今でもメジャー1stアルバム「THIS IS MY STORY」でTHE BAWDIESに出会った時の衝撃をよく覚えている。
「アー写のどの人がこの声を出してるんだ?」
と思わざるを得ないくらい、爽やかな見た目とは裏腹にぶっとい歌声のロックンロールサウンド。そのリリース直後に初めて見たライブもまたその楽しさとカッコ良さによって衝撃的だった。
そして2ndアルバム「THERE’S NO TURNING BACK」でバンドはブレイクを果たすのだが、その1stと2ndの曲を演奏するという原点回帰的なツアー「FLASH BACK ’09 & ’10 TOUR」のファイナル。あの衝撃から11〜12年経っているというのも今になってまた衝撃的である。
検温、消毒に加えて緊急事態宣言直前ということもあってか個人情報入力フォームへの記入もしてから2日連続となる新木場STUDIO COASTの中に入ると、この日は全席椅子席での指定席。今回はチケットが先行で全く当たらず、一般でギリギリゲットできたということもあり、椅子があるかどうかは関係ない2階席での参加だが。
18時になると場内が暗転して、おなじみの「SOUL MAN」のSEが流れてメンバーが登場。タイトル通りに2009年から2010年の頃に戻るという意味で、近年のキャメルカラーのものではなく、初期の黒いスーツを着用というあたりもこのライブにおける大きなポイントだ。ROY(ボーカル&ベース)は髪色が黒く落ち着いたような一方で、TAXMAN(ギター&ボーカル)はアフロと言ってもいいくらいに広がった髪型が金髪気味になっている。SNSでそうした変化は知ってはいたけれど、こうして実際に見るとよりその変化の大きさに気付くことができる。
当時から全く変わっていないんじゃないかとすら思うMARCY(ドラム)の激しいエイトビートは「THIS IS MY STORY」の1曲目、ある意味ではメジャーのフィールドに打って出ていくことを宣言するかのような「EMOTION POTION」のイントロそのものであるが、自身のベースのリズムを重ねるよりも先にROYが
「今は大変な状況ですけど、こういう時こそ今だけは全て忘れて楽しんで、明日からのパワーに変えていきましょう!」
と叫ぶ。そこにはなぜこの状況でも我々がこうしてライブという場に来るのか、エンタメという存在を求めるのかということが集約されていた。これまでもこうやって目の前で鳴っている音や、その音を鳴らしているメンバーの姿にパワーをもらって生きてきたからだ。
ROYを始め、THE BAWDIESのメンバーもそうやって音楽の力を貰ったからこそ、音楽で、バンドで生きていこうと思えたわけで、これはこの日の本当にギリギリなタイミングだからこその言葉だろう。
その言葉の後に曲に入っていくと、その言葉に責任を持つというか、絶対に見てくれている人たちに明日からのパワーを与えるんだ、とばかりにのっけからJIM(ギター)は飛び跳ねたり走り回ったりと、10年以上前から全く変わっていないかのような運動量を見せ、歓声を出すことができない観客はこれまで以上に腕を上げたり、手拍子したりという形で応える。
最後のサビ前のブレイクは普段なら歓声が上がるポイントであるが、それすらも拍手で応え、ROYはカメラ(この日は生配信もあったことにより、ステージを映すカメラマンもいれば、クレーンカメラも導入されていた)を指差してサビへ突入していく。この部分で一気にテンポが速くなり、ライブそのものが熱量を増していくのは10年以上前からずっと変わらない。
「EMOTION POTION」は1stアルバムの1曲目であるが、2ndアルバム「THERE’S NO TURNING BACK」の1曲目なのが続く「I’M A LOVE MAN」。リズムに合わせて手拍子が起きるタイミングも完璧な、ロックンロールバンドであるTHE BAWDIESに宿るポップネス、キャッチーさを存分に感じさせるこの曲はバンド史上最高傑作と言える2019年の「Section #11」に通じる部分があるが、当時とは何もかもが変わってしまった、制限がある世界であっても、久しぶりにこの曲がライブで聴けるのも、手拍子が打てるのも本当に嬉しい。
「俺の合図で飛び跳ねられますかー!」
とROYが煽りまくると、指定席にも関わらず観客が飛び跳ねまくる必殺曲の一つである「YOU GOTTA DANCE」が早くも放たれる。この曲もまた「THIS IS MY STORY」収録曲ということもあり、すでにこの時点でTHE BAWDIESの今に至るまでの定番曲はほとんど揃っていたのだなと思う。
ROYの挨拶的なMCからもこうしてファイナルまで無事に辿り着けたこと、
「我々THE BAWDIESはライブをやりまくってきたバンドですが、昨年はほとんどライブが出来ずに、バンドの歩みにポッカリ穴が空いてしまったかのようでした。
もちろん先に進む、転がり続けるのがロックンロールバンドですが、焦ることも急ぐこともないじゃないかと。いったん原点に戻ってみようじゃないかと。我々はずっとやっていくわけですから」
と、今回のツアーのコンセプトを説明したが、そこには振り返りながらも、これからもどんな世の中になってどんなことがあってもずっと止まらずに転がり続けていくというバンドの矜持が感じられて、それだけで嬉しくなる。THE BAWDIESはいなくなったりする心配をする必要がないのだから。
この日の東京の天気のように暖かい昼間に公園を散歩しながら聴きたくなる「EVERYDAY’S A NEW DAY」からはこのツアーならではの久しぶりにライブで聴く曲が続く。
ステージには華やかな装飾もあったのだが、それに実に似合うムーディーな「TINY JAMES」などは果たしていつ以来だろうかというくらいのレア曲。どこかTHE BEATLESの影響を濃く感じるような、インディーズ期の曲にも似た空気を感じるのもこの時期のこの曲ならではだ。
さらにはROYのロックンロールさというよりはまろやかさを感じるボーカルにサビでTAXMANの爽やかさと憂いを帯びた声が重なる「I WANT TO THANK YOU」もまた実にレアな、このツアーならではの選曲であるが、確かにフェスなどのセトリには入りにくいタイプの曲であるとはいえ、オリコンTOP10に入るなど、飛躍の大きなきっかけとなった「THERE’S NO TURNING BACK」に思い入れが強い人が多いのは「出会ったきっかけのアルバム」であると同時に、こうしたタイプの異なる名曲が多く収録されているという、THE BAWDIESの幅の広さを知ることになったアルバムでもあるからだろう。
今回のツアーではその2枚のアルバムの収録曲から聴きたい曲を事前にアンケートで募り、その投票結果の上位10曲は必ず演奏するという形なのだが、中間発表で自身ボーカルではなくTAXMANメインボーカルの「B.P.B」が1位になったことがあったことに、このバンドの絶対的リーダーであり覇王であるROYは
「投票結果に不正があった」
「TAXMANのボーカル曲がTOP10に入るくらいだったら「変わってる人いるな」って感じ」
「最終的には私のボーカルの曲が1位になったので、やはり悪は滅びる運命にある」
と、止まらないTAXMANへの愚痴を次々に放つ。
TAXMAN「お前も「B.P.B」で歌ってるじゃん!」
というもっともなツッコミを一切気に止めることもなく。
その投票結果を反映した選曲というそこからの流れはタイトル通りにグルーヴの申し子としてのTHE BAWDIESを感じさせてくれる、アルバムタイトルに繋がる「no turning back」というフレーズが出てくる「MOVIN’ AND GROOVIN’」は「THERE’S NO TURNING BACK」のツアーファイナルの、今はなき渋谷AXでのライブを思い出させる。アルバムの収録時間自体が短いだけに、本当に駆け抜けるようなライブだったけど、DVD化もしているとはいえ、あの場所がなくなってしまってからもう長い年月が経っても、記憶は決して消えることはない。
ROYが散々文句を言っていた割にはしっかり演奏されたTAXMANボーカル曲はまずは「THIS IS MY STORY」収録の、TAXMANボーカルだからこそのパンクな「SO LONG SO LONG」。
TAXMANのボーカルもこの状況でのツアーファイナルということもあってか気合いが漲っているのがよくわかるが、曲の締めのドラムソロでは「MARCY!」と叫んでMARCYを指さすと、MARCYもそのTAXMANの気合いに応えるかのように激しいドラムソロを打ち鳴らす。ふわっとしているようにも見えるMARCYだが、こうした部分でキメることができるのはさすがロックンロールバンドの心臓部分を担う男である。
しかしそうした熱さだけがTHE BAWDIESの魅力ではない。落ち込んでいる時や悲しいことがあった際にスッと隣に来て寄り添ってくれるのは今なおフェイバリットに挙げる人も多い「SAD SONG」。
個人的にもTHE BAWDIESのバラードといえばこの曲であるし、この曲の存在が後の「LEMONADE」や「THE SEVEN SEAS」に繋がっている部分もあると思う。今になって聴くこの曲がより沁みるのは、リリースから11年経ったことによって、バンドにも我々にもSADなことがたくさんあって、それをこうしてTHE BAWDIESのライブや音楽によって乗り越えてきたという経験があるからである。青を基調とした暗めの照明をそれを際立たせている。
しかしそこで悲しみを吐き出したことによって、感じることができるのは幸せのみということで、リズムからしてご機嫌になる「KEEP YOU HAPPY」へ。アメリカのソウルミュージックを日本だからこそのポップさに変換したこの曲ではメンバーのコーラスに合わせて観客の腕が左右に揺れる。最近はメドレーの中の一部として演奏されることも多かったが、やはりイントロからフルに聴くことができるのは本当に嬉しい。この幸せな時間がずっと続いてくれればいいのに、と思うくらいに。
すると曲間でステージが少し長い時間暗闇に包まれる。それだけで何の曲が次に演奏されるのかがわかった人もたくさんいたであろうけれど、買い物カゴを背負ったROYが「竈門パン次郎」として鬼を探すという「鬼滅の刃」バージョンの「HOT DOG」劇場へ。
TAXMAN=ゾーンに入った演技力の鬼
MARCY=鬼に食べられた人
JIM=パン次郎の兄のソーセー次郎
という配役で、JIMがぺこぱのシュウペイのモノマネ(ROYに急遽やらされたらしい)を挟んだのも含めてマスクをしていても笑い声が漏れるくらいに爆笑を巻き起こしてから突入し、買い物カゴを背負ったままで演奏して、間奏でROYとJIMが背中ではなく買い物カゴを合わせる「HOT DOG」は楽しさの極みであるが、「THERE’S NO TURNING BACK」収録時はまだこの劇場はやってなかったんだよな、と思うとショートムービーも作ったりしたこともあった、メンバーの演技力の向上も含めて長い年月が経ったんだなと思う。
そんなメンバーの1人であるMARCYをROYがいじりまくるというワンマンではおなじみのMCでは、ROYにいじられてる最中のMARCYをクレーンカメラがずっと接写していたりと、もはやスタッフぐるみでMARCYをいじっている。
「インスタの投稿の文が最後に急に中国語になる」
「グータッチしようとしたら拳を両手で優しく包み込んできた」
と、ROYがなかなかベースを背負おうとしないくらいに長いいじりを経てからTAXMANにイントロのギターを振って曲に入るかと思いきや、TAXMANがそれに対応できずに
「ちょっと巻き戻して!」
と言うと、MARCYいじりをしているところまでROYが巻き戻したことによって、JIMが
「もうイヤだ〜!(笑)」
というくらいの爆笑を巻き起こす。その楽しさこそが不安や悲しみを吹き飛ばして、忘れさせてくれる。
そこからはコンセプトとは離れたお祭り騒ぎということであるが「Section #11」収録でありながらもこのライブに相応しいタイトルの「LET’S GO BACK」のキャッチーなコーラスには思わず声が出そうになってしまうが、みんながしっかり堪えたことによって、メンバーの声だけが響く。
そもそもが一緒に歌いたい曲ばかりのTHE BAWDIESであるし、コール&レスポンスを超えたシャウトもライブでのおなじみであるだけに、声が出せないというのは実に辛くもあるのだが、それでもしっかりルールを守っているのはファンのバンドへの愛と、声が出せなくても楽しいライブをメンバーが作ってくれているからだ。この状況は歓迎すべきものではないけれど、でもバンドの地力の強さを実感することができるものにもなっている。
スピード感に溢れながらも誰一人として乗り遅れることのない「IT’S TOO LATE」ではサビで観客の腕が左右に揺れるのが、上から見るとこんなに壮観なものなのかということを改めて感じさせてくれる。その景色の最上級とも言える武道館ワンマン(次にやったら通算4回目)も状況が落ち着いたらまた絶対にやって欲しいし、TAXMANが腕をひらひらさせて輝かせるROYの超ロングシャウトもあの場所でまた響いて欲しい。
そしてついにやってきた「B.P.B」では間奏でROYがベースを弾く部分でやはりTAXMANが目立つのが気に入らないとばかりにROYがむくれたりフェイクを入れたりするのだが、TAXMANのシャウトがさらに観客を激しく踊らせ、飛び上がらせてくれる。この曲が中間発表で1位になったのも、ライブでのこの楽しさをみんなが知っているからだろう。
さらには水切りというタイトル通りにリズミカルな「SKIPPIN’ STONES」で後半に一気に加速する部分でバンドと曲のキャッチーさと激しさが融合していくのだが、基本的に作品がリリースされるたびにバンドのセットリストは更新されていく。THE BAWDIESにとって最も大きかったのが「Section #11」であるということはアルバム曲お披露目ツアー以降のセトリを見てもよくわかることであるが、それまでは大半が今回演奏された「THIS IS MY STORY」と「THERE’S NO TURNING BACK」の曲であることを考えると、その時点ですでにロックンロールバンドとして最強の手札が揃っていたんだなと思う。
そんなライブの最後は「THERE’S NO TURNING BACK」のツアーの後に、さらなる決定打として放たれた「JUST BE COOL」。再び超ロングシャウトを披露したROYの
「飛べー!」
の声に合わせて飛び跳ね、2階席では飛び跳ねすぎて転ぶ人すらいた。その様子を見ていたら、自分自身も初の武道館ワンマンの時にやはり飛び跳ね過ぎて席から転げ落ちそうになったことを思い出した。数え切れないくらいにいろんなアーティストのライブを見てきた武道館でそんな状態になったのはTHE BAWDIESだけだ。
アンコールではスーツのジャケットを脱いで4人が登場すると、TAXMANが缶ビールを人力ディレイをかけながら開封し、いつもライブ前にやっているという円陣を組むところからこの日の配信は開始されており、いつもは円陣の声かけを任されているMARCYが気合いを入れるどころか力が抜ける声かけをしているのに、配信されるからかこの日は
「気合い入れていけよー!」
「声が小さいー!」
と言うくらいの気合いの入りっぷりで、逆にJIMは笑ってしまったというくらいだったらしい。それを見るためだけでも現地にいた人も配信のチケットを買うのもアリかもなと思ってしまう。
配信といえばバンドは先日新曲を配信リリースしたばかりということで、メンバー自身がこだわり抜いたMVも必見の新曲「OH NO!」を演奏するのだが、TAXMANのリフが引っ張る、このご時世に作られた曲だからか、合唱ではなく手拍子をするポイントが多く導入された曲。昔を振り返るツアーであってもこうして最新曲を演奏するというあたりが転がり続けるということをいつも口にしてきたTHE BAWDIESらしさでもある。
そしてこの日の最後に演奏されたのは「THIS IS MY STORY」の最後に収録されている曲でもある「KEEP ON ROCKIN’」。とはいえ手拍子はできてもコール&レスポンスはできないということで、QUEENよろしくなフットスタンプも導入しようとするのだが、
「地味過ぎる!(笑)」
という理由で見送られ、ROYのシャウトに合わせて2回3回と手を叩くという方式に。最後にはJIMもTAXMANもステージ最前まで出てきてギターを弾きまくり、声は出せないけれど最高に楽しかったという感想しか出てこない振り返りツアーの演奏が終わったのだった。
しかしTHE BAWDIESのライブの締めはやはり若大将ことTAXMANのわっしょいということで、わっしょい法被を着たTAXMANがサイレントバージョンのわっしょいを説明するのだが、ROYがちょいちょい邪魔をするように話を挟み、結果的に東京なので東京タワーバージョンのわっしょいをすることに。TAXMANはここが東京であることを失念していたみたいだが。
そうしてサイレント東京タワーわっしょいをみんなでしてこの日のライブ、このツアーを締めると、何か言いたそうにしながらも何も言わずに去っていくというネタを挟みながらメンバーはステージを去り、コロナによって完走出来なかった(ツアーファイナルはここになるはずだった)「Section #11」のツアーのリベンジを果たせたかのようにやり切った表情を見せていた。もちろんあのツアー自体のリベンジだって自分はまだ諦めていない。
「THIS IS MY STORY」リリース時に自分は初めてTHE BAWDIESのライブを見たのだが、当時から衝撃的なくらいにライブの力は飛び抜けていたけれども、ROYは今では考えられないくらいにオラついていた。
当時、関係者向けに行われたショーケース的なライブを
「あんなクソみたいな」
と先陣を切って一刀両断していたし、なまじビジュアルが良かったということもあって、舐められたくないという思いが強かったのだろう。今こんなに面白いお兄さんになっているというのは敵ばかりだと思っていたのが、味方が増えてきたバンドのストーリーあってこそである。
当時を思い返すと、あの頃は楽しかったなと思う。リリースがあるたびに、ライブが決まるたびに次々に話題になったり、規模が大きくなったり。それはフェスにおいてもそうだった。
「全英語のロックンロールバンド」
という他に全くいない、流行りでもないこのバンドが階段を駆け上がっていく様を見ることができていたのは実に痛快なことだった。
でも、そうした季節は過ぎても、今もやっぱり楽しい。それは今もバンドがこうしてライブを行っていて、あの当時の曲をこうして聴くことができているからだ。チケットが取れないくらいにこのライブを見たい人が多かったということは、今もたくさんの人が「THIS IS MY STORY」と「THERE’S NO TURNING BACK」というアルバムとそれにまつわる思い出を大切な宝物のように大事にしているということ。それはこれからも増え続けていく。THE BAWDIESがこうして転がり続けていく限り。
1.EMOTION POTION
2.I’M A LOVE MAN
3.YOU GOTTA DANCE
4.EVERYDAY’S A NEW DAY
5.TINY JAMES
6.I WANT TO THANK YOU
7.MOVIN’ AND GROOVIN’
8.SO LONG SO LONG
9.SAD SONG
10.KEEP YOU HAPPY
11.HOT DOG
12.LET’S GO BACK
13.IT’S TOO LATE
14.B.P.B
15.SKIPPIN’ STONES
16.JUST BE COOL
encore
17.OH NO!
18.KEEP ON ROCKIN’
文 ソノダマン