UNISON SQUARE GARDENはバンドとしてというよりも、バンドの過密なスケジュールの合間を縫って組み込まれた、斎藤宏介(ボーカル&ギター)が須藤優と結成したXIIX、田淵智也(ベース)がa flood of circleの佐々木亮介らとともに活動しているTHE KEBABSという、ユニゾン以外のアウトプットであり、ユニゾンに新たなインプットをもたらす活動のライブが全てなくなるというコロナウイルスによる被害を受けた。
本来のスケジュールならばそうしたユニゾン以外の活動も一区切りして、夏に向けてユニゾン始動となるであろうタイミングであるが、当然ながら通常の形でのライブはできないだけに、無観客での配信ライブを開催。
しかも事前にファンから募ったリクエストの上位曲を演奏するという、ある意味では実にユニゾンらしくない企画。これは不安な日々を送っているファンのみんなに向けて、という決して口に出すことはないがユニゾンならではの愛情表現なのかもしれない。とはいえどの程度結果が反映されるのかがわからないバンドでもあるのだが。
ライブ開始時間は20時からだが、19時から画面は覗けるようになっており、そこには時間が1秒ずつ刻まれ、開演時間へのカウントダウンへなっていく。画面はまだ切り替わらないが、19時50分頃にはサウンドチェックをしている音が聞こえてきて、いよいよ始まる!とワクワクした気持ちが高まっていく。配信ライブでありながらも本当にメンバーがステージに出てくるのを待っているかのようだ。
20時になると画面にはステージに上がる前に裏でストレッチなどをして備えるメンバーの姿が映し出され、おなじみのSEであるイズミカワソラ「絵の具」が流れると、メンバーがステージへ歩き出していく後ろ姿をカメラが捉える。まるでそれは配信ライブというよりもライブドキュメンタリー映像を見ているかのよう。
3人のうち斎藤が最後にステージに上がると、3人は顔を伏せ気味にして長くSEを聴き入る。それは去年のカップリング集を携えたツアーでは見られなかった姿であるが、どこか同じように長くSEに聴き入っていた舞洲での15周年ライブを彷彿とさせる。
すると画面は一瞬、3人の姿やステージではなくてこのライブのキービジュアルと言える画像に切り替わる。演奏面を最重要とするのはユニゾンとしては当たり前であるが、ファンの誰もが待ちわびたこの日だからこその演出もしっかりと用意してくれているという周到さ。
再びステージが映し出されると、鈴木貴雄のドラム連打によって音が鳴らされ始め、そのまま斎藤がサビのフレーズを歌うというオープニングならではのアレンジが加わってから同期のピアノのサウンドが流れ出すという形に進化した「mix juiceのいうとおり」でスタート。
ユニゾンはライブならではの繋ぎやセッション、こうした曲の概要は変えずに進化させるアレンジを施してくるバンドであるが、それは久しぶりのライブ、しかもメンバー3人が顔を合わせることのできる機会があまりなかったであろう今の日本の状況でも変わらない。改めて恐ろしいバンドである。
田淵はのっけからハイトーンなコーラスで自らの生んだ楽曲に彩りを与える中、斎藤はイヤモニに手を当てる瞬間も何度か見られ、少し歌いづらそうな印象もあったし、やたらとメンバーの演奏する姿がカクカクして見えるのはそうした映像エフェクトかとも思ったが、どうやら配信映像が安定していなかったことによる影響らしい。
それでも、
「何気ない毎日でも また生まれ変わる」
というサビのフレーズは、すっかりライブがない日々が日常になってしまいつつある我々の毎日を希望に満ちたものに生まれ変わらせてくれるかのようであり、なんだかこの曲が1曲目に演奏された理由がわかったような気がした。
「お待たせ!」
と斎藤が声を張り上げて一言だけ発すると「オトノバ中間試験」へと続くのだが、なんとコーラスをする田淵の顔がアップになる瞬間に画面が固まる。これは自分の通信環境が悪いのか?とも思ったけれど、ライブ後の公式からのコメントを見る限りではどうやらそうなった人も他にもいたらしく、この段階ではまだ配信が不安定だったため、追試でございましょう。(=アーカイブを見て再確認するという意)
しかしながら画面や配信環境以上に心配になったのは斎藤のボーカルというか喉。「mix juiceのいうとおり」から歌いづらそうではあったが、「桜のあと (all quartet lead to the?)」では高音部分が明らかにキツそうで、もしかしたらフレーズを飛ばしたり、あるいは声がひっくり返ってしまうんじゃないか?という不安すら覚えるほどであったが、ギリギリでそうはならずに歌い切るというところに斎藤の喉をはじめとしたボーカリストとしての心身に加えて精神力の強さを感じさせた。
カラオケで一回喉がキツくなるともうそこから先は飲み物を飲んだりしてもなかなか回復しないけれど、斎藤は水を飲むこともなく至って平然としているし、
「MCなし!UNISON SQUARE GARDENです!」
とだけ挨拶すると、鈴木の跳ねるようなドラムの「きみのもとへ」。
「できるなら心と体を 二つに分けて きみのもとへ」
の歌詞通りに体は自宅のままであっても心はライブ会場に行きたいという人もたくさんいたであろうが、間奏での田淵のベースソロで手元がアップで画面に映し出されるというのは配信だからこそ見れる部分でもある。
アウトロでは鈴木がドラムを叩きながらスタッフにヘッドホンを装着させられると、華やかな同期のサウンドが流れる「君の瞳に恋してない」では鈴木の真上からのカメラにより、鈴木がドラムセットのどの部分をどうやって叩いているのかがよくわかる視点に。改めてその手数の凄まじさ(それはライブになると音源よりさらに増している)に感服してしまうし、鈴木に憧れてドラムをやっている人からしたらこの視点で見れるのは本当に嬉しいはず。
その鈴木がスティックをくるくると回しながら叩く「オリオンをなぞる」はアニメ主題歌としてユニゾンの存在を広く世間に知らしめた曲であるだけに、この曲でユニゾンと出会ったという人も多い割にはあまりライブではやらない曲であるだけに、リクエスト制のライブでこうして演奏されるのは実に納得のいくところであるし、そのアウトロから曲間ゼロでイントロへ繋がる「I wanna believe, 夜を行く」への流れの素晴らしさというか、まるでこの順番でアルバムに収録されているかのような流れたるや。
田淵はこれまでで最も激しくステージを右から左に走り回ったかと思いきや、間奏ではドラムセットに登って鈴木と向かい合って演奏する。目を合わせなくても息が合う2人がこうして顔を合わせるようにして演奏している姿は、久しぶりのライブということもあって、ユニゾンでライブをすることの楽しさを確かめ合っているかのようだ。
斎藤がエレキギターで弾き語りのようにして1コーラス歌い切ってからバンドサウンドになるという2曲を2バージョン聴いているかのようなアレンジになった「スカースデイル」では照明が3人それぞれを照らすピンスポットのみになるという3人の輪郭をしっかり描き出すようなものになっていたが、リリース当時はバンド内部では「田淵の書く歌詞が伝わりにくいのではないか?」というスタッフからの意見もあって混迷を極めていた時期のシングル曲でもあるだけに、こうしてリクエスト制のライブのセトリに入るのは実に感慨深いところだ。
そうしたリクエスト制のライブでは割とどのバンドでも初期の頃の曲に多く票が集まる傾向がある。それはそうした時期の曲をライブという場で聴いたことのない人が「聴いてみたい」という気持ちを持って投票するからであるが、今回のユニゾンはアルバムとしては最新作である「MODE MOOD MODE」収録の「静謐甘美秋暮叙情」や、最新シングルのカップリング曲である「mouth to mouth (sent you)」が入っているあたりは、初期曲だけではなく最新の曲にも満遍なく人気が集まっている証拠であろう。
去年はカップリング集もリリースしてそのリリースツアーも行ったことによって、カップリング曲がライブで演奏されるという機会になったわけだが、かねてから田淵は「カップリング曲はライブではやらない想定をしている」と発言しているだけに「mouth to mouth (sent you)」はきっとこうしたリクエスト制のライブをやらない限りはなかなか演奏される機会に恵まれなかったであろう。そうした曲にも名曲が多いのがユニゾンらしいのだが。
すると鈴木のドラムソロへ。ワンマンではおなじみの光景とはいえ、配信ライブでもやるのか、と思っていたら、それまでの同期のサウンドを使った曲の時のヘッドホンではなく、スタッフがカメラを頭に装着し、鈴木がドラムを叩く目線での映像が映るという配信ライブならではの演出に。
ユニゾンは観客がいてもいなくても自分たちがやることは変わらないというスタイルのバンドだ。MCが増えたりとかもしないし、何かを劇的に変えたりすることもない。だけどもこうしてさりげなく、セトリだけではわからないくらいのことで、この配信ライブを見ていた人にしかわからないような演出をしてくれる。しかもそれも演奏が第一義にあってこそのもの。その音楽に対する誠実な、ブレない姿勢こそがユニゾンというバンドへの信頼に繋がっているのだ。
そうしてドラムソロを終えた鈴木がコートを脱ぎ去り、この日のライブTシャツ1枚だけになると、「Phantom Joke」ではメンバーの背面に通常のライブと全く変わらないような映像が映し出される。
配信ライブというのは自分が見たい視点だけを見ることはできない。その時に画面に映されている部分しか見ることはできないから。ましてやメンバーの姿ではなくて映像を見たいという人はほとんどいないはず。それでもこうしてわざわざ映像を作ってそれを流す。本来の形でこの会場でやるんならば絶対にそうしていたからだし、映像も含めて自分たちのライブを作ってくれる人がいて、その人たちとともにこれまでのライブを作ってきたということを彼らはわかっているからだ。
同期のイントロが流れてからバンドの演奏へと入っていったのは実に久しぶりにライブで披露される気がする「to the CIDER ROAD」。
前述の「スカースデイル」をはじめとした3rdアルバム「Populus Populus」の頃が個人的に最もユニゾンへの熱が低くなった時期であった。後にメンバーが当時のことを振り返るインタビューで「1番混迷していた」と語っていて、少し腑に落ちる部分もあったのだが、そんな時期を抜けるようにリリースされた4thアルバム「CIDER ROAD」の1曲目を飾る曲。充実した先行シングル曲たちや最後に収録された「シャンデリア・ワルツ」、そしてこの曲。再びユニゾンへの熱が上がるというか、それまで以上の高熱になってしまったきっかけのアルバムであるだけに、配信だとしてもライブで聴けるのは実に感慨深い。いつか、それぞれのアルバムの再現ツアーみたいなこともやってくれないだろうか、と少し期待を持っておくし、
「さあ 次はどこへ、どこへ行こう?」
という歌詞の通りに、このバンドが次に向かう場所が我々ファンそれぞれが住む街のライブ会場であったら、と思う。
鈴木がおなじみの
「ワンツースリーフォー!」
のカウントの後にドラムを連打しまくる「場違いハミングバード」ではカウントの後にも鈴木が何やら言葉を発していたが、何と言っていたのかは全くわからず。久しぶりのライブだからこその解放感ゆえだろうか。
この「場違いハミングバード」と続く「シュガーソングとビターステップ」はフェスなどに出演しても毎回セトリが変わるという、これだけ有名な存在かつヒット曲を多数持ち、アリーナ規模で当たり前にライブをするようになってもなお、いわゆる「フェスセトリ」というものを持たないユニゾンの中においてはトップクラスにライブで演奏される機会の多い曲だ。
つまりはある程度ライブに行っている人からしたら、かなりの回数ライブで演奏されるのを聴いてきたわけであるが、それでもリクエスト制のライブで演奏されている。(もちろんどの程度リクエストの結果が反映されているのかはわからないが)
そうした点を鑑みても、この2曲はユニゾンの定番曲、と言っていいかはわからないけれど、ユニゾンを代表する曲と言っていいんじゃないかと思う。「場違いハミングバード」で田淵が最も田淵らしいはしゃぎっぷりを見れることも含めて。
さらには最初期曲である軽快な4つ打ちの「箱庭ロック・ショー」という嬉しい選曲も。間奏では斎藤と田淵が向かい合うようにして演奏し、斎藤はさらにギターソロで自身の手元をカメラに向けて映るように弾く。ストレートな4つ打ちと言うには細かい手数を加えまくっている鈴木のドラムも含めて、このステージからは、溢れ出す風景が確かに見えていた。
そして田淵がステージに転げ回るようにして演奏されたのは、完全無欠のロックンロールアンセム「フルカラープログラム」。
「箱庭ロック・ショー」→「フルカラープログラム」という流れはインディーズ時代に初めてユニゾンのライブを見た時のことを思い出すが、その時と違うのは年月や場数を経て曲が進化を果たしてきたところ。これまでの記念碑的なライブでもそうされていたように、ラストサビ前では斎藤のボーカルのみ、しかもマイクの真前ではなくて少し離れた位置からその澄んだハイトーンボイスを響かせる。その姿を見ているとこの日随所に現れていた喉の不調さが嘘だったかのようであるが、斎藤が歌い続けるうちに映像はメンバーの姿ではなく、メンバーから見える客席の景色に変化していく。
座席があるホール。しかしそこに座っている人は誰もいない。無観客ライブというあまりにも贅沢なホールの使い方であるが、ユニゾンの3人にはきっとこの座席には座っていなくとも、画面の向こう側でこのライブを見ている人たちの姿がきっと見えている。ある意味ではいつもと何ら変わらないライブだったのは、いつもと同じようにライブを見てくれている人たちがいることがわかっていたからなんじゃないだろうか。そんな風にすら感じるような見事な画面のスイッチングであった。
そして「フルカラープログラム」のアウトロをまるで最後の曲であるかのような気合いをもって鳴らすのだが、ユニゾンはいつも最後の曲を演奏する前に斎藤が「バイバイ!」と言って終わるので、これが最後の曲ではないだろうと思っていたら、メンバーがそれぞれ汗をふいたりしながら、
斎藤「今のでライブ終わりです。報告なんですけど、今年出るって言っていたアルバムが9月30日にリリースされることに決まりました。
いやー、こんなに高い声だけ出ない日は初めて(笑)
またオンラインライブでリベンジしたい。来月くらいにまたやるかもね」
鈴木「いや、ちゃんと出てたよ。俺の手数もそうだけど、魂がこもってるかどうかが大事だから。ちゃんと魂こもってたよ」
と、鈴木が斎藤の背中を押す。それは気を遣っているような感じは全くない、むしろ鈴木の斎藤へのボーカリストとしての絶大な信頼を感じさせたし、それはきっと田淵もそうだろう。バンドを始めて15年経ってもそんな関係性でいることができる。ユニゾン以外の活動が増えることに心配になるような人もいるだろうけれど、この姿からはこの3人はこれから先もずっとユニゾンのメンバーとして生きていくんだろうな、という安心感を与えてくれた。
そして斎藤が口にしていた、リリースがついに決まったニューアルバム「Patrick Vegee」から新曲を披露。ステージ背面に「弥生町ロンリープラネット」というまるで近年のアニメ映画のようなタイトルが映し出されたこの曲は、音の隙間が多い、削ぎ落としたサウンドの曲。ユニゾンのアルバムは名は体を表さないというか、タイトルだけでどんなアルバムになるのかは全く想像できないだけに、この曲だけでアルバムの内容を予測するのはまだ早計であろう。
曲の最後のフレーズが
「冬の終わり そして僕らの春が来る」
というものなのだが、そのフレーズが響く瞬間に「春が来て僕ら」になるという、まるでこの繋がりのために作られたかのような流れ。
しかも「春が来て僕ら」では画面が3分割されて全員の姿が同時に映る。この最後の最後の段階までこの演出を取っておいたというのも実に心憎い。
この日はもう季節的には夏。去年、大阪で15周年記念ワンマンが行われた時期である。でも今年の夏はきっとユニゾンに会うことはできない。フェスもことごとく中止になってしまったから。
でも、また春が来れば僕らはユニゾンのライブに行くことができて、美味しいものを食べたりするという、当たり前のようでいて花マルな日常や生活がきっと戻ってくる。これまでの大切が続くように。そう信じたくなるくらいに真摯な演奏だった。
演奏が終わると画面にはバンドロゴが映し出され、そのまま「春が来て僕ら」のインストの音が流れる中でスタジオでリハをするメンバーの姿がエンドロール的に映し出される。
その映像からはこのライブのために入念な準備をしてきたことが実によくわかるが、いつもライブの後にどこか爽やかな余韻を残してくれたユニゾンが、いつもとはまた少し違う、こんな世界の状況だからこその余韻を残してくれたのだった。
かつても斎藤はポリープの手術をしているし(何事もなかったかのように特になんのコメントとかもなく戻ってきたけれど)、喉への心配や不安がないわけではない。
でもいつもと変わらないようでいて、見てくれているファンに配信ならではの楽しみ方を見せるライブをしてくれたユニゾンには本当に感謝しかない。来月の配信ライブもアルバムも楽しみだけれど、アルバムを出してツアーができないなんて寂しすぎるしもったいなさすぎるから、その頃には今よりも元どおりの世界になっているように。ユニゾンのアルバムとそのツアーは、そのために願いたくなる価値を持っていると思っているし、リクエストで選ばれた曲が目の前で演奏されていくのを客席で一喜一憂しながら見ていたいのだ。
1.mix juiceのいうとおり
2.オトノバ中間試験
3.桜のあと (all quartet lead to the?)
4.きみのもとへ
5.君の瞳に恋してない
6.オリオンをなぞる
7.I wanna believe, 夜を行く
8.スカースデイル
9.静謐甘美秋暮叙情
10.mouth to mouth (sent you)
11.Phantom Joke
12.to the CIDER ROAD
13.場違いハミングバード
14.シュガーソングとビターステップ
15.箱庭ロック・ショー
16.フルカラープログラム
encore
17.弥生町ロンリープラネット (新曲)
18.春が来て僕ら
文 ソノダマン