昨年からのコロナ禍でのライブが出来なくなった状況において、なかなか人気のあるバンドの立ち位置がわかりづらくなってしまった。それはライブがなくなったことによって、「もうZeppじゃチケットが取れない」とか「アリーナでもソールドアウトする」という物差しで測れなくなり、フェスも開催されなくなっただけに、誰がどの辺の規模のステージに出るのかがわからなくなってしまったからだ。
それは人気が出てきた若手バンドが階段を駆け上がっていく姿を見れなくなってしまったということでもある。都内で言うならば下北沢SHELTER、新宿LOFT、渋谷QUATTRO、恵比寿LIQUIDROOM、渋谷O-EAST、Zepp Tokyo、豊洲PIT、中野サンプラザやLINECUBE渋谷、日比谷野音、日本武道館、アリーナ、幕張メッセ…そうした会場を広くしていく姿が見れなくなってしまった。
おそらく若手バンドで最もその被害を被ったのは、マカロニえんぴつだろう。2019年末のCOUNTDOWN JAPANではGALAXY STAGEを満員にし、年明けには2020年を代表する名盤「hope」をリリース。しかしそのツアーからがコロナ禍によってことごとく中止。あんなに素晴らしいアルバムをリリースしながらその曲をライブで鳴らすことができない。配信ライブは開催したとはいえ、その曲を演奏した時の観客のリアクションを目にすることができないというのは、チケットを持っていた我々よりもメンバー本人たちの方が圧倒的に悔しかったことだろう。
そんな中でマカロニえんぴつはTVの音楽番組に出演することで新曲を演奏し、たくさんの人に聴いてもらう機会を作っていたのだが、今年ようやく回れることになったホール、アリーナツアーのファイナルがこの日の横浜アリーナワンマンである。(結果的には大阪が来月に延期になったことで、ファイナルはそちらになったが)
しかもキャパを半分に減らすというガイドラインを遵守したこともあってか、この日は昼と夜の2回公演に。よって夜の開演時間は日曜日にしては遅めの19時である。
入り口で検温と消毒をしてから場内に入ると、アリーナのセンター席にも椅子が敷き詰められており、1席ごとに空けて距離を保っている。コロナ禍になってからも昨年RADWIMPSのライブで横浜アリーナには来ているが、その時は逆にセンター席全体がステージになっていただけに、久しぶりにセンター席に座ると改めて広い会場だなと思うし、2019年のバズリズムライブでこのステージに立った時に「すぐワンマンでここに帰ってくるだろうな」と思ったのが現実になったのである。
ステージ背面のビジョンには昨年11月にリリースされたメジャー1st epの「愛を知らずに魔法は使えない」のジャケットアートワークが映し出されており、ステージにもそのアートワークの形のオブジェが複数配置されている。中止や延期を繰り返してきたこの状況であるし、マカロニえんぴつのリリーススピードが速すぎるが故に今が何のツアーなのかが若干わかりにくい昨今であるが、このツアーが「愛を知らずに魔法は使えない」のリリースを受けてのものであることがよくわかる。
19時ちょうどになるとおなじみのビートルズ「Hey Bulldog」のSEが鳴ってメンバーが順番に登場。1番最初に現れた田辺由明(ギター)はあらゆる方向の客席に向かって手を振っている。2公演目でありながらも、新鮮な気持ちでステージに上がっているのがよくわかる。
最後にはっとり(ボーカル&ギター)が登場すると、SEが止まってから鳴らされたのは、「愛を知らずに魔法は使えない」の1曲目である「生きるをする」。メンバー全員が客席の上の方、奥の方までをじっくりと見ながらも、実に力強いロックバンドとしてのサウンドを鳴らす。ポップなメロディというのがこのバンドの最大の魅力であるが、あくまで鳴らしている音はロックでしかない。だから高野賢也(ベース)と高浦”Suzzy”充孝(サポートドラム)によるリズムに体が反応して揺れたり頭が動いたりする。それはツアーを経てきたことによってさらに強くなっているし、
「どこへ向かう旅だっていいさ いいのさ
ただ、目を見開いて息をする
生きるをする」
という締めのフレーズはこの状況の世界を生き抜いていくための宣誓として我々観客にも明日からもこの世界を生きていくための力を与えてくれる。
「ルールは一つだけ。声を出さないように。歌いたいだろうし、声を出したいだろうけど、その分をアクションで示してください!」
とはっとりは挨拶代わりに口にしたが、それはついテンションが上がってしまって声を上げてしまう観客もいるであろうだけに、最もタイミングの良いメンバー本人からの注意喚起である。
ステージ両サイドのスクリーンにはメンバーが演奏する姿が映し出されているのだが、背面のビジョンのアートワークが目まぐるしく変化していくのは「遠心」。はっとりが間奏で、
「行け、アニキ!」
と最年長の田辺の背中を押すようにしてギターソロへ突入していく様は、同じくギタリストが「アニキ」と呼ばれている、はっとりが大ファンであるGRAPEVINE(以前共演もしている)を彷彿とさせるが、ツアーを回ることが出来なかった名盤「hope」の収録曲であるだけに、フェスやイベントで演奏されることが多くてもこうして聴けるのは実に嬉しいし、はっとりのボーカルのノビの素晴らしさは2公演目のものとは全く思えないレベルで、ワンマンとしては最高規模になる横浜アリーナの1番奥まで響いている。つまりははっとりがその後に言ったように、
「2公演目だけどね、ギンギンですよ!2回戦できるくらいに元気ですよ!」
という状態なのである。
この会場、客席を見渡しての感想がそのまま曲になったかのような「眺めがいいね」では高野がAメロでステップを踏みながらベースを弾くと、長谷川大喜(キーボード)はその横で高野のマネをしてエアベースをしながらステップを踏んでいるというのが、疲れなど全くなし、メンバー全員がひたすらこのライブを楽しんでいるというのがよくわかる。サビではその長谷川のカラフルな音色がメロディを彩るのもマカロニえんぴつの曲がグッドメロディ、グッドミュージックと呼ばれる所以である。
配信リリース時からそのあまりの展開っぷりが話題になった「溶けない」も「愛を知らずに魔法は使えない」の収録曲であるが、もはやプログレかのような後半の展開はともすれば曲がわかりづらくなってしまいそうでもあるのだが、この展開があることによって「溶けない」がいわゆるバンドによるポップソングの一つではなく、マカロニえんぴつの生み出した、マカロニえんぴつにしか作れない曲になっている。ライブでも完全に観客がその展開を受け入れているリアクションこそが、完全にこの観客たちがマカロッカーとして染まりきっている証拠であるし、それはメンバーの高い演奏力あってこそなのは言わずもがなである。
「ひーふーみーよっ」
とメンバーがカウントすると、長谷川のシンセ(改めてステージをまじまじと見ると、キーボード、ピアノなどが並ぶ長谷川の機材はポップマエストロでありマッドサイエンティストのようでもある)がストリングスのサウンドを奏でる、CMでも大量オンエアされた名曲「恋人ごっこ」へ。
この曲をこんなに序盤で早くも演奏するのか、とも思うが、それはクライマックスを担う曲が「hope」以降にもたくさん生まれてきているということであり、だからこそ
「もう一度あなたといられるのなら」
というあまりにも美しい曲のクライマックス部分がライブのクライマックスとはならないし、はっとりのボーカルは何度も言うことになるが、本当に2公演目とは思えないくらいに素晴らしい。
そのはっとりが「恋人ごっこ」の演奏後から足元のエフェクターをいじって轟音ギターサウンドを生み出しながら、長谷川のキーボードはポップなメロディを奏で、さらにビジョンにはサイケ期のビートルズを彷彿させるような映像が次々と映し出され、それが飛び跳ねたくなるような高野と高浦のリズムと絡まってポップな曲として着地していくという情報量の実に多い「STAY with ME」へ。この辺りはライブでの定番曲でもあるが、こうして演奏されているということは2回公演であってもライブが短くなることがないということがわかるだけに嬉しいところである。
するとはっとりは聴かせる曲を続けるために一旦観客たちを自身の席に座らせるのだが、この日は初めてマカロニえんぴつのライブを見るという人がたくさんいるということで(それもまたライブが全然なかった1年になってしまったことを示しているのだが)、ここでメンバー紹介をすることに。
田辺:サウナ好きが高じて熱波師という資格を取ったため、客席にタオルで蒸気を送る
長谷川:バンド一の食いしん坊で、全国のグルメを食べるためにツアーを回っている。今回美味しかったのは広島のまぜそば屋「くにまつ」
高野:アニメオタク。この横浜が舞台になっているアニメでおすすめなのは、大泉洋と小松菜奈主演で実写化もされた「恋は雨上がりのように」
高浦:打ち上げで1番はしゃぐ、大学生みたいな存在だが、ライブやレコーディングでもいつも一緒に演奏してくれている、頼れる存在
はっとり:ロックスター
というもので、かなり時間を使っただけにはっとりは手短に。こうしたメンバーのパーソナリティがわかる、クスッと笑えるような時間も実際に目の前でやり取りが聞けるのは実に久しぶりだ。
そんなメンバー紹介の後には観客が座った状態で、まだ今が春と呼べる季節であることを実感するような「春の嵐」を演奏するのだが、座って聴くからバラードなのかというと全くそういうタイプの曲ではないと自分は思っている。それはコロナ禍になる前にライブハウスでの最後の曲としてよくこの曲を演奏していた記憶が焼き付いているからかもしれないが、
「出会いよりも別れの方が多い季節」
というはっとりの言葉には同意せざるを得ない。それも今の世の中の状況では最後に会うことすらもできない別れだ。
世代的には「今このアニメやるの!?しかもマカロニえんぴつが主題歌!?」とあらゆる意味で驚いたのは「愛を知らずに魔法は使えない」のepのタイトルが歌詞に登場する「mother」。タイアップ的に「魔法」というワードが入っていると、この曲はポップ(キャラクター名)に向けて書かれたものなのか?とも思ってしまうけれど、
「あなたは何て言うかな
いつまでも余分で余計な言葉を
ずっと僕に、僕にくれよ
探していた今日を守るぜ」
というフレーズのとおりに、マカロニえんぴつは我々がずっと探し続けていた今日=マカロニえんぴつのライブを、次々にまた延期や中止になる中で守り抜いてくれたのである。
さらにミュージックステーションでも披露された冬の名曲「メレンゲ」ではビジョンにメレンゲを思わせる映像が映る中、ステージには雪を思わせるような白い結晶が美しく舞う。それがはっとりの髪にしばらくくっついてしまっていたのが面白かったが、自分にはメレンゲという名前の好きなバンドがいる。はっとりやメンバーが知っているかはわからないが(GRAPEVINE好きを公言するなら知ってると思うけれど)、
「積もらないうちに溶けた
メレンゲの冬の唄」
が指し示しているのはメレンゲというバンドの「ユキノミチ」という冬の名曲であって欲しいと思うし、
「また僕を好きになりたい 生まれ変わったりする以外で」
というキラーフレーズは、こうしてマカロニえんぴつという素晴らしいバンドに出会えた、見つけることができた自分を好きになれていると思えるように響いているはずだ。
するとビジョンには砂浜に刺さった旗の残骸のような棒が映し出される。それが伏線だったと気付いたのはライブが終わってからの話であるが、その映像の前でメンバーはセッション的な演奏を披露する。それは豊洲PITからの配信ライブでも行われていたものであるのだが、その演奏が新曲の「八月の陽炎」に繋がっていっただけに、「メレンゲ」の冬から八月の夏につなげる春の音を鳴らしているかのようであった。
そんな新曲「八月の陽炎」はビジョンに映像を写さず、むしろビジョンをも貫くような赤とオレンジの照明が陽炎が浮かび上がる夏の情景を描き出すロックソングで、とても座ったまま聴いているようなタイプの曲ではないのだが、マカロニえんぴつの浮かれる夏の名曲である「夏恋センセイション」とは全くタイプが違う夏ソングだ。
「言葉はファッションじゃないからな」
という名フレーズ確定の歌い出しがそれを決定付けているが、夏の野外フェスでもどこか真っ昼間の明るい時間帯よりも夜に聴きたくなる。それはつまりフェスのトリで、ということだ。
再び観客が立ち上がると、コール&レスポンスができない代わりに手拍子をすることに。はっとりの指揮に合わせた手拍子が2倍、さらに2倍と速くなっていくのだが、その観客の手拍子の音のみが横浜アリーナに響いていた様は、はっとりが言うとおりに観客全員がマカロニえんぴつのメンバーになっていた瞬間だった。
その手拍子を曲中でも観客がする曲が、長谷川作曲の「ルート16」。タイトルとおりにビジョンには車が広い道を走る映像が流れる中、キーボードのフレーズが強いのは長谷川作曲ならではであるが、一筋縄ではいかない展開も含めて「溶けない」に通じる、「愛を知らずに魔法は使えない」の形を形成している曲だと思う。
2019年の「season」もメンバーそれぞれが手がけた曲によって構成されていたが、こうして全員が作曲することができて、それぞれの曲がそれぞれのパーソナリティを感じさせながらもマカロニえんぴつの曲でしかない形になっているというのは、同じようにメンバー全員が曲を作る、はっとり憧れのユニコーンのようなスーパーバンドにマカロニえんぴつが近づいてきているということである。
そのはっとりがギターを抱えたままイントロで大きくジャンプしたので、どれだけロックな曲が来るのかと思いきや、音源で聴いた時はこれは生演奏じゃなくてライブでも全て打ち込みで演奏するのか?とすら思ったサウンドの「ノンシュガー」。
それをバンドの生演奏の音に変換して演奏しながらも原曲の打ち込みっぽさを残し、ステージからはレーザー光線も飛び交い、メンバーの姿が見えなくなるくらいのスモークも焚かれる。例えば「hope」の「愛のレンタル」ももともとは私立恵比寿中学に提供された曲であったが、この曲のサウンドは今後もマカロニえんぴつの作る曲がそうしたJ-POPのど真ん中で戦っている人たちの元に届いてもおかしくないなと思える。そういう人たちがハンドマイクで歌う姿が見える曲である。
「ここにいる人はみんな叶わない恋をしてきた人だと思います(笑)」
という、はっとりの自分たちのファン層を一言で言い当てるような言葉から、一転して紫色の照明がメンバーたちを照らすのは「ブルーベリー・ナイツ」。田辺の咽び泣くような夜の情景を描くギターもこうした広い会場でのスケールに実によく似合うが、そんなシリアスな曲の後に歌詞も曲展開もビジョンに映る映像もシュールでしかない「カーペット夜想曲」が続くという流れはマカロニえんぴつというバンドの振れ幅の大きさを示している。「mother」や「恋人ごっこ」をTVで聴いてマカロニえんぴつを知った人が「愛を知らずに魔法は使えない」を聴いたらこういう曲が入っていることにビックリするんじゃないだろうか。
するとはっとりは意を決したように口を開く。
「エンタメって一括りにしてくれるなよ。音楽は生きる糧、生きる希望、生きる力なんです!
ロックバンドはやっぱりライブをやって、目の前にあなたがいてくれなきゃダメなんです。これはあなたが見つけてくれた音楽だ!」
と、ロックシーン、音楽シーンそのものを背負うことを覚悟した言葉を口にする。
ライブに行くために日々頑張って働いてお金を貯め、そのお金でチケットを買い、ライブの日を人生最大の楽しみとして生きている。何よりもライブに行くことを生き甲斐にしている。そんな我々と全く同じようにマカロニえんぴつのメンバーたちは生きている。だからこそそうした人たちの思いを全て自分たちが背負うことができる。それはこの規模まで来ることができたバンドだからこそ説得力を持っている。
そんな言葉の後に本編最後に演奏された曲。てっきりフェスでも最後にやることが多い「ヤングアダルト」だと思っていた。曲のメッセージとしてもはっとりの言葉に重なる曲である。
でも実際に演奏されたのは、自分がこのバンドと出会うきっかけになったアルバム「CHOSYOKU」の1曲目に収録されている「ミスター・ブルースカイ」だった。
ビジョンには青空の映像が映し出される中、はっとりがありったけの音楽や、音楽にまつわる人、音楽が好きな人への思いを乗せて、
「サヨナラグッバイ、笑ってスカイハイ
とりあえずまた明日
それでもいいかい?
これならいいかい?って何回も言う」
と、再会を歌う。
小さいライブハウスや、フェスの小さなステージに出ていた頃によくこの「ミスター・ブルースカイ」をこうして最後に演奏していた。
でもあの頃と今が全く違うのは、あの頃の
「いつか届け」
の最後のフレーズはバンドにとっての願望だった。もっとたくさんの人に、もっと大きな会場で、もっと大きなステージで。そう願いを込めていた時に想像していた景色が、今このバンドの目の前に広がっている。
もちろん、まだまだこれからもっとたくさんの人がマカロニえんぴつの音楽と出会い、こうしてライブに足を運ぶようになるだろう。でもあの頃に「いつか届け」と願った人たちのところに、マカロニえんぴつの音楽は確かに届いている。この日の「ミスター・ブルースカイ」はあの頃の願望ではなく、今ここにあるものを歌っていた。この日、最後に鳴らされるのはこの曲じゃなければいけなかったのだ。
アンコールではメンバーがライブTシャツに着替えて登場すると、新たに全国のZeppツアーの開催を発表し、さらにはかねてからファンに「まだですか?」と聞かれ続けていたというファンクラブ「OKKAKE」の発足を発表。まずは無料で運営していくというあたりにマカロニえんぴつらしい真摯な姿勢を感じられる。
そしてはっとりはそれらの発表が終わると、
「マカロニえんぴつの音楽がコロナに負けなかったことを証明できた1年になったと思います。音楽は絶対負けないから!
大事にして欲しいけど、要らなくなったら捨ててもいい。でもまた拾い直してもらえるような音楽を作り続けていきます!」
と、これからの決意を新たにし、最後に演奏されたのは映画「クレヨンしんちゃん」の主題歌である最新曲「はしりがき」。
「画面より、起こせアクション!」
というさりげなくもクレヨンしんちゃんにまつわるフレーズを入れる歌詞というのは、同じクレヨンしんちゃんのタイアップとなったあいみょん、ドラえもんのタイアップのOfficial髭男dismなど、近年の若手アーティストは本当に巧みだと思う。そのタイアップアニメのことに詳しくなくても聴いていて違和感がないし、そのタイアップアニメのことに詳しければ詳しいほどニヤリとさせられる。
その先鞭をつけたのはNARUTOのタイアップを手がけたKANA-BOONだと思っているのだが、彼らはきっとタイアップという商業的な考えではなくて、ただ自分たちが子供の頃から見ていたアニメに関わることができるという喜びと愛情で動いている。それが結果的にこうした曲からタイアップへの愛を感じさせながらも、そのタイアップ専用の曲ではない普遍性を生み出している。
そして曲後半では
「いざ無駄を愛すのだ!生き止まらないように笑うのよ
素顔になれた気がした
ただ あなたには自分を愛してほしいだけなのです」
とも歌われる。音楽というものは人によっては無駄なものかもしれない。それこそ音楽やライブを不要不急と言って切り捨てるような人にとっては。
でもそんな無駄なものを何よりも愛しているし、生きがいにしている。だからこそ、それを感じさせてくれるマカロニえんぴつというバンドと出会えた自分を愛することができる。
「この日を締めるのはこの曲しかない!」
とはっとりは言っていたが、本当にその通りだ。この演奏を聴いていて心から、素直になれた気がした。
演奏が終わると客席を背にしての写真撮影が行われ、はっとりは観客に別れの挨拶をしてから、何回も投げキスをしてステージを去っていった。この頃には完全にこの日2公演目ということを忘れていた。全くそんなことを感じさせない感動があっても、疲れやマンネリを感じることは微塵もなかったからだ。
メンバーがステージを去るとスクリーンには砂浜に佇むはっとりの姿が映し出される。それはどこよりも早い「八月の陽炎」のMVであり、それはライブでこの曲が演奏される前に同じ情景が流れたことへの回答であった。今年の夏、マカロニえんぴつはこの曲でさらに飛躍する。今年の夏を彩る曲になる。そう思わない方が無理な話だった。
良い歌、良い演奏、良い曲。どれもがこのアリーナクラスでワンマンをやるには必要不可欠なものだ。でもマカロニえんぴつが今持っているのはそれだけじゃない。
音楽への愛、音楽が好きな人が抱えている想い。そうしたものを背負えるバンドになったし、それこそがバンドがここまで来ることができた最大の原動力なのかもしれない。それを持っているバンドにこそ、自分たちの持っているものを全て預けたくなる。
Zeppツアーでまた会える時まで、ただ目を見開いて息をする。生きるをする。
1.生きるをする
2.遠心
3.眺めがいいね
4.溶けない
5.恋人ごっこ
6.STAY with ME
7.春の嵐
8.mother
9.メレンゲ
10.八月の陽炎
11.ルート16
12.ノンシュガー
13.ブルーベリー・ナイツ
14.カーペット夜想曲
15.ミスター・ブルースカイ
encore
16.はしりがき
文 ソノダマン