音楽雑誌「Talking Rock!」の主催フェスはこれまでは大阪で開催されることが多いイメージだったが、今年は横浜アリーナでの2days開催。音楽雑誌、ロック雑誌ならではのラインナップとなった2日間は同時に、直前に中止が発表されたフェスの存在証明ともなる。
検温と消毒を終えて横浜アリーナの中に入ると出演者が表紙になった「Talking Rock!」のポスターが会場の扉のあちこちに貼られているのはこのフェスならではだが、ただでさえ横浜アリーナは通路が狭い。そこへ入退場や物販、飲食という人が交差する動線をスムーズに作るのは凄く難しい。それはかつてアジカンがこの横浜アリーナで試行錯誤しながら開催してきたNANO-MUGEN FESを見てきたからこそそう思えることだし、このご時世故により強く感じる。
11時前になると「Talking Rock!」編集長の吉川尚宏が登場しての前説。雑誌が25周年を迎えたこと、今まで大阪で開催してきたこのフェスが横浜アリーナで開催できることを語る。
「25年間ずっと同じことをやってる。でも音楽って本当に飽きないんですよ」
というコメントに音楽で生きてきた人の矜持が滲み出ている。一応雑誌を何度か読んできた身としては「吉川ってこんな感じの喋り方なのか」と思うくらいに関西人というイメージが強くなった。
11:10〜 秋山黄色
2日間に渡るこのフェスの初日のトップバッター。この後に出てくる出演者たちを考えると、秋山黄色がこのラインナップに入っているというのが本当に感慨深いものを感じる。吉川尚宏には
「イメージからクールでナイーブな人かと思ったらめちゃくちゃ熱い体育会系の人だった。ライブを観に行ったら、熱い、凄い、ヤバい」
と賛辞されていた。秋山黄色はロッキンオンの山崎洋一郎が猛プッシュしているけれど、吉川やTalking Rockも本当に期待してくれているのがわかる。
おなじみのSEが鳴ってメンバーがセッティングされた楽器の裏側からステージに登場すると、若干の、というかいつもライブを見ている身からするとかなりの違和感を感じざるを得ないのは、ベースが明らかに神崎峻ではないということが長髪ではなくて短めの茶髪であるということからわかるのだが、それはBenthamの辻玲次であった。思い返せば秋山黄色が3人編成から4人編成に変わって初めてのライブでドラムを務めていたのもBenthamの鈴木敬だった。
白いTシャツを着た秋山黄色が自身のギターを高々と掲げると、SEを引き継ぐかのようなセッション的な演奏が始まり、その段階でミクスチャーロック色の強い指弾きの神崎と、ギターロック色の強いダウンピッキング主体の辻とのサウンドの変化を感じるが、そのセッション的な演奏が止まると、余白を感じさせるサウンドの「Caffeine」からスタートするという意外な立ち上がり。秋山黄色も音源に忠実なようでいて、瞬間的に声を張り上げるように歌うというのは、これまではアッパーな曲で始まってきたフェスのセトリとはだいぶ異なるイメージだ。それでも辻も井手上誠(ギター)も飛び跳ねながら演奏しているという秋山黄色バンドならではのライブの開放感だ。
イントロが鳴らされただけでたくさんの観客が腕を上げたのはアニメ「約束のネバーランド」のオープニングテーマとして秋山黄色の名を一躍知らしめた「アイデンティティ」。片山タカズミのドラムも実に力強く、そのリズムに合わせた観客の手拍子が秋山黄色の声をさらに乗せていく。初の横浜アリーナとは思えないくらいに堂々とした、いつもの、いや、いつもからより強くなった、アリーナにふさわしいスケールの秋山黄色のサウンドだ。
「好きに生きたい 好きに生きていたい
選んだ未来なら笑えるから」
という締めのフレーズは音楽を選んだ、むしろ音楽がなかったらどう生きているのか全くわからないような人間である秋山黄色が今歌うからこそ、好きなものを愛したり、守ったりできるように生きていたいと思わせてくれる。
「悲しいお知らせもたくさんある昨今ですが」
と秋山黄色は話し始めた。それは自身は出演しなくても、この2週間ほどでロッキン、京都大作戦の2週目、男鹿フェスというフェスが次々になくなってしまったことをわかっているからだろうし、秋山黄色はそうしたフェスの主催者たちやそこに行くはずだった人、行かないけれど悲しくてやり切れない人たちの思いを背負ってそう口にしたかのようだった。
秋山黄色が
「俺のライブを初めて見る人どれくらいいる?」
と問いかけて上がった腕はおそらく9割ぐらいというくらいの超アウェーな状況ではあったが、そんな中でも今年リリースされた最新アルバム「FIZZY POP SYNDROME」から、秋山黄色が自身の前の卓に置かれたサンプラーを操り、エフェクトを施した声で歌う「ホットバニラ・ホットケーキ」、夜景を思わせるようなステージ上の照明がタイトルにある「月」の光に照らされているような感覚を与える「月と太陽だけ」という収録曲を連発。今の秋山黄色としての曲の振れ幅の広さを初めてライブを見る人にも見せつけるような、かなり攻めたセトリだ。
「まだ自分が好きなアーティストのために体力を取っておこうとしている人がたくさんいるな!衝撃っていうのは後からついてくるものじゃないんだぜってことを俺が教えてやる!」
と言って秋山黄色が辻と向かい合うようにさらにロックバンド感が増したイントロを演奏し始めたのは「とうこうのはて」。コロナ禍になる前ならば大合唱が起きていた(それはワンマンだけでなくこれまでに出演してきたフェスでもそうだった)この曲でも合唱することはできないが、間奏で秋山黄色が徐にギターを置いてマスクをすると、いきなりステージを走り出してステージと客席の間の通路を全速力で駆け出していく。ところどころどうやって進めばいいのかわからないような箇所もあったが、ステージに戻った秋山黄色は、
「何が正しくて何が間違いかなんて今も全然わからないけれど、一つだけわかるのは、これはやらない方がいい(笑)」
とかなりバテていたようだったが、自分が初めてライブを見た渋谷O-Crestでの「Hello my shoes」のリリースライブの時は35分くらいのライブをやった後にアンコールが出来ないくらいに疲れ果てていた。でも今はバテながらもこんなこともできるようになった。音楽面はもちろん、本人の純粋なフィジカルの部分も秋山黄色は進化している。
その後の
「有限の青春から
音と楽だけ盗み出した
どうか登校そのものは
皆穏やかでありますように」
というフレーズは秋山黄色が音楽の道を志した時の心境そのものであるが、もし音楽やライブが本当に不要なもの、今開催されなくても然るべきものだったとしたら、音楽の道を選んだというか、選ぶしかなかった秋山黄色はこのステージに立っていない。この日にその姿を見れたことで救われている、生きる力になっている人がたくさんいる。秋山黄色のファンの人は秋山黄色の一挙手一投足に注目しては流れてくる曲なりラジオなりを楽しみにして生きているからだ。ライブで目の前に本人がいるということはどんなことよりも強く生きている実感を得ることができる。バテバテの秋山黄色はその大事なフレーズを、
「まこっちゃん、歌って!」
と井手上にボーカルを任せようとして、井手上は明らかに「どうすればいいの?」的に困惑していたが。
そして
「寂しかったり、音楽が聞きたかったり、ライブが見たくなった時は検索してくれ。たった漢字4文字。俺が噂の秋山黄色だー!」
と自身の存在証明をするかのように叫び、最後に演奏されたのはやはり走ったことで体力を使い果たしていたのか、ところどころ歌えなくなっていたものの、JAPAN JAMの時と同様にステージの最前に寝転んで客席に向けて「落ちたらヤバいだろ!」というくらいにギターを垂れ下げて間奏のギターを弾いていた「やさぐれカイドー」。その体勢から戻った秋山黄色は、
「俺をフェスのトップバッターにしたらどんなことになるか、関係各位、よく見ておけよ!」
と言った。それはこの男がトップバッターになると、もうこの日はこの男のワンマンなんじゃないかというくらいにその日1日をかっさっていってしまうということだ。初めてライブを見る人が9割だった客席も最後にはみんなが秋山黄色を見に来たかのような雰囲気になっていた。
前述のO-Crestで初めてライブを見た時に、「これは武道館やアリーナまで行くだろうな」って思った。この日はフェスでの出演だったが、きっと早くて来年というくらいの近い将来に秋山黄色はワンマンでこの横浜アリーナのステージに戻ってくる。その時はこの日は演奏されなかった「猿上がりシティーポップ」をこのステージて見れたら、いいないいないいなって。
1.Caffeine
2.アイデンティティ
3.ホットバニラ・ホットケーキ
4.月と太陽だけ
5.とうこうのはて
6.やさぐれカイドー
12:15〜 Hump Back
今年、京都大作戦は昨年までのリベンジも含めての2週間開催であり、Hump Backは先週メインステージの源氏ノ舞台に出演していた。
それから1週間で京都大作戦を巡る状況は一変してしまった。あのステージからの景色を見ていた林萌々子(ボーカル&ギター)をはじめとした3人はどんな心境を抱いてこの日のステージに臨むのだろうか。
サウンドチェックから曲を連発し「オレンジ」に至っては「時間があるから」という理由でフルに演奏されていたが、本番でおなじみのハナレグミのSEで3人が登場すると、今のフェスを巡る状況にも触れながら、「拝啓、少年よ」でスタートするのだが、そのバンドに込めた想い、ロックバンドとしてこうしてステージに立つ想いが音にそのまま乗っているから、
「あぁもう泣かないで」
と歌っていても聴いてるこちら側は涙が溢れてくるのだ。ぴか(ペース)がぴょんぴょん飛び跳ねたり、頭を振りながら演奏している姿も含めて。林はよく自分たちのことを「ロックバンド」「ロックンロール」と形容するが、Hump Backは音もそうであるが、それ以上に精神がどんなバンドよりもロックバンドだ。
林のボーカルとぴか、美咲(ドラム)のコーラスの掛け合いがこのバンドの持つメロディの美しさとこの曲の持つ終わらない青春を増幅させる「ティーンエイジサンセット」、先日公開された、発売が決まっているアルバム「ACHATTER」のリード曲「番狂わせ」も
「おもろい大人になりたいわ」
「しょうもない大人になりたいわ」
という象徴的なフレーズでの3人の声の重なり合いがとんでもなくキャッチー。この曲を聴いているとアルバム自体もとんでもない作品になりそうな予感がしている。
「ロッキンに行くはずだった人もいるだろうし、京都大作戦に行くはずだった人もいるだろうし」
と林は悔しくも中止になってしまったフェスに想いを馳せる。京都大作戦には先週出演し、ロッキンには今年は出れないが、JAPAN JAMでの林のMCは今の時代にロックバンドとして生きること、我々がロックに生きていくことの意味を考えさせられる素晴らしいものだっただけに、林としてもそれが夏につながって欲しいという思いも間違いなくあったはずだ。
その思いを林は弾き語りのように
「ロックンロールは武器じゃないぜ
ロックンロールはコロナを潰してはくれないぜ
でもロックンロールはいつもがここに優しくあってくれる
だからロックンロールが好きなんだ」
と口にして、そのままロックンロールに、最高速度で突っ走る「閃光」へと繋げてみせる。3〜4年くらい前に初めて見た時はまだ頼りなかった美咲のドラムが本当にパワフルになっている(それは尊敬する先輩バンドの意志を継いでいるからだろう)のがその曲の持つメッセージにより説得力を持たせている。
誰もイントロのブレイク部分で「ワン、ツー!」というカウントを叫ばないというところにバンドの想いがしっかり観客に届いていることがわかる「短編小説」を歌うと林は
「傷ついたからって誰かを傷つけていいことにはならない!優しく抱きしめるのがロックンロールだ!」
と叫んだ。それは盟友のハルカミライの橋本学の言っていることと驚くくらいに同じだ。今の最前線を引っ張る若手ロックバンドたちはみんな同じ思いを持っている。むしろその想いこそが彼らを最前線に引き出した最大の要因なのかもしれない。疲れてしまうくらいに傷つき、傷つけ合うことが可視化されてしまうようになった社会だからこそ。
林のボーカルとバンドの鳴らすが曲のスケール同様に横浜アリーナいっぱいに広がって反響していく様が、この規模でライブをするべきバンドになったんだなということを実感させてくれる「クジラ」を演奏すると、
「高校生の時に組んだこのバンドも12年。飽きるくらいにライブやってきた。でもいつでもこのバンドが好き。このバンドでライブをするのが好き。いつかここでワンマンもやりたいな」
と林が言い、ぴかと美咲も林の方を見て頷く。林の言葉は2人の言葉でもあり、バンドの言葉でもある。最後に演奏された「星丘公園」を聴きながら、本当に良いバンド、本当にカッコいいバンドだなぁと思った。僕が泣いてもロックンロールは死なない。
ロックバンドが今もこんなに人気があるのは日本だけだとよく言われている。世界的には(日本の一部から見ても)バンドは古臭い形なのかもしれない。非効率な形態なのは間違いないし、Hump Backもサウンド自体は新しさを感じられるものではない。
でもバンドのあり方、ロックのあり方としてこれほど今の時代、今の状況のためのバンドはいない。悪意や敵意がネット上に溢れまくっている世の中だからこそ、そのカウンターとして目の前にいるバンドが優しさを感じさせてくれる。それこそが今のロックなのだ。真新しくないというのはどんな時代にも響く可能性があるということであるが、その精神性こそが2020年代の音楽の最先端にして最前線。
リハ.高速道路にて
リハ.嫌になる
リハ.オレンジ
1.拝啓、少年よ
2.ティーンエイジサンセット
3.番狂わせ
4.閃光
5.短編小説
6.クジラ
7.星丘公園
13:20〜 マカロニえんぴつ
5月にこの横浜アリーナでワンマンを行い、名実ともにアリーナアーティストとなったマカロニえんぴつがフェスで横浜アリーナに帰還。サウンドチェックで「洗濯機と君とラヂオ」を演奏している時から観客を踊らせ、
「横浜のハマッ子たちはマナーが良いと聞いております。思い出だけじゃなくて、ゴミも一緒に持って帰っていただきたいと思います」
と、笑顔で言うはっとり(ボーカル&ギター)はすでに楽しそうである。
おなじみのSEであるビートルズ「Hey Bulldog」でメンバー4人とサポートドラマーの高浦”suzzy”充孝が本番に登場すると、ステージを黄色い照明が照らし、長谷川大喜のピアノの軽快なイントロから田辺由明のブルージーなギターへとつながる「レモンパイ」からスタート。5月のワンマンでは演奏されていなかっただけに、やはりフェスとなるとセトリが変わるというところも、ツアーと春フェスを終えて新たなモードに突入していることもわかる。
なのでワンマンではアンコールで最後に演奏されていた「はしりがき」もこの前半で演奏されるのだが、タイアップのクレヨンしんちゃんに関連するワードを取り入れた歌詞の見事さもさることながら、こうしてフェスで演奏されるのを見ることによって、実にフェス映えする曲だということを実感する。最近の曲の中ではそう多くはない疾走感溢れるギターロックというサウンドであるが故に。
ステージが夕日に染まるようにオレンジ色に照らされて演奏された、
「夢を持ったあなたには きっと届く、あなたにはグッドミュージック」
という歌詞の「MUSIC」はまた音楽を、ライブを取り巻く状況が悪い方へ変わりつつある今だからこその選曲だろう。実際にはっとりも
「ロッキンは本当に辛い感じになっちゃったからね…」
と、このフェスが開催されたことに感謝しながらも、やはり自分たちがようやくメインステージへ出演できる立場になって出演するはずだったロッキンへのコメントをしていた。
すると去年からの配信も含めたワンマンでは演奏されていながらも、結局今のところ特にタイトルなどの発表が全くない、長谷川のピアノをメインとしたインスト曲を演奏。しかもポストロック的なインストであるだけに、高野賢也(ベース)と高浦の複雑かつ細かいリズムが際立つ。
その演奏からつながるようにして最新曲である「八月の陽炎」へ。この横浜アリーナのワンマンで初披露された曲であり、そのライブでは夏だからこその青春感の強いMVも公開されたが、
「茹だるような紫の影 君への思いも無理に冷ました夏
濡れたままのシャツ」
という炎天下の下が似合うに違いない歌詞も含めて、ロッキンのステージで鳴らされるのが本当に見たかった。タイアップの日焼け止めを塗りながら。
「ひー、ふー、みー、よっ!」
というメンバーのカウントの声がはっきりと聞こえた「恋人ごっこ」はCMでも起用されたことによって、もはやライブでも定番と言える立ち位置になったが、長谷川のシンセによるストリングスの音の美しさ含め、今やたくさんの人がこの曲が演奏されるのを待っていて、実際に演奏された時に実に嬉しそうな顔をしている。今や数少なくなってしまった今年の夏フェスにおいてこの曲を聴けた体験というのはこれからの人生におけるハイライトの一つになっていくのかもしれない。
そしてはっとりは
「心は死んでませんか?また会いに来るから!そんな思いを鳴らしているつもりです!」
と、フェスが次々に中止になってショックを受けざるを得ない我々の心理をわかっているかのような言葉を口にするのだが、それはメンバーも間違いなくそうしたニュースにショックを受けているからで、ましてやこのバンドはロッキンに出演するはずだった。
そんな思いを音にして鳴らすのは
「横浜ヤングルーザー」
と歌詞を変えて歌われた「ヤングアダルト」。この曲も逆にワンマンではやらなかったために「レモンパイ」同様にフェスならではの曲になっている気もするが、この選曲は「MUSIC」同様に今の状況だからこそだろう。
なかなか、ロッキンが中止になった日の夜は眠れなかった。音楽を聴くことすらできずにただただショックを受けるとともに、我々が春フェスであれだけ守ってきたものは何だったんだろう?と自答していた。夜を越えるための歌が自分の中で死につつあったのだ。
でもこうして今目の前で
「夜を越えるための歌が死なないように」
と歌ってくれるバンドがいる。そのバンドのボーカルは最後に何回も、
「死ぬなよ!死ぬなよ!」
と言っていた。音楽にまつわる事で傷ついた心を奮い立たせてくれるのもまた音楽であり、こうして我々に生きる力を与えてくれるバンドなのだ。それは、
「マカロニえんぴつという音楽でした」
というものであるようだ。明日もヒトでいれると思った。
リハ.洗濯機と君とラヂオ
1.レモンパイ
2.はしりがき
3.MUSIC
4.八月の陽炎
5.恋人ごっこ
6.ヤングアダルト
14:30〜 フレデリック
2020年の2月にフレデリックは初の横浜アリーナワンマンを行った。それはこのコロナ禍に陥る前の最後のアリーナ規模のライブだった。(現にその翌週から次々にライブが中止になった)
そんな初の横浜アリーナがバンドにとってだけでなく音楽シーンにとってもエポックメイキングになったフレデリックが横浜アリーナに帰還となる。
暗闇の中にメンバー4人が登場すると、
「フレデリック、35分一本勝負」
といつものフェスと同じように健司が口にして、
「思い出にされるくらいなら二度とあなたに歌わないよ」
と三原健司(ボーカル&ギター)が歌い始める「名悪役」からスタート。そのボーカルのみでこの広いアリーナを掌握している姿を見ると、さすがこの横浜アリーナでワンマンをやった経験のあるバンドだなと思うし、日本武道館で初披露されたこの曲のスケールの大きさ、それはつまり紛れもないフレデリックの新しい代表曲であることを感じさせる。
するとステージはより一層薄暗くなり、赤頭隆児(ギター)の幽玄なサウンドと、三原康司(ベース)と高橋武(ドラム)の隙間の多いリズムの上で健司が歌い始めたのは、35分の持ち時間のフェスでこの曲をやるとは!という「峠の幽霊」なのだが、この曲は横浜アリーナでワンマンをやった際にアリーナの通路をまさに峠の幽霊的な白装束を着た人が提灯を持って歩くという特別極まりない演出で披露されていただけに、またこの横浜アリーナで、という思いで演奏されたのだろう。
実際にあのライブに行った身としてはあの日のことを思い出さざるを得なかった。「オドループ」をみんなで一緒に歌えた最後の日であったことも、ライブ後に横浜の店によってご飯を食べてから帰れたことも。今はそのどれもができないことになってしまった。そう思うと寂しくなってもしまうけれど。
健司がハンドマイクで歌い始めると、キメを連発するAメロから一気にメロディが開けて昂ぶっていく「Wake Me Up」のサビでは、これがフェスの規模のものなのか?というくらいのレーザー光線が飛び交いまくる。決してフレデリックだけのためにというものではないけれど、決して使うアーティストばかりではない装置をワンマンであるかのようにこうして用意してくれているTalking Rock!のアーティストへの愛とリスペクトを感じる。
フレデリックは常に音楽への愛をひたすらに歌ってきたバンドだ。ラブソングであっても、それは特定の個人へのものではなくて、常に対象は音楽であった。だからこそ
「よく来たね!」
と観客に健司が手を振る「シンセンス」の、
「変わり変わりゆくシンセンス
歯向かってゆけMUSIC
そこに君がいないとかナンセンス
歯向かって向き合ってゆけNEW SCENE」
というフレーズからはこの状況での音楽を愛してやまないものからの音楽へのエールとして響く。やはりフレデリックの鳴らす曲の先にはいつだって音楽と、音楽を愛する人がいる。その思いがバンドをここまで連れてきたのだろう。
「横浜アリーナ、遊ぶ?遊ばない?遊ぶよな!」
というおなじみの健司の言葉の後の「KITAKU BEATS」でもレーザーが飛び交い、まるであの日の横浜アリーナの続きを見ているかのようだとすら思う。
そして高橋の、このライブそのもののように駆け抜けるようなライブだからこそのイントロのアレンジが追加された「オドループ」では観客たちがみんな踊りまくる。観客の手拍子のみが鳴り響くという瞬間の美しさも含めて、声が出せない、
「踊ってない夜が気に入らない」
というフレーズが日を追うごとに強く響くようになってしまっているということ以外はあの横浜アリーナのラストの光景そのもののようだ。しかし最後のキメで健司は
「コロナが明けたらまたこの曲をみんなで歌おうな」
と言った。MCや言葉ではなく、曲に全ての想いを込めているバンドだからこその、最後の最後に口から出た、生き延びて必ずまた会おうという言葉。みんなでまた一緒に「オドループ」を大合唱できたら、踊れなくなるくらいに泣いてしまうだろうな。でもその瞬間に絶対に立ち会いたいと思う。
1.名悪役
2.峠の幽霊
3.Wake Me Up
4.シンセンス
5.KITAKU BEATS
6.オドループ
15:35〜 go! go! vanillas
つい先日Zepp Hanedaにて最新アルバム「PANDORA」のツアーファイナルを終えた、go! go! vanillas。止まらずに転がり続けるロックンロールバンドとしての意思を示すように、そのツアーファイナルの翌週に早くもこのフェスに出演。
おなじみのSE「We are go!」のSEでメンバーが元気良く登場すると、いつものように革ジャンにサングラスという出で立ちのジェットセイヤ(ドラム)がステージにいるカメラマンに接近してカメラを揺さぶるという、スクリーンがある大きなステージのフェスならではの登場からの楽しみを見せてくれると、牧達弥(ボーカル&ギター)は白のタンクトップと言ってもいいくらいのスポーティーな衣装。茶髪の柳沢進太郎(ギター)、ターコイズ色の髪の長谷川プリティ敬祐(ベース)はワンマンの時と同様。
すると牧が歌い始めたのは「PANDORA」収録曲である「one shot kill」。いや、確かにJAPAN JAMの時にすでにセトリには入っていたが、まさか1曲目がこの曲だとは。まさに銃声のような音が響き、セイヤが早くも立ち上がってドラムをぶっ叩きまくっている姿を見て、この日のバンドのモードがわかったような気がした。
おなじみの柳沢によるコール&レスポンスが今の状況ではコール&手拍子に変わっているのだが、その部分では牧とプリティが並んでカメラに接近して一緒に手拍子をするというあたりからもメンバーが本当にこのライブ、この瞬間を楽しんでいるなということがわかるのが「カウンターアクション」。セイヤのリズムに合わせて観客も踊りまくるのだが、コーラスでも最後のサビ前のカウントも決して声を出さない。それはワンマンでもそうだったけれど、それでもメンバーはいつもと変わらずにパフォーマンスをする。観客のことを信用しているから、煽るようなこともできるし、そのメンバーの信頼にみんながしっかりと応えている。
プリティの曲紹介の口調が子供の悪戯っぽくて面白い、柳沢のボーカルに牧がコーラスを重ねるという形で柳沢のボーカルがアリーナに響いた「クライベイビー」、さらには牧、柳沢、プリティの3人が間奏で揃ってステップを踏みながら演奏し、セイヤもそれに合わせて体を動かしながら叩く「おこさまプレート」と、どちらも「PANDORA」収録曲ではあるのだが、リード曲でも先行シングルでもない。ただ、多様なジャンルを取り込んだ「PANDORA」の中でもロックンロールと言える曲だ。
牧自身もロックンロールの力をこの状況で今一度見せつけたいという思いもあったのだろうし、そうした逆境の今こそロックンロールを鳴らそうという心境だったんじゃないかと思う。だからこれからフェスに出てもその時の世の中や音楽の状況、出る場所や他の出演者によって演奏する曲は変わるかもしれない。この日はツアーで鍛え上げてきた演奏によるロックンロール曲連発だっただけに、ロックンロールなバニラズのカッコ良さをひたすらに感じられるものになっていた。
すると牧も
「いろんなフェスがコロナ禍になってから開催されてきたけど、クラスターは1個も起こってない。今日このフェスが開催されて、このフェスもそうなるように」
とフェスに対する思いを口にした。この日の前には春のJAPAN JAMにも出て、そこで主催者や出演者、参加者がフェスを守ろうとする姿を見てきたからこそ、ロッキンや京都大作戦に自分たちが出れなくてもフェスがなくなってしまったことに悲しい思いもしているはずだ。バニラズ自身もフェスに出続けて大きくなってきたバンドなだけに。
そんなフェスへの願いを歌声に込めるように演奏されたのはゴスペルの要素を取り入れながらもあくまでロックである「アメイジングレース」。牧はやはり
「横浜の未来に賭けてみよう」
とこの日、この場所でしかない歌詞に変えて歌い出しを歌い、観客から大きな拍手をもらっていた。それはそのままこのフェス、そして日本のフェス全てへの未来に賭けているという光景でもあった。
そして最後に演奏されたのは令和の時代に鳴らされる「平成ペイン」。
「あなたと行くのさ この道の行く末を」
という今目の前にいる人たちとの共闘宣言とも取れるこの曲は、リリース時には新しい時代は今よりも希望を持てるものになるようにという願いを込めたものだった。でもそれはむしろ今の方が感じられなくなってきている。
それでもバニラズがこの曲を鳴らしている間は誰もが笑顔でいられる。いつものようにセイヤがシンバルをぶん投げている姿を見ながら。そして演奏後には牧が11月にこの横浜アリーナでワンマンをやることを告知した。
バニラズのロックンロールがアリーナワンマンで鳴らされる。そんな未来に賭けてみたい。いや、ロックンロールを信じるものとしては賭けるしかない。
リハ.SUMMER BREEZE
リハ.エマ
1.one shot kill
2.カウンターアクション
3.クライベイビー
4.おこさまプレート
5.アメイジングレース
6.平成ペイン
16:40〜 My Hair is Bad
マイヘアは出ない年はほとんどフェスには出ない。でも今年は出る年だ。それは常にライブをしまくり、ツアーを回りまくっていた日常が失われてしまったからこそ、ライブができる場所があるならば出れる限りはそれを取り戻しに行こうとしていたのかもしれない。そんなマイヘアも今年は横浜のライブハウスではワンマンをやったが、かつて横浜アリーナでワンマンをやっているだけに久々の帰還である。
ステージに3人が登場し、やまじゅんのドラムセットの前で手を合わせて気合いを入れると、椎木がギターを鳴らしながらの
「Talking Rock!ドキドキしようぜ!」
と「アフターアワー」でスタートするのだが、マイヘアは今年に入ってライブハウスでも、さいたまスーパーアリーナでもワンマンをやってきた。だからこそどんなに機会や本数が減ってもライブに関して鈍ったりすることは全くないということを自分も実際に行ったそのスーパーアリーナでのライブで感じたのだが、本当にライブのマイヘアは強い。椎木の歌とギターの飛距離も、体を激しく動かしながら演奏するバヤリースこと山本大樹のベースとコーラスも、高い位置に設置されたシンバルを連打するやまじゅんのドラムも。よく焦燥感という形容詞を冠されることも多いバンドであるが、それはその鳴らしている音がそう感じさせてくれているのだろう。
先日、マイヘアは今年のライブハウスツアーのドキュメント映像を公開していた。それは無料配信ということでアリーナ編への導入という感じでもあったのだが、その中でも水戸ライトハウスでのライブで演奏している場面が流れていたのはエモーショナルなギターサウンドとともに
「もう一瞬も戻らない
もう一瞬も止まらないのなら
もう一瞬も戻せない
もう一瞬も止められないのなら」
という歌詞が失ってしまった時間に思いを巡らせる「熱狂を終え」だ。やはりマイヘアのライブは熱い。この熱狂がずっと終わらずに続いていくんじゃないかというくらいに。椎木もジャンプを繰り返し、山本はいつも驚くほどに足を高く蹴り出す。
「Talking Rock!、本当にインタビュー読んでもらうとわかるんだけど、頭おかしい雑誌です(笑)」
と椎木がその言葉によって逆に雑誌、編集長への信頼を感じさせると、
「今年も夏になった」
と言って演奏されたのは「真赤」。きっとこの曲を聞きたかったという人もたくさんいるんだろうなというのがわかる客席の椎木による歌い出しの時点からの腕を挙げるというリアクションであるが、夏の匂いがした、と最も感じられるのはいつもこの曲を夏の野外フェスで聴いた時だった。そして同時に「夏が過ぎてく」でその夏が少しずつ過ぎていくことも実感してきた。果たしてフェスが次々になくなっていく(マイヘアもロッキンに出るはずだった)中で、その実感を今年得ることができるだろうか。
イントロにハードな轟音のセッション的な演奏が追加されて始まった「ディアウェンディ」からはライブのモードが変わっていく。椎木の口にする言葉が圧倒的に鋭さを増していく。
「Talking Rock!、俺の話すことがロックなのか、それともロックを語りに来たのか」
というこのフェスのタイトルを皮切りに、
「もう感染してるんだよ、俺もお前も。病気が感染るっていうんなら、嬉しいことや楽しいことだって同じように感染っていくはずだ」
と、シリアスでありながらもこのライブが、フェスが楽しいもの、嬉しくなるものであるという意識を持っているということが伺える。
そこから怒涛のように
「俺は今まで付き合ってきた彼女全員笑顔にすることができなかった」
という椎木自身の悔恨から「生きること」へと「フロムナウオン」は展開していくのだが、マイヘアのライブの出来はこの曲の出来に直結することが多い。そのくらいにこの曲、このパフォーマンスがライブの芯であり軸であり続けているからであるが、この日はバンドが常にタイトルに掲げるホームランを打ったくらいの次々に放たれる言葉の滑らかさと、語気に含まれる熱さ、バンドの鳴らす音の熱さがあった。そこにはなぜマイヘアがアリーナクラスのバンドになれたのかという答えも確かに存在していた。
そんな熱さを一直線に感じさせる流れから一転してアリーナ全体を包み込むようなスケールの大きさを持った「味方」のラブソングでありながらも、
「「最後は必ず正義が勝つ」って言うけど
そんなの信じたりしたくないのは
だって 僕は もう
悪になろうと 君の味方でいたいから
君が笑えば なにもいらない
君がいれば 僕は負けない」
という歌詞が今聞くことによって、何が正義なのかもわからなくなってしまったこの状況において、マイヘアは今こうして目の前にいる我々の味方であろうとしてくれるという感覚を抱かせてくれる。そんな意図は全くないかもしれないけど、こちらが勝手にそう思えることでそれは日々を生きる力になっていく。それは自分は音楽から最も感じる、貰うことができる。
そうして壮大に終わっていくのかと思ったら、最後に再び熱狂の中に叩き込むような「告白」。疾走感溢れる演奏に椎木の言葉が乗り、最後には
「若者はなぜか悩んでいる 明日を見てる
すっと 不安になるんだ
きっと 心配はないさ
ぜったい 終わりは来るんだ
いつか死んでしまうんだ」
と謳われる。いつか死んでしまう、終わりが来るんならどう生きていくべきなんだろうか。やはり悩みながらでも、後悔しないように生きていたい。あの時、行けば良かったとか後々思わなくてもいいように。
そして最後に椎木は
「最高の夏にしてくれよ!」
と言った。マイヘアが出るはずだった今年のロッキンもなくなってしまった中で、最高の夏にできるだろうか。この日を含めて、少しでもそう思えるような夏にしたい。その時に「夏が過ぎてく」が流れていて欲しいと思っていた。
リハ.宿り
リハ.グッバイ・マイマリー
1.アフターアワー
2.熱狂を終え
3.真赤
4.ディアウェンディ
5.フロムナウオン
6.味方
7.告白
17:50〜 クリープハイプ
開演前以外にも何度か挨拶をしに出てきた吉川編集長はクリープハイプのことに触れるたびに尾崎世界観(ボーカル&ギター)のことを「小説家」と呼んでいた。それは編集長が尾崎の言葉を高く評価しているからだろうし、そう言えるような関係性をTalking Rock!とクリープハイプが築いているということでもある。
いつものようにSEもなしにメンバー4人が登場すると、いきなり
「まずSEXの歌を」
と言って長谷川カオナシがステージ前に出てきてうねるようなベースのイントロを弾き、そこに小川幸慈の特徴的なギターリフ、小泉拓の派手ではないが曲に疾走感を与えるドラムが重なり合う「HE IS MINE」からスタートし、間奏部分ではやはりJAPAN JAM同様に尾崎が、
「今だからこそ敢えて言わないっていう」
と「セックスしよう」の大合唱をメンバーすらも全く言わない無音の今の状況バージョンで。この状況になってそうしたみんなで歌う代表曲を封印するバンドもいるし、それもまた一つのコロナが明けた時への希望でもあるが、クリープハイプはこの状況でもこの曲を演奏することによって観客への信頼を感じさせてくれる。絶対にみんながルールを守ってくれると。それはフェスという存在や文化への信頼でもある。
JAPAN JAMでも演奏されていた、同期の音も使った不穏な雰囲気の「キケンナアソビ」、さらには
「少しエロい春の思い出 くしゃみの後に浮かぶあの顔」
というフレーズがここまで全てが潔いくらいのエロい曲の連発となる「四季」と、今年配信でリリースした曲が続く。クリープハイプはなかなか今はワンマンのチケットが取れない存在であるだけに(この状況下になってよりそうなりつつある)、これらの曲をライブで初めて聞いたという人も多そうだが、まるっきりタイプが違う曲であるだけにクリープハイプが今音楽でやりたいことが溢れまくっているということを感じることができる。
さらには尾崎が監修した著作本「SHABEL」(写真家へのインタビューなどが収録されている)に封入されていたCD収録という、存在自体が毎回CD買うようなファンじゃないと知らないような超レア曲「喋る」という、これフェスだよな?と思ってしまうくらいの意外すぎる選曲。
「言葉遊びばっかりで」
というフレーズは今や言葉遊びの達人と言えるくらいの歌詞を綴るようになっている尾崎自身に向けられているように聞こえる。
そうした意外な展開から
「夏の曲を」
と言ったので、まぁ「憂、燦々」はリハで少しだけやったから、ここはいろんな想いや出来事を全て夏のせいにするべく「ラブホテル」だろうなとたくさんの人が思ったであろう中、意外にも「エロ」。確かに夏の曲であるが、ここまでこちら側を心地よく裏切るセトリになるとは。
「一瞬で終わる夏」
というフレーズのとおりに、フェスがなくなりつつある今年も何事もないまま、一瞬で終わってしまうんだろうなと切なくなってしまう。
時間的にも曲数的にもそろそろクライマックスということで、いつものフェスパターンなら「イト」をここいらでやって…と思っていたら、小川のシャープなギターがクリープハイプのギターロックバンドとしてのイメージのど真ん中を撃ち抜くような「リグレット」と、ここに来てさらなる意外性の曲が。
「ずっと君を探してたんだよ
ずっと君を探してたんだよ こんな所にいたのか
別に話す事はないけど 別に離すこともないから
なんか嬉しいな」
という歌詞はこの状況だからこそ、こうしてフェスに来てくれて、自分たちのライブを見てくれている人へのメッセージであるかのように響くが、きっと本人に聞いたら否定するだろうとも思う。初期と言っていい時期の曲だけに尾崎の歌い方のクセもこれまでの曲よりもはるかに強いが、それを音源以上の技術と伸びやかさでもってアリーナに響く曲のスケールに押し広げている。
思い返すと確かに、フェスでもよく演奏していた「大丈夫」や「二十九、三十」をリハで演奏していたし、1フレーズだけだけど「栞」もリハで歌っていた。
「いろんな出演者がフェスに対する想いみたいなのを話してきたと思うから、言わなくていいか」
と勿体ぶりながら、それは本編ではその曲をやらないという合図でもあったことが尾崎の口からこう語られる。
「フェスとかイベントって一回きりの関係っていうか、割り切った関係だと思っていたから、有名な曲を並べてファンになってくれたらいいなってくらいに思ってたんだけど…。
こうしてフェスとかが思うように出来なくなって、もっとフェスやイベントを大切にしてくれば良かったなって思って。だから自分たちが今1番やりたい曲をやるべきだなって。最後にやる曲もそういう、みんなが知らないだろう曲」
と言って、ライブで聴くのはいつ以来だろうかとすら思う「風にふかれて」を演奏した。
尾崎はブレイク時に敢えてフェスに出ないという年を戦略的に作ったりしていたが、それも後々に「やっぱり出れるなら出れば良かった」とも言っていたし、2〜3年前には
「このステージは絶対誰にも渡したくない」
とフェスで口にしていたこともあったから、フェスを軽視していたような感覚は全くない。でも本人たちからしたらやっぱりワンマンとは違う、ワンマンに来てくれる人たちとは違う人たちという意識があったのかもしれない。でもそれはきっと変わっていくのだろうし、それは違うフェスで見たら全く違うセトリ、内容のライブになる可能性が高くなる、つまり何回でも見たくなるということでもある。
何より、
「君はまだ 生きる 生きる 生きる 生きるよ」
という最後のフレーズは、今尾崎が、クリープハイプが我々に歌いたい歌詞であるようだった。これから、そう思うようなフェスのライブを何回も見ることになるはず。金曜日のKING PLACE LIVEでは、果たして。
リハ.憂、燦々 (1フレーズだけ)
リハ.愛の標識
リハ.大丈夫
リハ.二十九、三十
リハ.栞 (1フレーズだけ)
1.HE IS MINE
2.キケンナアソビ
3.四季
4.喋る
5.エロ
6.リグレット
7.風にふかれて
19:00〜 THE ORAL CIGARETTES
吉川編集長はずっと大阪で開催してきたこのイベントの若手バージョンのライブを大阪のキャパ600人くらいのライブハウスで開催した2014年の時のことを回想していた。
BLUE ENCOUNT、SHISHAMOという翌日出演するバンドと、Czecho No Republic、そしてTHE ORAL CIGARETTESの4組。その日3番手に登場したオーラルはまだワンマンライブを1回もやったことがなかったというくらいの駆け出しだったにも関わらず、
「何で俺らがトリじゃないねん!」
と言ってのけたという。そのオーラルが7年越し、しかも横浜アリーナの規模での開催のトリとして登場。
メンバー4人がステージに現れると、同期のサウンドも使ったダークかつ壮大な雰囲気の「Dream In Drive」からスタートするというのは春フェスでも見た流れであるが、観客がオーラルを待ち望んでいたという期待感が凄まじいし、山中拓也(ボーカル&ギター)の歌声をはじめ、鈴木重伸(ギター)の表情、あきらかにあきら(ベース)のコーラスからもこの出演者の中でトリを任されたことによる責任と覚悟がバンドにさらなる力を与えているということがわかる。
タイトル通りにライブキッズたちを狂乱の渦に叩き込むような「狂乱Hey Kids!!」を終えると、山中が徐に
「今日が何の日か知ってる?」
と問いかける。この日はまさやんこと中西雅哉(ドラム)の誕生日であるということで、フェスでは珍しく中西が挨拶的に喋り、中西のタイミングで次の曲に行くという役割をも担うのだが、客席には誕生日を祝うボードを持った人がいるというのは指定席のライブだからこそできることであるし、普段は物販紹介も担当するという、バンド内ではコメディリリーフ的な立ち位置である中西がファンからどれだけ愛されている存在なのかというのがよくわかる。
フレデリックのライブの時と同様にレーザーが飛び交う中で観客が飛び跳ねまくる「容姿端麗な嘘」、山中がハンドマイクで煽りまくりながら歌う「カンタンナコト」と、口にしないまでもキラーチューン祭り開催であるが、「狂乱Hey Kids!!」も含めて観客がコーラスを歌うことが出来なくてもコーラスパートを今まで通りに演奏することをやめないし、観客が歌えないからこそ山中以外(特にあきら)のコーラスがより強くなっている。それはこの状況でもライブを続けてきたこのバンドがさらに1段階上のレベルに足を踏み入れる要素になるのかもしれない。
「最近さぁ…」
と深刻な感じで山中が話しはじめたので、ああ、これはいろんなフェスのことに触れるんだろうな、触れずにはいられない性格だもんな、と思っていると、
「ハマってるアニメがあんねんけど(笑)」
と続けたことによって思わず笑いが漏れる。そのアニメは「SCARLET NEXUS」というアニメであり、どうやら主題歌をTHE ORAL CIGARETTESというバンドがやっているらしい、というよそよそしい感じを出しながらも演奏したのはそのアニメの主題歌の「Red Criminal」。
同期のサウンドを使いながらも、これまでにいろんなジャンルの音楽を貪欲に取り込んで進化してきたオーラルがこの状況でロックに振り切ったということがわかる、そしてそれをこうしたたくさんの人に届くど真ん中で鳴らすという意思を持って作られたであろうことがわかる、進化していながらも初期衝動を感じさせる曲。タイトル通りに暗めの赤い照明に包まれながら演奏するこのバンドの姿はロックシーンのダークヒーローというものでしかない。
そして山中は
「フェスが中止になって、いろんな言葉が飛び交ってる。医師会がとか、オリンピックがとか。でも当たる相手を間違えたらいかん。オリンピックだって選手たちは絶対俺たち以上に日々努力してオリンピックを目指してる。
俺らは外の人までは守れへんけど、ロックとオーラルが好きな人は守りたいと思ってる」
と、人が傷つき、傷つけられている今の状況についてあくまでも真摯に言葉を紡ぐ。
そこにはこのフェスのトリとして、ロックシーンを代表するバンドとしての責任感を感じさせたが、JAPAN JAMに出た時、直前に出演したビバラで自分たちや自分たちのファンに向けてそうした心ない言葉が飛んできていたことに山中は辛そうに心境を吐き出していた。そうした経験をしたからこそ、そうした言葉を言われるのがどれだけキツいこと、精神を削られることなのかをわかっている。
そんなバンドだからこそ、我々も守られてばかりではいけない。守られてるという安心感は油断や慢心に繋がりかねない。そうした行動をすることによって刃が向く先はいつもバンドだ。守りたいと言ってくれるからこそ、我々もそう言ってくれるバンドを守るための行動をしていかなければならない。それは今のこの状況でライブやフェスが開催されることに理解を示してもらえることにも繋がってくる。そうすればもっとライブが見れるし、もっとバンドに会えるようになる。
そうして弱い部分も見せながらも、演奏はあくまで最高にカッコ良く、というのを見せつけるように鈴木の性急なギターリフが炸裂する「5150」から、
「いつだって初心を忘れないように!」
と言って、ラストサビのキメで鈴木とあきらがとんでもない跳躍力を見せるように跳ぶ「Mr.ファントム」へ。「Red Criminal」もきっと今のオーラルが作るこの曲だ。いろんな音楽を消化して進化してきたけれど、立ち返るのはカッコいいロックバンドでありたいということ。オーラルがデビューして、この曲をライブで初めて聴いた時の「めちゃくちゃかっこいいバンドだな…」と思った感覚が今でもなくなっていないことを示してくれる。
そしてラストは
「Talking Rock!に捧げます」
と言って演奏された「BLACK MEMORY」。かつてのTalking Rock!のイベントに出演した時のことは黒歴史ではない。あれがあって今につながっている。この日のライブもきっといつかの未来につながっていくはず。もはや叫ぶようにコーラスをするメンバーの姿は今を燃やし尽くすようにしながらも、ロックの未来を作ろうとしているようだった。
この時点で予定の終演時刻はもう過ぎていた。それでもメンバーはアンコールに登場した。翌日の編集長の話によると、本編を終えた段階で山中はもう床に倒れていたくらいに体力を使い果たしていた状態だったらしい。それでも、ステージに出てくるとそんなことは全く感じさせず、
「時間もないんで、最後に1曲」
と言って昨年リリースの最新アルバムにして大作アルバム「SUCK MY WORLD」の最後に収録されている、華やかなホーンの同期サウンドが微かでも確実に前進していくというバンドの姿勢を示すような「Slowly but surely I go on」を演奏した。
自分はこの曲をライブで聴くのは初めてだった。「SUCK MY WORLD」のツアーも本来予定していたであろう形では完遂できていないだけに、自分以外にも初めて聴く人は多かったと思うが、オーラルのライブがこんなに幸せな空気に包まれながら終わるのもまた初めての体験だった。そう感じられたのは、この曲が最後に演奏されたから。最後に演奏できる、トリというポジションをオーラルが掴んだから。この幸せな感覚は他のフェスでもこれから先、感じられるようになるのかもしれないと思った。
1.Dream In Drive
2.狂乱Hey Kids!!
3.容姿端麗な嘘
4.カンタンナコト
5.Red Criminal
6.5150
7.Mr.ファントム
8.BLACK MEMORY
encore
9.Slowly but surely I go on
終演後、吉川編集長の挨拶をもって初日は終了した。いろんなフェスがなくなってしまって沈んでいた気持ちが回復しているのを感じた。音楽にまつわることで傷ついたり悲しんだりするけれど、そこから引っ張り上げてくれるのもやはり音楽なのだ。自分にとってはこんなに大事なもの、守りたいものは他にない。
文 ソノダマン