3月から始まった、アジカンの昨年リリースのアルバム「ホームタウン」ツアーは若手バンドをオープニングアクトに迎えたライブハウスから、ワンマンのホールへ。
この直前にはすでにライブハウスツアーや春のフェスでも披露されていた「解放区」と、手塚治虫原作のアニメ「どろろ」のオープニングテーマ「Dororo」の両A面シングルがリリースされており、アルバムをリリースしたばかりとは思えないリリースペースを見せる中で、この日のサンシティ越谷市民ホールでの2daysの初日であるこの日はホールツアーの初日になる。
最寄駅から徒歩3分くらいというアクセスの良い埼玉県越谷市にあるこのホールは会場内からも短くないであろう歴史を感じさせるし、スケジュールに郷ひろみや杉良太郎と伍代夏子などの大御所たちの名前が並んでおり、ロックバンドシーンにおいては完全にベテランと言っていい存在のアジカンがまだまだ若手のようにすら感じられる。
開場時間が17:30で開演時間が18時という時間設定に、いくらそこまで広くない会場とはいえ「開場から開演まで30分じゃ無理じゃない?」という感じが漂う中、なんとか18時過ぎにソールドアウトの場内が埋まると、会場が暗転して「クロックワーク」のイントロのギターのフレーズが流れる中でメンバー4人とサポートキーボードのシモリョーを含めた5人がステージに登場し、そのまま「ホームタウン」の1曲目である「クロックワーク」からスタート。
ライブハウスでも春フェスでも1曲目は静謐としたサウンドからサビで一気に飛翔する「UCLA」からスタートしていたが、ここからの冒頭3曲はアルバムの曲順と全く同じものであり、ツアーのライブハウスの時以上に「ホームタウン」の世界観に寄せていっているのがよくわかる。「ホームタウン」ではギターの喜多が腕を高く挙げたりする事でこの日のライブをメンバー自身が楽しみにしていたことが実によくわかる。
ステージ上にはあらゆる場所に短冊型のセットが天井から吊るされており、「ホームタウン」では伊地知潔のドラムのシンバルのキメなどに合わせてそのセットに映し出される映像や照明が切り替わるという楽曲のリズムと完全に連動したものになっていて、照明や映像チームの楽曲そのものへの理解度の高さというか、関わるアジカンスタッフ全員の一体感を感じさせる。
「君の街まで」ではステージ全体に街を思わせる映像が映し出されるのだが、ステージ近くからはメンバーの楽しそうな表情がしっかりと見える一方で、2階席などの後ろの席からはそうした映像や演出が客席前方よりも一層立体感を持って見えるのがよくわかる。「レインボーフラッグ」の2サビ終わりでの転調と同様に、この曲でも最後のサビ前でゴッチとシモリョーが手拍子を煽るより前から手拍子が起きており、最新作の曲もこれまでの代表曲も等しく愛し続けてきたアジカンファンの愛情の深さを感じさせる。
ステージ全体にアジカンといえばこの人、というイラストレーター中村佑介の描いた「ホームタウン」のジャケットの少女が映し出されると、なんとその少女が可動し、まさに荒野を歩くというかのように少女が電車に乗って旅をする映像になっていく。途中には「後藤▶︎1996」と書かれたキップも映し出されて笑いを誘う中、喜多は自身の前に垂れ下がる短冊型のセットに顔を突っ込みながらギターソロを決め、そこでも笑いを誘う。時にはピリピリしたムードすら感じさせたこともあるアジカンのライブが今はステージ上も客席もこんなにも楽しいと感じるものになっているのが感慨深い。最後にはゴッチやシモリョーの「ラルラルラ〜」のコーラスに合わせて少女の口元も動く。スケートボードを蹴る少女がこの曲を口ずさみながら表通りを飛ばすように。
イントロで大歓声が上がった「ライカ」、シモリョーに合わせてイントロから手拍子が起こった「迷子犬と雨のビート」という過去曲も「ホームタウン」の曲たちと違和感なく溶け合っているが、重厚なギターロックというよりも軽快なパワーポップというサウンドのアルバムであるだけにそこに合わせた過去曲を演奏しているというのもあるのだろう。
1曲目ではなくてこの位置で演奏された「UCLA」の飛翔感はここからまたライブが始まるという感覚すら感じさせ、暗い照明が深く潜っていくようなサウンドと展開を引き立てる「モータープール」と「ホームタウン」の曲が続き、それに合わせた演出が多く見られた前半だったが、「Wonder Future」ツアーでのプロジェクションマッピングの導入など、アジカンは自身の音楽やサウンドを刷新し続けると同時に、ロックバンドがホールでのライブでどういう内容のものを見せるべきか?という音楽に合わせたライブの進化についても向き合い続けてきたバンドだが、そこへの追求は尽きることがないし、毎回曲への最適解的な演出を見せてくれる。もうこの前半だけで同じツアーとはいえライブハウスとは全く違うものになっている。
自分はこの日はメンバーの表情が見えるくらいの近い座席で見ることができたのだが、仮に2階席や後ろの方の席で見ていても演出がより立体的に感じられて違う楽しみ方ができたと思う。
その照明が一気に煌びやかになる「ダンシングガール」からシモリョーが伊地知のドラムに合わせてカウベルを叩く「ラストダンスは悲しみをのせて」というダンス繋がりの流れは「ダンシングガール」が踊っているのは「ラストダンスは悲しみをのせて」を聴きながらなのだろうか?とも思うのだが、
ゴッチ「この流れを決めたのは建さんなんだよ。「ダンシングガール」で希望を歌ってるのにその直後に「ラストダンスは悲しみをのせて」はないだろう(笑)」
喜多「ダンス繋がりでいいかなって思って」
と直後に話していただけに、どうやらそうした関連性は全くなさそうである。
ゴッチ「俺たちは越谷には何度か来たこともある…」
喜多&山田「いや、初めて…」
ゴッチ「あれ?埼玉っていつもどこだったっけ?戸田か。戸田もレアだよね。なんで俺たちのホールツアーの初日はいつも埼玉からなんだろうね?癒着してるのかな(笑)」
という埼玉の地理感をゴッチがあまりよくわかっていないことが露呈してしまった会話からも少しリラックスした感じがうかがえるのだが、その間にいそいそとスタッフがセットチェンジをするとゴッチと喜多以外のメンバーがいったんステージから去り、2人のアコギのみという形で「ホームタウン」収録の「サーカス」を演奏。途中からは山田もピアニカというまさかの楽器で参加したのだが、
「この「サーカス」はラジオの「ホームタウン」の人気投票で最下位になった曲です(笑)
俺はこの曲をシングルにしようとしてたからね(笑)
スタッフ含めたアジカンチーム全員からあんなにスルーされたのは初めてで、「あ、俺が間違ってんな」っていうのがすぐにわかった(笑)」
というようにゴッチとメンバーやスタッフ、さらにはファンとはかなり評価に差がある曲であることがわかってしまった。
伊地知もステージに戻ってくると、従来のセットの前に置かれたアコースティックセットでの編成で「大洋航路」を演奏するのだが、間奏のメンバーそれぞれのソロ回しでは山田のピアニカソロと喜多のアコギソロに続く伊地知のドラムソロで、最近1人でドラムショー的な活動をしており、そこで360°ドラムパフォーマンスを披露していることをいじるかのように3人が伊地知のドラムの周りに集まって横や後ろからドラムを叩く姿を見ようとする。
「俺たちも潔の360°ドラム見たことないもん(笑)」
ということだったが、これはアコースティック編成だからこその微笑ましい姿と言えるだろう。
「この曲をやろうっていう話になってからこのアコースティックが決まった」
と言って演奏されたのは「ブルートレイン」。
「この曲も潔が大活躍の曲です」
と言って演奏されたが、「ホームタウン」ではシンプルなリズムの曲が多いが、この曲の複雑なドラムパターンはアコースティックでも変わらないし、間奏で山田と伊地知はいつも以上に目を合わせながら演奏していた。アコースティックでは通常のバンド演奏よりも一瞬のズレが目立ってしまうだけに、しっかり合わせていこうというそれまでの微笑ましい空気とは全く異なる緊張感を感じさせた。
ここでアコースティックから通常の編成へ戻ると、ゴッチがサポートメンバーのシモリョーを紹介。
「シモリョーと一緒にやるようになってもう6年くらいか。今年、シモリョーのthe chef cooks meがアルバムを出すんだけど、この越谷の2daysの後の月曜日に俺がコーラスを入れなくちゃいけないっていう。だから明日ライブが終わってもお酒が飲めない!(笑)」
と今回もthe chef cooks meのアルバムのディレクションをゴッチが行なっていることを伺わせると、
「今日やる中で1番の名曲。スピッツのカバーだから」
と言ってスピッツのアルバム「ハチミツ」のリリース20周年を記念して作られたトリビュートアルバムに参加した「グラスホッパー」を披露。
ゴッチは常々カバーをする際は「原曲通りにやるのが1番良い」と語っているだけに、メロディやアレンジを大胆に変えるようなことはしない。だからスピッツの曲をアジカンが演奏するというイメージ通りの仕上がりになる。その中で個性を放つのはサビを歌う喜多のハイトーンボイスだろう。
それは続く喜多メインボーカル&山田コーラスのメンバーにとってのホームタウンである金沢八景のことを歌った「八景」でも同じであるが、こうしたレア曲、ましてや喜多メインボーカルの曲はワンマンじゃないとなかなか聴けないところである。喜多は年齢を重ねてきたことによってか、
「最近高音が聞こえづらい(笑)」
という自身のアイデンティティを揺るがすようなことを言っていたが。
さらには山田とゴッチのツインボーカルである「イエロー」も披露されるのだが、「ホームタウン」の収録曲とは異なる、いわゆるギターロックバンドとしてのアジカン的なサウンドになっているのは山田が作曲をした曲だからだろう。かつてやはり山田が手がけた「オールドスクール」が「マーチングバンド」のカップリングに収録された時もファンからは好評だったが、ゴッチが常にアジカンをさらに進化させようとしているのとは対照的に、山田はメンバーの中で誰よりも「アジカンらしさ」というものを客観的に捉えることができている。それはやはりギターロック色が強い最新シングルの「Dororo」もゴッチと山田の共作曲であることからもわかるが、そのゴッチと山田のバランス感覚がアジカンがこのメンバーでなければいけない強い理由となって響いてくるし、ステージ上ではそこまで主張が強くない山田がアジカンを支えているということもよくわかる。
後半からは短冊型のセットがなくなり、ステージ背面の「HOMETOWN」のロゴがあるだけというライブハウス的な簡素なステージになっており、だからこそ「Easter」や「Standard」といった曲の演奏の強さのみで押していく。やはり座席のあるホールだとライブハウスよりも盛り上がるというよりかはじっくりと見るという感じになるだけに前半は観客も遠慮気味というか探り気味的な空気があったのだが、この辺りの曲では腕がガンガン上がる。とはいえこの曲たちは自分が行ったZepp Tokyoでのライブハウスツアーではアンコールで演奏されていただけに、こうして本編で演奏されるというのは少し意外であったのだが。
ライブ定番曲が続いただけについつい新作のツアーであることを忘れてしまいそうになる中で「さようならソルジャー」を演奏したことによって「ホームタウン」の空気に戻すと、
「バンドをやってきて、今が1番楽しい。ただ音楽をやりたくてこのバンドを組んだ時の気持ちのままでできている」
というゴッチの素直なMCが。その言葉が真実であるということは演奏している姿を見ていて本当によくわかるし、今またアジカンはみんながボーイズだった頃の感覚で音楽や仲間と向き合うことができていると感じられたからこそ、ラストの「ボーイズ&ガールズ」はより一層体だけでなく心の奥底にまで沁みた。
アンコールでは東京ドームをビッグエッグと称していたことや、シモリョーをユニコーンの阿部B(現ABEDON)に例えたことが伝わらなかったりとこの日はメンバーとファンのジェネレーションギャップを感じさせる場面がちょくちょくあったのだが、
「ホールだと座席があるからなんか笑点みたいに俺が客席の真ん中のあたりに座ってて歌い出すみたいな始まりの方がいいんじゃないかって思っちゃうよね(笑)それかドリフみたいにみんなで客席の後ろから演奏しながら出てくるとか(笑)」
と、最近さだまさし化していると言われるくらいに喋るのが長くなってきているゴッチらしい話をすると、この日のアンコール当番の山田が選んだのは「Can’t Sleep EP」収録の、ゴッチのいとこと言われているくらいに見た目がゴッチに似ている男・THE CHARM PARKが手がけた「はじまりの季節」。そもそもチャームはアジカンからの影響を強く感じさせたギターロックバンド、Hemenwayのギタリストであったこともあってか、アジカンのサウンドを物凄く入念に研究しており、その男が書いたこの曲は言われなければ提供曲と感じないくらいにアジカンらしい曲。そうした曲を同じようにアジカンらしさと向き合い続けてきた山田が選ぶのはある意味では必然的とも言える。
そしてなんやかんやで毎回ライブで演奏されている気がする「今を生きて」で「イェー」のコーラスの大きな合唱が起こると、
「俺はあんまり応援してくださいって言いたくないんだよね。俺は音楽を作ったり、こうして演奏したりすることで、応援してくださいっていうんじゃなくて、みんなの背中をちょっとでも押せたらいいなと思っている」
というイチローがマリナーズからヤンキースに移籍した時の記者会見でのコメントを彷彿とさせることをゴッチが言う。
確かにアジカンもイチローもそうして「応援してください」というスタンスの生き方をしてこなかった。ただ我々がその姿を見て、そこから前に進むための勇気や力を貰ってきた。でもそれは誰しもができることじゃない。自分たちの手で道を切り開いてきた人たち、たくさんの人が「ああいう人になりたいな」と思って背中を追いかけ続けるような人生を送ってきた人たちだからこそ見ていてそう感じるのだ。
「日本人野手はメジャーでは無理」という固定観念をぶち壊したイチローと、アーティスト主催フェスがまだ当たり前ではなかった時代に日本のロックを切り開き、たくさんのフォロワーを生み出してきたアジカン。ゴッチは野球が大好きな男だからこそ多少は意識しているところもあるのかもしれないが、日本のロックシーンにおいてイチローを引き合いに出せると思うのはアジカンくらいだ。
そして最後に演奏されたのはリリースされたばかりの「解放区」。
「今日は来てくれて本当にありがとう。俺たちの旅はまだ続く。またどこかで会えますように」
と観客への素直な感謝を告げたポエトリーリーディング部分を経て突き抜けるような「解放区」というフレーズで声を張り上げるゴッチ。そのタイトルからも感じられる通りに会心の曲と言っていいだろうし、新たな音楽的挑戦も含みながらもアジカンらしさを強く感じさせるものになっている。発売後だから聴けると思っていた「Dororo」が聞けなかったのは少し残念だったが、今のアジカンはかつてのようにアルバムを出して長いツアーを回ったらちょっと充電、というような空気は感じない。さらに前へ、さらに先へ進もうとしている。まだホールツアーは始まったばかりだが、最後に並んで肩を組んだ5人の姿からは初日とは思えないような充足感が感じられたし、それは見ていた我々も確かに感じることができた。
「アジカンはフェスではいつも同じ曲ばっかりだし、ワンマンでは知らない曲ばっかりやるし、って言われるともうさじ加減がわからない(笑)」
とゴッチも言っていたが、今のアジカンはワンマンでは「リライト」も「ソラニン」も「君という花」もやらない。でもそこに物足りない感じは一切ない。
「俺たちはいつも最新のものが1番良いと思ってるから」
というように新しい曲や、普段はなかなかライブで聴けない曲をその分聴くことができるし、それを本当に楽しそうに演奏するメンバーの姿を見ることができる。
今が1番楽しいような感じがするから、この日だけではこのツアーはまだ終われない。次は自分のホームタウンで。
1.クロックワーク
2.ホームタウン
3.レインボーフラッグ
4.君の街まで
5.荒野を歩け
6.ライカ
7.迷子犬と雨のビート
8.UCLA
9.モータープール
10.ダンシングガール
11.ラストダンスは悲しみをのせて
12.サーカス
13.大洋航路
14.ブルートレイン
15.グラスホッパー
16.八景
17.イエロー
18.Easter
19.センスレス
20.Standard
21.さようならソルジャー
22.ボーイズ&ガールズ
encore
23.はじまりの季節
24.今を生きて
25.解放区
文 ソノダマン