5月から始まり、全国を回ってきた、その過程で7月の東京ガーデンシアターでのライブを見ることができた、半年間に及ぶsumikaの「花鳥風月」ツアーもいよいよファイナル。
その舞台は去年にワンマンをやるはずだったのがコロナ禍によって何度となく延期になり、さらには春に配信という形になってしまった、さいたまスーパーアリーナ。その会場でようやくsumikaがワンマンをやることができるのである。この日は2daysのうちの2日目という、正真正銘のファイナルである。
検温と消毒を経てさいたまスーパーアリーナの場内に入ると、この日はアリーナと200レベルまでという座席数をかなり減らしたものになっているのだが、延期や配信になった時はきっともっとたくさんの人を動員するつもりだったからこそ、既定の人数を上回ってしまって開催することが出来なかったんだろうな、と思う。ほとんどの観客が黄色や緑色のタオルなどのグッズを身につけていることによって、客席の景色が実に鮮やかである。
祝日とはいえ17時という早めの開演時間を少し過ぎた頃に、場内に流れるBGMの音が徐々に大きくなる(一瞬BGMが止まった際に、始まる!と思った観客が次の曲が流れ出して「まだか〜」みたいになるあたりに観客のこのライブへの期待の高さを感じた)と、場内が暗転。
いつもの「ピカソからの宅急便」ではなく、オーケストラアレンジされたような音が響くというのが最大規模の会場でのツアーファイナルということを感じさせる中、ステージにかかっていた幕が落ちると、すでにそこにはメンバーたちがスタンバイしており、背面には「花鳥風月」というライブタイトルが書かれた幕が下がっている。
するとマイクを持った片岡健太(ボーカル&ギター)が、
「ライブに、おかえり」
と口にして、東京ガーデンシアターでのライブ時にはまだ演奏されていなかった、sumikaのポップで楽しい音楽の最新形と言える「Jasmine」でスタートし、片岡は早くもステージを軽やかに歩き回りながら歌う。この曲のサビのカウントを繰り返すようなフレーズに欠かせないコーラスを含め、この日はゲストメンバーにおなじみのベーシスト井嶋啓介だけではなく、三浦太郎(フレンズ)、Nona(岩村乃菜)、矢澤壮太という3人を加えた8人編成。三浦と矢澤はギター、Nonaはパーカッションも演奏するという形で声だけではなく楽器でも曲を彩ってくれている。荒井智之(ドラム)は早くも曲中に立ち上がった状態でフロアタムを連打していたりと、早くもそれぞれがそれぞれの昂ぶり方を見せている。
片岡がギターを持つと、今年リリースしたアルバム「AMUSIC」収録曲であり、タイトル通りにこのファイナルまでたどり着いたことを祝すような「祝祭」で、
「晴れのち雨になってもゆく
悪足掻き尽くすまで」
という今のバンドの覚悟を歌うかのよう。だからこそ片岡のボーカルも実に伸びやかであるし、演奏しているメンバーも全国を巡ってきたことによってより力強さを増しながらも、小川貴之(キーボード)が観客に向かって手を振ったりと、このファイナルを迎えることができたことに万感の想いを持っているということが伝わってくる。
そんな中で片岡は早くも、
「今日は一緒に歌えなかったり、両サイドが空いていてスペースが広かったりと、いつもとは楽しみ方が違うところもあるけれど、そんな中でいつもと違う楽しみ方を見つけてくださいっていうのは俺はちょっと違う気がしていて。そういう状態でも最大限に楽しませるのがバンドの使命だと思っております!」
と言い、大きな拍手を受ける。それこそがコロナ禍の、というよりもどんなことがあっても変わることがないsumikaのスタイルであるし、そのために何をするべきなのか、どんなライブをするべきかということもメンバーはよくわかっている。
だからこそ片岡が再びハンドマイクになってステージを歩き回りながら歌う「Flower」では背面に文字通り巨大な木が姿を現し、そこに花を咲かせるように黒田隼之介(ギター)がオリエンタルなイントロを響かせる中、歌詞に
「たまアリ」(こっちで略すタイプだということがわかる)
「ファイナル」
などこの日だからこそのフレーズを入れながら歌い、sumikaのロックバンドさを強く感じさせる「ふっかつのじゅもん」では片岡と黒田がそれぞれステージ左右に展開しながら、合いの手的なコーラスではゲストメンバーだけではなく、客席を指差しながらコーラスをし、その観客の姿を見て笑顔で腕で○を作る小川の姿が見ていて本当に楽しいし、なんだか愛おしくなる。メンバー自身がこのステージに立てていること、観客を前にしていることを本当に幸せだと思っていることがその姿から伝わってくるからだ。
だからか、なぜか片岡も囁くようにして
「ツアーファイナルなんで、終わっちゃうのが寂しすぎる…」
と言うと、小川と黒田から
「早い早い!まだ始まったばっかりだから!(笑)」
と突っ込まれていたのだが、それくらいにすでに感慨があふれていたのだろうし、こうして最後までたどり着くことができた安堵の気持ちもあるのだろう。それは我々観客も同じであるが、マスクをしている我々に片岡は
「マスクをしているから顔が良く見えないと思っているでしょうけど、見えてますからね!その顔を笑顔にさせに来ました、sumikaです!」
とこれ以上ないくらいにsumikaらしい自己紹介から、爽やかなギターのサウンドと雄大なリズム、「hah yeah」というコーラスに合わせるかのように水色の照明がステージを照らす「イコール」でそうした感慨や安堵といった感情を丸ごと抱きしめるようなサウンドを響かせると、片岡がアコギに持ち替えて小川の方を指さすと、その小川がメインボーカルを務める、彼の人間性がそのまま曲になったかのような、槇原敬之あたりの影響を感じさせるポップな「わすれもの」へ。
sumikaは片岡の歌唱が非常に強いバンドであるし、それが軸にあるのは間違いないバンドではあるが、もともと加入前はボーカルをやっていただけに、小川のボーカルも普通のバンドならば充分メインボーカルが務まるレベルであるし、それはこのツアーを経てきたことによってさらにレベルアップしているのがわかる。何というか、アリーナ規模の会場で小川メインボーカルのこの曲を演奏しているのが決して飛び道具的なものではなくて、sumikaの音楽の一つとして自然に鳴らされているというか。この小川ボーカルはこれからのsumikaにとっての大事な武器になっていくのかもしれない。
その武器の新しいものが、荒井が作曲した「Jamica Dynamite」というとんでもないタイトルのファンキーなダンスナンバーなのであるが、タイトルフレーズのコーラスはNonaがいることによって音源での再現性も抜群ながら、間奏ではそのコーラス隊のゲストメンバーも含めたステージ上のメンバー全員のソロ回しも行われ、それぞれがどんな音を鳴らしていて、どんな役割を担っているのかというのが実によくわかるものになっている。やはり作曲者だからか、荒井のドラムソロは一層気合いが入ったものになっていた感覚である。
するとここで片岡が観客をいったん座らせ、初めてライブを見に来てくれた人がどこまでがメンバーで、どこからがゲストメンバーなのかということをわかるために、自己紹介がてらにそれぞれ一言ずつという流れになるのだが、小川と黒田がジャンケンをしてどちらサイドから紹介するのかを決める際にあいこが続いてなかなか決まらないというあたりにこのやりとりのガチっぷりを感じるのだが、最終的には勝った小川が黒田から紹介することを促すと、黒田はステージ両サイドのスクリーンに自分が映るかどうかを確認し、自身サイドの通路まで歩いて行ってカメラにアピールするというやんちゃっぷりを見せる。
そんな黒田のはっちゃけた姿を見たからか、荒井はメンバーそれぞれが非常に昂っているだけに、
「演奏がだいぶ走ったりするかもしれません!」
と事前に喚起する。さすがにそう感じるような部分はなかったというのは、メンバーそれぞれがしっかり呼吸を合わせていたからであろう。
ジャンケンに勝った小川は、かつて加入前にとんねるずや関根勤に絶賛された芸人としての資質を垣間見せるかのように軽快な口調で、
「長いツアーだと体調管理が大事なんですけど、埼玉には前日入りしまして、泊まるホテルに自分で作ったご飯を持ってきて、フロントで温めてもらっていたんですね。毎回温めてもらっていたから、自分で作ったのに作ってもらったかのような感じがして。そんなご飯を温めてくれた、ホテルのフロントの佐藤さんを今日のライブに招待しております!」
と言って客席を指さすのだが、そんなことはなく、実際にはホテルの人は招待していないという絶妙な嘘をつく。ボーカルだけではなく話術もこのツアーで磨かれたようだ。
するとゲストメンバーも紹介するのだが、三浦、Nona、矢澤がコーラス隊だからこそのテーマパークの従業員のような声で挨拶をすると、井嶋もそれに乗っかろうとするというお茶目な一面を見せてくれる。さすがにテーマパークの従業員のような声は出ていなかったけれど。
そして片岡が
「最近、人に怒れなくなった。それは大人になったからというよりは、人に期待しなくなったからなんだなって。期待してないから、その人に感情が湧かない。でもメンバーには、ダメなことをしたらダメだってちゃんと言えるような関係性でありたい」
と言うと、小川と黒田がその言葉に頷きながら、片岡が目で小川に合図をするようにして、4人だけにスポットライトが当たるような形で、ピアノとボーカルという研ぎ澄まされた形による「溶けた体温、蕩けた魔法」でsumikaの持つメロディの美しさを最大限に感じさせてくれる。
さらには星が煌めくようなライトがステージ上に吊るされた「願い」、真っ白な照明が背後からメンバーを照らすことによって神聖なものを見ているかのような気持ちにさせてくれる、
「生きていれば辛いことの方が多いよ
楽しいのは一瞬だけどそれでもいいよ」
という人生の真理を歌ったフレーズが何度聴いても、というかライブで聴くからこそ毎回突き刺さる「本音」と、中盤はバラード曲を連発。それはsumikaが今の若手バンドの中では珍しいくらいにバラード曲をシングルとして世に放てるバンドであるということを示しているし、やはりこのバンドの持ち味はメロディであるからこそ、こうしたバラードの名曲が次々に生み出されているということが、こうした曲を続けて演奏できるワンマンだからこそ改めてわかるのである。
このバラードのゾーンではずっと座って演奏を聴いていた観客たちが再び立ち上がって体を揺らしながら、小川とゲストメンバーたちによるホーンのサウンドが賑々しく流れる「惰星のマーチ」は楽しくもありながらも、社会に向けた皮肉などを感じさせるという意味では片岡の作家性を強く感じさせてくれるような曲だ。
イントロのキーボードのフレーズだけで名曲確定な「Shake & Shake」は東京ガーデンシアターの時はアンコールで演奏されていたのがこの位置になったというあたりにこの曲がリリースされて時間が経ってファンに浸透したからこそという感じがするが、やはりこの曲の楽しさは本当に凄い。ゲストメンバーのコーラスがそれを強く引き出してくれるのだが、この後に片岡が口にしていた通りに、このさいたまスーパーアリーナは何度となく延期し、払い戻し、配信となり、なかなか観客の前でライブをすることが出来なかった場所である。
そんな会場に観客がたくさんいて、みんな本当に楽しそうに腕をあげたり、思い思いに体を揺らしたりしている。その光景を見ていて、本当にこうしてここで観客がいるライブができて良かったと思うとともに、やはり音楽は、ライブは素晴らしいものだと思った。こんなにたくさんの人のことを楽しい気持ちにしてくれて、その楽しんでいる姿が他の誰かを幸せな気持ちにしてくれるからである。それはsumikaのライブだからこそ、より一層強く感じられるものである。
そうした片岡のさいたまスーパーアリーナへの思いを口にしてから、背面の巨大な木がこのツアーのメインビジュアルの幕に切り替わって演奏されたのは、勇壮なコーラスが否が応でもお祭り感を演出し、こうした広い会場でこそより真価を発揮する(片岡はロッキンのGRASS STAGEをイメージしていたというだけに、そこに今年も立てなかったのは本当に残念である)「絶叫セレナーデ」からはよりアッパーに後半戦へと突入していく。片岡はゲストメンバーたちの前を横切ったりしながら、なぜか井嶋は胸のあたりを触られていた。
かと思いきや、荒井以外の7人によるゴスペル的なイントロのアレンジが印象的な「Traveling」は小休止も含めたようで、片岡は下手側の通路のカメラに目線を合わせて歌いながらも、その場に座り込んで歌ったりする。ここまでコーラスしながらステップを踏んだりダンスをするようにして視覚的にも楽しませてくれていたコーラスメンバーが
「聞く?黙る?どっちがマシ?」
というフレーズで聞く、黙るというジェスチャーをしていたのも面白いが、一般的にタブーとされている、多くの芸能人(なんならバンドマンも)がこうした行為によって活動を止めざるを得なくなるようなことをこんなにもポップに描けるというのはsumikaならではと言えるだろう。
片岡がエレキギターを弾きながら、弾き語りのようにして歌い始めた「Late Show」ではバンドの勢いがさらに加速していく。演奏が走りまくっているというわけではないが、ツアーファイナルならではの衝動が炸裂しているというのは見ていてよくわかる。届けたい思いがそのまま声となり、音になっている。
イントロのコーラスなどはどこかレイドバックしたような、オリエンタルなものに感じるが、そこから目まぐるしく展開していき、サビでは実にリズムの重さを感じる、sumikaならではのラウドと言っていいサウンドへと変貌し、赤い照明がそれを強く引き立てる「ライラ」では片岡と小川のツインボーカル的な掛け合いも聴けるなど、本当にsumikaというバンドは懐が広いというか、こんなにも様々なタイプの曲をバンドとしてリリースして、それを一つのライブで共存させることができるというのが本当に凄い。そしてそれら全てをsumikaとして受け止めているファンも凄い。
すると片岡は
「良いことはすぐに忘れてしまうけれど、悪いことはずっと残ってしまう。100個の良いことがあっても悪いことが1つあればその1つに飲み込まれてしまうように。だから定期的にこうやって良いこと、楽しいことを摂取していくしかないんじゃないかって思ってます。
忘れてしまうけれど、日々勉強や仕事、家事や育児などで大変だったり、辛いなって思うことがあった時に、今日のことを少しだけでも覚えていてくれたらって思います」
とこのファイナルだからこその思いを口にしたのだが、確かに片岡の言う通りだ。人生において記憶に残ってしまっているのは良くないことばかり。それでも自分はこれまでに見てきた、なんなら渋谷のO-EASTのサブステージで狭そうになりながらライブをしていた時から、sumikaのライブを覚えている。それは悪いことではなく、全てが良い思い出として。武道館でワンマンをやった時も、千葉のホールに来てくれた時も、憧れのロッキンのメインステージに立った時も、今年のJAPAN JAMで来てくれた人を最大限に肯定してくれたことも、もちろんこのツアーのガーデンシアターのライブも。
それらを覚えているのは、記憶に残ってしまうような悪いことを上回るような良い記憶となるようなライブをsumikaが見せてくれてきたから。だからこの日のことだってこれから先もずっと忘れないはずだ。
そんな思いを音にするかのように、この日のことを胸に抱えながらも一歩ずつでも前に歩いていけるような温かさを持った「明日晴れるさ」の照明がステージを照らし、ステージから鳴らされる音が我々観客のことも照らすと、最後に演奏されたのは、もうリリースから随分経ったように感じられるけれど、アルバムとしては今年リリースの「AMUSIC」に収録された「センス・オブ・ワンダー」。
進研ゼミのCM曲としてsumikaの名前を広く世に知らしめた曲であるが、中学校や高校の時にこの曲が聴けていたらもう少し勉強に対してやる気が起きていただろうかと思うし、その年齢でsumikaの音楽に触れることができているであろうこの日の若い観客の人たちを少し羨ましく感じた。それくらいに、ステージ上の8人も、それを見つめる観客たちも、目も姿そのものも本当に輝いて見えていたから。sumikaの音楽は聴き手の年齢を問うことは全くないことだけど、
「挑め
まだ見たことない自分へ
何者にでも変われる
諦めかけていた運命の向こうへ
進めそれが全てさ
本当のスタートラインさ」
という歌詞はメンバーと同世代の自分以上に、まだこれから何にだってなれる、何だって選べる10代の人の方が響くはずだから。
本編が終わってアンコール待ちで会場の規模の大きさに見合わないくらいの揃った手拍子が響くが、なかなかアンコールが始まらないのは何かしらステージ上が忙しなく動いている感じがしたからで、実際にステージにパッと明かりがつくと、そこには中央に片岡。その下手傍にはなんとDJとしてMop Of HeadのGeorgeが。
その2人だけの編成で、完全なるエレクトロ・ダンスミュージックの新曲「Babel」を披露するのだが、あまりにこれまでのsumikaのサウンドとの飛距離がありすぎて、片岡がなんかしらのダンスミュージックのプロジェクトのボーカルに招かれたのかとすら思ったが、
「さようなら さようなら」
というサビのリフレイン(「せからしか せからしか」と方言に変わる箇所もあった)の抒情的なメロディは確かにsumikaらしいものである。客席からは「これは何が始まったんですか?」という空気が満ち溢れていたけれど。
しかもこの新曲披露の瞬間はYouTube LIVEで生中継されており、会場に来れなかったファンがこの場面のみをいきなり見たらどう思うのだろうか。世代的にもsumikaになる前からMop Of Headとはライブハウスを通じて片岡は交流があったと思われるが、まさか今このタイミングでこうしたタイプの曲でコラボをするとは。
その新曲「Babel」が12月リリースのニューシングル「SOUND VILLAGE」に収録されることを告知すると、とっておきの曲をアンコールで連打するとばかりに「ファンファーレ」「フィクション」というアンセムを連打するのだが、それがどこかそれぞれ夏、春という過ぎ去ってしまった、音楽が好きな人にとっては厳しいものになってしまった季節のことを思い起こさせる。それでもやはり演奏されている瞬間は心から楽しいと思えるのは、sumikaというバンドとゲストメンバーまで含めた全員が持つポジティブな、音を鳴らしている、それを見てくれる人たちがいるということへの喜びが溢れているからだ。
しかしながら最後に一言ずつメンバーが言葉を口にする(自己紹介MCと全く同じ入り方をした黒田が笑わせてくれるあたり、MCのレベルも確実に上がっている)と、片岡は
「こんなことをミュージシャンが言ってはいけないことかもしれないけれど、次のツアーができる、次のライブができるっていうのは当たり前じゃないんです。来ない選択をしたのも正解だけど、こうして来てくれるっていう選択をしたあなたがいるから、次のツアーやライブをやることができる。出会ってくれて、大切にしてくれて、本当にありがとうございます」
と目を潤ませながら言った。その当たり前にライブはできるものではないということを痛感せざるを得なかった1年だし、どこよりもそれを感じたのはこの会場でのライブだった。ステージに立って言うことではないことや、そう思ったという感情さえも我々の目の前で口にしてくれる。そんな片岡を、sumikaというバンドを心から信頼しているし、これからも信頼できると思った瞬間だった。
そして最後に演奏されたのは、再びオープニング時同様に「花鳥風月」のライブタイトルの幕がステージ背面に垂れ下がり、片岡が
「はらりら花弁揺れる」
と歌う歌詞に合わせて、桜の花弁のような紙吹雪が舞う。それは音楽業界、ライブ業界にようやく春の息吹が芽生えてきたことのようでもあり、
「日本の春夏秋冬を感じられるようになりますように」
という言葉にピッタリの演出だった。
自分はこうしてライブを見ることさえできれば他の事はできなくてもいいとさえ思っているところもあるのだが、春は花見、夏は花火、秋は紅葉、冬は雪。それを何の気兼ねもなくたくさんの人が観に行くことができる、感じることができるようになったその時には、きっとライブを取り巻く状況も今よりももっと良くなっているはず。そう考えると、関係ないような事象も全て繋がっている。そうだ、季節を感じられるようになるということは、またいろんな土地のフェスで暑かったり寒かったりという思いをしながら、sumikaのライブが見れるということだ。それが来年の春には当たり前になっていますように、ということを思ったエンディングだった。
演奏が終わるとGeorgeも含めた総勢9人で横一列に並んで観客に一礼すると、ゲストメンバーたちを見送ってから下手通路、上手通路に移動して一礼し、マイクを通さないでもアリーナ全体に聴こえるくらい、片岡が冒頭で
「今日で当分声が出なくてもいい」
と言っていた通りに
「ありがとうございました!」
と挨拶をした。やり切ったようでいながらも、やはりどこかこのツアーが終わって欲しくない、そんな思いを抱いていることがメンバーたちの表情や仕草から伝わってきたのだった。
メンバーがステージから去ると「SOUND VILLAGE」の収録曲公開に加えて、早くもこのツアーの続編としてライブハウスツアーを行うことが発表された。東京だけでも6公演という凄まじいスケジュールは、これまでに出来なかったライブというものを、いろんな場所へ行っていろんな人に会うという生き方を取り戻しに行こうとしているかのようだ。
それと同時に、sumikaがライブバンドであることを今一度示しにいくような。何回だってこの楽しさを、幸福感を味わいたいから、何公演も行くという人もきっとたくさんいるんだろう。それら全て、なんだかんだ言って嫌いじゃないどころか、むしろ大好きだったりする。
1.Jasmine
2.祝祭
3.Flower
4.ふっかつのじゅもん
5.イコール
6.わすれもの
7.Jamica Dynamite
8.溶けた体温、蕩けた魔法
9.願い
10.本音
11.惰星のマーチ
12.Shake & Shake
13.絶叫セレナーデ
14.Traveling
15.Late Show
16.ライラ
17.明日晴れるさ
18.センス・オブ・ワンダー
encore
19.Babel (新曲)
20.ファンファーレ
21.フィクション
22.晩春風花
文 ソノダマン