昨年、5曲しか入っていないミニアルバムながらもこの企画で「Hello my shoes」を3位に選出し、そこで「このクオリティでフルアルバムから年間ベスト、MVPクラス」と書いたくらいに秋山黄色の登場は衝撃的だった。存在が新しいというよりも、聴くと何度も何度もリピートしたくなるようなその楽曲のクオリティをもってして。
その秋山黄色のフルアルバムは予想よりもはるかに早くリリースされたが、その内容は昨年感じた自分の感覚が間違ってはいなかったということを証明してくれるようなものになった。
本人も口にしている通り、音楽性の幅は実に広くなった。「Caffeine」のようなバンドサウンドじゃなくても成立するような曲や、「夕暮れに映して」のようなアコギを基調とした曲、ついに音源化した「スライムライフ」のパンクさ…。雑食と言ってもいいかもしれないし、捉え所がないと言われてもいいかもしれない。それでもこうした幅広いサウンドのアルバムにありがちなとっ散らかった感じが全くしないのは、すべての曲が「秋山黄色だからこそのメロディと歌詞」という軸がどっしりと固められている上で作られているから。だからこれだけ幅広いサウンドにも関わらず、曲による好き嫌いみたいなものが全く出てこない。そんなとんでもないことをいたって自然体で、飄々と成し遂げているあたりにさらなるこの男の伸び代と、どれだけ色んなことをやっても絶対に変わらないんだろうなという安心感を感じる。
すでに2021年にも大型タイアップのリリースが決定している。急に背丈は大きくならないが、秋山黄色というアーティストは渋谷のO-Crestで見ていたのが幻だったんじゃないかと思うくらいに大きくなっていくはず。それがわかっているからこそ、今年目の前で音を鳴らしている姿が見れなかったのが、君がいないのなら何もいらないって思えるくらいに寂しい。
/ 2021/01/03