今年になってからの04 Limited Sazabysの活動は沈黙と言ってもいいものだった。対バン相手が当日になって発表されるという対バンツアーの「ミステリーツアー」と地元の愛知県で開催している主催フェスであるYON FESこそ早々に開催発表されたものの、毎年のように出演してきた各地の春フェスなど、他のライブ予定は一切なし。ファンの間では不穏な噂が流れたりもしていた。
しかしそのYON FESもコロナの影響で延期を模索したものの、結果的には中止という形に。そのタイミングで発表されたのがKOUHEI(ドラム)が数々のドラマーを苦しめてきたジストニアを発症していたことを発表。予定通りにYON FESが開催されていた場合、そこをもって活動休止する予定だったというあまりにも生々しくリアルで残酷な発表がメンバーの口から語られた。
しかしYON FESが開催できなかったこと、コロナ禍で否が応でも活動休止せざるを得なくなったことによって、沈黙を破るように開催が発表されたのが、愛知国際展示場での2daysワンマンライブ「YON EXPO’20」である。
昨年はさいたまスーパーアリーナでもエンタメ要素とコンセプトの強いワンマンという形で開催されたYON EXPOであるが、今年はバンドの地元の愛知にある、セントレア空港に隣接した愛知国際展示場での開催ということで、「YON AIRLINE」という航空会社による空の旅というコンセプトに。
この会場は昨年NANA-IRO ELECTRIC TOURでも訪れた場所であるが、入り口ゲートからそうした空港のようなセットを作り、コロナ対策の検温や消毒はもちろん、金属探知機まで通されるという空港らしい徹底っぷり。場内アナウンスなども空港の搭乗アナウンスのようにするなど、メンバーはスタッフが考え抜いたであろう、観客を現実とははるかに遠い空間に連れて行くという意気込みには恐れ入ってしまうほど。
幕張メッセのホール9〜11のうちの2ホールを使ったかのような広い客席には椅子が敷き詰められ、一つ置きに座るという通常のモッシュやダイブが当たり前のパンクバンドであるフォーリミのライブの景色とは明らかに違う中、ワンマンの開始時間にしてはかなり早い(翌日が月曜日で、会場が名古屋から離れていることへの観客への配慮だろう)16時を過ぎたところで、ステージ左右のスクリーンとステージに張られた紗幕には飛行機の離陸前のような、英語でのライブにおける注意喚起映像が流れるのだが、
「ペットを持ち込みの方は飛行機から飛び降りて海をswimして目的地まで向かっていただきます」
など、やはりそこはフォーリミの楽曲タイトルを織り交ぜたコミカルなものになっているところに、こういう状況のライブの注意喚起という堅苦しくなりそうなものを少しでも楽しめるものにできるように、というバンドやスタッフからの配慮が感じられる。
映像の最後にはこの愛知国際展示場の入り口へ向かう4人の姿。歩く4人の中でGENが振り返るとカメラに向かって
「YON EXPO day2、始めまーす!」
と言って映像が終わるとその刹那、ステージから音が鳴り、紗幕にはメンバーの演奏している巨大な影が写る。紗幕がバサッと落ちると「Feel」をステージ上で演奏しているメンバーたちの姿が。武道館ワンマン以降、パンクバンドとしてアリーナでも果敢にライブを行ってきたからこそ得てきたこうした演出の力は確実に今に繋がっているし、この演出が
「ああ、本当にライブが始まって、フォーリミが目の前で演奏している」
ということを実感させてくれる。
「肌にこびりついてる感情を
閉じて夢の続き戻ろうか
僕が僕だった頃 あの時のままで
夢を観てる まだ夢は続く
ただ先へ進め」
というフレーズはライブという失われつつあったものがどれだけ期間が空いてもバンドと我々の肌にこびりついているということを証明しながら、4月に1度だけ配信ライブをやってからこの2daysまで全くライブを行って来なかったフォーリミの再生宣言とも取れる。
RYU-TA(ギター)は今までと同じように
「オイ!オイ!」
と煽りまくるのだが、それでも声を出す人は全くいない。ただただ全員が拳を挙げて応えている。GEN(ボーカル&ギター)は2daysの2日目だからか、序盤は少し声がキツそうな感じもしたのだが、それは中盤以降に自身の力で覆していくことになる。
ライブ前の注意喚起映像や、席に置かれていたパンフレット(メンバーのパイロット姿を見ることができ、それぞれのおすすめ名古屋飯も紹介されているというエンタメ精神と名古屋愛っぷり)にも書かれていたように、歌ったりジャンプしたりタオルを回したりすることは禁止されているけれど、手拍子なら思いっきりすることができる、ということで「Warp」ではHIROKAZ(ギター)が観客をそうした楽しみ方に先導するようにAメロで手拍子を叩く。それは、
「暗い 暗い 精神 照らしたい
次の段階へすぐに案内」
からあり得ないほどHighに我々の精神を連れて行ってくれるかのように。
「もっともっと行ってみる!?」
とGENが問いかけてから始まった「climb」はパンクど真ん中なKOUHEI(ドラム)のビートがバンドを牽引しながら、
「高く飛ぶための音色」
「今、飛び立てよ」
とこの「空港」というコンセプトに実によく似合う歌詞が次々に出てくるのだが、それ以上に
「ここまで来て引き返せないから」
という歌詞からはバンドのライブをやると決めた覚悟を、
「ここまで来たなら信じなきゃなあ」
という歌詞からは我々観客がこうしてライブをやると決めたフォーリミに抱く感情をそのまま綴ったように感じられる。それは今の特殊な状況でのライブだからであるが、この曲がライブで初披露されたのはYON FESが初開催された年の2日目のアンコールだった。その場面をこの目で目撃しているだけに、この愛知県というバンドのホームと呼べる場所でこの曲をまた聴けるというのは本当に嬉しいことだ。
GENの挨拶的なMCからもこうしてライブができることの喜びが溢れまくっているのだが、メジャー1stアルバムに冠した「CAVU」という単語が航空業界用語であることを説明し(この日もステージにいくつもその単語が刻まれていた)、その「CAVU」収録の「days」から「nem…」というパンクかつファストな曲の連打っぷりにはこれは普段のノリを考えたら多少は客席も暴れたりしてしまうんだろうか?と思っていたが、全くそんなことは杞憂であった。もちろんライブが始まるときには少し声が上がった感じもしたけれど、ライブが始まってからはこの日の映像収録でどんな客席の場面が映ってもなんの問題もないくらいに観客は開演前の注意喚起を守ってライブを楽しんでいた。
もともと、フォーリミはファンの民度やマナーをよくフェスなどで槍玉に挙げられてきたバンドだ。見るのが嫌になるくらいにそうしてSNSで言われているのを何回も見てきた。
でもその度にGENはファンを庇うというか守るような発言を一貫してきた。その一連のことについては賛否はあるだろうけれど、この日の観客の姿からは本当に強い自制心を感じた。この日このライブで何かがあったら1番迷惑がかかるのはバンド側であるということを誰もが理解できているかのように。それをちゃんと守って、ライブが成功に終われば次のライブにも繋がっていく。この先もフォーリミのライブを見たいから、そのために守らなくてはならないものがある。そんなことを感じて、その普段はモッシュやダイブをしてライブを楽しんでいるであろう出で立ちの人たちの姿を見ているだけで感動してしまっていた。これなら、フォーリミとそのファンなら大丈夫じゃないか、って。
そんなことを思っていたら、久しぶりに演奏する曲と言って始まったのはサビでのGENのファルセットギリギリのハイトーンボイスが実に伸びやかな「medley」であるが、久しぶりの披露となったのは、KOUHEIがジストニアの症状が発症してから叩くのが難しいフレーズの曲であるために封印していたらしい。それを今解き放ったのは、今ならもう大丈夫じゃないかというKOUHEI本人からの申し出もあったとのこと。
そうしてバンドのこと、メンバーのことを包み隠さずに口にしてくれるから(普通はジストニアは脱退や活動休止するくらい進行してしまってから病状を公表することが多い)、こうした久しぶりのライブを本当に慈しむように大切にすることができるし、これからのライブもただの1本のライブという向き合い方とは違う、毎回バンドと観客の想いがこもったものになっていく気がしている。
「まだ夕方だけど…」
と言ってから演奏された「midnight cruising」では光の粒が飛び散るような照明が本当に美しくて、YON FESでこの曲を演奏する景色を今年は見ることは出来なかったけれど、それでもこの景色を見ることができたのは幸せだと思えた。間奏でのRYU-TAの叫びもこの日は
「本当にお前たちに会えて嬉しいぞ!」
と、こうして向かい合っていられることの喜びをただただ素直に爆発させるというもので、シンプルな言葉であるがゆえに本当にその一点のみが強く伝わってくる。
今年の2月に配信リリースした、現段階での最新曲「Jumper」ではRYU-TAのリズミカルなコーラスがラウドロック的な重さと激しさをもたらしながらも、
「新しい君と 新しい僕が
新しい歩幅で進む」
という最後のフレーズが飛行機の離陸を示すかのように、メンバーの背面に出現したスクリーンにはそうした映像が映し出される。
それまでもステージ左右のスクリーンにはメンバーの演奏する姿が映し出されていたのだが、「fiction」ではレーザー光線が会場を飛び交う中でメンバー背面にはリアルタイムで演奏するメンバーの姿がコラージュされていく。こうした映像スタッフとのコラボもこの日のためにさぞや入念に作り上げてきたのだろうということがわかる。
この中盤で放たれたのはアルバムとしては最新作である(とはいえもう2年前だ)「SOIL」のリード曲である「Milestone」。この曲、フェスやイベントでは全く演奏しない曲であるため、ミステリーツアーはチケットが取れず、さいたまスーパーアリーナは日程が合わずに行けなかった自分にとってはようやくライブで聴けた曲。バンドにとっての原点であるパンクに焦点を絞ることで名盤としての統一感を生み出した「SOIL」の中でも、この曲があるんなら良いアルバムに違いないと思えたくらいにフォーリミの天性のメロディの素晴らしさとパンクさが融合を果たした名曲だと思っているだけに、こうして実質的な復活ライブのメッセージとしてこの曲を聴けたのは本当に嬉しいことであるし、この曲を聴くとフォーリミがパンクに乗せた夢、我々がフォーリミに託した夢が醒めないままであると思う。
RYU-TAのギターのサウンドが曲の持つ不穏な空気を最大限に醸し出しているというあたりに、かつてはHIROKAZのギターの実力に嫉妬していたというRYU-TAのギタリストとしての成長とアイデアとセンスを感じることができる「mahoroba」で妖しい夜の雰囲気へ向かっていく…と思われたが、ここでYON EXPOではおなじみのアコースティックコーナーへ。
観客は全員座席に座る中、GENはハンドマイク、HIROKAZはアコギ、KOUHEIはアコースティックドラム…ということは、RYU-TAがベースを弾くというアコースティック編成で演奏されたのは、原曲の歌い出しの部分こそアコースティックや弾き語りにも合いそうであるが、曲全体としてはファストなパンク曲である「Horizon」。とはいえアコースティックであってもどこかパンク的な要素が残っているように感じられるのは、曲の持つ要素か、バンドの持つ要素か。いや、それはどちらもそうなのだろう。
最近になってGENが瑛人の「香水」を知ってハマったこと、RYU-TAは対照的にNiziUにハマっているという最近のそれぞれの音楽事情を開陳しながら、
「君がいない世界好きになりたい
君がいない世界好きになるまで」
とカラオケ持ちのハンドマイクでGENが歌う「soup」はバンドと我々がこうやって会うことができなかった日々を回想するかのように響く。
「向こう岸 留守番な毎日 持っていた
そう待っていたんだ
スープにかき混ぜて愛を配っていた
意味はなかったようだ」
という締めのフレーズにもあるように、やっぱりいない世界を好きになることはできなかった。だからこうしてこの状況で会うことができているのだ。
そんなアコースティックコーナーを終えると、メンバーがいったんステージから掃けてスクリーンに映像が映し出される。GENとRYU-TAがパイロット(RYU-TAはなんとも言い難い役との1人2役だったが)、HIROKAZが自身の飼っている犬を抱えた乗客、そしてKOUHEIはおなじみの女装によるスチュワーデスという配役による、まるでスチュワーデス物語のようなドラマというかコントが展開される。爆笑できるくらいに面白いというわけではないのは声を出せないという状況を考えたらよかったのかもしれないが、KOUHEIはいつものようにこの後のMCでも度々「女装をやりたがっている」といじられまくることに。
そんなどこか緊張感を緩和してくれるような、実にフォーリミらしい映像が終わると、ステージに再び現れた4人は空港の整備士のようなお揃いの衣装に着替えている。その姿は本人たちの言うように、ユニコーンやRIP SLYMEの揃った衣装のようでもあるのだが、
「ここから夜間飛行に入ります!」
と言うと、歌詞にあるような大都会の夜景の映像がスクリーンに映し出される「Night on」が文字通りに夜の幕開けを告げる。ファンからは人気が高い曲であるが、なかなかライブではやらないだけに歓喜している人が非常に多かった印象だ。
その「Night on」で始まった後半戦にさらに勢いをつけるのが「monolith」。スタンディングのライブと違ってモッシュもダイブも、走り回ることもできない。でもみんな心の中ではブチ上がっている。それが腕を上げている姿からわかる。数え切れないくらいにライブで聴いてきた曲であるが、
「君以外に何もないだろ」
という歌詞がこんなにも我々に向かって歌われているように聞こえたことが今まであっただろうか。それくらいにフィジカルな楽しみ方ができないからこそ、心と心で向かい合っているかのようだった。
フォーリミはフェスなどでも大きいステージに立っているバンドであるし、そうしたステージで積極的に特効を取り入れたりしてきたという、パンクバンドのライブを意識的に前へ先へ進化させようとしてきたバンドでもあるが、この日も「Alien」ではステージ前から火柱が上がり、ラウドバンドのような激しいサウンドの「Utopia」では観客がビックリするような爆発音が曲のスタートを告げる。
この辺りからGENの声は前半に比べるとどんどん覚醒していっているかのようによく出ていた。それはコロナでライブが出来なくなったことによって喉を休ませる期間ができたということもあるかもしれないが、それ以上にこうして久しぶりに観客を前にして歌うことによって喉が嬉しそうに躍動しているというか、GENの精神を喉が引っ張ってくれているような感覚にいるようにすら見えた。ただでさえハイトーンで張り上げるような曲が続いているのに、それが全く苦しさを感じさせることはなかった。
そのGENは前日のライブが実質的な復活ライブということもあり、エモ散らかしたものになったということだが、それはスタッフやメンバーと久しぶりに会って、その人たちが動いている姿などを見るだけで泣けてしまっていたらしい。それはそうだ。ライブがなかったらそうしたスタッフなどの支えてくれる人に会う機会すらない。彼らがどんな生活をしたりして日々を過ごしているのか、そもそも生活できているのかどうかもわからない。でもライブをやればみんなに会えて、今までと変わらないようにその人たちが動いている姿を見ることができる。ライブというのがただバンドが音を鳴らすだけの場所ではないことがわかる。
そうしてエモさを感じさせた要因を話すのだが、マネージャーがゲネプロ時にココイチのカレーのトッピングをどうするかというところまで聞いてくれるという気配りのできるエピソードを話すのだが、その話をしながらGENは思わず目に涙を浮かべてしまう。
「俺が泣いたらみんなも泣いちゃうから泣くのはズルイな」
と言って我慢していたが、もうその姿だけでこちらも涙が出てしまう。フォーリミがどれだけライブをやりたいと思い続けて決断したのがこのライブで、どれだけスタッフたちを大切に思ってきたのか。もうそこには悪ガキ的なイメージは一切ない。ただただ純粋に自分たちの音楽に携わっている人への思いを言葉にすることができる、慈愛に満ちたバンドマンの姿だった。
そんな想い。それはもちろん久しぶりに会うことができたという意味では観客も同じだ。そんな観客への想いを曲にしたかのような「Letter」の
「月明かり照らし出し思い出す
あなたに会いたい」
というフレーズが我々へのメッセージだとしたら。ライブができない時もこのフレーズをバンド側が歌いたいと思っていてくれたのならば、そんなに嬉しいことはない。
みずみずしさすら感じるバンドサウンドで
「とれたての気持ち 蓄え 潤す
誘惑を焦がすように
喜びの雫 飛び跳ね こだまする
揺れる君を ただ 見ていたんだ」
と歌うのがこれまた客席の様子を歌っているかのように思えてくる「Shine」…。もちろんこの日演奏された曲は全てコロナ禍になる前に作られている曲たちであるが、こうして聴くと全く違う意味を帯びて聞こえてくる。それはきっとバンド側がそうした思いを込めて音を鳴らしているからだ。家でこの曲順でプレイリストを組んで聴いても伝わらないようなものが、目の前でバンドが演奏していることによって確かに感じることができる。だからライブが観たいんだし、こうしてこの状況で名古屋までライブを観に来たんだ。
YON FESの夜のステージで鳴らされた光景が今も忘れられない「hello」もまた、
「永久に永久にちょうどいい空気で」
というフレーズが会えなかった期間のことを思うと深く突き刺さる。永遠にフォーリミのライブを見れるわけではないのはわかっているけれど、でもこの日みたいな日があるならそれが永遠に続いて欲しい。HIROKAZの浮遊感を感じさせるギターのサウンドも心地良くも優しい。
「今は人の好きなところや良いところを探すんじゃなくて、人の悪いところとかを見つけ出して叩くっていうのがすごく多い気がする。それで息苦しくなっちゃったりして。そういうのに気を使うよりも、やっぱり好きなことに気を使いたい。
思えば今年は自分たちがやりたいことよりも、これをやったらどう見られるか、みたいなことばかり考えていた気がする」
と今のSNSの危険性と自分たちがそうした思考にハマってしまいそうになっていたことを自戒する。それはきっと自分たちのファンの見られ方についても思うことはたくさんあったはず。直接言われるようなことだってあっただろうから。それでも自分たちのファンを信じ続けてきたのは、良いバンドには良いファンがいること、ファンはバンドを写す鏡であることをメンバーはわかっているから。そのメンバーの信じてきた思いに観客が応えられたからこそ作り上げることができたライブと景色。
でもそんな考えすぎな自分自身へ生まれ変われとばかりに歌う「Squall」の真っ直ぐなメロディがそのまま真っ直ぐに突き刺さる。この曲もそうだが、やっぱりフォーリミの音楽は力をくれる。立ち止まってしまいそうな時にもう一度走り出せるような力を。それが曲や音に宿っているのはメンバー自身もこの曲をはじめとした自分たちの音楽に奮い立たされているところもあるからだろう。
「立ち上がり何度も 変われる進める」
というフレーズは立ち止まりそうになったバンド自身へのメッセージそのものじゃないか。
そんなライブの最後に鳴らされたのは「再会の歌」こと「Terminal」。この日はまさに「Terminal」な会場で鳴らされたわけだが、バンドが、スタッフが、観客が、ここにいた全員がこの最低な世界を少しでも最高な世界にしようと力を尽くしている。いつかこの状況が明けた時にこの曲をライブで聴けたら、その時はそれぞれが思いっきり好きなように楽しもう。その瞬間が来たら、最高な世界になってきっと愛せるはず。
アンコールでは再び通常の服装に戻った4人がステージに登場すると、GENは自身の歌がさらに上手くなっていることを自分で口にし、
「このコロナに俺たちの音楽は必ず効くはずです!音楽は不要不急なものかもしれないけど、俺たちの音楽はみんなに力を与えられるものだと思ってます!俺たちはこれからも止まったりしません!」
と、自分たちの音楽への自信と、これからも止まらずに活動を続けていくことを語る。その自信はこの2日間で見ることができた景色から得ることができたものなのだろうし、それがバンドを先へ前へと走らせる。いろんな苦悩を乗り越えて、いや、まだこのコロナ禍を乗り越えられたわけではないけれど、フォーリミはそこに対する自分たちの戦い方、生き方をこの2日間で見つけたのだ。
そして
「音楽シーンに光が射しますように!」
と言って演奏された「swim」はフェスなどでは一大サークルなどが発生するような曲であるが、当然この日はそうしたものは起こらない。みんなが思い思いにその場で泳いでいる。その光景こそがこれからの音楽シーンの光そのものであったし、GENは曲中に
「手を叩くことしかできないんでしょ!Youtubeじゃ足りないんでしょ!配信じゃ足りないんでしょ!」
と言った。この日のMCでも4月に配信ライブをやったことについて、
「俺たちには合わなかった」
という旨のことを語っていたし、こうして生で感じられることの素晴らしさをわかっているからこそ、今こうして我々の目の前に立って音を鳴らしているのだ。その生の素晴らしさをかみしめるかのようにGENはどこか目に涙を堪えているような感じがしていた。
そんなバンドとファンの関係性を「一生一緒に」生きていくものとして歌う「Give me」ではスクリーンに「YON FESの開催をどうするか」ということを話し合っているドキュメンタリー映像が。メンバーやスタッフがコロナによってどう翻弄されてきたかがよくわかる瞬間であるが、それに続いてこの日の会場の様子、撮影ブースで写真を撮る観客やカメラに笑顔で応じる観客の様子が映し出される。
いろんなアーティストがこれまでにこうした演出を使ってきたのを見てきたが、この状況でそれを見るのは初めてだった。もちろん撮影ブースではかなり撮影者と距離が取られていたりと、まだまだ気をつけなくてはならないし、カメラの前で大人数で固まって集合写真を撮ることはできない。でもそうして観客がライブを本当に楽しみにしている笑顔すらも忘れてしまっていた。ライブ会場はそんな顔になれる場所だったことも。気をつけながら、でも楽しむことは忘れない。そこにはこの日だからこその我々のリアリティが確かにあった。
そんな大団円的な光景を描きながらも、メンバーたちはまだ楽器を下ろしていない。
「今日のライブを忘れないように!」
とトドメに演奏されたのは「Remember」。走り出したくなるような、でもその場で拳を上げて応える高速ツービートパンク。自身に寄ってきたカメラに目線を合わせて笑顔を見せながらドラムを叩くKOUHEIの姿を見ていると、もう大丈夫なんじゃないかとすら思えてくる。名古屋代表04 Limited Sazabysが名古屋最大クラスの会場で鳴らした、高らかな復活の音。最後の1音で4人がそれぞれの楽器を思いっきり振りかぶってから鳴らす姿が、この上なくカッコよくて本当に大好きなんだ。
演奏が終わると客席を背後に記念撮影。GENの「ハイ、チーズ」に加えてRYU-TAの「キュン」でも何度も写真を撮っていた。その後の規制退場の時間になると、まだ自身の退場時間ではない人たちはみんな写真を撮ったりして余韻に浸っていた。我々のパンクヒーロー、フォーリミの復活の場に居合わせることができたのだから。
こうした全席指定などのコロナ禍でのライブのやり方をせざるを得なくなった今、最もライブがやりづらくなったのはパンク、ラウド系のバンドだろう。これまで自分たちが見たいと思っていた客席の光景を見ることが出来なくなってしまったのだから。
でもそんなパンクバンドのライブを今の状況でこうした大きい会場でできるたのは、フォーリミがこれまでにもアリーナなどに挑んできた経験があったからだ。そうしたバンドだから見せることができた、見ることができた景色。そこには確かに日本のロックシーンの光が射していた。
4月の配信ライブの最後にGENは
「俺たちのこと忘れるなよ!」
と叫んだ。今になるとあの言葉は活動休止を意識していたものだったことがわかるが、みんなフォーリミを忘れていなかった。忘れるわけがなかった。これからもフォーリミと一緒に最低な世界を最高なものとして愛せるように歩き続けたい。それが証明された今年のYON EXPOだった。
コロナなんかとっとと滅して欲しいし、この状況になって良かったことなんか何にもない。でもそんな中で唯一ポジティブに捉えられることがあるとするならば、それはフォーリミが止まらないバンドのままでいられたということだ。これからも、ただ先へ進む。
1.Feel
2.Warp
3.climb
4.days
5.nem…
6.medley
7.midnight cruising
8.Jumper
9.fiction
10.Milestone
11.mahoroba
12.Horizon (Acoustic)
13.soup (Acoustic)
14.Night on
15.monolith
16.Alien
17.Utopia
18.Letter
19.Shine
20.hello
21.Squall
22.Terminal
encore
23.swim
24.Give me
25.Remember
文 ソノダマン