Tucky’s Mastering Presents -FULL BIT Vol.1- 新木場STUDIO COAST 2021.11.9 Tucky's Mastering Presents FULL BIT
すでにDIR EN GREYが年明けにこの会場の最後のライブを行うことが発表されているが、新木場STUDIO COASTが閉館することを受けて、様々なライブ、イベントが「最後のCOAST」として開催されるようになった。
この日から3日間開催される、マスタリングエンジニアのTucky氏主催の「Tucky’s Mastering Presents -FULL BIT Vol.1-」もそうした思いを持ってのイベントであり、初日のこの日は
SIX LOUNGE
ストレイテナー
dustbox
ヤバイTシャツ屋さん
という、個人的にはCOASTでライブを見たことがある4組が出演。
しかしながら仕事が長引いたことと、開演が18時30分という早めだったことによって、トップバッターのdustboxがまるまる見れず。コロナ禍になってからライブを見れていなかっただけに、本当に見たかったし、残念で仕方がない。
・SIX LOUNGE
なので2番手のSIX LOUNGE。夏にa flood of circleのイベントでこのCOASTで観ているし、そもそもワンマンの規模としてもコロナ禍ではないとしてもこの会場の規模を超えているバンドである。
おなじみのSEで3人が登場するのを見るたびに、ロックンロールバンドのライブ前とは思えないくらいに落ち着いた気分になるのはSEの効果によるものだろうけれど、これもまたいつも通りに革ジャンを着たロックンロールスタイルのヤマグチユウモリがギターを弾き始めると、そのまま「カナリア」を歌い始め、それと同時にメガネをかけて金髪がすっきりしたようなイメージもあるイワオリク(ベース)、どこか吉井和哉が坊主頭になった時のような色気を感じるナガマツシンタロウ(ドラム)の2人にも照明が当たって2人も音を鳴らすのだが、
「ピアスをあけたのアナタと同じの」
というフレーズでながまつが顔を横に向けながらドラムを叩く際に左耳の大きなピアスが光るのが、ナガマツのドラマーながらにして作詞を担う歌詞の説得力を強くさせる。
そうしたリズム隊のシンプルであるが力強いビートがロックンロールバンドとしての骨の強さになっているのだが、「天使のスーツケース」ではそのロックンロールバンドとしてのビートの強さと美しいメロディとの融合を、「ナイトタイマー」「IN FIGHT」という曲では前のめりなロックンロールバンドとしての勢いを存分に感じさせてくれる。
まるっきり最新の音楽やスタイルというわけではないというか、むしろそうしたものとは真逆を行くくらいに、どこで何の音が鳴っているのかがはっきりわかるバンドであるけれど、そうしたバンドに若いファンがたくさんいるというのはロックンロールというスタイルのカッコ良さを信じる身としては本当に嬉しいことだ。
「Tuckyさんの説明はdustboxがしてくれたんで…」
と挨拶もそこそこに、
「俺たち最後のCOASTなんで気合い入ってます!」
と、その気合いをぶっ放すように、イワオリクがぴょんぴょん飛び跳ねながらベースを弾く「スピード」からは文字通りにスピードに満ちていくのだが、ユウモリが自身の口や顔を押し付けるようにしてマイクスタンドの向きを変えるのが実に面白いし、歌いながらこうしたパフォーマンスが出来るというあたりにこのバンドが重ねてきたライブの経験を感じさせる。
そんなロックンロールバンドが
「ロックンロールは大好きかい?」
と観客に問いかける(ユウモリの歌い方もまさに「問いかける」というものだ)「トラッシュ」ではさらにユウモリがマイクスタンドを顔で動かしまくり、ナガマツの荒々しい声質のコーラスの強さもまたロックンロールらしさを感じさせる。
そんなナガマツを筆頭にしたメンバー紹介を兼ねたショートチューン「ピアシング」ではソロを叩き終えたナガマツがスティックを放り投げ、イワオリクはドラムのライザーの上に乗ってベースを弾いて高くジャンプ、そしてユウモリも感情剥き出しで荒々しく歌うと、曲終わりでマイクを頭上にぶん投げる。そのすぐ後にステージが暗くなってマイクの在処がわからなくなるというあたりが、頭で考えるよりも己の衝動を炸裂させるという意味でもこのバンドのロックンロールさを感じさせる。
そしてユウモリはラスト1曲前なのに最初のMCかのような挨拶をするという、変わらぬ事前に考えてないであろうMCから、ギターを弾きながら「メリールー」を歌い上げ始め、そこにバンドの音が重なっていく。
初めてこのバンドのライブを見た時から変わらずにキラーチューンであり続けているこの曲は今でも変わらず、というよりもライブを重ねまくり、この規模の会場に立ってもおかしくないくらいの存在になったからこそ、より一層このバンド最大のキラーチューンであり、ロックンロールのロマンチックさを感じさせてくれる。
「ねぇ、わたし大人になりたくない…」
の自分が大好きな、そしてたくさんの若いロックンロールが大好きな人が聴いては涙しているであろうフレーズで光が降り注ぐような照明を見て、この規模にふさわしいバンドになったからこの光景を見れているんだよな、ということが本当に嬉しかったし、それはもっとキレイな瞬間をこの先に見れるようになるという確信でもあった。
1.カナリア
2.天使のスーツケース
3.ナイトタイマー
4.IN FIGHT
5.スピード
6.トラッシュ
7.ピアシング
8.メリールー
・ヤバイTシャツ屋さん
春にはZepp Tokyoで5days10公演ものライブを行い、そのうちの半分も見れたヤバTのライブもかなり久しぶりだ。春フェスでこそ見れていたが、見れるはずだった夏フェスはほとんどがなくなってしまい、先月の久しぶりに関東圏で行われた豊洲PITでのライブも見れなかったから。ヤバTにとってこの会場は1stアルバム「We love Tank-top」のリリースツアーでワンマンを行った場所である。
おなじみの「はじまるよ〜」と脱力SEでメンバーが登場、上下黒のこやまたくや(ボーカル&ギター)、ライブキッズがそのままステージに立っているかのようなもりもりもと(ドラム)の出で立ちは普遍であるが、しばたありぼぼ(ベース&ボーカル)が金髪になってからライブを見るのは初めてだ。ツイッターでは金髪の評判がすこぶる悪いと言っていたが、むしろ似合っているとしか思えないのは自分がヤバTが、しばたが好き過ぎるからなんだろうか。道重さゆみTシャツなのは変わらないが、下がジャージというのは季節柄ゆえなんだろうか。
「ヤバイTシャツ屋さん、始まるよー!」
とこやまが言うと、初っ端から高速化しまくっている「ヤバみ」で始まり、観客も腕を振り上げまくる。タイプも世代も違うバンドが集まったライブなだけに、客層的にどうなるだろうかとも思っていたが、やはりみんなヤバTをちゃんと知っている。そして待っていたという空気に満ちている。高速化してもしばたの超ハイトーンボイスは全く乱れることなく、安定感とロックバンドの衝動を同時に感じさせてくれる。
そんな客層のことを考えるのが久しぶりに感じるのは、そもそもこうしたライブハウスでの対バンライブが久しぶりだからであるが、それはステージに立っているメンバー自身も間違いなくそう感じているからこその燃えている感覚を音から感じられるのは、いつまで経ってもこやまが
「新曲」
と言うところも含めてこの曲なんじゃないかという感じになりつつある、メンバーとリズムに合わせて観客が手拍子をする「癒着☆NIGHT」で、めちゃくちゃにしたりたいものであるが、観客は声を出さない、飛び跳ねたりはしてもその場から動かないというルールをしっかり守っている。ライブハウスを守るためにも去年から今年にかけて長いツアーを回ってきたヤバTの精神がしっかり観客、顧客に根付いていることを感じさせる。
フェスやイベントでの尺でのライブを見るのはフェスにしては持ち時間が長いのが嬉しい春のJAPAN JAM以来ということで、そうした短い持ち時間のライブでどんな曲をチョイスしてくるのかが楽しみであるというのは、ヤバTがネタバレという概念を持ち得ないというくらいにライブ毎に曲を入れ替えるバンドであるからだが、この日はここでこやまとしばたがいきなり歌い始めるという曲始まりがより一層驚きを強くする「小ボケにマジレスするボーイ&ガール」が演奏されたことによって、サビの後半では観客が一斉に飛び跳ねながら、ああ、この期待の斜め上から来る感じがやっぱりヤバTだよなぁ、と安定しないが故の安心を感じさせてくれる。
ラウドともいえるようなAメロから、サビではしばたのハイトーンボイスで一気にキャッチーに突き抜けるような「くそ現代っ子ごみかす20代」もまた、こうした持ち時間でやるというのは少し意外であったが、こうした曲を演奏できるのもヤバTのライブの圧倒的なテンポの良さゆえと言えるだろう。
そのテンポの良さはMCにも見事に生かされ、
こやま「好きなTuckyは?」
もりもと「タッキー&翼!」
しばた「ウケるTシャツ屋さん」
こやま「「今日、ケンタッキーにしない?」っていうあのCMもTuckyさんがマスタリングしてるらしいで」
もりもと「タッキー(多岐)に渡る仕事」
しばた「上手いTシャツ屋さん」
と、実にテンポの良い絶妙なトークが展開されていく。この練ってきたであろう内容はさすがラジオやテレビなどで喋りまくってきたバンドである。
「みんな声出せないけど、心の中でTuckyさんに「ありがとう」を言いましょう!せーの!」
と言ってメンバーまでも無言になって静寂が訪れるというのも含めて。
そしてイントロで手拍子が鳴り響く「NO MONEY DANCE」ではこやまが事前に
「「税金ばり高い」のところでイェーってする(ピースする)のだけ覚えてもらえれば」
と言っていたこともあってか、こやまとしばたも含めてたくさんのピースが掲げられるのだが、この曲のサビの合いの手を我々顧客はまだ一度もライブで声を出して歌えたことがない。それができる日までこうしてライブを繋いでいく。そう強く思わせてくれたZepp Tokyoでのライブを思い出させてくれる。一緒に歌えたらもっと楽しいということがわかっているから。
かつてのこの会場でのワンマンでも演奏されていたのは「Tank-top of the world」であるが、
「Go to RIZAP!」
のコーラスをひたすらもりもとにやらせて、最後にはもりもとがシャウトっぽくなるというのは今のヤバTだからこそのパフォーマンスであるし、それはもりもとの力強いドラムやこやまのギターソロをはじめとしたメンバーの演奏力の絶大な進化もまた、ここでワンマンをやった時とは違う、今のヤバTだからこそのライブの強さと説得力に満ち溢れている。
「こうしてライブハウスの対バンライブに出るのも久しぶりで。知らなかったバンドとか、初めて見るバンドのライブ見るの楽しいでしょ?俺たちも他のバンドのライブを見れて刺激をもらえる」
と、かつては当たり前のように出演してきたこうしたイベントのライブが本当に久しぶりであることを改めて語ると、それが開催できる場所=ライブハウスがあるということ、このCOASTでヤバTを見れるのはこれが最後だろうけれど、こうしてこのライブハウスで見た様々なライブや思い出は忘れないだろうな、という様々なことを感じさせてくれるライブハウスのためのヤバTなりのストレートなパンク讃歌「Give me the Tank-top」が鳴らされる。
「愛と友情とPunk Rock 全部大事 それとあと Tank-top」
というヤバTの生き様が最後にCOASTの地に刻まれ、
「うるさくてくそ速い音楽を もっと浴びるように 着るように 聴く」
というのはdustboxとSIX LOUNGEという先に出たバンドが持っているものでもある。つまりはライブハウス讃歌でありながら、ライブバンド讃歌でもある。本当に何でこんなに楽しくて、何でこんなにかっこいいんだろうか。あまりにかっこよすぎて感動してしまうくらいにかっこいいし、やはり自分はヤバTが、ヤバTの音楽が、ヤバTのメンバーが大好きなのである。およそ半年振りに見るヤバTのライブが改めてそう思わさせてくれる。
そしてこやまは
「初めてTuckyさんにマスタリングしてもらったアルバムに入ってる曲!」
と言って、最後にやはり高速化しまくった「あつまれ!パーティーピーポー」を演奏したのだが、スペシャのイベントに出演する時も毎回必ず「2016年11月のSPACE SHOWER TVのPower Push!に選ばれた曲!」と言ってこの曲を演奏する。もちろん間違いなくヤバTのディスコグラフィーの中でも最初のエポックメイキングな曲であるのだが、その曲を認めてくれた人や関わってくれた人のことを今でもちゃんと覚えている。本当に義理堅いバンドでありメンバーだと思うけれど、この曲の
「えっびっばーっでぃっ!」
のフレーズでは思わず無意識で声が出そうになってしまった。そうなってしまうくらいの衝動がステージと客席から溢れ出ていたし、最後に3人がキメを打つ瞬間にこやまとしばたが楽器を抱えて高くジャンプする姿を、世界で1番カッコいい瞬間だと思っている。
ここでワンマンをやった時のヤバTはまだ「面白いことをひたすら詰め込みまくる」という面が強かった。それが次のツアーのZepp Tokyoではガラッとライブのスタイルが変わった。今のスタイルに繋がるようなライブをするようになった。
そういう意味でもこのCOASTでのワンマンがヤバTにとって分岐点的なものであり、その分岐でヤバTはより音楽に特化した、よりパンクでロックなバンドになることを選んだ。今のヤバTはそんなパンクでロックなバンドの最新かつ最高の姿だ。なくなってしまう前に、この会場でそんなヤバTの姿が見れて本当に良かった。
そしてそんな今のヤバTのワンマンを観るために、週末は大阪城ホールへ向かう。果たして愛と友情とPunk Rockのバンドは、今まであえてやってこなかったアリーナ規模でどんなライブを見せてくれるんだろうか。
1.ヤバみ
2.癒着☆NIGHT
3.小ボケにマジレスするボーイ&ガール
4.くそ現代っ子ごみかす20代
5.NO MONEY DANCE
6.Tank-top of the world
7.Give me the Tank-top
8.あつまれ!パーティーピーポー
・ストレイテナー
この日のトリはストレイテナー。ここまではスリーピースバンドが出演してきたが、トリのこのバンドもかつては3人編成だったけれど、今はもうこの4人でしかない。もうすっかりベテランとなった風格でこのイベントの初日を締める。
おなじみの「STNR Rock and Roll」のSEでメンバーが登場すると、ナカヤマシンペイ(ドラム)は長く伸びた金髪を結くという若手バンドマンのままのような出で立ちで、ひなっちこと日向秀和(ベース)はオレンジ色の鮮やかなスウェットに髪が長くなりパーマがかかっている。OJこと大山純(ギター)は髪がさっぱりとしているのは変わらず、ホリエアツシ(ボーカル&ギター)も総じて、全く知らない人が見たら何歳くらいに見えるのだろうかというくらいにメンバーの出で立ちは若々しい。
シンペイがドラムセットの上に立ち上がって客席を見渡すと、
「ようやく新木場STUDIO COASTに帰ってこれました、俺たちストレイテナーって言います!」
と、おそらくこの日の出演者の中で最もこの会場でライブをやっている(自分も何回もここで見ている)バンドだからこその、この会場を慈しむようなホリエの挨拶から、ギターを弾きながら
「君の目で世界を見てみたい」
と歌い始める「シーグラス」で始まるという、イベントやフェスなどではクライマックスを担ってきた曲によるオープニングに驚くとともに、海に行ったり、海の近くの会場での野外フェスでこのバンドのライブが見れなかった今年の夏の何もなさが頭をよぎってしまう。それでもそんなセンチメントな気持ちを全て昇華してくれるかのように、ひなっちは笑顔で観客に手を振りながら演奏する。
シンペイはライブ前にツイッターで
「俺たちだけ浮いている」
と言っていたが、最後のサビ前では客席からおなじみの手拍子が起こるというあたり、全くアウェー感はないし、その手拍子が最後のサビで訪れるエモーションをさらに強く引き出している。それはやはりこのCOASTでのライブということによるメンバーの漲る気合いと、この日がCOASTに来るのは最後という人も多かったであろう客席との相乗効果である。
OJの唸るようなイントロのギターサウンドがロックなストレイテナーを感じさせてくれる「叫ぶ星」はすでにライブでおなじみの曲になっているが、この曲が今のバンドから出てくるというところにこのバンドの変わらぬロックさを感じさせるし、そのロックさはそのままライブの熱量に直結しているということが、立ち位置指定ではあれどスタンディングという形式のライブで観客の腕が上がる姿がわかる。
「Tuckyさんに初めてマスタリングしてもらった「TITLE」っていうアルバムから1曲やります」
と、あの名盤アルバムがTucky氏の手によってマスタリングされて世の中に出たということに感慨深さを感じさせるが、dustboxも同じ頃からTucky氏にマスタリングをしてもらっており、さらにはELLEGARDENなど、この世代のバンドの共通事項としてTucky氏の存在があったということを感じさせてくれるというあたりにこのイベントの意義があるし、それをわかりやすく伝えられるホリエのMCも、「TITLE」当時は全く喋らないバンドだったのになぁ…と経験と年数を重ねてきたことを感じさせる。
そんな「TITLE」から演奏されたのは、ホリエがキーボードを弾きながらサビを歌い、そこから今の4人でのバンドの激しい演奏が加わっていく「SAD AND BEAUTIFUL WORLD」。リリース時はまだバンドにいなかったOJのギターとコーラスがそのままこの4人のテナーとしての強さを感じさせてくれるが、かつての武道館でのリクエストライブで見事1位を獲得したこの曲はやはり全く色褪せるどころか、今もさらに進化している。何よりもライブで聴けると自分が嬉しく思ってるのがわかるくらいに心と体を昂らせてくれる。
そんなテナーの強いロックサウンドが極まるのは「シンデレラソング」。まさかこうくるとは、というくらいに激しい、ロックなテナーの曲が続くとは思わなかったが、それは他の出演者がそうしたバンドたちであるという要素もあるのだろうか。そういえばテナーはちょっと前は2日連続でイベントやフェスに出ると、セトリがガラッと変わるバンドだったということを思い出した。
「Cendrillon…」
のリフレインでホリエの声に重なるシンペイとOJのコーラスの声が実に大きいというあたりもロックさをさらに強く感じさせる。つまりは、「カッコいいな…」と思いっぱなしの時間だということだ。
そんなテナーは今月新作ミニアルバムの「Crank Up」をリリースするのだが、
「いつだって新しい音楽で若手バンドに負けないくらいのものを作りたいと思ってる」
と、燃え尽きることのないバンドの衝動を口にし、その「Crank Up」に収録される「宇宙の夜 二人の朝」を披露。タイトル通りに壮大な、でも近い範囲のことを歌った、サウンドとしてはこの激しくロックな流れの中で演奏されるにふさわしい、4人のアンサンブルの激突と調和を感じさせる曲。ギターを弾きながら歌うホリエがアウトロでキーボードを弾くというのもかなり珍しいパターンと言えるだろう。
そのキーボードの前にホリエが座り、
「来月、ここでワンマンをやります。COASTは年明けになくなってしまうけれど、良い有終の美を飾れそうです」
とCOASTへの想いはまだもう少し続くことを口にする。自分が初めてこの会場でテナーのライブを見た時(なんのツアーか忘れたけど、10年以上前なのは間違いない)は、「横に広い会場はアウェー」的なことを言っていたが、すっかりその会場がバンドにとって大事な場所になっていることを感じさせると、最後に演奏されたのは「灯り」。
こうしたバラードと言える曲を短い持ち時間のライブで演奏できる、なんなら最後の曲として演奏して、会場にいる人が音に包み込まれるような説得力を持っているのは経験と技術と人間性があるバンドだからこそ為せることだ。この曲がより沁みるような季節になってきたことを実感しながらも、
「歓びの歌が僕らを包む
無数の願いが今叶うように
バスを降りてすぐ 駆け出してる
僕の心照らす灯りまで
今夜 どんな君に会えるだろう」
というフレーズからは微かでも確かな、元の日常に戻れる日が近い未来に訪れるんじゃないかという希望を感じられたのだった。
本編終了時にメンバーが手を繋いで一礼するという普段のライブ終わりの儀式をしていただけに、もしかしたらアンコールはないのかもしれないなと思いながらもアンコールを待っていると、再びメンバーが登場。
「この後に全員で写真を撮るらしいから、ちゃっちゃと(笑)
1番短い曲をやります」
とホリエが言ったので、もしかしたらインディーズ期の、2人組だった時代のパンクな曲が演奏されるのかと思った。その時期にはパンクなショートチューンも多かったから。
しかし、実際に演奏された「Last Stargazer」は全英語歌詞でパンクなサウンドという要素こそインディーズ期を思い出させるが、この曲は2018年リリースの「Future Soundtrack」に収録されている。つまりは割と近年の曲ということである。
そんな曲が今の、この4人でのストレイテナーから生まれていて、それを若手バンドに負けないくらいの瑞々しさとエネルギッシュさで演奏している。「ポップになった」「丸くなった」と言われることも多いけれど、この日のライブを見て感じたのは、テナーのロックさ、なんならパンクさ。それをまた来月ここで体感することができたら。そう思うくらいに、数え切れないくらいにこの会場で見てきたバンドだから。
演奏が終わると主催のTucky氏が登場し、出演バンドが勢揃い。なぜかdustboxとSIX LOUNGEはメンバーが入り乱れて並んでいたが、ヤバTは3人で端っこの方で固まっていたのが実にヤバTらしかった。
そして明らかに人前で喋るのに慣れていなそうなTucky氏の喋り方は本当に音の職人っぽさを感じさせるとともに、どこか今まで自分が聴いてきた(それこそ「We love Tank-top」や「TITLE」も)、Tucky氏がマスタリングした名盤たちから温かさのようなものを感じたのが少しわかった気がした。
このCOASTではコロナ禍になってからもBAYCAMPが開催されていたりしたが、出演者の数や開始時間、ステージ数からしてもあれはフェスだ。
でもこの日のライブはフェスではない、あくまで対バンイベント。その対バンイベントというものが、1組があっという間に終わってしまうということ、だからライブ自体も、この日自体もあっという間に終わってしまうということ、好きなバンドを目当てに来ても他のいろんなバンドを見れるということ。(この日は全組好きなバンドだけど)
そんな対バンイベントの感覚を久しぶりに思い出させてくれた。思えばCOASTではそうしたイベントをたくさん見てきた。なくなってしまう前に、またその感覚をここで味わえて本当に良かったと思っている。
1.シーグラス
2.叫ぶ星
3.SAD AND BEAUTIFUL WORLD
4.シンデレラソング
5.宇宙の夜 二人の朝
6.灯り
encore
7.Last Stargazer
文 ソノダマン