そもそもは毎年岐阜県の中津川で開催されていた、THE SOLAR BUDOKANは昨年は中野サンプラザでの人数限定の公開収録こそあったものの、基本的には配信での開催だった。
それを受けての今年は会場である中津川の公園がワクチンの集団接種の会場になっており(開催中はギャラリーなどになる建物もある)、同地から富士急ハイランドコニファーフォレストという、今年はSATANIC CARNIVALが開催された会場での開催となったのだが、それも感染者拡大に伴う山梨県の状況によって直前に開催を断念。今年も配信での2daysの開催となったのだが、2日目のこの日はクラウドファンディングで現地参加コースの支援(22000円→19000円になったのはさすがに高いと感じたのだろう)をした人はZepp Hanedaでのライブを客席で観れるということで、このフェスを愛する者として迷わずに現地参加コースの支援を選び、実際に会場でライブを観れることに。
限定600人の現地参加コースであるが、実際に申し込んだ人は本当に少ないだろうというくらいの人数で、期せずともソーシャルディスタンスは図られている。もちろん客席はそもそも1席空け、検温と消毒を経てからの入場というのは今のガイドラインに沿ったものである。
開演時間前になると主催者の佐藤タイジ(THEATER BROOKなど)とMCのジョー横溝による挨拶。こうしてクラファンで支援してくれる人のおかげで開催できているという感謝を告げながらも、全くネガティブな感じがないというのはこのフェスの通りに佐藤タイジの太陽のような人柄だからこそであるが、太陽光のエネルギーを音に変換する際に使用しているインバーターを作ってくれていた会社の代表の方が先日亡くなってしまったということも佐藤は口にする。自分は実際に中津川に行ってこのフェスに参加した時にあまりの音の良さに驚いてしまったのだけれど(嘘だと思うやつは来年現地に確かめに来い)、それを支えてくれていた人だと思うと本当にやるせなくなってしまう。こんな状況であるだけに余計に。
13:00〜 RED ORCA
生ライブのトップバッターはRIZEのドラマーというよりも、最近は俳優業などでTVに映っている姿の方がおなじみになりつつある、金子ノブアキによる新プロジェクト、RED ORCA。だからこそドラムセットはステージのほぼ真ん中に設置されている。
1番最初にマニピュレーターの草間敬(AA=などのサウンドの核でもある)がステージに登場して音を出し始めると、ギターのPABLO(Pay money To my Pain)、MCの来門(smorgas)、ベースの葛城京太郎、そして金子ノブアキが次々にステージへ。葛城は登場するなり和服で飛び跳ねまくっていたので、人によってはダンサーなのかと思っていたかもしれないが、日本のミクスチャーロックの重要人物が集まったかのような凄まじいメンバーである。
自己紹介というかデジタルミクスチャーロックというべきバンド紹介的な「ORCA FORCE」から来門はマシンガンのような高速ラップを放ちまくり、PABLOは冷静にエフェクターで音を切り替えながら轟音を鳴らし、金子は正確無比かつ強力なドラムを連打しまくる。そんな中で明らかに1番若手であろう葛城は、金髪版KenKen(実際にKenKenの愛弟子である)とでもいうかのような、飛び跳ねまくりながらスラップを連発しまくるという、この超豪華メンバーの中でも全く引けを取らないどころか、なんならサウンドを引っ張りまくっている。これまたとんでもないベーシストが現れたものである。
昨年にアルバム「WILD TOKYO」をリリースしているのだが、その曲順通りに「beast test」と連発して、サウンドはさらに凶暴性を増していく。タイトル通りにさらに加速していくような「Phantom Skate」から、早くも生まれた新曲も交えているところを見ると、金子にとっては今の音楽における重心はこのプロジェクトにあると言っていいだろう。
草間はマニピュレーターだけではなくてコーラスとシンセも操り、RIZEでもブッ叩くというスタイルのドラムを叩く金子はやはりそうした自身のスタイルをこのバンドでも遺憾なく発揮。来門はステージ上を激しく動き回りながらラップし、葛城もやはり飛び跳ねまくりながらスラップしまくるという運動量で、表情含めて割と冷静なPABLOがその鳴らしている音とは裏腹に弾き方が大人しく見えてくるレベル。
フロントマンとしてラップをかます来門は他のメンバーたちが音を出している中でMCも担当し、音楽を含めた芸術が生きていくために不可欠なものであり、力を与えてくれるものであるということをまるでラップするように語る。
金子がMCを来門に任せているのはフロントマンであることはもちろんだが、両親がミュージシャンであるという音楽一家で育ってきた境遇も同じということもあるのだろう。音楽が不要不急であるという言説は自分たちの家族の存在そのものを否定するような言葉である。それを共有するもの同士としての。
そうしたMCを経ると、PABLOが客席を指差したりしながらサウンドを切り替えつつギターを弾き、葛城はさらにスラップを激しく早く弾きまくる。その姿は本当に師匠のKenKenが極まっている時の演奏そのものである。
そしてRIZEでは演奏後にドラムセットをぶっ倒すようなパフォーマンスも見せる金子は、演奏後に自身の近くのカメラマンにこのバンドのTシャツをアップで見せつけた。「RED ORCA」という名前を知らしめるかのように。きっとその名前はこれからたくさんの人が知るようになるはず。それをまだ始まって間もない段階で見れたのは本当にラッキーだし、オファーした佐藤タイジに感謝である。早い時間での出演だったが、目を覚まされるというよりも、五感の全てを覚醒させられるような体験だった。
14:00〜 ComplianS (佐藤タイジ&KenKen)
前日は自身の骨格とも言えるバンド、シアターブルックで出演した主催者の佐藤タイジ。この日はKenKenとのComplianSで出演。
転換からのサウンドチェックの時点ですでに観客を笑わせてくれたりするのだが、KenKenは左手でベースを弾きながら右手でHand Sonicと呼ばれるデジタルハンドパーカッションを叩くという、久しぶりに見ても変わらぬ超人っぷりというか、さらに進化しているような感すらある。
そうしてマイクなども含めて入念なチェックをしていたのだが、時間が押してきたことを知らされるとすぐさまそのまま本番へと突入し、お互いがお互いを「親友」と紹介し、「朝焼けのHumanity」からスタートするのだが、早くも佐藤は「もはやアコギじゃない」と言われるくらいにエレキ的な音を発するアコギをその場で弾いて自身でループさせ、さらに足でドラムのキックを踏む。そこにKenKenのベースが重なることによって、完全に2人だけであってもサウンドはバンドになっている。超人2人が合わさるとこんなことができるというあまりにわかりやすすぎるくらいにわかりやすい凄まじさである。
KenKen「また中津川に早く行きたいねぇ」
佐藤「さっき、中津川の方から栗きんとんをもらったんだよ。この時期の中津川の栗きんとんは本当に美味しくてね」
KenKen「そうやって来年は中津川に帰ろうと思えるのは、こうしてクラウドファンディングで支援してくださった皆様のおかげです。何年かけても必ずお返ししますので」
と、親友と呼ばれるだけあってもはやKenKenも主催者なんじゃないかと思うようなMCをするのだが、佐藤メインボーカルではKenKenがHand Sonicでリズムに徹したり、あるいは逆にKenKenメインボーカル曲では佐藤がギターとキックでフル稼働したりというコンビネーションはさすが親友であり、お互いに自身にできないことを埋め合っていることでこの凄さが完璧に噛み合っている。
するとKenKenの親友でもあった、ムッシュかまやつの「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」のカバーを
「中津川のステージ袖から今にもムッシュが出てきそうだ」
と言ってカバーし、最初はKenKenがムッシュの想いを継ぐように歌うのだが、2コーラス目ではなんとKenKenと金子ノブアキ兄弟の母親であるシンガーの金子マリが登場して歌い、さらにはTHE SOLAR BUDOKANの父的な存在である、俳優でありミュージシャンのうじきつよしまでタンバリンを持って登場するというレジェンドの邂逅が。ああ、そうだ、中津川はこういう飛び入りやコラボが至る所で行われている場所だった。だからSHIKABANEみたいな、他のフェスではまずお声がかからないようなユニットすらもステージのトリとして出演させてくれたんだ、ということを思い出させると同時に、やっぱりまた早く自分も中津川に行きたいという想いが募る。それくらい自分にとっても大事な場所になっているのだ。
そんなコラボの後は佐藤がボーカルで、ギターとHand Sonicがサイケデリックな雰囲気を醸し出すような曲を演奏したのだが、演奏後に抱き合った2人は本当に年齢などを超えた親友なのだと思わざるを得ない、2人ならではのユーモアもありながらも超人同士の融合体であった。
佐藤タイジは政治などには真っ向から自身の言いたいことや抱えてる思いを口にする。それはその政治や政府によって苦しんでいたり、辛い思いをしている人がわかっているからだ。
それも優しさであるが、一方で周りにいる人には本当に優しい。本人も言っていたが、KenKenが事件を起こした時に真っ先に手を差し伸べたのが佐藤だった。(それによってDragon Ashへの不義理のような形になってしまったのは本当に残念だったけれど)
前日のトリがKenKenとともに事件を起こしてしまったJESSEのThe BONEZというのもその佐藤の周りにいる人への優しさの象徴であるが、The BONEZで昨日が終わり、この日が金子ノブアキのRED ORCA、そしてKenKenのこのComplianSと並んでいる。それがどういう目的の並びなのかというのは一目瞭然だろう。
この日、KenKenはRED ORCAのライブを袖から見つめていたし、母親の金子マリ登場時には
「さっきはうちのアニキが出てたから、これで金子家が今日3人揃った」
と言っていた。(愛弟子のRED ORCAの葛城のことも紹介していた)
事件が起きた時に金子が激怒していただけに、もうないかもしれないとも思われていた、あの最強のトライアングルがもし帰ってくることがあるならば、その時には佐藤の存在が、このフェスの存在がきっかけになっているはず。それもまたいつか、中津川で見ることができたら。
15:30〜 Nulbarich
バンドメンバーたちがサウンドチェックの段階で登場して曲を演奏しているというのはこの日の出演者の中ではこのNulbarichだけだった。それくらいにフェス慣れもしてきているのだろうし、イメージ的には意外かもしれないが、2018年と2019年に中津川のステージに立っているという、このフェスの常連的な存在である。
そのバンドメンバーたちがスタンバイした状態で最後にJQ(ボーカル)がステージに登場すると、細かく刻むドラムから始まる、まさにこの羽田空港のすぐ近くという、東京でしかないくらいに東京なこの会場にふさわしい、Nulbarichがテーマにすると都内が物凄くイケてる場所のようにすら思えてくる「TOKYO」からスタートするのだが、もし中津川や富士急ハイランドでの開催だったとしてもこの曲を最初に演奏していただろうか、とも思ってしまう。
やや髪が短くなったJQは「TOKYO」ではマイクスタンドにマイクを刺して歌っていたのだが、マイクをスタンドから外したことによって喋ると見せかけながら喋らずに、キーボードのムーディーなサウンドが微かでも確かな希望を感じさせてくれるような「A New Day」と続き、そのR&Bやヒップホップを軸としたポップサウンドで観客も心地良く体を揺らすのだが、そのサウンドを乗りこなしているJQが誰よりも心地良さそうに体を揺らしている。まず何よりも自分が気持ち良くなれる音楽を、というのがNulbarichの信念と言えるようなものなのだろう。
バンドメンバーはベース、ドラム、キーボードにギタリスト2人という編成なのだが、1人はカッティング、1人はイントロからロック魂を炸裂させるようなギターソロを弾きまくり、JQに
「満足した?(笑)」
と言われるくらいに弾き倒してからの「Super Sonic」からは心地良さだけならぬ、秘めたるロックさもサウンドの中に忍ばせていく。テンポが速くなることによってJQの歌唱もさらにスムーズになっていく。
そこから再びムーディーさがタイトル通りに都市の中にいるからこそ感じる孤独さを感じさせる「Lonely」、一転してアメリカのカラッとした天候を感じさせるような「Break Free」と目まぐるしくサウンドやイメージが切り替わっていくのだが、ほぼ最前列と言っていいような位置でNulbarichのライブを観るのは初めてなので、至近距離で見ているとJQの衣服やアクセサリーなどはこれはさぞや高いものなんだろうな、と思ってしまうのはなかなかロックバンドのライブでは感じられない印象である。なんなら高級ブランド店で入店してきた客に話しかけてきそうな店員という雰囲気すら感じる。
そんなJQがまさに音の中でドライブするようにこのムーディーなサウンドを乗りこなすような歌唱を見せる「LUCK」から、
「今の世の中の状況はキャンディのようだ。苦さを感じてる人もいれば、甘さを感じてる人もいる。でも最後にどんな味になるのかは誰にもわからない。今は苦いと思っている人も最後には甘さを感じられるようになるかもしれない」
と、実にJQらしい言い方で希望の光を感じさせてくれると、最後に演奏されたのはまさにそうした甘さと苦さという対照的な要素を1曲の中に封じ込めた「Sweet and Sour」で、アウトロの段階でステージを去っていくかと思ったJQは袖の前で立ち止まってバンドメンバーたちを迎えてから最後にステージを去った。その姿は完璧すぎて悔しくなるくらいに紳士な男の対応だった。
1.TOKYO
2.A New Day
3.Super Sonic
4.Lonely
5.Break Free
6.LUCK
7.Sweet and Sour
16:35〜 Creepy Nuts
ブレイク前の3年前からすでに中津川のステージに立っている、Creepy Nuts。今やテレビにも引っ張りだこ、ワンマンではアリーナにも立っている2人をこんなに至近距離で観れるというのはクラファン冥利に尽きる。
そんな存在になっても完全に出で立ちが変わらない2人がステージに登場すると、
「まずは今日の客、今日の空気」
とこの日の雰囲気を把握するかのように「板の上の魔物」をDJ松永がプレイし、R-指定がラップし始めるのだが、明らかにこのCreepy Nutsの時が1番客席にいる観客の数が多かったし、始まった際のリアクションも実に熱いものだった。つまりはこの2人を見に来たという人がたくさんいたということだろう。
そうしてこの日の空気を把握し、掴んだところでそのまま
「夜が大好きな2人なんで」
と「よふかしのうた」へと続き、R-指定は軽やかにステージ上を舞うようにしてラップして歌い、DJ松永もコーラスを重ねる。どれだけテレビでおなじみの存在になっても、こうしてステージに立っているのが1番表情が生き生きとしているように見える。
「本日は声は出せませんが、手を叩く、腕を挙げる、飛び跳ねるという行為は合法となっております!」
と言っての「合法的トビ方ノススメ」ではそのR-指定の言葉通りに観客は合法の範囲内で腕を挙げ、飛び跳ねまくるのだが、そうしたくなるくらいの求心力やオーラのようなものが今のこの2人には確かにある。
R「今日は生配信もしているということなんで、配信を見ている人も含めたら満員って感じですかね(笑)
みなさんの隣の空いている席には配信を見ていたり、来れなかった方の生き霊がいます(笑)」
松永「生き霊いたらめちゃ怖いじゃん!(笑)」
R「いやいや、ゴーストバスターズに出てくるような親しみやすいやつが(笑)」
松永「みんな今日帰りに事故に遭わないように気をつけた方がいいよ(笑)」
と、まるでラジオの公開収録のようなMCで笑わせながら、
R「でもこうして空いてる席も、未来には埋まってるはず。それはこのフェスの、のびしろ」
と次の曲のタイトルへと実にスムーズに繋げてみせると、その「のびしろ」と、タイトル通りにオレンジ色に2人を照らす照明が、来年はこの曲を中津川の夕暮れの時間帯に聴きたいなと思わせる「Bad Orangez」はリリースされたばかりの最新アルバム「Case」収録曲であるが、その曲たちが早くも完全に観客から求められているものになっているということを感じる空気に溢れている。ラップでありながらもR-指定のメロディを感じさせるサビなどはRIP SLYMEやKICK THE CAN CREWが巻き起こした旋風を思い出させるが、もしかしたらそれらをすでに凌駕している存在になっているのかもしれない。
そんなR-指定はこの状況で病むことなく生きていくための自衛策として、
「自分の思っていることを曲げない、自分を大きく見せる。それが今の自分の考えていること」
と言って、その言葉すらも見事に「かつて天才だった俺たちへ」の高速ラップに繋いでみせると、
「ヒップホップシーンにも次から次へと巨大な才能が出てきています。そんな才能に皆さまが会えるように。そしてまた願わくば、次に我々と会う時は声を出せる、みんなで歌えるように」
と言って最後に演奏されたのは「バレる!」。
もうこのグループの天賦の才は完全に世の中にバレた。それでもこうしてフェスの最前線に立ち続けてヒップホップのカッコよさと面白さを観客に提示し、今の世の中への自分たちなりのメッセージを伝え、さらにはまだまだ世の中にはカッコいいラッパーやヒップホップグループがたくさんいるということを呼びかける。その姿はテレビでおなじみの面白い人たちなんかではなく、どこまで行ってもこの2人がミュージシャンであることを示していた。
1.板の上の魔物
2.よふかしのうた
3.合法的トビ方ノススメ
4.のびしろ
5.Bad Orangez
6.かつて天才だった俺たちへ
7.バレる!
18:05〜 ACIDMAN
昨年の配信での開催の大トリであり、中津川には欠かせない存在のバンドである、ACIDMAN。今年も有観客ではトリ前という重要な位置での出演であるが、大木伸夫(ボーカル&ギター)はNulbarichのライブをステージ袖からずっと見ているという後輩へのプレッシャーのかけ方をしていた。
各地を回った新作アルバムの全曲演奏&視聴会ライブの時と同様に、浦山一悟のドラムセットが上手に、大木のマイクスタンドが中央に置かれているというセッティングの中、おなじみのSEである「最後の国」が場内に流れ、観客の手拍子に迎えられてメンバー3人がステージに登場。サトマこと佐藤雅俊(ベース)もこうして会場に来てくれた人に感謝を示すかのようにリズムに合わせて客席に向かって手を叩いている。
SEが止まると、大木のギターが轟音を鳴らし、一悟&サトマのリズム隊も激しく速いビートを刻む「波、白く」からスタートし、一悟は早くもドラムを叩きながらも雄叫びをあげる。
「往けと響く」
というフレーズでの大木のボーカルの伸びの裏側でサトマのベースがうねりまくっているのも、これぞACIDMANである。
一転して一悟がリズミカルな4つ打ちのビートを刻みながら、大木が浮遊感のあるギターをその場でループさせる「FREE STAR」ではタイトル通りに星が煌めくかのような照明が本当に美しいが、間奏では大木がステージ前まで出てきてギターを弾き、その際にマイクを通さずとも口が
「ありがとう」
と動いているのがよくわかる。その姿が見れただけでも、こうしてこのフェスを支援して会場でライブが見れて本当に良かったと思える。
こうして当初予定していた形とは変わりながらも、毎年開催して繋いでいくこのフェスの姿勢を讃え、観客にもポジティブなことを考えたり実践していくというこの状況下での生き方を説く大木であるが、配信で自分を映しているのがどのカメラなのかわからずに視線がキョロキョロしまくるというのはもはやベテランという歴に達してきた貫禄とは全く違う大木らしさ、このバンドらしさを感じさせて、演奏時の緊張感とは全く違う緩和を与えてくれる。
そんなベテランの域に達したACIDMANが、今もなおACIDMANでしか作れない名曲を生み出し続けていることを示すように、アニメの主題歌となった「Rebirth」、リリース前からライブで演奏しては観客に広めてもらうという草の根活動を行ってきた「灰色の街」と近年リリースの曲を続けるのだが、もはやこの曲たちもライブにおいてはなくてはならない曲になりつつある。それくらいにACIDMANにしか作れない曲である要素しかない曲たちである。それは大木の持つ死生観が多分に含まれていることも含めて。
2019年に中津川でのメインステージの大トリとして、星が輝く夜空の下で演奏された感動が今も忘れられない「ALMA」はこうしてライブハウスと配信で開催されたフェスで演奏されることによって、またそうした場所やシチュエーションで聴けるようにという願いや祈りを強く感じさせるものになっている。あの美しさをもう一度この目で見るために。それは我々がこれから先もこのフェスと同様に歩みを止めないことの原動力にもなるはずだ。
そんなACIDMANももう結成から25年ということで、あまりに長くもあっという間だった25年間を大木はほとんど覚えていないらしく、
「自分でWikipediaのACIDMANのページを見て、武道館6回もやってるのか、凄いバンドだなって確認している(笑)」
というエピソードにはこの男が社長でこのバンドは大丈夫なんだろうかとも思ってしまうけれど、そんな25周年を迎えてもまだまだ変わらずに音楽を作り、鳴らしていくという姿勢はその年数になっても無垢でいたいという思いを、44歳になって汚れるようなことばかり経験してきたような大人が描いた新曲「innocence」に込める。
すでに自分はそのタイトルのアルバム全曲演奏ライブも試聴会も参加しているのだが、この曲が1番ストレートにACIDMANらしい曲だと思ったし、こうしてフェスの短い持ち時間の中で演奏されて然るべき曲だとも思う。何よりもこうして歌っていることや鳴らしている音が一貫し続けているACIDMANが鳴らす「innocence」だからこそ、自分自身も無垢でありたいとすら思える。
そして大木が最後に再び
「ポジティブなことだけ考えて生きていこう!」
と観客に呼びかけながらバンドが轟音を鳴らすと、その思いが極まるように「ある証明」が鳴らされ、サトマのキャップはようやく吹っ飛ぶ。
「今 光の中 溢れ出す意志の
その一滴が 花咲かすのだろう
追い掛けた夏の暮れゆく旅路を
未だ果てぬ声 遠ざかる」
という情景をまたこの目で見るために、我々は何度でも息を深く吸い込むのだろう。そうした生命力をACIDMANの音楽やライブはいつも与えてくれる。それはメンバーの音を鳴らす姿や鳴らしている音が与えてくれるものだ。
去年のこのフェスの配信でのトリで大木は
「何の確信もないけど、俺たちは絶対大丈夫!」
と叫んだ。あれからもう1年も経ったのかとも思うし、今年も中津川に行くことは出来なかった。それでも去年は画面越しにしか見ることが出来なかったACIDMANのライブをこうして自分の目で見ることができているというだけで、少しでも前に進めていると思えるし、ああ、本当に自分は大丈夫だったんだな、と思えるのだ。
1.波、白く
2.FREE STAR
3.Rebirth
4.灰色の街
5.ALMA
6.innocence
7.ある証明
19:40〜 ストレイテナー
今年の大トリはストレイテナー。それはこの配信と合わせた形でなくとも、富士急ハイランドでの有観客でもそう発表されていた。ということは中津川で開催されていてもそうだったということだろう。そのストレイテナーがこのフェスに関わる全ての人の思いを受け止めるようにトリとしてのステージへ。
今やおなじみの荘厳なSE「STNR Rock and Roll」でメンバー4人が登場すると、OJこと大山純(ギター)もひなっちこと日向秀和(ベース)もかなりさっぱりとした髪型になっている中で、ナカヤマシンペイ(ドラム)は本当に鮮やかなくらいの青い色の髪をしている。
そんな中で全く変わりないホリエアツシ(ボーカル&ギター)が
「THE SOLAR BUDOKAN、俺たちストレイテナーって言います!」
と挨拶すると、OJのギターリフから観客が「オイ!オイ!」と声を出すことはできなくても腕を振り上げる「Melodic Storm」からスタートし、こうして形や場所が変わってもストレイテナーがトリを務める姿を見ることができている、という言葉にできない思いが溢れてくる。
昨年のこのフェスの事前公開収録で中野サンプラザで有観客ライブを行ってからはイベントなども含めてライブを重ねてきているだけに、「叫ぶ星」というソリッドなギターロックはロックバンドとしてのキレ味の鋭さを感じさせ、ホリエがアコギに持ち替えて歌う「Graffiti」というポップな曲からは
「破れたギターケースも
剥がれたツアーパスも
置き去りにした悔しさも
今でも」
という歌詞による情景が頭の中に浮かんでくる。それはバンドの演奏とパフォーマンスが生き生きとした、ACIDMAN同様にベテランになっても変わらないというか、さらに進化したライブ力を持っているからこそである。というくらいにホリエのボーカルもバンドの演奏も、元から本当に上手いバンドであるけれど、こうして大トリを任せるにふさわしい貫禄を感じる。
ホリエによるフェスの関係者や観客、配信で見ている人への感謝、自分たちがトリを任されたことへの感謝を告げると、まさに夜空が近くに感じられる中津川の夜のステージが絶対に似合うのが間違いない「月に読む手紙」というポップな曲があの場所への想いを募らせる。ACIDMANが星ならストレイテナーは月。そのどちらもが本当にキレイに浮かぶ空であり、場所にふさわしいバンドだ。
ホリエがキーボードに座るというのはフェスやイベントの持ち時間の短いライブではバラードと言っていいような聴かせるタイプの曲を演奏する合図でもあるのだが、この日その編成で演奏されたのはむしろ全くバラードではなく、重いひなっちのベースが体をスウィングさせる、重奏と言っていい音の重なりという新しいストレイテナーのバンドサウンドを感じさせる「Parody」で、この日はバラード枠はなしかと思いきや、そのままキーボードに座ったホリエは「SIX DAY WONDER」を歌い始める。淡々と刻まれるリズムが美しいピアノと歌のメロディを支える、ストレイテナーの持つメロディの美しさを感じさせてくれる曲であるが、こうしてライブで聴くのもかなり久しぶりであり、その理由をホリエは
「今日はACIDMANがいるから、この曲を久しぶりにやりました」
と語る。それはかつてACIDMANとこの曲でコラボしたりしたことがあるからであるが、袖でずっとライブを見ていた大木はその言葉にめちゃくちゃ手を振っていた。
その「SIX DAY WONDER」を自分たちでも「良い曲だ」と評しつつ、昨年アルバムがリリースされたばかりだというのにさらに良い曲がガンガン出来てきており、早くも11月にミニアルバムがリリースされることを発表する。
「もう自分たちが良い曲が出来たなって思えれば、誰にどう思われたって関係ない。でも自分たちが良い曲だと思っている曲をみんなもそう思ってくれたら嬉しいです」
という言葉からは、ベテランになってもファンから望まれるものだけに安住しないバンドとして攻め続ける姿勢を感じさせるし、それはきっととかくインディーズ期や「TITLE」あたりまでの曲を望む声に晒されてきた経験があるからだろう。自分自身、かつてフェスで「昔の曲やれ!」というヤジを聞いたことがあるが、ストレイテナーが毎回そうした曲ばかりやるバンドにならなくて本当に良かったなと今は思っている。
それはその新作ミニアルバムに収録される新曲「宇宙の夜 二人の朝」が、「叫ぶ星」にも通じるような、4人の音がバチバチにぶつかり合うという、ストレイテナーというロックバンドのカッコ良さ、それぞれのメンバーが鳴らす音のカッコ良さを存分に感じさせてくれるものになっているからだ。
そしてそれはそのままホリエが曲中に気合いを発しまくる「From Noon Till Dawn」の疾走感溢れるサウンドにつながっていき、観客はその音に反応して腕を振り上げまくる。ああ、こんな素晴らしいライブが見れて嬉しいけれど、やっぱり中津川なり富士急ハイランドで見たかったな、とも思ってしまう。それはきっとその場所だからこその、目に焼き付いて忘れられない光景になっていただろうから。
そしてホリエは
「またどこかのライブで。願わくば来年は中津川で会えますように」
と言った。JAPAN JAMの時は
「夏にひたちなかで会えますように」
と言っていた。長い年月バンドで活動してきて、数え切れないくらいにいろんな場所でライブをしてきただろう。その中でも毎年毎年足を運んでライブをする場所がある。自分たち参加者にとってもそうであるように、その場所がバンドにとっても特別な場所になっている。そんな場所がたくさんある。
その後に演奏された
「今年最後の海へ向かう」
という歌詞でおなじみの「シーグラス」であるが、岐阜県には海はない。それでも中津川はこの曲を聴いて浮かんでくる場所の一つだ。それはこの曲が何回も演奏されてきた場所であると同時に、
「夏が終わりを急いでる」
という歌詞で夏の終わりを感じる時期に開催されているフェスだからだ。中津川に行くようになってから、このフェスがその年の最後の野外フェスになった。来年からも、このフェスが夏の終わりを告げるものであって欲しい。
演奏が終わって肩を組んで観客へ笑顔で頭を下げる4人の姿を見て、そんなことを思っていたと同時に、この姿を来年こそはあの場所で観たいと心から思っていた。
1.Melodic Storm
2.叫ぶ星
3.Graffiti
4.月に読む手紙
5.Parody
6.SIX DAY WONDER
7.宇宙の夜 二人の朝 (新曲)
8.From Noon Till Dawn
9.シーグラス
いわゆる4大フェスというものに全て足を運んだことがある。関東圏を中心にいろんなフェス、いろんな場所に行った。ACIDMANやストレイテナーなどはそうしたいろんな場所でライブを見てきたバンドだけれど、このフェスのロゴの下で演奏する姿を見ていると、やっぱりあの場所を思い出す。
トリがThe BONEZやストレイテナーということからもわかるように、ドームクラスのアーティストが出るようなフェスではないし、中津川という場所も決して行きやすい場所ではない。
それでも、3年前に初めてあの場所に行ってライブを見た時の、
「いろんなフェスに行ってきたけれど、こんなに素晴らしいフェス、こんなに素晴らしい場所があったなんて」
という感覚を抱いたことは今も忘れられないし、そう思ったフェスだから毎年足を運びたい、こうしてあの場所で開催できなくなった時にできる限り支援したいと思った。
それも全てはまた来年以降に中津川に行って、このフェスに参加するため。こうして出演者や主催者、ファンが繋いできた2年間が、来年のあの場所に続いていますように。あの場所の空気が吸えて、駅を降りたところから帰りのシャトルバスを降りたところまで迎えてくれる優しい中津川の人たちに会いにいけますように。
文 ソノダマン