UNISON SQUARE GARDEN TOUR 2019 「Bee side Sea side 〜B-side Collection Album〜」 市川市文化会館 2019.12.17 UNISON SQUARE GARDEN
先月の高崎に続いて、UNISON SQUARE GARDENのカップリングアルバム「Bee side Sea side」のリリースツアー。ツアーももはや終盤のこの日は千葉県の市川市文化会館。「Dr. Izzy」のツアーでもこの会場でワンマンをやっているが、自分が普段生活しているような場所のすぐ近くにこうしてユニゾンが来てくれるのは実に嬉しい。
市川市文化会館の入り口の前にはクリスマスツリーも設置されており、クリスマスが近づいていることを感じさせる中、18時半になると場内が暗転してイズミカワソラ「絵の具」のSEが流れてメンバー3人がステージに登場。基本的に出で立ちにも変化はないが、田淵智也(ベース)が半袖Tシャツにダメージのジーンズというのはここはホールじゃなくてライブハウスなんじゃないかと感じさせる。
基本的にツアーの公演なので流れなどは先月の高崎の時のレポも見ていただきたい。
「リトルタイムストップ」で始まるという流れ、というか先に言ってしまうとアンコールまで含めてセトリは変化なしという、ユニゾンらしいどこでも平等に、いつも通りというツアーでの姿勢を感じさせるのだが、どこか序盤は先月見た時よりも斎藤宏介(ボーカル&ギター)の歌もバンドの演奏も丁寧な印象であった。
しかし続く「セク × カラ × シソンズール」では田淵がベースを弾きながら激しく動き回るというユニゾンらしいライブになっていくのだが、
「急くから仕損ずる つまらない時代って言うけどさ
どうすれば面白くなるか考えるのは やるだけ無駄ではない」
は自分たちが楽しいと思えることをやって、それを見ている人たちにも楽しんでもらいたいというユニゾンの基本姿勢そのものな名フレーズ。カップリング集のインタビューで田淵は
「僕の歌詞はわかりづらいから、作詞家の人をつけようかと言われたこともあった」
という当時のエピソードを明かしていたが、そう言っていた人(レーベルスタッフ?)はなんて見る目がないんだろうかと思う。
「今日は本当にカップリングしかやらないから。覚悟はできてる?」
という人気曲や代表曲を一切やらないという宣言にも大歓声で応える観客たち。それはそうだ。みんなカップリング曲が聴きたくてこのツアーに来ているのだから。
カップリングというのはアーティストによってはシングルのタイトル曲ではできないような、遊び心を感じさせる曲も多いし、ユニゾンにも確かにそうした曲もあるのだが、「over driver」からはまるで毎回ライブで演奏している曲であるかのような、カップリングツアーであるということを忘れてしまうような熱狂っぷりに。
銃声とともに戒厳令下のような緊張感をサウンドで表現する「ピストルギャラクシー」ではメンバーそれぞれの位置にスポットライトが当てられているのだが、田淵が演奏しながらステージを動き回りまくることによってスポットライトが誰もいない場所を照らし続けているというのが実にシュールであり、実にユニゾンらしい。鈴木貴雄(ドラム)は早くも立ち上がってドラムを連打するのだが、その乾いたスネアの音の響きは実に力強くも心地良い。手数もライブになるとはるかに増えるタイプのドラマーであるが、速さや強さだけではないしなやかさも持ち合わせている。
先月の高崎の時は11月であれどそこまで寒さは感じなかったのだが、もはや季節は12月。寒い日も続いているだけに、じっくりと浸らせるような「スノウループ」はまるでこの時期にツアーが終わりを迎えることを見越していたかのような選曲であり、クリスマスツリーを入り口で見たからか、高崎の時よりもはるかに染みた。それはわずか1ヶ月であってもバンドがツアーを重ねてさらにカップリング曲たちが体に染みついているからというのもあるだろう。
最後に「けもの道」というタイトルにあるフレーズを3人が連呼しまくるカオスな「ここで会ったがけもの道」、シングル曲としてリリースされていたとしても全く違和感なく受け入れられていたであろう王道的なキャッチーさを持つ「ノンフィクションコンパス」と、ユニゾンのライブは本当にテンポが良い。全く曲間に無駄がないし、曲と曲を繋ぐようなアレンジによってより一層そう感じる。先発して完投すると試合が2時間くらいで終わるというテンポの良さを発揮していた、ロッテ在籍時のエリック・ヒルマンのピッチングを彷彿とさせるくらい。
そんな中で斎藤が
「みんな知らない曲ばっかりでしょ?
でも僕らは熱心なファンの人にはなんの心配もしてないんです。どんなことをしても楽しんでくれるってわかってるから。
ただ、今日友達に連れてこられて「あのアニメの主題歌やってる人たちか」くらいの感じで見に来た人からしたら全く知ってる曲がない(笑)
昨日の夜とかにYouTubeで「こういう曲なんだ〜」って予習したであろう曲を全くやらないから(笑)」
と笑わせながらもこのツアーに来ている人たちへの強い信頼を感じさせるMCをすると、
「カップリング曲の人気投票をやったんです。その31曲の中で映えある30位に輝いた曲を」
と紹介されたブービー曲「三月物語」ではステージ背面にカップリングアルバムのキービジュアルである大きな満月が現れる。その満月は円柱状の照明しかないというホールらしからぬシンプルな雰囲気のステージの景色を一瞬にして変えてしまっていたし、音数が絞られた「三日月の夜の真ん中」はそのサウンドにこの演出が実によく似合っていた。帰りに歩いている時にこの曲を聴きながら満月が見れたらいいなと思うくらいに。
そのアウトロでは鈴木の超人的なドラムソロも披露されるのだが、凄まじい技術で大歓声も起こしながら、スティックを素振りしたりして笑いをも取れるというのは実に鈴木の人間性をよく示している。音やステージでの姿がそのままメンバーの人間らしさを感じさせるというのがユニゾンというバンドなのである。
そのドラムソロは「三日月の夜の真ん中」のアウトロと「サンタクロースは渋滞中」のイントロを繋ぐという実に重要な役割を果たす形で披露され、カップリング曲人気投票の1位に輝いた「スノウリバース」ではやはりイントロが鳴らされた瞬間に大きな歓声が上がる。
ユニゾンはかなりひねくれているというか、自分なりの美学をしっかりと持って活動しているバンドであるが、こうしてファンが選んでくれた曲を毎回やるというあたりは実に素直なバンドだとも思う。それは期待に応えたいとかそうした受け身的なものでもないとも思うけれど。
「シグナルABC」からはラストスパートへ。ユニゾンのカップリング曲は決して地味な曲ばかりというわけではないけれど、今回のツアーのセトリは聴き入るようなタイプの曲も多く演奏されているだけに田淵の動きがわりと大人しめに感じる人もいたかもしれないが、ここらあたりからはこれでもかというほどに動き回りまくり、ベースをぶん回しながら自らも回転してみせる。
そんな中で「ラディアルナイトチェイサー」と続くとバンドの演奏は先月よりもさらに走っているというか、楽しさがそのまま演奏のスピードに繋がっているかのように速くなっていき、「I wanna believe、夜を行く」ではAメロ部分でバスドラを蹴る鈴木が脱いだジャケットを放り投げてTシャツ姿になると、斎藤サイドの奥の方まで動いた田淵はコーラス部分でマイクスタンドに戻ることができないという自由っぷりで音楽を演奏するという行為を心から楽しませてくれる。
そしてラストの「Micro Paradiso!」では間奏部分で田淵と斎藤が重なるようなフォーメーションになると、なんとEXILE「Choo Choo Train」のイントロのようなダンスをしながら演奏。まさかユニゾンのライブでこんなステージの光景が見れるなんて。さらに田淵はうさぎ跳びをしながらベースを弾いて斎藤の前を横切っていき、視界が実に忙しい。
しかしこのパフォーマンス、高崎の時は全く違うものだった。同じ曲を演奏しても全く同じようにはならない。その日、その時限りのものを見せてくれる。だからユニゾンのライブはセトリが同じツアーに何公演行っても飽きない。市川という土地に触れることもなかったけれど、このライブは間違いなくこの日、市川市文化会館だからこそ見れたものだった。
アンコールでは斎藤と田淵がツアーTシャツに着替えて登場すると、その2人のサビでのボーカルとコーラスが美しく絡む「5分後のスターダスト」を演奏し、斎藤は
「カップリング曲だけをやるライブというのは頭がおかしいし、それで全国ツアーを回るっていうのも頭がおかしい。
僕らは今年15周年を迎えて、珍しくお祝いされるようなことを自分たちでやってきたんだけど、来年以降に通常営業に戻った時のUNISON SQUARE GARDENはもっと良いバンドになっていると思う」
と15周年イヤーを駆け抜けてきた感慨と、これからの意気込みを語り、演奏中に斎藤がイヤモニを外して歌った「さわれない歌」から、ラストの「ラブソングは突然に 〜What is the name of that mystery?〜」では鈴木が突如としてTシャツを頭から被るような形で前が見えないであろう中でも完璧にドラムを叩いてみせるのだが、その姿はなんだか見たこともないような生き物がドラムを叩いているかのようであった。演奏が終わった後の鈴木は涼しい顔をしていたけれど、こんなことをやる人はいないというか、こんなことをやろうとする人がそもそもいない。ユニゾンはやっぱり変なバンドだ。他のどのバンドとも似てないと思うくらいに。
かつてOasisがB面集(まだレコード文化だったからこそカップリングではなくてB面という呼び方だった)「The Masterplan」をリリースした際、「Oasisの真髄はB面にあり」と称賛された。
ある意味ではユニゾンの「Bee side Sea side」もそう言えるものなのかもしれない。タイアップや策略、アルバムのバランスなどを考えずに曲を作り、収録することのできるカップリングという立ち位置の曲は真髄となるのかも。
それにユニゾンはずっとカップリング曲をシングルに2曲以上収録してきた。それがこうしたクオリティの曲ばかりだったから、毎回シングルを買うバンドとなった。今でこそストリーミングなどが音楽を聴く主流になってきているため、カップリングという概念自体がもしかしたらCD世代ならではのものなのかもしれない。
でもユニゾンがこうしてカップリングにたくさんの名曲を残してきたからこそ、カップリングという概念や立ち位置はまだまだなくならないでいて欲しいと思う。それはそのままユニゾンのシングルを手に取ることができる喜びになるのだから。
しかし田淵はかねがね、
「カップリング曲は基本的にライブでやらない」
と宣言してきた。もしかしたらこうしてライブで聴けるのはこれが最後の機会となる曲もあるかもしれない。でもせっかくこうしてライブで演奏できて、それをもって普段と変わらない規模のツアーを回れて、みんなが心から楽しんでいるのだから、これからも少しずつくらいはライブで演奏して欲しいと思う。この歌たちにまたさわれるように。
1.リトルタイムストップ
2.セク × カラ × シソンズール
3.flat song
4.over driver
5.ピストルギャラクシー
6.ギャクテンサヨナラ
7.僕は君になりたい
8.スノウループ
9.ここで会ったがけもの道
10.ノンフィクションコンパス
11.三月物語
12.三日月の夜の真ん中
13.サンタクロースは渋滞中
14.スノウリバース
15.シグナルABC
16.ラディアルナイトチェイサー
17.I wanna believe、夜を行く
18.Micro Paradiso!
encore
19.5分後のスターダスト
20.さわれない歌
21.ラブソングは突然に 〜What is the name of that mystery?〜
文 ソノダマン