例えば盟友のACIDMANも昨年にデビューアルバムの「創」の再現ツアーを行ったりと、ベテランの域に差し掛かったバンドが今の経験や技術を持ってかつてのフレッシュだった頃のアルバムの再現ライブをやることも増えてきているが、常に新しいものを、という意識で活動してきたように思えるストレイテナーもここにきて、2005年リリースのメジャー2ndアルバム「TITLE」の再現ライブを開催。
本来ならきっと有観客でこのアルバムに強い思い入れを持つ人や、まだこのアルバムリリース時にはストレイテナーに出会ってなかったたくさんの人の前でライブを行っていたであろうけれど、このコロナ禍の状況ということで有料配信ライブという形に。
21時という食事や入浴を済ませてからゆっくり観れる時間帯の開演時間であるが、その前からBGMとして「DISCOGRAPHY」や「Melodic Storm」が流れる中、画面にはこれからメンバーが演奏をしにやってくるのであろう機材が並べられ、灯りが灯ったり暗くなったりするスタジオが真上から俯瞰する形で映し出されており、スタッフがサウンドチェックしたりする姿を見ることができるのは「配信」「スタジオ」「無観客」といういつものストレイテナーのライブとは全く違う要素が並びながらも普段のライブが始まる前のステージを見ているかのようだ。
21時になると「TITLE」のジャケットの王冠を描いた、このライブのメインイラストが映し出されて「STNR Rock and Roll」がSEとして流れるとメンバーがスタジオに入ってくる。金髪がトレードマークだったナカヤマシンペイは髪を青く染めてさらに鮮やかかつ若々しくなっており、ホリエアツシはカメラに向かって手を振る。何気ないシーンであるが、MCすらまともにしなかった「TITLE」リリース当時のことを思い返すとそれは今だからこそなんだろうなとも思う。
ホリエがキーボードを弾き始めるとSEが止まり、「SAD AND BEAUTIFUL WORLD」のメロディを弾いて歌い始める。やはり再現ライブということもあって、「TITLE」の1曲目であるこの曲からスタートである。
サビを歌い終わるとホリエがギターを持って通常の編成になるのだが、従来ならば毎週どこかでライブをしているようなライブバンドであるストレイテナーもこの状況なだけにこうしてライブをするのは久しぶりとあってか、抑圧されていたものを開放するかのようにシンペイのドラムは躍動感に満ちている。
かつて武道館で行われたファン投票ライブで見事1位に輝いたこともある人気曲かつ代表曲の一つであるが、そのタイトルも歌詞も今のこの世界そのものを形容しているかのよう。これまでに数え切れないくらいに聴いてきた曲であるが、今の世界の状況でそう思うということはこれから先もこうしたいろんな危機が訪れたりするたびに「これは今の世界を歌った曲だ」と思う機会が何度だってあるはず。それはもう15年も前にリリースされた「TITLE」がどんな時代であっても響くような普遍性を持っているということの証明である。そんなアルバムをストレイテナーというバンドは生み出していたのだ。
スタジオライブだからこそコントロールルームにいるスタッフの姿も映し出されたりする中、真っ暗になったスタジオからイントロの演奏が響く。シンペイの手数が音源よりも圧倒的に増えた「PLAY THE STAR GUITAR」であり、これでこのライブは「TITLE」を収録順通りに演奏することになるものであることがわかる。
ホリエは声質自体は変わっていないが、滋味のようなものを増しているのが原曲とは違って聞こえるし、リリース当時はまだバンドにいなかったOJこと大山純のギターとコーラスが音に厚みをもたらしている。
ライブ後の楽屋トークでも話していたが、そもそも4人で演奏するようになることを想定せずに作られたアルバムであるだけに、最もこのライブをやる上で大変だったのはOJだろう。しかしながらまるでこのアレンジがリリース当時から鳴らされてきたものであるかのように感じさせてくれるというのはやはり彼のこのバンドと曲への愛と理解度の深さあるからこそだろう。
「俺たちストレイテナーって言います。よろしくお願いします!」
とホリエが挨拶すると、ひなっちこと日向秀和の歌うようにメロディアスなベースのイントロによる「泳ぐ鳥」へ。バンドが始まった時はホリエとシンペイの2ピースという編成であったストレイテナーはひなっちが加入してからまだ間もなかったこの時点ですでにひなっちのベースプレイを開花させ(ストレイテナー加入前のART-SCHOOL時代はルート弾きを基本としていたため、こんな凄腕ベーシストとは思っていなかった)、それを活かした曲作りをしていたということがわかる。間奏のアレンジはそのひなっちとともにART-SCHOOLを脱退後に浮浪の数年間を経てストレイテナーに加入したOJの存在あってこそできるものである。
キメを打った後にホリエが「オーイ!」と叫んでラスサビへ入るという瞬間はホリエもまたこうしてライブができているということへの感慨が溢れているかのようだ。
そこまではソリッドなギターロックという、下北沢のライブハウスなどでいろんなバンドたちと凌ぎを削っていた光景が思い描けるような曲が続いていたが、グッとテンポを落とした年末ソング「TENDER」ではそれぞれが顔を見合わせながら、こうしてバンドで演奏できている喜びを噛み締めているかのようだ。
今年の12月の雨の夜は我々はどうやって過ごしているんだろうか。きっとバンドは
「失われた美しいものを取り戻しに行くよ」
というフレーズの通りにまた今までのようにライブができるような活動を模索していくのだろうけれど、できることなら年末には画面越しじゃなくて目の前でこの曲を演奏している姿を見ていたい。
「あれから15年経って、ストレイテナーの音楽を聴いてくれている人が増えていて。その人たちの顔を思い浮かべることができる。今日はちょっと離れてるけど、みんなの顔を思い浮かべて演奏します」
と、普段のライブに来てくれている人たちがこの配信を見てくれていること、その人たちの顔がわかることをホリエが語る。それは長い年月、広い会場も狭いライブハウスも、日本中のいろんな場所でライブをしてきたバンドだからこそ口にできることだ。
近年のライブでもたまーに演奏する機会がある「REBIRTH」はバンドのサウンドこそソリッドであるが、かつてのように尖っているというようなイメージは感じない。それは年齢を重ねて包容力を増した今のメンバーの人間性によるものだろうか。童話的な歌詞の曲も多いこの時期の曲にあって、
「羽が折れても何をなくしても届けるよ」
という歌詞はリリースから15年に渡ってテナー による宣誓であり続けているかのようだ。
それまでの鮮やかな照明から一転してモノクロの映像になり、その中でホリエの歌とギター、シンペイのドラムで始まり、その後にひなっちとOJの演奏が加わる「STILLNESS IN TIME」は光と闇が同時に目に入る照明がこのバンドの持っているその二面性を表しているかのようだ。
その映像と照明のままで始まった「AGAINST THE WALL」ではシンペイがひなっちを見ながらリズムを合わせていたのが印象的。もう15年以上に渡って一緒にストレイテナーのリズムを刻み、OJ加入前までは「日本のギターロックシーン最強のトライアングル」と評されることもあったバンドの土台を支えてきた絆を感じさせてくれる。
ホリエがキーボードを弾くという形の「LOVE RECORD」は今のバンドだからこそできるアレンジであるが、「泳ぐ鳥」というアルバム収録曲のタイトルや「折れた羽」という「REBIRTH」のサビのフレーズが歌詞に出てくるというのは「TITLE」が1つの軸に沿った物語が連なったコンセプトアルバムであるということがわかる。曲中にはそれまでのモノクロだった映像が、世界に色がついていくかのように通常のカラーの映像に戻っていく。
ホリエ「いやー、エモかったね、ここまで」
シンペイ&ひなっち「人前でやりたいよね〜」
とここで一息入れるように喋り始めると、
ホリエ「予想できないことだらけじゃないですか、この世界。世の常として形あるものは壊れる。でも記憶は残るし、音楽もそういうものだと思う。曲が持っている意味も月日が経つと変わる。常に意味が変わってきた曲。みんなも大切にしてきてくれたであろう曲」
とホリエが語ってから、画面から4分割になってそれぞれが演奏する姿が同時に映し出されたのは「REMINDER」。
ホリエが語ったように「記憶」についての曲だが、記憶が残っていくのであれば、この曲をずっと聴いてきた人たちの中でこの曲もそれぞれの形で残っていく。ホリエが曲の意味が変わっていくことに自覚的なように、この曲を始めとした「TITLE」の曲は今の世の中だからこそこうして改めてバンドで鳴らしたいとも思ったのだろうし、やはりコロナ禍における今鳴らされるべきアルバムとしてのメッセージが詰まっている。リリース時はこんな風にこのアルバムのことを再考するなんて思ってもみなかった。
「そこから何かが変わっていくだろう
壊れた形や消え失せた色
そこにある何かが伝えていくだろう
優しさや悲しみや遠い記憶を」
というフレーズは今の世の中の状況をそのまま歌詞にしたかのようじゃないか。実際に目の前で鳴らされているのを聴いたら、それは忘れられない記憶になっていたはず。
するとこのタイミングでひなっちがイヤモニが壊れたという報告が。
ホリエ「次、本邦初公開の曲だけど大丈夫?」
とひなっちがイヤモニなしで挑んだのはリリース当時も全くライブで聴いた記憶のない超レア曲「AMAZING STORIES」。
ホリエがキーボードを弾くというライブの形態もこのライブのために考え、練習やアレンジを重ねてきた結果であるが、「記憶」というフレーズは「REMINDER」と連なる曲としての必然を感じられるし、
「フライパンで弾けるポップコーンまで」
「トースターを飛び出したパンまで」
と「TITLE」期には珍しい生活感のあるフレーズも。ライブ後の楽屋トークでは
「「CREATURES」とかに入っていそうな曲」
と「TITLE」の中においては異質な曲であることをメンバーも語ったいたし、だからこそ
「人生初だよ、この曲」
とホリエが言うように当時はライブで演奏することがなかったのだろうと思う。
そんな「TITLE」を辿る旅もいよいよ終盤へ。張り詰めた緊張感というよりはタイトルからも穏やかな空気を感じさせ、自然溢れるような情景が音と歌詞によって脳内に呼び起こされる「EVERGREEN」はそういう意味では後の「シーグラス」などに通じるような曲と言えるのかもしれない。
そしてラストはテナーの代表曲の一つである「KILLER TUNE」。今でもライブで演奏されている曲ならではの貫禄を感じる、走りすぎないどっしりとしたテンポのロック。ライブでは足を交互に上げるような動きを見せることもあるOJもさすがにスタジオライブだからかそれはなし。
ひなっちのベースのうねりとシンペイの刻むハイハットのグルーヴは画面越しであっても否が応でも踊らされるが、そんな中に今だからこその間奏での手数とフレーズを増やしたアレンジ。
思えばこの曲もそうであるが、ストレイテナーはライブで大胆に曲をアレンジしたり(「DISCOGRAPHY」など何回変わってきたことか)、「STOUT」という既存曲のアレンジアルバムをリリースしたこともあるし、「SOFT」というアコースティックアレンジアルバムをリリースしたこともある。それはライブで自分たちも観客も常に新鮮な気持ちで曲を演奏したい、その時に自分たちがやりたいことを曲に落とし込みたいというミュージシャンとして、ライブバンドとしての純粋な表現欲求によるもの。そうして進化する姿をずっと見せてきてくれたからこそ、出会ってから15年以上経っても飽きることなくこのバンドを信用することができるのだ。
明滅する照明が目に悪くとも実にカッコよくメンバーを照らす中、締めるようにシンペイがドラムを力強く連打すると、
「ありがとうございました!」
とホリエが一言。OJが戦隊ヒーローのようなポーズをとっていたのがやり切ったような解放感を感じさせるとともに、どこかなんだか可愛らしく見えた。
意外なくらいにすぐに楽屋に戻ると、メンバーがこのライブを振り返る楽屋トーク。初の配信ライブということで、やはりメンバーは緊張したりしていたようだが、「SAD AND BEAUTIFUL WORLD」の段階ですでに「楽しい」とも思っていたようだ。
そんな期間中も制作は続けており、ホリエはアルバムに向けて動いていることも明かす。そんなライブができない中でも好調なバンドの状態を示すように、ライブ前に収録していたという2曲のうち、10月に配信リリースされる新曲「叫ぶ星」の映像を公開。(もう1曲収録した「Graffiti」の方はテナモバ会員限定公開)
そのタイトルからテナーらしい既視感に襲われる「叫ぶ星」は「TITLE」のライブ後に見るからこそそう思えるのかもしれないが、久しぶりにストレートなギターロック。人によって様々なイメージを持っているであろうストレイテナーのど真ん中というか最もイメージとして強いであろう部分のサウンド。
しかし「TITLE」はスリーピースバンドとしてのアルバムであり曲であったが、この曲は元から4人で演奏されるために作られている。「TITLE」と地続きでもあるけれど、そこが今のテナーだからこそ。何よりもやはりただの振り返りというか懐古的なものになるのではなく、過去のアルバムの再現ライブでありながらも今のさらに先、最新のモードを見せてくれるというのが実にテナーらしいと思った。
本人たちもこのライブをいつかみんなの前でちゃんと演奏したいと語っていたし、後輩バンドたちからも「TITLE」をよく聴いていたと言われることが非常に多いという。自分自身、ストレイテナーのライブを見始めたのがこのアルバムのタイミングだっただけに、思い入れが非常に強いアルバムである。
それだけに当時を思い返すと、音楽性というよりはむしろ人間性(特にホリエの)が本当に変わったな、と思う。もし当時にネットで配信できるような環境があっても(当時はそんなもんなかったどころかiTunesがようやく普及してきたくらいの時期だった)、楽屋トークなんか絶対にやらないバンドだった。(当時の雑誌のライブレポに「同世代の中でもダントツでサービス精神の希薄なバンド」と書かれていた)
でもそうした変化も含めて「TITLE」というアルバムと、今に至るまでのバンドの進化を楽しむことができる。丸くなったりしたんじゃなくて、持っていた優しさがちゃんと伝わるようになった。尖っているカッコよさだけではなくて、歳を重ねたからこそのカッコよさも感じさせてくれるバンドになった。
有観客でまたこのライブをやるのはもちろん、他のアルバムのこうした再現ライブも是非見てみたい。何よりも、来週に生のライブでストレイテナーを見れるのが本当に楽しみだ。果たしてどんな内容のライブになるのだろうか。
1.SAD AND BEAUTIFUL WORLD
2.PLAY THE STAR GUITAR
3.泳ぐ鳥
4.TENDER
5.REBIRTH
6.STILLNESS IN TIME
7.AGAINST THE WALL
8.LOVE RECORD
9.REMINDER
10.AMAZING STORIES
11.EVERGREEN
12.KILLER TUNE
文 ソノダマン