2019年9月9日というこのバンドのためにあるんじゃないのかという日にアルバム「DEEP BLUE」をリリースした、9mm Parabellum Bullet。
リリース日には昭和女子大学の人見記念講堂にて凛として時雨とのツーマン、さらに10月にはTHE BAWDIESとの男性限定ツーマンと、バンドにとって縁深い存在であるバンドとの「6番勝負」のラスト2公演を経て10月の広島からスタートしたアルバムリリースツアーはこの日がファイナル。前日にもこのZepp Tokyoでのワンマンを行っており、この日は2daysの2日目。
さすがに土曜日のファイナルということで満員の客席の中、開演時間の18時になると暗転する直前におなじみのバックドロップが競り上がり始め、大きな歓声が上がってから暗転して「Digital Hardcore」のSEが流れる。一貫してこの曲をSEとして使用し続けてきたバンドだからこそ、こうしてこの曲をライブ会場で聴くとワクワクしてしまうのはずっと変わらない。
おなじみのサポートギタリストである為川裕也(folca)も含めた5人がステージに登場すると、
「こんばんは、9mm Parabellum Bulletです」
と菅原卓郎(ボーカル&ギター)が挨拶し、青色の照明に照らされながら演奏されたのはアルバムのタイトル曲である「DEEP BLUE」。
「あっけなく終わりにしたくない そんな夜に深まるブルー」
というツアーファイナルという終わりを迎えるこの日だからこそより一層強く響く歌詞を卓郎が歌い、滝善充(ギター)と為川も含めたトリプルギターがジャキジャキとした音を刻んでいく。あっけなくなんて終わるはずのないツアーファイナルの始まりである。
その青に赤が混じって紫色になった照明に照らされて始まったのは「名もなきヒーロー」。「DEEP BLUE」というアルバムが生まれるにあたって非常に重要な役割を持った先行シングル曲であるが、アルバムにおいても2曲目に収録され、ワンマンでもこの序盤に演奏されることによってクライマックスに演奏されていたリリース時とはまた違う感触を持つことができる。中村和彦(ベース)は長い髪を振り乱しながらモニターに足をかけてこのバンドの低音パートを担う。
そんな「DEEP BLUE」な流れから、イントロが鳴らされただけで大歓声が上がった「The Revolutionary」「太陽が欲しいだけ」というフェスでも必ずと言っていいくらいに演奏される曲たちはもはやワンマンにおいても欠かすことができない存在であるし、「太陽が欲しいだけ」のイントロの「オイ!オイ!」という力強いコールと腕が振られる光景は青い炎が赤い炎よりも温度が高いということを思い知らせてくれるかのようだ。
曲間にメンバーに混じって為川を呼ぶ声が上がって笑いが起こると、
「なんで裕也を呼ぶと笑うんだ?(笑)(そのまま為川を紹介する)
「DEEP BLUE」は聴き込んできてくれましたか?」
と卓郎が軽い挨拶をしてから演奏されたのは滝がイントロでタッピングギターを、サビではコーラスをと八面六臂の活躍を見せ、やはりこの男のギターと曲と存在が9mmを9mmたらしめている、と思わせる「Getting Better」。
さらに暴れるというよりは赤い靴で軽やかに踊るというような「Scarlet Shoes」では青と真逆とも言える赤い照明がメンバーたちを照らす。それは「DEEP BLUE」というタイトルを掲げたアルバムのツアーであってもこのバンドが持っているものは青さだけではないことを告げるかのように。
そうして踊るのは観客だけでなくメンバーも演奏しながら踊りまくるのは「反逆のマーチ」。さらには爽やかな夏の景色が思い浮かぶようなインスト曲「The Revenge of Surf Queen」という最新アルバムを引っ提げたツアーのセトリとは思えないくらいの幅の広さと驚きを与えてくれるのが実に9mmらしい。かつてもその場所や状況でライブごとにガラッとセトリを変えていたことを思い出させてくれるし、とりわけこの曲は収録アルバム「VAMPIRE」のリリース前の2008年のROCK IN JAPAN FES.において
「夏の新曲」
と言って演奏され、「歌がなかなか始まらないと思ったら曲が終わった!?っていうことは9mmがインスト!?」と衝撃を与えられたことがもう11年も前であるということに時間の流れの速さを感じるし、9mmの曲とともに年齢を重ねてきたんだよな、としみじみしたりもする。
そうして過去曲もふんだんに演奏しながら「DEEP BLUE」の世界に再び浸っていくのは、滝でしかないような強烈な高音の響きを持ったギターサウンドによって始まる「Beautiful Dreamer」。そのサウンドは滝でしかないと同時に9mmでしかないというものでもあるのだが、9mmというバンドの存在を改めて自分たちで定義するかのようなアルバムとなった「DEEP BLUE」の1曲目がこの曲であるというのが今のバンドのモードを象徴している。15周年を迎えたことによって、9mmらしさとは?そしてそれを持ったまま今の自分たちができることややるべきこととは?という意識に改めて向き合って生まれたのが「DEEP BLUE」というアルバムなのだろう。それは滝が作曲、卓郎が作詞という黄金パターンに戻って制作された前作「BABEL」ともまた違うし、「DEEP BLUE」は「Revolutionary」より後のどのアルバムよりもファンから絶賛されているアルバムになったとも思っている。
その「DEEP BLUE」の中でもとりわけ青春としての「青さ」を感じさせてくれるのは「君は桜」。
「卒業おめでとう」
というフレーズを聴くたびに自分が学校を卒業するタイミングでこの曲がリリースされていたら間違いなく人生において重要な1曲になっていただろうな、とも思うし、これまでは「砂の惑星」というタイトルの曲があることにも顕著なように、荒廃していたりするような景色を描いた曲が多かった9mmがこんなに美しいと思えるようなアオハルな曲を作ったということに驚きを禁じ得ない。
そしてそんな曲においても手数の多さと一打の強さによって9mmの曲にしてしまう要素となっている、かみじょうちひろのドラムはやはり凄まじい。個人的にはライブを見ていてこんなにも自然に頭が上下してしまうようなドラムを叩ける男はいないと思っているのだが、シーン登場時と比べるとやはりその超人ドラムっぷりが話題になることは少なくなってきているし、そもそもこうした激しいバンドのドラマー自体が話題になることが少なくなっているような感触もある。(同時期にデビューしたピエール中野はドラム以外の面で話題を振りまきまくっているが)
しかし卓郎のボーカルと滝のギターだけでなく、そのかみじょうのドラムも、和彦の暴れ回りながら弾くベースと低い位置でのスクリームも、全てが9mmをこの4人だからこそのバンドたらしめている要素である。もうこの4人の誰かがいない9mmというのは想像ができないし、逆に言えばこの4人で鳴らせば全て9mmの音楽になるという当たり前のような事実を、15年という時間をこの4人で重ねてきたからこそ改めて実感することができる。
ツアー中は卓郎のボーカルについて心配になるような声も聞こえてきていたし、実際に高音部がキツそうに見えるような場面もあっただけに、その卓郎が1人だけステージを捌けると「あれ?大丈夫か?」とも思ったのだが、為川も含めた4人が当たり前のように轟音サウンドを鳴らし始めたのはツアー中に出来た新たなインスト曲「Calm down」。滝がかみじょうのドラムを見ながらタイミングを図るというあたりにボーカルではない演奏陣としてのこの3人の見えざる絆を感じるのだが、そういう意味でもライブならではのインスト曲であるとも言える。「The Revenge of Surf Queen」のような爽やかさは一切ない。
4人での演奏が終わって卓郎がステージに戻ってくると、その轟音サウンドをそのまま引き継ぐかのような「Ice Cream」へ。タイトルからは爽やかさを感じさせるけれど、そのサウンドと
「ドロドロに溶けて ダラダラこぼれて」
というサビの歌詞はアイスクリームという存在の概念を変えられてしまうくらいにまさにドロドロしているし、そうした曲にこのタイトルを冠せられる菅原卓郎という作詞家の手腕には脱帽である。
その卓郎がアコギを弾き、曲中に滝が先導するように観客のクラップが起こる「夏が続くから」はもう完全に冬と言えるような時期になっていてもライブハウスの外に一歩でも出たら、そのままTシャツ姿で歩いて帰れるかのように夏が続いているようにすら感じさせる。どうやら9mm初の夏ソングらしいが、「The Revenge of Surf Queen」は夏曲じゃなかったら何曲になるのだろうか。
改めて卓郎が「DEEP BLUE」というアルバムについて、
「一生青春っていう意味で「DEEP BLUE」っていうタイトルをつけたんだけど、そこには青だけじゃなくて赤や黄色とかも混ざり合っていて。そうして混ざり合っても黒く色を失うんじゃなくて、濃い青として残っていく」
とタイトルに込めた意味を口にしたが、それは15年という長い月日を経て、その中には決して良いことばかりではなかった道を歩んできた9mmだからこそ説得力を持って響くというか、実際に9mmにはいろんな色に例えられるような出来事もあった。それは若手バンドの持つような爽やかな青さとはまた違う青さである。でも「DEEP」という単語がついている通りに、9mmは青さだけではなく闇も光も、なんだって1番深い部分を表現してきた。徹底的に深く振り切れることしかできないという意味では実に不器用なバンドであるけれど、それがこのバンドの人間性でもある。
そんな「DEEP BLUE」の収録曲の中でも最も異色と言える曲がヤケクソソングにも感じられるような「Mantra」。曲前に卓郎が
「好きなことをなんでも叫んでくれ。「DEEP BLUE」の好きな曲のタイトルでもいいし、好きな地名でもいいし、好きなチーズの種類でもいいから。3秒間だけ考える時間をあげます」
と言って卓郎が3秒のカウントをするのだが、カウントに合わせて滝がギターを、かみじょうがバスドラを鳴らすというコンビネーションを見せ、曲ではその滝だけでなく、これまでに演奏してきた曲においてもコーラスをしない部分であっても歌詞に合わせて口を動かしていた為川も
「終わってたまるか 止まってたまるか
なんとかなんのか なんとかなんのか」
という歌詞を叫びまくる。終わりそうな、止まりそうな瞬間もあった9mmだからこその歌詞を為川も一緒に歌っているというのは、もはやサポートという立ち位置ではなく精神やこれまでの歴史までも含めて9mmのメンバーと言っていいような存在になってきているし、そうした姿を見てfolcaの音楽とライブに手や足を伸ばす人もきっといるだろう。
するとこの日は実に体調も調子も良さそうというか、もはや全く不安を感じさせないパフォーマンスを見せていた滝が、早く演奏に行きたいとばかりに軽く跳ねながらかみじょうのドラムと合わせるようにしてタッピングギターを弾き始めたのは「ロング・グッドバイ」。「BABEL」において滝の帰還と復活を告げた曲を、滝が最高のパフォーマンスでもって鳴らしている。こんなに頼もしいことはないし、やはりどんなに上手いギタリストだったとしても滝の代わりは誰もいない。
この曲の存在こそが9mmの持つ青さを濃い青さにしているのかもしれない、と思う「Black Market Blues」では卓郎が
「Zepp Tokyoにたどり着いたぜー!」
とおなじみの歌詞をご当地仕様に変えて歌い、ライブならではのイントロが追加された「新しい光」で「Black Market Blues」との闇と光のコントラストを描いていく。間奏部分では卓郎、滝、和彦、為川がステージ前に出てきて演奏し、観客もそのサウンドに合わせて一気にステージの方へと押し寄せていく。
そして最後に演奏されたのはそれまでの曲たちが演奏されてきたことによってより激しさと強さを増したサウンドでもって鳴らされた「Carry on」。
「この世の果てまで ぼくらは道連れ」
という歌詞の通りに、今ここにいる我々を道連れにしてくれないだろうか、と思うくらいにもっと長い時間9mmのライブに浸っていたかった。それは9mmのライブが本当にテンポが良いものだからこそでもあるのだけれど。去り際にかみじょうが鼻をかんだ後のティッシュを客席に投げようとしていたのが面白かった。
アンコールでは卓郎が1人でステージに現れ、2020年の初ライブとして3月17日に渋谷LINE CUBE(渋谷公会堂)にてワンマンライブを開催することを発表すると、その3月17日が火曜日という平日であることの理由を、
「3月17日は我々9mmの結成記念日と言われていて。正確に言うと、この4人が初めて一緒にスタジオに入った日と言われています」
と説明すると、
「来年は16周年という年ではありますが、15周年の今年よりもライブをやるし、いろんなところにライブをしに行くつもりです。それでは9mmのみなさんをお呼びしましょう。9mmのみなさーん」
と3人を呼び込むと、為川も含めた4人がステージに再び現れ、そのタイトルと歌詞同様にこうしていつまでも9mmのライブを見ていたい、ともに歳を重ねていきたいと思わされる「いつまでも」をこの日最も情緒たっぷりに演奏すると、
「9mm Parabellum Bulletでした。ありがとうございました」
と挨拶しながらギターを鳴らしていた卓郎にかぶせるように滝が激しくカッティングをして始まった「Punishment」はこの日最後にして最高最強の激しさを持って鳴らされ、この曲ではギターを弾かずにビールを飲んでいたりという破天荒なパフォーマンスをすることもあった滝がしっかりギターを弾いていたのが印象的だった。それは満足できるようにこうしてギターを弾けることを楽しんでいるかのような。和彦はいつものようにスクリームしまくりながらベースを叩きつけていた。
かみじょうが歩きながら後ろ側にスティックを放り投げたりしながらステージを去ると、丁寧に客席に手を振ったり頭を下げたりしていた卓郎が、
「他の全会場に来てくれた人たちへの分まで、今日来てくれたみんなに言います。こうして来てくれてありがとうございました!」
と全てのツアー参加者への感謝をファイナルという日だからこそこの日の観客へ告げてからステージを去っていった。その言葉が残響と絡まりあっていたのが実に9mmらしい最後だった。
先日、NICO Touches the Wallsがバンド活動終了を発表した。9mmとは同期であり、かつてともにスペシャ列伝ツアーを回ったバンド。思えばあの時の4組は他にDOESとmonobrightだっただけに、9mm以外はみんな止まった経験があるバンドになってしまった。9mmだって止まりそうな危機もあっただけに、バンドを15年間続けるというのがどれだけ難しいことなのかというのがよくわかる。(それはバンドだけでなく企業に勤めることもそうなのかもしれないが…)
それだけにこうして9mmがいろいろありながらも止まらずに続けている、という事実だけで本当に「ありがとう」と言いたくなる。止まらなかったことによって、これまでのあらゆる時期のことを懐かしさだけではなくて、バンドの歴史や足跡として振り返ることができるし、これまでと同様に、これからもずっと一緒に歳を重ねていくことができるんじゃないかと思うことができるから。
そしてただのんべんだらりと続くのではなく、常に最高だなって思わせてくれるようなライブを見せてくれて、過去の名曲だけでなく新曲や新作が聴けるのが本当に嬉しいと思える存在であり続けられている。もちろんファンのためだけに続けるというバンドなんて退屈でしかないけれど、9mmは今も自分たちのバンドとしての可能性を探りながらバンドを続けている。その姿を見ている我々は何よりの生きる力を貰うことができる。9mmに影響を受けたであろうバンドはたくさんいるけれど、9mmみたいなバンドは15年の間で出てこなかった。それは9mmがマネすることができないバンドであることの証拠である。その現在の結晶が「DEEP BLUE」というアルバム。きっと我々9mmファンにとって、このアルバムはこれからの人生において大事な1枚になっていくはずだ。
1.DEEP BLUE
2.名もなきヒーロー
3.The Revolutionary
4.太陽が欲しいだけ
5.Getting Better
6.Scarlet Shoes
7.反逆のマーチ
8.The Revenge of Surf Queen
9.Beautiful Dreamer
10.君は桜
11.Calm down
12.Ice Cream
13.夏が続くから
14.Mantra
15.ロング・グッドバイ
16.Black Market Blues
17.新しい光
18.Carry on
encore
19.いつまでも
20.Punishment
文 ソノダマン