THE BACK HORN・山田将司、Nothing’s Carved In Stone・村松拓、9mm Parabellum Bullet・菅原卓郎、a flood of circle・佐々木亮介という、全員が全員聞いただけでその人だと一瞬でわかるくらいの唯一無二の声を持つボーカリスト4人による弾き語り団体、SHIKABANE。
かつて日比谷野音でいきなりワンマンをやるという突拍子もない活動開始をしてからは、それぞれの過密なスケジュールを縫って、昨年の中津川SOLAR BUDOUKANにも出演。「公開打ち上げ」と題されたその時のライブは、普段のそれぞれのバンドのライブの緊迫感を1ミリ足りとも感じられないような、30代のおじさんたちが酒を飲みながら喋りたいことを喋って、気が向いたら好きな曲を歌うという、あまりにもイメージと違いすぎるものだった。
そんなSHIKABANEが今年も夏に始動。今年は今の世間の情勢的にワンマンをすることも、フェスに呼ばれることも、というかフェスが開催されることもないだけに、配信ライブという形での開催。
20時前から夏祭りを思わせるような待機画面が映り、さらにはちんどん屋的なBGMが一層夏らしさを感じさせる。現実には自宅にいながらこの画面を見ているのだし、今年は夏フェスはおろか、近所でやっているような夏祭りすらもない夏になるのだろうけれど。
開始時間の20時を少し過ぎると、画面に映ったのはすでに浴衣姿のメンバー4人。ど真ん中に「SHIKABANE」という短冊状の墨で書かれた団体名が鎮座する中、左から佐々木亮介、菅原卓郎、山田将司、村松拓という、昨年の中津川の時と同じフォーメーション。
「SHIKABANEです」
と挨拶したかと思いきや、歌い始める前に
「去年の中津川の打ち上げで「Love is Over」をアカペラでみんなで歌った。カラオケの機械が音が出なかったから(笑)」
と、いきなりトークを始めるという緩さはまさにSHIKABANEのそれであるが、亮介と将司がアコギ、卓郎と拓がシェイカーという編成で最初に演奏されたのは唯一のオリジナル曲である「SHIKABANEのテーマ」。
卓郎は将司へ向けて
「瑠璃色のキャンバス」(THE BACK HORNの最新曲のタイトル)
将司は亮介へ
「VRゴーグルちょうだい」(a flood of circleはVRライブ映像を公開している)
亮介は拓へ
「Dream in the dark」(6月に配信リリースされた、Nothing’s Carved In Stoneの最新曲)
そして拓は卓郎へ
「アルバムおめでとう」(9mmはトリビュートアルバムのリリースが発表されている)
と、それぞれがそれぞれの最新情報を紹介するという、メンバーの時事ネタによって歌詞が変わるというその日限りのブルース。最年少の亮介は間奏でアコギソロを先陣切って弾いていく。
将司「佐々木様からこちら(シャンパン)が届いておりますので」
と言うと、早くも1曲歌い終わっただけでシャンパンを開けるメンバーたち。どうやらこれは先日誕生日を迎えた、卓郎と拓を祝うという意味合いも込めてのものらしいが、浴衣姿の男たちがグラスを持ってシャンパンを飲んでいるというのはなんだか異様な気もする。
卓郎「9mmのトリビュートアルバムになんでNothing’s Carved In Stoneやthe telephonesやピロウズがいないんだって言われるけど、俺もそう思ってる。今回のトリビュートは俺たちが自分たちをトリビュートしよう、っていうものじゃなくて、レーベルの人たちが「トリビュート出しましょうよ」って言ってくれて実現したものだから、その人たちの思いを汲まないと。俺たちが決めたらきっとみんなの予想通りの人たちにしかならないからね」
将司「アルカラがインストの方に入ってるのが面白いよね。大佑(稲村)はヴァイオリンかな?」
亮介「やっぱり技を持ってるのはいいな〜」
と、まずは9mmのトリビュート盤の内容に触れたトーク。この辺りでやたらと画面が止まっていたのは自分の視聴環境が良くなかったのだろうか。フラッドの先月の配信がやたらと止まりまくっただけに、亮介は配信と相性が悪いのでは?と無駄に不安になってしまうけれど。
卓郎と拓がシャンパン1杯しか飲んでないとは思えないくらいに踊り始めたのはなんなんだろうか、と思っていたら、次に演奏されたのはPUFFYの夏の大ヒット曲「渚にまつわるエトセトラ」。亮介と将司がアコギという形で、亮介→将司→卓郎→サビ全員→拓→亮介→サビ全員というようにマイクリレーをしていくのだが、卓郎と拓のアコギを弾かない2人はPUFFYがPV(この時代はまだMVじゃなかった)で踊っていた、腕を交互にパンチするようなダンスを踊るなど、普段のバンドでは絶対に見ることができない姿をいきなり垣間見ることができる。実に楽しそうであるが、卓郎は
「踊りとシェイカーの両立ができない」
というのはやはり慣れていない証拠か。
ここで気付くのは、ポリープ手術明けでは初めて聞くことになる将司のボーカルの安定感。去年まではライブ中に声が出ていない時も多々あったし、BRAHMANのTOSHI-LOWには対バンした際に
「辛すぎて見てられない」
と言われるほどの状態だった喉はどうやら完全に回復したと言っても良さそうだ。もちろんまだバンドの時のように思いっきり張り上げて歌うということはしていないが、どこか歌っている時の表情も余裕があるというか、朗らかに見える。
THE BACK HORNは止まるということをしないバンドであるがゆえ、なかなか手術と療養に踏み切れなかった(コロナ禍よりも前に手術によってライブは延期していた)が、結果的にライブができないという今の状況はTHE BACK HORNにとってはプラスだったと言える期間になるのかもしれない。とはいえ歌えるようになっているだけに、早くライブができるような世の中になってもらいたいところであるが。
拓「前までは侍みたいだと自分で思ってたけど、今日のみんなの浴衣姿はなんか文豪感があるよね。女性を3人くらい抱えてるみたいな(笑)」
と意味不明な文豪のイメージを口にした拓を皮切りに、ライブができない状況で何をして過ごしているかという話題に。
拓「俺は巻いてる。リールを。渚に行って(ドヤ顔)
今度はSHIKABANEで釣りやりましょう」
亮介「次は屋形船でSHIKABANEやりましょうよ」
将司「絶対酔う」
亮介「それができたら次は祭りの縁日で」
卓郎「ギターが油でベッタベタになりながら」
と、年上勢たちが率先して話を脱線させていくというのもまたSHIKABANEスタイルである。まとめるのが大変というよりもまとまろうという気が一切ない。いっそのこと、オールナイトで夜通しライブをやって欲しい。拓は寝るだろうけれど、将司は飲みにいくと夜から翌日の昼までずっと飲んでる(音楽と人の編集長談)らしく、亮介もよくそれに付き合わされているらしいからその2人は完遂できそう。卓郎はそのあたりが少し謎だ。
卓郎「次の曲は仕込みがあるから、カメラは曲始まるまで映さないで」
と言いながらもサングラスと白手袋を装着しているのが見えてしまったので、その段階で激しくネタバレになってしまっていたのは、オリジナルがそのスタイルで歌っていた、ラッツ&スター「め組のひと」。
亮介→卓郎→将司→拓と時計回りに振り返ると全員サングラスをかけているというのはのちにメンバーも言っていたとおりに完全に余興。さすがに亮介と卓郎のアコギを弾く2人は白手袋はしていなかったが、将司と拓はダンスを踊りながら歌う。この2人は完全に原曲をリアルタイムで聴いていた世代であろう。
この余興を他の場所でもやりたいがために、結婚式に呼んで欲しいという話をし始めると、
拓「めぐみっていう名前の人と再婚しようかな」
亮介「自分でそこ行くんだ(笑)」
と、昨年のロッキンでいきなり拓がライブ中に結婚、出産、離婚をしていたことを告げた、果たして触れていいのかどうなのかわからないプライベートな話題を自分から掘っていく。もしかしたらこれからそれは自虐ネタとして話に出ることがあるかもしれないが、卓郎はそんな中でも冷静にリアルタイムのコメントをタブレットでチェックすると、
「妹の名前がめぐみなので結婚式に来てください」
というコメントを発見。結婚式にこの4人が来たらもうそれ以外の余興とか仕込みが全ていらなくなるくらいに持っていかれると思うけれど、他の親族の方とかはそれでもいいのだろうか。
かつて野音でのワンマンでは4人のうち1人、あるいは2人で出てきてそれぞれの持ち曲を歌うという時間もあったが、今回も
「正解は誰でしょうコーナー」
と名付けられ、誰の持ち曲かを見ている人たちが予想しながら聴くというスタイルに。
今回の正解は卓郎なのだが、卓郎は卓郎でも曲は9mmではなく、卓郎と滝によるユニット、キツネツキの「まなつのなみだ」。タイトルからしてもまごうことなき夏曲だからこその選曲だと思われるが、卓郎だけならず亮介と拓もアコギを弾き、卓郎→拓→サビ全員という形で歌われたこのバージョンは原曲が「2019」ということもあって、「2020」バージョンとのこと。
そのキツネツキに関しては亮介が
「最初はWhite Stripesみたいなバンドなのかと思っていた」
と、ボーカル&ギターが卓郎、ドラムが滝という編成なだけにアメリカの同編成のツーピースバンドの名前を出すと、
亮介「でもめちゃ人数いた」
卓郎「増えちゃった」
と、毎回ライブで取り憑かれメンバーという名のゲストが参加しているというバンドの特性をしっかり理解していた。
将司「滝君ドラムなのすごいよね。めちゃくちゃ上手い」
卓郎「もともと滝は最初はドラマーで。バンドってドラムがいないことが多いから、自分がドラムやればみんながバンドができるからって(笑)」
という滝がドラムを始めた理由がかなり斜め上のものであることが明かされる。さすが滝である。
亮介「前も夏曲ばっかりやってたけど、ほぼ全曲捨てて入れ替えましたね」
将司「新曲(という名のカバー曲)ばっかりですよ」
亮介「ずいぶんクラシカルな新曲ばかりで(笑)」
と、以前までとやる曲を一新したようだが、それが不安だったのか、将司は前日にもみんなでスタジオに入って練習しようとLINEで呼びかけたが、誰も来なかったらしい。
という話をしながらも、夏らしく瓶のラムネを飲むメンバーたち。するとこのラムネからも話が展開し、
亮介「大人になると好き嫌いがなくなるっていうじゃないですか。あれって実は逆で、大人になるにつれて子供の時にあった味覚が死んでくから苦いものを苦いって感じなくなって食べれるようになるらしいですよ」
将司「ビールもそうだよね。20歳の頃なんか苦いだけだったもん。死んでいくんだよね。でも大人になるにつれて薄い味が好きになっていくのはなんでだ?」
拓「やっぱり出汁じゃないですかねぇ」
将司「苦味の先に何があるんだろうな」
亮介「これはこの話を始めた俺が悪かった(笑)今年1番反省してる(笑)」
と、脱線してしまったことをちゃんと理解しているあたり、亮介は最年少でありながらも1番冷静というかまともなライブの進行役と言えるのかもしれない。
そんな亮介が
「くちびるつんと尖らせて」
と歌い始めたのは、今でもCMなどで耳にすることができる、大瀧詠一の「君は天然色」。日本のポップミュージックの歴史に残るソングライターの作った、日本のポップミュージックの歴史に残る名曲であるが、亮介→卓郎という順番で歌われると、ロックンロールに感じてしまうのはやはりソロや弾き語りでも何度も感じてきた、亮介が歌うとどんな曲でもロックンロールになるという声あってこそだろう。
将司「名曲づくしだ!」
と曲終わりにすぐに将司が反応していただけに、この曲を選んだのは将司かもしれないが、
卓郎「カバーすると歌い方を似せちゃうというか寄せちゃうよね。だからTHE BACK HORNも栄純さんが作ったデモの声に似せたりとか…」
将司「いや、それはないな(キッパリ)
あいつ意外と美声なんだよな」
佐々木「ダッチワイフ外に投げちゃうのに(笑)」
将司「投げたのは俺だから(笑)」
と、栄純がアウトデラックスという番組に出演して大きな反響を呼んだエピソードに触れると、アウトデラックスファミリーに入れるくらいの人物である栄純、喋りが上手くラジオや雑誌の連載を持つ松田、歴史に詳しく、それでテレビにも出演した経験のある光舟と、THE BACK HORNのメンバーがそれぞれ強い個性や特徴を持っているにもかかわらず、将司自身は何も持っていないことを少し気にしていると、
3人「将司さん俳優やろうよ」
将司「いや、俳優は無理。だって俺もう40歳だぜベイベー」
となぜかはぐらかすような口調に。この日の将司の浴衣姿はそのまま大河ドラマに出ていてもおかしくないような俳優らしさを醸し出していたが。
亮介「スタッフみんな飽きてずっとパソコンいじってる(笑)」
卓郎「(観客のリアクションがないから)ネットカフェで歌ってるみたい」
拓「これアーカイブあるんだよね?じゃあ2回回そう。それで良かった方をアーカイブにしよう(笑)」
と、それやったら何時に終わるんだと思うようなことを平然と拓が言い放つと、亮介と卓郎の爽やかなアコギの音色とともに亮介がラップし始めたのは、RIP SLYME「楽園ベイベー」。今回の中では1番意外な選曲であり、それは卓郎、将司、拓という3人にヒップホップの要素をほとんど感じないからであるが、そんな中ではソロではヒップホップ的なアプローチも行っている亮介は冒頭のILMARIのパートを実にスムーズにこなすと、拓はSUのパートの「別注」というフレーズを人力ディレイさせるように歌って爆笑を巻き起こす。オリジナルでも見たことがないアレンジだが、どうやって思い付いたのだろうか。(本人も笑っていた)
RYO-Zのパートの卓郎はともかく、PESのパートの将司は明らかにラップを全然やったことがない人の歌い方になっており、このパート分けはRIP SLYMEのメンバーのキャラに合わせたものかと思いきや、
「LINEでじゃんけんした」
という意味不明な方法によって決めたものらしい。(LINEの画面上なので後出ししかないという忖度しまくりのじゃんけん)
ちなみにこの曲をセレクトしたのはまさかの拓であるということだが、選んだ理由が
「ネットで夏の歌って検索したら1番上に出てきたから」
というとんでもなく単純なものらしいが、もう本家RIP SLYMEのライブが見れないというのは実に寂しくもある。だからこそこうして歌い継いでいくことによって曲は残っていく。
将司「LINEじゃんけんした時にあいこだったら「カブトムシ」やる?aikoのって」
卓郎「オヤジギャグ過ぎる(笑)」
亮介「朝起きたらSHIKABANEのLINEが109件溜まってた(笑)」
というLINEにまつわるエピソードを話していると、拓が急にaiko「カブトムシ」「花火」を歌い出すというオヤジギャグの成れの果て感。普通に歌えるのは凄くもあるが。
この日は15時入りだったのが将司が練習したいと言ったことによって1時間早く集まり、結果的にずっと喋っていたという、この人たちは何時間こうして喋り続けているんだとも思うが、久しぶりに顔を合わせることができて嬉しくて話が弾むというのもあるのだろう。
この日2回目の「本物は誰でしょう?」コーナーは佐々木亮介曲であるa flood of circleの「月面のプール」。亮介と卓郎がアコギ、拓→将司→卓郎というマイクリレーで歌われ、将司はハーモニカまで吹くというこの曲への入れ込み具合。
ロックンロールというイメージが強い、a flood of circleであるが、個人的にはこの曲のような弾き語りでも成立するようなバラードにも本当に名曲が多い。それこそ初期から「SWIMMING SONG」という曲があったが、「月に吠える」「水の泡」「コインランドリー・ブルース」…などなど曲タイトルを並べるだけでかなりの文字数を使ってしまうほど。それは亮介がロックンローラーでありながら生粋のメロディメーカーであるということでもあるし、
拓「これマジで良い曲」
将司「ロマンチックだよね〜」
と、先輩たちから褒められ、認められていることに本人も実に嬉しそうだった。
しかし、
亮介「楽屋でいつの間にか佐々木亮介選手権が開催されている」
と言うと、3人が
「十字路で〜」
と亮介の声真似をして「月面のプール」の歌い出しを何度も歌う。
それは3人いわく「唯一無二の声だから」ということだが、3人に比べるとバンドとしても個人としても知名度や売り上げが及んでいなくても、ちゃんと亮介のボーカリストとしての資質を評価してくれている。
フラッドと出会ってからずっと亮介のボーカルは唯一無二であるし、その声を持っているロックバンドはカッコいいに決まっていると思い続けてきたフラッドファンとしては本当に嬉しかった。それは卓郎も拓も将司もどんなにすごいバンドのボーカリストとして歌ってきたかをわかっているだけにより一層強くそう思えるし、できることならもう少しでも多くの人にこの声と歌を聴いてもらいたいと思う。
と思いながらも、「十字路で〜」を連発する3人は、
拓「十字路でSHIKABANEっていうのもアリかも」
卓郎「それぞれの方角を見ながら」
将司「カッコいいアー写みたい」
と「十字路」はこの日1番のパワーワードになっていた。
拓がどうしてもやりたかったという夏の名曲は、4人と同じ時代にバンドとして生きている同志と言える、フジファブリック「若者のすべて」。
全員がアコギを弾くという形で、拓→将司→亮介→卓郎と歌をつないでいくのだが、ラスサビ前のギターのフレーズを全員で鳴らすところで卓郎は思わず吹き出してしまう。これはギターを弾く人にしかわからない面白いポイントであるとのことだが、さらに卓郎はそれを引きずってしまったのか、その後にも歌詞を飛ばしてしまっていただけに、この曲はまたリベンジして欲しいし、選曲した拓もまたやりたそうにしていた。
拓「ちょっと休憩していい?」
卓郎「休憩ばっかりしてる気がするけど」
拓「上から入れた水を下から出してきていいですか?」
と回りくどく拓が言う、まさかの本番中のトイレタイム。
その間には今まで通りにライブがやりたいというバンドマンならではの会話となり、
亮介「卓郎さんの名台詞「俺たちは密こそ素敵だったんだ!」」
とそれぞれがライブへの思いを口にする中、拓がトイレから帰還すると、
拓「何の話してたの?8月はあなたに会いたいけど、7月は何をしたいかっていう話?」
と、なぜかこのタイミングで前半に歌った「まなつのなみだ」のサビを引用するという意味不明さを見せると、
卓郎「休憩して落ち着くかと思ったらエスカレートして帰ってきた(笑)」
と言うくらいに、急にビートたけしのモノマネをしたりする拓。弾き語りの時は酔っ払うことも多いが、4人の中で最も酔ってる時とそうでない時の差が顕著だ。
終盤の始まりを告げるのは、リリースからかなりの年月が経ってもドラマ主題歌に起用されたりして親しまれている、真心ブラザーズの夏の名曲「サマーヌード」。
「僕ら今 はしゃぎすぎてる 夏の子供さ」
というあまりにも有名なサビの歌詞は、もう完全におっさんである4人が夏にはしゃぎすぎて子供に戻ってしまっているかのよう。
その気持ち良さについつい、
拓「もう1回やりたいねこれ」
将司「絶対言うと思った(笑)」
というおなじみのやり取りも。
そして亮介、拓、卓郎の3人がアコギでありながらキメ連発を思わせるような、技巧的なバンドの演奏を連想させるギターをイントロで弾くのは、村松拓のNothing’s Carved In Stone「きらめきの花」。
NCISの中でこの曲を選んだのは英語歌詞の曲が多いバンドの中で3人が歌えるような日本語歌詞であるということもあるだろうし、
「真夏に咲いたきらめきの花の
くすんだ赤は時代を彩る」
というフレーズがあるように、きらめきの花が咲くのは夏であるという夏の歌だからだ。
拓「弾き語りで初めてやった」
と言っていたように、弾き語りで歌うことを想定したこともない曲だったようだが、
卓郎「2コードしかないんだよね。生形(真一)さんが奏法解説してる動画を見た」
と、バンドでの演奏を聴いていると全くそうは思えないが、ギターだけを抜き出すと驚くほどシンプルな構成だという。そう感じさせないNCISのメンバーの演奏の妙に改めて唸らされる。
卓郎「もう2時間近く経つけど、野音の時は3時間やった。夏がこんなにいけるんなら次は冬に冬の曲縛りでいけるんじゃない?冬はどこでやる?」
拓「冬の十字路で(笑)」
亮介「いい十字路探しておかないと(笑)」
将司「次は新曲を携えて」
亮介「タイトルは?」
将司「「クロスロード」で」
拓「「十字路で〜」って始まるんでしょ?(笑)」
亮介「それはもうあるから(笑)」
卓郎「鍋を囲むか。鍋開き。タイトル「冬のSHIKABANE 〜鍋開き〜」。
新曲のタイトルは「クロスロード」か「これぞ十字路」で」
と、やっぱり「月面のプール」の「十字路」に引っ張られまくる面々なのであった。
とはいえそろそろ時間が押してきていそうな気配を察知してか、締めにかかる中での最後の「本物は誰でしょう?」のコーナーは将司のバンド、THE BACK HORNの「空、星、海の夜」。
その将司と亮介、卓郎がアコギを弾くのだが、普段将司はバンドでこの曲を歌う時にはギターを弾かないために、SHIKABANEという弾き語りの形態ならではの場面。
歌も将司から始まり、亮介→拓→卓郎と続いていくのだが、その将司の声はこれまでの喉の不調というか、苦しい期間を忘れさせるほどに澄んでいた。それはまさに空と星と海以外に何も映らない景色が脳裏に浮かぶかのように。THE BACK HORNのバンドとしてのライブで他の様々な名曲を今の将司の喉の状態で聞いたらどんな景色が浮かぶんだろうか。本人もきっともっとたくさん歌いたいはずだ。
そんなロマンチックな雰囲気になる名曲の後にもかかわらず、拓はCHAGE & ASKAでASKAが歌う時のような動きを急に繰り返す。これは昨年の中津川での打ち上げのカラオケでもやっていた動きのようであり、
亮介「最後に駐車場でみんなで飲んで、気づいたら中津川のホテルの駐車場で寝転がってた」
と去年の中津川の思い出を本当に楽しそうに語る。そうして話しているのを見ると、SHIKABANEが中津川に毎年出る、中津川だからこそのアクトになってくれたらいいのに、と思う。あのフェスの素晴らしさを体感してきた者として。
亮介「「クロスロード」今作ります?」
と、まるでTHE KEBABSの配信映像のように亮介がその場で新曲「クロスロード」を作ろうとすると、
卓郎「暗い感じじゃないよね。「クロスロードでみんな集合」みたいな」
と具体的なイメージが浮かんできて、まさか本当にこのまま曲になるのか?と思いきや、やっぱり「月面のプール」みたいな歌い出しにしかならないために「クロスロード」は次回のお楽しみということに。
そしてラストは唯一のオリジナル曲である「SHIKABANEのテーマ」の2回目。しかし
卓郎「次は「冬のSHIKABANE」「クロスロード」で!」
将司「亮介、明日はTHE KEBABS、8月1日はサテツでライブ」
と、次や今後に期待させるような歌詞に変えて歌ってみせるのは実に見事で、亮介も拓に向けて今回は「Isolation」というNCISの代名詞的な単語を歌詞に盛り込んでいた。
演奏が終わるとグダグタ感は一切なく、スパッと終わる。時間にしてちょうど2時間くらい。配信ライブだと普段のライブ以上に次々に曲を演奏するというライブを求めてしまいがちだ。その場の空気を感じ取ることはできないからである。
でもたまにはこういうのもいいんじゃないだろうか。4人の話が面白くて、それは普段なかなか見れない姿であるということもあるし、そんな4人の姿を見ていると、生でライブが見れなくて鬱々とした気分になってしまうような今の状況を忘れてしまえるような。それでもやっぱり、夏の野外でこのSHIKABANEのライブを見ながらビールでも飲んでいたい。いつものライブとは少し違う、何も考えることなくただただ「幸せだな」って思えるような空間と時間になるだろうから。
でも4人も去年のことを楽しそうに話していたように、できることなら中津川の去年のステージで見たい。坂を登り、階段を上がっていった、あの会場の中で1番標高が高い場所にある、天空の祭壇のようなステージの夜の時間。その素晴らしさは今も目に焼き付いているし、より一層あの場所を、あのフェスを好きになれた。今年は厳しくても、来年以降のあの場所の風物詩にSHIKABANEがなっていて欲しい。それは4人もあの場所を愛しているのが本当によく伝わってくるからだ。
1.SHIKABANEのテーマ
2.渚にまつわるエトセトラ
3.め組の人
4.まなつのなみだ 2020
5.君は天然色
6.楽園ベイベー
7.月面のプール
8.若者のすべて
9.サマーヌード
10.きらめきの花
11.空、星、海の夜
12.SHIKABANEのテーマ
文 ソノダマン