだったが、このバンドはさわの喉の不調によって1年間ライブができずに止まっていた時期があった。その時間があったからこそ、地元の愛媛から長い時間をかけて関東まで精力的にライブをしに来たりと今こうして猛スピードで走ることができているのだろうし、そうした苦しかった経験も全て自分たちの持つポジティブな音楽とエネルギーで吹き飛ばそうとしている。
リハ.Never end
リハ.Hole up
1.OPENING
2.WITH YOU
3.So many men, So many minds
4.IN THIS WAY
5.Back Home
6.BEER!
7.Excuse
8.1919
9.WALKING
17:00〜 Hump Back [MU-STAGE LEFT]
今やロックシーン最注目の若手バンドの一つと言っていい存在のHump Back。このフェスには初出演となる。
「時間があるから」
と言ってサウンドチェックで曲を丸々演奏して超満員の観客を喜ばせると、そのまま板付きで本番へ。
すると曲を演奏するでもなく林萌々子が、
「先日、メジャーから初めてフルアルバムっていうやつをリリースしました。やりたいことをやらせてもらいましたけど、やりたいことをやれなくなったらすぐ辞めたろうと思ってます」
とリリースされたばかりのフルアルバム「人間なのさ」に込めたものを語ると、
「お国が禁止している葉っぱを吸って捕まったりっていうニュースがありましたけど、前に「バンドマンはみんなクスリやってる。特にHump Backの林」ってなぜか名指しで言われたことがあって(笑)やってないから(笑)
やってカッコいいのと、やらなくてもカッコいいのなら、やらない方を選ぶやろ!
でも何回失敗してもいいねん。何回でもやり直したらいい。勝ち続けるのがロックじゃない、立ち上がり続けるのがロックなんだ!」
と自身のロック観について語ると、大きな拍手が起こり、そのまま「拝啓、少年よ」を歌い始める。
「馬鹿みたいに空が綺麗だぜ」
という歌詞のように綺麗な空と言えるような天気ではなかったが、林の声は野外のこの会場に真っ直ぐ伸びていく。
「短編小説」では林が間奏でステージから飛び降りて客席の柵に登ってギターを弾くが、ぴか(ベース)が
「萌々ちゃん、早く戻ってこないとピックなくなるでー」
と言って林のマイクスタンドに挟んであるピックを客席に勝手に投げ込みまくる。
林は歌い出しに少し遅れながらもステージに戻ってきたのだが、先日のライブで腰のあたりの骨にヒビが入ってしまったらしく、
「アドレナリン出たら痛くないとか言うけど、めっちゃ痛いよ(笑)」
と言いながらも普段と全く変わらないパフォーマンスを見せる。
リリースされたばかりのフルアルバムからは「LILY」と「僕らは今日も車の中」が披露されたが、
「機材車で移動してる時に寝てたら、美咲(ドラム)が起こしてきて、「萌々ちゃん、月がすごい綺麗だよ」って。見たら本当に綺麗な月で。このメンバーと一緒にバンドがやれていて幸せだなって思った」
と曲ができた経緯をインタビューで語っていた「僕らは今日も車の中」はヒップホップとまではいかないが、リズミカルな林のボーカルが今までの曲とは全く違う印象を抱かせる。これが「やりたいことをやった」と胸を張って言える曲なのだろう。
そして最後には大合唱を巻き起こした「星丘公園」を演奏したが、このバンドはちょうど1年前のこの日に徳島で行われたチャットモンチーの最後のライブとなった「こなそんフェス」で林が涙を流しながらライブをしていた。
その姿はチャットモンチーに憧れてバンドを始めた少女たちというものだったが、あれからわずか1年でシーンを引っ張るバンドとしての風格やオーラを纏うようになった。
冒頭の林の
「立ち上がり続けるのがロックバンドなんだ!」
という言葉。それに何よりも説得力が宿っているのは、かつてメンバーチェンジを繰り返し、林1人だけになったこともある状態からここまで来たこのバンドだからこそ。このフェスに出ているバンドはみんなロックバンドであることに誇りを持っているバンドたちだが、このバンドは骨の髄までロックバンドそのものだし、ロックバンドであることに意味があると思っている。そんなバンドがこうして目の前にいてくれるのが本当に頼もしく思える。
リハ.高速道路にて
リハ.月まで
1.拝啓、少年よ
2.短編小説
3.LILY
4.僕らは今日も車の中
5.星丘公園
・ビレッジマンズストア [RO-STAGE RIGHT]
赤いスーツに身を包んだ名古屋の5人組バンド、ビレッジマンズストアは小さいとはいえこのステージを満員にし、岩原洋平と荒金祐太朗のギター2人は仰向けになった状態で観客の上を運ばれながらギターを弾き、ステージからかなり離れた位置まで運ばれた荒金はなかなかステージに戻ることができずにいたが、
「早く戻ってこーい!」
と水野ギイ(ボーカル)に呼びかけられてステージに戻してもらうと、このフェスに何度か出演したことがある水野が、
「このフェス、場所が変わったな。危うくゆりかもめに乗りそうになってしまった。
フェスの場所も変わるし、バンドも人も変わる。そうして変わることに文句を言うやつも必ずいる。でも変わったっていうことは辞めなかったっていうことだ!前に進んだっていうことだ!」
と、形が変わった経験があって、それでも止まらずに続けてきたバンドだからこそ説得力を持つ言葉を放つ。
たまに弱気なことを言う時もある水野のその堂々とした立ち振る舞いのカッコよさと、このバンドのロックンロールを待ち構える人の多さを見て、このバンドがこれから先に立つ場所もこれから変わっていくんじゃないかと思ったし、このバンドをもっといろんな場所で見てみたいと思った。
18:00〜 SIX LOUNGE [MU-STAGE LEFT]
JAPAN’S NEXTではO-EASTすら入場規制にしてみせた、大分のSIX LOUNGE。サウンドチェックで「最終兵器GIRL」を演奏している段階からこのフェスでも超満員。
3人がサウンドチェックを終えてそのまま最新シングル「天使のスーツケース」でヤマグチユウモリが艶のあるスイートなロックンロールボーカルを響かせると、イワオリクはベースを弾きながらステージ端のやぐらをよじ登っていき、ユウモリに
「リク、もう見えないとこまで行っちゃってるから!」
と咎められてステージまで戻ってくる。
そのユウモリは中盤のロックンロールナンバーの連発中に、
「おいムロフェス!足りねーよ!まだまだ足りねーんだよ!」
とすでにダイバーが続出するくらいの熱狂を生み出しているにもかかわらず、まだ満たされないとばかりに観客を煽りまくる。
そこには出演者それぞれに配られた、主催のムロ氏のメッセージカードに
「お前たちは一音鳴らせばそれだけで変わるから」
と書かれていたことへの喜びがテンションを上げていたということもあるが、完全にメーターを振り切っていると言っていいレベルであり、「ふたりでこのまま」というどちらかというとメロディに身を委ねるようなタイプの曲でさえ感情の炎が燃え盛っているように見える。
そしてラストの「俺のロックンロール」ではこのバンドのロマンチックかつロックンロールへの愛情を歌詞にしたためてきたナガマツシンタロウがドラムを叩きながら自身が歌うパートでマイクを投げ捨ててドラムを叩き、ユウモリはその姿を見て観客にシンタロウのパートを歌うことを委ねる。まさかフェスのこの曲(しかもこのパート)で合唱が起こるとは全く思っていなかったが、その光景と、こうしてこの客席を埋め尽くし、しかも後ろの方まで拳を上げてこのバンドのロックンロールに向き合っている姿を見ると、このバンドはこれからのロックンロールシーンで最も重要な存在になるような予感がしているし、その後に続く存在を生み出していくんじゃないかと思う。このスタイルでどこまで行くのかが本当に楽しみだ。
リハ.最終兵器GIRL
1.天使のスーツケース
2.LULU
3.トラッシュ
4.ピアシング
5.僕を撃て
6.ふたりでこのまま
7.俺のロックンロール
18:30〜 ircle [MU-STAGE RIGHT]
このフェスはそれぞれのバンドのことをしっかり理解しているから、順番にもちゃんと意味を持たせている。それは中盤の四星球→バックドロップシンデレラ→打首獄門同好会というコミカルな要素を持ったバンドの流れもそうだし、TOTALFAT→LONGMANというメロコアの流れもそう。
そしてSIX LOUNGE→ircleという終盤の流れはかつて「地獄盤」というスプリット盤をリリースした、大分出身バンドによる流れである。
そのircleはのっけから河内健悟(ボーカル&ギター)の魂の咆哮のようなボーカルを響かせ、それに完全に連動するかのようにバンドの意志が合わさった荒々しい演奏が幕張の夜空に力強く鳴り響いていく。仲道良(ギター)は「ギター、ジョン・レノン!」と河内に紹介されるくらいに髪が長くなり、髭もたくわえている。イメージとしてはビートルズ解散後のソロになったジョン・レノンであるが、ジョン・レノンはこんなに歪んだギターを荒々しく弾かないだろう。
このフェスではおなじみというか、このフェスを担うバンドの1つと言える存在のバンドであるが、あまりに全力で歌うためにMCのたびに息を切らしながら喋る河内は
「毎年出てるけど、こうして出れることを当たり前だとは思っておらん」
と惰性ではなく、最高のライブを見せることによってこのステージに立っているという自負を語ると、さらに演奏にも歌唱にも熱量を増していく。
このフェスではこうして大事な位置を任されているとはいえ、このバンドはまだまだそこまで存在を認知されているわけではない。それでもこうしてこのフェスではたくさんの人がライブを見ていて、その楽曲をちゃんと知っている。それは毎年このフェスで積み重ねてきたものがあるからでもあるが、見れば必ずこのバンドの音楽や思いが伝わるライブをやっているということでもある。
なかなか普段からライブを見る機会がたくさんあるようなバンドではないが、だからこそもうちょっといろんなフェスに出れるようになれば、この状況は少しは変わるはず。
かつてはこのフェスでのライブ中に雷警報が出て中断するなど、嵐を呼んでしまうバンドとして恐れられていた(当時はバイザラウンド、今はGRAND FAMILY ORCHESTRAとしてこのフェスに出ている松山晃太にもそれをいじられていたこともあった)が、この日はギリギリのところで雨は降らなかった。その代わりにとびきりのロックンロールの嵐を巻き起こしていた。
再会を約束するように鳴らした「ばいばい」、またこれからもこのフェスで聴けますように。
リハ.アンドロメダの涙
1.あふれだす
2.バタフライ
3.瞬
4.セブンティーン
5.ばいばい
19:00〜 ハルカミライ [MU-STAGE LEFT]
もうすっかり暗くなり、MU-STAGEも残るは左右のステージのトリのみ。LEFT STAGEのトリはハルカミライ。おそらくこの日、最もたくさんの人がお目当にしていたのはこのバンドである、というくらいにこのバンドのグッズを纏った人がたくさんいた。
橋本学(ボーカル)以外の、関大地(ギター)、須藤俊(ベース)、小松謙太(ドラム)の3人だけによるサウンドチェックの段階からダイバーが続出するという異様とも言える盛り上がりっぷりの中、いきなり大合唱が巻き起こった「君にしか」でスタートすると、橋本は25分間のうちの7〜8割はステージを降りて観客に支えられているという状態。
「俺さ、ダイブとかリフトとか大好きだからさ、どんどんしてくれよ。でも前に俺たちのライブでそれで怪我しちゃった人がいるんだよ。だから今日は全力で助け合え。それで誰も怪我しなかったら最高じゃないのか!」
とその橋本が言うとさらに客席は激しさを増していくし、音源よりもはるかにパンクなこのバンドのサウンドも相乗効果的により一層激しくなっていく。
関はギターを弾きながらやぐらをよじ登り、やぐらにある照明二つを自分の方に向けてギターを弾きまくる。降りようとしても時間がかかるため、最初は須藤が
「飛び降りろ!」
と言っていたが、さすがにあまりに高すぎるので、
「これ飛び降りたら死んじゃう(笑)」
ということでギターを大事に持って降りるのだが、降りた瞬間に次の曲の演奏が始まるというのが物凄くカッコいい。
その関はその後にマイクスタンドごと客席に突入していく中、一方の須藤は「肩が外れた」と言いながらも全くそんな影響を感じさせず、ベースを置いてステージを飛び回ったりするという全員がやりたい放題っぷり。
しかしただ無茶苦茶にやっているのではなく、自分たちの音楽の魅力を最大限に伝えるためのパフォーマンスである。だから見ていて笑えもするし、感動もする。全く新しいことはやっていないけれど、それよりも大事なことがあるということをこのバンドのライブは教えてくれる。
そんなパフォーマンスを繰り返したからか、矢継ぎ早に曲を演奏するのはいつも通りだが、最後はかなり駆け足気味。しかし橋本はこのフェスのステージのトリという立場でありながら、
「ムロフェスを作ってるのはこれまでの歴史じゃない。今、俺たちがムロフェスを作ってるんだー!」
と叫ぶ。ああ、その通りだと思った。過去でも未来でもなく、今この瞬間。それしか考えられないから、こうして今命を燃やすかのようなライブをやっている。その姿は紛れもなくパンクヒーローそのもの。自分はWANIMAを代官山UNITで初めて見た時のことを思い出したが、もしかしたらブルーハーツが出てきた時もこんな感じだったのかもしれない。そう思ってしまうくらいに、このバンドはきっとこれからシーンを変える。12月に行われる、幕張メッセでのセンターステージワンマンはきっと日本のパンクの歴史の中で大事な1日になる。
この日やその前から、見たくないようなニュースがあふれていた。それはついついネガティブな気分になってしまいがちだが、そういう人はみんなこのバンドのライブを観に来るべきだと思う。このバンドのライブが見れれば、他のことなんかいい意味でどうでもよくなってしまうし、明日からの生きる力が湧き上がってくる。
そう思わせるのはこのバンドのメンバーたちが持つ圧倒的な人間力。我々も人間だから、その人間が目の前で出してる音や発している感情に感動する。割と本気で、ライブに1番大事なのはそれなんじゃないかと思っているし、このバンドのライブを観ると、今でもそういうバンドの存在に自分が胸をときめかせているのがわかる。
リハ.ファイト!!
リハ.ウルトラマリン
リハ.それいけステアーズ
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ファイト!!
4.俺達が呼んでいる
5.春のテーマ
6.ファイト!!
7.世界終わらせて
8.エース
9.アストロビスタ
19:30〜 アルカラ [MU-STAGE RIGHT]
2日間続いたこのフェスもいよいよ最後の時間。朝イチからずっと出演者のライブを袖から見守ってきた、もはや主催者以上に主催者らしい男・稲村太佑(ボーカル&ギター)が率いるアルカラがこのフェスを締めくくる。
「今年もやりますか!ムロフェスー!」
と稲村が叫ぶと、「アブノーマルが足りない」「チクショー」と続き、袖にいるたくさんの出演者たちが見ているだけでは飽き足らず、次々に客席にダイブしていくという率先した盛り上げっぷりを見せてくれるのだが、完全にこのフェスのこの日はアルカラのためにあったんだな、と思うくらいの横綱相撲っぷり。
そもそもアルカラは元から非常にライブが良いバンドだし、それは形が変わっても全く変わることはないのだが、このフェスにおけるアルカラは全ての出演者たちの思いを自分たちの音に宿らせているかのようで、他のフェスで見るアルカラのライブとは全く空気が違う。
そうした出演者への思いを稲村は毎年ステージから1組ずつ名前を読み上げて語っていたのだが、今年はステージが増えたから把握しきれないということで、
「全ての出演者に感謝します!」
と至極手短にまとめてしまったのだが、とりわけ同世代バンドであるABSTRACT MASHとtricoについては思うところがあったようで、
「ずっと昔から一緒にライブをやっていたバンドだけど、俺たちとは全く逆の道をあいつらは走ってた。それが今日このフェスでまた巡り会うことができた。このフェスが始まったとき、あいつらと一緒にこのフェスに出れるなんて全く思ってなかった」
と感慨深げに語っていた。
稲村が曲中にギターからヴァイオリンに持ち替えるという1曲の中でのスイッチが斬新な新曲「誘惑メヌエット」から初期の懐かしの、この夜空の中で演奏されるのがよく似合う「いざよい」と新旧入り混じった選曲も出会ってから15年以上の間柄であるムロ氏が主催者であるこのフェスならではであるが、最後にはムロ氏はもちろん、残っていた出演者たちがステージに総登場し(打首獄門同好会のjunkoなど、みんなだいたい酒を飲んで酔っている)、稲村とムロ氏が左右のやぐらによじ登って「交差点」を歌うという最後に相応しい大団円っぷり。
その後に稲村がやぐらから降りてステージに戻らずに客席に突入すると、
「ハルカミライがブルーハーツ好きだって言ってたから。
ドブネズミみたいに美しくなりたい
写真には映らない美しさが
ア・ル・カ・ラ!」
と、「リンダ リンダ」を観客、出演者全員で大合唱し、
「ムロフェス最年長としてこのフェスをこれからも引っ張っていくつもりだったけど、打首のjunkoちゃんっていう大先輩がいるので、まだまだ若手のつもりで頑張ります!」
と稲村が新たな決意を表明すると、最後はやぐらから降りられないでいたムロ氏が一本締めをし、オリンピックの都合などで近年は開催が危ぶまれているこのフェスをこれからも続けていきたいということを改めて口にした。
「家に帰って、来年また来るまでがムロフェス!」
という最後の一言は意味がわからなかったけれど。
リハ.さすらい
1.アブノーマルが足りない
2.チクショー
3.誘惑メヌエット (新曲)
4.いざよい
5.交差点
このフェスは持ち時間が短いゆえ、好きなバンドを見にいくというよりも、気になっているバンドをたくさん見るというスタンスのフェスである。で、そうしたフェスの在り方は、tricotやSuspended 4th、ビレッジマンズストアというバンドたちの物販がライブが終わった直後に列ができる、ライブを見てみたらめちゃ良かったから音源を買ってしっかり聞こうという理想的な流れを生み出していた。
それはもちろんバンドのライブが素晴らしかったというのが第一であるが、すぐに物販に行けるコンパクトな会場設計のフェスだからという部分もあるし、そうした光景を見るとこのフェスが担っている役割はフェスの規模以上に大きいと思う。
この日の前日、いわゆる「炎上商法」という手法が話題になっていたが、このフェスに出ているバンドたちは戦略や商法を考えて活動できるほど器用じゃないし、もしかしたら時代遅れな存在なのかもしれない。でも目の前にいる人たちに自分たちの鳴らしたい音楽と歌いたいことを鳴らす。これがかっこいいんだって話が出来たらそれだけで、って思えるし、今でも自分はそういうバンドたちの姿に何よりも力を貰っている。やっぱりバンドって最高にカッコいいよな、って思える、そんなフェスなのである。だからこそ、これからもずっと続いて欲しい。
文 ソノダマン