2020年は間違いなくYOASOBIの『夜に駆ける』と瑛人の『香水』の年でした。数年後には「2020年って何が流行った年だっけ?」「あれだよ、夜に駆けると香水!」みたいな会話が確実に繰り広げられることでしょう。2020年に生まれた子どもは『夜に駆ける』世代だとか『香水』世代だとか呼ばれる時が来るのかもしれませんね。
おそらくYOASOBI世代、瑛人世代と呼ばれることはないのだろうなあと思っています。なぜならYOASOBIの音楽は、新時代的なものというよりは、ニコニコのボカロ文化の脈を受け継いだその上に成り立っているもの、00年代後期に流行ったひとつのジャンルのリバイバルであるため、YOASOBI世代という言葉では時代を表すことは難しいのです。
ただ、それは決してネガティブなものではなく、00年代後期と2020年の要素どちらもが混ざり合っているから、2020年=YOASOBIという言葉で括るのは正しくない、という意味でもあります。
さて、そんな2020年を代表する1曲、『夜に駆ける』を生み出したYOASOBIが、満を持してのタイミングでリリースしたのが本アルバム『THE BOOK』です。
どこまでも2020年現在の音で、どこまでもJ-POP。そしてニコニコ全盛期の狂騒を思い出させる音運び。
ニコニコ全盛期に初音ミクにドはまりした人ですら、数多のボカロ曲を今では数曲しか覚えていないように、YOASOBIの曲も消費されていくのだと思う。
でもそうなる運命を望んでいるというか、この瞬間に最大限に輝くために、今の時代に限りなくフォーカスした音作りをしているように思う。
もちろんikuraの歌声や表現力は目を見張るし、Ayaseの音選びも素晴らしい。
YOASOBIって小説をもとにした音楽であることがフォーカスされがちで、本好きの自分としては、本に人を集めてくれるもの嬉しいんだけど、でも本を読んでなおかつ曲も聴くっていう人がどれだけいるのかっていう話で。
むしろ「如何様にもとれる本の解釈に一つの答えを提示することにならないか」と思ってしまったり。
「小説を音楽にする」という縛りは制作の足枷にならないかと思ってしまったり。
だからこれは、2人の「遊び」でしかなくて。
2人の「遊び」が思いのほか大きくなりすぎてしまっただけの話で。
だから2人の密かな遊びが、これからもときどき日本中の人を楽しませてくれたら嬉しいなって。あまり気負わないでほしいなって。それだけです。
/ 2021/02/09