こんなにも2021年という「今」を真っ向から描いたロックアルバムは他にないと思う。
「それでも、私は思う。なぜ今なのですか。なぜ私達なのですか。なぜこんなことになったのですか。
世界を元に戻してください、神様。」
という今の世の中を
「遥か先の君へ
どうか忘れないでいて
2021年6月2日
僕等がここに居たことを」
というリアルな視点でもって描く「遥か先の君へ」で始まるCIVILIANの「灯命」は間違いなくこのコロナ禍において自分たちが歌うべき、作品として残すべきという思いによって生み出されたアルバムだ。
コロナ禍によって人間の醜さが暴かれたということは常々言われてきたことであるが、このアルバムでCIVILIANが、コヤマヒデカズが描いたのはその人間の醜い部分。それがそのままコロナ禍で表出したそれと重なることで、このアルバムが今そのもののアルバムになっている。
でも、果たして今のこの世の中にあるのはそうした醜さや絶望だけなんだろうか。いや、そうじゃない。
「どうせ誰もが皆一人なら 君と一緒に」(「世界の果て」)
「失くして初めて 後悔したんだ
「遅い」って笑って どうかもう一度だけ
失くしたくないものが
今更分かったのです」(「灯命」)
というラスト2曲の流れはそんな世の中でも生きていくべき理由があること、この世界には大切なものがあるということを示している。「遥か先の君へ」から始まった一大絵巻的な物語はここへ向かうために、コロナ禍で表出したのは人間の醜さだけではなく、それぞれが守っていくべきものがなんなのかということも描いている。アルバムという形態はそうした物語を描くことができる。コロナ禍で不要不急とも言われた音楽にはこうした表現をすることができる。ただコロナ禍を描いただけではない、それを証明したという点で、間違いなく今を歌った、2021年を代表するべき名盤だ。
/ 2022/04/07