2002年に新人バンドが「シングルを300円で3枚連続リリース」という形でデビューを果たした。その手法よりも衝撃的だった音楽はそのシングル3曲が収録されたアルバム「創」によってそのバンド、ACIDMANの名をロックファンに広く知らしめることになる。
そんな「創」のリリースから17年(ちょうど2002年の10月30日がリリース日だった)経ったタイミングでその「創」の再現ライブを開催。ツアー形式となる再現ライブはこの日が初日であり、果たしてどんな一夜になるのか。
19時前から客席は完全に超満員で、こんなにZeppに入れていいのかと思うくらいに入り口扉まで人で溢れている。それは客層的に前方に圧縮したりしないからというのもあるだろうけれど、平日にもかかわらずチケット即完という事実はこのライブを楽しみにしていた人が本当にたくさんいることのある証明でもある。
19時を少し過ぎたあたりで場内が暗転すると、流れ出したのはいつものSEの「最後の国」ではなく「創」の1曲目である「8 to 1 completed」。当時のメンバーがこうしてSEとして使うために作ったのかは定かではないが、この段階でやはり普段のライブとは違うものになるということがわかる。メンバーは大木伸夫(ボーカル&ギター)が物販で販売しているシャツを着ている以外はいつも通りだが。なので大木はハットを被っているし、サトマこと佐藤雅俊(ベース)はキャップ、浦山一悟(ドラム)はニット帽を着用。
SEに続いてサトマの重いベースのイントロからバンドが演奏し始めたのはデビューシングルとなった「造花が笑う」。客席からは「オイ!オイ!」という力強いコールが巻き起こり、かつては歌い切ることができない時も多々あった(特に最後の一段高く、声を張る部分で)大木は完璧に歌いこなしている。17年も前の曲であることやメジャーデビューしてから17年も経っている、完全に「ベテラン」と呼んでもいいような年齢を全く感じさせない楽曲のクオリティとバンドのみずみずしさと衝動を強く感じさせる演奏。そしてその演奏に応える観客もまた然り。メンバーと同年代だとしたらアラフォー、学生時代に「創」を聴いていたとしたらアラサーという年代の人が多かったと思われるが、アナウンスで「禁止」と言われていたモッシュやダイブが起こってもおかしくないくらいの激しさに満ちている。
これは「創」の曲順通りの流れであるが、続いて演奏されたのはインディーズ期にリリースした「酸化空」に収録されている英語詞の「FREE WHITE」であり、どうやらアルバムの曲順通りに演奏する再現ライブにはならないし、「創」の曲だけを演奏するライブではないということがこの段階でわかる。しかしこの曲をまさか今になってライブで聴けるなんて、いくら「創」の再現ライブだとしても全く予想していなかったし、演奏が始まった時の観客のリアクションもそうしたものだったと思う。
ここで早くも大木のMCが。
「リリースした当時は東京のライブは渋谷のO-WESTだった。それが今こうして「創」のライブをZepp Tokyoっていう大きな会場でできるようになっている。本当にみんなのおかげです」
と当時を思い返しながら挨拶。大木は当時O-WESTにライブを見に来ていた人がいるか尋ねていたが、そこそこ腕が上がっていたのが見えた。17年という長い年月。生まれたばかりの子供は高校生になっているし、学生の頃にこのアルバムに出会った我々は完全に社会人になった。そんな長い年月をずっとACIDMANと共にしてきた人がこの場にいるというのはそれだけで感動的なことだった。大木は
「君たち10ポイント!」
と謎のポイント制を導入していたが、ポイントが貯まるとどうなるのかは結局全くわからない。
そんなMCを経ると「シンプルストーリー」からは再び「創」に収録された曲を演奏していく。「SILENCE」「バックグラウンド」と、聴いているとやはり近年のACIDMANのアルバムに比べると勢いを感じるギターロックな曲が多いように感じるが、それはやはり若さゆえのものだったのだろうか。そのまま歌詞を広げていって小説にできそうな感すらある「シンプルストーリー」や、自然界の主が人間に問いかけているかのような「SILENCE」など、すでにこの時点で作詞家としての大木は完成しているというか、良い意味で全く若さを感じさせない。だからこそ今でも色褪せたように全く感じずに聴けるというのもあるだろう。
すると後にベストアルバムにて再録されたが、こちらもインディーズ期の曲である「to live」へ。大木が初めてに近いレベルで作った曲であり、歌詞の締めが
「儚い夢と共に死ね」
というフレーズなのは若さゆえだろうけれど、演奏後に大木も言っていた通りにこの「死ね」は「生きろ」と同義の「死ね」である。(哲学というか禅問答っぽくなっているが…)
そうした「生と死」「生命」ということもACIDMANのずっと歌い続けてきたテーマであるが、まだこの当時はそれを言い当てるためにはこの曲くらいの言葉を並べないと表現できなかったのかもしれない。そう考えると「インディーズ / メジャー」という時期で何か作詞におけるきっかけがあったのかもしれない。とはいえ「SILENCE」もインディーズ期からある曲であるが、作られた時期に差があるのかもしれない。大木は間奏で自身の弾いたギターフレーズをループさせてギターを重ねていくというスリーピースバンドゆえのライブでの制限を自身の技術と経験でもって超えていく。
「僕らは最初から激しい曲もやってきたし、バラードもやってきたし、インストもやってきた」
とアルバムを作る際のバンドの揺るがぬスタイルを口にしてから演奏されたのはそのインスト曲である「at」。そのままシームレスに繋げた「spaced Out」へという流れは大木の言葉を体現するようであるし、当時こうしてギターロックにジャズやフュージョン的な要素を取り入れたり、インストやインスト曲があることを活かした曲をやっているバンドはほとんどいなかったことを思い出す。そうした意味では明確に「フォロワー」という存在のバンドを見出すのは難しいけれど、ACIDMANは一つの時代や流れを作ったバンドと言えるのかもしれない。後にthe band apartなども台頭してくるようになるのだが、その土壌を作った存在のバンドとも言えるのかも。
さらにインディーズ期の「酸化空」と続いたのだが、まだこの段階ではデビュー期くらいの曲を演奏している、というくらいにしか思ってなかったし、なんならこの後普通に「ある証明」やら「ALMA」やら「MEMORIES」やらの近年のライブ定番曲が演奏されるものだと思っていた。
「太陽」や自然というこれもACIDMANのメッセージ、そして大木の生き方としても重要なワードが登場する「香路」(余談だがこの曲はsecond lineというアコースティックバージョンが素晴らしい)を演奏し、これでだいぶ「創」の曲を演奏したなと思っていると、ここで一悟によるMC。
「ドラムセットの椅子の高さを当時と同じくらいにした」
という実にどうでもいい(大木&サトマ談)話から、
「17年も経つと社会人になったり、結婚したり、ハイソサイエティな立場になった人もいるんじゃないかと…」
と「ソサイエティ」を「創、再現」にかけるように発音するのだがあまりに強引過ぎてほとんど気づかず。しかも
大木「一悟くんは当時MCやってなかった…」
一悟「ちょいちょいちょい!やってましたから!(笑)」
と当時からMCをしていたのにその記憶は大木に完全に抹消されてしまっていた。
しかしながらこうしたMCや、特に大木の喋り方などは年数を経て最も変わったと思えるところだ。昔はACIDMANのライブのMCでこんなに笑いが起こることはほとんどなかったし、ロッキンオンジャパンの表紙になった時の大木の鋭い眼光の写真は今でも忘れられないくらいに当時は尖っていた。そこにはナメられたくないという気持ちもあったからだと思うけれど、ストレイテナーのホリエアツシやthe band apartの荒井岳史などと同様に大木も実に柔らかくて温かい人間らしさを感じさせるようになった。そこについしみじみとしてしまうし、かつてよりも確かに「楽しい」と思える瞬間が多くなってきている。大木の宇宙についての話も笑える要素が多くなってきているからか、みんなしっかり聞いているように思う。
時系列的には「創」の次作である2ndアルバム「Loop」に収録されていることによって、やはり他のアルバムの曲もやるんだな、とも思うがよくよく思い返してみるとインディーズ盤にも収録されている「今、透明か」は1曲の中で静と動を感じさせる展開の曲であり、実際に途中までは青を基調とした照明が神秘的にメンバーを照らしていたのが、後半ではガラッと開けたサウンドに合わせて輝く光が降り注ぐように明るく場内を照らし出す。そこから感じるのはやはり生きていく上での希望である。ACIDMANのライブを見た後はいつも見る前よりもわずかでも確かに少し前向きに世の中と対峙することができる。それはACIDMANの音楽から希望を感じて、それを受け取っているからである。
そしてサトマのベースラインがより重さを増していく「アレグロ」からは「創」の世界は後半へと向かっていく。それこそ300円シングルの第二弾としてリリースされた曲も完全に17年前の曲であるが、今でも強く強く鳴り響いているし、リリース時にCOUNTDOWN TVのオープニングテーマとなってたくさんの人に聞かれるきっかけになった「赤橙」は今でもイントロが鳴るだけで歓声が湧くという点においてもACIDMANの代表曲であると言えるし、こうしてこのセトリで聴くと当時このバンドが纏っていたり託されていた期待度の高さを思い出すことができる。
そしてこれぞこういう機会じゃないとなかなか聴けない曲である「揺れる球体」を極上のバンドアンサンブルで演奏した後に大木が、
「気付いてる人もいるかな?今日のセトリはそれこそさっき言ったO-WESTの時と同じものです。「創」の曲に新しい曲を入れたり…とかいろいろなことを考えたんですけど、やっぱりこれで良かったのかなって。俺もセトリ忘れてたから調べたんですけど(笑)
で、当時は今の「揺れる球体」で終わりだったんです。でもそれだと流石に短いなと思って、当時アンコールでやった曲をそのまま本編でやるために俺たちはこうしていすわってます(笑)
アンコールでなんの曲やってたかわかる人いる?その後にリリースする新曲って言ってやった曲です」
(*このセトリはネタバレしないようにと大木社長からお達しあり)
と言って演奏されたのは「創」の後にリリースされた「飛光」。間奏では大木もステージ前に出てきて煽りながらギターを弾き、スリーピースバンドとしての限界に挑むような演奏を見せていく。声を強く張り上げる大木のボーカルも終盤にきても揺らぐことはなくしっかりと歌い切れている。
インディーズ時代の中で最後に残された、サトマと一悟のコーラスも冴え渡る、パンクさすら感じるサウンドの「培養スマッシュパーティー」こそ大木に
「曲も俺たちもみんなも色褪せてないけど、「培養スマッシュパーティー」だけはタイトルからしても若さを感じてしまう(笑)」
と言われていたが、それは逆に言うと知識と経験と技術のある今では作ることができない衝動が詰まった曲であると言える。
そして最後に演奏されたのはやはり「Your Song」。今でも大事な場面ではアンコールなり最後に演奏されている曲であるが、それは「創」リリース当時から決まっていたことだったのかもしれない。
しかし当時ときっと違うのは、こうしてACIDMANのライブを何度となく見てきた人たちはこの曲への想いが当時の何倍も強くなっているということ。大事な場面で演奏されてきた大事な曲なだけに、「創」の中の1曲として聴くにはあまりにも思い入れが強くなりすぎている。自分としても先月の中津川THE SOLAR BUDOUKANの大トリの最後に演奏された時なり、ACIDMANがさいたまスーパーアリーナで主催したライブの時にスクリーンに観客の姿が映った演出だったり、もう15年くらい前にACIDMANがイベントのトリをやった時のアンコールだったり…そうしてこの曲を聴いてきたライブの思い出が蘇ってくる。それは決して「創」リリース当時のことだけではないし、これからもこうしてライブで聴くことによって増え続けていくんだろうと思う。
そうして当時アンコールで演奏していた曲を本編に凝縮したために、後はなんの曲をやるんだろうか?と思っていると、
「普段なら物販の宣伝とかするんだけど、今日は売れ行き好調らしくてしなくても大丈夫っぽいです(笑)」
と笑わせながら、
「最後に何をやるべきかいろいろ考えたんだけど…新曲をやろうと思います。まだリリースとかも全然決まってなくて。まぁ俺が出そうって言えば出せるんだけど(笑)
でもこうしてライブで演奏してみんなの反応見て歌詞もアレンジも変わるかもしれないしね。反応悪かったら出さないっていう可能性もある(笑)
もう42歳だから昔みたいに激しい曲ではないけれど(笑)」
と言って演奏された「灰色の街」は確かに激しいというか速いロックチューンではないが、大木の歪んだギターのサウンドは確かにACIDMANならではのロック・ミドルチューン。しかし一聴して名曲なのがわかるくらいにメロディが美しい曲であり、なんならすぐにでもシングルとしてリリースされてもいいんじゃないか?とも思うけれど、この曲を演奏したということだけはネタバレしてもいいということだっただけに、このツアーを通して育てていこうというバンドからの姿勢を感じる。
その姿勢しかり、再現ライブというある意味では振り返りの作業のライブにおいて新曲を演奏するということは、ただ昔を懐かしんだり、思い出に浸らせたりするのではなくて、現在進行形のバンドであることを証明すること。
メンバーが言っていた通り、ACIDMANは大木がサトマと一悟を引っ張っていくという体制は全く変わらないままでここまで止まらずに進んできた。その関係性はおそらく学生時代からそうなのだろうし、この先もずっと変わらないはず。何よりも形が変わらないどころか、サポートメンバーすら入れずにずっと3人だけで続いてきたというのはこれはもはや奇跡だ。そんなバンド他に全然思いつかない。形は変わらなくてもその都度編成を変えているバンドは思いつくけれど。それはどちらが良いとか悪いではないけれど、どちらの方が続けるのが難しいというと前者のACIDMANのような形だと思う。
近年、ACIDMANはフェスなどではなかなか大きいステージに見合うような動員ができているとは言い難い。それはベテランの宿命であるとも言えるだけに仕方がないことだ。でもこの日の超満員のZeppの景色を見ると、ただそうしたフェスには行かない人たちがいるだけで、ワンマンならまだまだACIDMANは広い場所に立てるバンドだと思える。
それは動員という面だけではなく、こうして「創」の曲をライブで聴いていると、ACIDMANはデビュー時からこの規模でやるべきスケールを持ったバンドであるということがわかるし、これからもバンドの持つスケールに見合ったステージに立つ姿を見ていたい。
ロッキンもCDJも客席が満員になっているとは言い難いが、それでも2番目に大きいステージに立ち続けているのは主催者側もACIDMANはそのスケールのステージが見合うということをわかっているからだと思う。
何よりもやはり1番はライブの力そのもの。ACIDMANのライブを見て体や心が震える瞬間は数え切れないくらいに体験してきたが、良くなかったと感じたことは一度もない。そしてそれはただそれを維持するというのではなく、さらに進化させようとしている。きっとO-WESTでの17年前のライブよりも、今の方がずっと良いライブをしているはずだ。
ああ、こんなライブを見てしまったら、この日演奏した「飛光」や「今、透明か」が収録された「Loop」や、もはやロックバンドのアルバムを芸術作品のレベルにまで昇華させた「equall」の再現ライブも見たくなってしまうじゃないか。まだまだACIDMANを追い続ける理由が確かにある。そう感じられた一夜だった。
SE.8 to 1 completed
1.造花が笑う
2.FREE WHITE
3.シンプルストーリー
4.SILENCE
5.バックグラウンド
6.to live
7.at
8.spaced Out
9.酸化空
10.香路
11.今、透明か
12.アレグロ
13.赤橙
14.揺れる球体
15.飛光
16.培養スマッシュパーティー
17.Your Song
encore
18.灰色の街 (新曲)
文 ソノダマン