サカナクションの前身バンド・ダッチマンが2001年に発売したアルバムです。サカナクション結成の4年前ですね。
“セントレイ”、“アルクアラウンド”、“アイデンティティ”のもとになった曲や“セプテンバー”、“明日から”がほぼ形を変えずに収録されています。
サカナクションの名曲の種ばかりが入っているわけだから、曲の強度はものすごいわけで。このアルバムは名曲ぞろいと言ってしまっていいわけで。とてもいいアルバムです。
後に日本中を夢中にさせるような名曲の種が揃ったアルバムをリリースしたのに、なぜダッチマンはサカナクションのようなブレイクを果たさなかったか、という疑問が生まれるわけですが、それは「可愛げのなさ」にあるのだろうと思います。もちろん、今ほど「売れること」に対して熱量を注いでいなかった、というのもありますが、売れたくない、ということはなかったと思います。
KANA-BOONがシーンに出てきたときって、弟のような、学校の後輩のような、部活の先輩のような「可愛げのある」キャラクターや音楽性が支持されて一気にスターへと押し上げていったと思うのです。
そういった、可愛げって重要な要素で。日本でAKBやももクロみたいな、バッキバキに完成された韓流アイドルではないものが天下をとったのも、「可愛げ」があるからです。
本アルバム『demonstration』は山口一郎が21歳の時にリリースされたものですが、“セプテンバー”や“明日から”、“アルクアラウンド”みたいな曲がサカナクションのようなダンスミュージック的アレンジではなく、バンドミュージックのみで鳴らされていて、アルバム全体に「大人びた」雰囲気が漂っています。
近寄りがたい雰囲気を持った人っているじゃないですか。そんな音楽です。可愛げがまったくないんです。
それは当時の本人たちのキャラクターもあるでしょうし、「勝つ」ことに対して今ほど意識が向いていなかったからだと思うんですよね。
よくあるアルバムレビューとは遠い文章になってしまいましたが、名盤です。
ただ、このCDを聞いた人は「サカナクションにあってダッチマンにないものってなんだろう?」ということを考えると思うんですよ。
それに対する答えは「可愛げの有無」です。