go!go!vanillas Yokohama, Kobe Arena Tour 「Life is Beautiful」 -FINAL- 横浜アリーナ 2021.11.21 go!go!vanillas
昨年にコロナ禍の中で初の日本武道館ワンマンを開催し、今年に入ってからアルバム「PANDORA」のリリースとそれに伴うツアーを開催と、ピンチをチャンスに変えるかのような活動をしてきた、go!go!vanillasがまだコロナが収束していない今年にバンド初のアリーナツアーを開催。
神戸ワールド記念ホールでの2daysを経て、そのツアーのファイナルはバンドの最大規模を更新する横浜アリーナ。それこそ今年の夏にはTalking Rock! Fesで横浜アリーナのステージに立っているが、ついにワンマンでこのステージに立つというのはやはりどこか感慨深いものを感じる。
豊洲PITから高速で移動して横浜アリーナへ到着し、検温と消毒を経て場内に入ると、ロビーには戦友と言えるようなバンドたちから花が贈られているのだが、夜の本気ダンスやTHE ORAL CIGARETTESからも届いているというのは、長谷川プリティ敬祐(ベース)が交通事故に遭ってステージに立てなかった時にサポートしてくれたメンバーがいるバンドであるだけに、彼らのバニラズへの変わらぬ愛とき敬意を感じさせてくれる。
客席に入ると、アリーナの客席にはかなり変わった形で花道が伸びており、それがバンドのロゴであるバニラの形状のセンターステージに続いているのが、通常のライブとは違う、アリーナだからこそのライブであるということを感じさせて楽しみが増してくる。
開演時間の18時を少し過ぎた頃、場内が暗転するとステージ背面のスクリーンに映像が映し出される。それは様々な動物が自然の中で生きるというアニメーションであり、それはこのツアーのタイトルである「Life is Beautiful」に繋がるものでもある。その映像とともに流れる音楽もアイリッシュトラッド的な生命の輝きを祝福するようなものになっているというコンセプトの強さを感じさせるオープニングである。
なのでおなじみの「We are go!」のSEではなく、その映像に合わせた音楽に乗るようにして元気いっぱいとばかりにメンバーが登場すると、牧達弥(ボーカル&ギター)の白いパーカー姿や柳沢進太郎(ギター&ボーカル)の金髪やプリティの緑色の髪ではなく、ロックンロールの大先輩であるThe Birthdayのクハラカズユキを彷彿とさせるジェットセイヤ(ドラム)の歯ブラシのような両サイドを完全に剃り上げた形のモヒカンヘアが「なんだ!?」と思ってしまうくらいのインパクトを放っている。これは間違いなく彼なりの気合いの入れ方であろうけれど、サングラスに革ジャンというロックンロールでしかない出で立ちであっても髪型や目を見ると爽やかさすらあったセイヤのイメージはかなり変わる。
「横浜ー!」
と牧が叫ぶと、この日のオープニングはこの4人のバンドとしての魔法を体現するかのような、そしてバニラズのロックンロールの魔法をここにいる人たち、さらには配信でこのライブを見ている人たちにかけるかのような「マジック」。客席の様子を見ていると、ここにいる人たちはすでにもうその魔法にかかりっぱなしであるということがよくわかるくらいに楽しそうに飛び跳ねて腕を上げている。それがアリーナという広大な空間で起きているということを目にすることができている。その事実を目の当たりにするだけで感動してしまう。ロックンロールという看板を背負ってきたバンドがこんな景色を作ることができるなんて。
そんなバニラズのバンドにとっての推進力であり続けてきた曲と言っていい「平成ペイン」では早くも柳沢とプリティが両サイドに伸びた花道を歩いて行き、客席のサイド席と言ってもいい場所にまで接近するのだが、その際に2人ともスタンドの上の方の席までしっかりと自身の目に焼き付けるように見ていた。その視線の先ではたくさんの人がこの曲のMVでおなじみの振り付けを踊っている。もう平成という年号ではなくなったけれど、令和のロックシーンを引っ張っているのはバニラズである。そんな強い意志を今もなお、というか今こそより強く感じさせてくれる。
プリティによるまさにプリティな曲タイトルのコールによる「クライベイビー」が鳴らされ始めると、ボーカルを柳沢が務めることによって牧は花道を走り回り、早くもセンターステージの方にまで行ってしまう。その機動力の高さはそのままこのライブへの意気込みとしても伝わってくるのだが、柳沢のボーカルもアリーナで響くことによる違和感は一切ない。牧という強力なボーカリストとはまた違う魅力を柳沢の声は放っているし、その声にはストレートなギターロックサウンドが実によく似合う。
その「クライベイビー」は今年リリースの最新アルバム「PANDORA」からの選曲であるのだが、個人的にはバニラズの最高傑作だと思っているアルバムであるだけにこのバンドにとっての最大規模のライブでもこうしてその収録曲を聴けるというのは実に嬉しいのだが、このライブがそのアルバムの収録曲を軸にしたものになるというのがわかるのが、続けて「お子様プレート」が演奏されたからである。
「お子様プレート」演奏中は海外の子供たちの映像が背面のスクリーンに映し出され、そりゃあ曲タイトルに合わせたらそうなるよなぁと思っていたのだが、想像以上に様々な国、様々な人種の子供が次々に映し出され、ここにもきっとバンドとして込めているメッセージがあったんだろうとも思う。まさに自身がファミレスでお子様プレートを食べていた時のことを歌詞にした曲であるが、世界中の子供たちがそうやって「お子様プレート」を当たり前のように食べることができる世界、世の中になるようにと。ステージ上のメンバーはリズムに合わせてステップを踏みながら演奏するという楽しくならざるを得ないような姿を見せてくれるが、ただ楽しいだけではない感覚をこの曲で初めて感じさせてくれた。
すると牧はギターを下ろしてセンターステージの方まで歩いていくと、
「バニラズのメンバーはみんな難癖強い奴らばっかりだから(笑)、そのメンバーの魅力を感じてもらおうと思います!まずは俺から!
みんなこの2年くらいは苦しいこともたくさんあったと思うけれど、今だけは楽しかった日々に戻ろう!」
と観客に語りかけると、
「PLAYBACK」
という歌い出しとともに始まった「鏡」をセンターステージ上を動き回りながら歌うのだが、その白いパーカーのフードを被って歌う姿はボーカルグループのセンターメンバーと言われてもおかしくないようなものですらある。それでも
「変わるもの 変わらない答えを
君が探すんだ」
というフレーズの答えをバンドとここにいる人は間違いなくすでに持っていると思う。
そんな牧がメインステージに戻ってギターを手にすると、続いては柳沢。大切な人、家で帰りを待ってくれている人、あるいは家で待ってくれているペット。そんな大切な存在を思い浮かべながら聴いて欲しいと言って演奏されたのは自身のメインボーカル曲である「12:25」であるが、この曲の歌詞にも、その前の言葉にも柳沢の人間性が強く出ている。彼はSNSでもそうした投稿をよくしているという印象があるが、だからこそその柳沢の歌唱からは生きるものへの慈しみのような感情を強く感じさせるし、それは間違いなくこのツアーの「Life is Beautiful」と紐付くものである。聴かせるタイプの曲だからこそ、「クライベイビー」以上にそこに感情を込めて歌っていることもよくわかる。柳沢もまた牧同様にこの瞬間に間違いなくアリーナクラスのボーカリストになっていた。
そんな柳沢に続いてはプリティなのだが、
「普段は「Life is Beautiful」って素直に思えないような人もたくさんいるかもしれん。でもそんな人にも今日はそう思って欲しいと思って全力でライブやるから!」
という言葉は派手な髪色ではあれど、メンバーの中で最も控えめというか、ネガティヴですらあるプリティならではだ。自分はプリティを某バンドのライブで見かけたことがあるのだが、話しかけられないくらいにその暗さが表情から出ていた。そんなプリティが
「yeah 重なっていけよ
yeah 刻んでいけ
yeah このままじゃあまだ終われねぇよな
yeah 掻き回しにいけよ
yeah 抗っていけ
yeah ただ生きるだけじゃあ物足りないよな」
とどシンプルかつストレートなロックンロールサウンドに乗せて、自身の書いた歌詞で歌う「バームクーヘン」はそのまま彼のこれからの生き方と覚悟を強く感じさせた。ステージからは「この曲で!?」と思ってしまうくらいの火柱が噴き上がるのだが、柳沢が燃えてしまうんじゃないかというくらいにその炎に近づいていて少し心配になってしまった。
そして最後は髪型が激変した、バニラズのロックンロールを司る男こと、ジェットセイヤであるのだが、ドラムセットから降りてセンターステージへ向かってダッシュすると、柳沢が代わりにドラムのキックを踏みながらも、センターステージにもシンプルなドラムセットが。そのドラムセットを前にしたセイヤはステージ上でブレイクダンスを披露するという身体能力の高さとパフォーマンスの幅の広さを見せるのだが、ドラムセットを前にしてのMCは
「お前たちがいてくれるから俺たちが音楽をやる理由になっている!」
という彼のストレートな性格が現れるくらいにシンプルなものであり、立ったままでセンターステージのドラムセットを叩きまくりながら「Ready Steady go!go!」を歌う。その曲のサウンドもストレート極まりないロックンロールであるのだが、やはり最後にはドラムセットを解体しているのかと思うくらいにシンバルなどを床にぶちまけるというロックンローラーとしての荒々しさを見せつけてくれる。
そうした4人それぞれのボーカル曲の後は、その4人全員のボーカルが重なる「デッドマンズチェイス」へ。柳沢とプリティは花道の真ん中あたりに置かれたマイクスタンドに向かって歌い、牧はセンターステージで歌うというバラバラな場所にいた(つまりメインステージにはセイヤだけ)メンバーたちが、牧と柳沢がセンターステージの1本のマイクで顔を合わせるようにして歌うと、そこに後ろからプリティも加わって3人で歌うという、ビートルズを見れなかった我々世代がビートルズの化身というようなバンドを見ているのかというようなパフォーマンスを見せてくれる。
そうしてバンド最大規模の会場でのライブだからこそ、今一度しっかりメンバーそれぞれがどんな人間であるのかということをMCだけではなくて、それぞれが作った曲とそれぞれのボーカルと演奏という音楽の面で見せてくれる。それを見せるのが1番どんな人間か伝わるということをメンバーはよくわかっているし、自分たちが広い会場でワンマンをやる際に何をするべきか、このバンドのどんな部分を見せるべきかということをメンバーは本当によく理解している。
すると牧はイギリスに行ったことがある人がいるかどうかを問いかけると、ごく少数の観客の腕が上がるのだが、牧自身は行ったことがないとのことで、観客から「ないんかい!」という心のツッコミが聞こえてくる中で演奏されたのは、イギリスへの憧憬をイギリスの曇天の空模様を思わせるようなサウンドとスクリーンに映る映像で表現したかのような「倫敦」であるのだが、この曲では何と演奏中の撮影が許可され、たくさんのスマホがセンターステージでイギリス出身の喜劇俳優チャールズ・チャップリンのように傘を持って踊りながら歌う様子を収めている。
まさかバニラズがこうした撮影を許可することをするとは思わなかったのだが、こうして撮った動画や写真を後から見返せば、きっとそれが「あの日みたいな日が来るから頑張ろう」と生きていく力になるという人もたくさんいるはず。それもまた一つの「Life is Beautiful」なことであり、この会場へ来てくれた観客へのバンドからのプレゼントでもあるだろう。
「倫敦」も含めて「PANDORA」はバニラズの幅広い音楽性をさらに広げるものになっているのだが、ヒップホップの要素までをも取り入れた「ca$h from chao$」はその最たるものだと言えるだろう。だからこそ牧はイギリスから飛んでアメリカの最先端を走るラッパー・シンガーのようにすら見えてくるのだが、そんな幅広い「PANDORA」の世界観はスクリーンに歌詞が映し出される「アダムとイヴ」に集約されていく。
ハンドマイクで花道を軽快に歩き回りながら歌っていた牧がメインステージに戻ると、最後のサビでは牧もステージに膝をつきながら歌い、スモークがステージを包む中でプリティと柳沢も膝をついて演奏している。そうした姿で演奏することによって、さらに音が強くなっている。つまりはロックなサウンドであったということだ。「PANDORA」ツアーのZepp Hanedaでもすでにこの曲を演奏したのは見ていたけれど、まさかこんなにロックな曲に変貌するとはという驚きと、この短期間でそこまでこの曲を変えたバニラズのバンドの力が本当に驚きだった。
するとプリティはこのアリーナツアーに万全を期すために、この3週間ばかりメンバーとスタッフ以外の人と全く会わない生活を送ってきたことを語り、だからこそこのライブで観客に出会えることが本当に嬉しいと語るのだが、そうしてMCをしているステージから柳沢が居なくなっていることに気付く。MC中もスタッフが牧のところに耳打ちしにきたり、牧とプリティが耳打ちしあったりしていると、何故かセイヤが柳沢のギターを持って鳴らしたりし、体調不良でいったんステージから捌けていることを告げる。
牧は明らかに不安そうな表情をしていたのだが、観客にその不安が広がらないようにという配慮もあったのだろう、セイヤが中心となって、
「3人でできる曲やろう。初期の曲やろう」
と言うと、なんと本当に3人だけのままで「アクロス ザ ユニバーシティ」を演奏するのだが、演出も一切なし、照明も赤と白が切り替わるという演奏もその周りもシンプル極まりない姿は、間違いなく急遽演奏されたことをこれ以上ない形で示していた。あまりに急遽かつ久しぶりの演奏だからか、プリティは牧に
「今間違えたろ!」
と間奏で言われたりもしていたが、それこそプリティが交通事故に遭った時も他のバンドのベーシストの力を借りたり、プリティが弾いた音を流したりという工夫をしてライブをやることを止めなかったし、このコロナ禍という状況の中で武道館、横浜アリーナと最大キャパを更新するような活動をしてきた。それはピンチをチャンスに変えてきたというこのバンドの本質的な強さの証明をこの大事なライブで果たしたということだ。柳沢がどうなるのかわからない状況の中で、こうして観客が喜ぶ特別なことをバンドの音でやってみせるのだから。
そうしたバンドの強さを改めて感じさせてくれる繋ぎを経て柳沢は変わらぬ姿でステージに帰還する。メンバーも観客も心配する中で大きな声をあげて無事をアピールすると、そのままコール&レスポンスならぬコール&手拍子を柳沢が行って「カウンターアクション」へと突入し、バニラズの一大ロックンロールパーティーはさらなる狂騒へと突入していく。観客も声は出せないけれど指でサビ前の「ワン、ツー!」のカウントを示す。それだけで本当に楽しい、人生は美しいと思える瞬間、空間になっている。この曲がリリースされた時、こんな広い会場で聴けるようになるなんて全く想像していなかった。
そして心配された柳沢がメインボーカルを務める「ストレンジャー」はしっかり歌えてはいたのだが、「12:25」ほどの凄まじさとはいかなかっただけに、これは柳沢とバンドにとってはこの横浜アリーナでリベンジする理由になるはず。どんな症状だったのかはわからないが、それでもやめることなく走り抜いた柳沢には心から拍手を送りたいが、今年になってから自身もコロナの濃厚接触者になってツアーを延期したりと苦しい思いもしてきただろうだけに、自分を責めることだけはしないで欲しいとも思う。
そして爆発音の特効が炸裂する「one shot kill」は今やフェスやイベントでも演奏されるくらいに「PANDORA」の中での主役と言っていい曲になりつつある。スクリーンにはシューティングゲームをプレイしているかのような画面が映し出される中、牧はハンドマイクで花道を走り回り、センターステージに置かれたトランポリンでより高く飛び跳ねるという、無尽蔵なのかと思ってしまうような驚異のスタミナを発揮する。曲が終わった瞬間にスクリーンに「GAME OVER」と映し出されるという演出も見事であるが、何よりもバンドの演奏がここにきてさらに激しく獰猛な一つの塊になっているというのが何よりも素晴らしい。
そしてプリティが人文字で「EMA」を示すと観客も同じように腕を使って体全体で「EMA」を表現すると、スクリーンにもポップかつカラフルな「EMA」という文字が浮かび上がるのはもちろん「エマ」なのだが、音は全く違和感がないとはいえ、いつものようにステップを踏みながらの演奏ではなかった柳沢は少し心配にもなったのが、それを吹き飛ばしてくれるくらいに楽しくなるのがサビでの観客の腕を交互に挙げるという楽しみ方。これはいつから定着したんだろうかとも思うけれども、それもまたバンドとファンが作り上げてきた歴史である。
すると牧はこのライブのために新曲を作ったことを語るのだが、それがこの日初めてスクリーンが4分割されてそこにメンバーそれぞれが演奏する姿が映し出された、会場限定シングルとして販売された「LIFE IS BEAUTIFUL」であるのだが、タイトルが全てを物語っているかのように、自分たちの鳴らす音で人生の美しさと素晴らしさを示すかのような曲。荒々しいロックンロールだけではないバンドであることをこれまでの活動で示してきたバンドだけれど、今この時代、この状況でバンドが伝えたいメッセージはこれなのである。それはここに来ている人、配信で見ている人にはきっともう伝わっている。こういうライブを見れる日こそが最も「LIFE IS BEAUTIFUL」だと思える日なのだから。
そんなこの日のテーマ曲と言える曲で終わるのが普通だとも思う。しかしながらこの日のバニラズは、このツアーはそれでは終わらなかった。その後に演奏されたのは、棒人間と言えるくらいに単純に表された赤ん坊が大きくなっていき、大人になって仕事に翻弄されたりしながらも愛する人と出会い、最後には新たな命が産まれるというストーリーを描いた「パラノーマルワンダーワールド」。そんな単純極まりないような映像であるにもかかわらず、見ていて感動してしまったのは、この曲がそうした人生の美しさを表現している曲であり、決して映像を主役にするようなライブをしてこなかったこのバンドが、曲と完璧に合致するような映像を最後に用意していたからだ。
「笑って 泣いて 人間賛歌さ」
という美しいメロディとともに歌われるフレーズは、この曲でありバニラズの音楽とライブそのものをこれ以上ないくらいに言い当てている。桜吹雪のように舞う紙吹雪も人間の生を祝福しているかのようだった。
柳沢の体調のこともあるだろうから、アンコールでちゃんと出てこれるだろうか、とも思っていたのだが、そこそこ時間が空きながらも登場すると、テンションが高すぎる男ことジェットセイヤは観客を驚かせるくらいに体操選手のようなアクロバットな形で再登場すると、演奏をしようとする牧を制して、
「俺は普段の日常なんかよりも、こういうライブの日の方を本物だと思ってる」
と語り、観客から大きな拍手を受ける。それは親も音楽をやっており、幼少時からライブ経験があるというロックンロールの下に生まれて生きてきたセイヤだからこその言葉でもあるが、本当にその通りだとも思う。日常生活において、ライブのように感情が揺れ動いたり爆発したりするようなことなんてほとんどない。でもライブだとどんな立場の人でも平等にそれを曝け出すことができる。それをわかっているからこそ、バニラズはここまでライブにこだわって生きてきたのだろう。
そんなセイヤの言葉を牧も称えると、スクリーンには天使の男女のアニメーションが映し出される。それは「ロールプレイ」のMVであり、黒い羽根を持つ女性は周囲から悪魔と呼ばれて迫害されるも、男が自分の羽根で包み込んで守るというストーリーなのだが、その包み込んだ瞬間に
「君が好きなんだ」
というサビの締めのフレーズが来て、そのフレーズが映し出されるというのをバンドの生演奏によって再現されるとMVを見る以上に感情に突き刺さる。
「ナイトとクイーンのようになって」
という従者と姫という関係性が最後には
「キングとクイーンのようになって」
と王と姫という関係性に変わる曲のストーリーも含めて、この横浜アリーナで観ると、聴くとこんなに感動するものなのかと思う。
そして牧は
「横浜のみんなに」
「配信を見てくれてるみんなに」
「目の前にいてくれてる人に」
と自分たちの未来を観客に賭けるように「アメイジングレース」を歌い始め、割れんばかりの拍手に包まれると、破裂音とともに金テープがステージから客席に放たれる。花道やセンターステージにまで飛び散ったそのテープがこのライブをより輝かしいものにしてくれたが、それはまさしくバニラズとこのライブを見ていた人の未来への祝福である。柳沢も含めてそのメンバーの笑顔がスクリーンに映るのを見るだけでなんだか泣きそうになってしまった。
そして牧は1人センターステージまで移動すると、ギターを鳴らしながら例え話も交えながらこの「Life is Beautiful」というタイトルのライブについて、コロナになってからの生活についてを話し始めるのだが、それは明らかにライブが終わって欲しくない、少しでも長くステージに立ってこの景色を見ていたいという気持ちであることが表情からすぐにわかる。ライブをしていなければいけないバンドだからこそ、ライブが終わってしまうという事実に切なくなってしまっているのだ。
そんな気持ちを弾き語りのように、最初はメインステージの方を向いて歌い、途中から客席の方を向いて歌ったのは「ギフト」。
「どうかまた会える日まで さよならは言わないよ
笑顔でいてほしいから」
と歌われるこの曲はいつもバンドと観客の約束である。牧が最後に言っていたように、この日ここにいた全員がまた集まれることはないかもしれない。それでも、生きてさえいればその可能性は0ではないし、別々であってもきっとまた会える。バニラズは会いに来てくれるし、我々も会いに行きたいと思える。それはこんなに広い会場であっても観客のすぐ近くで歌っているボーカリストのバンドだからこそそう思えたものだ。ただ広い場所でやれるようになったからやったというだけではない、確かにこの規模の会場でやる理由があった、バニラズの横浜アリーナワンマンだった。
演奏が終わると4人全員がセンターステージに集まり、発表としてこのライブの直後から「LIFE IS BEAUTIFUL」が配信され、MVも公開されること、さらには春からツアーを行うことも発表するという、止まらぬライブ欲を見せるのだが、その日程は各会場でワンマンと2マン1日ずつというもので、ツアーファイナルは5月5日のこのバンドの日に牧とプリティの地元の大分でのワンマン。ちょっとずつ、でも確実にバニラズは今までのライブを自分たちで取り戻そうとしている。もうZeppでもチケット取れないだろうなぁと思いながらも、やっぱりこの日の続きを観に行きたいと思った。去り際にはやはりセイヤがアクロバティックな動きを見せて観客を驚かせていたが、やはりこの男の体力に限界はないのかもしれない。
初めてバニラズのライブを見たのはデビュー直後のスペシャ列伝ツアーだった。牧も後にそのツアーを回ったバンドたちともう一度ツアーを回った時に、
「あの時は俺たちを観に来た人は全然いなかった」
と言っていた。KANA-BOON、キュウソネコカミというすでにシーンを騒がせていた2組と、SHISHAMOという原石のようだったバンドと比べると、まだあの頃のバニラズにはこれという色がなかった。自分も「THE BAWDIESの弟分的なバンド」というくらいの認識だった。
しかしながらそのバンドが今やワンマンで横浜アリーナに立つようになった。そんなことはあの時は全く想像していなかった。それくらいにバニラズが成長し、進化してきたということだ。それはこれまでにリリースしてきた作品を順番に聴いていけばすぐにわかることだけど、その過程でバニラズはバニラズでしかないバンドになっていた。それはこんなにも「人生は美しい」ということを、ロックンロールバンドとして、それと同時に多彩な音楽で描けるバンドになったということだ。「Life is Beautiful」。そうとしか言いようがない、初めての横浜アリーナワンマンだった。次はフルキャパで、隅から隅まで全部埋めてやろう。
1.マジック
2.平成ペイン
3.クライベイビー
4.お子様プレート
5.鏡
6.12:25
7.バームクーヘン
8.Ready Steady go!go!
9.デッドマンズチェイス
10.倫敦
11.ca$h from chao$
12.アダムとイヴ
13.アクロス ザ ユニバーシティ
14.カウンターアクション
15.ストレンジャー
16.one shot kill
17.エマ
18.LIFE IS BEAUTIFUL
19.パラノーマルワンダーワールド
encore
20.ロールプレイ
21.アメイジングレース
22.ギフト
文 ソノダマン