若手バンドの登竜門として、出演した数々のバンドたちが後にブレイクを果たしてきたスペシャ列伝ツアー。
近年は2月から3月にかけて全国各地を回り、ファイナルを東京で、というのがスケジュールとなっているのだが、2020年がコロナ禍でツアーの途中で無念の延期に。
このツアーを終えて一気に飛躍していくバンドも多く、出演バンドが全員また揃うのは実に難しい(数年後に同窓会的に再び集まってツアーやライブを開催した年もあった)のだが、昨年のツアーを回っていたKOTORI、ハンブレッダーズ、ズーカラデル、Suspended 4thが1年越しに集結して昨年回れなかった箇所を回る。
はずだったのだが、開催直前になってSuspended 4thがメンバーがコロナの濃厚接触者になってしまったことによって出演キャンセルに。なかなか上手いこと終わらせてはくれないな、とも思うのだが、今年もこの時期にこのツアーを見ることが出来るようになったというだけでも少しは前身出来ているような。
例年は赤坂BLITZで行われていたこのツアーの東京公演であるが、赤坂BLITZがなくなってしまったことによって今回は六本木EX THEATERでの開催に。
検温、消毒、問診票の記入というコロナ対策を経て場内に入ると、これまでに観てきたEX THEATERとは客席がかなり違っている。第一バルコニー席とスタンディング席が一体化するように椅子が設置されている(しかも常設的な椅子)という景色はこの会場が自分が普段行くスタンディングのライブ以外の用途で使われている(昔、古舘伊知郎トークライブとかも行われていた)時はこんな感じなんだろうな、と思わせてくれる。
土曜日ということでかなり早めの開演時間である17時になると、
・ズーカラデル
スクリーンに出演者たちの映像が流れてからトップバッターとして登場したのは、ズーカラデル。
ギター、ベース、ドラムのみのスリーピースかつ機材も必要最小限ということでより広く見えるステージにメンバーが登場して音を出し始めると、
「スペシャ列伝ツアー!ズーカラデル始めます!」
と吉田崇展(ボーカル&ギター)が叫んで「アニー」を演奏し始める。
最初は吉田のボーカルも少し緊張しているような感じもあったのだが、その吉田がインタビューで
「僕以外の2人は本当に素晴らしいプレイヤーなので」
と話していたように、鷲見こうた(ベース)と山岸りょう(ドラム)のタイトなリズム隊の演奏が、最低限でありながらこれ以上何もなくていいというくらいにスリーピースバンドとしてのアンサンブルのスリリングさを感じさせてくれるし、だからこそ最後のサビでの鷲見のボーカルのメロディをなぞるようなベースラインなどは本当に素晴らしいアレンジだと思えるし、今この状況で聴く
「ねえ 素晴らしくないけど 全然美しくないけど
YOU AND I 泥だらけの 僕らの世界を歌え 何度も」
「ねえ 嬉しくはないけど 全然悲しくもないから
独りでも希望に満ちた 明日のことを歌え 何度も」
というフレーズは強く胸を打つ。
激しく踊りまくるというわけではないけれど、軽快なリズムによって体が動いてしまう「TAPIOKA」を演奏すると、吉田がおなじみの外人っぽい
「アリガト!」
と感謝をし、どこからどう見ても素朴な3人組なのに
「地獄の底からやってきた、ズーカラデルです!」
と吉田はメタルバンドかのような挨拶をする。地獄らしさは全くないのだが。
この状況でライブができない中でもリリースを重ねてきているだけに、2月にリリースした配信EPから「スタンドバイミー」「若者たち」という2曲を連発してバンドの最新の姿を見せる。とはいえ音楽性としては決して変わることはない、オーソドックスなスリーピースのロックバンドというフォーマットのままであるが、鷲見はステージが広いということもあってか、かなり難解なフレーズを弾いているにもかかわらず、山岸のドラムセットの方に歩み寄って行ったり、その場でぴょんぴょん跳ねるように演奏したりと、ライブができているという喜びを体で表現するようなアクションがとても増えたなという印象だ。
「またこうして集まることができて、スペシャの皆さん、本当にありがとうございます!
ちょっと友達が4人東京に来れなくなってしまったんですけど」
と、出演キャンセルになってしまったSuspended 4thについても触れる。
スペシャ列伝ツアーは割と同じようなシーンやジャンルにいるバンドで固めたりしない。むしろ音楽性も普段いる場所もバラバラという4組が集うというイベントだ。
だからこのイベントではじめましてをするバンド同士も多いのだが、ズーカラデルとSuspended 4thは渋谷eggmanで開催された、ツアーじゃないスペシャ列伝で一緒に出演している。それを経てまた一緒にツアーを回ることになったからこそ、普通だったら同じライブにブッキングされることが絶対にないくらいに何もかもが違うSuspended 4thのことを「友達」と呼べる関係性になったのだし、次に演奏された「友達のうた」は少なからずSuspended 4thに向けられている部分もあったのだと思う。
そしてあっという間のラストは
「あなたを笑わせたいのだ 歯の浮くような言葉を並べて」
というフレーズが、こうしてこのバンドがステージに立つ理由を表しているかのような「漂流劇団」。
吉田のボーカルも序盤にあった緊張は全く感じられないし、曲最後の
「パラララ ララララ…」
というコーラスではその吉田の声に鷲見と山岸のコーラスも乗っかる。そもそもスタイルからして、ライブで見るとどの音がどうやって鳴っているかというのがめちゃくちゃわかりやすいバンドであるし、吉田のボーカルもどんな言葉を歌っているのかしっかりと聞き取れる。
だからこそ鳴らしている音だけでなく、メンバーが重ね合わせるコーラスまでもがライブの主役になり得るし、そうして声が重なる瞬間や重なったハーモニーの美しさがハッキリとわかるからこそ、ここに観客の声が加わったらどんなに美しい光景を作れるだろうかと思う。今は拳を上げることしか出来ないし、決してモッシュやダイブや大合唱が起きるようなタイプのバンドではないけれど、そこにこそこのバンドを「元のライブハウス」で見たいと思える理由があるのだ。
1.アニー
2.TAPIOKA
3.スタンドバイミー
4.若者たち
5.友達のうた
6.漂流劇団
・Suspended 4th
残念ながらメンバーがコロナの濃厚接触者になってしまったことによって出演キャンセルになってしまった、Suspended 4th。
個人的には「サスフォーが出るなら!」と思ってこの日のチケットを取った部分が少なからずあったし、それは列伝ツアーの恒例である「ファイナルでの出演バンド全員でのコラボ」という、このバンドが普段絶対にやらないであろうことが見れるんじゃないかと思ったからである。(結果的に東京はファイナルではなくなったけれど)
しかしただキャンセルになって終わりというのではなく、この時間に去年途中まで回っていたこのツアーの福岡でのサスフォーのライブ映像が流れる。
「飛行機に乗り遅れたからちゃんとリハやってないんだわ(笑)」
と、鷲山が言いながらセッション的な間奏部分でサウンドチェックを始めたかと思いきや、それぞれが自分の音を上げるように言って、結局バンド全体の音が上がって突入した「INVERSION」のサビでは
「歌え!」
という煽りとともに拳が上がって大合唱が起きている。マスクを着用している人も見受けられたけれど、1年ちょっと前まではこうした、我々がこれまでにずっと行っていた、ずっと見てきたライブハウスの景色が見れていたんだよなぁと思わざるを得なかった。
そしてサスフォーは映像の中で見ても飛び上がりたくなるくらいにカッコ良かっただけに、ここで見たかった。今はただ、この後に控える名古屋(サスフォーの地元だけにトリをやるはず)と大阪にこのバンドも出演できていて、音楽性もスタンスも人間性も全く違う4バンドでのツアーという経験がこのバンドにどんな感情をもたらすのかというのを見たいのだ。
・ハンブレッダーズ
東京公演とはいえ、大阪のバンドではあるけれど、このバンドがトリをやるんじゃないかと思っていた。それくらいに今のハンブレッダーズは勢いも人気もあるのがわかっているバンドだから。
メンバー4人が元気良くステージに登場するとムツムロアキラ(ボーカル&ギター)が、
「スペシャ列伝のスタッフがやろうと思い続けて、みんなが待ち続けてくれたから再開できたツアーです。終わらない青春を鳴らしにきました、大阪のハンブレッダーズです!」
と挨拶してメンバーの音が鳴る。金髪マッシュというまさにバンドマンという髪型のベーシスト・でらしがぴょんぴょん飛び跳ねながら始まったのは
「何処までも行けると思う夜だった
血と涙と汗が混じり合っていた
続けてみることにしたよ
走る 銀河高速」
と、ギタリストが脱退して3人になってもなおバンドを続けるという道を選んだ覚悟を歌った「銀河高速」。
ムツムロアキラはツイッターでもやたらとバズったりするくらいに言葉の使い方が面白いアーティストであるし、それは雑誌「音楽と人」の連載でも他に連載を担当している錚々たる文筆家バンドマンに負けないくらいに発揮されているのだが、この曲の
「時代の波ならば HIP HOP
イマドキ女子は皆 Tik Tok
未だに僕らはロックンロールと
フォークソングをシンガロング」
というコーラス部分の韻の踏み方も素晴らしいし、ただ上手いことを言うんじゃなくてそこにもロックバンドを続ける覚悟が歌われているのがより素晴らしいところだ。観客は一緒に歌えないからこそ、でらしと木島(ドラム)のコーラスがこの広いライブハウスにしっかりと響く。
パッと見は教室内で目立つようなタイプではないし、なんなら漫画の登場人物だったらモブキャラと言われるような立ち位置の人間なのかもしれない。それはこのロックシーンにおいてもど真ん中にドンと居座るような立ち位置になるようなバンドではないのかもしれないが、そこへ向かおうという野心を強く秘めた「見開きページ」にしてもその例えは実に秀逸だ。
「僕は声出しをしていたんだけど、メンバーたちがズーカラデルのライブを袖で見てたら1曲目の「アニー」の1音目がめちゃ音がデカくてビックリしたって言ってて。対バンライブも久しぶりだから、対バンのライブを見るのも久しぶりだし。それでメンバーは燃えてるんだけど、俺は見てないから今持ってる衝動に差がある(笑)」
と笑わせるものの、サウンド的には逆に今時珍しいくらいの至ってストレートな疾走感のあるギターロックであるが、あえて自ら「ネバーエンディング思春期」をバンドのキャッチコピーにしているだけに、青春をテーマにした曲や歌詞の描写も実に多い。
それはムツムロアキラが
「好きな曲は誰にも教えたくない!」
と言って演奏された「フェイバリットソング」から感じる、「みんなは知らないけど私だけがこの素晴らしいバンドの音楽を知っている」ということに優越感を感じていた、思春期特有の黒歴史的な感情もそうである。
そんな黒さを思い出してしまったことによる色覚を、カラフルな照明が塗り替えてくれるのはリリースされたばかりのシングル表題曲「COLORS」。この曲は青春というよりも「色」がテーマになっていることによって普遍性を感じるものになっており、このバンドから青春を強く感じてきた身としてはバンドの持つ新たな一面を感じさせる。
「去年からの一年で配信ライブとか新しい音楽の形とか、色々なものが出てきたけど、やっぱりこうして生のライブに優るものはまだ出てきてないなって僕は思っていて。最先端のようなものに必ずしもならなくてもいい、ロックバンドっていう時代遅れなことをやってるんだから」
とムツムロアキラがヒップホップやR&Bが世界の主流になり、パソコン一台あれば音楽が作れる今の時代の中でもロックバンドをやる意味に向き合った「ユースレスマシン」を聴いていて思った。
自分は青春を強く感じるこのバンドの対象年齢から外れているような感覚に勝手になっていた。スクールも制服ももう昔のこと、自分の青春時代にはその時代に聴いていたバンドの音がある。だから青春を強く歌っていればいるほど、自分の中には入り込むことはないんじゃないかと。
でもこうして、特に近年の曲から感じるのは、ムツムロアキラは自分と同じようなことを考えていて、それをムツムロでしか書けない言葉で曲にしている。時代遅れであるのがわかっていてもロックバンドが1番好きであるということ。
「表紙で買ったレコードが素晴らしかったんだ
ベスト盤には入ってないあの曲が好きなんだ」
というフレーズにこの上ないくらいに共感を覚えてしまうリスナーとしての経験も。
そんな思いは
「世界中のすべてのライブハウスに捧げます」
と言って演奏された、ラストの「ライブハウスで会おうぜ」で極まる。コロナ禍だから生まれた、ライブハウスで生きてきた、ライブハウスを愛するバンドだから作ることが出来た曲。それはライブハウスに行っている人なら誰もが「あそこだ!」と思うようなライブハウスが次々に映し出されるMVも含めて。
「いつからか当たり前になっていた
大袈裟じゃなくて居場所になっていた
死ぬ間際の走馬灯に
なりそうな夜がいくつも重なった」
など、本当にそれなんだよな…としか思えないフレーズのみが並ぶ中、サビでは
「ヘイ ロンリーベイビーズ
ライブハウスで会おうぜ」
と歌う。ただ「ライブハウスに行こう」的に歌うのではなく、
「ロンリーベイビーズ」
という言葉が付くことによって、この曲はこんな状況、この年齢になっても1人でライブハウスに来るような自分のような人間に歌われている。平々凡々極まりないような自分に歌われているということは、世の中のライブが好きな人全てに向けて歌われているということと同義だ。
自分と同じようなことを考えて音楽をやっている人が、自分のような人間たちのために音楽を鳴らしている。それに気付いた時には涙が出てきていた。
「涙を流したって ここじゃきっとバレないさ」
と歌っている通り、ライブハウスの中ならそれもきっとバレない。生きていて涙を流すくらいに感情が揺さぶられるのはライブを観ている時だからこそ、
「僕たちの音楽よ このまま鳴り止まないで」
と最後の最後までムツムロはこちらが思っていることを歌詞にしてくれる。
初めてこの曲をライブハウスで聴いたこの日、ハンブレッダーズは自分にとって対象年齢外ではない、自分のためのバンドになったのだ。
1.銀河高速
2.見開きページ
3.フェイバリットソング
4.COLORS
5.ユースレスマシン
6.ライブハウスで会おうぜ
・KOTORI
この日のトリはメンバーで機材セッティングとサウンドチェックをしていたKOTORI。その際に横山雄也(ボーカル&ギター)がMISIA「Everything」を歌って観客を沸かせていたが、今回の出演者4組の中で唯一の関東のバンドである。
「Today’s final artist is…」
というアナウンスが流れている時にはすでにメンバーはサウンドチェックを終えてステージにスタンバイしており、すぐに音を鳴らし始める。真っ暗な会場のステージの後ろから真っ白な照明がメンバーを照らす。後ろからの照明のみなので、顔や姿はハッキリとは見えず影のように見えるメンバーの姿がどこか神々しい。
「We are the music
We are the future」
というフレーズで上坂仁志(ギター)と細川千弘(ドラム)も声を重ねる、yonigeらとのコンピ盤に収録された「We Are The Future」だ。
「音楽で大切なものを守れますように」
というフレーズはコロナ禍になる前に書かれたものだと思われるが、この状況でのライブハウスでのライブの1曲目にこの曲を演奏するというところにバンドとしての強い意志と表明したいものがあるということを感じる。
「羽根」「unity」というバンドのグルーヴの中にも4人で曲を構築しているんだろうな、と感じるような演奏をしているのはこのバンドならではであるが、明らかに出で立ちからして前の3人より派手な細川のドラムが一際凄まじい。
そもそもShout it Outで活動していた頃から、バンド後期の2人体制の頃にはサポートメンバーがパンク・ラウド色の強いメンバーであり、そうしたバンドと対バンを重ねていただけに、音が物凄く強い上に手数も多い。かといってドラムだけが前に出ているということもないバランスも保たれている。見た目が派手に見えるのはShout it Out時代はボーカルの山内彰馬が尖りまくっていたが故に相対的に大人しく見えていたのかもしれないが、KOTORIは前の3人の見た目が大人しめなだけに細川の派手さが際立つ。
このスペシャ列伝は基本的に1バンドの持ち時間が30分くらいとかなり短い。とはいえやはりトリはそれよりもちょっとは長いのだが、新曲も含めてそんな短い持ち時間の中でも緩急をつけるようなセトリを組めるのは決して激しい曲だけが自分たちの持ち味ではないということを自負しているからだろう。
昨年行った日比谷野音ワンマンも雨の中だったし、この日がライブ前にかなりの豪雨だったことから、自分はこのバンドを雨バンドなんじゃないかと思っているのだが、それを自覚しているのかはわからないが「雨のあと」という雨ソングも演奏され、この曲ではベースの佐藤知己がなんとトランペットも吹くのだが、左手でトランペットを吹きながら右手で開放弦のベースを弾くというユーティリティプレイヤーっぷりを見せる。普通はホーンが入った曲なら専門のサポートメンバーを呼んで演奏するものであるが、まさかメンバー、しかもベーシストがベースを弾きながら演奏するというのは沁み入るような曲を演奏しているとは思えないくらいに衝撃的であった。
すると横山は去年の2月にこのツアーで出演バンドみんなでフェリーに乗って札幌に向かって移動している時にライブが出来なくなってしまったということを語る。他の出演バンドに会うのもその時以来であり、自分たちがライブをするのも半年ぶりであると。
そんな久しぶりのライブだからこその衝動を燃やし尽くすように、タイトル通りに真っ赤な照明がステージを照らす「RED」ではじっくりと始まった曲が後半で一気に加速するという、1曲の中で静と動を表現しながら、一気にライブ自体がその動の部分へと動いていく。時には立ち上がってドラムを叩く細川がそのライブの転換点をしっかりと引き締める。
そこからはまるで青春映画のエンドロールとして流れそうなくらいに、この状況下でもこうしてライブハウスでこの曲を聴けているというだけで素晴らしい世界なのかもしれないとすら思える「素晴らしい世界」から、童謡と同タイトルの曲を今の時代のパンクとして生み出しながらも、幼少期にメンバーたちが童謡の曲を聴いていたのが原点にあるんだろうなと思う、ライブハウスという生きる場所があると同時に、帰る場所があることを実感させてくれる「遠き山に陽は落ちて」と思いっきりテンポを上げた激しいアンサンブルで駆け抜けていく。そんなバンドに応えるように観客は拳を上げる。
今までは周りにハルカミライやyonigeというバンドがいるからこそ、突出したものがない地味なバンドというイメージを持っていたが、ライブを見てみたら全くそんなことはなかった。
地味なように感じたのは常に爆発しているわけではなく、クライマックスへ向けて熱量を徐々に高めていくライブ作りが出来るからであるし、この日は終盤にそれが見事に爆発していた。何というか、ライブハウスで鳴らしている若手バンドたるものこうあるべし、とでも言うような。
しかしやはりトリということでそれでは終わらず、アンコールで再びステージにメンバーが現れると、
「短くて速い曲をリクエストされたんだけど、ゆったりした、最後に似合う曲を」
と言ってイントロが鳴らされた瞬間にファンであろう女性が驚いて飛びあがっていたのは「トーキョーナイトダイブ」。これでもかというくらいに高層ビルが周りに立ち並ぶ、良くも悪くも東京でしかないようなこの六本木のライブハウスで鳴らされた、東京の曲。キャッチーでありながらも、やはり衝動をそこに加えているのは立ち上がりながらドラムを叩く細川だ。映像では何回か見ていたけれど、久しぶりにライブで叩いている姿を見ていて、やっぱり素晴らしいドラマーだなと思えたし、これからも何回もライブを見てそう感じたいと思った。
ライブが始まる前はKOTORIがトリであることに少し驚いた。まぁ関東のバンドだしな、札幌が開催されていたらズーカラデルがトリだろうし、大阪はハンブレッダーズがトリだろうし、とも思っていたのだが、そうした地元だからトリという概念を捨て置いても尚、KOTORIはこのメンツの中でトリをやってもおかしくないくらいのライブが出来るバンドになっていた。
自分も「地味な、普通のギターロックバンド」という先入観を持っていたし、自分くらいの世代の人からしたら「若い人に人気あるバンド」くらいのイメージかもしれない。
でも若い人の方が絶対に感覚が鋭い。なんとか抗っていきたくても、年を経るに連れて保守的になりそうになってしまうのを実感している。実際にそうなってしまっていると感じてる人もたくさんいる。
ただ、若い人がこのバンドを聴いてライブに行っている、野音が埋まるようなバンドになっているというのも、普段からこのバンドを観ている側からしたら当たり前のことなんだろう。そのくらいライブが凄いバンドだって実感できる瞬間を何度も体験してきたのだろうから。
最後に
「帰ったら!」
「手洗い!」
「うがい!」
「アルコール消毒!」
「親に優しく!」
と、1人コール&レスポンスをする横山の姿は本当に無邪気にこのライブを楽しんでいる少年のようだった。
1.We Are The Future
2.羽根
3.unity
4.新曲
5.雨のあと
6.RED
7.素晴らしい世界
8.遠き山に陽は落ちて
encore
9.トーキョーナイトダイブ
毎年、スペシャ列伝ツアーは東京がファイナルであり、そのアンコールで出演者全員でセッションするのが通例になっていた。でも今回は東京がファイナルではないからそれはない。
でも4月のファイナルの大阪の時には4バンドでアンコールでセッションが出来て、去年中止になってしまったこのツアーが完走できていますように。
そしていつかまた、東京でもSuspended 4thも加えた4バンドで、ライブハウスで会おうぜ。
文 ソノダマン