サンボマスター デカスロン 〜強敵と書いて友と呼ぶ〜 ゲスト:Fear, and Loathing in Las Vegas 新木場STUDIO COAST 2019.10.27 Fear and Loathing in Las Vegas, サンボマスター
デカスロンとは陸上の十種競技のことであり、100mや走り幅跳びに加えて砲丸投げや槍投げなどの種目の合計得点で競われる、「キングオブアスリート」を決めるものでもあると言われている。
サンボマスターの今回の対バンライブは全10箇所ということでその十種競技に当て嵌め、各地で「○○編」という競技名が振られている。この日の新木場STUDIO COASTでの「100m走編」のゲストはFear, and Loathing in Las Vegas。その音楽性的にもバンドの生き様としてもまさに100m走選手のようなバンドである。
・Fear, and Loathing in Las Vegas
記念すべきツアー初日のゲスト、つまりこの猛者揃いのツアーにおいて最初の音を鳴らすのが、某音楽番組で「なんちゃらラスベガス」というバンド名が長いが故のネタがバズったバンド、Fear, and Loathing in Las Vegasである。
17時にけたたましいSEが流れると、メンバー5人が走って登場して飛び跳ねまくる。このライブを待ちきれなかった、というようにも見えるし、サンボマスターの対バンという実にハードルの高いライブへの気合いを入れているようにも感じられる。
メンバーが楽器を構えると、金髪のSo(ボーカル)と黒づくめのMinami(ボーカル&キーボード)のフロントマン同士がイントロのサウンドに合わせてポーズを取り、「Return to Zero」からスタート。オートチューンを通したSoのボーカルが高らかに響き渡る中、Minamiは早くも客席に突入して煽りまくっていく。某音楽番組でそのキャラクターにスポットが当たったタンクトップギタリストのTaikiと長髪のベーシストTetsuyaもいきなり走り回りながら立ち位置を入れ替わったりというボーカル2人に負けないコンビネーションを展開しながらラウドなダンスロックを鳴らしていく。
タイトル通りにこのバンドの曲の中では爽やかさすら感じる「Jump Around」でメンバーも観客も飛び跳ねさせまくると、
「今日はデカスロンの100m走編っていうことで、俺は本当に100m走やれば山口さんに勝てる気がする(笑)」
とSoが笑わせながらも「Rave up Tonight」で再びMinamiとの見事なコンビネーションを見せながら間奏では2人で懐かしのパラパラのようなダンスを踊り、今年リリースの「The Gong of Knockout」、「LLLD」とひたすら狂乱のダンスパーティーを演出し、Minamiはステージよりも客席にいる時間の方が長くすら感じる。
そしてアニメのタイアップとしてこのバンドの存在を広く世に知らしめた「Just Awake」へ…と思いきや、どうにも音が足りない。どうやらTetsuyaのベースにトラブルがあったらしく、スタッフも出てきて調整するのだがなかなかすぐには音が出ない。しかしそんなことは意に介さず至って平然と他のメンバーは演奏を続けていく。そうすると髭を生やしている巨漢ドラマーのTomonoriが1人でリズムを担うことになるのだが、そうなったことによって逆にTomonoriのドラムの凄まじさがよくわかる。時には曲を口ずさんだり、舌を出しながら叩いたり、スティックを回したり。元々演奏が上手いバンドというか、そもそも演奏が上手くないと成立しない音楽をやっているバンドなのだが、そうしたトラブルがあることによって改めてそれが浮き彫りになる。曲の後半ではようやくベースから音が出るようになり、Tetsuyaも何事もなかったかのように演奏に加わっていく。きっと今までのライブでも何度となくこういうことがあって、このバンドなりのそうしたトラブルを乗り越える方法が「もう一回最初から演奏する」とかじゃなくてこういう手法だったのだろう。
客席はゲストバンドとは思えないくらいにダイブの応酬によって熱気が増していくと、
「いやー、いつも思うけどやっぱりサンボマスターのお客さんたちは本当に凄いし暖かい。じゃあ100m走のラストスパート!みんなもっと踊りまくって盛り上がってくれー!」
と言うとTaikiがメインボーカルを務め、SoとMinamiはダンサーかというくらいにエクササイズみたいなダンスをずっと踊っている「Party Boys」。そのダンスを観客が真似している様も実に面白いが、そもそもはギターが2人いるからこそTaikiが歌うという選択肢が出てきた上での曲だと思われるのだが、Sxun脱退後はTaikiは1人でギターを弾きながら歌うという形でこの曲を演奏している。代わりを入れるのではなくて各々がレベルアップを果たして乗り越えていく。Base Ball Bearもそうであるが、それができるのはギタリストの卓越した技術と不断の努力あってこそである。
そしてラストは「The Sun Also Rises」。自身の主催ライブではない、言ってしまうとアウェーな場(全然アウェーな空気はなかったけど)であるだけに「Love at First Sight」をやるのかと思っていたが、この曲を最後に演奏することによってこの日のライブと、これからの自分たちの道を照らし出しているように感じた。12月には2年ぶりとなるフルアルバム「HYPERTOUGHNESS」のリリースも控えている。様々な別れや悲しみを乗り越えたこのバンドだからこそ説得力を持つタイトル。これまでのアルバムもこのバンドらしいサウンドという意味では変わらない中に驚きの要素を散りばめてきただけに、果たしてどんなアルバムになるのだろうか。ラウドシーンの中でもかなり特異な位置にいて、その位置にいるなりの進化を果たしてきたバンドだけにフルアルバムが持つ意味はバンド自身にとっても、シーン全体にとっても実に大きい。
1.Return to Zero
2.Jump Around
3.Rave up Tonight
4.The Gong of Knockout
5.LLLD
6.Just Awake
7.Keep the Heat and Fire Yourself Up
8.Party Boys
9.The Sun Also Rises
Return to Zero
・サンボマスター
そしてサンボマスターがツアー初日のステージに。おなじみの「モンキーマジック」のSEでメンバーが登場すると、
「新木場ツアー初日行けんのかこのヤロー!」
と山口がのっけから煽りまくりながらイントロのギターフレーズを弾き始めたのは「可能性」。2015年に収録アルバム「サンボマスターとキミ」リリース後はよくフェスなどでも演奏されていたが、最近はあまり演奏される機会がなかっただけに久しぶりだ。山口は歌いながらも
「本当に初日こんなもんですか?」
と煽りまくる上、
「今日はハロウィンなんだから、みんなでロックンロールモンスターに変身しましょう!」
とタイムリーな煽りも入れてくる。ハロウィン真っ最中のこの日にこうしてサンボマスターのライブに集まっているという時点でここにいる人たちはみんなロックンロールモンスターである。
「ミラクルをキミとおこしたいんです」でも曲中に煽りを入れまくって完全にミラクルが起きる日になることを予感させながら飛び跳ねさせまくると、
「12年ぶりの曲やります!」
と言って演奏されたのはサンボマスター流のサンバらラテンなどのダンスミュージックの要素を取り入れた「very special!!」。リリース当時はライブでもよくやっていたが、もう12年も経つとは。もちろんまさかこの曲を聴けると思っていなかった客席は驚きと喜びの歓声を上げる。山口はアウトロで
「リリースするときにソニーの人に「これは売れないだろう」って言われたのを「売れるから!」って言って無理矢理出したら本当に売れなかった曲〜。だけどあの頃より俺たち上手くなってるし、俺もギター上手くなってるし〜」
と言ってかつてより進化したギターソロを決める。今聴いてもなんで売れなかったんだろうか、とも思う曲だけど、当時のサンボマスターのイメージ(「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」でブレイクした後)からはかなり離れた曲であっただけに受け入れられなかったのかもしれない。逆にバンドはそのイメージから抜け出そうとしていたような感じが当時はしていた。これだけのバンドじゃない、というのを新しい曲たちで証明するかのように。
さらに観客の腕が左右に揺れるのが壮観な「青春狂騒曲」とタイプも時期も異なるけれど同じ「サンボマスターのダンスナンバー」で「very special!!」と繋げてみせると、
「恥ずかしいくらいのことを言いたい、そして聞いてもらいたい!」
と聞き慣れない前向上の後に演奏されたのは「君を守って 君を愛して」。キーボードの音も入ったポップながら熱量溢れる曲であり、イントロの
「ウィーアー!」
のコーラスも大合唱が起こる。これもまた売れはしなかったけれど名曲シングル曲であり、特にCメロの
「流れ星が流れるまで 君と呼吸を合わせて」
という部分は本当にサンボマスターの曲の中でも屈指の美しさだと思っているし、その瞬間に暗くなる照明スタッフとの完璧な意思の疎通っぷりがそれをさらに美しいものにしている。普段のフェスやイベントでは誰もが知るような代表シングル曲を並べた鉄板のセットリストになることが多いのだが、それ以外にもたくさんの名曲があるということを久しぶりにライブで聴くと改めて感じざるを得ない。
すると山口が
「俺はお前らに言いたいことがある。令和になって、平成を生き抜いてきたお前らにも、令和に間に合わなかった人たちにも。それは、I Love You」
とここにいることを強く肯定しながらもこの場所にいれなかった、もう会えなくなってしまった人たちに語りかけるように演奏されたのは「ラブソング」。山口は歌い出しをマイクから離れてアカペラで歌うのだが、それでもしっかりと歌詞が伝わってくる。声量もそうだが思いの強さ、そしてそれまではモッシュ、ダイブ、ジャンプ、ダンスと盛り上がりまくってきた観客たちのこの曲の時の集中力の高さ。最後のサビ前には山口がかなり長い間を置いたのだが、その時も物音一つ立てずにみんなが山口が歌い出す瞬間を待っていた。山口の祈りが届くのを見届けるかのように。
そのまま山口が銀杏BOYZかのような轟音ギターサウンドを鳴らし始めたのは(実際に銀杏BOYZが好きすぎる山口だから影響は受けているのだろう)、「二人ぼっちの世界」。「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」が収録されているにもかかわらず濃密な内容となった「僕と君の全てをロックンロールと呼べ」に収録されている曲。この曲が入っていることによってどんなアルバムなのかがわかるようでもあるが、まるで世界の終焉後に残ったのが僕と君の二人だけであるかのような情景を山口のギターの轟音は映し出していく。ただ演奏が上手いだけじゃなくてそうした脳内に景色が浮かぶような表現力を持っているのがギタリスト・山口隆である。
先ほど山口は「令和に間に合わなかった」という表現をしていたが、この日の対バン相手であるFear, and Loathing in Las VegasもベーシストのKeiが令和になる前に急逝している。だからこそ山口は「ロックンロール イズ ノットデッド」をそのKeiに捧げると言ってから演奏した。
Soにも
「俺の100m走のスピードを甘く見るな!」
と言ったり、
「Tomonoriは本当に可愛い。見た目は強面だけど(笑)」
と言っていたり、山口はラスベガスのメンバーを本当に可愛がっている様子。いや、可愛がっているというよりはツアータイトル通りに「強敵と書いて友と読む」というように、年の離れた友達という感覚なのだろう。音楽性も全く違うバンドだが、ひたすらに盛り上がって楽しんで笑顔になって欲しいというライブのスタンスは確かに通じるものがある。
そして「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」で「愛と平和!」の大コールを起こすと、この日サンボマスターとラスベガスでミラクルを起こせたことを証明するかのような「できっこないを やらなくちゃ」。もはやフェスなどでもサンボマスターの最強の1曲目となりつつあるが、ワンマンだとやはりより凄い。観客みんながこの曲を完璧に知っていて、
「アイワナビーア、君のすべて!」
の大合唱が起こるからである。曲を知らない人でも巻き込めるのがサンボマスターの強さであるが、知ってる人の持っている力をさらに何倍にも引き出してしまうのもまたサンボマスターの強さである。
そして山口は観客に語りかける。
「お前らが今まで少しでもクソだったことがあるのか!?俺はお前らが普段何してるのかはしらねぇよ。でもお前らがクソなわけがねぇ!なんでわかるかって?お前らがこんなすごいライブを作ったからだよ!そんなお前がクソみたいなわけがねぇし、お前らが俺にどう見えてるかわかるか?俺にはお前らがとっても、輝いて見えます」
と言って演奏されたのは「輝きだして走ってく」。現状最新シングル曲であるこの曲では山口が歌い出した瞬間に木内泰史の叩くスティックに合わせて観客が手拍子をすると、山口は
「泣くんじゃねぇ笑え!」
と感動して涙を流してしまう観客たちにライブの時は笑っていて欲しいということを伝えながら、最後には
「Kei、松原裕…負けないで 負けないで」
といなくなってしまった友人たちに歌いかける。ラスベガスのメンバーたちはどんな思いや表情でサンボマスターのライブを見ていたんだろうか。ここまでずっと思い続けてくれる人はそうそういないはずだ。
フェスなどでは最近は「輝きだして走ってく」で終わっていたので、この日もこれで終わりかと思いきや、最後に演奏されたのは「孤独とランデブー」。かつては演奏は打ち込みで3人によるカラオケ的な形で披露されていたこともあったが、この日はしっかり全演奏。感動して泣きそうになることも多いサンボマスターのライブを笑顔で終わらせるという意味でもこの曲を最後に持ってきたのはアリだろう。この曲もかなり久々にライブで聴いたが、やはりサンボマスターの曲は定番曲以外も名曲ばかりであるということがワンマンに来ると改めてわかる。
アンコールではローディーのジローまでもがタンバリンを叩くというハッピーなムードの中でロカビリーテイストなダンスナンバーの新曲を披露。
「あなたは花束」
というサビのフレーズが強いが、「アカシアの花」などの名詞が登場する点などは初期の歌詞に近い部分も感じる。2019年はまだリリースがなく、おそらくは年内にもないだろうけれど来年早くも新作が聴けるんじゃないだろうかという期待が高まる。
そして最後に演奏されたのは「世界を変えさせておくれよ」でひたすらに盛り上がりまくるというラストになった。対バンライブとなるとワンマンよりは持ち時間が短くなるが、それであっても代表曲はすべて演奏しながらもライブで聴くのは何年ぶりになるんだろうか、という曲まで聴けてしまうという実に濃密な、そして山口も言っていたが次からどうなるんだ、というくらいに初日感の全くない、すでに極まっているツアー初日だった。最後には恒例の木内が山口のピックを客席に投げまくり、近藤洋一はサイン入りドラムパッドを客席にフリスビーのように投げたのだった。
サンボマスターのライブが凄いということは今まで数え切れないくらいに実感してきた。それでもやはり凄いと思えるのがサンボマスターだし、今のサンボマスターのライブからは圧倒的な「生」への肯定をもらえる。もちろん生きていたって良いことばかりではないというのはサンボマスターのメンバーたちもわかっているはず。
それでも生きてさえいれば、また会えるしこうやって生きていて良かったと思えるような夜をサンボマスターが作ってくれる。だからまだまだ生きていたいと思える。そしてそう思っている人が本当に幅広い年代に渡っていることに驚くし、子供が多くなっていることを理解してか、キッズゾーンというものが客席に設けられていた。小学生くらいからサンボマスターのライブを見れているなんてどれだけうらやましい家庭に育っているんだ、とも思うし彼らが今後どんな人生を歩むのかが楽しみにもなる。
やはり100m走もサンボマスターは金メダル級、全員優勝の一夜だった。
1.可能性
2.ミラクルをキミとおこしたいんです
3.very special!!
4.青春狂騒曲
5.君を守って 君を愛して
6.ラブソング
7.二人ぼっちの世界
8.ロックンロール イズ ノットデッド
9.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
10.できっこないを やらなくちゃ
11.輝きだして走ってく
12.孤独とランデブー
encore
13.新曲
14.世界を変えさせておくれよ
文 ソノダマン