「キンプレ」の愛称でおなじみの、J-WAVEのラジオ番組「THE KINGS PLACE」。そのパーソナリティを務めるアーティストが揃うのが「THE KINGS PLACE LIVE」であるが、これまでは新木場STUDIO COASTなどのライブハウスで開催されてきたイメージであるが、20回目となる節目の今回は会場を横浜アリーナで開催。
KEYTALK
クリープハイプ
04 Limited Sazabys
XIIX
という豪華4組の対バンであるだけに、このキャパであるのも納得のいくところである。
検温と消毒に加えて個人情報の追跡フォームへの入力という感染症対策を経て場内に入ると、この日から物販が夏モードに切り替わるというバンドも多いからか、物販の列が非常に長くなっている。平日の17時開場とは思えない光景である。
18:00〜 XIIX
トップバッターはUNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介と、米津玄師らのサポートとして活動しているベーシストの須藤優による、あまりにも強すぎる新人ユニットのXIIX。始動時の初ワンマンもチケットを持っていたのだが、コロナで払い戻しになったりしただけに、ようやくライブを見れることに。
ステージには2本のマイクスタンドとともにドラムセットとバンドロゴの描かれたDJ卓が。そこに斎藤と須藤、さらにはドラムに須藤の相方である堀正輝、DJ&マニピュレーターとしてSKY-HIなどにも参加しているHIRORONという編成であるだけに、ようやく訪れた初めて見るライブへの期待が高まる。
タイトル通りにメロウなサウンドに斎藤のボーカルが乗る「Stay Mellow」からスタートすると、須藤は曲中でベースとシンセベースを交互に操り、斎藤はヒップホップの影響が強いボーカルも披露するという、2人のもともと持っている技巧や経験と、このユニットだからこその新鮮さをこの1曲で感じさせてくれる。ユニゾンでも早口ボーカルな曲はたくさんあれど、あくまでギターロックの範疇にあるものというイメージなだけに、斎藤がこうしたサウンドのボーカルを歌っているのは実に新鮮であるが、それでもやはり斎藤の声はどんな曲であっても斎藤でしかない曲になるという強い記名性に満ちている。
須藤がイントロや間奏で手拍子を促すと客席にも手拍子が広がっていくという、これまたユニゾンのライブでは絶対に見ることができない観客とのコミュニケーションの取り方を見せる「LIFE IS MUSIC!!!!!」ではその須藤が自身の立ち位置の下手側から斎藤の上手側の方まで移動して、そちら側にいる観客にも手拍子を煽り、元の位置に戻りながら斎藤と向き合って演奏するという、フロントマンの1人であるからこそのパフォーマンスも。
自分が初めて須藤(&堀)をライブで見たのはもう10年以上前に80kidzというエレクトロ・ユニットのライブのバックバンドのメンバーとして参加していた時だった。それ以降、米津玄師の初ライブから今に至るまで様々な場所や形で見てきたが、ずっと縁の下の力持ちというか、後ろで支えている姿が似合う人だと思っていた。しかしこうしてXIIXでのライブを見ていると、須藤の新しい一面、前に出ると華のあるプレイヤーであり人物であることに気付く。
もちろんアレンジやコンポーザーという面もあるけれど、斎藤がソロユニットではなくて2人のユニットにした理由がライブを見ると曲を聴いているよりもはるかによくわかる。
個人的には1stアルバムの「White White」から2ndアルバムの「USELESS」まではすぐにリリースが続いたけれど、かなりサウンドやXIIX自体のイメージも変わった。「White White」は聴いた時にR&Bのイメージがかなり強く、バンドというイメージはあまり感じなかった。
しかしながら「USELESS」ではそれよりもバンド感を感じるようになっていただけに、ポップかつキャッチーというタイプの「おもちゃの街」にすらバンド感を強く感じるし、それはこの編成によるものも非常に大きい。
「まだ結成2年目、キンプレ歴4ヶ月目ですが、ここにいる皆さんとは末長い付き合いをしていきたいと思っているのでよろしくお願いします」
と、新人のようでいて新人が言わないようなMCもこの2人ならではであるが、「Halloween Knight」での斎藤の、普通このギターはボーカル&ギターが弾くようなやつじゃないだろうと思わざるを得ないようなギターを弾きながら歌うというレベルの高さはユニゾンと同様であり、前髪の奥に覗かせる眼光の鋭さもまた我々がよく知る斎藤宏介そのものである。
そんな中で人気アニメのタイアップ(世代的に2人も昔放送していたのをリアルタイムで知っているはず)となった、2人の経歴としてではなく、純粋にXIIXというユニットの名前を世の中に知らしめた「アカシ」を特に何の前フリもなく演奏するというのもまたこの2人らしいし、この横浜アリーナのステージに立っている証を作るように降り注ぐ白い光が実に美しく、このユニットが、この曲がアリーナの規模に実に映えるものであることの証にもなっている。
そんなライブは「USELESS」のタイトル曲と言っていい「ユースレス・シンフォニー」であっという間のラストとなるのだが、堀の刻むドラムとHIRORONの挟む効果音がこの4人だからこそのライブ感とバンド感をキャッチーなサウンドの中に強く感じさせると、須藤は再び上手側まで歩いて行ってベースを弾き、サビでは戻ってきてコーラスも務める。始動からわずか2年、しかも満足にライブができない状況の中とは思えない完成度の高さは流石としか言えないが、アルバムでの変化を考えるとさらなる進化をこれから果たしていくのは間違いない。もしかしたらこの規模でも何回でもライブを見れるようになるのかもしれない。
正直、自分はXIIXが始動した時は「こっちに行ったのか」と少し戸惑っていた。ユニゾンでは田淵が佐々木亮介らとロックンロールでしかないTHE KEBABSで活動し始めたのとは対照的に感じるくらいに、今の世界の最先端であり、あまり自分が得意ではないサウンドを取り入れた曲だなと感じたからである。
しかしながらロック色が強い音楽をやるならこのユニットをやる意味はないと言っていいし、そうしたサウンドもアルバム2枚で変化し、何よりもこうしてライブを見ることで感じるのは斎藤と須藤のソングライターとして作る曲の良さとともに、バンドとしてのカッコ良さだった。それはユニゾンとは全く違う形であれど、ユニゾンでも数え切れないくらいに感じてきたもの。これから何度もライブを見てはもうXIIXのライブでユニゾンの名前を出すこともなくなっていくだろう。そのくらいにもっとライブを見たいし、進化、変化していく姿を見ていきたいと思った。
1.Stay Mellow
2.LIFE IS MUSIC!!!!!
3.おもちゃの街
4.Halloween Knight
5.アカシ
6.ユースレス・シンフォニー
・04 Limited Sazabys
春フェスにも出演し、新たにツアーも発表するなど、止まらないパンクバンドとしてこの状況でも突き進むフォーリミ。活動休止するという話がコロナ禍によってはるか昔のことのようにすら感じられる。
おなじみのSEでメンバー4人が元気良くステージに登場して観客の手拍子を煽ると、いきなりの「fiction」でハードな演奏とサウンドの中をレーザーが飛び交い、それはKOUHEI(ドラム)が曲と曲を繋ぐようにしてソロ的な演奏を見せる「escape」「Alien」という流れを生み出していく。こうしてアリーナという大きな会場、大きなステージでのライブを観ているとそのKOUHEIのリズムと音の力強さが我々観客側の衝動を呼び起こしてくれると思うし、逆にそれがフォーリミがパンクバンドとしてこうしたアリーナに立つのが当たり前になった最大の要素でもあると思う。ハードなサウンドが続いただけにHIROKAZとRYU-TAのギターコンビも曲によってどちらがそのハードさを生み出すのかをスイッチしている。
「時刻は19時を回りました、THE KINGS PLACEの時間です」
とアリーナいっぱいにハイトーンボイスを響かせていたGEN(ボーカル&ベース)がラジオのオープニングのように話すとすかさずKOUHEIは
「まだ18時57分だけどな(笑)」
とツッコミを入れる。それを冷たくあしらうようにしながらメンバーがそれぞれこの日の横浜アリーナでの楽屋の中やライブまでの時間を寛ぎまくっていたことを語る。KOUHEIとHIROKAZは近くのバッティングセンターに行っていたことを話していたが、自分は偶然ライブ前にそこに行ったらHIROKAZと遭遇した。お互いにライブ前から汗だくだった。
「7月16日!横浜アリーナ!THE KINGS PLACE LIVE!」
とこの日の日付と場所を口にすることによって、他のどこでもないここを感じさせてくれる「Now here, No where」の軽快なリズムで観客を踊らせ、間髪入れずに英語歌詞のファストかつメロコアな「message」、さらには「My HERO」と畳み掛けていくスピード感。曲自体のBPMもパンクバンドなだけに実に速いが、ライブのテンポ自体もとてつもなく速い。それはいろんな曲が聴けるということだ。
この状況になったことによってより一層フォーリミを自分にとってのヒーローだと思っている人もこの中にはたくさんいるはずだ。こうしてできる状況の中でライブをやってくれているんだから、と「My HERO」のラストのフレーズで飛び跳ねている観客の姿を見て思っていた。
「もう夜だよね?」
とGENが確認してから演奏された「midnight cruising」ではまさに流星群のような光がアリーナいっぱいに降り注ぎ、間奏ではRYU-TAが
「やっぱりライブは楽しいよな!」
と叫ぶ。その直後のそれぞれの音が重なる瞬間の音の強さがその言葉にメンバーそれぞれが深く同意しているように感じられて、思わず涙が出そうになってしまう。
「キンプレで初めて流れた、俺たちのメジャーデビューシングル曲!」
とこの日のライブだからこその選曲を、この横浜アリーナという規模に見合うスケールを持った曲の演奏で見せてくれる。フェスやイベントでこの曲を演奏することはかなり珍しいといえるが、この曲の歌詞が持つメッセージがこの後にGENが口にしていた、人と人が違う意見をぶつけ合うという今の世の中の状況になったことによる人と人の精神的な意味での別離を感じさせてしまう。
その言葉に続いてGENは
「最近車を買ったんだけど、運転しながらラジオを聴く機会が凄く増えて。子供の頃からTVはあまり見ないでラジオばかり聴いていたんだけど、TVはTVの中の別世界って感じだけど、ラジオは目の前で話してくれてるような感じがして。
音楽との出会い方も、好きなものをディグってディグって出会うっていうのもいいけど、偶然出会うっていうのが俺は1番素敵なことだと思う。ラジオで全然知らない曲がかかって、聴いてみたら凄く好きになったっていう経験が何回もあったから。
そうやってラジオとかで音楽を聴いたり、エンタメを楽しんだりするのって圧倒的に弱い人が多いと思ってるし、エンタメや音楽は弱い人のためにあると俺は思ってる。強い人と弱い人が争ったらそれは強い人が勝つだろうけど、弱い人が仕事や学校で上手くいかないことばかりでもこうやってエンタメや音楽があることによって生きていけるって」
と、ラジオへの想いはそのままエンタメや音楽を愛して生きる人としての想いへと昇華される。それは我々が音楽やエンタメに抱いている想いと全く同じものだ。GENは今でも我々ファンやリスナーと同じ目線でエンタメや音楽に向き合い続けている。
だからこそ今この状況で聴く「Squall」は今まで以上に自分に直接歌って演奏しているように感じた。自分に歌って演奏しているということは、ここにいる1人1人に向かって歌って演奏しているということだ。去年の愛知での「YON EXPO」をはじめとして、コロナ禍になってからも何回もこの曲をライブで聴いてきた。それでもこの日そう強く思えたのは、今また音楽を愛する人たちが、堂々と音楽が好きでライブに行きたいということを口にしづらい状況になってしまっているからだ。それでもこうして感染対策をして、ルールを守ってライブを楽しんでいることは誰に咎められたり傷つくようなことを言われたとしても決して間違っていないはずだ。
そんなライブは
「みんな、この曲知ってんのかよ!」
とGENが叫んでから思いっきり拳を振り下ろして演奏された「monolith」で締められる。この状況になる前はモッシュ、ダイブ、サークル、合唱…今は禁じられているあらゆる楽しみ方をそれぞれがしていた曲だ。そんな曲でも誰しもが腕を上げるだけというルールを守った楽しみ方をしている。
この曲がリリースされた時に出会ってから、フォーリミからはパンクバンドとしての未来や希望をずっと感じてきた。それはとかく批判されたり悪いイメージを持たれやすい今の状況だからこそ、その希望や未来がこの先にも必ず待っていて、今の楽しみ方でライブを続けていることが身を結ぶと信じられるものになっている。自分がこの目で見てきたこの1年間のフォーリミのライブと観客の姿はそういうものだった。それを感じられたのはパンクバンドとしてこのアリーナの規模に立てるようになったフォーリミだからこそだ。
1.fiction
2.escape
3.Alien
4.Now here, No where
5.message
6.My HERO
7.midnight cruising
8.Letter
9.Squall
10.monolith
・クリープハイプ
フォーリミのGENが
「俺たちはラジオ派だからTalking Rock! Fes.を断ってこっちに絞ったけど、クリープハイプは二股かけてる(笑)」
と言っていたとおりに、クリープハイプは前週土曜日のTalking Rock! Fes.にも出演したので、2週連続での横浜アリーナでのライブとなる。その際に尾崎世界観(ボーカル&ギター)はフェスやイベントへの向き合い方がこの状況になって変わったことを口にしていたが、今回は果たして。
SEもなく真っ暗なステージにメンバー4人が登場するというのはいつも通りであるが、JAPAN JAMでもTalking Rock! Fes.でも1曲目に演奏されていた「HE IS MINE」で始まるのではなく、紫や青の照明が曲の持つ背徳感や不穏さを感じさせる「キケンナアソビ」からスタートするというところはかなりライブのイメージが変わる。その2つのフェスでもこの曲は演奏されていたが、こうして1曲目に演奏されるようになるとは思っていなかったし、このイベントのここまでの空気すらもガラッと変えてしまう。そうできるのはクリープハイプだからだ。
尾崎がアコギに持ち替えて
「少しエロい春の思い出」
と歌い始めてから、小泉拓の4つ打ちのリズムが刻まれて観客がそれに合わせて手拍子をする「四季」はさわやかなエロさという、これまたクリープハイプだからこそ持ちうる要素の曲である。この不穏さと爽やかさをエロという要素で繋いでみせるというのはほかに出来るバンドが思い浮かばない。
演奏も歌唱も実に安心感があるというか、尾崎が好きなヤクルトスワローズで言うなら村上宗隆選手にチャンスで打順が回ってきたかのような、もう任せて大丈夫だ、という感じすらあるのだが、曲が終わるごとに尾崎が袖にいるスタッフに寄って行って話をしていたのはサウンドに何かしらのトラブルがあったのか、あるいはセトリで確認したりすることがあったのか。見ている分には全くわからないが、キーボードなどの同期の音をこれでもかというくらいに大胆に使った、長谷川カオナシ(ベース)がメインボーカルを務める「月の逆襲」というフェスやイベントではまずやらないような曲をやるようになったのはやはり前週の
「今までは代表曲的な曲を並べて、好きになってくれたらいいなって感じでフェスは1回だけの割り切った関係だと思ってたんだけど、こういう状況になって思うようにフェスがやれなくなってみたら、もっと大事にしてくれば良かったなって。だからその時にやりたい曲をちゃんとやるようにした」
というフェスやイベントに対する心境の変化によるものだろう。曲の後半ではメインボーカルであるカオナシのお株を奪うかのように小川幸慈がステージ上で激しく体を動かしながらギターを弾く。それが尾崎とカオナシの曲後半のツインボーカル的な歌唱も含めてバンド全体の躍動感に繋がっていく。
「リハが終わってからライブまでがめちゃくちゃ長くて。5時間くらいあったんだけど、ずっとみんな無言(笑)
それに耐え切れなくなったカオナシが
「ゲームしましょうよ」
って言って、3分間みんなで同じテーマで話すんだけど、1人だけ違うテーマで話してる人を当てるっていうゲームで。全然喋らないやつがいて、そいつだろっていう(笑)楽しかったなー」
と全く楽しそうに感じない、待ち時間を満喫しまくっていたフォーリミとは対照的な尾崎の言葉から、クリープハイプのエロの真髄というような、尾崎の作家性が炸裂する歌詞の「エロ」へ。
「一瞬で終わる夏」
というフレーズの通りに今年の夏も一瞬で終わってしまうかもしれないけれど、少しでもこうして忘れられないような瞬間を重ねていきたいと思う。
小泉の4つ打ちの曲間の繋ぎのドラムに手拍子が起こると、最初は「イト」のライブアレンジのイントロかと思っていたのだが、小川がギターのフレーズを載せたところでこれが「NE-TAXI」の今のライブでのアレンジであることがわかる。カオナシも「この曲で?」と思うくらいに大きく、激しく体を揺さぶりながらベースを弾いていたが、まさかこの曲を今こうしてフェスやイベントで聴けるとは。それは前週の「リグレット」や「風にふかれて」もそうであるが、まさに
「フライデーナイトフライでハイ」
なタイミングでの選曲である。曲中にも小泉は細かいドラムを連打するというアレンジを加えており、最初期の曲が今のこの4人が演奏している曲として生まれ変わっている。
再び尾崎がアコギに持ち替えると、
「後悔の日々があんたにもあったんだろ」
と歌い始めたのは、これまた今この持ち時間のフェス、イベントでやるのか!という大曲「傷つける」。個人的には実に思い入れが強い曲であるというのは、バンドの友人でもある松居大悟が手がけた池松壮亮演じる男のどうしようもないクズっぷりが今も脳内に刻まれている、この曲にまつわるショートフィルムが素晴らしかったからである。音数の少ない演奏がそうした悔恨を抱えてしまった人間の生きる美しさを感じさせる歌唱を際立たせる。
さらには前週は演奏されなかった「イノチミジカシコイセヨオトメ」と、「傷つける」のショートフィルムの物語に連なる曲(安藤サクラの熱演が素晴らしい)が演奏され、サビではたくさんの観客の腕が上がるのだが、この曲と「NE-TAXI」を自分が初めて聴いたのは、今は廃盤になったアルバム「when I was young, I’d listen to the radio」だった。この日尾崎はJ-WAVEやキンプレやラジオにまつわる話を全くしなかったけれど、このセトリには言葉にはしなくてもラジオへの愛情を表現しているように感じた。
「ほとんど喋らずに曲を演奏していたら、なんだか興奮してきたので、予定を変更して最後にセックスの曲をやって終わります」
と言って演奏されたのはカオナシがステージ前に出てきてイントロのベースを弾く「HE IS MINE」。
「あえて言わないっていう。俺は言わない」
と言うと、やはり「セックスしよう!」の大合唱パートでは今の状況だからこその無音。それはそのまままたいつかこのフレーズをみんなで思いっきり叫ぶための約束のようであり、演奏が終わってから1人深々と長く頭を下げる尾崎の姿はフェスやイベントという短い出演時間のライブへの向き合い方の変化を確かに感じさせた。
でもこれまでも自分は毎回フェスやイベントでクリープハイプを見るのを楽しみにしていた。それでも今は出来る限り出る場所には見に行きたいとより一層思うようになった。そこに行けば毎回のように「今この曲が聴けるとは!」という体験ができるはずだ。ここに来てクリープハイプはさらにライブが見逃せないバンドになってきている。
1.キケンナアソビ
2.四季
3.月の逆襲
4.エロ
5.NE-TAXI
6.傷つける
7.イノチミジカシコイセヨオトメ
8.HE IS MINE
・KEYTALK
この日のトリはキンプレライブ最多出演を誇るということを考えても納得のKEYTALKである。春フェスでも変わらぬライブを見せてくれていたが、このメンツの中でのトリというのは本人たちとしても気合いの入り方が違うだろう。
おなじみの「物販」のSEでメンバー4人がダッシュでステージに登場して観客を煽りまくると、1曲目から手拍子が鳴り響く「Summer Venus」からスタート。首藤義勝(ボーカル&ベース)からは若干の緊張を感じさせるが、巨匠(ボーカル&ベース)のボーカルはやはり安定感に満ちているし、八木優樹が立ち上がってバスドラを踏むEDMパートは観客をガンガン踊らせる。その八木はシンバルを叩く音がいつにも増して大きい気がするが、それもライブへの楽しみによるものだろうか。
その「Summer Venus」のEDMパートではかけていなかったパリピサングラスを巨匠がかけて(曲中にかけるのを忘れていた?)から演奏された「a picture book」ではメガネをかけて金髪の小野武正(ギター)が「そんなとこまで行く?」というくらいに観客の近くまで走って行ってギターを弾く。すでにこの横浜アリーナでワンマンをやっているバンドだからこその余裕を感じさせるが、この曲に合わせて振り付けを踊っている、このバンドのグッズを身につけた人たちの姿を見ていると、ああ、KEYTALKのライブに来ているんだなという気持ちになれる。
昨年からもKEYTALKは配信で新曲をコンスタントにリリースしているのだが、なかなかそれをライブで聴ける機会がなかったという点ではストレートなギターロックの「流線ノスタルジック」からの新曲モードは実に新鮮である。
「Oh!En!Ka!」などの熱いKEYTALKにして、30代になっても少年のような無邪気さは全く変わらないKEYTALKらしさがパワプロのタイアップに実によく似合う「サンライズ」は中日ドラゴンズの熱狂的ファンとして野球好きバンドシーンから熱い視線を浴びている八木にとってはこの上なく嬉しいことだろう。
さらには一応リリースとしては最新曲となる、完全に何もかもが冬のバラードであり、真夏に入ったと言っていいこの時期に聴くことになるとは、という「Orion」はしかしいわゆるJ-POP的な冬のバラード曲とは全く異なる、KEYTALKというバンドが持つ様々なジャンルのサウンドや演奏を敢えてバラードという曲に落とし込んで見せた、複層的な楽曲であるということがライブでの演奏を見ると実によくわかる。そうした曲すらもポップに響かせることができる巨匠の歌唱力には改めて感嘆してしまうが、冬の屋内フェスなどでも是非聴きたい曲だ。
「しっとりした曲の後はみんなで飛び跳ねませんかー!(観客の反応めちゃくちゃ薄い)
………そうしましょう(笑)」
という義勝の煽りの不発っぷりに笑わせられながらも、やはり「Love me」の多幸感は飛び跳ねる我々に至福の時間を与えてくれるとともに、ここからラストスパートに突入することを予感させてくれるのだが、
巨匠「3年前にこの横浜アリーナでワンマンやった時も1曲目が今日と同じ「Summer Venus」だったんだけど、その時は八木君がいきなりミスりました(笑)」
八木「だからお前ら最初ずっと俺の方見てただろ!(笑)あいつミスんないかなって!(笑)」
というこの会場でのワンマンの記憶を懐かしみながら、武正による「ぺーい」をこのご時世だからこその心の中でのコール&レスポンスで行い、義勝の高速スラップベースが否が応でも踊らせまくる「MATSURI BAYASHI」で完全に夏モードに突入していく。
武正は自身の立ち位置の上手側だけではなく下手側に伸びた通路までも走り出して行って観客の近くでギターを弾くと、ブレイク部分ではいつものようにメンバーがピタッと静止してマネキンチャレンジへ…と思ったらそのままステージが暗転してしまう。
ステージの照明が点くと、キンプレのラジオのジングルが流れて、リスナーの悩みに答えるというラジオの公開生放送が始まる。この日寄せられた悩みは
「学費を親に払ってもらっているのに留年したことを話していないのでどうすればいいか」
というものだったのだが、それにフォーリミ「swim」の替え歌で答えるという手法を取ったために歌ったあとに思いっきりフォーリミに謝ることに。
そうしてKEYTALKならではの楽しさを感じさせてくれた後に演奏されたこの日の最後の曲はやはり「MONSTER DANCE」。観客も振り付けを踊る中、武正だけではなく巨匠も客席の前まで走って行ってギターを弾くのだが、サビになってもマイクの前に戻ってこないためにサビを
「戻ってこーい!」
と言った義勝が1人で歌うことに。戻ってきた巨匠に
「遅いよー!」
と言っていたが、そうしたあたりも実にKEYTALKらしい。つまりはこうした制限があることによって息苦しさや後ろめたさも感じてしまうことも多い中でもKEYTALKのライブはそうしたことを忘れさせてくれるくらいに楽しかったのである。
演奏を終えると3人が先にステージを去る中で八木が巨匠のマイクスタンドを掴んで何かを叫ぶのかと思いきや、結局マイクを通さずに
「ありがとうございましたー!」
と叫んで走り去って行ったのだった。
「Summer Venus」も「MATSURI BAYASHI」もこれでもかっていうくらいに夏の野外の大きなステージが似合う曲だ。そこに最も当てはまるのはロッキンのGRASS STAGE。今年もあそこでKEYTALKの夏曲を聴いて、夏を謳歌できるはずだった。それがなくなってしまっても、自分は今年の夏を忘れられない夏にできるだろうか。どこかの夏の野外でこのバンドのライブを見ることができれば。
1.Summer Venus
2.a picture book
3.流線ノスタルジック
4.サンライズ
5.Orion
6.Love me
7.MATSURI BAYASHI
8.MONSTER DANCE
全指定席で1席明けの横浜アリーナの座席。モッシュやダイブはできないどころか、しようもない座席。抑え切れずに声を出す人も、ふざけて声を出してしまう人もいない。とかく舐められるというか、甘く見られることも多いであろうこの日の出演者のファンたちは今の状況でのルールやマナーをしっかり守ってライブを楽しんでいた。それが自分たちの好きなバンドのライブが見れる機会が増えることに繋がっていくことをきっとみんなわかっている。またこうしたロックバンドのお祭りをJ-WAVEが開催してくれるように。
文 ソノダマン