BUMP OF CHICKENというアーティストはもともと、年に1枚しかシングルを出さなかったり、1曲の詩を書きあげるのに1年かかったり、非常に筆の遅いアーティストなんです。アルバムを作る時もそうで、アルバム用に書いていた曲を「『俺の居場所はこのシングルのカップリングだ!』って曲が叫んでる」って理由で無理やりカップリングにねじ込んで、埋め合わせでもう1曲作ったりするような、曲やシングル、アルバムに対してすごく誠実な向き合い方をしているアーティストなわけです。
でも僕たちはBUMP OF CHICKENの作る音楽をもっと聴きたいわけじゃないですか。レーベルもそうで、もっとBUMP OF CHICKENに曲をリリースしてほしい。そんなわけで生まれたのが近年の「配信リリース」という形態なわけです。1曲のみの配信ならカップリングを気にする必要もないし、できた曲が流通するまでにかかる時間も大幅にカットできる。従来に比べてリアクションがすぐ帰ってくるからメンバーのモチベーションにもつながる。そしてすぐ曲がたまるからここ3枚ほどはコンスタントにアルバムがリリースできていたわけです。
曲を量産できるようになったBUMP OF CHICKENにはタイアップや書き下ろしのお話がたくさん舞い込むようになりました。タイアップや書き下ろしは、「こういうイメージの曲をお願いしたい」というオーダーから始まります。オーダーがある、というのはものづくりにおいて非常に楽です。ゼロから曲を作るにはテーマを決めたり、メッセージを決めたり、非常に時間がかかるものなのです。しかしすでに世界観が決まっている場合には、それに合った曲をつくればいいだけですから、テーマつくりなどにかかる時間を削ることができます。もちろん、ゼロから曲を作るほうが、誰にも口出しされずに自由で実験的な曲を作れますけどね。
今作『aurora arc』はタイアップ曲が非常に多いです。そして、BUMP OF CHICKENに曲をオーダーするクライアントが求めているのは「『天体観測』のBUMP OF CHICKEN」であることが多いわけです。
そんな相手に初音ミクとのコラボ曲や、ピコピコした実験的な曲は出せないわけです。
今作『aurora arc』は、それまでなんとか上手くいっていた「藤原基央、曲量産システム」が崩壊したアルバムだといっていいでしょう。
「藤原基央、曲量産システム」は確かにBUMP OF CHICKENのリリースペースをアップさせることに成功しましたが、それと引き換えに彼の唯一無二の創造性やエネルギーが徐々に削られていった、そんな弊害を生んでしまったといえます。
もしこのアルバム以降も縛りガチガチの堅苦しいタイアップ曲が続くなら、藤原基央という日本最高峰の才能を狭い世界に閉じ込めてしまっていることにほかなりません。
逆に、これまでにないような実験的な曲が発表されたら、それは日本の音楽界をさらなる高みへ連れて行ってくれるものとなるでしょう。
これが私の『aurora arc』評です。