前回の6月の配信ライブはライブハウスからのパフォーマンスであり、そこで米田貴紀(ボーカル&ギター)は
「僕たちが一足早くライブハウスに戻ってこれた。あとは皆さんを待つだけ」
とファンとライブハウスで再会することを約束していたが、さすがにまだすぐにという状況ではないだけに、2回目の配信ライブを開催。
今回はバンドが所属するレーベル・ビクターのスタジオからのスタジオライブ配信という前回と違った形である。
20時になると画面にはモノクロのメンバーが車座になって向かい合っており、音を鳴らすとこのライブのタイトルがデカデカと画面に映し出されると同時にモノクロからカラーに色がついていく。
メンバーの姿がしっかりと映ると、米田とマイケル(ベース)はヘッドホンを着用してライブをするというのがライブハウスとは違うスタジオライブならではである。
演奏は「Call out」からスタートするのだが、最初はやたらと音が途切れてしまうのが気になってしまう。これは全体的にそうなのか、それとも配信環境によるものだろうか。曲終わりには西田一紀がギターを弾いている姿がアップで映ったまま固まってしまったのはあまりに出鼻を挫かれすぎてどうしたものかと思ってしまった。(音は流れ続けていた)
この日のライブはメンバーがSNSでレア曲を多く演奏することを匂わせていたが、米田がギターを弾かずにマイクスタンドにマイクを固定したままで歌う「Can’t You See!!!」はその先鋒と言えるが、スタジオ内にカメラマンが複数人いて、様々な角度からメンバーの姿を映し出すが実は前回よりも抜群によくなっているが、もはや「そういう演出なのか?」と思うくらいに画面がよく止まる。前回の配信ライブでもそうだっただけに、これはプラットフォームの問題という面が強いのだろうか。
そんな中でも西田と鈴鹿秋斗(ドラム)のハイトーンコーラスはやはりスタジオということもあってかいつもよりもしっかり響いている。
米田と西田のギターリフが耳にこびりつくようなサウンドなのは初期曲の「Circle Circle Circle」。そのサウンドも1音1音が非常にクリアに聴こえるあたりはさすが由緒あるスタジオからのライブである。それだけに時々止まってしまうのが実にもったいなく感じてしまうが。
米田もマイケルもヘッドホンをつけているという姿は普段とはまた違うセクシーさを感じさせるが、この曲の
「パーパパッパー」
というメンバーによるコーラスは本来ならば観客の大合唱で空間を埋めたいと思ってしまうところである。そのコーラス部分を歌う鈴鹿は顔がアップで映し出されてしっかり顔を作っている。
鈴鹿のドラムは非常に手数が多くダンサブルなのに、スタジオという場所であるがゆえにメンバーがいつものように踊るように動くことができないのが逆に面白いのは「Take it back」。
メンバーが車座になっている真ん中にいるカメラマンがその場でぐるっと回ってメンバーが次々に映し出されていくのがまるで映画の中で演奏しているロックバンドであるかのようにカッコいい。
夜の本気ダンスは鈴鹿という喋りのリーサルウェポン的な強烈なキャラを擁するバンドであるが、ライブになるとその喋りのうまさを生かす場面もあるけれど、決してそれによってダラっとしたライブになることはないどころか、むしろライブのテンポは非常に良いバンドである。
それは「Take it back」から「Weekender」へとアウトロとイントロをそのまま繋げるアレンジからもわかるが、普段のライブでは「本気ダンスタイム」という曲間なしで踊らせまくるゾーンを用意しているが、それはライブではおなじみのダンサブルな曲を繋げるという場合が多い。
でもこの日のこの2曲を繋ぐアレンジは決してフェスやイベントなどで定番と言われるような曲ではない曲同士を繋いでいるだけに、これから先のライブでもこうした予期せぬアレンジが施された曲たちを演奏するのが見れる予感が漂う。
また「Weekender」がBメロではキメ連発しながらも4つ打ちのサビは実にポップかつキャッチーというのがこの繋ぎのアレンジの先の展開を際立たせているし、ライトセーバーのように光る照明たちがスタジオの中を明滅することによってまるでライブハウスの照明のような役割を果たしている。
曲間にはメンバーの姿だけでなく、足元のエフェクターボードもアップで映るというのはこのバンドのコピバンをやっている人や、楽器をやっている人にとっては嬉しい配信ならではのアングル。なかなか実際のライブでは最前列にでもいない限りはなかなかこんなにはっきりとは見えないだけに。
「By My Side」あたりからはマイケルのベースを弾く姿がダイレクトに音に合わせてダンサブルになってきているのがわかるし、今もライブは全然できていない状況ではあるが、よりシャープかつスタイリッシュになっているバンドサウンドは4人がバンドとして水面下でちゃんと活動しているということがよくわかる。
メンバーがイントロで声を合わせてから演奏された「B!tch」では西田のオリエンタルなギターサウンドが否が応でも踊らせてくる。
トリビュートに参加したアジカンの「N.G.S」に近いサウンドであるが、このバンドはそうした先人たちの影響を素直に口にする。例えば
「SUPERCARの「White Surf Style.5」みたいな曲を作りたいと思って」
みたいに。しかしそれが結果的に「Magical Feelin’」という「どこが!?」とインタビュアーに突っ込まれてしまうくらいに全然違う曲になるというのがこの4人でバンドをやっている面白さでもあるのだろう。
鈴鹿「今日はストイッキー(ストイックの応用形?)やね。こんなに演奏中にニシカズ(西田)と目が合うことはない」
西田「今日は対面だから逃げられへん」
と普段は1番喋らない男であるにもかかわらず、この日は最初から喋ろうという意欲を感じさせた西田はなぜかこのビクタースタジオの解説も含めてやたらと喋るのだが、
鈴鹿「今日はよう喋るやん!」
西田「やっぱり環境が良いからですかね」
鈴鹿「普段環境悪いみたいな言い方してる(笑)」
西田「世の中そうやって揚げ足をとる日ばかりですからね(笑)」
と鈴鹿との漫才みたいなやり取りも実に冴え渡っている。
この日演奏している曲は基本的には前回の配信ライブではやっていない曲ばかりにしているということであるが、そんな中で唯一前回に続いて演奏されたのは「SMILE SMILE」。
前回の配信ライブ時には新曲として演奏された曲であり、ホーンの同期サウンドの華やかさは間違いなくバンドにとって新章の扉を開いている。米田はギターを弾かずにマイクスタンドに向かって歌うのだが、最後のサビでは歌詞が飛んだのか歌に詰まるような場面も。
そんな中に導入されるパーカッシブなリズムもバンドにとって新しい要素であるが、鈴鹿はこの曲ができるまではロックバンドが同期の音を使ってライブをやることに嫌悪感を持っていたと語っていた。でもやってみたら実に楽しかったと配信ライブの収穫も語っていたが、これからきっとまたこのバンドがやれることはもっと増えていくし、いつかは同期ではなくて生のホーン隊を加えて、というライブが見れるような日が来るかもしれない。その日はファンみんなの笑顔で迎えたいものだ。
そして「SMILE SMILE」と続けて演奏されることによって、ひたすら踊らせるだけじゃないこのバンドの歌とメロディの良さ、強さをしっかり感じさせてくれるのは昨年リリースした傑作アルバム「Fetish」収録の「Eternal Sunshine」。
アウトロの「ラ〜ラララ〜」というコーラスでは鈴鹿がやはりカメラ目線を見せるのだが、もっと重要なのはその後のセッション的な演奏。西田の弾きまくりのギターがバンドを牽引し、そこを鈴鹿とマイケルによるこのバンドならではのダンサブルなリズムがしっかりと支える。もうこのセッションの演奏でそのまま新しい曲にしてもらいたいくらいにカッコ良かった。この日だけのものにするにはもったいないくらいに。
そして9月22日に大阪のイベントで久しぶりに観客の前に立ってライブができることを嬉しそうに語ると、
鈴鹿「みんなも拍手したりするの久しぶりすぎて緊張するんちゃうん!?
俺らも拍手されるのとか緊張しそうやけど!」
米田「日常で拍手浴びることないもんな(笑)」
と少し笑わせながらも楽しみであることが伝わってくると、
米田「またこういう配信ライブもやっていくだろうし、いずれは我々のワンマンで夜の本気ダンスだけの空間にみんな来ていただきたい」
とやはり少しでも早く観客の前でワンマンがやりたいという気持ちを感じさせ、最後に演奏されたのはなんと普段はSEとして使われている曲である「ロシアのビッグマフ」。
「映画のテーマ曲をアレンジして最後に演奏するような」
という言葉通りに、米田は人力ディレイとでも呼ぶかのように自らの声だけで言葉をリフレインさせ、鈴鹿の複雑だがリズミカルなドラム、西田のエフェクティブなギターの使い分けにバンドのこの曲が生まれた当時からの(もう10年近く?)果てしない進化を感じさせた。最古クラスの曲でそう感じられることはそうそうないし、このアレンジでの演奏もまた画面越しではなくてこの目で直接見て、この耳で直接聴きたいと思った。やはりそういうバンドなのだ、夜の本気ダンスは。
演奏が終わるとメンバーがスタジオから出て行き、そのスタジオ内をじっくりと何カットも映し出していくカメラ。なかなかスタジオから画面が切り替わらないので、戻ってきてからアンコールをやるのかと思ったが、今回はそれはなしで、メンバーによる楽屋トークへ。
普段からラジオをやっているだけに、完全にそんな「ボケにさらに他のメンバーがボケを重ねる」という笑いの絶えないトークであったが、メンバーは視聴者のコメントをチェックし、ツイッターのトレンドにランクインしたのを素直に喜んでいた。
そして秋から開催されるツアーは残念ながら中止になってしまったことも発表されたが、代わりに「太った」と言われまくっていた鈴鹿の誕生日である11月2日にまた配信ライブをすることを発表すると、先日9月7日に誕生日を迎えたマイケルを祝うためにケーキが持ち込まれるという場面も。
ツアーがなくなって1番辛いのは間違いなくメンバーであるが、それでも明るく、楽しく。それがこのバンドの持つ空気であり、ライブで最も強く感じるものだからである。それを生み出すメンバーたちはどんなに辛くても前向きに今できることを模索しながらいつか来るその日を待っている。
でも次の配信の時には音や画面が止まることはないような状態で見たい。やはりそれはバンドの魅力を伝えるのにはもったいなく感じてしまう。こうして画質や音質のグレードをさらに上げた、それをテーマにしたからこそのスタジオからのライブだからなおさらそう思ってしまう。
1.Call out
2.Can’t You See!!!
3.Circle Circle Circle
4.Take it back
5.Weekender
6.By My Side
7.B!tch
8.SMILE SMILE
9.Eternal Sunshine
10.ロシアのビッグマフ
文 ソノダマン