すでに佐々木亮介は夏から弾き語りや青木テツとのユニットSATETSUでライブハウスでライブを行っており、バンドとしてもやたらと画面が止まりまくった配信ワンマン、さらにはUNISON SQUARE GARDENの主催配信ライブへの参加と、やはりa flood of circle周りとしては止まると死んでしまうというくらいのスピードで活動している。
そんな中でこの日がフラゲ日となるのがニューアルバムの「2020」。昨年の大傑作アルバム「CENTER OF THE EARTH」(個人的2019年ベストディスク1位)から1年半ぶりという何年経っても全く落ちることがない、やはり異様なリリースペースで世に放たれるアルバムの、爆音視聴会とミニライブとなるのがこの日の新宿LOFT。
フラッドにとってのホームと言えるこの新宿LOFTもやはりこうして来るのは久しぶりだ。歌舞伎町界隈はやはり騒がしいけれど、新宿LOFTの入っているビルは今までライブで訪れた時よりも静かである。客席には椅子が置かれるという人数制限によっておそらく100人に満たない観客しか入れず、受付では検温と消毒、個人情報の確認。あらゆるバンドの憧れの場所でもある老舗ライブハウスが精一杯の対策をして営業を続けようとしている様には、このコロナ禍によっていくつかのライブハウスがなくなってしまったことによってやはり少し感じることもある。
観客全員が椅子に座って待ちわびる中、19時を少し過ぎた頃に今回の視聴会パーティーの司会のジョー横溝(中津川THE SOLAR BUDOKANのMCなど、フラッドとは深い仲)が登場し、諸注意などを説明した後にフラッドのメンバー4人を呼び込む。
今回の視聴会はアルバムを順番に3曲ずつ聴き、生配信もしているのでジョー横溝とともにメンバーが配信のコメントを拾いつつ、曲にまつわるエピソードを聞いていくというものであるが、さすが新宿LOFTの音響、爆音視聴会というタイトルの通りに音が非常に大きい。そのサウンドシステムで店に並んだばかりのアルバムの曲を聴くというのは実に贅沢なものであるし、CDをライブハウスで聴くというのはリアルにライブで音を鳴らすのとはやはり違うけれど、映画館で映画を見ているような感覚だろうか。
「Beast Mode」の視聴時にはHISAYO(ベース)と渡邊一丘(ドラム)が何やら爆笑していたのだが、それはこの曲のMVの時の一丘が今に比べて太ってるんじゃないかということに爆笑していたらしい。HISAYOは笑い過ぎてつけまつげが取れるというハプニングも。ちなみにテツの「Beast Mode」の売りはなんといってもMVのカッコよさということ。
亮介はビールに自らトマトジュースを混ぜてレッドアイに調合して飲み、HISAYOもかなりのペースでビールを飲むという実にリラックスした空気。だからこそHISAYOはいつにも増して口数が多いような気もしたが、司会のジョー横溝の隣という位置による効果もあっただろうか。
すでにCDをフラゲしたという人もいたし、会場内にもタワレコが出張してきて販売をしていた。もしかしたらすでに買って家で聴いてきたという人もいたかもしれないけれど、基本的にMVが公開されている曲やライブで演奏している曲以外、「2020 Blues」や「ファルコン」という曲はこの視聴会で初めて聴くという人も多いはず。爆音であるがゆえに頭を振ったり、リズムに乗ったり、配信のチャット画面を追うメンバーを注視したり…視聴会と言っても向き合い方は人それぞれである。
ちなみにフラッドのファンであれば基本的に曲タイトルを見ればどんな曲であるかはある程度想像がつく。「Blues」というタイトルの曲はその名の通りにブルース色が強いし、亮介の作る曲はタイトルが曲の説明やイメージになっていることも多い。「ファルコン」はやはりイメージ通りにスピード感溢れるロックナンバーであり、HISAYOはレコーディング時にこの曲をリード曲にしようという発言をしたくらいに気に入っているらしい。
「Super Star」視聴後にはタイトルにちなんでそれぞれにとってのスーパースターは誰か?という問いに。
テツ:ゴン中山
亮介:名波浩
一丘:三船敏郎
HISAYO:釜本邦茂
と、サッカー少年だった亮介&テツ(亮介は名波浩のポスターを部屋に貼っており、「GO」リリース時にイベントで一緒になってサインをもらったという。テツは空港でゴン中山に握手してもらったことがあるらしい)はやはりサッカー選手を挙げ、さらには小学生の頃に女子サッカーをやっていたHISAYOもサッカー選手の釜本邦茂を挙げていたが、年代が違いすぎて伝わらないという少し恥ずかしい感じに。
そのHISAYOは「天使の歌が聴こえる」でかつてないほどにコーラスを入れており、亮介におだてられながらコーラスパートが増えていったという。ちなみに亮介はいずれはHISAYOにメインボーカルをやってもらう曲を作りたいとも発言していた。すでにテツはメインボーカルと言っていい曲もあるが、果たしてHISAYOメインボーカル曲はいつ聴けるのだろうか。
この日の会場来場者にはHISAYOがリミックスを手掛け、盤面に1枚ずつ手書きでタイトルを書いた「Summer Soda」のCD-Rが配られたのだが、ここでその音源も初公開。ダンスミュージック色が強く出ているというサウンドはリミックスならではであるが、HISAYOがこうした方面のサウンドに強いというのは意外に思った人も多いんじゃないだろうか。これはもちろん自粛中の時間を使って仕上げた、夏休みの宿題というものであり、ジョー横溝からは冬休みの宿題バージョンもおねだりされ、亮介はいつかリミックスアルバムを作って欲しいと、HISAYOへのお願いはエスカレートしていったのであった。
さらには「Beast Mode」のMVロケ地である三崎のまぐろを賭けた、メンバー対抗の「フラッドイントロクイズ」も開催。1番最後にバンドに加わったというハンデを、1番曲を覚える時間を費やしたというアドバンテージに転換させたテツが圧倒的な強さでリードするも、最終問題は2020点が入るというお約束の展開に。
しかしその最終問題の「Backstreet Runners」すらも一瞬で回答したテツがぶっちぎりで優勝し、マグロをゲット。これからはレコーディングでも1番偉そうな態度を取れるという副賞も獲得していた。
そんなパーティーならではの楽しいコーナーも挟み、視聴会は後半へ。MV公開時にファンから強い反響のあった、「フラッドのど真ん中(byジョー横溝)」の「Rollers Anthem」、配信ライブでも披露されている、テツの激推しでアルバムに収録されたという「ヴァイタル・サインズ」と、アルバム後半にさらに名曲が押し寄せてくる。
とはいえ本来は20:30頃に配信を終了する予定だったのが押しに押しまくり、この辺りですでに予定時間を超えていたこともあってか、やや巻き気味に最終3曲へ。
フラッドにはおなじみのアルコールシリーズ曲「Whisky Pool」はアルバムの中で最も軽快なダンスビートの曲。フラッドの曲はタイトルから想像しやすいと書いたが、この曲に限ってはちょっと予想外であった。それは同じウィスキーをタイトルに冠した「Whisky Bon-Bon」が酒焼けしそうなくらいに濃いロックンロールだからだと思うけれど。
亮介のあらゆる欲求への不満っぷりを表しているというお祭りロックンロール「欲望ソング (WANNA WANNA)」を経て、最後の曲は手塚治虫の同名漫画がモチーフであるという「火の鳥」。この曲が、こうして音源を聴いているだけでも泣けてくるぐらいに素晴らしい曲だった。
思えばフラッドのアルバムの最後に入っている曲は「Honey Moon Song」「Wink Song」「Center Of The Earth」と、本当に素晴らしい名曲ばかりだ。そんな曲たちでも、初めて聴いた時に感動して涙が出るということはなかったはず。つまり、その曲たちをこの曲は更新しているのだ。そう思えるのはそれまでの11曲が紡いできた物語の最後にこの曲がいるから。曲だけでなく、「2020」というアルバム全体がこれまでのフラッドを更新している。
亮介は
「どんなに音楽の教科書に載らなかったり、誰も批評しなかったとしても、俺が最高だって思えばそれは最高なものだから」
とアルバムについて語っていたが、それは自分がフラッドに対して抱いている気持ちそのものだ。世間からしたら誰も知らないバンドかもしれないし、後世語り継がれていったり、メディアが作るディスクガイドには載ることがないバンドかもしれない。
でも自分はフラッドのことを心から、素晴らしい名曲を生み出してきた、最高にカッコいいバンドだと思っている。しかもそれが「1stや2ndの頃は良かった」という過去形のものではなくて、出会ってから10年以上経った今においても更新され続けている。そう思えるような作品を作ってライブをしてきたバンドだからこそ、その気持ちがより確信を持てるようになってきている。誰が何と言おうととんでもなくカッコいいロックンロールバンドだと。
そんな思いをより強くしてくれるのはやっぱりライブだ。インディーズの頃からフラッドはライブ盤を精力的にリリースしてきたバンドであるし、ライブをやって生きてきたバンドなのだから。
予定されていたミニライブは本来ならば来場者しか見ることができないものであったが、1曲目の「Beast Mode」のみ配信でも見れることに。
観客はみんな椅子から立ち上がるが、もともと1月のワンマンライブの時に観客のコーラスの声を録音したくらいに、みんなで歌う曲だからこそ、声を出してはいけないという今の世の中の情勢やルールは実に厳しく感じてしまう。それでもバンドの、曲のカッコよさは1ミリたりとも変わることはないが、衝動を抑え込むのが実に大変なのだ。ライブが良ければ良いほどにその衝動は強くなってしまうから。
配信視聴者へ別れを告げると、ライブ初披露となる「ファルコン」へ。どこかイントロのテツのギターが音源よりもエフェクティブに聴こえたような感覚もあったが、それくらいにライブで鳴らす姿や形がすでに完成している曲であると言える。それはHISAYOがリード曲に推したという曲の強度も含めて、一聴しただけでライブの景色が想像できるような曲だからだ。間奏での亮介とテツが向かい合って接近してギターを弾く姿。1月ぶりだから他のバンドに比べたらそこまで久しぶりというほどでもないけれど、これがフラッドのライブだ。それがようやく我々の前に戻ってきたんだ。そんな感慨がライブをより感動的なものへと引き上げていく。
亮介がギターを下ろしてハンドマイクで歌う「ヴァイタル・サインズ」は中津川THE SOLAR BUDOKANの配信ライブでも無人の客席に降りていって歌っていただけに、きっと本来なら満員の客席の上を亮介が歩いていって、人に支えられながら歌うというライブハウスで生きてきたバンドだからこその曲だ。
でも今はそのパフォーマンスはできないし、観客がソーシャルディスタンスを保つ距離感を持っていたら支えることもできないのだが、そんな光景が、昔のなかなかこのLOFTのキャパでもソールドアウトしていなかった頃のフラッドのライブを思い出させた。もちろん当時とはメンバーも違うし、ライブの質も全く違う。でもあの頃の気持ちを思い出させてくれる。このバンド、めちゃくちゃカッコいいな。これからもっと大きなところでライブするようになるんだろうな。って思った感覚を。今こうして見ているフラッドの曲の、ライブのフレッシュさは今でも確かにその思いを諦めることができないな、と思わせてくれる。
そして最後に演奏されたのは、
「ここにいるみんなと、配信を見てくれたみんな。それからもう会えないかもしれないスーパースターに捧げます」
と亮介が口にしてから演奏した「Super Star」だった。
また悲しいニュースもあった。亮介がその人と親しかったかどうかはわからない。フラッドはかつてプロデューサー的な存在だった、弥吉淳二との別れも経験している。そういうニュースを見たりするたびに、やっぱりそういうネガティブな方向に引き込まれそうになるけれど、でも自分は生きることより死ぬことの方が怖い。そんな勇気すらもないし、なくて良かったとも思っている。それはフラッドのような、この手を伸ばせるような、その手を引っ張り上げてくれるようなバンドが存在しているからだ。死ぬまで続けるというバンドがどこまで行けるのか。どこまで連れて行ってくれるのか。それを見届けずして死ぬことなんてできない。自分にとってはやっぱり、フラッドがスーパースターと呼べるような存在なのである。
ミニライブを終えると、ジョー横溝の煽りによって、一丘がメインボーカルで、誕生日の近いHISAYOのために「ハッピーバースデー」を歌う。
そのHISAYOが加入してからもう10年も経つ。石井康崇が在籍していた頃の最後のライブとなった、「ZOOMANITY」ツアーファイナルの赤坂BLITZからもう10年も経ったということ。それを記念して、12月25日にはこの新宿LOFTで「Love Is Like A Rock’n’roll」の再現ライブが行われる。
もちろんその前の11月にはこのアルバム「2020」のリリースライブも恵比寿リキッドルームで行われるし、亮介の弾き語りやSATETSUのライブもある。つまりはフラッドも含めてやっぱり止まらないということであるが、一回聴いただけでわかったことがある。10月20日時点で2020年年間ベストアルバムの暫定1位はa flood of circleの「2020」だということだ。
1.Beast Mode
2.ファルコン
3.ヴァイタル・サインズ
4.Super Star
文 ソノダマン