ベーシストであったコシミズカヨが脱退し、2人だったFINLANDSは塩入冬湖1人のバンドになった。
そんな2人時代を総括するライブDVDもリリースされた中で、そのリリースツアーと言っていいのかはわからないがワンマンツアーを開催。9月の仙台から始まったこのツアーはこの日の恵比寿リキッドルームがファイナルとなる。
平日にもかかわらず前売り券はソールドアウトし、リキッドルームは超満員。男性の絶対数が多いのもFINLANDSのライブで見れる景色の一つであると言える。
19時になると場内が暗転してEDM的なサウンドのSEが流れる中でおなじみのモッズコートを着たメンバーたちが登場。長くバンドを支える澤井良太(ギター)と鈴木駿介(ドラム)に加え、コシミズ脱退後はTHE LITTLE BLACKの彩が参加することもあるベースはこの日は男性メンバーのイラミナタカヒロ。そして塩入冬湖(ボーカル&ギター)はこの日も鮮やかな金髪でコートについた分厚いファーがすっかり涼しくなってきた季節とはいえやはり暑そうに見える。
それぞれが楽器を手にすると、塩入がマイクに向かってその特徴的な金切り声を張り上げる「ウィークエンド」からスタート。澤井は早くもサビ前のブレイクでギターを抱えて大きくジャンプするというアグレッシブなステージングを展開し、「フライデー」と続くとこの日は火曜日であるにもかかわらず圧倒的な週末感に満たされていく。もう明日のことは考えずに今目の前で鳴っているロックにただただ熱狂したくなるような。
鈴木が曲間を4つ打ちのリズムで繋ぎ、そのリズムに合わせてイラミナが体を揺らすという姿は統一された以上に「この4人でFINLANDSである」というツアーを一緒に回ってきたからこそのバンド感を強く感じさせるが、塩入はギターを弾いて歌いながら口や肩でマイクスタンドを横に向けて目を見開くようにして歌う。その目力からは目を背けられないし、独特の魔力のようなものがそこには宿っているように見える。
イベントやフェスなどでは最後に演奏されることも多い「クレーター」で再び澤井が大きくジャンプを決め、序盤はFINLANDSのパブリックイメージでもあるであろうキレ味鋭いギターロックを連発していく。
そんな中で塩入は
「ツアーファイナル、来ていただいてありがとうございます。ツアー初日が仙台だったんですけど、仙台で朝歩いていたら初めて露出狂に遭遇しました(笑)そんなおっさんへの怒りもこうして皆さんが来てくれると許せてしまいそうです(笑)」
とまさかの経験談で笑わせながら、「恋の前」「シンデレラストーリー」とテンポよく曲を連発していく。曲そのものが基本的に3分以内のものであるものが多いということもあるが、こうしてひたすらに曲を演奏していくことが自分たちの魅力を最も強く伝えることができるということをわかっているかのような。
そんなFINLANDSサウンドの軸をライブで担うのは澤井による印象的なギターリフの数々であるが、どんな時でも一切表情が変わらないし、なんならドラムを叩く時も手首しか動いてないんじゃないかとすら思えるメガネの巨漢ドラマー鈴木によるドコドコとした祭囃子のリズムによって場内の空気が変わるのは「あの子のお祭り」。サビに向けて緩やかに熱量を帯びていく様は子供の頃の夏祭りの夜の景色を想起させるけれど、きっとこの曲はそうした単純な内容のものでもないはず。
塩入が亡くなった祖母が言っていたという
「遠くに離れたとしても大事な人と過ごしたことは宝物なのよ」
という言葉は祖母のように会えなくなってしまった人においても同様であり、寂しいと感じることは悪いことではないと語ってから演奏された「さみしいスター」では塩入の張り上げるだけではない染み入るようなボーカルを堪能できるし、こういう曲をライブで聴くと塩入のボーカリストとしての表現力の豊かさを感じざるを得ないくらいにガラッと歌い方を変えている。
澤井と塩入のギターのユニゾンによるイントロがポップさを引き立てる「ランドエンドビート」、夜になると星が見えるようになってきたこの季節にピッタリな「アストロ」と、勢いで演奏していくのではなく丁寧に音を重ねていくようなタイプの曲を聴けるのもワンマンならではであるが、それはこの日のライブの記憶を忘れられないものとして強く刻もうとするかのような「銀河の果てまで」で極まる。基本的にFINLANDSのライブは演出は照明のみといういたってシンプルなものであるが(それは規模によるものも大きいかもしれないけれど)、この曲をホールや武道館で演奏して天井には星がきらめくような演出を見れるのも実に美しいものになるんじゃないかと思う。
名前に「冬」という文字が入っているからなのか、北欧の国名をバンド名にしているからなのか、常にモッズコート着用という北国仕様の出で立ちを課しているからなのか、あるいはそうした要素が複合的に絡み合っているからなのか、FINLANDSの曲には夏よりも冬の情景を描いた曲が圧倒的に多い。とかく夏バンドの方が夏フェスで盛り上がったりウケる要素は強いし、そうした曲に名曲も多いのだけれども、「アストロ」などを聴いていると冬の夜にマフラーを巻いたりしながらこのバンドの曲を聴いて歩きたいなと思う。コシミズ脱退後はコーラスとしても存在感を増している澤井の男性の声が塩入のハスキーボイスに重なるのもまた音源とは違う味を感じさせる。
「我々、今年はCDを1枚だけとDVDを1枚だけしか出していないので何もしていないように見えるかもしれないですが、いろいろやってました。新曲を作りました!」
と塩入は言っていたが、ROCK IN JAPAN FES.やRISING SUNをはじめとした大型フェスにも出演を果たし、地方のイベントまで出まくるというかつてないほどに精力的な活動を見せた今年に何もしてないと感じるわけはないのだが、塩入としては
「音楽家は作品を出してナンボ」
という思いがあるようである。
そんな多忙な中で生み出した新曲はこれからのFINLANDSのライブの軸になっていくであろうことが一聴しただけでわかるくらいに光あふれるロックナンバー。初めて聴くにも関わらずたくさんの腕が上がっていた光景がその思いを強くさせるし、昨年リリースされたフルアルバム「BI」は第一期FINLANDSの集大成と言っていいくらいの名盤であったが、次のアルバムはそれをさらに上回ってくるんじゃないかとすら思える。
しかし新曲はこれだけではなく、
「私はよく女の子の化粧動画を見るんですけど、海外のキレイな女の子の化粧動画を見ていたら、キチンと揃えられた化粧道具の写真の他にプラカードの写真とかがあって。この街から紛争がなくなりますように、っていう願いが書かれていて。
私は音楽で世界が変わるとかは思ってない。ただ聴いてくれた人の1秒や1分や1日が、より良いものになってくれたら嬉しいと思う。でも私自身わかっているようでいて、当たり前のことは当たり前じゃないんだなって思い知らされた」
と言って演奏されたもう1曲の新曲はどこか歌詞にそうした塩入の願いのようなものを込めたようなバラード。そうした曲に込められた想いを聞いてから曲を聴くと、決してわかりやすい歌詞とは言えないFINLANDSの曲にはそれぞれに強い想いが込められているということがわかるし、少しでもそれを理解できるように歌詞カードをじっくり見ながら向き合う時間を作りたいと思う。
そんなシリアスと言ってもいいくらいに張り詰めた空気が和らいだのは、自ら
「やるイメージ全くないでしょ?だから下手過ぎて(笑)」
という物販紹介コーナー。そもそもメンバーはコートを着ているだけに物販を身につけることがないので宣伝効果としてはかなり薄いのだが、
「異様に発色が良くてドラゴンボールみたいになってるって各地で言ってたらライブ後にめちゃ売れた(笑)鳥山明リスペクト!」
というコインケースと、
「駿ちゃん(鈴木)が今回作ったパーカーの良いところを見つけたって言ってきて。普通のパーカーだと女性が脱いだりする時にファンデーションとかがフードの部分につきがちなんですけど、ジップアップパーカーだとそういうことなしで脱げるっていう(笑)」
というなぜ鈴木がそこに気づいたのかわからないパーカーがイチ押しであるとのこと。実際にライブ後には物販スペースにはたくさんの人が並んでいた。
「もう言い残したことはない?」
と塩入が各メンバーに確認してから演奏された「カルト」からは再び澤井のギターリフで押しまくる終盤戦へ突入していくのだが、その澤井のリフのキレやイラミナの体を大きくうねらせるベース、表情は全く変わらないが一打一打が強くなっているように感じる鈴木のドラム、何よりも序盤より声が出ているようにすら感じる塩入のボーカルと、ここに来てバンドのグルーヴがさらに高まっているのを感じる。
それは新曲を含めて聴かせるようなタイプの曲をたくさん挟んでからのアッパーなギターロックへ転じるという流れを作ったことによるものであるが、そうしたところを見るとワンマンを見るのは初めてであるが、FINLANDSは紛れもなくフェスやイベントの30分ではなくてワンマンの2時間で最大限の魅力を発揮するバンドだと思う。
タイトル通りに黄色い照明がメンバーを照らし、そのメンバーが鳴らす音でもってバンドのグルーヴをさらにブーストさせていく「yellow boost」、許されない恋愛を描いたのではと思わせる「ダーティ」では澤井がジャンプするだけではなく間奏でガンガン前に出てきてギターを弾きまくり、もはやダイブが起きてもおかしくないくらいの熱狂っぷりがリキッドルームを満たしていく。
その流れで一気にアッパーに突っ走るのかと思いきや、ここで挟まれたのは互いに下北沢で凌ぎを削ってきたBALLOND’ORとのスプリット盤に収録されている轟音ロックバラード「リピート」。自分がバンドのライブを見る時に大事なポイントは技術よりもロックバンドとしての衝動があるかどうかだし、そこが一番良いライブになる要素に直結してるとも思うのだが、FINLANDSのライブは衝動というよりも情念という方がしっくりくるような。それは塩入の描く歌詞とボーカルから感じるものなのかもしれないが、それは他のバンドのライブではなかなか味わえないような感覚である。
もはやパンクと言ってもいいくらいの疾走感を見せる、今年唯一のCDリリースとなった「UTOPIA」収録の「call end」でやはり塩入はマイクスタンドを手を使わずに動かしながら(もはやこれは名人芸レベル)、正面だけではなくあらゆる方向の観客に向き合いながら歌い、「バラード」では間奏でメンバー紹介も含めたソロ回しも行われるのだが、イラミナと澤井もそうだが基本的にこういうソロ回しでは弾きまくる、叩きまくるなどして自身の存在を強くアピールするものになりがちなのだが、むしろよりシンプルに、手数が少なくなっている鈴木のドラムソロは実に新鮮だし、彼のキャラクターがそのまま現れているソロだと思う。
「来年以降はすごい音源も出して、いろんなところでライブをやって、いつかは47都道府県ツアーもやりたいし、これからも前へ、先へ進み続けていきたいと思います」
と塩入が止まることなど全く考えていない、むしろ加速し続けるのみという姿勢を示すと、3月末に下北沢BASEMENT BARでワンマンライブ「記録博」を2days開催することを発表し、
「あなたの記憶をわたしはいらない
記録を揃えて生きていきたい」
と「記録」という言葉を大事にするFINLANDSの姿勢をそのまま音楽にしたようなラブソング「BI」をこの日のライブをここに来た人すべての記録にするように演奏する。
ここに至るまでにすでに21曲。それでもなおも演奏しようという姿勢。終わった時間を考えるとすでにこの段階で2時間を超えていた。FINLANDSはそこまでワンマンを長い時間やるタイプのバンドとは思っていなかったし、映像作品のライブも2時間も収録されていなかったはず。それでも結果的に全22曲、2時間半にも迫ろうかというボリュームは今までの自分たちの限界を超えようという気概を感じたし、最後に演奏された「USE」が本当に素晴らしかったのは今までのバンド自身を更新した何よりの証拠だったはずだ。
アンコールを待つ間もなく場内には客電が灯る。アンコールはなしか、と思っていたらすぐさま塩入が現れ、
「アンコールはできないですけど、写真をみんなで撮りましょう」
と、この日の景色を記憶だけではなく記録として焼き付けた。あまりこういうことをするイメージはなかったけれど、FINLANDSだからこそこうして写真を撮る理由が確かにあった。
この日のライブ前にKANA-BOONから飯田祐馬の脱退が発表された。そのニュースを見るとどうしても「バンドを続けること」と向き合わざるを得ない。それは理由は違えど脱退を経験したFINLANDSのライブ前だったから尚更。
FINLANDSは正式メンバーは塩入1人だけだ。弾き語りもやっているし、コシミズが抜けた時に塩入のソロプロジェクト的なものにするという選択肢もあったかもしれない。でも1人になっても紛れもなくFINLANDSはバンドだった。世界の潮流や流行りなどを気にすることなく、ただただひたすらに自分がカッコいいと思っているロックを鳴らす。ステージには一緒に音を鳴らす仲間がいる。アー写とかを見ると1人であることにどうしても目が行きがちだが、そんなことはどうでもいいのかもしれない。何人だとしてもバンドであるならば。というより何人であってもバンドであれるというバンドがFINLANDSなのかもしれないし、そういうバンドは終わる瞬間が全く思い浮かばない。
「忘れられないような日にしようと
思えば思うほど難しくて」
これからも長い年月を共にしていくこのバンドのワンマンを初めて見れたこの日は間違いなく忘れられないような日になった。例え難しくても。
1.ウィークエンド
2.フライデー
3.ゴードン
4.クレーター
5.恋の前
6.シンデレラストーリー
7.あの子のお祭り
8.さみしいスター
9.ランドエンドビート
10.アストロ
11.銀河の果てまで
12.プリズム
13.新曲
14.新曲
15.カルト
16.yellow boost
17.ダーティ
18.リピート
19.call end
20.バラード
21.BI
22.USE
文 ソノダマン