2000年に初開催されてから、今や日本最大の音楽フェスとして巨大化してきたロッキンことROCK IN JAPAN FES.も今年でついに20周年。それを記念して昨年までは2週間の週末に渡って4日間開催されてきたが、今年は2週目が祝日の月曜日も含めた3日開催となり、過去最長の5日間開催に。
GRASS STAGE
PARK STAGE
LAKE STAGE
SOUND OF FOREST
BUZZ STAGE
WING TENT
HILLSIDE STAGE
という7ステージ構成なのは変わらないが、PARK STAGEの持ち時間がLAKE STAGEよりも少しだけ長くなり、GRASS STAGEに次ぐセカンドステージという役割がより強くなってきている。
もはやこのフェスは日本最大級の音楽フェスであるとともに、日本きっての酷暑フェスとも言える。「ロッキンオン社長の渋谷陽一が悪魔と契約しているから晴れる」と言っていたのはストレイテナーのホリエアツシだが、この日も朝から快晴であり、朝から猛暑の予感。
10:30〜 POLYSICS [LAKE STAGE]
ロッキンオン総編集長・山崎洋一郎による前説ではLAKE STAGEが最初に設立された2001年時の写真が映るとともに、Dragon Ash、エレファントカシマシ、くるり、中村一義、スピッツ、KING BROTHERSという6組が初開催の2000年に出演し、そして今年もこのフェスに出演することを紹介。
そして
「バンドの周年イヤーっていうのはバンドを祝うもの。でもフェスの周年イヤーで祝われるのは、このフェスを作ってくれたみなさんです!」
と「オーディエンスが主役」ということを掲げ続けてきたフェスだからこその言葉でこうしてこの場所に来てくれた人たちを祝福する。
そんな20周年のこのフェスのLAKE STAGEのトップバッターはPOLYSICS。2001年の第2回開催時以来、実に19年連続でこのフェスに出演している、このフェスの番人的なバンドである。
SEが流れて黄色いツナギを着たメンバー4人がステージに登場すると、ハヤシヒロユキ(ボーカル&ギター)による
「トイス!」
というおなじみの挨拶で、ポリ流のディスコパンク「Sun Electric」からスタートし、これまでに何度もこのフェスで演奏されてきた代表曲を次々に連発していく。
もはやすっかりおなじみの存在になっているが、ナカムラリョウがシンセを演奏できるというのはこのバンドにとって非常に大きいことだし、時にギターも弾くことによって楽曲リリース時よりもロックさがより増している。メンバーが1人加わるとこうも変わるのか、と思えるのがすでに20年を超えたバンドのライブで体験できるというのも実に面白いことだ。
ハヤシは「Digital Coffee」ではハンドマイクでステージを動き回り、観客に手を振ったりしながら歌うのだが、ペットボトルの水を手に取って飲むのかと思いきや、頭に自らかけて髪型を整えていたのには思わず笑いが巻き起こる。
ツナギがユニフォームであるこのバンドにとって、このフェスでの19年間は暑さとの戦いの歴史でもあった。かつてのメンバーであるカヨが演奏中に熱中症で倒れて音が途切れたり、翌年以降に半袖のツナギを開発したり。
しかしこの午前中からの厳しい暑さの中でもツナギは長袖で、暑さと真っ向勝負を繰り広げている。流石にハヤシはスタッフから首元に水をかけられまくっていたが、これもこのフェスではおなじみの光景である。
MCでは、
「ROCK IN JAPAN FES.、20周年おめでトイス!」
と自分たちが歴史を紡いできたと言ってもいいこのフェスの20周年を祝い、そんな年だからこそこれまでのバンドのベスト的なセトリになってもおかしくないのだが、10月にアルバムをリリースすることを発表すると、そこに収録される、この日配信開始の新曲「Belong」、6月に配信されている「Kami-Saba」という新曲を披露。どちらも今のシーンの動向に一切捉われない、今のPOLYSICSとしてやりたいことしかやっていない曲であるが、それが常にそうしたスタイルで活動してきたこのバンドらしい。
ヤノ(ドラム)によるコールも楽しい「Let’s ダバダバ」からはラストスパート的に再びこのフェスで何度となく演奏されてきた曲たちを演奏するのだが、ハヤシはマイクスタンドを倒したりと、あまりの暑さにかなりやられ気味。
それでも「Speed Up!」でタイトル通りにさらにスピードを上げると、ハヤシとともにこのバンドでずっとこのフェスを見てきたフミのベースソロも挟まれる「Electric Surfin’ Go Go」ではハヤシがトレードマークのバイザーを外して素顔で歌う。それ自体は珍しいことではないが、この暑さと疲労がピークの最後の曲にして、ハヤシは何度となく笑顔を見せた。その表情には19年間のこのフェスへの想いが現れていた。
演奏が終わると、完全にやり切った表情で深々と一礼するメンバーに
「ありがとうー!」
と最前ブロックにいたファンから大きな声が上がった。この朝早くに、こんなに暑い中で最前にいるようなHeavy Polysickなファンたちは、みんなPOLYSICSにとってこのフェスがどんなに大切な場所なのかをよく知っている。そしてこれからもこのバンドにここに立っていて欲しいということも。
POLYSICSは去年はSOUND OF FORESTだったし、それすらも埋まっているとは言えないような状況だった。ましてや2年前にこのLAKE STAGEに出た時は柵前にしか人がいなかった。今回はそこまでではなかったが、今はもうこの規模のステージが埋まるようなバンドではない。
それでもPOLYSICSは、カヨ脱退後の最初のライブの場所にこのフェスを選んだり、2002年はキャンセルになったバンドの代打でこのステージに立ったりして、20年のうちの19年間、このフェスに出続けてきた。そのうち、1番多く立ってきたのがこのステージだ。
20年間皆勤賞であるDragon Ashが最終日のGRASS STAGEの大トリなのはこのフェスの20年間の集大成として最も美しいストーリーだ。それと同時に、19年間熱いライブが行われてきたLAKE STAGEのトップバッターを、19年連続出演のこのバンドが務めるというのもまた、ロッキンオンからのこのバンドへの愛情の深さにして、20年目だからこそのストーリーなのだ。
1.Sun Electric
2.シーラカンス イズ アンドロイド
3.Digital Coffee
4.Tune Up!
5.Belong
6.Kami-Saba
7.Let’s ダバダバ
8.Young OH! OH!
9.How are you?
10.Speed Up!
11.Electric Surfin’ Go Go
Electric Surfin’ Go Go
11:20〜 ネクライトーキー [BUZZ STAGE]
今やあらゆるフェスから引っ張りだこだし、そこでしっかり爪痕を残してきている男女混成5人組バンド、ネクライトーキー。このフェスにはこれが初出演。
いつものように1人ずつ順番にステージに登場するのは変わらないが、最後に朝日(ギター&ボーカル)が登場すると、朝日はスマホを取り出して早くから満員となった客席を撮影。このフェスのステージからの景色をずっと見たかったんだろうな、というのがよくわかる。
もっさ(ボーカル&ギター)が元気良く挨拶すると、メンバーそれぞれの個性がよくわかるコーラスが聞ける「めっちゃかわいいうた」からスタートし、曲の後半では一気に演奏のテンポが加速。それはこの曲だけに限ったことではなかったが、こうしてこのステージに立てる喜びやテンションの高さが全て鳴らしている音に出ている。
メンバーと観客によるカウントによってキメを打つ「許せ!服部」の後にMCが入るのだが、勢いあまってステージにペットボトルやコップが客席から投げ込まれてしまったことについて朝日が、
「ペットボトルじゃなくてお前らが飛べ!」
と言うと藤田(ベース)が
「いやいや、このフェスは絶対飛んだらアカン!これはフリとかじゃなくて!」
とすぐさまツッコミを入れていたが、このバンドのライブでダイブが起こることはあるのだろうか。
すでに汗ダラダラ状態のもっさの少女性の強いキュートなボーカルが映える「だけじゃないBABY」から、リリースされたばかりのアルバム「MEMORIES」収録の朝日のボカロ名義「石風呂」による楽曲のバンドによるカバー「音楽が嫌いな女の子」も演奏されると、メンバーと観客が一体になって5秒前からカウントを始めてから「ファイヤー!」と朝日が叫んでスタートする「オシャレ大作戦」へ。これまでに出演したフェスにおいてもそのフェスの名前を入れた歌詞に変えて歌われてきたこの曲であるが、もっさはその
「ロッキン ヘヘイヘイ!」
のフレーズを歌うというより完全に絶叫していた。その姿からは、このフェスのステージに立つのは朝日だけの願いではなくて、バンド全員で共有してきたものだということがわかる。この曲の演奏中にキーボードの中村郁香が目の当たりを拭ったのは汗だったのだろうか。
そして最後はこちらも曲の後半に一気に加速する「遠吠えのサンセット」。朝日はもう弾き倒すというレベルでギターを弾きまくったが、それは完全にこのステージで己の全てを出し切るという熱演だった。
このバンドの音楽はもっさの声質もあってか実にポップに感じるものだが、この日のライブからはそれ以上にロックさ(むしろパンクさかも)を感じさせた。それは紛れもなくこのフェスへの憧れが生み出したもの。
このバンドを始めるまでは朝日はこのステージに辿り着くことが出来なかった。でも今はこのバンドで、さらにその先の風景までもが視界に入ってきている。ここまで来るのに時間はかかったけれど、やっぱりバンドを諦めなかったのは間違いじゃなかった。それが証明された、朝日にとって本当に大きな1日になったはずだ。
1.めっちゃかわいいうた
2.こんがらがった!
3.許せ!服部
4.だけじゃないBABY
5.音楽が嫌いな女の子
6.オシャレ大作戦
7.遠吠えのサンセット
12:35〜 秋山黄色 [BUZZ STAGE]
ネクライトーキー同様にこちらもこのフェス初出演の秋山黄色。JAPAN’S NEXTには出ていたが、こんなに早いタイミングでこのフェスのステージで見ることができるとは。
かなり早い時間からサウンドチェックの段階でメンバー全員が出てきて曲を1コーラスくらいまで演奏するというのを繰り返す。さすがに曲数的にはサウンドチェックでしかやらない曲ではないな、というくらいにやっていたのだが、ここで演奏していた「クラッカー・シャドー」は本編では演奏されず。リリースされたばかりの曲であるし、最近のライブでは短い持ち時間であってもほぼ確実に演奏されてきた曲だが、
「薄暗い 部屋 今日も一人」
というフレーズのこの曲は何万人もの人が集まるこのフェスには似つかわしくないという判断だろうか。
先日のFINLANDSとの2マンライブの時に披露した新体制の4人編成で、この日も井手上誠(ギター)、Shnkti(ベース)、鈴木敬(ドラム、Bentham)とともに白いTシャツに金髪という出で立ちの秋山黄色が登場すると、その4人が向き合うようにしてイントロを鳴らす「猿上がりシティーポップ」からスタート。先日の2マンライブの時もそうだったが、旧編成時は最後にやる機会が多かったこの秋山黄色最大のキラーチューンはこれからはスタートナンバーとして演奏されていくことになりそうだ。
しかしながらバンドの演奏は本当に凄まじい。まだこれがこの編成での2回目のライブとは思えないくらいの完成度とそれぞれの音の強さ。かつて黒木渚のサポートメンバーとしてこのBUZZ STAGEに立った井手上は感慨を感じていただろうか。
5弦ベースを操る裸足のベーシストShnktiが激しく体を揺さぶってステップを踏みながら両腕を高く掲げた「やさぐれカイドー」も重いだけのサウンドではなくどこか躍動感のようなものも感じさせるようになってきている。
このステージは持ち時間が30分という短い時間であるが、秋山黄色は曲間にティッシュで鼻をかんだりとかなり余裕があるように見える。JAPAN’S NEXTでも30分の持ち時間を時間を余らせて終わったというのもあるのだろうか。
2マンライブの時ほど叫ぶようにして歌うことはない秋山黄色のその少年性と凛とした透徹感を強く感じさせるのは配信を控えた、井手上がアコギを弾く新曲「夕暮れに映して」。これまでの失敗などの経験も全てがこのステージにつながっているという曲であるが、いつか夕方の屋根のないこのフェスのステージでこの曲を聴いてみたいものだ。
「さっき出たネクライトーキーの朝日さんの大ファンなんですよ。もうファンっていうか信徒って言ってもいいレベルでずっとあの人が作った音楽を聴いていて。話したことはないんだけど、さっきのライブをずっと袖から見てて。ROCK IN JAPANってお得なフェスだなって思いながら(笑)
でもいつか、俺がそうしたように、いつかこの中から俺のステージを袖で見る奴が出てきて欲しいな!みんな、バンドやろうぜ!」
と秋山黄色は初出演とは思えないくらいに饒舌に語ったが、秋山黄色は厳密に言うとソロだからバンドではない。でも編成はずっとバンドだし、スリーピース編成だった時も今の4人編成においても、このメンバーだからこうなっているというのがわかるようなライブをやっている。それはメンバーが固定されているというのもあるし、参加しているメンバーが秋山黄色がどういう音楽をやりたくて、どういうライブを見せたいのかという意識をしっかり共有しているから。だからバンドではないけれど、バンドであると思って彼はライブをやっているはず。
現に「スライムライフ」のパンクなサウンドは1人だけではできないものだし、打ち込みでも出せる音ではない。このメンバーだからこそできる音なのだ。
そして秋山黄色は
「また来年、次は向こうのもっとデカいステージで会えたらいいな!」
と野望を口にして、
「今現在の残金の総額と 溢るる夢の数がスレてて笑っちまう」
というキラーフレーズで始まる「とうこうのはて」へ。
自分が2019年にリリースされた作品の中で最も再生回数が多いのはこの秋山黄色の「Hello my shoes」である。この曲が演奏された時、そうして何度となく聴いてきたこの曲が、自分が1番大好きなフェスのステージで演奏されている、そんな夢のような瞬間がまさに今現実になっているという事実に気がついて、思わず感動してしまった。シティーポップが鳴る渋谷とは全く違う場所だし、出会ってからまだ半年くらいしか経っていないけれど、ここでライブを見れているというのが本当に感慨深かった。
そしてラストはオシャレになれない自分自身への呪詛をパンクなサウンドに乗せる「クソフラペチーノ」。もはやバンマスとして演奏だけではない部分でも秋山黄色を支えているであろう井手上がギターソロを鳴らすと、秋山黄色が後ろから蹴るような仕草を何度も見せる。まだこの4人でライブをやるのは2回目だけれど、もうずっと一緒にこのステージを目指してきた仲間であるかのような姿だった。
しかし演奏が終わるとダッシュでステージから去っていったメンバーたち。(井手上が1人だけいつも通りなのもまたさすが)
時間を見たら持ち時間ギリギリだった。時間を余らせたJAPAN’S NEXTの時とは違って、やりたい曲も伝えたいこともたくさんあった。そんな秋山黄色のロッキン初ライブだった。
東京で初めてライブをやってから1年くらい。そう考えると1年後にすでにこのフェスに出ているというのはキャリア的には実に順調だと言える。でもきっとこれからはそのスピードの何倍もの速さで秋山黄色はきっとデカくなっていく。それこそ本人が言ったように、GRASS STAGEで演奏している姿すらも目に浮かぶ。
「もう一度どこかで会えたらいいなって」
また来年ここで会いたいけれど、GRASSの前に数々の伝説的なライブを見てきたLAKE STAGEで秋山黄色のライブが見たい。この男は絶対そこまで行く。
リハ.クソフラペチーノ
リハ.夕暮れに映して
リハ.猿上がりシティーポップ
リハ.やさぐれカイドー
リハ.クラッカー・シャドー
1.猿上がりシティーポップ
2.やさぐれカイドー
3.夕暮れに映して
4.スライムライフ
5.とうこうのはて
6.クソフラペチーノ
13:00〜 フレデリック [GRASS STAGE]
CDJでもメインであるEARTH STAGEに出演していたが、ついに夏でもメインであるGRASS STAGEへの出演となった、フレデリック。
秋山黄色を見終えてBUZZ STAGEからGRASS STAGEに行くとすでに「オンリーワンダー」を1曲目に演奏していたのだが、やはりステージがものすごく大きく感じる。昨年まではPARKやLAKEで見ていたから当たり前ではあるのだが、本当にフレデリックがこのフェスのGRASS STAGEに立って演奏している。
で、この大きなステージで演奏するためにはやっぱり踊れるというだけでは足りない。このバンドはダンスミュージックを自分たちのロックにかけあわせてきたバンドであるが、「飄々とエモーション」でハンドマイクを持ってステージを右から左に広く歩き回りながら歌う三原健司(ボーカル&ギター)の姿を見て、このバンドはここに立つべき歌の力や空間掌握力のようなもの、そしてバンドとしてのスケールをしっかり持った上でここに立っているのだと感じた。
それくらいに健司の歌う姿は初のGRASSという緊張感や重圧を感じさせない、まるで何回もこのステージに立ってきたバンドであるかのように堂々としていたのだ。
高橋武が細かく刻む高速ドラムを展開する「リリリピート」から「TOGENKYO」という、最新アルバム「フレデリズム2」の曲を軸にしていた春フェスの時とはまた違う、ある意味では集大成的な選曲が初GRASSだからこそなのか、とも思わせる中、
「私調べによりますと、GRASS STAGEに立った双子のバンドは我々が初めてです!」
という健司のこのGRASS STAGEに新たな歴史を刻んだ証明とも言えるMCの後に演奏されたのは、ツイッターで予告されていた新曲。
三原康司のゴリゴリのベースが引っ張る心地良くもグルーヴィーなサウンドはQUEENや「AM」をリリースした時のArctic Monkeysなどのスケールを彷彿とさせるが、ハンドマイクで歌う健司による「イマジネーション」というタイトルフレーズは「エモーション」と歌ってきたこのバンドが新章に突入した空気感を確かに感じさせた。このモードに進むのであればこれからこのバンドが作り出す音楽はこれまでのものとガラッと変わるはず。
そんなGRASS STAGEでの挑戦の後にはステージ背面のスクリーンにメンバーが演奏する姿だけではなく、それを加工したりしたこのバンドのライブだからこその演出が施されていたが、これもまたスクリーンがあるのが両サイドだけではないこのGRASS STAGEだからこそできるものだ。そう考えるとこのバンドはかなり早い段階からGRASS STAGEで自分たちが何を見せるべきなのか?ということを考え尽くした上でこのステージに立っている。演奏からもその気合いを確かに感じることができる。
何万人もの観客による手拍子が響いた「かなしいうれしい」も過去最大のスケールで鳴らされると、
「ロッキン、遊ぶ?遊ばない?遊ぶ?遊ばない?」
という健司による不敵な煽りがさらに観客を踊らせる「KITAKU BEATS」と、こうして振り返ると新曲以外は完全にこのバンドの王道的な曲が並んだ。ここ最近のフェスでは実に珍しいと思えるが、そんなライブの締めはやはり「オドループ」。赤頭隆児がカメラ目線で健司とじゃれ合いながらギターソロを弾く中、健司が煽ると過去最大級の大合唱が。
このバンドがまだ広くなる前のPARK STAGEに初めて出演した時から、ずっと超満員の観客による大合唱がこのフェスに轟いてきたこの曲。この日の景色はまるでこの曲がこのGRASS STAGEで鳴らされるのが必然だったかのようだった。2010年代のロックシーン最強のダンスアンセムの一つと言っていいこの曲は、ついにこのフェス最大のダンスアンセムになったのだった。
しかし、CDJのEARTH STAGEの時ほど客席は埋まり切ってはいなかった。もちろんフェスはタイムテーブルなどでも集客力はだいぶ変わってくるから、そこには様々な要素が絡んでくる。でも満員じゃなかったということは、この日がゴールではなかったということでもある。
他のバンドとは全く違うやり方でこのステージまで辿り着いたフレデリックが、これから先も自分たちだけのやり方でやることややれることがたくさんある。そう思えるのは、いつかはこのGRASS STAGEの夜に立っている姿を見てみたいバンドだから。
1.オンリーワンダー
2.飄々とエモーション
3.リリリピート
4.TOGENKYO
5.イマジネーション (新曲)
6.シンセンス
7.かなしいうれしい
8.KITAKU BEATS
9.オドループ
14:15〜 sumika [GRASS STAGE]
こちらもフレデリック同様に、CDJでのEARTH STAGEを経て、このGRASS STAGEに初出演となるsumika。リハからほぼフルで曲を演奏してくれるのも実に嬉しいし、そこにはきっとリハという概念がないくらいにいつも本編と全く変わらない。
そんな初GRASS STAGEにメンバーが元気良く登場すると、「フィクション」でこのバンドならではの涼しげなポップサウンドを響かせ、おそらく最も暑いであろうこの時間の暑さが少しだけ和らいでいくかのようだし、演奏しているメンバー全員の本当に楽しそうな笑顔を見ていると、暑いなんて思っていられなくなってしまう。
「みなさん、暑さでもうやられちゃってるんじゃないですか?そんなみなさんを回復させるとっておきの呪文を!」
と片岡健太(ボーカル&ギター)が言うと「ふっかつのじゅもん」で黒田隼之介も激しく頭を振りながらギターを弾き、このバンドのポップなだけではない、もともと持っているロックさ、パンクさを感じさせる。
今年リリースの最新アルバム「Chime」の「Flower」ではハンドマイクの片岡がステージを駆け回り、時にはカメラマンにカメラ目線で歌う。その姿はまさにスターそのものであるが、学生時代に「走るのがすごく苦手だった」と言っていたのが本当なのか?と思うくらいに俊敏に走り回る姿が見れるのはこの広いステージだからこそ。
これまでの出演でも合唱を生み出してきた「Lovers」を大事にこのステージに持ってきたかのように演奏すると、片岡はこのステージを18歳の時からずっと夢見てきたということを語る。確かにそれは何度か語られてきたことではあるし、ようやくPARK STAGEに出た時も
「来年はGRASS STAGEで会いましょう」
とすでにその視線の先にはこのステージがあったし(実際には翌年はGRASSではなかったのだが)、だからこそ
「このステージに立てたら人生が終わってもいいと思っていた」
という言葉に一切の嘘がないこともわかる。
自分は「Chime」のツアーにも参加しているのだが(5月の市川市文化会館)、その時はまだリリース前だったからか演奏されなかった最新シングル「イコール」もこの日は演奏されたのだが、さらにその両A面曲である、男女のイケナイ関係を歌いながらもsumikaのサウンドになると実に爽やかに感じられてしまう「Traveling」も演奏される。これは少々意外な選曲だったし、きっと持ち時間が50分という長いGRASS STAGEだからこそできることであるが、夢であったというこのGRASS STAGEの記念すべき初ライブのセトリにこの曲を入れるあたりにバンドがこの曲に自信を持っていることを伺わせる。
そんな中で毎年このフェスのsumikaのライブを彩ってきた、タオルがぐるぐると回る「マイリッチサマーブルース」ではそんな楽しい客席と同様に、小川貴之(キーボード)もカメラに映されるタイミングでタオルでこれ見よがしに汗を拭いたり、片岡は小川のペットボトルの水を勝手に飲んでしまったり、それを見た荒井智之が大笑いしながらドラムを叩いていたり…誰よりもメンバーがこの初のGRASS STAGEを楽しんでいる。
SNSへの警鐘を鳴らす「ペルソナ・プロムナード」で後半にもかかわらず全くパフォーマンスに疲れが見えないというか、むしろさらに元気になっているようにすら見えるように片岡と黒田はステージ前まで出て行ってギターを弾くと、
「この一瞬のために今まで生きてきた気がする!今までは夢だったけれど、これからはこのステージに立ったっていう現実を一緒に共有してください」
と片岡がしみじみとこのステージへの思いを口にし、最後に演奏されたのは「「伝言歌」」。もちろん最後は「伝えたい」の大合唱。そこからはバンドがこのステージにどれだけ強い思いを持っているのかが伝わったし、観客の合唱からはそれが確かに届いたことが伝わった。こうしてきっとこのフェスのこのステージはこの日このライブを見ていた一人一人にとって特別なものになっていく。
僕らだけの夏がここにはあった。
信じれば叶うとか、そんな安っぽいことはsumikaのメンバーも全く思っていないだろう。でも信じ続けて、努力を続けて、どんなに形が変わったり、もう続けられないかもしれないような困難なことがあっても、目標があれば乗り越えられる力になる。決して順風満帆なキャリアではなかったbanbi時代から今のsumikaに至るまで、このステージに立っている自分たちの姿を想像することはバンドを続ける上で少なからず力になってきたはず。その夢を叶えた先のsumikaがどんなバンドになっていくのか。
この日、日本で1番デカいフェスの1番デカいステージに立っても一つだけ確かに変わらなかったのは、ライブハウスやホールという場所と全く変わらない、メンバーと我々との距離の近さだった。
リハ.1.2.3…4.5.6
リハ.MAGIC
1.フィクション
2.ふっかつのじゅもん
3.Flower
4.Lovers
5.イコール
6.Traveling
7.マイリッチサマーブルース
8.ペルソナ・プロムナード
9.「伝言歌」
15:30〜 ヤバイTシャツ屋さん [GRASS STAGE]
フレデリックとsumikaが初めてこのGRASS STAGEに立った一方、昨年に続いてのGRASS STAGE出演となる、ヤバT。このフェスには4年連続出演である。
おなじみの「はじまるよ〜」という脱力SEでメンバーが登場すると、いきなりの「あつまれ!パーティーピーポー」で早くも大合唱。WING TENTで初出演した時は毎回ライブの最後にこの曲をやっていたし、最近は短い持ち時間のライブでは演奏されない時すらある。それはこのバンドがこの曲をやらなくても成立するようなライブができるくらいにキラーチューンを作り続けてきたという証左である。
「Tank-top Festival 2019」でパンクに疾走すると、「鬼POP〜」ではこやまたくや(ボーカル&ギター)としばたありぼぼ(ベース&コーラス)の男女混声のハーモニーが青く澄み渡った空に広がっていく。デビュー時は演奏力とともに歌唱力の低さを指摘されていたこともあったが、それがはるか昔のことであるかのようだし、イメージ以上にビックリするくらいにライブばっかりやって生きてきたこのバンドの成長をはっきりと感じることができる。
観客を全員座らせてから一気にジャンプさせる「メロコアバンド〜」のパフォーマンスもまるで朝の情報番組などでこのフェスの様子を伝える際に使われるような映像になるのを見越しているかのような迫力であるが、それも含めてヤバTのライブがやはり「たのC」超えて「たのD」やんけ、ということを感じさせる「かわE」と、ひたすらに曲を連発するというのは近年のこのバンドのライブのスタイルであるし、改めて演奏される曲全てが超キャッチーであることにビックリさせられる。
しかしMCではこやまが
「こんなに暑かったらステージで目玉焼き焼けるんちゃう?」
と言ってフライパンに卵を割り、ライブ終了時にそれが焼けているかを発表するという前代未聞の展開に。この無意味だけど誰もやったことがないことをやるというスタイルこそがヤバTである。
ひたすらにカメラに向かって変顔をしながらドラムを叩き、初めてこのバンドのライブを見ていた人を笑わせまくっていたもりもりもとによる、IKKOのモノマネ曲フリによる「DANCE ON TANSU」ではしばたがそろりそろりをしてこやまに突っ込まれながらも力強いスラップベースでもりもととともにタイトル通りにダンサブルなこの曲の軸を担う。その姿をこのGRASS STAGEで観ると、どこかオーラのような頼もしさすら感じる。
そしてリリース時から話題沸騰の最新シングル曲「癒着☆NIGHT」ではこやまによるついつい口に出して歌いたくなる小気味いいフレーズが次々に放たれていくが、ここは毎年こうして新しい曲が常にキラーチューンとなっているのを確認できる場でもある。
sumika「マイリッチサマーブルース」同様にタオルが回る(ヤバTタオルの人の多さ!)「L・O・V・E タオル」で夏フェス感を最大限にまで高めると、こやまがいつもとは少し違う様子で口を開く。
「このROCK IN JAPAN FES.は日本で1番デカいフェスで、このGRASS STAGEは1番デカいステージです。そこにこうしてヤバTが立っています!
「何のために音楽やライブをやってるの?」って言われることもあるんですけど、バンドを結成した頃はちゃんと自分たちでも何のためにやってるのかわからずにやっていた。でもヤバTの曲を聴いたり、ライブに来てくれる人が「生きていく力をもらえます」って言ってくれることが増えた。だから今は何のために音楽をやっているのかがわかる。俺たちに音楽をやる意味を与えてくれてありがとう。これからも応援してもらえるようなバンドでい続けるために頑張ります!」
と、一切のネタもなく、こやまは自分たちがこうして音楽を、バンドを、ライブをやる理由を話した。去年もこのステージで、ナメられ続けてきた過去を肯定するために「サークルバンドに光を」を演奏した。このフェスのステージではヤバTの面白いだけではない、本質的な部分を見ることができる。それがなぜこのフェスなのかというと、こんなにたくさんの人たちに目の前で自分たちの思いを伝えることができる場所は他にはないからだ。普段はひたすらにライブハウスにこだわっているバンドだけれど、デカいところに立つ時にはしっかりとそこに立つべき理由が見える。そうした面白いだけじゃない、このバンドの熱い部分に何度も心を揺さぶられてきたから、自分は毎回こうしてこのバンドのライブを見ているし、ツアーにも足を運んでいる。
しかしそんな真面目な話をしたあとに、存在しないキーボードとヴァイオリンのメンバー紹介をするというのも実にヤバTらしいが、最後に加速しまくりの「ヤバみ」から、大合唱が起こった「ハッピーウェディング前ソング」を演奏した頃には、まるでこのバンドのワンマンを見ているかのような感じさえしていた。
面白ネタ連発だったWING TENT初出演時から3年。まさかヤバTがこんなに音楽だけで凄いバンドになるなんてあの頃は思っていなかった。でもこうして2年続けてGRASS STAGEに立ち続けている自分たちの姿を1番見せたいのは、「すぐ消える」「一発屋」と言われまくっていた、あの頃の自分たちだろうな、とも思うし、そうした声をヤバTは自分たちの力で吹き飛ばしてきたのだ。
すっかり忘れていた目玉焼きは全く焼けず、ステージから去ったメンバーの後にスクリーンにはフライパンが映されていた。こんなGRASS STAGEの映像、きっと二度と見れない。
リハ.とりあえず噛む
リハ.KOKYAKU満足度1位
1.あつまれ!パーティーピーポー
2.Tank-top Festival 2019
3.鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
4.メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいに収録されている感じの曲
5.かわE
6.DANCE ON TANSU
7.癒着☆NIGHT
8.L・O・V・E タオル
9.Tank-top of the world
10.無線LANはまり便利
11.ヤバみ
12.ハッピーウェディング前ソング
17:00〜 中村一義 [SOUND OF FOREST]
サウンドチェックではこの日ピアノを務めていた小谷美紗子が自身の曲である「Who -08-」を演奏していた、中村一義。幻の第1回、2000年の大トリを務めるはずだったアーティストであり、このフェスの20周年の場には欠かせない存在である。
バンドメンバーとともに麦わら帽子を被った中村一義がステージに登場すると、またちょっと太ったかな?と思う中、岡本洋平と三井律郎による2人のギターがロックさを、小谷によるシンセではないピアノだからこそこれまでとはまた違うサウンドに感じられる「ショートホープ」からスタートすると、
「たとえ、離れ離れになって、
たとえ、共にいれなくても、
あの日にくれた声が今も、本物ならば…」
というフレーズ部分では中村一義が小谷のピアノの前に飾られた男の写真を指差す。その男は先日急逝した、ヨースケ@HOME。近年マルチプレイヤーとして中村一義のサポートメンバーを務めていた男である。
しかしながらそこに悲壮感は一切なく、むしろこのフェスの20周年を記念しての「ジュビリー」の合唱と、希望に満ち溢れたライブ。神聖なサウンドの「新世界」も含め、中村一義の音楽はいつも希望を歌ってきた。絶望しかなくても、絶望の「望」を信じてきた。そんな男が生み出してきた音楽だから。
とはいえやはり暑すぎるのか(客席は日陰も増えてきていたけど)、中村一義はかなり体力を消費している。そもそもライブが未だにものすごく少ないから、自身が作った超高音ボーカルもかなり苦しそうだったし、足元の歌詞カードを見ながら歌うという状態であった。
でも数え切れないくらいに見てきた中村一義のライブが良くなかったことは一回もない。たとえ声が出てなくても、バテていても。それは曲が素晴らしいのはもちろん、そこにかつてたった1人で世界と向き合っていた中村一義の感情の全てが込められているから。今が当時と全く同じではないというのは、こうして一緒に音楽を鳴らす仲間たちに囲まれていることからもわかるが、その仲間たちが中村一義の音楽に新たな命を宿らせている。
「みんな、次の曲では腕をあげたりするけど大丈夫?暑さでやられてない?」
と言っていた中村一義が誰よりも暑さにやられていただろうけれど、「1,2,3」ではしっかり腕を上げながら「オイ!」という力強い声も発する。
そして今回のメンバー紹介をするのだが、そこにはもちろんヨースケ@HOMEの名前も。今でもいないのが信じられない、というような語り口であったが、今回のメンバーである
小谷美紗子
岡本洋平 (Hermann. H & The Pacemakers)
三井律郎 (LOST IN TIME)
サトウトモノリ (Hermann. H & The Pacemakers, THE BEACHES)
吉澤響 (セカイイチ)
という面々はそれぞれ自身の活動でこのフェスのステージに全員立ったことがある。(おそらくTHE BEACHES以外はこのSOUND OF FORESTに出ている)
そんなメンバーたちが、このフェスにとっては特別な存在である中村一義のためにこのフェスの20周年のステージに集結している。中村一義の人生そのもののように、計算できない何か特別な力によってそうなったかのようだ。
そんなこのフェスにおいて特別な存在である中村一義が2001年に前年のリベンジとして改めて大トリでライブをした時にアンコールで初めて新曲として鳴らされた「キャノンボール」の至高の名曲っぷりは18年経っても全く色褪せることはない。歌詞に込められたメッセージ同様に、いつだってこの曲は生きていくための力をくれる。きっとここに集まった人たちはこれまでそうやって生きてきた人たちだろうし、これからもそうやって生きていくんだろうと思う。
そしてラストはこうして一緒に音楽を鳴らす仲間がいるからこそより一層楽しいパーティーチューンのように感じられる「ロックンロール」。終わった後、やっぱりこのフェスで見る中村一義のライブは特別なんだよな、と改めて思った。
このフェスが20周年ということは、中村一義が初めてライブをやろうとしてから20年も経ったということ。その間に何度となく中村一義のライブを見てきたが、そうするといつも思うことがある。それは、僕は死ぬように生きていたくはない、ということ。ここで愛が待つゆえに。
リハ.Who -08- (小谷美紗子)
1.ショートホープ
2.ジュビリー
3.新世界
4.1,2,3
5.キャノンボール
6.ロックンロール
17:30〜 THE BACK HORN [LAKE STAGE]
昨年に続いて、というか2011年にGRASS STAGEに、2017年にPARK STAGEに立った以外は全部LAKE STAGEなんじゃなかったっけ、と思うくらいにLAKEの番人的な存在になっている、THE BACK HORN。なので今年もやっぱりLAKE STAGEに登場。
中村一義が終わってからLAKE STAGEに着くと、すでに1曲目の「Running Away」を演奏中。昨年リリースのミニアルバムの収録曲であるがすでにライブでは欠かせない曲になっているし、こうして1曲目に演奏されることによって「ライブが始まった!」と思えるような、タイトル通りの疾走感に満ちている。
するとこの序盤で「コバルトブルー」を早くも演奏。もう菅波栄純がギターのイントロを鳴らすだけで前に観客が次々に押し寄せていく。この曲は本当にLAKE STAGEによく似合う。ステージの向こう側に見える湖の存在がそう思わせるのか、あるいは自分が間違いなくこの曲をこの場所で1番聴いてきたという記憶がそう思わせるのか。山田将司も激しく体を揺さぶりながら歌うが、その姿は初めてこのステージでこのバンドのライブを見た時から全然変わっていないように見える。
アニメタイアップとしてヒットしたシングル曲「罠」と続くとより一層後ろの階段に座っていた人たちが前の方に押し寄せていく。決してライブの定番曲というわけではないけれど、このバンドの代表曲の一つだし、もしかしたらこの曲でこのバンドに出会って、この日ライブを見てみようと思った人もいたかもしれない。しかしこんなにもTHE BACK HORNでしかないような曲がタイアップになったというのは実に幸福なことだし、作家の住野よるがそうであるように、テレビ業界にもこのバンドの音楽を聴いて生きてきた人も多いのかもしれない。
岡峰光舟によるベースのイントロがそれまでの熱狂から一転して切ない心境にさせる「美しい名前」は毎回こうしてライブで演奏されるごとに客席から歓声が上がる人気曲。この決して激しくない曲がファンから人気が高いというのはこのバンドがメロディの優れた曲が多いことの証明であるが、暗くなっていくこの時間帯に合わせたかのようにこのステージを包み込んでいた。
松田晋二によるロッキンの20周年を祝うMCは見事なまでにバンドが年月を重ねても全く上手くならないが、重い電子音が鳴るというこのバンドにおいては衝撃の新曲と言える「心臓が止まるまでは」で再び攻撃的に振り切れていく。タイトルからかつての名作アルバム「心臓オーケストラ」を連想するけれど、間違いなくこの曲は今のこの4人だからできる発想が取り入れられた曲だ。
そして「シンフォニア」では将司が
「帰る場所ならROCK IN JAPAN FESがあるから」
と歌詞を変えて歌う。ずっとこのフェスに出続け、間違いなく20周年の歴史を語る上では欠かせないバンドだからこそそこには説得力が宿っている。
唯一GRASS STAGEに立った2011年は東日本大震災があって、フェスの開催すらも危ぶまれていた。祭りをやるのが不謹慎だから、という声もあったから。そんな状況に対するこのフェスの姿勢が、3日間のGRASS STAGEのトップバッターがサンボマスター、大トリがBRAHMAN、真ん中がこのTHE BACK HORNという、被災地出身のメンバーがいるバンドを据えるというものだった。規模的にはGRASSに立つには、という感じではあったが、あの時のあの位置はこのバンドでなければいけなかったし、今もLAKE STAGEを守り続けるのもこのバンドでなければ、と思えるような全身全霊によるパフォーマンス。
そう感じさせるのは腕を上げたりしながら観客に向き合って演奏する岡峰の姿を見ているとより一層思うが、そんな中でやはり最後に演奏された「刃」はずっとこのバンドの、死んでも譲れないものがある、という精神を体現し続けてきた曲だったし、最後のコーラスの大合唱はそんなバンドと観客、そしてこのフェスの確かな絆を感じさせた。
こんなにも、これからもこのLAKE STAGEで見たいと思えるバンドは他にいない。
1.Running Amay
2.コバルトブルー
3.罠
4.美しい名前
5.心臓が止まるまでは
6.シンフォニア
7.刃
18:10〜 the HIATUS [SOUND OF FOREST]
タイムテーブル発表時に最も驚きがあったことの一つは、the HIATUSがSOUND OF FORESTに出るということだった。2009年にLAKE STAGEのトリを務めて以降はずっとGRASS STAGEに出演し、最新号のロッキンオンジャパンでも表紙になっているバンドである。
そんなバンドがなぜこのステージに出るのかを確かめるべく、多くの観客がこのステージに集結。すでに空は薄暗くなっている中でメンバーがステージに現れると、リリースされたばかりのアルバム「Our Secret Spot」の1曲目である、不穏な電子音が鳴る「Hunger」からスタートし、そのままアルバムの曲順とおりに「Servant」へ、という完全なる新作モード。細美武士はギターを弾かずに歌唱に専念するが、シンセも操る「Thirst」から「Unhurt」という過去曲ではステージ上をぴょんぴょん飛び跳ね、観客も緊張が解けたように腕が上がったり、体が揺れたりしていく。
「やっぱりFOREST最高だなー!」
と細美が言うが、細美はこのステージに立つのは初めてなはずなので、もしかしたら他のアーティストがこのステージに立ったライブを見ていたのかもしれない。じゃないと出てこないであろう言葉だ。
再び新作から「Time Is Running Out」、過去曲からはアコギを軸にした「Shimmer」と「Horse Riding」と、新作を聴いている人は薄々わかっていた、このバンドがなぜこのステージになったのかというのがこの辺りになると見ている人全員がわかっていたんじゃないかと思う。
細美武士も
「JAPANに無理言ってこのステージにしてもらった」
と言っていたように、これは今のthe HIATUS、「Our Secret Spot」や去年の「Monochrome Film Tour」の内容が1番似合うステージがこのSOUND OF FORESTであるという判断のもとである。
かつてELLEGARDENでも絶頂期にCDJでCOSMO STAGEに出演する、という半ば暴挙みたいなことをやったことがあったが、あの時はライブハウスみたいに近い距離のステージでやりたいというバンドの趣向によるものだった。それ故に見たかったのに見れなかった(ましてや現状、ELLEGARDENが最後に出演したCDJである)という人もいたが、今回はその理由が全く違う。自分たちの音楽や、自分たちの音楽を最も適した場所で体験できるためにという意思によるものである。
かつてはダイバーが続出していたthe HIATUSのライブでそう思える、そして細美武士のバンドでこのステージが1番似合うと思える音楽を聴くことができる日が来るなんて全く思っていなかったが、ただこの雰囲気が似合うというだけではなく、
「The nights are pretty」
という「Regrets」の歌詞はまるでこの夜のことであるかのような必然性に満ちていたし、最後に演奏された、タイトル通りに鮮やかな照明がステージを照らす中、細美武士がハンドクラップをしながら歌う「Firefly / Life In Technicolor」はフェスならではの楽しさを格段に引き出していた。月の下で「Moonlight」を聴けるのはまた来年以降の楽しみにとっておく。
これから先、the HIATUSがずっとSOUND OF FORESTでライブをやるのかはわからない。でも今の音楽性なり、これをさらに進化・深化させるような方向に進むのならばこの場所が1番良いと思う。
ワンマンではチケットが取れないとはいえ、今の方向性ではGRASS STAGEは広すぎるし、細美は今はELLEGARDENとMONOEYESも並行して活動している。
来年、GRASSでELLEGARDEN、LAKEでMONOEYES、FORESTでthe HIATUSっていう3組が見れたら最高だろうし、今回の出演はそうした未来への可能性も感じさせてくれた。やっぱり、細美武士の音楽を聴いてきて、今が1番楽しい。
1.Hunger
2.Servant
3.Thirst
4.Unhurt
5.Time Is Running Out
6.Shimmer
7.Horse Riding
8.Regrets
9.Firefly / Life In Technicolor
the HIATUS終わりに、LAKE STAGEのトリの中田ヤスタカ / CAPSULEをちょっと見た。ライブハウス的なイメージが強いLAKE STAGEを、バキバキのダンスミュージックサウンドによって夜のダンスフロアに変えている。
こしじまとしこは変わらずにキュートな出で立ちとボーカルだし、中田ヤスタカはクールなイメージ(何度か見たライブでもそういうイメージだった)だったのが、最後にはDJブースから降りて両手で観客を煽りまくる。そしてそのパフォーマンスに全力で歓声を上げながら踊りまくる観客たち。
20年目を迎えたこのフェスにおいて、10年以上に渡って毎年いずれかの日の夜をこの中田ヤスタカあるいはCAPSULEが担ってきた。その長い年月の中で培った、このフェスにおけるダンスミュージック、クラブミュージックの土壌は確かに生き続けている。その最大の功労者たちはクールなイメージを覆すような笑顔だった。
トップバッターのPOLYSICSを始め、今年はLAKE STAGEに去年までならSOUND OF FORESTやWING TENTに出ていたであろうアーティストが多数出演している。この日、このステージに立った、このフェスの歴史を作ってきたアーティストたちのライブを見て、その理由がわかったような気がした。
文 ソノダマン