2008年の3月、まだオープンしたばかりのTOKYO DOME CITYホールのイベントでオープニングアクトとして出演していた、まだインディーズ時代のUNISON SQUARE GARDENのライブを見た。
「流星前夜」がリリースされた直後、ひたすらに曲が良くて、ベースが暴れまくっているというイメージだった3人は、それからリリースを重ねる度に自身の独特のスタンスを打ち出した活動方針により、なかなか大きな会場でライブをやることがなかったが、さすがにもうそうも言ってられないくらいにこのバンドのライブを見たいという人の数が多くなってきたことにより、近年は幕張メッセや横浜アリーナなどもツアーの日程に組み込んでいるが、結成15周年の記念ライブの舞台に選ばれたのは、大阪の舞洲スポーツアイランド。このバンドはフェスでこの会場でライブをやったことはあるが、このバンドの頭脳であり精神でありソングライターである田淵智也のインタビューでの発言によると大阪のイベンターの人との会話が盛り上がったことによって15周年は大阪で、ということになったらしい。
朝から大阪は曇天、ところどころ雨もちらつくという空模様は台風が接近しているという状況を否が応でも理解せざるを得ないが、朝からコスモスクエア駅から離れたシャトルバス乗り場に向かうと、すでにたくさんの人がバスに乗車している。バンドの歴代のTシャツやラババン、キーホルダーなどを身につけた人たちが「今日なんの曲をやるか」ということなどを口々に話す中、車内では大阪のラジオ局FM802が選曲したユニゾンの曲たちが流れている。
こうして1つの同じバンドを好きな人たちが同じバスに乗ってライブ会場まで行くというのもたまには良いことだなぁと思う。
会場の舞洲スポーツアイランドはオリックス・バファローズの2軍の施設などがある大型スポーツ施設の集合体であり、その一角にある広場に特設ステージを組んでいるのだが、ライブエリアの隣のエリアには多くの飲食ブースがまるでユニゾンのフェスであるかのように並び、朝10時前から物販には長蛇の列が。全国から集まったユニゾンのファンたちがどれだけこの日を楽しみにしていたのかがわかる。
しかしながらそのあと、昼過ぎまではかなり激しい雨が降り、開催されるとは発表されているものの、ライブそのものが心配されるくらいに。
だが16時くらいになると雨が上がり、暑いくらいの気候に。ここに集まったファンや、この日は来れなかったけどユニゾンを好きな人たちのバンドへの思いが雨を止ませたと言っても決して過言ではないと思う。
ライブエリアは芝生がメインであるため、かなりぬかるんでいるところもあったが、24000人という巨大フェスのメインステージ規模の人たちがユニゾンの15周年を祝うために集結。
開演時間の17時30分の少し前からはステージ両サイドのスクリーンにFM802のDJなど、大阪でユニゾンの音楽の魅力を多くの人に広めようと尽力してきた人たちのコメントVTRが流れる。そこにはコメントを出した人たちの選ぶユニゾンの1曲というのも出ているのだが、それがそれぞれ本当にバラバラで(あえてそうしたかのようにばらけている)、ユニゾンが作ってきた曲がどれも名曲であるということを改めて実感させられる。
映像が終わって17時半を少し過ぎると、すでに少し薄暗くなりつつある会場の照明が消え、おなじみのイズミカワソラ「絵の具」の神聖なピアノとボーカルによるSEが流れ始める。するとメンバー3人がいつもと全く変わらない出で立ちで登場するのだが、普段なら演奏を始めるタイミングになってもなかなか演奏を始めようとしない。最終的にはメンバーそれぞれのアップがスクリーンに映し出されるのだが、上空(というかステージ上に張られたこのライブのキービジュアル?)をじっと眺める田淵の姿が映し出されると、張り詰めた空気を和ませるように客席からちょっとした笑いが起こる。立ってる姿だけで笑いが起こるというのもみんなが田淵のキャラクターをよく知っているからだ。
結果的にはSEをほぼ1曲(途中ちょっとカットしながら)流した。そこには15年間自分たちのライブを支えてくれたこの曲への感謝の気持ちが現れていた。ユニゾンはライブごとにガラッとセトリを変えるという器用なバンドであるけれど、この曲をSEから変えるようなことはしなかったから。そうしてこの曲はメンバーだけでなく、ファンにとっても特別な曲になったのだ。
田淵も
「記念ライブだから普段はやらないような、ファンに媚びたみたいな選曲にしようかなって」
とインタビューで言っていたように、ファンも果たしてこの日のセトリがどうなるのか全然予想できず、「シングル曲連発の方が逆にレアだし特別」「デビュー時から順番に時代を網羅するようなものになるのでは?」と様々な憶測が飛び交っていたため、1曲目に何が選ばれたのかというのは実に重要だ。
そんな中で演奏されたのは、まさかの「お人好しカメレオン」。2013年のアルバム「CIDER ROAD」に収録された曲であるが、特にシングル曲とかアルバムのリード曲というわけではない曲。だけど、間違いなくこのライブが15周年を記念したこの日だけのものになるというのがよくわかる選曲。実際にデビュー時から毎回リリースツアーに1箇所は足を運んできた身ではあれど、この曲をライブで聴いたのがいつ以来かということを全く覚えていないくらいに。メンバーの演奏も斎藤宏介(ボーカル&ギター)の歌も、アッパーに周年を祝うという感じではなく、ひたすらに丁寧に、楽曲の持つ魅力をしっかり伝えようという意識を感じさせた。
しかしながら続く「シャンデリア・ワルツ」では一気にバンドの演奏が熱量を増し、田淵も激しく体を動かしながらベースを弾く。そのアクションやサウンドに合わせて観客も飛び跳ねまくるが、かつてはライブの最後によく演奏されることもあったこの曲の、
「だからこそ今 大事な約束をしよう」
というフレーズによって我々はこのバンドのライブでまた再会するという約束をし続けてきた果てにこの日があるし、
「わからずやには 見えない魔法をかけたよ」
というフレーズの通りにこのバンドの素晴らしさがわかってしまった我々はユニゾンというバンドの持っている魔法にかかり続けて今に至っている。この曲はこれまでに数え切れないくらいに聞いてきた曲であるが、こうしてこの場所で聞くとまた聞こえ方や感じ方が全く違う。
最初の2曲がともに「CIDER ROAD」の収録曲だっただけに、「もしかして?」と他の収録曲も多数演奏されるというリリースから6年も経っているにもかかわらない特別さ(個人的にこのアルバムがユニゾンのキャリアの中でも屈指の好きなアルバムであるということもあるが)を見せてくれるのだろうか?という期待もあったけれど、ドラムの鈴木貴雄がヘッドホンを装着すると打ち込みの華やかなブラスの音が流れた「君の瞳に恋してない」と、やはり様々な年代の曲が演奏されるようだ。この曲も「シャンデリア・ワルツ」と同様に近年のライブでは欠かせない存在の曲になっているが、その華やかなサウンドもまた15周年のお祝いという意味合いを持って鳴っているように聞こえたし、サビでは斎藤の歌に田淵、鈴木のコーラスだけでなくこの曲とバンドを愛する観客たちの声も重なっているように聞こえた。
常々、このバンドは好きなように、自由にライブを楽しんでほしいというメッセージを打ち出しているだけに、そうしてサビで一緒に歌うのも間違いではないし、サビの後半のフレーズでリズムに合わせて手拍子をするのも、あえてそれをしないのもその人次第。メンバーは決してそれは煽ったりすることもなければ、否定するようなこともしない。今のロックシーンにおいてそれは異端であるが、だからこそこのバンドのライブはどんな人も決して置いて行ったり、疎外感を感じさせたりしない。バンドに合わせたり、周りに合わせたりする必要はないのだから。それはバンドが周りにも、観客にも合わせなかったということの証明でもある。
「UNISON SQUARE GARDENです!今日は長いよ!」
と斎藤がここで軽く挨拶。普段は田淵の
「自分がライブを見に行くんなら、ダラダラやるんじゃなくて1時間半くらいで終わって、その後に一緒に来た人と軽く飲んで帰る、みたいなことができるライブが良い」
という方針ゆえ、ユニゾンはワンマンでもだいたいそのくらいで終わるし、余計なMCを挟んだりすることもない。しかしやはりこのライブはそういう普段のものとは違うということを示している。だからこそいつもよりちょっと早い17時30分という開演時間にすることによって、終わる時間をいつもと変わらないくらいにしているんだろうけれど。
それはつまり、この日はいつも以上にたくさんのユニゾンの名曲たちをライブで聴けるという期待を改めて抱かせるものになったのだが、斎藤のジャキジャキとしたストロークが刻み始めたイントロは実に久しぶりの「流星のスコール」。まだ夜とは言えない時間帯と空模様だし、分厚い雲に覆われていて星は見ることはできない。でもこの曲が演奏されることによってこの場所に流星が降り注いだかのような感覚だった。この曲の演奏中に空を見上げたのはきっと自分だけではないはず。
軽やかなサウンドに合わせて、田淵が手を揺らし、独特なステップでベースを弾くというよりももはや踊っているというようにすら見える「instant EGOIST」。やはり間奏部分のキメの連発に挟まれる「23:25」のリフのフレーズには大きな歓声が上がっていた。
期待されていたシングル曲というくくりで言うと、ここで「リニアブルーを聴きながら」「Invisible Sensation」という2曲を連発したのだが、どちらもアニメのタイアップとして起用され、多くの人にとってもしかしたらユニゾンと出会うきっかけになったかもしれない曲。こうしてシングル曲が多数演奏されることによって、否が応でもこの日のライブは「聴いている人とユニゾンの歴史」が交差し、重なるものになっていく。
「今日を行け、何度でも、メロディ」(「リニアブルーを聴きながら」)
「だから、生きてほしい!」(「Invisible Sensation」)
という他にこのメロディに当てはまる言葉なんか存在しないんじゃないか、というくらいにバシッとハマったフレーズはライブで聴くとより一層、会心の一撃が決まった、という気分になるし、心の中でも実際に体においても腕を高く掲げたくなる。
そんな流れがいったん落ち着いたのは、インディーズ時代の「流星前夜」に収録されていた「2月、白昼の流れ星と飛行機雲」の続編的に描かれた、「Dr.Izzy」収録の「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」。夏の野外、ちょうど陽が落ちて暗くなってくるというタイミングを見込んでのこの位置というのは間違いなくバンド側が狙ったものであろうし、それは確かに観客たちも感じ取っていたはず。斎藤のボーカルも空高くまで登っていくような伸びを見せていて、テクニカルだったり激しいアクションだったりというところではないこのバンドの魅力をこの野外の大会場でもしっかりと伝えられる選曲だ。
というように割とこの日はここまではバンドの最大の飛び道具的な存在である田淵が大人しめな感じだったのだが、続く「オトノバ中間試験」では激しく高く足を上げながら演奏し、ミュージックステーションなどに出演した際にお茶の間に衝撃を与えた、「ベーシストってこんなに動くの!?」という田淵らしさの面目躍如を果たす。
この15周年は珍しくその田淵が「俺たちを祝ってくれ!」モードになっており、このライブもそのモードの一環であるのだが、リリースという意味でも15周年ならではのアイテムが世に出ている。このライブの直前にはこれまでのこのバンドとゆかりがあるアーティストたちが参加したトリビュートアルバムがリリースされたが、その前にはカップリング集もリリースされている。未だにシングルコレクション的なベストアルバムがリリースされておらず、表よりも先に裏を出すというのは実にこのバンドらしいひねくれっぷりではあるが、この日はそのカップリング集が出たばかりだというのにその中には収録されていない、「スカースデイル」のシングルに収録され、その前は「神に背く」という仮タイトルでライブでも演奏されていた「カウンターアイデンティティ」が披露される。
田淵は常々
「途中から僕らのことを好きになった人たちが昔のシングルとかをわざわざ集めたりしなくていいように」
と、ライブで演奏されるカップリング曲は「ガリレオのショーケース」くらいにとどめていたが、こうしてカップリング集がリリースされたことによってこうしてライブで演奏されるようになる曲も増えてくるだろうし、ユニゾンはカップリング曲において、カップリングという立ち位置だからこその遊び心を発揮しながらも、決してクオリティという面ではシングル曲やアルバム曲に劣るような曲を出してこなかった。だからこそカップリング曲を愛する人たちもたくさんいるし、そうしてカップリング曲たちに光が当たるのは実に嬉しいことだ。
昨年リリースのシングルとしては最新曲である「Catch up, latency」も斎藤と田淵が間奏でサイドギリギリまで出ながら演奏して最新のモードと最新の姿をしっかり見せるというのはこれまでのユニゾンと変わらないし、記念ライブという場であっても揺らぐことはないスタイルであるが、その後に演奏された、かつて「DUGOUT ACCIDENT」に新曲として収録され、カップリング集では「15th style」として15周年記念バージョンに歌詞が変わった「プログラムcontinued」は
「何気ない歌で何気ない記念日をお祝いしたら」
と、バンド自身がバンドの15周年を祝うように演奏されていたし、観客もそれをみんなわかっていたからこそ、ここまでに演奏されたどの曲よりも長くて大きな拍手が演奏後に巻き起こり、
「おめでとうー!」
という声まで飛んでいた。みんな、この曲がこの場所で演奏されたことの意味をちゃんとわかっている。バンドがこれまでに世に送り出してきた1曲1曲をしっかり受け止めて、噛み締めながら自分自身とユニゾンとの物語に重ね合わせている。ユニゾンは本当に良いファンたちに恵まれているバンドだな、と思うし、
「それでもまだちっぽけな夢を見てる」
からこそ、15年を過ぎても終わることはない、
「依然 continued」
なのもみんなよくわかっている。
そんな、ある意味では一つのクライマックスを迎えた後に至って自然に演奏され始めたのは、黄色い照明がメンバーを照らす「黄昏インザスパイ」。この曲が「プログラムcontinued」の次に演奏されたことによって、ここからある意味では第2部の始まりを告げたかのようであるが、続く「春が来てぼくら」は季節的にはもう全く春ではないにもかかわらず、
「今日は 花マルだね」
というフレーズがまさにこうしてこの日この場所でこのライブを見ている我々の心境を言い当てているかのように響く。田淵智也という男は本当にどの曲もここで演奏されるべきと思えるような曲ばかりを作ってきたというのが恐ろしくすら感じてしまう。
「雨、降りましたね。でも止みましたね。雨が止んだから、すごく暑くて。雨でずぶ濡れになったみたいに汗をかいてしまってますけれども」
と斎藤が口を開くと、
「僕らはよくインタビューとかで「観客を煽ったりするのってダサくないですか?」みたいに生意気なことを言ったりしてるんですけど、初期の頃はバリバリ煽ったりしてました(笑)
「いけるかー!」みたいな(笑)
田淵も代官山でワンマンをやった時に
「かかってこいよ、バカやろー!」
っていう北野武さんのモノマネなのかな?っていう煽りをしていて(笑)あの心理は未だにわかりません(笑)
あと、大阪で言うとMINAMI WHEELっていうイベントに出させてもらった時も、ホイールっていうライブのタイトルにかけたのか、
「お前たちのホイールを回せー!」
って煽っていて。あの時の心理も未だに怖くて聞けません(笑)」
と今の自分たちのライブのスタイルが活動を続けてきた中で徐々に培われてきたということを笑いをもって示すのだが、確かに初期の頃(「Populus Populus」あたりまで)はライブでも普通に煽ったりしていたし、手拍子もメンバーが率先したりしていた。逆に言うとシーン全体がそうした流れになっていった中で違和感を感じたのがスタイルの変化への転機になったのだろうが、その当時の気持ちを思い出すかのように演奏されたのは、インディーズ時代の「水と雨について」。
まるで雨が降るのを予期していたかのような選曲であるが、今になって音源を聴くと、かなり荒削りというか、ライブのスタイル同様にまだ演奏に関してもバンドのスタイルは完成していなかったのだろうと思わせるくらいに斎藤の歌もかなり衝動的だ。だがこの日はそんな当時の曲を今のスタイル、今の実力のユニゾンのサウンドでもって鳴らされていたし、
「明日晴れるのは ため息のせいなんかじゃなくて」
という歌詞のとおりに、ライブの翌日は茹だるくらいの快晴だった。自分が始めてユニゾンのライブを見た時も演奏されていたこの曲は、あの時に「きっとこのバンドはすぐにデカいところまで行くな」と思ったことを思い出させてくれたが、実際にこうしてデカいところでライブをやるようになった時に、まさか自分が千葉から大阪まで観に行くようなバンドになるなんてあの時は思ってもいなかったな、ということも。
美しいピアノの同期のサウンドが流れた「harmonized finale」は否が応でもライブがクライマックスへ向かっていくという気分にさせられるが、さらに実に久しぶりの「cody beats」、近年のライブではメイン的な存在感を担っている「10% roll, 10% romance」という新旧のシングル曲を連発していく。
どれもがユニゾンの歴史を語る上では外せない曲たちであるが、とりわけこうしてライブで演奏されたのはいつ以来だろうか、と思ってしまう「cody beats」の
「その声がする方へ僕は歩き出す 君の待つ場所へ」
というフレーズは誰よりもこうしてこの場所に来てくれた人たちに歌われているようだったし、実際にこの曲はこのフレーズが歌い出しであるのだが、すでに15曲以上をほとんど休むことなく( MCも1回しかしてないし、水を飲んだりという曲間も数回しかない)歌っているにもかかわらず斎藤のボーカルは実に力強い。田淵が書いた歌詞ではあるが、メンバー全員の意志がしっかりと演奏される音に乗っている。
すると斎藤がここで、
「ドラム、鈴木貴雄!」
と紹介すると、ワンマンではおなじみの鈴木のドラムソロへ。一時期は斎藤と田淵がパーカッションを手で持ってそれを鈴木が叩くというメンバー協力型のものに進化した時もあったが、この日はドラムを連打しながらも自身で同期のサウンドのスイッチを押してそのダンサブルなサウンドに合わせたドラムソロを展開、というドラムソロの究極系と言っていいものになっている。最後にはコートを脱ぐのか?と思わせるようなフリも見せたが、脱ぐことはなくコートの裏地を観客に見せつけるという自身のアピールの仕方。
ワンマンの時は毎回書いている気もするけれど、初期の頃は田淵や斎藤に比べると鈴木は地味な存在だった。同世代の超人と評されたドラマーたちに比べてもそこまでまだドラムが上手いという立ち位置でもなかった。それだけに、15年で最も存在が変わったのはこの鈴木だろう。ライブを重ねる度に手数を増やし、ドラムソロのバリエーションを増やし…その変遷を見てきただけに、いきなり進化した、というわけではない。あくまで積み重ねて積み重ねてこうして凄まじいドラマーになった。それはユニゾンというバンドの歩みそのものであるだけに、精神ではなくその身をもってユニゾンというバンドの存在を体現してきたのはこの鈴木という男なのかもしれない。
そのドラムソロからイントロにつながるように雪崩れ込んだ「天国と地獄」からは田淵が斎藤の後ろに回り込んで演奏したりと、さらにアッパーに振り切れていくのだが、ここからの「fake town baby」「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」という曲たちは、すっかり暗くなったシチュエーションだからこそ、照明がメンバーや客席を照らす、重要な役割を果たしていたし、間違いなくこの曲たちをこの後半においたのはその照明が最大限に力を発揮できる時間帯だからというのが念頭にあったのだろうし、記念ライブだからと言って特別な演出を演奏中に使ったりすることはないユニゾンではあれど、チーム全体が最小限の演出で曲の魅力を最大限に伝えるためにはどうするべきか?ということを考え尽くしてのものであるということがわかる。田淵やメンバーのライブへの意志やスタンスは3人だけではなくライブを作る全ての人の共通認識になっているのだ。
そしてバンド史上最大のヒット曲でありながらも最近はたまにフェスなどでは演奏されない時すらある「シュガーソングとビターステップ」もしっかりと演奏される。この曲以前とこの曲以降ではユニゾンの立ち位置はガラッと変わったし、だからこそ田淵はより一層このバンドを守るために慎重にバンドを進めてきた。単なる代表曲であるだけではなく、重要なターニングポイントになったこの曲もまた、やはりこの日のライブには欠かせない存在の曲。
そして斎藤がそろそろライブが終わりに近づいていることを告げる。この日はアンコールもやらないことも。さらに、
「僕たちは自分たちのためだけに音楽を作ってきた。それをちょっとずつ好きな人が増えてスタッフも増えて。そんなUNISON SQUARE GARDENが好きな人たちを大事にしたい。その方法を1つだけ知っている。これからも自分たちのためだけに音楽をやること」
と、改めて自分たちのスタンスを口にした。出会ってから10年以上経って、様々なことが変わったし、変わったからこそこんな大きな場所でこのバンドのライブを見ることができているけれど、1番大事なことは今でも決して変わっていない。だからこそ我々はずっとこのバンドのことを追う立場だった。向こうが好きなことをやり続ける。我々はそれを追いかける。追いかけようと思えなくなったら、そこで止まってもいい。でも今でも止まることはないし、こっちに寄ってきたり、距離感が詰まったりは決してしない。この斎藤のMCが、これまでのユニゾンを聴いてきた、見てきた人生を全て肯定しているかのようで、ここまで見に来て本当に良かったと思えた。
「2人もなんか喋る?」
と斎藤が振ると、先に鈴木が立ち上がり、マイクを手にする。
「俺は人間的にはすごく欠陥があるってわかってて。マネージャーからのメールもあんまり返したりしないし(笑)
でもそんな俺を2人はずっと見捨てないでいてくれた。こいつにはなんかあるんじゃないかって思い続けてくれた」
と、2人への感謝を告げながら、
「でも今日の俺のドラムソロ、凄すぎない!?(笑)」
と、今の自分自身にちゃんと自信を持てている。
今でこそこうして鈴木が喋るのは珍しいというか、たまにワンマンで喋るというくらいのものだが、初期の頃はむしろ面白いMCをするのは鈴木、くらいに普通に喋っていた。(赤坂BLITZで初めてワンマンをした時に会場を爆笑させたMCは今でもよく覚えている)
でも、当時よりもドラムはもちろん、喋りも本当に上手くなった。ちゃんと自分が何を言いたいのかということをわかった上で喋るようになった。そこにも確かな成長を感じさせたし、ソロや曲提供、さらには違うバンドでも活動する2人とは違って、鈴木はユニゾンというバンドでしか生きてこなかったと言ってもいい人なんだよな、とも思えた。
で、これまで記念碑的なライブでは毎回キラーフレーズを残してきた田淵はというと、
「いやー、UNISON SQUARE GARDENっていうのはすげぇバンドだなぁ。またやるぞー!」
という一言を残したのみだったが、そこにはこのバンドの活動において最も慎重に、目立たないように大規模な会場でやることを控えてきた田淵の思考も少し変化したというか、またこうしてたくさんの人と一緒にこのバンドのライブが観れる機会がすぐに来るんじゃないか、と思えたし、それがなかったとしても5年後には間違いなくこうした景色(それはもっと大きなものになっているだろうけれど)が観れるという確信を感じさせるものだった。
そんな言葉の後に演奏されたのは
「だから僕は今日も惑星のどこか
誰にも触れない歌を歌う
近づき過ぎないで
ちょうどいい温度感であれ」
というバンドの姿勢と、バンドとファンの理想的な距離感をそのまま曲に落とし込んだ「さわれない歌」。どっからどう聴いても名曲でしかないメロディでありながら、この曲はシングルのタイトル曲にはならなかった。でもならなかったし、タイアップがつかなかったからこそ、こうしてバンド自身のことを歌える曲になったし、それをわかっている人たちが集まったこの日のライブのこんな大事な位置で演奏されるような曲になった。ある意味では1番この曲が響いたという人も多かったんじゃないかと思われる。
そして、
「足りない!キック、リズムを打て!
ベース&ギター おまけに僕が歌えば四重奏」
と、スリーピースという編成でありながら、四重奏(カルテット)というタイトルのタイアップと幸福な邂逅を遂げた「桜のあと (all quartet leads to the?)」のメッセージが今はバンドのものとして強く響き、コーラス部分ではやはりメンバーだけではなく観客の声も四重奏の一つとして響いていく。
もうそろそろライブが終わる。そんな寂しい空気が満ちていく会場の空気をイントロの演奏で一瞬で歓喜に変えたのは、かつてのバンド最大の代表曲でありながら近年はなかなかライブで演奏されていなかった「オリオンをなぞる」。もしかしたら、この曲でユニゾンと出会ったという人がこの日最も多かったかもしれない。その曲がこうして大事な日に演奏されている。田淵はステージ真ん中まで出てきて、コーラスパート以外の部分でも思いっきり歌っているかのように口を動かしている。
「ココデオワルハズガナイノニ」
という最後のフレーズの通りに、この日が終着点ではない。まだまだユニゾンの物語は続いていく。でもこの曲でユニゾンに出会って、この日この場所で初めてライブでこの曲を聴けたという人もたくさんいたはず。そういう人たちにとっては間違いなく一つの到達点と言っていいライブだっただろうし、忘れられない1日の、さらに忘れられない一瞬になったはず。
「15周年お疲れ様でした、バイバイ!」
と、自分自身がその一部であるにもかかわらず、UNISON SQUARE GARDENという大きな存在を労うように言葉にして最後に演奏されたのは、インディーズでの最初の作品である「新世界ノート」に収録され、後にメジャーデビューシングルにもなった、ユニゾンの始まりの曲と言っていい「センチメンタルピリオド」。
最後のサビの前、3人は演奏をぴたりと止めた。そしてこの景色を見渡すように呼吸を止めてから、
「低空の低空を走ってるのが僕なら」
と斎藤が歌い始めた。この曲を作った時、こんな景色の前で演奏できるなんて3人は思っていただろうか。そもそも最初からそうした広い場所を目指していなかったかもしれないけれど、常々田淵はこうした広い場所でのライブを「ボーナスステージ」と呼んできた。そんなボーナスステージに最も立たせてやりたかった曲はきっとこの曲だったはずだ。
最後には田淵がベースを置いて前方宙返りをして大歓声を浴びたが、こうしてユニゾンのワンマンを見に大阪まで来たっていうのも、「それも別に悪くねえよ」というよりも、それが本当に最高なものだったことを「わかってるよ」と言っているような。最後に斎藤が放った
「バイバイ」
というフレーズにはそんなこの日に至るまでと、この日に感じたすべての感情が内包されていたかのようだった。
演奏を終えると、やはり写真撮影をしたりということはせず、観客の歓声に応えるのみ。しかし鈴木はスティックを投げ込んだあと、誇らしげに後ろを向いて、ドラムソロの後と同じように背中を見せた。それは言葉にはしなかったが、これからも絶対に裏切らないから着いてこい、と言っているかのようだった。
メンバーがステージを去ると、暗くなった会場には15周年に合わせて15発の花火が上がった。観客のカウントダウンとともに次々に上がる花火を見て、これは単なる大きな会場では見ることができない、野外ワンマンだからこそ見れたものだな、と思うと、普段と全く変わらない、演出も特別なことをしない、ただ良い曲を良い歌と良い演奏で聴かせるといういつも通りのユニゾンとしてのライブを貫いたこの日、最後に見せたいつもとは違う景色だった。
大阪というか、関西という土地が少し苦手だった。自分の性格にちょっと合わないというか、ノリについていけないというか。だからか、関西のお笑い芸人よりも、東京の芸人の方が見ていてはるかに面白いと感じるような人間である。
でもこの日こうしてユニゾンという好きなバンドが記念のライブを大阪でやって、そこに関わったスタッフやシャトルバスの運転手の方がみんな笑顔で
「ありがとうございました!」
と参加した我々に言ってくれた。そうした一つ一つによって、来る前よりもちょっと大阪が好きになれたような気がした。
かつて、田淵はライブのMCで
「どうだ!ロックバンドは楽しいだろう!」
と叫んだことがある。その楽しさをライブを通してずっと感じさせてくれたからこそ、こうしてずっとライブを見続けてきた。そしてそれはきっとこれからも変わらないし、ユニゾンも変わらない。何よりも、自分もユニゾンもロックバンドというものに「それでもまだ ちっぽけな夢を見てる」。だから、これからもずっとcontinuedでよろしく。
1.お人好しカメレオン
2.シャンデリア・ワルツ
3.君の瞳に恋してない
4.流星のスコール
5.instant EGOIST
6.リニアブルーを聴きながら
7.invisible Sensation
8.8月、昼中の流れ星と飛行機雲
9.オトノバ中間試験
10.カウンターアイデンティティ
11.Catch up, latency
12.プログラムcontinued
13.黄昏インザスパイ
14.春が来てぼくら
15.水と雨について
16.harmonized finale
17.cody beats
18.10% roll, 10% romance
-鈴木ドラムソロ-
19.天国と地獄
20.fake town baby
21.徹頭徹尾夜な夜なドライブ
22.シュガーソングとビターステップ
23.さわれない歌
24.桜のあと (all quartet leads to the?)
25.オリオンをなぞる
26.センチメンタルピリオド
文 ソノダマン