ROCK IN JAPAN FES.やCOUNTDOWN JAPANを主催するロッキンオンが、ロッキンやJAPAN JAMの中止によって立ち上げたオンラインフェスがJAPAN ONLINE FES。この金曜日から3daysに渡って開催されてきたが、この日が最終日。
巨大LEDを売りの一つにしている、リアルライブの代替品ではない配信フェスを作り出すために、ロッキンオンのフェスではおなじみのバンドたちがこの日に集結。果たしてオンラインでのフェスとはどんなものになるのだろうか。
・KEYTALK
この日のトップバッターはKEYTALK。もはやロッキンオンのフェスではメインステージが当たり前となりつつあるが、そうしたステージの切り込み隊長的な立ち位置になりつつあるバンドである。
画面が映るとメンバーが板付でスタート。音が鳴ると同時に背後の巨大LEDビジョンにピンクを基調としたポップな映像が映し出される。髪が短くなった武正は早くもマイクよりも前に出て行ってギターを弾く。(ステージがどこまでなのかという概念がわからないが)
そのポップな中にオルタナティブを注入する武正のギターは間奏で唸りまくっているが、巨匠はもちろん義勝のハイトーンボーカルもこの日は実に安定している。八木の眩しいばかりの笑顔がアップで見れるのは配信という形ならではだ。
イントロから武正のギターが唸りを上げまくる「ロトカ・ヴォルテラ」ではソリッドなロックサウンドに合わせて映像もそうしたものに変化。思わず「カッコいいな…」と呟いてしまうほどにKEYTALKのロックバンドサイドを感じさせる。義勝のスラップも含めてバンドのグルーヴは鈍ることなど全く知らないという感じだ。
巨匠「夏が開催できなかったんで、JAPANフェス連続出演の伝説が途絶えてしまうかと思ったらこういう形で出れた」
とロッキンオンのフェスに名を連ねられることへの喜びを語ると、
「トップバッターなので、アゲていこうぜ!」
と言ったので、持ち時間的にも早くもライブ定番のお祭り騒ぎ曲連打かと思いきや、あまりライブで聴き慣れないイントロで始まったのはそのお祭り曲である「MONSTER DANCE」のカップリング曲である「FREEDOM」というあまりにも意外な選曲。
しかしKEYTALKはワンマン、対バン、フェスでガラッとやる曲を変えることができるくらいにいついかなる時もどんな曲でも演奏できるというライブバンドである。それは配信ライブこそやっていても、このライブがなかなかできない状況でも全く変わることはない。
一転して狂騒的なEDMが失われた今年の夏を今になって体験させてくれるような「Summer Venus」では武正がギターを弾きながらカメラに激突するくらいに前に進んでいくくらいにステージを縦横無尽に駆け回る。
かと思えば少し声が辛くなってきている感じがする義勝はEDMサウンドに合わせて飛び跳ねながら手を叩き、いつのまにやら巨匠はパリピサングラスをかけている。今やJAPANのフェスの「楽しい」という部分を最も大きなステージで担うようになったバンドであることを実感させてくれる。
武正がいつもKEYTALKのインタビューを担当して応援してくれている小柳大輔への愛を叫ぶと、お祭りバンドとしての本領発揮な「MONSTER DANCE」へ。武正と義勝は立ち位置をチェンジしながら演奏し、ギターソロを弾きまくる武正の後ろでなんとかカメラに写ろうとする巨匠の振る舞いが実に可愛らしい。観客はいないけれど、画面の向こうにはたくさんの見てくれている人がいることがわかっている。最後の武正のあまりの暴れっぷり(それでもギターが全く乱れないのが本当に凄い)と、八木もスティックを持ってカメラの前に全員集合するという賑やかさと楽しさはこのバンドが何を大事にしてライブをしてきたか、それがどんな時代になっても変わらないということを示していた。武正はメンバーに突っ込まれるくらいに太っていたけど。
1.BUBBLE-GUM MAGIC
2.ロトカ・ヴォルテラ
3.FREEDOM
4.Summer Venus
5.MONSTER DANCE
・フレデリック
すでにスタンバイしているメンバーの後ろには「FRDC」というバンドロゴが映し出され、高橋武の走り出すようなドラムに、なぜか金のネックレスというパリピっぽい三原康司のベースが絡み合うというライブならではのアレンジによる「オドループ」でスタートすると、このオンラインフェスという基本的に自宅にいるであろう1日すらも「踊ってない夜が気に入らない」日に変えてしまう。
フレデリックはアコースティックも含めて配信ライブをかなり多くやってきているし、今はもう有観客のツアーも行っている。それだけに三原健司のボーカルはさらに艶っぽさを感じさせるし、赤頭隆児の間奏のギターも思いっきり体をねじりながら弾くというライブハウスとはまた違うパフォーマンスになっているのもさすがだ。
「30分一本勝負」
とおなじみの健司の宣誓からはやっぱり持ち時間が短く感じてもしまうけれど、その健司がハンドマイクで歌う「シンセンス」では手を振った後のリアルライブではおなじみの
「よく来たね」
という呼びかけがないのがやはり配信であるということを感じさせる。とはいえメンバーを薄暗く照らす照明による立ち振る舞いのカッコよさを感じられるのも配信ライブならではである。
その「シンセンス」のアウトロから繋がるようにイントロに突入した「かなしいうれしい」では健司が歌いながら手を叩きながら、後ろのLEDがフレデリックらしい様々なシュールな映像を映し出していくものに変化していく。これまでの自身のワンマンでも映像を使ったライブをやってきているバンドであるだけにこうした演出との相性も抜群である。
康司がシンセベースを弾き、健司がハンドマイク、さらには康司のメッセージの強いボーカル部分ではエフェクトをかけるという新機軸を見せてくれるのは9月にリリースされた最新EP「ASOVIVA」収録の「正偽」だ。そのタイトルからしてこのバンドなりの社会への提言が詰め込まれた曲であるが、そもそも風営法へのメッセージでもあった「オドループ」から、フレデリックはこうして社会へのメッセージを自分たちのダンスミュージックで発してきた。それは
「こちとら守るべきものがあるんです」
と康司が歌うように、バンドにとって大切なものがわかっているからだ。そんな大事なものを守るためにきっとこれからもこうしてフレデリックはただ踊れるだけではなくこうしたメッセージを発していくバンドでもあり続けていくはずだ。
高橋のドラムが再びアウトロとイントロを繋ぐような形で叩き出されてから演奏されたのはこちらも「ASOVIVA」収録の「Wake Me Up」であるが、康司のベースのうねりっぷり、間奏のラウドバンドかと思うくらいの轟音と健司のボーカルとリズムに合わせて明滅する映像と、完全にこの曲でフレデリックはこの独特なフェスを自分たちのものにしていた。これは今絶賛開催中のツアーでもこんなに凄くなっているのだろうか。
「フレデリック、遊びきったので帰宅します!」
と言って最後に演奏されたのは思わず画面の前で手を叩いてしまう「KITAKU BEATS」。なんというか、三原兄弟が1曲の中でも強弱というか変化をつけられるようなボーカルを会得しているとすら感じられたし、最後に高橋が立ち上がってメンバーと向き合って声をあげてドラムを連打する様と、
「帰りたくない、帰りたくない、帰りたくないよ〜」
という健司の言葉は完全に現在進行形でライブをやっているからこそ、こうして音を鳴らしているのが楽しくて仕方がない真っ只中にいるバンドのものだった。最後の1音が鳴った瞬間にオープニング同様に「FRDC」というロゴが浮かび上がったのは、このフェスにおけるこのバンドの完全勝利を証明するものだった。
1.オドループ
2.シンセンス
3.かなしいうれしい
4.正偽
5.Wake Me Up
6.KITAKU BEATS
・ヤバイTシャツ屋さん
暗闇の画面の中に響くおなじみの「はじまるよ〜」のSEでメンバーがステージに登場する姿から。こやまたくやがカメラに向かってダブルピースする姿があざと可愛いし、背後のLEDに映っているタンクトップ君もやはり可愛い。
3人が音を思いっきり音を鳴らすと、こやまはステージからカメラに映らない位置までめちゃくちゃに前進しまくっていくという気合いなのか小ボケなのかというパフォーマンスをするのだが、「あつまれ!パーティーピーポー」がスタートすると、その音の強さ、こやまだけならずしばたありぼぼのさらに強くなったボーカルになんだか感動してしまう。
フレデリック同様にヤバTも現在絶賛ツアー中であるが、キャパを減らして全国の小さいライブハウスまでくまなく廻る(しかも1日2公演)というツアーを行っている。つまりある意味では今までよりも過酷ともいえる活動をしているわけだが、それが明確にバンドのさらなる成長につながっているのがよくわかる。この状況でツアーを廻らないと見れないもの、感じられないものをメンバーはちゃんと自分たちの力にすることができている。変化しまくる、タンクトップ君の姿も実に可愛らしい。
「オンラインだからコール&レスポンスないバージョン!」
と言って演奏された「喜志駅周辺なんもない」では本当に
「今からコール&レスポンスをやりますが、無視してくださいー!」
とこやまが言い、コールをした後にしばたが無表情になるのがめちゃくちゃ面白いのだが、無音ではありながらもみんな画面を見ながら思いっきりレスポンスしていたはず。
バンドにとって初のオリコン1位を獲得した最新アルバム「You need the Tank-top」からは合いの手的なコーラスが実にキャッチーかつ楽しい「NO MONEY DANCE」が披露される。「イェイ」と歌いながらとびきりの笑顔でピースをするしばたの姿を見ていると、このライブ中だけはこの世で1番可愛くすら見えてくる。それくらいに輝いているのである。
「喜志駅〜」同様にこちらもコール&レスポンスが無音でありながらも、その無音の後にこやまが
「良い感じ!」
と言ったパンク魂溢れるサウンドの「無線LANばり便利」はメンバーも画面の向こう側で歌ってくれている人たちの姿が見えているのだろうし、それが見えるのはバンドがこれまでに重ねてきたライブで見てきた景色があるからだ。目の前に人はいなくても、想像する、感じることができるのはバンドがこれまでのどんなライブのどこにいる観客も全て大切にしてきたから。そんな思いが溢れ出していた「ハッピーウェディング前ソング」は本当に感動的ですらあった。タンクトップ君のウェディングバージョンの可愛さや、
「JAPAN ONLINE FES開催おめでとうー!」
とウェディングをこのフェスの開催に変えて祝ったこやまの言葉もありながら。
「車に乗って気づいたらここにいた(笑)どこやねんここ!」
とこの会場がどこなのか全く把握していないことを明かしながら、「癒着☆NIGHT」ではメンバーも手を叩きながら、こやまもしばたも時折真顔になったりするのが実に面白い。早くこの曲の
「You check it! check it!」
という部分なんかをみんなで一緒にライブで歌えるような世の中になってほしいと心から思う。
するとこやまは
「こんな状況ですけど、僕らは今70本くらいの全国ツアーをやってます。今日本で1番ライブやってるバンドなんじゃないかと思ってます。
初日は40人しか入れられないくらい、感染対策をしっかりしてツアーをやってるんで大赤字なんですけど、ライブをやっていると目の前で泣いていたり、めちゃくちゃ笑ってくれている人もいて、そういう顔を見れるのが今のやりがいになってます。
みんな落ち着いたらまたライブに来て欲しいし、心まで自粛することはなく、こうやって音楽を楽しんで欲しいと思います」
と、全くふざけることなく話した。これはそういうツアーをやっているヤバTだからこそ言えることだ。そのライブや音楽に対する思いの強さ。それはパブリックイメージやテレビに出ている姿からはなかなか見えないものかもしれないけれど、ヤバTのライブに行っている人はみんなそんなこのバンドの魅力をわかっている。だからこそ聞いていて泣きそうになってしまったし、面白いバンドから本当にカッコいいバンドに進化したんだなと思う。
そんなMCを経ての「ヤバみ」ではこやまもしばたも頭を振りまくり。パンクでありラウドであるヤバTの魅力を配信であってもしっかり感じさせてくれる。それはこやまのMCで言ったことをしばたももりもとも完璧に共有しているからだ。3人だけしかいないけれど、何十人もの音が重なるよりもきっとこの3人の音は強い。
そして最後は「かわE」。姿を変えていくタンクトップ君自体がかわE超えてかわFなのだが、キャッチー極まりない曲からも汗が飛び散るのを感じる。それは日々ライブハウスで戦い続けるライブバンドだからこそ感じられるもの。
演奏が終わって走って掃けていく姿まできっと登場からノーカット。それこそがより一層ライブハウスで生きている、収録という言葉を度外視したバンドらしさを感じさせてくれた。
この日の全出演者のライブを観たが、個人的にはダントツでヤバTが1番良かったと感じた。まだ「今後どうしていくか」という方向性を探っているアーティストも多い。それは状況的に仕方がない。
でもヤバTはすでに「どうしていくか」の先まで行っている。これからもツアーを続けてライブをやっていくという姿勢が定まっている。その差は今は非常に大きいし、この日の出演者どころかこの3日間の出演者の中で1番売れているアーティストになったヤバTがそうしていることで他のアーティストのこれからの活動のヒントになるところもあるはず。今やヤバTはその姿や姿勢でシーンを引っ張っていくバンドになったのだ。
1.あつまれ!パーティーピーポー
2.喜志駅周辺なんもない
3.NO MONEY DANCE
4.無線LANばり便利
5.ハッピーウェディング前ソング
6.癒着☆NIGHT
7.ヤバみ
8.かわE
・ポルカドットスティングレイ
ステージにスタンバイしたメンバーが音を鳴らし始めると、LEDにはバンドのロゴでもある黒猫のアイコンなど様々な映像が目まぐるしく映し出された「ヒミツ」からスタートした、ポルカドットスティングレイ。
ウエムラユウキのゴリゴリのベースとエジマハルシのカッティングギターが絡み合う「BLUE」ではタイトルに合わせてLEDも青を基調としたものに変化していくが、伸びやかなボーカルを響かせる雫の姿をカメラは正面からではなくて右斜めから捉える。その自分たちを1番良く見せることができる角度を熟知しているであろう戦略家っぷりというか客観的な視点はさすがである。
「DENKOUSEKKA」の4つ打ちのリズムでバンドの演奏も飛び跳ねながら、雫はフレーズによっては叫ぶように歌う。間奏ではエジマハルシのギターソロが炸裂する傍らで雫は疲れ切ったような表情でミツヤスカズマのドラムセットの前に座ったりという豊かな感情表現を見せてくれる。ミツヤスカズマのドラムセットの前にパーテーションが立てられているのはいつからだろうか。
MCではロッキンオンジャパンで絶賛ゲームのサントラに関する連載を執筆中の雫の文章力を小柳大輔が褒めてくれたというエピソードを話しながら、この日のライブを最後まで見たら何かしらの発表があることを予告する。
それと同時に12月にニューアルバム「何者」をリリースすることを発表すると、そのアルバムに収録される「トゲめくスピカ」を披露。ポップなバンドがポップサイドに振り切ったらこういう曲ができるんだな、というくらいにバンド随一のキャッチーな曲。何かと活動からは賛否が起こるバンドであるし、自分も思想全てに共感することはできないが、こういう曲を聴いているとメロディメーカーっぷりは紛れもなく本物であると思える。
エジマハルシのオシャレなギターのコード進行から始まり、雫のラップのような小気味の良い、かつ英語歌詞の発音が実にスムースなあたりにボーカリストとしての力量の高さ、バンドの器用さを感じさせる「FREE」は間違いなくバンドにとって新境地であるだろうし、この曲の存在が来るべきアルバムの期待感を高めながらも、予想のつかなさを実感させる。
バンドがイントロを奏でながら、雫は
「みんな踊り足りてる!?まだだよね!じゃあ最後に踊れー!」
と煽ると、ラストに演奏されたのは性急なダンスロックサウンドでバンドの認知を広めた「エレクトリック・パブリック」。エジマハルシはお立ち台に立ってギターソロを音は熱く、あくまで表情はクールに弾き倒すと、最後には配信ライブであっても、SAY YESマンが登場して画面の向こうにいる観客に「YES!」の大合唱を促す。すると雫は
「良い子たちだー!」
と叫んだ。このバンドもまた自分たちのライブを普段どういう人たちが見てくれているのかをわかっている。かつて自分が想像していた以上に、ライブバンドとして確かに進化しているのが画面越しでもわかった。
ライブが終わるとLEDには半泣き黒猫のロゴからアルバムのCMに切り替わり、アルバム収録曲の「化身」のMVが公開されることを発表。このLEDをここまで自分たちのために使えるとは、本当に恐れ入った。
1.ヒミツ
2.BLUE
3.DENKOUSEKKA
4.トゲめくスピカ
5.FREE
6.エレクトリック・パブリック
・夜の本気ダンス
おなじみのSE「ロシアのビッグマフ」が流れるとメンバーがステージに登場という、配信ライブであっても全く変わらない、夜の本気ダンスのライブ。
鈴鹿秋斗のカウントからメンバーが音を鳴らし始め、
「踊れる準備はできてますかー!?」
と米田貴紀がおなじみの煽りを口にすると、「WHERE?」からスタートし、その名の通りの夜のダンスロックサウンドで画面の向こうでも踊り出したくなってしまう。鈴鹿はカメラ目線で首だけ動かしてドラムを叩くという姿だけで笑えてくるというあたりはさすがでしかない。
「今年のROCK IN JAPAN FES.のGRASS STAGEの大トリをやる予定だったのができなくなり…」
と鈴鹿のMCは配信でも絶好調であり、まだ収録時点では順番が決まってないということで、トリ用とトップバッター用でコメントを収録しつつ、
「今日がフェスだったらフレデリックの時間で飯を食う(笑)」
と、仲の良いバンドが揃っているからこそのMCは配信でもついつい声を出して笑ってしまうくらいに面白い。
夜ダンも配信ライブを恒例化しており、ライブハウスやスタジオなど様々な場所でそれぞれ違ったトライアルを試みているが、ホール規模でもワンマンを行うことになった今のこのバンドは広いステージがよく似合うということが「fuckin’ so tired」でのネクタイを外した米田の軽快なステップを交えながらの歌唱を見ているとよくわかるし、アウトロで鈴鹿が4つ打ちのドラムを叩いて「NAVYBLUE GIRL」のイントロに繋げるというライブアレンジは普段のライブにおける本気ダンスタイムそのもの。青いLEDを背負いながら、体柔らかすぎじゃないのか?!と思うくらいに足を開いてギターを弾く西田一紀の姿も、米田の間奏での見た目以上に高い跳躍力を見せるジャンプも全てがライブにおけるエンターテインメントとして成立している。つまり、この状況下にあって夜ダンはより自分たちにしかできないライブをやれるようなバンドになってきているということだ。
アウトロの段階で米田がすでにギターを持つことで曲間全くなしで妖しいイントロを鳴らし始め、西田のエフェクターを踏む足元が映るという配信ライブならではの姿も見れるのは「Movin’」。音源ではCreepy Nutsをフィーチャーしたラップ部分を鈴鹿がドラムを叩きながら担うのも去年のROCK IN JAPAN FES.でのステージを始め、フェスでももはやおなじみのパフォーマンスである。
「めちゃくちゃこっち側は楽しいです。今めちゃくちゃ広い倉庫にいますけど、倉庫のリバーブが凄い。良いですね。リハスタばっかりにいるんで、デカい音を鳴らせるのが本当に嬉しい。
どれだけ時代が変わろうが、デカい音でロックを鳴らすのが1番気持ちいい」
と米田が語ると、
米田「僕は学生時代にロッキンオンとロッキンオンジャパンを定期購読していた。ディスクレビュー見てCD買ってたから」
マイケル「教科書を読む側から載る側になれたんやな」
というロッキンオンのフェスやイベントに出まくり、「ミスターJフェス」の称号を授かったバンドの原点というべきエピソードを開陳する。学生時代の米田少年は今の自分の姿を想像していただろうか。
そんな言葉の後に演奏されたのは、自粛期間中に配信リリースされた「SMILE SMILE」。ホーンの音が同期で流れる華やかなサウンドはバンドにとっての新境地であるが、この期間であってもバンドは新しいことに挑戦し続けているし、それはこの曲のテーマでもある、聴いている人を楽しませたい、笑顔にしたいというバンドの姿勢があるからこそだ。だからこそそのメッセージは笑顔とともに涙までも誘う。
そんなハッピーエンドのような雰囲気を再び狂騒のダンスミュージックに振り切らせていくのが「TAKE MY HAND」。鮮やかに明滅するLEDの忙しなさはこの曲の高速ダンスロックとマッチしながらも、西田のマイクスタンドにギターを擦り付ける姿は独特の色気を振りまき、やっぱりこのバンドのライブを早くリアルで見たいと思った。年末まで頑張れば、それはきっと叶う。
「ありがとうございました、夜の本気ダンスでした」
と米田が挨拶すると、そのまま暗転した。その余韻をたっぷり残す終わり方も実に潔かった。
1.WHERE?
2.fuckin’ so tired
3.NAVYBLUE GIRL
4.Movin’
5.SMILE SMILE
6.TAKE MY HAND
・キュウソネコカミ
音が鳴り始めると、なぜかメンバーが上下逆になっている。実際にはLEDに映し出されたバンド10周年のロゴが上下逆さまに映し出されており、メンバーも上下逆さまであるように見せるために髪を逆立てているのだろうが、
「今日はこんな感じでやらせてもらいまーす!」
とヨコタが叫んだので、このままいくのかと思いきや、「ビビった」の曲中のクソワロダンスでネズミ君がステージに登場すると画面が元に戻る。そうなるとただ髪が逆立っただけみたいな感じになっているのだが、アウトロではそれがカツラであることが発覚する。セイヤはどこかリーゼント気味であり、ソゴウはやたらと髪が伸びているのに気付く。関西ではもうフェスなどに出演しているが、自分はその髪型に驚くくらいにキュウソネコカミのライブに行けていないことに気付いてしまう。
歌詞がLEDに映し出されると、そのメッセージが実にシリアスに感じられる「5RATS」はそれもそのはずで、バンドの意思表示的な曲である。飛び道具的なパフォーマンスができないロッキンオンのフェスだからこそこうした曲が持つキュウソの強さが際立つ。
配信ワンマンは観ることができたが、そうしてキュウソのライブを全然観れていないので、今どんなセトリでフェスやイベントを行っているのかも全てを把握できていないのだが、セイヤがハンドマイクで歌い始めた「ビーフ or チキン」は実に久しぶりにライブで聴く曲だ。なぜこの持ち時間でこの曲を選んだのかは全くわからないが、後半のオシャレなコード感からセイヤがギターを持って一気にラウドに振り切れていくあたりはこの曲がライブ向きの曲であることを改めて感じさせてくれるが、セイヤは直後のMCで
「オンラインのフェスだから知らない曲やり放題!フェスだから定番の曲をやるみたいな感じになってるけど、ロックバンドに慣れるなよ!新鮮な気持ちで見れるためにあんまりやらない曲をやる!
(カメラを指差しながら)金を払ってるからお前はもう逃げられない!」
と、初参加のオンラインフェスだからこそのバンドの戦い方であることを明かす。
だからこそ次に演奏されたのが、バンドの混迷を極めていた時期に何度となくアレンジや形が変わってきた「俺は地球」。およそキュウソのライブらしからぬ、地球上で生活する様々な動物の映像が映し出される中、やはりアウトロではセイヤが地球のバルーンを身に纏って、まさに「俺は地球」そのものの状態になる。曲が終わるとすぐに脱いでいたが。
カニやタコやエビなどの海鮮生物の姿が次々に映し出されたのは「おいしい怪獣」。この映像を見ると、歌詞にある
「食べられる怪獣」
というのはそれらの生物を指していることがわかるのだが、「ギャオ!ギャオ!」のコーラスは間違いなく観客と一緒に歌うことを想定してのものであろうだけに、その日が一刻も早く訪れることを願ってやまない。セイヤは寿司を握るような姿を見せていただけに、これらの食材を寿司で食べるのが好きそうだ。
配信ライブでも披露していた、3分間で音楽とライブハウスの大事さを歌う新曲「3minutes」ではLEDにカウントが刻まれる中で過去のライブの映像も映し出されていく。メンバーが観客の上に乗っかっている姿は今は見ることはできないし、それは歌詞の通りに「なくても死なない」ものかもしれないが、我々はそういう景色を見てこれまでずっと生きてきた。バンドがそのことを歌ってくれている。確かにキュウソは我々と同じ想いを共有してくれている。
「そろそろ光が射して欲しいし、これが始まりになるかもしれん。
無観客であっても音を鳴らす場所があるのが本当に嬉しい。俺はこの1年でバンドマンのスイッチが切れそうになる瞬間もたくさんあったから」
と、セイヤがあくまで前向きに語ってから最後に演奏されたのは、バンドの曲でありながら、「結束」という意味をも持っている、キュウソの生み出した大名曲「The band」。カワクボタクロウはステージのモニターに座ってベースを弾いたり、ヨコタはステージを走り回りながら手を叩いたり。無観客であっても、配信であっても、やっぱりライブは最高だ。こうした姿は音源では伝わりきらないからだ。
「今日は離れてるけれど、生きろよー!」
と曲中でセイヤが叫ぶと、LEDには1月13日にニューミニアルバムが出る告知が映し出された。それが
「新曲ありがとうー!」
のフレーズとともに。その感覚を早くリアルなライブで味わいたい。キュウソに「新曲ありがとうー!」と目の前で言ってやりたい。CDJでもメインステージの年越しを務めたが、キュウソはロッキンオンのフェスのトリでそんなライブや音楽への愛おしさを改めて実感させてくれるバンドになった。コロナでたくさん傷ついたりしただろうけれど、このバンドとそのファンがこの状況が明けたら今までのように笑いあったり泣きあったりできる世の中になりますように。
1.ビビった
2.5RATS
3.ビーフ or チキン
4.俺は地球
5.おいしい怪獣
6.3minutes
7.The band
配信の最初にROCK IN JAPAN FES.やCOUNTDOWN JAPANのメインステージの前説のように、渋谷陽一は挨拶で
「オンラインライブを見るとリアルライブに行きたくなる」
と言っていた。それは間違いなくこのオンラインフェスを見ていた人たちも実感していたはず。
まだライブに行くことを選べない人もたくさんいるが、ライブや音楽は少しずつ前に進んでいる。その手応えのようなものを確かに感じたオンラインフェスだった。
「この時期にオンラインフェスをやるなら今年はCDJはやらないだろう」とも言われていたが、CDJの開催も正式に発表されただけに、また今年の年末も幕張で。
文 ソノダマン