「これ本当にヨルシカ!?」と思うくらいにボーカル、サウンドともに大きく変貌した3rdフルアルバム。
インスト曲にもノイズを取り入れたり、ボーカルの歌唱法も根本から使う筋肉や発声法を変えていたり、メロディの運びもいわゆるn-buna節が消えていたりと、
ヨルシカ自身があらたな一歩を踏み出した意欲作。
意味深な『盗作』というタイトルは、本作のコンセプトが「音楽を盗む男」だからだというが、やはりこれにもn-bunaの声が表れているように感じる。
これまでの制作手法になにか新しい要素を取り入れてしまうことは、ヨルシカにとっても「盗作」に値するような出来事だったんだろうなあと思う。
でもこの盗作は、前作『エルマ』でひとつの到達点に至ったヨルシカが次に進むための必然の一手だったのだろう。
文 高橋数菜
ヨルシカが昨年リリースされた、対になっている2枚のアルバム「だから僕は音楽を辞めた」「エルマ」を2019年の年間ベストアルバムの2位に選出した。
あれだけの大作をリリースしたのだから、次の作品が出るのは当分先になるだろうと思っていたのも束の間、早くも今年にまたもヨルシカはフルアルバムをリリースした。
しかもそのフルアルバムがただ単に出来た曲をまとめたのではなく、前作のようにアルバム1枚を通して1つのストーリーを描くものになっており、首謀者のn-bunaがアルバムのために書き下ろした小説(CD初回盤に同梱。このアルバムを好きな人は絶対読むべき)の存在からも、ヨルシカにとってはそうした、普通に曲を作るよりもはるかに手間や時間や頭を使うと思わざるを得ない作り方がスタンダードなものなのだろう。
サウンドも前作のギターロック的なものからさらに広がりを見せているが、それ以上に驚くのはsuisのボーカルとしての表現力の凄まじい進化っぷり。「昼鳶」での男性視点のボーカルは初めて聴いた時はゲストボーカルが歌っているのかと思ったほど。
その進化についてsuisは前作「エルマ」リリース時のインタビューで
「n-bunaさんの物語を読んで、エルマの気持ちをしっかり理解してから歌うことによって、レコーディングしている時に自分がエルマになったように歌えた」
と語っていた。「盗作」の物語は去年の物語とは全く違う独立したものだが、n-bunaとsuisの2人によるヨルシカという物語は確かにこれまでに作ってきたものと地続きになっている。
文 ソノダマン