the telephones 「埼玉六連戦 〜Start Over From SAITAMA〜」 生きている HEAVEN’S ROCK熊谷 VJ-1 2021.8.1 夜の部 the telephones
昼の部に続いてのthe telephonesのHEAVEN’S ROCK 熊谷。埼玉六連戦の6本目、つまりはファイナルとなるのだが、昼の部が終わったのが16時半過ぎで、夜の部の開演が18時という、インターバルが90分しかないというのはバンドにとって過酷だな、と思うのは我々観客側も90分のインターバルだと結構疲れるな、と思うからである。それくらいに今の客同士の間隔を空け、発声をしないというライブのやり方であってもその場で踊りまくっていたということであるが。
昼の部の時間よりも少し涼しくなったからか、熊谷駅前にはリーゼントにサングラス姿でタバコを吸いながら(もちろんマスクをしてない)、ラジカセで爆音で音楽をかけてツイストを踊っているグループがおり、自分はコロナ禍から昭和にタイムスリップしてしまったのか、とすら思うけれど、熊谷ってこういうところなのか、とも思わずにはいられない。
昼の部と夜の部が異なるのは、どうやら夜の部はノブが影アナをやるということらしく、前日は9mmの卓郎のモノマネっぽい口調だったのが、この日はどこか高校野球のアナウンスっぽいイントネーションで
「松本君、長島君、石毛君、岡本君」
と、自分も含めたメンバーの名前を苗字で呼ぶ。そのアナウンスに笑い声が漏れてしまうのは仕方がないところだと思うけれど、アナウンスが終わった際の観客からの拍手は3日間の最後が始まるという、期待でもあり寂しさとも言えるような複雑な感情を掻き立てられる。
18時になるとおなじみの「Happiness, Happiness, Happiness」が流れてアフロカツラを被ったメンバーが登場するのだが、昼の部ではなかなか外さなかった上に自身の方に飛んできたノブのカツラを涼平が先に取り上げて袖に投げるという先制攻撃。
石毛は昼の部同様に
「熊谷ー!」
と叫んでから
「両手を挙げてくれー!」
と言って観客に両腕を上げさせたので、これは昼の部と同様に「Here We Go」でhands upするのかと思ったら、その石毛がシャープなギターを鳴らす「oh my DISCO!!!」からスタートと、こちらの予想を良い意味で裏切ってきてくれる。ノブのロボットダンスのような動きもこの日2本目、3日で6本目とは思えないくらいのキレっぷりであるが、バンドの演奏も、曲中に入る手拍子のタイミングが完璧な客席も、疲れなどを全く感じさせない、6連戦の最後のライブを楽しみ尽くしてやろうというテンションに満ちている。
前日の夜の部にも演奏された「Changes!!!」は去年リリースのアルバム「NEW!!!」の曲でありながらも早くもライブの着火剤的な役割を担っているというか、今のtelephonesなりのディスコパンクと言ってもいい曲だろう。
すると誠治がイントロで高速ビートを刻み、ノブはデビューしたての若手バンドのメンバーのように飛び跳ね、はしゃぎまくる「RIOT!!!」という久しぶりの選曲には曲が始まった瞬間から喜んでいる観客が非常に多かった。もちろん自分も嬉しかった選曲であるが、リリースから13年も経過した今でもこの曲を聴くと衝動が駆り立てられるという自分の変わらなさと、その衝動を曲に込めることができるバンドの変わらなさに驚く。
さらにはサウンドもメロディもここまでの曲たちに比べたらポップかつキャッチーな「Go!!!」という「Oh My Telephones!!! e.p.」収録のレア曲までもが演奏される。この曲までも演奏できる状態にある(昨年末のSUPER DISCO HITS!!!の段階だったらメンバーが普通にこの曲のことを「覚えてない」とか言いそうな感じすらする)ということに驚くが、この最初のブロックは全てタイトルに「!!!」がつく曲である。その統一感を持った選曲だったのかということを、この日のセトリプロデューサーである石毛に聞いてみたい。涼平が石毛の唇サングラスをかけていたイタズラっぷりも含めて聞いてみたい。
MCではついに迎えた六連戦のファイナルだからこその、やはり終わってしまうのが少し寂しいという感じもあったし、それはこうして何本も観に来ている我々telephonesピープルもそうであるが、それでもこの6本目のみに参加しているという観客もいる(というかそれが普通なのかもしれない)というのがよりバンドも客席も気持ちを新たにさせてくれる。
珍しくノブが
「海の海賊!海の女王の曲!」
と、そりゃあ海賊なんだから海だろうと突っ込みたくなってしまうのは、昼の部でも演奏されたライブ会場限定販売曲「Caribbean」。誠治によるラジオDJ的なイントロとラップ、メンバーのステップもどこか昼よりも夜の方が爽やかに感じるのはMC中の換気でドアを開けた際に入ってくる空気が涼しげなものに変化したからだろうか。
このファイナルで演奏されるのが意外だったのは涼平が作詞作曲を手がけた「Sleepwalk」。涼平がセトリを決める日ではなく、石毛が決める日にこの曲が入るというのがそもそも意外なポイントであるのだが、それは6本のライブそれぞれでセトリを決めた人がキチンとテーマを持って選曲したからであろうけれど、いわゆる性急なディスコパンクというわけではない、自身の内面に深く潜っていくタイプのこの曲が演奏されたということは、中盤にはそうした流れを作っていくという予告でもある。
それはイントロを聴いただけであまりの懐かしさに泣きそうになってしまう(それくらい近年は演奏されてなかった)「2010」が演奏されたことによって確信となるのだが、
「Hey now! yeah!
we are new generation!」
という歌詞の通りに、2010年の段階ではtelephonesは間違いなく新世代バンドの象徴的な存在だった。サカナクション、9mm、THE BAWDIES、andymori、OGRE YOU ASSHOLEという、それぞれが全く違うサウンド、音楽性を持ちながらも、ロックバンドとしてオーバーグラウンドなシーンで戦っていくために共闘した「version21.1」や「KINGS」という2010年代を自分たちで切り開いていこうという活動の数々、2011年のJAPAN JAMで同世代のBIGMAMA・金井政人とこの曲をコラボしたり…。
あの頃、telephonesは明確に音楽シーンを変えようとしていた。ロックシーンやバンドシーンという枠の中だけじゃなく、日本の音楽シーンそのものを。だからこそその背負ったものの大きさにバンドが翻弄されたりもしたし、活動休止を選ぶことにもなってしまったのだが、今になってのこの曲を聴くと、当時の我々がtelephonesのその意志に賭けていたことを思い出させてくれる。それは希望以外の何物でもなかったことも。
さらにその当時によくライブの最後に演奏されることが多かった「Re:Life」も今ここで演奏されることによって、石毛の言う
「Liveって読み方を変えればライブにもリブ(生きること)にもなる」
ということのリアルさを実感させてくれる。かつて毎回のようにこの曲をライブで聴いていた時からもう10年以上経っていて、それでもこうして生きているからライブでまたこの曲を聴くことが出来ている。もしもう一度人生を生きるとしても、こういう人生であって欲しいと思うくらいに、久々にライブで聴いたこの曲のサウンドは真っ白な照明の光も相まって実に神々しかった。
17年目に突入したくらいの歴史があるバンドだからこそ、様々な昔話もMCで出てくる。昼の部ではまだ誠治がサポートドラマーだった頃のエピソードを話していたが、この夜の部ではかつてバイトしながら全国を車で回っていた頃に、ひたすら涼平だけが車を運転していたため、打ち上げで酒を飲むことも出来なかったのにノブが
「代わりに酒飲みまくっておくから!」
と平然と言い放っていたという実にノブらしいエピソードが語られる。今はどのバンドも打ち上げをやることができない(そもそもライブ後に食事をする店すらやってない)だけに、そうした過去のエピソードがより一層愛おしく感じられるところもあるのだろう。
その運転手役だった涼平が2サビのボーカルを担う「I and I」の浮遊感溢れるサウンドと、なんでこんな展開なの?と思ってしまうようなアレンジはまだ技術も知識も今よりも乏しかったであろうごく初期の頃の曲だからということもあるだろうけれど、この曲を聴けるというのもまたメンバーがセトリを決めるライブのファイナルだからこそという特別感がある。
その浮遊感を狂騒的な同期のサウンドも使ったダンスサウンドで塗り替える「It’s Alright To Dance!!! (Yes!!! Happy Monday)」という流れはここからはアッパーに踊らせまくっていくということの予告でもあるが、こうしてそれぞれの回で全く違う曲を聴いていると、改めてtelephonesはどんなタイプやサウンドの曲であっても名曲ばかりを生み出してきたバンドだなと思うし、こうして連続で3本ライブを見ても飽きることはない。それはこうして全くやる曲を予想できないライブをやってくれているからであるが、最初は昼の部は夜の部が即完したから、それが見れない人のためのものであり、内容は変わらないものだと思っていた。それがここまでガラッと毎回変わるとは。被りも少しずつしかないだけに、3日間で90曲も演奏しているということになる。ここへ来てtelephonesはさらなるライブバンドとしての領域に足を踏み入れている。
「Tequila, Tequila, Tequila」が入ると思っていた(昼の部も前日の夜の部もこのあたりで演奏されていたから)部分を担うのは「Tequila〜」同様に最新アルバム「NEW!!!」収録曲であり、アルバムの終盤を担う「Clumsy」。アルバム同様にライブでもこうして後半に演奏されることによって流れを引き締めてくれるような感すらある、telephones特有の激しさの中に安心感も感じられる曲だ。
本編最後のMCブロックで話すのが控えめだったのはもう早く曲に行きたかっただろうけれど、あえてこのファイナルまで温存しておいた感のある「sick rocks」では上半身裸になったノブが魂の叫びとでもいうようなシャウトを発し、観客はおなじみのカウント部分を
「心で歌え!」
という石毛の叫びによって心で歌う。それが実際には聴こえなくても届いていたのは、石毛の曲中での叫びからも伝わってくる。目の前にいる人たちの発する温度の高さでバンド側の温度も高まっているということが。
さらに「urban disco」では今までだったらイントロで客席に飛び込んでいたであろうノブが、自身のシンセの前に置いてあるモニターの上で駄々をこねる子供のようにジタバタすると、曲中で涼平側の袖に消えたと思ったらなぜかドラムセットやギターケースの機材を両手で持って逆サイドに運搬するというパフォーマンスに、誰よりも誠治と涼平が爆笑していた。この予想できない楽しさこそがtelephonesのライブの醍醐味だ。何回見てもいつでもこちらの予想をはるかに上回るくらいの楽しさを与えてくれる。それが翌日以降を生きていくための力になっていく。
そして最後に演奏されたのは、この6連戦の中では敢えて演奏していない感すらあった「Love & DISCO」だった。そうして毎回演奏しなかったからこそ、この曲がこの日このタイミングで演奏されたことによる祝祭感がより一層増すとともに、この日この会場の中にいた人たちが愛とディスコという言葉のもとに一つになれている気がした。年齢も住んでるところも、きっと普段考えていることや生き方や思想も全く違う。でもそんなバラバラの人たちが同じ気持ちになれる瞬間がライブにはある。だからこうしてライブに来るのだし、
「この形のライブに慣れちゃダメだ。ライブハウスはもっとぐちゃぐちゃになれる場所なんだ」
と石毛が言っていた通り、かつてこの曲をみんなで歌ったり叫んだり、肩を組んだりしていた頃のtelephonesのライブを思い出して涙が出てしまった。それは再びライブが厳しい状況になってきている中でこの曲を聴いたからこそそう感じたのかもしれない。でもまたそうして楽しめるライブが出来ることをバンドは全く諦めていないし、それを取り戻すためにこうしてルールやガイドラインを守ってライブをやっている。その誠実さもまた愛とディスコそのものだった。
アンコールではやはりこの六連戦Tシャツにメンバーが着替えて登場し、昼の部同様に8月のライブと秋からのツアー、さらにはSUPER DISCO HITS!!!の発表をするのだが、その際に
「telephonesピープルは仲が良さそうな感じがする」
と石毛は言っていた。きっとこの中にも自分のフォロワーさんも何人もいただろうけれど、仲が良いかと言われると、顔がわかる人は数人しかいない。でもみんなが声を出さずに距離を置いてライブを見るというガイドラインを厳守しているのを見ていると(その辺りは他のライブよりもはるかに民度が良いといろんなライブに行く身だからこそ思う)、仲が良いかはさておき、お互いを信用しているとは思う。この人たちだから大丈夫だと。そう思わせてくれるのはtelephonesのメンバーがそうした人間であり、我々の鏡のような存在だからだ。
そんなメンバーの中で今回のアンコール曲を決める担当のノブは、
「この六連戦でまだやってない曲をやりたい」
と言って3人を不安がらせるも、
「俺はディスコ大好きだけど、嫌いな時もある。それはどちらも同じ意味だ!」
と言ってディスコへの愛とヘイトを歌う「I Hate DISCOOOOOOO!!!」を、
「まだみんな元気そうだから最後に激しい曲を」
と最後の最後に強く鞭を入れるような激しさで、観客も踊りまくるが、それ以上にこの曲を選んだノブが激しく踊りまくっていた。つまりは最後はやっぱり実にtelephonesらしい六連戦の締めとなったのだった。
石毛もMCで解説していたように、この3日間のライブのサブタイトルを繋げると、
「君のために」「僕たちは」「生きている」
となる。
それはtelephonesがファンや観客のために生きているという宣言であるが、だからといってファンが望む曲をやる、かつてのようにディスコ曲とそうでない曲との人気やリアクションの差に思い悩むということはない。今telephonesのライブに来てくれる人はtelephonesのどんな曲でも愛してくれている人たちだということがわかっているからこそ、こうしていろんな曲をライブで演奏する。
我々観客もまたそうしてバンドが演奏してくれる様々な曲を聴くためにこうしてライブに足を運んでいる。なんならそのために生きている。今のtelephonesと観客との間にはそうした相互関係の強い絆がある。売り上げとか動員とかそうした物差しではなくて、どれだけ楽しく音楽を続けていくことができるか、どれだけ音楽を楽しむことができるか。それを共有し合っているからこそもうtelephonesが止まってしまったりする不安を抱くことは全くない。
そんなtelephonesがこうしてライブハウスを回ることで救われているライブハウスのスタッフやライブ関係者だってたくさんいるはずだ。(なんならメンバーたちだってもともとはライブハウスのスタッフだった)
きっとバンドもその意識を持ってライブハウスを、それも地元である埼玉のライブハウスを回っていたのだろうから、そうした活動が、音楽が鳴り止むような、止まってしまうようなことにはどうかなりませんように。改めてそう思った、telephones漬けの2日間だった。
1.oh my DISCO!!!
2.Changes!!!
3.RIOT!!!
4.Go!!!
5.Caribbean
6.Sleepwalk
7.2010
8.Re:Life
9.I and I
10.It’s Alright To Dance!!! (Yes!!! Happy Monday)
11.Clumsy
12.sick rocks
13.urban disco
14.Love & DISCO
encore
15.I Hate DISCOOOOOOO!!!
文 ソノダマン