去年の冬フェスは名古屋のMERRY ROCK PARADE以外はほぼ中止になった。それは15年以上の歴史を持つ、冬フェスのパイオニア的な存在であるCOUNTDOWN JAPANも例外ではなく、昨年は開催直前に中止に。
それを経ての今年も夏のロッキンはなくなってしまったものの、例年から様々な変更をして2年ぶりにCOUNTDOWN JAPANが帰ってきた。
2年前までは物販、クローク、入場口として使っていた9〜11ホールは使用せず、8ホール内に入口(GALAXY STAGEがあった位置)を作り、電子チケットとともにワクチン接種証明かPCR検査証明を提示して入場すると、その隣のホールでは物販、奥に行くにつれて飲食ブース、そして今年唯一のステージとなったEARTH STAGEが。装飾などはほとんどなくなったあたりにこの規模での予算額の限界が感じられるが、飲食ブース内には至る所に手洗い場があったり、「音楽を止めない」「フェスを止めない」という、渋谷陽一社長いわく「怒りのメッセージ」も掲載されている。さらにEARTH STAGEには出演アーティストそれぞれの直筆メッセージも。
EARTH STAGEの客席にパイプ椅子が敷き詰められているというのはコロナ禍以降の幕張メッセでのライブのおなじみの形とも言えるのだが、そんな形が変わった会場であっても、CDJに戻ってくることができたという感慨を強く感じる。もう去年みたいな何もない年末はゴメンだとも。
開演前には恒例の社長の朝礼が行われるのだが、夏のロッキンが中止になったことにも触れつつ、国会でも国会議員が
「ロッキンの中止は残念だった」
と口にしたことについて、
「お前がロッキンの何を知ってるんだ」
と、珍しく強い口調で話す。そこにはこうしてこのフェスのように万全の体制でロッキンを開催できるはずだったという悔しさを感じさせるし、その姿を春のJAPAN JAMで見てきたという人もたくさんいるはずだ。
11:35〜 Little Glee Monster
社長の朝礼の後に物販を買いに行ったりしていたので、ここから本格的に参加。とはいえCMで歌っている姿くらいしかLittle Glee Monsterを知らないという状態。すでにこのフェスには何回も出ているが、こうしてEARTH STAGEのみになっても出演するような存在になるとは。
転換中にはスクリーンにこれまでのロッキンオンのフェスの歴史が映るのも見ていて楽しい。2003年のロッキンの大トリを務めた、RIP SLYMEがもう見れなくなってしまったというのは寂しくもなるけれども。
スクリーンにグループ名が映し出され、暗いステージに照明が当たると、そこにはすでに白い衣装を身に纏ったメンバー4人とバンドメンバーたちがスタンバイしており、平原綾香「Jupiter」をアカペラで歌い始め、サビフレーズが終わるとギター、キーボード、シンセ、ドラム、ベースというバンドの分厚いサウンドが加わる。シンセのメンバーはサックスを吹いたりというマルチプレイヤーっぷりも見せるのだが、
「いつまでも歌うわ あなたのために」
というフレーズで声だけを響かせるというアレンジはその部分がメンバーのこれまでとこれからの意思であることを示している。前にこのフェスに出演した時の写真で首にそれぞれ色の違うヘッドホンをかけていたイメージが強いだけに、出で立ちからしても凄く大人っぽく感じる。
「好きだ。」のような4人の美しいハーモニーを響かせる、イメージ通りのポップな曲を歌ったかと思ったら、中盤では4人のキレのあるダンスも含めた、アメリカやK-POPなどの海外のR&Bの要素を取り入れた曲も歌うことによって、このグループが幅広い音楽性を取り入れていること、このメンバーたちがそうした音楽を歌いこなせるシンガーであるということがよくわかるし、そうした曲では曲によってベースとシンセだけ、というようにあくまで歌を主役に据えるバンドサウンドの押し引きも実に練られていて、彼女たちがバンドメンバーたちとともに自分たちのライブを作り上げてきたんだなということを感じさせるし、やはり生音と生の歌唱というものがこの幕張メッセに響くことによって、CDJが始まったということを強く感じさせてくれる。
メンバーがMCで問いかけたところ、初めてライブを見るという人(自分も含めて)がたくさんいたのだが、そうした人にもポップなだけではない、「カッコいいリトグリ」というイメージをしっかり与えると、背後のLEDビジョンに燃えたぎるマグマのような映像が映り、それがまるでメンバーのパワフルな歌唱そのものであるかのような「ECHO」から、ラストはこうしたフェスで聴くことによってより大団円にライブが向かっていく「世界はあなたに笑いかけている」へ。
ずっとこのフェスに来続けていながら、メンバーが
「6回目の出演」
と言っていたことには驚いてしまった。そんなに出演していたのかと。でもこの曲を聴いていたらそうして出演するごとにステージが大きくなり、ついにはEARTH STAGEにまで辿り着いた理由がわかったような気がした。
お茶の間でも人気のポップアクトというのはこのフェスにもこれまでにも何組も出演してきている。しかしだいたいのアーティストは活動が目立たなくなるにつれてこのフェスからもフェードアウトしていった。果たしてこのグループはどうだろうか。これからもこのステージに立つべき力は間違いなく持っているということはライブを見ればすぐにわかるのだが。
12:50〜 マカロニえんぴつ
2年前はGALAXY STAGE。それすらもまだ大抜擢という感じの状況だったが、そのステージを見事に満員にしてみせ、昨年の中止やJAPAN JAMのメインステージを経て(昨年はGALAXYのトリの予定だった)、ついにEARTH STAGEに登場となる、マカロニえんぴつ。
おなじみのビートルズ「Hey Bulldog」がSEとして流れるとメンバーが登場し、高野賢也(ベース)はフェスの物販のタオルを掲げて、このライブが、このフェスが楽しみで仕方がなかったということをアピールし、さらには前に出てきて観客を煽るような仕草も見せる。普段は控えめな、まさにベーシストという立ち位置の彼からすると珍しいくらいの気合いの入りっぷりである。
他のメンバーより遅れて最後にはっとり(ボーカル&ギター)がステージに現れると、その手には自分たちが表紙になっている、この日発売のrockin’on JAPAN最新号が。それを本当に嬉しそうに掲げると、SEが鳴り止んだと同時に妖しい照明に照らされながら「愛のレンタル」を演奏するという、フェスとしてはあまりに意外なスタートとなるのだが、冬も様々なフェスに出演してきているだけに、はっとりの声もバンドの演奏も1曲目から完全に仕上がっている状態にあることがわかる。
とはいえ次に「裸の旅人」が演奏された時には「え?この曲フェスでやるの?」と思ってしまったし、最前エリア以外はやはりややポカーンとした感じになっていたのだが、それを田辺由明(ギター)と高野による
「ひー、ふー、みー、よっ」
というカウントとともに長谷川大喜のシンセが美しいメロディを奏でて始まった「恋人ごっこ」の名曲っぷりが塗り替えてしまう。初めてのEARTH STAGEであるとは思えないくらいにこの曲がこの規模のステージで鳴らされるべきアンセムであることをひしひしと感じさせてくれる。
しかしそうした前半の選曲をはっとりは
「今年最後のライブなんで、今1番やりたい曲をやらせてもらいました!」
と、アリーナワンマンも経験した2021年最後のライブだからこその選曲であることを口にする。だからこそヒット曲、リード曲、シングル曲の連打とはならないあたりが実にマカロニえんぴつらしい。
すると長谷川のピアノとはっとりの歌のみで、「恋人ごっこ」に連なるようなメロディの美しさに浸らせてくれるのは配信リリースされたばかりで凄まじい再生数を記録している「なんでもないよ、」で、2コーラス目からバンドサウンドになるというアレンジも含めて、ただ名曲であるだけではなく、ライブで聴くとより一層その名曲っぷりが際立つ曲である。この曲ができたというのはバンドにとって本当に大きいということは、今年も様々な曲をリリースしてきた中でもこの曲がこうしてフェスで演奏されているということからもわかるし、
「「何でもないよ」なんでもないよ」
とはっとりが歌った時の切なさが爆発する感たるや。
さらにはこの時期ならではの選曲と言えるのはまさに「冬の唄」である「メレンゲ」。ステージから光が溢れるかのような真っ白な照明がメンバーを照らす中で壮大なメロディが奏でられる。こうして聴いているとやはり「hope」以降のマカロニえんぴつが覚醒を果たしていて、それらの曲がバンドをこのステージまで連れてきたんだなということがよくわかる。出演順的にはポップアクトたちの後でありながらも、ロックバンドとしてそこに負けないポップネスをこのバンドは確かに持っている。
そんな中でも最も過去の曲である「愛の手」の
「十二月の空は青さが足りない」
という歌詞もまたこのフェスで演奏されているのを聴くとこの時期にピッタリな曲であることに気づくが、この曲の持つ切なさがこの日演奏された曲たちにも確かに引き継がれているという、マカロニえんぴつの歴史をも感じさせるし、
「忘れて生きる」
という締めのフレーズのはっとりの歌唱の説得力はこのステージに立てるような存在になったからこそ強く感じられるようになったものだ。
「今年、言えなかった言葉はありますか?それは来年に持っていってもいいものだとも思いますが、そんな思いもこの時間に発散できますように」
と口にすると、タイトル通りに紫色の照明がまだ真昼間とは思えないくらいにムーディーな雰囲気を作り出す「ブルーベリー・ナイツ」でバンドのグルーヴがさらに引き上げられているような感覚に。それはサポートメンバーでありながらもこの曲ではコーラスも務める高浦”suzzy”充孝(ドラム)の存在がこのあたりからより際立ってきているからかもしれない。
そしてクレヨンしんちゃんのタイアップ曲として今年のマカロニえんぴつの躍進を支えた曲でもある「はしりがき」をまさにこの日最も突っ走るようなサウンドで鳴らす。高野はステップを踏むようにしてベースを弾き、パーマが強くかかった長谷川の笑顔がスクリーンに映るのもほっこりさせてくれるが、その突っ走るような姿を見ていると、ロッキン初出演時にWING TENTで持ち時間30分のところを25分で8曲くらいやるくらいに突っ走っていたことを思い出す。あのステージに立っていたバンドが今はメインステージに立って堂々たるライブを見せてくれている。そんな感慨にも浸らせてくれるのはロッキンオンのフェスで積み上げてきたものがあるからだ。
そしてはっとりはこの2020年〜2021年という期間を、
「俺の居場所はここだって改めて思えた1年だった。それはわかっていたんだけど、確信になった1年だったっていうか。
やっぱりロックバンドが非常に厳しい状況になってるなっていうのも感じてきたし、悲しい思いもたくさんしたけど、その悲しみも背負って走り続けてきたっていうか。だからすごく疲れた1年だったけど、この疲れは嫌いじゃない。
あなたが期待してくれたから。走らせてくれたから。聴いてくれる存在がいなければ、ここまで走ろうとは思えなかった。いなかったらいなかったでまた違う理由を見つけていたのかもしれないけど、我々に走る理由を与えてくれてありがとうございます」
と総括して客席に向かって頭を下げた。その姿はこのステージに立つバンドとしての責任や期待を確かに背負っていて、その重さも感じながらも、それがバンドをやる理由の一つになっているかのような。
そうして最後に演奏された「ヤングアダルト」をはっとりはやはり思いっきり感情を込めるようにして歌った。そこには去年から今年にかけて感じたこと、見えてしまったもの、それら全てを曲に込めてそのまま来年またより速く、行けるところまで走ろうとしているかのような躍動感が満ちていた。
「夜を越えるための唄が死なないように
手首からもう涙が溢れないように」
というサビはコロナ禍になって、音楽に対する世の中の見方が変わったことによって、良くも悪くもより強い意味を持つようになった。それでも、
「僕らは美しい
明日もヒトでいれるために愛を集めてる」
と締められるように、こうして愛が溢れている場所に来ることによって、そこにあるものやいる人が美しいと感じることができる。明日も走ることができる。
演奏後に大きな拍手を求めたはっとりは登場時のように自分たちが表紙のrockin’on JAPANを手に取ると、
「買ってね〜」
と言いながら巻頭の自分たちのページをめくってみせた。本当に表紙になれたことを心から嬉しく思っているんだろうし、時には揶揄されることもあるロッキンオンに載る、フェスに出るということを、このバンドはきっと他の何よりも誇りに思っている。これからロッキンオンのフェスを、誌面を支えていくのは、間違いなくこのバンドだ。
リハ.ワンドリンク別
リハ.girl my friend
1.愛のレンタル
2.裸の旅人
3.恋人ごっこ
4.なんでもないよ、
5.メレンゲ
6.愛の手
7.ブルーベリー・ナイツ
8.はしりがき
9.ヤングアダルト
14:05〜 ヤバイTシャツ屋さん
転換中のかなり早い段階でステージに登場してきたのは、もりもりもと(ドラム)。ドラムを叩いてサウンドチェックをしていると、そこへしばたありぼぼ(ベース&ボーカル)とこやまたくや(ボーカル&ギター)も登場するのだが、ベースを持ったジャージ姿のしばたの前にこやまが座って邪魔をするというあたりからして実にヤバTであるが、
「普段やらん曲やろうか。10-FEETやろう」
とこやまが提案すると10-FEET「JUST A FALSE! JUST A HOLE!」のカバーを演奏するのだが、こういうサウンドチェック時によくあるワンフレーズだけとかワンコーラスだけではなく、1曲まるまる演奏してみせるというあたりにヤバTの10-FEETとこの曲への愛と、普段からスタジオとかで演奏しているんだろうなということを感じるのだが、こやまによるデスボイス的な歌唱も、NAOKIのパートをしばたが歌うという歌い分けも、もりもとのコーラスも何もかもが完璧に仕上がっている。もし10-FEETのトリビュートアルバムが出ることがあるのならば、この曲はヤバTに任せて欲しいと思うくらいに。
そうして開始時間ギリギリまでサウンドチェックを行うと、おなじみの「はじまるよ〜」の脱力SEとともに3人が再びステージに登場すると、
「ヤバイTシャツ屋さんでーす!」
とこやまが挨拶してすぐにギターを鳴らす「ハッピーウェディング前ソング」からスタート。Aメロでは客席から手拍子が起こり、声こそ出せないけれど、
「キッス!キッス!」
のフレーズでは観客の腕が上がる。この日はおなじみの道重さゆみTシャツの上にジャージを着ていたしばたの声もいつも通りに実に伸びやかであり、こやまのボーカルとともに、パンクバンドとしてのスタイルを持ったままでこの規模に立つべきバンドが持ちべきものをちゃんと持っていることがよくわかる。曲終わりには
「COUNTDOWN JAPAN 開催おめでとうー!」
と、このフェスの開催を祝うものへと曲の意味合いが変化する。
すぐさまテンポ高速化しまくり、それによって2コーラス目のしばたのボーカル部分も詰め込みまくることになっている「ヤバみ」から、そのしばたとこやまの男女ツインボーカルだからこその突き抜けたポップなメロディを伸びやかに響かせる「鬼POP〜」、さらにはこやまが
「新曲やります!」
と言ってから演奏された、今年リリースのシングル曲「くそ現代っ子ごみかす20代」はラウドかつハードなサウンドで鳴らされ、ヤバTがポップさ、キャッチーさとそうした要素を両立したバンドであることを示しているのだが、その曲を「新曲」と紹介したからか、全然新曲ではなくなったタイミングになっても「新曲」と紹介し続けてきた「癒着☆NIGHT」が、観客の手拍子を煽り、それを見て
「ありがとう!」
と言ってから演奏されるようになるという変化も。
ここまでは全ての曲がシングル曲、あるいはリード曲でるために、このライブは年末、そして2021年最後のライブだからこそのヤバTヒットメドレー的なものになるのか?とも思っていた。それはヤバTにとっては全くと言っていいくらいにやったことがない、逆にレアなセトリということになるのだが。
しかしながらそうした予想は、
「今年は大晦日も20時までしかやってないから、ここで年越しできない。だからここで年越ししておきましょう。これが終わったら2022年になるから、そうしたら全然関係ない曲をやるから(笑)」
とこやまが言って、特にスクリーンにカウントがでてきたりしないという、何の演出もない中で10秒前からのカウントダウンを敢行し、0になった瞬間に、本当にこの流れと全く関係ない「げんきもりもり!モーリーファンタジー」へと突入していくのだが、もりもとをフィーチャーしたこの曲ではステージ背面のLEDにやたらともりもとのややたじろぎながらもコーラスする姿が映り、そのもりもとのセリフ部分ではドラム台の上にこやまとしばたが無表情で座り込んでいるという図も地味に面白い。モーリーファンタジーはイオンのゲーセンなので、日本最大級のイオンモールが近くにある幕張メッセだからの選曲というのは考えすぎだろうか。
そこでもりもとをフィーチャーしたからか、「Tank-tot of the world」ではコーラスをもりもとに全振りすることはせずに、むしろしばたのサビのボーカルをフィーチャーする。そのしばたが自らの頭を叩いて手拍子を煽るのも含めて、やはりこの曲が演奏されると実にテンションが上がる。それはかつてのモッシュとダイブに塗れていたライブの景色を思い出してしまうものでもあるのだが。
「知らない人も知ってるフリして聴いてね〜!」
と言って演奏されたのは「かわE」であるが、ヤバTの言語感覚の凄まじさをお茶の間にまで広めた、ヤバTの代表曲の一つであるだけに、知らない人はそうそういないだろうというくらいに、「やんけ!」のフレーズでは腕が上がる。声は出せないけれど、みんな心の中でそのフレーズを口ずさんでいたはずだ。
するとこやまは
「前まではCOUNTDOWN JAPANはステージがいっぱいあって、たくさんのアーティストが出てたやん?そこに出てる初めてライブ観るアーティストとの出会いの場になったりしていて。
でも今年はステージが一つしかないから、1日8組しか出られへん。もう枠の奪い合いよ。みんなフェス出たいもん。だから来年は前みたいなたくさんステージがあるCDJが戻ってきて、そこでたくさんの新しいバンドとの出会いが生まれたらいいなと思ってます。
その時にはみんなで声を出して歌えるように。ライブハウスのことを歌った曲をやります!」
と言って演奏されたのはもちろん「Give me the Tank-top」であるが、
「フェスビッチ」
と自称するくらいにあらゆるフェスに出まくってきたヤバTは、自分たちがフェスの小さいステージに出演したことによって話題になって、こうして大きいステージに出られるようになったということをわかっている。だからかつての自分たちのようなバンドたちにも光がまた当たるようなフェスになって欲しい。もちろんフェス側も今まで通りにやりたいはずであるが、そうするとその分感染対策に対するリスクは高くなる。去年と今年の夏の苦い経験があるからこそ、今年はこの形で開催するしかなかった。
そんな様々な立場の葛藤や思いをヤバTはパンクロックに、タンクトップに込めた。もう自分たちだけが楽しければいいって思っているようなバンドじゃないということは、ここにいた人たちはみんなわかっているはずだ。
さらには「NO MONEY DANCE」と、アルバムとしては最新作である「You need the Tank-top」の曲が続くのだが、こうして1年の終わりにこのアルバムの曲たちを聴いていると、今年の春のツアーのことを思い出さざるを得ない。
今よりもはるかに状況が悪くて、キャパも今よりも減らしたり、そもそもまだライブ自体が今ほど再開されていなかった時期にヤバTはZepp Tokyoで5days10公演という凄まじいスケジュールでライブを行った。そこにはライブハウスを、ライブという文化を守りたいというヤバTと顧客の思いが刻み込まれていた。あの頃にヤバTがあれだけライブをやりまくっていたのは間違いなくこの今年の冬フェスにも繋がっているはずだ。メンバーも観客も
「Yeah!!!!!」
のフレーズで2本指を笑顔で突き出すのだが、そんな春のこと、ヤバTが守ろうとしてきたものがこの日この会場に溢れていることを思ったらどうにも泣けてきてしまった。今年、ヤバTがライブをやりまくってくれて、間違いなく自分は救われていたのだ。
そんなヤバTのライブも今年はこの日がラスト。そんな1年の最後に演奏されたのはやはり「あつまれ!パーティーピーポー」で、サビでは観客が腕を左右にふりながら、心の中で思いっきり
「えっびっばーっでぃっ!」
のフレーズを叫ぶ。また来年はこの曲を心の中だけではなくて、みんなで口に出して歌えるように。曲が終わって楽器を抱えてジャンプするこやまとしばた、その着地に合わせてキメを打つもりもとの姿は本当にかっこE越してかっこFだった。
「残り時間15秒!」
と、やはりギリギリまで時間を使ってダッシュで去っていくのも含めて。
今回のCDJには前方抽選エリアというのがあって、最前エリアは事前に見たいアーティストの抽選に当たった人が入れるゾーンになる。(もちろん指定席で、席間隔は1席空け)
ヤバTの時にそれを引き当てた自分はほぼ最前のど真ん中でライブを見ていたのだが、間違いなく今年1番ライブを見てきたバンドの年内最後のライブを、ライブハウス以上に近い位置、なんなら今年1番近い位置で見れたというのは、色々ありすぎた2021年における最大のご褒美だったのかもしれない。そう思うくらいに、ずっと「カッコいいバンドだ」と言い続けてきたヤバTが、こんなにもさらに頼もしく思えた1年だった。それだけでも、少しくらいは良い年だったと言えるのかもしれない。
リハ.とりあえず噛む
リハ.ZORORI ROCK!!!
リハ.JUST A FALSE! JUST A HOLE!
1.ハッピーウェディング前ソング
2.ヤバみ
3.鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
4.くそ現代っ子ごみかす20代
5.癒着☆NIGHT
カウントダウン
6.げんきもりもり!モーリーファンタジー
7.Tank-top of the world
8.かわE
9.Give me the Tank-top
10.NO MONEY DANCE
11.あつまれ!パーティーピーポー
15:20〜 UNISON SQUARE GARDEN
今回のこのフェスのテーマは「フェスを止めない」「音楽を止めない」であるが、昨年から今年にかけていち早く自分たちなりのやり方でライブを行い、様々なアイデアのツアーをやってきたUNISON SQUARE GARDENは「ライブを止めない」「ロックバンドを止めない」を実践してきたバンドである。そんなユニゾンの2021年最後のライブがこのCDJである。
過去のツアーのリバイバルツアーに加えて、昨年リリースのアルバム「Patric Vegee」のツアーもようやく今年回れるようになっただけに、それらを踏まえてきたフェスのセトリはどんなものになるのだろうか?と思っていたのだが、おなじみのイズミカワソラ「絵の具」のSEでいつもと同じように斎藤宏介(ボーカル&ギター)は爽やかに、田淵智也(ベース)は不審に、鈴木貴雄(ドラム)は厚着に登場すると、SEが止まると同時に斎藤が歌い始めたのは「さわれない歌」という、今年にかけてのツアーなどを全く踏まえていないというオープニング。それが実にユニゾンらしいと言えるけれども、それは自分たちの音楽は誰にも奪うことはできない、さわることすらさせないという意思の表れでもあったのだろうかと思う。
「さわれない歌」ではマイクスタンドの前でベースとコーラスに徹していた田淵が歌い出しが終わった直後から広いステージ上を駆け回り、高くジャンプまでするという田淵らしさを遺憾無く発揮しはじめた「桜のあと (all quartet lead to the?)」ではまさに桜並木の下で演奏しているかのような淡い照明がメンバーを照らし、曲中にスタッフが鈴木の頭にヘッドホンを装着したことによって間髪入れずに「君の瞳に恋してない」が演奏され、会場はすぐさまユニゾンのライブだからこその「楽しい」という空気に満ちていく。それは田淵が大きくステップを踏みながらベースを弾き、アウトロでは斎藤と共にリズムに合わせるように体を伸縮したり、鈴木がカメラに向かって笑顔を見せながらドラムを叩くのも含めて。
ロッキンオンのフェスのメインステージは近年はメンバー背後のLEDスクリーンにも演奏している姿が映し出されたり、あるいは映像をそこに投影したりという使われ方をしているのだが、ユニゾンはそれを一切使うことなく、「UNISON SQUARE GARDEN」というバンドのロゴが映し出されるのみというスタイル。アリーナクラスの会場になってもスクリーンを使ったりということをしてこなかったユニゾンのライブのストイックさはEARTH STAGEでも変わらない。
そんな「楽しい」が「カッコいい」に変わる瞬間がハードなサウンドの「Phantom Joke」であり、そのスリリングな演奏とともに田淵の動きもより激しくなる。なんなら今年最後ということで(大晦日に配信ライブもあるけど)、その動きはいつにも増してキレがあるようにすら感じる。
再び鈴木がヘッドホンを装着すると、壮大なサウンドが流れる「春が来てぼくら」のポップかつキャッチーなメロディへとガラッと空気が変化するのだが、基本的に季節にこだわるような選曲をほとんどしないユニゾンが「桜のあと」「春が来てぼくら」という春の曲をこうして1年の最後の冬フェスで演奏しているのを聴いていると、ただ単に冬の次の季節が春というだけではなく、音楽シーン、ライブシーンそのものに春がやってくるように願いを込めているかのようだ。そう思えるライブを見れているだけで今日は、花マルだねと思える。
再びガラッとサウンドがスリリング極まりないものになるのは田淵が思いっきり振りかぶるようにして腕を振り下ろしてから始まった「天国と地獄」であり、ここまで全く曲間すらなくひたすら曲を連発してきてのこの曲へという流れには驚いてしまう。観客はもちろん椅子がある中でも踊りまくっているのだが、歌いながらギターを弾きまくるというそれ以上に体力を使っているはずの斎藤はいつもと全く変わらぬ涼しい表情で歌っているというのはもはや恐ろしさすら感じてしまう。
それはイントロが鳴らされた瞬間に観客が腕を挙げたり飛び上がったりすることによって曲が演奏された嬉しさを表す「オリオンをなぞる」もそうであるが、この曲を求める人がたくさんいてもなかなか期待通りに演奏してこなかったのに、今になってこうして演奏しているのは?と思ったりもするけれど、それはこのフェスに、ライブシーンに、
「ココデオワルハズガナイノニ」
というフレーズを歌うことで、ユニゾンなりの音楽のみでエールを送っているかのようにも感じる。今こそこの曲を歌うタイミングが来たとでもいうような。時には立ち上がったままで叩きまくる鈴木のドラムは明らかに手数を増しまくっているというバンドとしての進化も見せている。
その鈴木は再度ヘッドホンを装着したかと思いきや、コートのフードを被って目が見えない状態を自ら作り出してドラムを叩くのは「シュガーソングとビターステップ」であり、まさかここまでヒット曲を連発するような内容になるとは、と思ってしまうのだが、この演奏している以外の時間が全くないというストイックなユニゾンのライブのスタイルはこの日初めてライブを見たであろう人を驚かせてしまう夜になったはずだ。もちろんここでも鈴木の手数は大幅に増している。
斎藤が
「良いお年を!」
とだけ言ってギターを鳴らし始めると、最後に演奏されたのは完全無欠のロックアンセム「フルカラープログラム」で、斎藤は最後のサビに入る前に思いっきり溜めるようにしてからマイクの前を離れて歌い始めた。それでもこの広い幕張メッセの中にしっかり響き渡る歌声。斎藤のシンガーとしての底力を見せつけられると同時に、その歌唱の後に再び3人の演奏になるとさらに爆音になったように感じられた。
「UNISON SQUARE GARDENでした、バイバイ!」
とだけ言ってステージから去った9曲45分。それはロックバンドを止めることなく動き続けてきたことによってバンドとしての体力、筋力をコロナ禍でも増強してきたユニゾンだからこそできたことでもあり、鈴木の去り際の笑顔で胸を叩く仕草は2021年も変わらずにロックバンドをすることができたという感慨のようなものを感じさせたのだった。
ユニゾンは「シュガーソング〜」での大ブレイク後も敢えてそうしていたかのように、なかなかGALAXY STAGEからEARTH STAGEに行こうとしなかった。なんなら今となっては信じられないが、「オリオンをなぞる」リリース前後の頃はGALAXY STAGEすら埋まっているとは言い難いくらいの状況だった。
そんな姿を見てきただけに、本人たちにとっては特段感慨みたいなものはないであろうEARTH STAGEでのライブも、「ここまで来たのか…」と思いながら見ていた。それはこのフェスが開催されて、ユニゾンが出演してくれたから思えたことだ。来年以降もまたこのステージで見れますように。
1.さわれない歌
2.桜のあと (all quartet lead to the?)
3.君の瞳に恋してない
4.Phantom Joke
5.春が来てぼくら
6.天国と地獄
7.オリオンをなぞる
8.シュガーソングとビターステップ
9.フルカラープログラム
16:35〜 東京スカパラダイスオーケストラ
このフェス発足時から出演している、東京スカパラダイスオーケストラ。JAPAN JAMでも圧巻のステージを見せてくれたが、おなじみのCDJにも無事に全員で帰還。ベテランになっても年末はフェス三昧の日々を過ごしている。
オレンジ色が鮮やかに見えるスーツ姿のメンバーがステージに登場すると、SE的に鳴っていた「多重露光」をそのまま引き継ぐように演奏に入っていく。インスト曲ではあるが、だからこそNARGO(トランペット)、北原雅彦(トロンボーン)、GAMO(テナーサックス)、谷中敦(バリトンサックス)というスカパラならではのホーン隊のサウンドの迫力を存分に感じることができる。谷中はスーツの色に合わせているかのように髪も赤く染めているのが実に若々しく見える。
その谷中がマイクを持って歌い始めるのは大森はじめ(パーカッション)や川上つよし(ベース)というリズムを支えるメンバーが谷中の歌を傍で固め、メンバーもステージ上で踊りまくり、もちろん観客も踊りまくる「DOWN BEAT STOMP」であり、この曲を聴くとスカパラのライブを見ているなという気分になる。続く「9」も谷中メインボーカルの曲であり、かつてワールドカップに合わせて作ったという「DOWN BEAT STOMP」(歌詞にその一端は見える)に続いて演奏されることによってスポーツソング繋がりという、スカパラの音楽がアスリートや応援する人の気持ちをさらに盛り上げてくれるものであることを感じさせてくれる。
すると谷中に変わってボーカルを任されたのはドラムの茂木欣一なのだが、その茂木メインボーカルの最新アルバム収録曲「会いたいね。゜(゜´ω`゜)゜。」はそのタイトルには驚いてしまうけれど、熱くも優しい茂木のファンや観客への想いがそのまま曲になっているかのようですらある。それだけにこうしてライブという目の前で会えている場所で聴けることでその想いが溢れているかのような。
するとここで最初のスペシャルゲストを招く。タイトルに合わせた白のスーツを着たUNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介は自身のギターを持ってステージに登場すると、そのスカパラには珍しい歪みまくったギターを鳴らしまくりながらも爽やかな声を響かせる「白と黒のモントゥーノ」をコラボ。斎藤はユニゾン以外にもXIIXでも活動するようになっているけれど、やはりスカパラの演奏でスカパラの曲を歌うというのはそのどちらとも違う、スカパラだからこそのものであると思うし、それをこうしてライブで見れるというのは出演日が同じだからこその実にラッキーなことである。
斎藤がステージを去ると、沖祐市のピアノが美しく響く。その沖の独壇場と言えるような「水琴窟 -SUIKINKUTSU-」である。それだけにスクリーンにも沖がメインで映し出されていくのだが、スカパラは自分が出会った時からすでにベテランのおじさんたちのバンドであったが、こうしてアップで映し出される姿を見ると、より年齢を重ねたなというのが白くなった顎髭などからわかる。
沖は自分に多大な影響を与えたバンドである銀杏BOYZの曲にも参加してくれたりしている(後に銀杏BOYZの峯田和伸もスカパラのゲストボーカルに招かれたが)ので、スカパラのメンバーの中でもトップクラスにリスペクトしている男であるし、流麗なサウンドと演奏は年齢というよりもキャリアを重ねることでより進化しているとすら思えるのだが、年齢を重ねているのを感じると、どうかこれからも健康にだけは気をつけてステージに立っていて欲しいと思ったりしてしまう。
そんな沖に多大な拍手が送られると、次なるスペシャルゲストとして迎えられたのはこの日のトリを務める[Alexandros]の川上洋平なのだが、斎藤とは異なってスカパラのメンバーと同じオレンジのスーツを着ているという姿はまるでスカパラに若いボーカリストが加入したかのようにハマっている。やはりスタイルが良いだけにこのスーツ姿が実によく似合う。
その川上が歌うのはJAPAN JAMでもコラボした[Alexandros]の「風になって」のスカパラバージョンなのだが、サビで吹き荒れるホーン隊のサウンドはこの曲で全く違う風を吹かせてくれる。もはやこのバージョンで音源化して欲しいくらいであるし、2回もやっているんだからこのままで終わりでは勿体なさすぎるし、この曲をこうしてフルで演奏してくれるというあたりにスカパラのサービス精神のプロっぷりを感じる。
「風になって」を歌い終わると谷中は川上に
「当たり前のように一緒にご飯食べに行ったりしたいねぇ」
と話しかけると、
「付き合い悪い後輩みたいですいません!是非奢ってください!(笑)」
と何故か川上は奢ってもらう前提なのだが、そんな微笑ましい2人のやり取り(なかなか川上がステージでこんなに後輩ヅラする姿は見れない)から、川上がスカパラにゲストボーカルとして招かれた「ALMIGHTY 〜仮面の約束〜」へ。
タイトル通りに仮面ライダーのタイアップということで、北原によるダンディなアクションなんかも見られる中、川上はステージ上を左右に歩き回りつつ、時には加藤隆志(ギター)と向かい合ったりしながら歌い、さながらドロスのライブの時のように自分に寄ってくるカメラにアップで目線を向けたりする。そんな川上でしかない姿も見せながらも、ドロスではまずやらないスカのサウンド(ホーンの音自体は「Droshky!」で入っている)の曲を歌うのが聴けるのはスカパラのライブに招かれた時だけ。それはドロスファンとしても実に嬉しいものである。
そうして川上とのコラボを終えると、CMでもおなじみの「Paradise Has No Border」が高らかに鳴り響くのだが、曲中にGAMOが
「いつものやつ行くぞ〜!」
と言って下手側に移動すると、ホーン隊と加藤、川上という動けるメンバーが一気に集結して、下手側が盛り上がっているのか煽って確認して音を鳴らすのだが、このパフォーマンスを自ら「いつもの」と言っていることが地味に面白い。同じように上手側にも移動して盛り上がっているか確認するのだが、実際に自分のいる方に来てくれると、6人ものメンバーが固まったフォーメーションで音を鳴らすのは凄まじい迫力である。加藤が銃のようにギターを構えるのも含めて。
そうしたライブならではのパフォーマンスを経て全員が定位置に戻ると締めの演奏を行ってライブを終えた。もしかしたら発表してないけど、宮本浩次も出てくるかな?と思っていたのはさすがに宮本浩次の出番が次だからなかったけれど、100発100中でこんなにも楽しませてくれるスカパラらしさは明らかにかつてより進化しているし、谷中が
「来年はみんなマスクしないで、思いっきり一緒に歌ったりできるようになることを願ってます!」
とあくまで笑顔を絶やすことなく言っているのを見ると、本当にそうなるような気がする。そんなポジティブなパワーをスカパラは持っている。
1.多重露光
2.DOWN BEAT STOMP
3.9
4.会いたいね。゜(゜´ω`゜)゜。
5.白と黒のモントゥーノ feat.斎藤宏介
6.水琴窟 -SUIKINKUTSU-
7.風になって feat.川上洋平
8.ALMIGHTY 〜仮面の約束〜 feat.川上洋平
9.Paradise Has No Border
17:50〜 宮本浩次
JAPAN JAMで大トリを務めてから半年。このフェスが初めて開催された時からエレファントカシマシとしてずっとEARTH STAGEに立ち続けてきた、このフェスの象徴にして守護神の宮本浩次が今回のCDJでソロとしてであるが、幕張メッセに帰ってきた。
サウンドチェックでは宮本以外のメンバーがステージに出てきて「浮世小路のblues」を演奏していたのだが、本編ではおなじみの超強力なバンドメンバーを従えていつもと変わらぬスーツ姿の宮本が登場すると、ソロとしての始まりとなった「宮本、独歩」からの「夜明けのうた」でスタートするのだが、最初から思いっきり感情を込めるようにして、声が裏返るかどうかのギリギリの高音の限界に挑むようにして歌う宮本の歌の表現力がJAPAN JAMから半年ちょっとしか経っていないにもかかわらず、信じられないくらいに進化している。新作アルバム「縦横無尽」をリリースし、ただでさえコロナ禍の世の中で宮本自身もとっくに50歳を過ぎているのに全都道府県ツアーをこのメンバーで回っているという経験と努力の積み重ねが宮本の歌をさらに変えたことがわかる。もうすでにこの時点で感動して涙が出てしまうくらいに。
曲入りでの宮本の叫び声もまたより鬼気迫る迫力を獲得している「stranger」で名越由貴夫のギターが一気にロックに振り切ると、それは玉田豊夢(ドラム)とキタダマキ(ベース)のロックファンからしたらたまらないリズム隊にも影響を及ぼしていく。それをコントロールするのは、まさかこの人が全都道府県ツアーに参加するとは、という小林武史(キーボード)なのだが、この超豪華なバンドメンバーも宮本と一緒にライブを積み重ねてきたことによって、宮本浩次のバンドとして進化を果たしてきたということがそのサウンドを聴くとすぐにわかる。このメンバーたちはみんなバンドの一員になってくれるミュージシャンたちであるが、こんなにも宮本浩次のバンドサウンドとしてさらに進化しているとは。これまでにエレカシの姿を見ては歳を重ねても人間は成長できるということを学んできたが、まさかソロのバンドメンバーたちを見てもそれを感じることができるなんて。
宮本のソロとしての成功を決定づけたカバーアルバム「ROMANCE」からはこれまでにも様々なアーティストがカバーしてきた名曲「異邦人」が演奏されるのだが、曲終わりでの宮本の不敵な高笑いっぷりはこの曲の解釈をガラッと変えてくれる。それは異邦人への視点なのか、あるいは異邦人からの視点なのかはそれぞれの判断に委ねるところであるが、こんなにも不穏な「異邦人」は他に聴いたことがない。
つまりは宮本はただ昭和の名曲を自分で歌ってみたというような簡単な動機で「ROMANCE」を作ったのではなく、その曲たちを自分なりの表現としての音楽へ昇華するためにカバーしたということが、続く中島みゆき「化粧」のカバーからもよくわかる。ある意味では歌手、歌い手としての宮本浩次を演じているというか、明らかに「ROMANCE」の曲を歌うときはモードが他の曲とは違う。「そんな曲だっけ?」と思うくらいに広いステージを歩き回りながら歌い、さらにはネクタイを外してそれを振り回すように持ったりという歌う際のパフォーマンスは変わることはないとはいえ。
そうした歌謡曲の路線の延長戦上にあるオリジナル曲が「冬の花」であり、その曲の持つメロディを最大限に引き出すように歌うのだが、明らかに宮本の歌唱は変わった。進化したというよりは変異した。もはや上手くなったとかそういう次元の話ではなくなっていて、その歌で聴く人の感情を奥底から揺さぶるようなシンガーへと変わった。
今年のこのフェスにはCoccoとずっと真夜中でいいのに。がそのタイプのシンガーとして出演していて、自分は彼女たちを人間とは違う「歌の精霊や妖精」という存在だと思っている。それくらいに普通の人間がどんなに努力しても得ることができない歌唱ができるシンガーであるということだが、彼女たちがシーン登場時からすでにそうした存在だったのに比べると、宮本は前まではそういうタイプのシンガーではなかった。ソロを始めて、このメンバーと出会ってライブをやって、「ROMANCE」と「縦横無尽」を経てそうした存在になった。そんなことがあるのだろうかとも思うが、宮本の歌唱を聴いているとそうとしか思えないのだ。
そんな宮本は真っ赤な照明に照らされ、バンドメンバーたちがハードでありながらも実に整理されたサウンドを鳴らすと、エレカシの代表曲「ガストロンジャー」をやはりステージを動き回り、袖から椅子を引っ張り出してきてその上に立ったりしながら歌う。この曲の時はまた表情が変わる。歌手ではなくてバンドのボーカリストになっている。
この曲をソロでやることに複雑な思いのエレカシファンの方もたくさんいると思う。あの4人じゃないと、っていうのは長いエレカシの歴史を見てきた人であればあるほどその思いは強いはずだし、この曲をやるんならエレカシで出れば…と自分も思わないわけではない。
しかし、続くイントロにこのソロでのライブならではのアレンジが施された「風に吹かれて」を聴いていて、たくさんの腕がサビで左右に揺れているのを見て、エレカシで産んできた曲たちの名曲っぷりは変わることはないし、今これだけ話題になったり、メディアに出ている姿を見ることが多い「宮本浩次」の名義のライブでこの曲たちを演奏することによって、宮本浩次としてのライブを見てエレカシの名曲に出会ったり、改めて触れたりする人だってきっといるはずである。宮本もそうした思いを持っているからこそ、こうしてエレカシの曲をやっているんじゃないかと思う。実際にフェスはもちろんワンマンもソロの曲だけで成立させられるくらいに曲数は増えてきている。そこにはファンサービス的な視点も間違いなくあると思うけれど。
「みんな、良い顔してるぜー!カッコいいぜー!可愛いぜー!エビバディ!よく見えないけど!」
というおなじみの宮本節はありながらも、MCなしで小林武史のキーボードがすぐに次の曲へと導いていく。そのライブの作り方はこの小林武史の存在とプロデュース力によるものも大きいんじゃないかと思われるが、
「大人になった俺たちゃあ夢なんて口にするも照れるけど
今だからこそめざすべき 明日があるんだぜ」
「ああ涙ぢゃあなく 笑いとともにあれ ハレルヤ」
というフレーズを全身に宿る力を全て歌声に結集するかのような歌唱が我々のためのメッセージのように響く「ハレルヤ」はどうしたって前向きにならざるを得ない。その声をもってして、我々の意識を前に向けてくれている。
それは我々に向かって「愛してる」というメッセージを表明しているかのような「P.S. I love you」もそうであるが、MCらしいMC全くなしというユニゾンのようなストイックな、そして運動量的にはこの日の出演者の中でトップクラスと言ってもいいくらいに動き回りまくる中でも全く声が揺らいだり不安定になることはないというのはいったいどうなっているんだろうか。年齢を重ねるごとに進化しているということを常々エレカシのライブをロッキンオンのフェスで見るたびに感じてきたが、もう完全にそんなレベルの話ではない。ライブ中は常に100%のスーパーサイヤ人で戦っているかのように信じがたい状態になっている。
そんな宮本の姿に感動しながらも呆気に取られていると、最後に演奏されたのは「悲しみの果て」なのだが、エレカシでの宮本のカウントからのギターという形ではない、このバンドのリズムとタイミングから始まるという新鮮極まりない「悲しみの果て」。しかしこの曲のメッセージは夏に開催するはずだったフェスが中止にせざるを得なくなってしまったという、まさに悲しみの果てという状況にあったロッキンオンへ、そのフェスを信じていた我々への強いメッセージに他ならない。何故ならば宮本は療養した期間以外は初年度から欠かさずにロッキンオンのフェスに出続けてきたアーティストだから。
フェスの形も世の中そのものも大きく変わってしまったし、宮本の出演の形もエレカシではなくてソロに変わった。もしかしたら変わらないものはないんじゃないか、とすら思ってしまうけれども、宮本がこのフェスが初開催された時からずっとEARTH STAGEに立ち続けていることだけは変わらない。わざわざ去り際にステージに引き返してまで、
「お尻出してブッ!」
というギャグをかますところも。
我々はこれまでこのフェスでエレカシのライブを見てはその生命力に驚きながらも、その姿から生きる力、まだまだ我々だって出来ることがたくさんあるという前に進む力を貰い続けてきた。それを見ては自分はエレカシを国宝にすべきと言ってきたわけであるが、今の宮本のライブはそんなベテランアーティストから貰えるものというレベルを超越したものになっている。
縦横無尽にして唯一無二。生きる力を貰えるどころか、これを見届けるまでは死ぬわけにはいかないだろうというくらいに生への強い執着すら生まれてきている。全都道府県ツアー、どこかしらでも行くべきだと思っているし、このソロを経た上ですでに発表されているエレカシのライブはどんなものになってしまうんだろうか。もはや想像することすら恐ろしい。それくらいに、この日の宮本浩次に持って行かれていた。
1.夜明けのうた
2.stranger
3.異邦人
4.化粧
5.冬の花
6.ガストロンジャー
7.風に吹かれて
8.ハレルヤ
9.P.S. I love you
10.悲しみの果て
19:05〜 [Alexandros]
JAPAN JAMに続いての初日のトリを務める[Alexandros]。つい先日には年末恒例のワンマンライブを2部制で開催したりと、アリーナツアーも含めて今年はコロナ禍の中でも精力的にライブを行った1年になった。
ドロスのライブと言えばオープニングは「Burger Queen」のSEでメンバーが登場して…というのがお決まりであるのだが、この日は開演時間になって場内が暗転すると、スクリーンに「PARTY IS OVER」の文字が映し出され、それが「PARTY IS NOT OVER」に変化していくというのはワンマンのアンコールでおなじみの演出であるが、それをこの登場時にやるというのは、最後のアクトだけれどまだまだライブは、フェスは終わっていないというトリだからこその演出であろう。
そうしてパーティーが終わらないステージにメンバーが登場すると、先ほどすでにスカパラのライブに出演している川上洋平(ボーカル&ギター)は黒のジャケットというスカパラの時とは違ったフォーマルな出で立ちで薄い色味のサングラスをかけているというのがロックスター感を強く感じさせる。鮮やかな金髪の白井眞輝(ギター)と初っ端から頭を振りまくって長い髪を振り乱している磯部寛之(ベース)だけならず、すでに冒頭からステージにいるサポートギターのMULLON(THE LED SNAIL)もフライングVというメタル・ハードロック編成でいきなりの「Kick & Spin」で始まり、観客を飛び跳ねさせまくるというペース無視のオープニングであるが、川上はハンドマイクであるだけにステージを左右に広く移動しながら、ステージ下からのカメラにアップで映って舌を出してペロペロと動かしたりと、巨大なスクリーンを導入しているCDJだからこそのパフォーマンスを見せるのだが、もうめちゃくちゃに気合いが入りまくっているというのがその出過ぎなくらいに出まくっている声からすぐにわかる。それはもはやシャウトと言っていいような、白井と磯部のコーラスもそうである。
それは川上がギターを手にすると、イントロからギターを抱えて高くジャンプしまくる「Girl A」もそうで、このバンドが広い会場であればあるほど、人の数が多ければ多いほどにその広さや人の多さを自分たちの力に変えることができるバンドであるということを思い出させてくれる。ましてや川上のカメラパフォーマンスはロッキンオンのフェスが1番映えるということをこれまでに何回も出演してきたことによって証明している。
「今日はロックフェスだぞー!暴れる準備は出来てるかー!」
と観客を煽りまくりながら自分たちにも気合いをさらに注入するかのようにして始まった「Kill Me If You Can」はフェスで演奏されるのは珍しい曲であるが、年末パーティーでも演奏されていただけに、この日のライブのセトリが年末パーティー第2部の短縮版的な内容になるであろうことがこの曲が演奏されたことによってわかるのだが、やはり大好きなフェスのトリということで川上の歌唱とバンドの演奏の爆発力はワンマンの時を凌駕している。というかフェスの持ち時間(とはいえこのフェスのトリは50分とかなり長めでもある)だからこそ常にトップギアでいられるということもあるだろうけれど。
しかしながら川上は我々観客が声を出して歌うことができないことを少し申し訳なさそうにしていた。その分自分たちが歌うから心の中で歌ってくれと。そう言うようにして演奏された「Starrrrrrr」ではラストサビ前で川上はマイクスタンドの前から離れる。それはコロナ禍になる前に観客が合唱していた時と同じように。もちろん観客は歌えないからそこで声が響くことはないのだけれど、なんか聞こえるような感覚がこの曲の時にはいつもあるのは、今までに数え切れないくらいに歌ってきた、それを聴いてきたのが脳裏に焼き付いているからだろう。女性のキーがメインになっているから男性は出すのがキツい高さの合唱だけど、ドロスのライブならどんなに高いキーでも歌えるような、そんな感覚が確かにあった。それはまだ自分の中から消え去っていない。だから明日にでも声が出せるようになったらきっとそのキーで歌うことができる。ドロスのライブならどこまでだっていけるはず。
スカパラのライブでも演奏していた「風になって」を本家バージョンでも演奏するというのはJAPAN JAMでのスカパラとドロスのライブと同じ流れであるが、やはりドロスのライブで聴くとこの曲はこのアレンジが収まるべき形だなとも思う。なんならどちらも堪能できるようにシングルリリース時にスカパラバージョンをカップリングに入れていてくれたら…とも思うけれど、ホーンの音がないだけではなくて、やはりサウンドの骨格そのものが違う。それはリアドのド派手にシンバルを連打するドラムと茂木のリズムを刻むドラムのスタイルが全く違うように。
川上は先程も観客が声を出せないことに触れていたが、コーラスを観客が大合唱する曲だからこそ最近ライブで演奏していなかった(年末パーティーでは演奏されていたが、アリーナツアーではやっていない)「Adventure」を、それでも観客の合唱が起こらないのを承知で演奏する。
個人的には川上がハンドマイクになって、カメラにアップで映ってからそれをグイッと客席に向けるというパフォーマンスがあることから、この曲ほどロッキンオンのフェスで演奏されるにふさわしい楽曲も他にないと思っているし、やはりこうしてそのパフォーマンスが見れるのは本当に嬉しい。歌詞を
「亜麻色に染まった幕張は」
に変えるのも含めて。
すると途中からすでに参加していたROSE(キーボード)に加えて再びMULLONも合流して、川上はアコギに持ち替えると、
「今年1年のことを思い出しながら聴いてもらえたら」
と言って、この時期だからこその選曲である「12/26以降の年末ソング」ではスクリーンにフィギュアなどを用いた映像が映し出され、そこに歌詞も映し出されることによって、そのメッセージを噛み締めつつ、それぞれが2021年という1年を回想しながら聴くことができる。その演出は年末パーティーと同じであるが、年末パーティーではストリングスも加わっていただけに、それがないというバンドらしい演奏であり、
「いつまでも人間は
失敗と反省を繰り返すけど
同じくらい挑戦と希望を捨て切れない」
というフレーズが2022年への確かな希望へと繋がっていく。これからも毎年このフェスに来ればこの曲が聴けるという、CDJのテーマソングのような存在になって欲しい。この時期じゃないとバンドも演奏しようと思わない曲だろうから。
そのままMULLONもステージに残ると、この曲も観客と大合唱するコーラスパートがありながらも、まだ1回もその合唱を観客に歌ってもらうことができていない、2021年にドロスが投下した新たなアンセム「閃光」はイントロにセッション的なアレンジが加わった形で演奏されるのだが、もうすでに完全にバンドの新しい代表曲と言っていい曲だろう。観客が腕を振り上げて手拍子をしている姿からもそう感じることができるが、コーラスパートではメンバー全員が思いっきり声を出して歌っている。まるで我々の思いを受け取ってくれて、それを曲に乗せているかのように。だからそれを経ての最後のサビはより強い爆発力を感じさせたのだ。それはこの曲の本領がこの広い会場でさらに発揮されているかのように。
そして最後に演奏されたのは来年2月にリリースされることが発表されている新曲「Rock The World」。スクリーンには歌詞が映し出されるので、初めて聴く人もしっかり意味を噛み締めながら聴くことができるな、とも思ったのだが、サビではすでにたくさんの人が腕を上げていた。ということはここにいた人のほとんどは年末パーティーやアリーナツアーに参加していて、すでにこの曲を聴いたことがあったのかもしれないけれど、間違いなく来年以降のドロスを担うことになるであろうこの曲は、今年の夏にロッキンが中止になったことを発表し、ドロスのインタビューを担当している小柳大輔(rockin’on JAPAN前編集長)が落ち込んでいたその日に川上から
「新曲出来たんで聴いてください」
と言ってデモが送られてきて、それを聴いた小柳は救われたという。そんなストーリーと力を持った曲が、ロッキンが中止になったのを経た上で開催されているCDJの初日の最後の曲として演奏されている。それはドロスがトリだからできたことでもあるのだが、トリにふさわしいパフォーマンスが出来るバンドとしてこのステージに立っていたとも言える。
川上はマスコミに晒されて批判されまくっていたJAPAN JAMに出演した時もスタッフジャンパーを着てステージに立っていた。ロッキンオンと心中してもいいというくらいの覚悟を背負うかのように。それくらいにドロスはロッキンオンのフェスを愛している。愛しているからこそ、100%を超える力をそこで出すことができる。
「愛してるぜ、幕張!」
と川上は言ったが、これからも毎年その言葉をここで聞きたい。できるなら来年のひたちなかでは「Rock The World」が演奏された後に花火が上がるのを見たいと思っていた。
今年、フェスでもワンマンでもドロスのライブを何本も見ることができた。それは本当にドロスのライブを見たくて仕方がなくて、アリーナツアーにしても1本見たらもっともっと見たくなってしまったからだ。
何故そんなにもドロスのライブを観たいと思うのだろうか。それはどんな世の中の状況であろうと、この音楽とライブさえあれば、自分は無敵だと思えるような全能感をライブを観た後に感じることができるからだ。ただ前に進めるんじゃなくて、生きていく上で怖いものがなくなるような。それはメンバーのそうした生き様がその音に乗って我々に届いているからだ。ドロスがいてくれて、ライブをやってくれているから希望を捨てきれない。そんな2021年だった。
1.Kick & Spin
2.Girl A
3.Kill Me If You Can
4.Starrrrrrr
5.風になって
6.Adventure
7.12/26以降の年末ソング
8.閃光
9.Rock The World
文 ソノダマン