PK shampoo
時速36km
CRYAMY
SUP
Mega Shinnosuke
という若手バンド主体のイベントに、もはやベテランである
The Mirraz
ircle
というもはやベテランと言っていいバンド2組がゲストとして出演する、渋谷CLUB QUATTROでのイベント。なぜこのメンツの中で呼ばれたのかはわからないが、ミイラズを呼んでくれたことには感謝である。
ギリギリにチケットを取ったので整理番号が遅く、入場した時にはすでにオープニングアクトのSOMETIME’Sが最後の1曲になっていた。
ギターのカッティングを中心として、キーボードを入れた都会的なサウンドの5人組バンドというのは今のインディーズシーンのトレンドの一つと言えるが、ほかの出演バンドを踏まえるとこのイベントの中ではかなり異質と言える中で出演したのはロックバンドとしてのグルーヴがしっかりとあるからだろうなと。
・Mega Shinnosuke
そのアーティスト名から、キュウソネコカミのファンからも局地的な注目を浴びているソロアーティスト、Mega Shinnosukeがこの日のトップバッター。基本的にミイラズとircle以外はライブを見るのが初めてなので、どんな形でのライブになるのかも楽しみである。
サウンドチェックから本人が登場すると、ギター、ベース、ドラム(ex.tricotのkomaki♂)というサポートメンバーを携えたバンド編成。金髪でこそあるが、Mega Shinnosuke本人の顔はまだ19歳と言われて納得せざるを得ないくらいに幼さを感じる。
Mega Shinnosukeがハンドマイクを持ってステージを緩く歩き回りながら歌う「Wonder」からスタートし、一転してギターを鳴らしながらハンドクラップを煽る「憂鬱なラブソング」、再びハンドマイクに持ち替えると、客席のミラーボールが輝くのがムーディーな「桃源郷とタクシー」と、本人が飄々とした雰囲気というのもあってレイドバックしたというかチルなサウンドがよく似合うのだが、そんなMega Shinnosukeはつい4日前まで喉からくる高熱のために入院生活を送っていたという。動くことすらできず、お粥しか食べれないような生活の中で思ったのは
「歌いたい」
ということであり、覚悟を持って音楽を始めたわけではない自分が改めて音楽という存在と向き合うきっかけになったという。
そんな中で
「今日はロックンロールなバンドばかり出ていて、俺は異質な感じなんですけど、ロックンロールな曲もあるので」
と言って演奏された「明日もこの世は回るから」はその通りにチルな空気は全く感じないようなロックサウンドである。
1stミニアルバムに「桃源郷とタクシー」が収録されている通りに、デビュー時はそうしたタイプのアーティストだと思っていたが、「明日もこの世は回るから」が2ndミニアルバムに収録されたことにより、そのイメージは少し変わってきている。同世代のbetcover!!がインタビューで
「もはやチルしてるような時代じゃない」
と発言し、長谷川白紙がそれに同意しているだけに、その感覚はこの世代のアーティストが共通して持つようになったものなのかもしれないし、もしかしたら今の日本の社会がそう思わせてしまっている方向に進んでいるのかもしれない。
「次で最後の曲です」
と言った後に「え〜」という声が聞こえなかったことに対して、
「イヤモニしてるから「え〜」が聞こえなかったのかと思ったら、シンプルに誰も言ってなかったから聞こえなかった(笑)
最後に19歳になって最初に作った、まだライブでやったことのない曲をやります。病み上がりでそんなことをする俺の意気を見てくれ!(笑)」
と皮肉を含みながら返すと、最後に演奏されたのはノイジーなギターサウンドの上にボーカルが乗るラブソング「甘ったるい呼吸」。ラブソングにこのタイトルを、この歌詞を乗せるその感覚というセンスというのは実に面白いし、
「また絶対ライブ来てくださいよ!」
という言葉からは1人でベッドルームで生み出した音楽であっても、そこで完結させるつもりがないことを示していた。
1.Wonder
2.憂鬱なラブソング
3.桃源郷とタクシー
4.明日もこの世は回るから
5.甘ったるい呼吸
・時速36km
前にミイラズがワンマンでこのイベントに出る告知をしていた時に、バンド名を聞いたギターの佐藤真彦が「そこまで速くない」という素朴すぎる感想を口にしていた、時速36km。
メンバーがステージに登場すると、仲川慎之助(ボーカル&ギター)がマイクに噛み付くかのようにして
「なんか違うから悲しいし虚しいし」
とサビのフレーズをギターを鳴らしながら歌う「七月七日通り」からスタート。オギノテツ(ベース)は演奏しながらマイクを通さずに
「時速36kmです!」
と挨拶するのだが、石井”ウィル”開(ギター)も含めてフロントの3人が何度となく楽器を抱えたままで高くジャンプする。
仲川のボーカルはメロディを歌う際は歌詞からも情景を想起させ、叫ぶようにする部分では焦燥感を強く感じさせる。ノイジーなギターによるロックサウンドはアメリカで生まれたオルタナと呼ばれるタイプのものだし、そもそもロックというものが海外で生まれたものであるが、そうした仲川のボーカルとバンドの演奏からはeastern youthのような、絶対に日本からしか生まれないロックバンドらしさを強く感じさせる。
そういうバンドは得てして音源よりもライブの方が良かったりするのだが、このバンドもそれに違わず。というか音源の音質的に、こうして見るまではこんなに良いバンドだとは思っていなかった。そう思わせられるくらいに鳴らす音や、ステージを暴れ回りながら演奏する姿からは強く感情が込められていて、そうした部分をライブハウスに出まくることによって磨いてきたんだろうということがよくわかる。
普段は仲川がMCということだが、やたらと忘れっぽいということもあり、この日はオギノが告知MCを担当。東名阪を回るツアーのうち、名古屋に出てくれるゲストがこの日出演するPK shampooに決まったことを明かすと客席からは大きな歓声が起こり、仲川は
「「曲は人に聞かれることによって完成する」って言っていた人がいて。藤原基央(BUMP OF CHICKEN)なんだけど。俺は藤原基央大好きで、そういう発言とかも全部チェックするくらいなんだけど、その発言だけは否定的だった。1人で曲作るだけでも楽しいじゃん、って。
でも最近になって、ようやく俺もそれがわかった。わかったのはこうしてライブに来てくれたり、曲を聴いてくれるあなたたちがいるからです。今まではずっと愚痴みたいなことばかり歌詞にしていたんだけど、あなたたちに向けて歌詞を書いた曲を」
と、すでに汗にまみれすぎて息を切らしながら言葉を紡ぐ仲川が観客への感謝を告げて演奏されたのは「クソッタレ共に愛を」。
この「クソッタレ」というのは聴き手のことであるが、例えば[Alexandros]の川上洋平もファンをそう呼ぶことがあるように、素直にはなれないからこそそうして愛すべき人たちのことを「クソッタレ」と呼ぶ。そしてその言葉がエモーショナルなギターサウンドに乗ることによって説得力を帯びていく。しかもただ激しいだけではなくて、松本ヒデアキのドラムを見ていても、しっかりとした演奏技術があるからこそこうしたライブができているということがよくわかるバンドである。
そしてラストの「夢を見ている」ではダイバーが発生する中で、仲川がボーカルのみになるラスサビ前でマイクを離れると、
「夢は砕ける前が一番綺麗なはずだろう
夜は夜明けの前が一番暗いって言うだろう」
というフレーズで大合唱が起きる。観客が確かにこのバンドのことを、この曲のことを知っている。そしてこの曲に自分自身の感情を預けることができる。すでにこのバンドはそんなバンドになっている。
「音源よりもライブの方が良い」と先に書いたが、なんなら1万倍くらいライブの方が良かった。
時速36kmというのは広くない40km制限の道を走るという、車にしてはゆっくりな速度であるが、このバンドは車ではなくて自身の足でそのくらいの速さでシーンを駆け抜けていくようになるかもしれない、とすら思えた。
1.七月七日通り
2.動物的な暮らし
3.銀河鉄道の夜明け
4.クソッタレ共に愛を
5.夢を見ている
・ircle
初めてライブを見るバンドが多いだけに、すでに何度かライブを見たことがあるこのバンドがいることになぜか安心感すら覚える、ircle。ゲストという枠での出演である。
ステージに登場すると河内健悟(ボーカル&ギター)が、
「今日はなんか燃えるー!」
と言ってから「ラストシーン」でスタートしたのはいつもとは違う、はじめましての人がたくさんいる場所でのライブという、言ってしまえばアウェーという環境だからこそというのが大きいのだろう。
ちょっと前までは「ジョン・レノン」とも形容されていた仲道良(ギター)はさらに髪が長く、しかも鮮やかな金髪となり、伊井宏介(ベース)は客席で拳が上がるのを見て嬉しそうな顔を浮かべ、ショウダケイト(ドラム)は実に安定感のあるリズムでバンドを支える。だからこそ河内の魂の咆哮のようなボーカルがしっかり音楽に乗るのである。
「名前は知ってたけど初めて対バンするバンドが多いから楽しみ。時速36kmもカッコ良かったしな」
ともはやベテランと言っていいような立ち位置になってもライブハウスでの対バンを楽しめるというのはずっとそうやって生きてきたからこそであるが、新曲の「エヴァーグリーン」ではタイトル通りにベテランということを感じさせない、ロックバンドを始めた時のような初期衝動を強く感じさせるし、今でもこのバンドはそうした空気を纏っている。
河内が「セブンティーン」のタイトルを告げると歓声と拍手が起こっていたことから、初めて見る人が多いであろう観客がこのバンドの音楽を認知していることがわかるが、そうして駆け抜けるように曲を連発した後に河内は汗を流して息を切らしながらも、
「今日のバンドの中で俺たちが1番じゃなくてもいい!でもそんな俺たちがあんたらの幸せを願ってもいいじゃろう!手洗いうがいをして、健康でいてくれることを願っていてもいいじゃろう!」
と大分出身なだけに訛りを感じる河内が真っ直ぐに観客への想いを吐き出す。それは幸せであったり、健康でさえあればまたこうして会えるということを決して短くはないバンドの歴史の中で知ってきたからだ。それと同時に会えなくなってしまった人がいるということも。
だからこそ最後の「アンドロメダの涙」は河内が持つロマンチックさを感じさせながら、どこか再会を約束するように響いていた。このバンドにはそう感じるような、こうしてライブの最後に演奏されるのが似合う曲が他にもたくさんある。そうした再会を思って作った曲が多いということであるし、実際に自分自身そうしてこのバンドのライブを何回も見てきたんだよな、と改めて思う。
このバンドは夏のMURO FESに毎回出演しているし、そこでは他の大きなフェスに出演していないことが不思議になるくらいのライブを見せている。そこにはやはり思いの強さみたいなものが宿っているからこそだと思うが、この日の若手オルタナバンドたちの姿を見ていると、決して売れているバンドなわけでもなければ、シーンの中で巨大な存在感があるバンドでもないけれど、このバンドの鳴らす音や生き様が作ってきた道も確かにあるよな、と思う。
1.ラストシーン
2.バタフライ
3.瞬
4.エヴァーグリーン
5.セブンティーン
6.アンドロメダの涙
・CRYAMY
ライブが始まる前から、それまでとは空気も客席の密集率も少し違っていた。そう感じるくらいに、このバンドへの期待度が場内に渦巻いていたということである。
先にステージにはフジタレイ(ギター)、タカハシコウキ(ベース)、オオモリユウト(ドラム)の3人が登場してフジタのギターを中心とした轟音サウンドが響き渡ると、ステージに現れたカワノ(ボーカル&ギター)はそのまま客席にダイブ。ステージに戻るとギターを手にして「ten」「crybaby」と畳み掛けていくのだが、そのカワノの姿に呼応してか、客席でもダイバーが続出する。
ircleの仲道とはまた何か違うスタイリッシュさのある金髪ロングの髪を振り乱しながらギターを弾くフジタの姿は実に絵になるし、一方でタカハシはステージ前に出てきて曲を口ずさみながらベースを弾く。オオモリはそんなエネルギーに満ちたメンバーの中においてはやや冷静にドラムを叩いているように見えるのだが、黒いシャツに顔を覆うくらいの長い黒髪のカワノは、
「私はカス人間なので、皆さんに偉そうなことを言うつもりは毛頭ございません!でもこれだけ明るくてたくさんの人がいる渋谷という街にいても、どうしたって寂しさを感じてしまう!そんな寂しい夜というものは人生において誰しもにやってくるものだと思っています!」
と思いつくままに言葉を並べていくように見えるカワノであるが、その言葉は次に演奏する曲を修飾するかのような効果を持っている。MVを一回見ただけでこのバンドが只者ではないことがよくわかる「月面旅行」も
「世界が毎日変わっても 誰かは他人と暮らしても
よほどのことではない限り誰も死なずに済んでいる」
という、ビックリするくらいの大合唱が起きたフレーズも寂しいという感情によって呼び起こされたものであるということがわかる。
ライブになると轟音すぎてなかなか歌詞が聞き取りづらいところがあるのだが、「プラネタリウム」「世界」というあたりの曲はカワノのロマンチックさを感じさせるし、轟音の中に輝くメロディの美しさを確かに感じることができる。
これだけこの日期待や支持を感じさせた最大の理由はそのメロディの美しさがあるからこそだが、それにしてもカワノの曲前の語り方からは、銀杏BOYZの峯田和伸や、神聖かまってちゃんのの子のように、音楽をやっていなかったら普通に社会に順応して働いている姿が全く想像できない。そういう意味では音楽に選ばれた存在だと言えるのかもしれない。
そしてカワノは
「私は今25歳ですが、色んなものに守られて生きてきました。子供の頃は母親に、いじめられていた時は先輩に、東京に出てきてからはメンバーやスタッフに。今我々を守ってくれているのは、あなたです。こうしてライブを見にきたり、CDを聴いてくれたり、今までのライブを見てくれたあなたに我々は守られているんです。
だから我々もあなたを守りたい。悲しくなったりしたら、またいつでも来なさい。我々があなたを守ります。守り合って、生きていきましょう」
と独特の言葉選びで観客への感謝を告げると、「ディスタンス」「テリトリアル」とラスト2曲を連発。破綻しそうなくらいの暴れっぷりと轟音であったが、決してそこまでいかないのは技術もさることながら、メンバーの信頼関係による阿吽の呼吸によるものだろう。
最後にカワノはギターを客席に放り投げ(ネックをキャッチした観客の上手さ)てから客席に再びダイブをした。終わった後には泣いている女性がいたくらいに、とんでもなくやかましくてとんでもなく美しいロックが鳴っていた。そして何よりも普通の人とは少し違うからこその人間らしさというものを強く感じさせた。このバンドは間違いなく新しい時代のライブモンスターだ。クリーミーというバンド名とは裏腹に、全くマイルドじゃない。口に入れたら、音楽を聴く上での感覚が全て研ぎ澄まされる劇薬のようだ。
1.ten
2.crybaby
3.月面旅行
4.プラネタリウム
5.世界
6.ディスタンス
7.テリトリアル
・The Mirraz
CRYAMY目当ての観客が多かったからか、客席はそれまでと比べてかなりスペースに余裕が生まれていた。それは仕方がない。やはりどこかアウェーというか、もしかしたらバンドの存在すら知らないような人もかなりいるだろうから。
そんな状態の中で最近畠山承平(ボーカル&ギター)がハマっているというアイドルオタクのアニメの主題歌っぽいSE(見てないからわからないが)で登場したThe Mirrazはしかし、白いロンTに金髪、さらにサングラスをかけた姿があまりにも見た目としてカッコ良すぎる畠山を筆頭に、この日のライブを楽しみにしていて、実際に楽しんでいるというのがよくわかるくらいに笑顔を浮かべている。バックステージで浮いていたりしてなさそうで良かったと思うし、昔みたいにマイナスな感情を持ってステージに上がることがなくてまずは一安心である。
ライブは「check it out! check it out! check it out! check it out!」からスタートし、ミイラズ特有の性急な、言葉数の多いギターロックを畳み掛けていくという持ち時間の短いイベントならではのものであるが、こうして若手バンドの中に混じったミイラズを見ていると、同じスタイルや影響を強く受けていそうなバンドがあまりいないことに気づく。それはもしかしたらミイラズ的な音楽がルーツにないということかもしれないけれど、この歌詞の情報量の多さはなかなかできることではないということとも捉えることができる。
モッシュも全然起こらないのが少し新鮮である「ふぁっきゅー」、後ろの方からもイントロで歓声が上がったのが聴こえたので、実はこの曲は思っているよりもミイラズの代表曲として認知されているのかもしれないと思う「スーパーフレア」と続いていくのだが、この日は真彦(ギター)とケイゾー(ベース)のコーラスのマイクの音量がかなり小さく感じた。それはドラムを全部バラして組み直すことをしないが故に10分くらいという短い転換時間でイベントを回している(とはいえサウンドチェックでも曲を演奏していたが)という事情もあったかもしれないが、昼に聞いた田淵の説明会のことを思い出すと、転換時間が短いということはこうしたことが起こる可能性も多々あるということだろうか。
なので「ラストナンバー」も
「ふざけんなってんだ」
のフレーズで1番聴こえるのは畠山の声、というか観客の声も含めて他の声はあまり聴こえないというあたりに、最近はワンマンなどのミイラズのファンばかりいるホーム的な場所で見ることが多い(ロッキンですらこの日に比べたらアウェー感は強くなかった)だけに、近年あまりないくらいのアウェー感の強さだったが、逆に全然ミイラズを知らない人たちにもライブを見て、曲を聞いてもらうことができたチャンスだったとも言える。若手バンドのファンの方たちがミイラズを見てどう思ったのかは気になるところであるが。
MC一切なしでひたすら曲を演奏するという近年のライブスタイルによって畠山の言葉の鋭さと実は歌唱力の高さがあることがわかる「僕らは」の曲のカッコよさは見てくれている人に伝わって欲しいなと思うし、先日キュウソネコカミが地上波の音楽番組に出演した際にヤマサキセイヤが「影響を受けた音楽」として名前を挙げてくれた「僕はスーパーマン」も同様。セイヤは決して年齢的には若くはないけれど、キュウソのファンの若い方たちがそうした話をきっかけにミイラズと出会ってくれたらな、と思う。
その「僕はスーパーマン」では畠山がステージ前に出てきてギターを弾き倒すという、メンバーは実に楽しそうだ。というか近年のミイラズはこうしてライブができることを心から楽しんでいるように見える。だから我々もその姿を見てより一層楽しくなる。Zeppが即完したり、CDJのGALAXY STAGEの年越しを務めていたりした7〜8年くらい前よりも、今の方が本当に楽しいと思える。
MCなしなので、4/25に行われるワンマンライブのことだけをサラッと言ってからケイゾーがイントロのベースを弾き始めたのはやはり「CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい」。この曲だったか、途中でまのたかしのドラムの音が一部出なくなったのはスティックを落としたりしていたからなんだろうか、とも思ったが、わずか30分の出演、しかもかなりのアウェーさであっても、ミイラズのファンとしてはこうして見れて良かったと思える。こうしてイベントに呼んでもらってライブが見れることも、今はそうそうないのだから。
今年になり、グッドモーニングアメリカが活動休止し、東京カランコロンが解散を発表した。ともにミイラズよりも後にシーンに登場し、ミイラズと同じくらいの規模感まで行ったバンドたち。ともに近年は動員が昔より落ちてしまっていただけに、一度下りに入ってしまうと再浮上するのは本当に難しいし、たまに「バンドの賞味期限」的な言及をされているのも見る。
確かにミイラズも昔に比べたら動員ははるかに少なくなったけど、賞味期限が切れたなんて全く思わない。こうして勢いのある若手バンドに混じったライブを見ても、曲を聴いていても、今でも本当にカッコいいバンドだと思うから。
リハ.WAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!
1.check it out! check it out! check it out! check it out!
2.ふぁっきゅー
3.スーパーフレア
4.ラストナンバー
5.僕らは
6.僕はスーパーマン
7.CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい
・SUP
最近またそう思うバンドが多々いるが、このバンドもまたなかなか検索しづらいバンド名である。
トリ前というスロットに登場したのは、イオリ(ボーカル&ギター)、マエダアキトモ(ギター)、ハヤシカズヤ(ベース)、サンキューしらつち(ドラム)の4人組バンド、SUP。
マエダの空間的なギターによってどっぷりと浸るような、それこそ目を見開いてステージを見るというよりは、目を瞑って音に身を任せる方が似合うかのようなサウンドからスタートしただけに、オルタナバンドが居並ぶこの日の出演者の中でも、イオリのボーカルが聴き取りやすいことも含めて、少し異質なバンドなのかな?とも思ったのだが、それは違う意味でその通りであった。
立ち上がりこそそうしてゆったりと始まったが、かと思えば急にギターがノイジーになったり、そのギターはマエダだけでなくイオリがリードギターに転じたりと、1曲の中で実に展開が多い。
「QUATTROのステージからこんな景色が見えるんだ!最高!楽しい!」
と演奏中とは違ってMCでは無邪気に喜びを爆発させ、飛び跳ねたり両腕を高く挙げたりするイオリのボーカルも、メロディに抑揚がないような、説法やお経のようにも聴こえるのにしっかり感情が込められているという、どこか不思議なというか、捉え所がないバンドである。
なのでシューゲイザーやドリームポップ的なサウンドの曲もあれば、この日ともに名を連ねているのがよくわかる、時速36kmと共振しているかのような轟音オルタナ曲もある。淡々とリズムを刻むハヤシと、ハーフなのか、外人のように見える顔で嬉しそうに客席を見渡してドラムを叩くサンキューしらつちらメンバーの演奏も曲によって全く表情を変える。
なので観客のノリも曲によってだいぶ変わってくるのだが、他のオルタナバンドとは違って、決してフィジカルとして楽しむようなバンドではないのだけれど、イオリが汗を流しまくっている姿からはオシャレなバンドでも全くないことがわかる。
3月には初のフルアルバムがリリースされるということで、それを聴けば捉えようがないように感じるこのバンドの全容が少しはわかるようになるのだろうか。
・PK shampoo
長かった1日ももうトリ。途中まではかなり時間が押していたように感じていたが、気づいたらほとんどオンタイムで始まるというのはどんな進行の仕方だったんだろうか。
この日のトリは大阪の4人組バンド、PK shampoo。カズキ(ドラム)、にしけん(ベース)、カイト(ギター)の3人が先にステージに登場し、最後にコカコーラのジャンパーを着用し、長い髪の先端だけを緑色に染めてサングラスをかけているという出で立ちからしてどこかカリスマ性を感じるヤマトパンクス(ボーカル&ギター)がビール瓶を持って登場し、
「今日のラスボス、PK shampooです」
と言って演奏を始めると、その瞬間にCRYAMYのカワノとフジタが袖から走ってきて客席にダイブ。いきなり!?と思っていると、カワノはヤマトが床に置いたビール瓶を持って走り去っていくのだが、その後も何度もダイブしまくることにより、それに負けじと観客も次々にダイブしていく。その光景はなんだか実に楽しそうであった。
前半はこちらもサングラスをかけているけれども、カリスマというよりもどこか関西のお笑い芸人のように感じてしまうカイトのギターを中心にした、アッパーな曲が続くのだが、ヤマトの見た目の派手さとは裏腹に、衒いのない言葉とシンプルなサウンドの、オルタナというよりはストレートなギターロックバンドと言っていいかもしれない。ヤマトは
「みんな夕方15,16時くらいからずっといるんでしょ?俺だったらとっくに帰ってるね。っていうかそもそも来ないね(笑)」
と関西人らしいひねくれたMCをしたりもするが、音楽自体は実に正統派であり、それはにしけんが見た目からしてBUMP OF CHICKENのチャマこと直井由文のような金髪にデカめのTシャツを着ているというところから影響を受けている部分もあるのかもしれない。
途中からはCRYAMYのメンバーだけでなく、時速36kmのメンバーすらもステージからダイブをしまくるというもはや公開打ち上げみたいなノリにすらなりつつある中、
「なんか最初はライブライブ!っていう感じの曲ばっかりやってたけど、僕らそんなバンドじゃないんですよ。終わった後にげっそりするような曲ばっかりやりたいバンド、PK shampooです。よろしくお願いします」
と言うとミドルテンポの「星」でそれまで以上にメロディと歌を強く前面に出すのだが、CRYAMYしかり時速36kmしかり、現実を捉えながらも、これらのバンドのソングライターはみんなロマンチストだ。星や月など、これまでに何度となく歌詞に使われてきた単語を自分なりの視点で歌にする。そのロマンチックというのはこれからのシーンで大事なキーワードになるのかもしれない。
あっという間に本編を終えると、アンコールではカイトがなんの前触れもなく上半身裸で登場して観客が少しざわめく。彼なりのトリ、アンコールをもらったからの気合いの入れ方なんだろうか。
そしてヤマトは
「僕は普通に学校に行って、大学にも電車に乗って通って留年して(笑)音楽で何かを変えてやる!とか思ってバンドを組んだわけでもないんですけど、今日はなんか、バンドをやっていてよかったって思いました。そんな大学でバンドを始めた時の景色を書いた、大事な曲を最後にやらないと終われません」
と言って演奏された「京都線」では途中で瓶ビールを強奪したCRYAMYのカワノを呼び寄せてギターを渡してかわりに歌ってもらい、ヤマトはその間に客席にダイブする。それに呼応するかのようにまたしてもこの日の出演者たちが次々にステージからダイブしていく。
その全員の楽しそうな顔を見ていて、そういう瞬間、場所を作れるこのバンドが、もしかしたらこれから先に新しいシーンの中心になっていくのかもしれない、と思った。Hi-STANDARDしかり、アジカンしかり、フォーリミしかり、シーンを作るバンドの周りには凄いバンドたちが集まる。そのシーンの萌芽みたいなものがこの日のPK shampooのステージからは確かに感じられた。
ヤマトはMCでこそ偽悪的に感じるようなことを言ったりもしているけれど、自分が見てきたものや感じてきたことをそのまま歌うというスタイルも、最後にこの日の出演者全員の名前を口にするところからも、実は素直な好青年なんじゃないだろうかと思う。その人柄によって周りに凄いバンドたちが集まっているところは間違いなくあるはず。そうしたことが、ライブを見ていて確かに感じられる。これからいろんな場所で会うことになるバンドになる予感がする。
この日の出演者、特に若手バンドは轟音ギターを鳴らすようなバンドばかり。昨今の世界のギターバンドはもう古いという言説が嘘なんじゃないかと思うくらいにうるさいギターを鳴らしている。そんな音楽が、これからシーンのど真ん中で鳴り響くようになるんじゃないかと思える一夜だったし、そうなる瞬間が見たい。その時に中心にいるのは、この日出ていたバンドたちになる気がしている。
文 ソノダマン