毎年恒例のThe Mirrazのハロウィンライブ。これまでは主に渋谷で開催されてきたが、渋谷のハロウィンが社会的に問題になってきているという事情も考慮してか、今年は下北沢と吉祥寺にある西永福JAMにて開催。当然ながら今年も観客の仮装大賞も開催されるのだが、場所柄もあってか今年は「地味ハロウィン」ということに。
西永福JAMはまだ割とキレイな地下のライブハウスで、時期的なものなのかこの日のライブの内容に合わせてなのか、ロビーなどもハロウィンのような飾り付けやシールなどが。この日はスペシャルドリンクも用意されており、これまで同様にスタッフも仮装しているあたりからもハロウィン気分が高まる。
西永福JAMは客席のキャパやステージ配置などから、近年ミイラズが節分ライブを行っている北浦和KYARAを彷彿とさせる。客席には気合いの入ったコスプレをしている人も見受けられ、ほぼ満員の中で18時少し過ぎに場内が暗転してJUDY AND MARY「そばかす」のSEが流れる。
ミイラズは割とライブごとにSEを変えるバンドであり、フェスなどではその日に出演するアーティストの曲を使ったりしているのだが、この日のSEというよりもオープニングテーマがこの曲であるということは…いざステージに登場したメンバーは、まのたかし(サポートドラマー)が四乃森青紫、ケイゾー(ベース)が斎藤一、真彦(ギター)が瀬田宗次郎、そして最後に現れた畠山承平(ボーカル&ギター)が緋村剣心という、るろうに剣心の仮装。髪色がピンクでありウィッグを後ろで結いている(頬にはマジックで十字傷も書いていた)畠山はなんなら某俳優よりもそのまま実写映画に出演できそうなクオリティとカッコよさである。
今年はハロウィンライブであると同時に、ミイラズにとっては2ndアルバムである「NECESSARY EVIL」を全曲演奏するライブであることを告知しており(だからか仮装というよりも普通にライブを見にきただけという出で立ちの人も多い)、実際に「NECESSARY EVIL」収録の「走れ魔法使い」でまののスネアを叩くリズムに合わせて手拍子が起きるというスタートだったのだが、だいたいこうした「全曲演奏」や「再現ライブ」というのはアルバムの曲順通りに演奏されることも多い中、アルバムの1曲目である「check it out! check it out! check it out! check it out!」は2曲目に演奏されたので、そうした曲順通りのライブにはならないことがこの段階で早くもわかる。この2曲目で一斉に観客が前方に押し寄せていくとモッシュが発生したりもしていた。
なので曲順通りにではないどころか、「NECESSARY EVIL」の収録曲以外も演奏されていく。「ふぁっきゅー」「バタフライエフェクトを語るくらいの善悪と頑なに選択を探すマエストロ」はライブ定番曲であるが、そこまでライブを多くやっているというわけではないにもかかわらず、バンドの演奏は実にキレ味鋭い。さすが剣客4人が集まっただけはある。
「WAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」ではイントロの手拍子も完璧に決まるあたりはこのテーマのライブに集まる人たちはみんなミイラズのライブに来慣れている人であったり、ずっとミイラズの曲を聴いてきた人であるというのがわかるのだが、「なんだっていい///////」からは再び「NECESSARY EVIL」の収録曲を演奏するゾーンへ突入していく。
サビで一気にダンサブルに展開する「三千世界よりロンドンスタイル」、たまにライブで演奏されることもある、タイトル通りの爆裂ロックンロール「ぶっこ」からの畠山による歌詞の韻の踏み方が絶妙な「XYZ」と続いていくのだが、ライブで演奏するのが久しぶりな曲も多いからか、真彦が畠山とケイゾーの顔を見ながらコーラスしていたのが印象的で、それはリズムというかタイミングを合わせようとしていたのだろうか。
さらに「NECESSARY EVIL」の中でも最もシリアスなテーマと歌詞の「神になれたら」は時に偽悪的に見えることもある畠山が実は人間や世界に対して優しく愛のある視点を持った男であるということがよくわかる。実際に畠山はライブ中に酔っ払っていてもそうした社会や政治について発言することもある。当然ながらこの日もまの以外の3人は登場時からビールを飲んでいたけれど。
とはいえ「NECESSARY EVIL」はもはや10年前にリリースされたアルバムであるだけに、曲や歌詞のテーマ、特に言葉数の多さから時事的な単語を使うことも多い歌詞からは時代を感じさせるというか、今の若い人が聴いたら理解ができないようなものもある。
コーラスを含めてアルバムの中でも最もポップな「給付金貰って何買おう?」はその最たるもので、今「給付金」と言われてもなんのことかわからない人もたくさんいるだろう。しかしながら、
「残りは消費税に使おう」
という締めのフレーズは、消費税が5%から8%に引き上げられた当時のみではなく、8%からさらに10%に引き上げられた現代の社会や政治への皮肉と取ることもできる。果たして畠山はこのフレーズを今歌うことを意識してこのアルバムの曲を今演奏することに決めたのだろうか?とすら思ってしまう。
すると「観覧車に乗る君が夜景に照らされてるうちは」で再びライブ代表曲のゾーンに突入するのだが、「マジかーそうきたか、やっぱりそうきますよね。はいはい、ですよね知ってます。」と「つーかっつーか」というダークなEDMサウンドを取り入れた曲を明治時代の漫画の登場人物(のコスプレをした人)たちが演奏しているというのは実にシュールな光景である。
だがシュールなだけでなく、このEDM曲たちにこそ今のミイラズのライブの強さが見えるのは、リリース当時は否定的な意見の方が多かったこの曲たちが今やライブにおける重要な盛り上がりの位置を担う曲になっているからである。それを支えているのはまのであり、彼の一打の強さと正確な手数のドラムはデジタルサウンドとミイラズのサウンドを融合させる上での接着剤のような役目を果たしている。それは緋村剣心が人を助けるために刀を振るう上で逆刃刀が欠かせないように、もはやミイラズがこうした曲、いやライブをやる上でまのの存在は欠かすことができない。こうして仮装にまで付き合ってくれる人間性も含めて。
ミイラズは今はライブ本編ではMCをほとんどせずにひたすら曲を連発するという実にテンポの良いものになっており、フェスなどにたまに出ても全くMCをしないことも多いのだが、この日は仮装しているからというのもあり、このタイミングでMC。
斎藤一と言いながらも警備員のようなケイゾーと画像を調べたら全然似てなくて浦島太郎みたいな真彦と、基本的に畠山以外はみんなパッと見ではなんのキャラか分かりづらい中で今年るろうに剣心の仮装をやろうと思ったのは、当初は実写映画の続編が今年公開されるという情報だったことによるらしい。
そしてミイラズのストレートなギターロック曲「Let’s Go!!」でタイトル通りに再びスタートを切るように観客を踊らせまくると、イントロのギターのフレーズが流れるだけで悲鳴にも似た歓声が上がった「イフタム!ヤー!シムシム!」へ。「NECESSARY EVIL」リリース当時はよくライブの最後に演奏されていた、ミイラズのシリアスモードの中の1曲。「NECESSARY EVIL」には「神になれたら」とこの曲が収録され、1stの「OUI! OUI! OUI!」には「シスター」が収録されていた。それが3rdの「TOP OF THE FACK’N WORLD」では「ハッピーアイスクリーム」「ただいま、おかえり」「君の料理」へと1作ごとに1曲ずつ増えていくように発展していったのだが、
「いつだってスタート」
という最後のフレーズで声を張り上げる畠山の姿を見ていると、かつてのハロウィンライブよりもだいぶ規模は縮小していても、また今日から、ここから始めればいいじゃないかと思える。かつてこの曲をライブの最後に演奏していた頃の、何もかもが右肩上がりだっただったミイラズの状況からしたら意味合いはだいぶ変わってしまっているが、今でもバンドにとっても我々にとっても大事な曲であり続けているのは変わっていない。
そして
「ふざけんなってんだ!」
の大合唱が響いた「ラストナンバー」はしかしタイトルに反して最後の曲ではなく、あっという間の最後はこれまでもハロウィンライブにおいて演奏される機会もあった、死んでしまった男が幽霊になって彼女を見守るというまさに「ゴースト」な切なさをミイラズ独自のファニーかつポップな曲に仕立てた「5.5.5st」。
「お笑い番組見ながら泣いてる君なんか見たくないよ 忘れてよ 忘れんな 忘れなよ」
というフレーズはポップなサウンドでありながらも男の素直な感情が隠せずに漏れ出していて思わずグッときてしまうのだった。
アンコールではケイゾーが上着を脱いで登場したためにより一層なんの仮装なのかわからなくなる中、まずは新曲「ダガー」を演奏。今年のミイラズは「氷流星☆アイスターズ」という漫画とコラボし、その漫画とコラボし、漫画の内容にインスパイアされた曲を配信でリリースしていて、この曲もその中の1曲。
コラボした曲の中にはポップな曲などもあるのだが、この曲はミイラズのストレートな言葉数の多いロック曲。「ダガー」と聞くとファイナルファンタジー9のヒロインであるガーネット姫が身分を隠すために名乗った名前であることを思い出す。そのダガー(短剣)で自身の長い髪をバッサリと切り落とす瞬間のムービーも。
そしてそこからはある意味ではこの日のメインイベントともいえる、仮装大賞のコーナーへ。畠山が参加してくれた人を1人ずつ読み上げながらいじっていくのだが、
「a flood of circleのHISAYO姐さん」
「POLYSICSのツナギを着た夫婦」
とロックバンドの仮装もいる中で、畠山がハマり、ケイゾーも
「近所の飲み屋に行くとこういうやつが2〜3人はいる(笑)」
と言っていたのは、
「邦ロックのライブによくいる[ALEXANDROS]のファン」
で、最初は優勝候補であったが、畠山は
「でも俺、ようぺいん(川上洋平)だったらいくらでも一緒に写真撮れるからこいつと写真撮る必要ない(笑)」
ということで優勝は異様にクオリティの高いゾンビメイクを施した2人組に。しかしその言葉からは今は天と地ほどの差がついてしまった[ALEXANDROS]とミイラズがかつてよく対バンをしていたように今でも交流があるということを示していてちょっと胸が熱くなった。今となっては[ALEXANDROS]がミイラズと対バンする必要は一切ないけれど、それでもまたやって欲しい。
地味ハロウィンということで一見なんの仮装でもなさそうな人もたくさんエントリーしている中、畠山は自身が思い入れのあるキャラである「まどマギ」のほむらのコスプレをした人のクオリティの低さに憤慨していたが、「NECESSARY EVIL」のジャケットのコスプレをしていた女性2人組はかつてのこの仮装大賞でも表彰されていた人たちであったことを畠山はわかっていた。昔よりはるかに規模は縮小しているけれど、今でもずっと参加しては新しい仮装を考えて、毎年この日を楽しみにしているミイラズのファンの人たちがいる。そうした人生のようなものが毎年やっていると浮かび上がってくる。昔、O-EASTでやっていたときにステージに上がり、畠山に「可愛いな〜!」って言われていた子供たちは今どんな人生を歩んでいるのだろうか。もう中学生くらいになっているかもしれないが、ミイラズを聴いてくれているのだろうか。
そんなかなりの長尺となった仮装大賞が終わると、ラストスパートとばかりにライブ定番曲を畳み掛けていく。よくよく聴くと「プロタゴニストの一日は」あたりは「Let’s Go!!」の発展形と捉えることもできるだけに、「NECESSARY EVIL」がミイラズらしさを形成した部分も多分にあるのだと思うし、この日に演奏した「NECESSARY EVIL」の曲を聴いていると、畠山の歌い方や声が当時より変化していることがわかる。それは年齢を経たからこその変化でもあるが、こうしてライブを重ねてきたことによって畠山のボーカルは間違いなく進化してきた。それはもはやレコーディング当時のメンバーが畠山しかいないバンドもそうである。ケイゾーと真彦は次作の「TOP OF THE FACK’N WORLD」から今に至るまでずっとミイラズとして生きてきた。(「ハッピーアイスクリーム」からはMVにも登場している)
再現ライブや全曲演奏ライブというとどうしても振り返るという、後ろ向きな作業をしているような感じがしてしまうが、ミイラズにとってはそれは今の自分たちがかつてよりどう成長しているかということを確かめる機会である。できれば全作でそれをやってほしいと思うのだけれども、どうだろうか。思い出はいつもキレイだけどそれだけじゃお腹が空くから。
そしてラストはこれもハロウィンライブでは毎回のように演奏されてきた「いつまでたってもイスタンブール」。ハロウィンどころかクリスマスの曲であるが、それはハロウィンを通り過ぎればすぐにクリスマスの時期が訪れることを示唆している。でもミイラズもハロウィンだけじゃなくてクリスマスにもライブをやって、そのときにこの曲をやってくれてもいいのにな、とも思っていた。
しかしそれでもまだ終わらないのが今のミイラズ。ダブルアンコールに応えてメンバーたちが再度ステージに現れると、畠山がニューアルバムのリリースを告知。すでに配信リリースされている「氷世界☆アイスターズ」とのコラボ曲6曲に加えて、さらに「氷世界☆アイスターズ」にインスパイアされた6曲を加えた計12曲とのことで、先行リリース曲はかなり漫画の内容に寄ったであろうものになっていたが、アルバム全体でそれらはどんなストーリーを描き出すのか。アルバムリリースとなると当然ツアーなりなんなりのライブにも期待したくなってしまうのだが。
さらにはこれも近年恒例の節分ライブを来年は北浦和KYARAではなく(KYARAはなくなってしまうから)、渋谷の新しいライブハウスで開催されることを告知すると、最後に演奏されたのはやはり「CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい」だった。振り返ってみると「NECESSARY EVIL」の曲に代表曲を加えた内容という、実にわかりやすくバランスの良いものになっていたし、最後にこの曲を演奏していた畠山と真彦は実に良い笑顔を浮かべていた。もはやハロウィンライブはミイラズとファンにとっての感謝祭と言っていいイベント。畠山が去り際に
「また来年!」
と言っていたのは節分までライブがないからなのか、来年のこのイベントでの再会を約束していたからなのかはわからない。でも一つわかるのはミイラズがこれからも続いていくということ。それがなによりも頼もしく、嬉しかった。
ミイラズはもともとそんなにライブの本数が多いタイプのバンドではないが、ロッキンに出演したとはいえ今年は例年に比べてより一層少ない。そんなバンドであってもハロウィンの時期になれば毎年こうして会うことができるし、近年は節分でも会える。そうして毎年何回か会える場所を作ってくれている。そういう意味でもハロウィンライブはミイラズとファンにとってはただの1本のライブという以上の意味合いを持つようになってきている。
先日、グッドモーニングアメリカが活動休止することを発表した。それを見ていると、一度人気や売り上げや動員が下がり気味になってしまったバンドが再浮上するのは実に厳しいものであると感じざるを得ない。それは
「ミイラズは売れるためにやっている」
とかつて畠山が語っていたミイラズにとっても同様だ。
確かに今のミイラズはなかなか再浮上の兆しはない。フェスに出れるのもロッキンやCDJくらいだし、ファン以外から話題になることもほぼない。アルバムのリリースのニュースを伝えてくれるメディアもロッキンオンくらいだ。
でもやっぱりミイラズのライブでしか味わえない楽しさは間違いなくある。それはミイラズがこのメンバーたちだから感じることができるもの。できることならそれをこれからもずっと味わっていたいし、またいつかZeppクラスやフェスのデカいステージでミイラズのライブが見れる日が来ることを夢見ているし、信じている。
1.走れ魔法使い
2.check it out! check it out! check it out! check it out!
3.ふぁっきゅー
4.バタフライエフェクトを語るくらいの善悪と頑なに選択を探すマエストロのとある一日
5.WAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!
6.なんだっていい///////
7.三千世界よりロンドンスタイル
8.ぶっこ
9.XYZ
10.神になれたら
11.給付金貰って何買おう?
12.観覧車に乗る君が夜景に照らされてるうちは
13.マジかーそうきたか、やっぱりそうきますよね。はいはい、ですよね知ってます。
14.つーかっつーか
15.Let’s Go!!
16.イフタム!ヤー!シムシム!
17.ラストナンバー
18.5.5.5st
encore
19.ダガー
20.スーパーフレア
21.僕らは
22.プロタゴニストの一日は
23.いつまでたってもイスタンブール
encore2
24.CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい
文 ソノダマン