このライブはそもそもが配信で予定されていたものであり、現在の緊急事態宣言によって有観客ライブができなくなったことによる対応というわけではない。
そんないきなり絶望感に支配されそうになるような、年が明けて2021年。a flood of circleは結成15周年を迎えた。すでに昨年超傑作アルバム「2020」をリリースし、今年はそれをもって全国ツアーへ、という上半期の予定になっているが、そんな15周年イヤーの幕開け的な活動になるのがこの日の下北沢SHELTERからの配信ライブ。
もともとこの下北沢SHELTERのオーディションを受けて昼の部でライブをやったのが始まりと言われているバンドであるだけに、今でもたまにライブをやっている会場ではあるが、12時30分からの時間帯でのSHELTERでのライブというのはある意味では原点とも言える。
12時半になると画面には黒の革ジャンを着た佐々木亮介(ボーカル&ギター)をはじめとした黒を基調としたメンバーがスタンバイしているのが映し出され、すぐさま亮介が歌い始めたのは音とともに自身が経験してきた独白的な歌詞のテーマも重い「I’M FREE」。バンド加入から10年が経過したHISAYOのベースの音が強く感じられるし、その凛とした演奏する姿を捉えるように画面が次々に各メンバーそれぞれのアップや真正面やや低めからの俯瞰したものなどに切り替わっていく。
亮介がギターを下ろしてハンドマイクになると同時に青木テツがステージ前まで出てきてギターを弾くその音がさらに重くなるのは新年でのライブにやたらと演奏されることが多いように感じる酒に溺れるための曲「鬼殺し」。リリース当時は亮介はよく鬼殺しを飲んでいたイメージがあり、ある意味ではバンドのテーマソング的な曲でもあったが、今はどちらかというとレッドアイを飲んでいることが多いのは自制的な精神によるものだろうか。だからか去年からは亮介は独特の、バンドにとってのロックンロールの象徴とも言える喉の調子が良い状態が続いているように感じる。
亮介がギターを持ち直すと、2019年リリースのアルバム「CENTER OF THE EARTH」収録(個人的2019年年間ベストディスク1位)の、タイトル通りにそれまでの重さよりもスピード感を感じさせる「Drive All Night」へ。年末に髪が短くなって好青年感が増した渡邊一丘(ドラム)のカメラ目線でのドラムを叩きながらのコーラスも実に頼もしいが、まだ2年前という普通のバンドだったら最新作と言ってもいいスパンの曲であるのにすでに懐かしい感じもするのは、フラッドがそこからの2年間でさらに先へ進むように曲を生み出して走り続けてきたから。その「CENTER OF THE EARTH」のツアーでは東京や千葉だけでなく、水戸や長野にも行った。今年のツアーもそうしていろんなところにフラッドのライブを観に行くことができたらいいのにと心から思う。
「おはようございます。a flood of circleです」
というおなじみの亮介の挨拶から、15年前に一丘とともに初めてライブをやったのがこの下北沢SHELTERの昼の部だったことを改めて語るが、初めてがそのライブだったからこそ亮介の挨拶は
「おはようございます」
なのである。たまにフェスでは昼くらいの時間に出演することもあるが、15年越しにその挨拶が最もふさわしい時間帯でのSHELTERでのライブである。
「新年だから景気良く」
という言葉の後に亮介のブルージーなギターと一丘のドラムが絡み合うイントロがタイミングが合わずにやり直したのは10周年のタイミングでリリースされたベストアルバムに収録されていた「青く塗れ」。リズミカルなドラムはそれこそ後の「NEW TRIBE」に連なるようなトライバルなものであるが、あの10周年から5年も経ったということの時間の経過の速さに驚いてしまう。この曲はライブ前日からついにサブスクでも解禁されているが、それがナタリーのニュースにも取り上げられたというのが実に嬉しいものだった。
ちなみにこの日のライブのセトリは事前にファンから投票を募っており、この「青く塗れ」が1位だったということだったが、「意外と1位だった」的な発言をしていただけに本人たちはその人気に無自覚なのかもしれない。リリース当時、つまりは10周年当時によく亮介が口にしていた「武道館」という場所でのワンマンも自分は全く諦めていないというか、むしろ年数を経るごとにそこに立つべきバンドであるという確信が強くなってきている。
亮介とテツのギターがそれぞれ全く違うサウンドでありながらもポップさを生み出すのは「The Future Is Mine」。いつだって変わらずにいつだって前向きなフラッドの姿勢を体現した曲であるが、少し長くなった前髪によって隠されがちな奥に見える亮介の目は
「君の目に今 光が射してる」
「君の目に映る未来を見ている」
という歌詞の通りに、こんな時代や状況であっても光や未来を映し出しているように見える。冒頭に演奏された「I’M FREE」のタイトルアルバムに収録された、8年前の曲が後ろ向きなものではなく明確に「今」の我々を支える曲として鳴っている。それはフラッドの姿勢が何があってもブレなかったこと、それが間違いではなかったことの証明でもあるだろう。
テツのギターが火を噴くようなソリッドさを発揮するイントロによって始まるのは「PARADOX PARADE」収録の「アンドロメダ」。すでにアルバムの再現ライブでテツはこの曲を演奏しており、この配信ライブにおいても完全に曲を自分のものにできている感すらあるが、もともと音源においてはFoZZtoneの竹尾典明が参加している曲である。
フラッドがSHELTERに初めて出た時の対バンはめちゃくちゃ尖っていたFoZZtoneだったということもあっての選曲なのかもしれないが、アルバム再現ライブがその場で演奏して終わり、というものではなくて先へ繋がっているということがよくわかる、それだけに今後も再現ライブをやっていただきたいと思える。
亮介がHISAYOが加入して10年、テツが加入して5年というバンドの歴史を口にし、その2人が入るよりもはるか昔によく演奏していた曲として演奏されたのは、一転してブルージーなサウンドになるインディーズ時代の「Red Dirt Boogie」というライブにおいては久しく聴いていなかった超レア曲。
タイトルの通りに赤い照明に照らされながら鳴らされる赤いロックンロール。今でこそ事務所の名前も「青」だし、その色にちなんだ曲もあるけれど、当時は燃え盛るようなロックンロールの炎の色である「赤」がこのバンドのテーマカラーであったことを思い出す。この曲が演奏されるというのはリクエストライブだからこそであるが、最後の
「歌え、歌え、歌え、歌え」
というリフレインはこんな状況だからこそそうするべきと亮介が自身に向けて歌いかけているかのようですらあった。
さらにはアルバム再現ライブとしては順番を飛ばされてしまったことで、より影が薄くなってしまったというか、「Human License」以外はなかなかライブで聴けないんじゃないか、とすら思い始めていたメジャー3rdアルバム「ZOOMANITY」から「ロストワールド・エレジー」というこれまた超レア曲が。歌と演奏によっていきなり始まるという特攻感の強いロックンロールであり、サビやBメロのメロディの美しさは「ZOOMANITY」の再現ライブを求めるには充分なものであるが、やはり今の状況だからこそ
「大事なものほど正解を失くした世界で
だんだん麻痺してく」
「愛の意味を失くした世界で
生きていくこと 君と探していくこと」
というフレーズがよりリアリティを持つようになってしまっている。
しかしそんな鬱屈をこの日の関東地方の青空の向こう、遥か彼方まで爽快に吹き飛ばしてくれるのはやはり10周年時にリリースされた「BLUE」。前述の通りに今のフラッドは設立した個人事務所にも「青」という名前を冠しているが、その象徴とも言える曲である。
「そのブルーの先へ 今 飛び立っていくのさ
悲しみの先へ 描けるだけの未来へ
そのブルーの先へ 夢が消えていく前に
さよなら 昨日までのブルー
染めるよ 新しいブルー」
という歌詞の通りに昨日までの世界に綺麗さっぱり別れを告げることができたなら、このライブを画面越しじゃなくて実際にこの目で見ることができたかもしれないのに。こんなに鮮やかなブルーの空なのにライブに行くために外に出ることすらできない。
そんな状況であっても亮介は決まっているツアー(もう今月から始まる)を予定通りに回るつもりであることを語った。きっとただ自分たちがライブをやりたいからというだけではなく、今の状況やスケジュール、対策も含めて何度も検討を重ねた上で出した答えだろう。現に亮介は昨年のリキッドルームでのワンマン時には「クリスマスの新宿LOFTもできる状況ならやる」と、有観客ではやらない可能性も辞さないということを口にしていたから。なかなか関東からいろんな地方へ観に行くということはできない状況であるが、その土地に行けばバンドが来てくれることを待っていた人たちが必ずいる。あんなに素晴らしいアルバムがリリースされたのに、まだライブでは1曲も聴けていないという人もたくさんいるのだから。その体験が今の世の中を生き抜く力になる人も。それは自分が昨年何度かフラッドのライブを観ることができたから抱いている思いだ。
そのMCも含めてこの辺りからは徐々に終盤戦へと向かっていく雰囲気を感じるが、だからこそテツとHISAYOもガンガンマイクスタンドよりも前に出て行って、溜め込んできた衝動をぶち撒けるように演奏するのは「Diamond Rocks」。亮介が一丘をイメージして作った曲であるが、その一丘とともに初めてライブを行ったSHELTERの昼という時間にこの曲が演奏されているというのは実に感慨深い。その一丘は時折ドラムセットのマイクスタンドに取り付けられたカメラから映された時に真顔になっていたりするのが地味に面白いが、曲の歌詞においては一貫して「Boy」という名で呼びかけられていることに違和感がないくらいに、髪を短くしたことによって若々しく見える。
再現ライブを飛ばされてしまった「ZOOMANITY」以上にフラッドの歴史の中で影が薄くなっているアルバムが2014年の「GOLDEN TIME」である。収録曲の中では「GO」こそたまにライブで演奏されることもあるが、このアルバム制作時に前代ギタリストのDuranが加入したことによって、ハードロック色が濃く出たことにより、自分の中では最も評価としては微妙なアルバムでもある。(そのサウンドが固まる前にあっという間にDuranが脱退したためになおさら)
しかしこの日久しぶりに演奏された収録曲「STARS」は画面越しであっても音によって吹っ飛ばされるくらいに凄まじいカッコよさを放っていた。それを感じさせたのはやはりこのアルバムリリース時に唯一まだメンバーではなかったテツのギター。曲の原型やフレーズはそのままではあるが、明確にテツのギターであり、それは同時に今のフラッドのサウンドであることがわかるものになっている。今のフラッドのサウンドということはそれそのまま最強のロックンロールであるということ。先人たちが生み出してきて、育ててきた曲たちをテツが今のものとして進化させ、ライブで初めて弾くような曲であっても昔からのファンにとって全く違和感を感じさせないものにしてくれている。そこには「フラッド最後のギタリスト」としてバンドに骨を埋める覚悟を持って加入したテツの意志の強さが滲み出ている。その姿を見ていると、単なる技術の上手さ(もちろんテツはギタリストとして普通に上手いが)よりもロックバンドにとっては大事なものがあるということを教えてくれているかのようだ。
これもまた10周年のタイミングで記念碑的なシングルとしてリリースされた「花」(結果的には周年を迎えて、10周年を記念した曲を次々に演奏することになった)では明らかに亮介が途中で歌詞が飛んでしまい、ボーカル部分が途切れたかと思いきや、
「今日は今日しかないロックンロールを歌う」
と言ってメロディ部分を
「新宿南口でナベちゃんに出会って…」
とそれぞれのメンバーとの出会いを語るものに即興で変えて歌ってみせた。
そうしたアクシデントもまたライブならではであるし、そこにこそフラッドの強さを感じた。15年間、マジで歴史を語るだけで1本の長い文章になる(HISAYOが加入してからの歴史をブログに書いているが、長すぎてまだテツが登場していない)というか、登場人物紹介だけでも一冊作れそうな歴史を辿ってきたという、出会いと別れを重ねまくってきた活動の全てに意味があって、それを今の自分たちの活動や音楽の力にすることが出来ているからこそ、この15周年を迎えたタイミングで15年を総括するような歌詞を即興で歌うことができる。それはもちろんフラッドが止まることがなかったバンドだからこそできたことでもある。止まらざるを得ないような今の社会だからこそ、その何があっても止まらなかった強さをより実感することができる。そのフラッドの強さや凄さよ、どうか、届け、届いてくれ。
そんな中、フラッドは例年このSHELTERで年越しイベントを開催してきたのだが、そのイベントで出演者たちが総出演して歌うのが恒例というか、近年はそのタイミングくらいでしか演奏されていない「Party!!!」では最初は亮介がタンバリンを叩きながら歌い、後半にギターを弾きながら歌うという形に。
フラッドはたまに人気投票的な企画をやるが、結果的にどこまでどのようにそれが反映されたのかがよくわからないということになりがちで、この日もこの「Party!!!」は人気投票選出曲というよりも、年越しイベントができなかったからこその新年1発目のライブにおける選曲という意味合いを強く感じる。それはそのまま「この日、この場所でやるライブでやる意味のある曲」をバンドがしっかり理解・把握しているということだ。
というわけでおそらく「Party!!!」以降は人気投票曲ではないだろうな、というのをより強く感じたのは、次に演奏された曲が最新作収録というおよそ人気投票では票を集めないであろう「Beast Mode」だったからである。
もちろんここまで演奏されてきた曲も不慣れな場面は全くなかったけれど、しかしここまで演奏してきた曲の中で今や1番演奏慣れしているのがすでにこの曲になっていることもあってか、より解き放たれたようにテツもHISAYOも小さいステージの中でも動き回ったり、体を激しく動かしながら演奏していた。それはもうすでにこの曲の演奏が完全に体に染み込んでいるからだし、ただのレア曲大放出というライブではなく、「今のフラッドが1番カッコいい」ということを自らの演奏でもって証明することができている。だからこそやはり今のフラッドを見ることができるツアーに何本でも行きたくなってしまうのだ。
そして
「俺たちとあんたらの2021年に捧げます!」
と言って最後に演奏されたのはやはり「シーガル」。この「Beast Mode」→「シーガル」という流れはきっとツアーにおいても鉄板の締めになると思われるが、ツアーでは今までのように亮介がマイクを客席に向けて観客が歌うということができなくても、
「明日がやってくる それを知ってるからまたこの手を伸ばす」
というフレーズを亮介自身が歌うのを聴くことによって明日を生きていく力をもらうことができるはず。去り際に小さく手を振るだけという演奏後の姿もロックンロールバンドの配信ライブかくあるべきという潔さであった。
この配信ライブは無料である代わりにアーカイブもない。でも以前の「BUFFALO SOUL」と「PARADOX PARADE」の再現ライブが「HEART」に音源で収録されたように、きっとこのライブも年内になんらかの形でまた観れる、聴けるようになる予感がしている。さすがにこのセトリのライブをこれっきりというわけにはいかないだろう。なんならツアーの後にこの配信ライブの再現ライブをリアルでやって欲しいくらいだ。
そしてきっとツアーの後も周年だからこその様々な企画やライブが待っているであろうフラッドの2021年が幕を開けた。それらのうち、どこまでを実際にやり遂げられるのかはまだわからない。どうしたってこの状況次第で活動できるかどうかも変わってきてしまうために。
でも様々な苦難(亮介はそうは思っていないだろうけれど)を乗り越えて、素晴らしいアルバムを作り上げた上で辿り着いた15周年イヤーなだけに、フラッドが予定している周年企画を完遂するためという理由だけであっても、少しでも早くやる側も観る側も何の心配もなくライブができるような状況になって欲しいと願う。それを自分がこの目でちゃんと観れていることも。
1.I’M FREE
2.鬼殺し
3.Drive All Night
4.青く塗れ
5.The Future Is Mine
6.アンドロメダ
7.Red Dirt Boogie
8.ロストワールド・エレジー
9.BLUE
10.Diamond Rocks
11.STARS
12.花
13.Party!!!
14.Beast Mode
15.シーガル
文 ソノダマン