かつてThe Mirrazに現メンバーの佐藤真彦(ギター)と中島慶三(ベース)が加入する前にサポートメンバーとして参加していたのが、吉田アディムと武井優心だった。
「キン肉マンのコスプレをして渋谷の牛丼屋に行く」という企画をさせられるくらいにミイラズのボーカルの畠山承平からいじられまくっていたアディムと、すでにその前から下北沢界隈で人気を博していたガレージロックバンド、Veni Vidi Viciousのベーシストとしてドラムの山崎正太郎とともに知られていた優心はミイラズの人気が出始めたタイミングでサポートを卒業し、自分たちのバンドを結成する。それがCzecho No Republicである。
なので結成時は3人バンドであり、ミイラズの「TOP OF THE FUCKIN’ WORLD」ツアーの恵比寿リキッドルームでゲストとして出演した時に初めてライブを見た時はまだ当時アメリカで流行の兆しを見せていたインディーサウンドを取り込んだバンドというイメージだった。
その後、八木類加入、アディム脱退、タカハシマイ&砂川一黄加入、八木脱退、武井とタカハシの結婚と、いろんなことがありまくりながらもたどり着いた、チェコの10周年。初のベストアルバムのリリースツアーはこのご時世ゆえか、東名阪3箇所でのワンマン。この日の渋谷O-EASTがツアーファイナルとなる。
検温と消毒を経て会場の中に入ると客席には椅子が並べられているが、ほとんど通路がなく一列に椅子が並んでいる(席の間隔はそこそこ広い)ので、この会場での席指定にしては動員は多い方であると思うが、前回チェコのワンマンを観たのが昨年2月の渋谷eggmanでの男性限定ライブであるだけに、通常の(と言っていいような状況ではないが)ワンマンは実に久しぶりということもあって、客席に子連れで来た方がいたり、かつてはほぼ女性だった(だからこそ男性限定はeggmanでも完売したことがない)客層が、かなり男性も増えていることに驚く。この人たちが全員男性限定ライブに来ていたらeggmanも余裕で埋まる気もするが、やはりそこはチェコの10周年を祝いに来たという人も多いのだろうか。
平日ではあるが緊急事態宣言延長に伴って早まった開演時間の18時になると場内が暗転。観客が一斉に椅子から立ち上がり、メンバーを迎え入れる。下手から砂川一黄、タカハシマイ、武井優心、山崎正太郎が横一列に並ぶという4人になってからの体制である。
「あ、みんな立つんだ?でも寝転がったりとかして、好きに楽しんで!」
と武井がいつものように悪戯っぽく言うと、タカハシのシンセのサウンドに合わせた4人のキメがオープニング曲としてこれ以上ふさわしいものはないと思う「No Way」でスタート。観客は思い思いに体を揺らしたり、タカハシに合わせて手拍子をしたりしながらバンドの鳴らす音に浸っている。すでに名古屋と大阪を経ているし、11月に開催されたBAYCAMPにおいても久しぶりとは思えないくらいに素晴らしいライブをやっていただけに、ブランクのようは感じさせないけれど、それでもやはりチェコの音楽の持つキラキラとした瑞々しさを今でも感じられる。
今でもフェスなどでも演奏されている「MUSIC」ではバンドのムードメイカー的な存在の砂川が、
「渋谷ー!楽しんでいこうぜー!」
と呼びかけ、タカハシが砂川とともにギターを弾くという編成なのだが、
「天国が あるかないかなんて
考えた ことはないけど
もしかして ここがそうかなって
鼻歌交じり 時々思うよ」
というサビのフレーズは今なおチェコのライブから感じる祝祭感をそのまま言い表している。どんな状況、どんな場所でもこの曲をチェコが鳴らせばそう思える。メジャーデビューアルバム「NEVERLAND」収録曲だからもう7年。その感覚は今も変わることはない、個人的にチェコの中でもトップクラスに大好きな曲。ストレートなギターロックというサウンドは当時いしわたり淳治もプロデューサーとしてバンドと関わっていたことを思い出させる。
タカハシのギターを弾きながらのスキャット的なコーラスに合わせて観客が腕を上げたりするのが楽しい「Festival」では
「笑って輪になって僕ら踊ろうよ」
という、各地のフェスで響かせてきたフレーズが今は遠いものになってしまったことを実感せざるを得ないが、こうしてライブでこの曲を聴けているというだけで実に楽しい。チェコはシーンの中でもトップクラスに「野外フェスが似合うバンド」と評されてきたが、今年の夏はまたこの曲を野外のフェスティバルで聴くことができているのだろうか。
「砂川さんのトレードマークのメガネが黒縁から新しいもの(フレームが金っぽくてインテリ感を感じる)に変わっている」
という、砂川本人ですら
「最初のMCでこの話する!?」
と言うようないじりがこの日最初のMCというのもチェコのライブらしさだ。この関係性は加入してきた当時、その前のまだサポートメンバーだった頃から全く変わっていないし、これからも変わらないものなんだと思う。
ベストアルバムにはインディーズ期の代表曲も多く収録されており、それらの曲はUSインディー感が強かった頃のチェコを思い出させてくれるとともに、今でも色褪せないメロディの輝きを放っていると思わせてくれるのだが、「レインボー」からはそうしたインディー期の名曲を連発。
メロディや一聴した聴き感触はポップではあるけれど、その奥にあるロックバンドらしさを感じるのは、普通だったらこのサウンドの曲にここまで詰め込まないだろうというくらいの正太郎のドラムの手数の多さゆえ。チェコ始動前からライブハウスシーンの超絶ドラマーとして知られていたが、その正太郎のドラムはどんなにポップな曲であってもチェコをロックバンドたらしめている原動力と言えるかもしれない。
この時期の曲たちは生まれた時の編成とも違えば、ライブで進化させてきた5人編成の時のものとも違う。しかし「幽霊船」では正太郎のさらなる手数の増加や4人でのキメを打つようなアレンジなど、今の4人でライブをやる形に変化・進化させている。それは
「可能性は輝いてるよ」
というこの曲のフレーズの通りであるかのようだ。
アウトロから繋げるようなイントロのベースを優心がドラムセットから高くジャンプしてから鳴らす「Call Her」ではメンバーの
「One time, two time, three time」
のカウントに合わせて観客が指を差し出すのが実に楽しい。やはりこの曲においても正太郎のシンバルの細かい刻みが心地良くもスピード感溢れるように聴き手を踊らせてくれる。
優心がその正太郎のドラムセットの方に近づいてからベースを弾き始めたのは、この日最初のタカハシマイメインボーカル曲の「ファインデイ」であり、この日が砂川が「今日めちゃ暖かかったから薄着で来た」というくらいに春らしい気候になったのはこうしてこの曲を演奏することが決まっていたからなんじゃないだろうかと思うくらいにタカハシの歌声は美しく伸びていく。タカハシは10年前の結成時にはいなかったが、加入したからこそこうした曲が生まれてきたのであるし、今となってはチェコの象徴と言えるような存在にすらなっている。
MCでは
「自粛期間中にクラフトビールにハマって10kg太った」
という砂川のインスタのキメ写真をメンバーがキモがるという相変わらずの砂川いじりであるが、その砂川はかつて自称イケメン枠であり、バンドがメジャーシーンで勝負していくにあたっての原動力的な存在であった。タカハシとともにこのバンドに賭けて加入してきたのだから。
そんな再スタート感をこの4人編成になった時に再び味わったことを曲にした「LALALA」ではカラフルな照明がステージを照らしながら、
「切り拓いていくんだ 幻じゃなかった
歩き出した僕ら 誰も邪魔は
出来るわけないんだ
行くんだ 未来の中へ
花開いた 日々は 誰のものでもない
抱きしめていたいんだ 笑っていたいんだ
宝物なんだ
愛してるよ 今も未来も」
とどんな変化が起こっても止まらずに歩き続けてきたバンドの意志そのもののようなサビの歌詞がポップに、でもしっかりと力強く響く。
打ち込みのEDM的なサウンドも導入してバンドの新たなポップネスを切り拓いた「Electric Girl」は加入当初は「お人形みたい」と少女的な見られ方をすることも多かったタカハシの神聖な歌声がまるで聖母の歌であるかのようなオーラを放つ。元から歌が上手いコーラスができるメンバーとして加入してきたタカハシだが、年数や経験を経てさらにその技術と、観客を魅惑するような説得力が段違いに向上しているのがこうして聴いているとよくわかる。
そんな中で編成が4人になったことによって、今までならシンセを使っていたフレーズを砂川がギターで奏でるという、4人だからこそのサウンドの広がりを見せる形で演奏されたのは少し久しぶりな感じもする「ショートバケーション」。
ライブがなかった時期はまさに「ショートバケーション」のようだったというが、その「ショートバケーション」も含め、普段はあまりライブではやることのない、
「親に聞かせちゃいけないチェコの曲」
ゾーンへと突入していく。
優心がベースを置いてタンバリンを叩きながら歌う「エンドルフィン」はまさにエンドルフィンが分泌されまくった状態で生み出されたかのようなポップとサイケデリックを行き来する曲であり、おそらくは何曲かを1曲に繋ぎ合わせたんじゃないかという気さえする。天井からぶら下がるミラーボールの光を生かした照明もそのサイケデリックさを助長している。
タカハシメインボーカルの「Everything」がこの「親に聞かせちゃいけない」ゾーンに入っているのがよくわからないが、やはりタカハシメインボーカルの曲は実にポップだ。ボーカルに専念することによってエレクトロな同期の音がさらにそのポップさを際立たせつつ、タカハシはステージ前まで出てきて歌う。もはやその姿は立派なメインボーカルの1人だ。
そのタカハシが印象的なシンセのリフを弾くのはバンド最初期の曲である「DANCE」。盟友とも言えるバンドであるHelsinki Lambda ClubがBAYCAMP出演時にリハでこの曲のシンセのリフを弾いていたが、そのくらいに一度聴いたら忘れられないフレーズをこのバンドは結成直後から生み出してきたのである。個人的には当時のUSインディーバンドの中でも飛び抜けた存在であったMGMTの「Kids」を思い出したりもするが、そうした影響は当時の優心にも間違いなくあっただろう。
曲間では
「今日久しぶりにライブに来たっていう人いる?」
と優心が問いかけるとそこそこ多くの人が手を挙げていた。自分はこの状況でもいろんなバンドのライブに行くようになったが、きっとチェコがライブをやってくれるんなら久しぶりにライブに行こうと思った人もいるはずだ。
そしてここでかねてから告知されていたスペシャルゲストとして、2018年に突如としてバンドを脱退した八木類がステージに。バンド在籍時はかけていなかったメガネをかけるようになっているが、
砂川「八木ちゃんのインスタをフォローしてなかったな、と思って最近フォローしたら深夜に30件くらい連続で八木ちゃんが俺の投稿にいいね!をしてきて怖かった(笑)」
と言ったり、関係性はあまり変わっていないようだ。
当時、ツアー開始直前(しかも5人で5周年という名目のツアーだった)に脱退したこともあり、いろんな憶測が流れたりもした。でも優心とタカハシマイの結婚式に参加してメンバーと一緒に写真を撮っていたりしたのを見て、そうした憶測やファンが抱えていたモヤモヤした不安は消えていった。その延長として10周年を祝うツアーのファイナルのステージにこうして5人で一緒に立っている。八木自身も
「辞めたメンバーがこうやってまたライブに参加してるバンドなんていないよ(笑)」
と言っていたが、それはチェコというバンドが続いていて、それができるバンドの懐の広さを持っていて、八木がそれに応えることができる人間だったからだ。なんなら八木より前に脱退したアディムだって今もバンドのデザインを担当したり、たまにライブに普通に来ていたりする。それはチェコというバンドの持つ自由で開放的な空気感あればこそだ。
その八木が
「タカハシさんの高さに合わせてるから低い(笑)」
と言って膝を曲げてシンセを弾き、タカハシがハンドマイクでボーカルに専念するのは「Field Poppy」なのだが、八木は演奏だけではなく独特のこのバンドの中では最も低い声でのコーラスも務める。練習したりスタジオに入ったりしてから臨んでいるのは間違いのないことだが、その姿を見て、八木がまだチェコの音楽をちゃんと覚えてくれていると嬉しくなった。
ポップでありながらサビでの正太郎のハイハットの細かい連打がどこかパンクさを感じるラブソング「Crazy Crazy Love」、砂川も演奏するのが実に久しぶりだと言っていた「MIKA」では八木がギターを弾くという5人組時代の編成に。
優心も
「5人だと演奏がやりやすい」
と言っていたが、それはその通りで、このあたりの曲は5人で演奏するために作られた曲だからである。今の4人でもマルチプレイヤーとして覚醒したタカハシがギターやシンセを曲ごとに持ち替えて演奏するという工夫によるアレンジで演奏されているが、この5人で演奏されるのが見ていても聴いていても1番自然な姿なんだよなと思えるくらいに、3年ぶりとは思えないくらいにしっくりくる。
だからこそタカハシも優心も
「これからもたまに来て演奏すればいいじゃん」
と八木に言っていたし、八木もこれからもそうした可能性があることを感じさせてくれた。次の機会には八木メインボーカルのニート賛歌パンク「JOB!」などもまた聴きたいところだ。
そんな5人編成で最後に演奏された「ネバーランド」を聴いていたら、正太郎が公開断髪した渋谷AX、日比谷野音やZepp、COUNTDOWN JAPANのGALAXY STAGEの年越しなど、今よりはるかに大きなステージに立っていた頃を思い出した。あの頃、チェコはどこまで行くんだろうか、どこまで我々を連れていってくれるんだろうかと思っていた。その頃と同じステージには今は立てないかもしれないけど、こうして10周年を迎えることができて、なかなか会うことすら難しい状況の中でもみんなでそれを祝うことができている。あの頃、武道館やアリーナだって見えていたはずだった。でもそこまで行っていたらこうして10年続いていたかどうかわからない。当時近くにいて、同じように大きなステージに立っていたバンドの多くが活動休止や解散を選んだ。そう考えると、いろいろありながらもこうして10周年に辿り着いたこと、それを祝えていることがより一層愛おしく感じられる。
メンバーと観客が八木に感謝を告げると4人編成に戻り、全員のコーラスが重なる「Amazing Parade」(この曲も八木が参加しても良さそうではあったけれど)でアッパーな祝祭感に溢れると、ドラゴンボールの主題歌としてバンドの存在を音楽好きからお茶の間にまで広げた「Oh Yeah!!!!!!!」では優心がほとんどベースを弾かずに同期の音に任せて歌う。
そうしたベーシストとしてではなく、ボーカリストとしての優心の姿も今ではすっかりおなじみとなったけれど、2015年に日比谷野音でこの曲をやった時に初めて優心は曲中でベースを置いてハンドマイクで歌った。結果的にはその「ベースを弾かなくても成立する」という曲ができたことがそれ以降のチェコの音楽性のさらなる広がりに繋がっていったという点ではタイアップの大きさ以上にこの10年間の中で大きな転換点だったのかもしれない。
優心は何度も
「心で歌って!」
と言っていたが、サビでメンバーと一緒に叫ぶことができなくても、この曲をライブで聴けていて、曲に合わせて飛び跳ねているだけで本当に楽しい。
少し切なさも感じさせる同期のイントロが流れて始まったのは10周年という大きな花火を打ち上げる「Firework」。夜の野外でのライブでこの曲を聴いた時の美しさは今もよく覚えている。去年はライブはおろか花火すらも見ることが出来なかった夏であったが、今年の夏はまた花火を眺めることも、このバンドの10年をそうした野外のライブ会場でも祝えることも、希望や可能性は捨てていない。
このご時世であるが故に多くのバンドがライブの時間を短くしたり、曲数を少なくしたりしている中で、ここまでですでに20曲。ベスト盤が2枚組で計39曲収録であるだけに、これでもまだベストの中の半分くらいしか演奏されていないのだが、最近のライブでのボリュームとしてはかなりのものになっている。
すると優心はこのコロナ禍での1年でかなりダウナーになってしまい、音楽を辞めようとすら考えていたことを語る。なんならこのツアーがチェコにとって最後のツアーになるかもしれないということも。音楽やライブが「必要のないもの」とされることも多かった1年だっただけに、ミュージシャンにとっては自身の存在意義が揺らいでしまう1年だったかもしれない。SNSなどで文章で伝えるということにも疑問を抱くようになってほとんどやらなくなったというだけに、こうして観客の前だからこそ言える、正直過ぎるくらいに胸の内を曝け出した告白だ。
「MANTLE」でのブレイク、「No Way」のMVなどでキラキラしたリア充的な(当時は「テラスハウス的」という意味不明な形容をされることもあった)イメージを持たれることもあったけれど、インタビューやこうしたMCなどを聞いていてもわかるが、優心は本来は暗い人間だ。
ブルーハーツや銀杏BOYZに衝撃を受け、SUPERCARを聴いて音楽性が広がり…というのは自分と同じような音楽の原点を持った同世代の男である。そうした音楽を聴いて生きてきた人はそんなキラキラしたリア充的な人生を送るなんてできないというか、むしろそうした人を舌打ちしながら見ているようなタイプだ。
だからこそチェコを聴いていても感じるのは、そうしたタイプの人間が聴いてくれる人を楽しませるためのポップミュージックをロックバンドとして生み出しているということだ。優心は
「こんなに長くやるバンドになるなんて思ってなかった。すぐに辞めてもいいくらいに思って始めたバンドだから。(正太郎も深くうなずく)
でも、みんなの「楽しかった」とか「力を貰いました!」という言葉だけをガソリンにして10年間走ってこれた」
と言っていたが、そうしたファンの存在やリアクションがなければもっと内に潜った音楽を作り続けるバンドになっていたかもしれない。「MANTLE」での誤解されたイメージへのカウンターとして作られた「Santa Fe」の暗さはそうした優心の人間性を如実に表している。
でも優心は
「きっとまだ普通にバンドを続けると思う」
とも口にした。辞めようと思ったのも本心であるならば、その言葉もまた本心であるだろう。なぜならまだこのバンドで音楽を作っていくことへの「好奇心」があるから。
「間違えても構わないから
爆音で生きるのだ
むしろ間違いなんてないよ
僕は僕に僕の自由を」
というサビの歌詞はこれからもこのバンドが続いていくことを宣言しているようであり、その曲をベスト盤の人気投票でファンが1位に選んだ。それは意外なようでいて当然の結果なのかもしれない。チェコがバンドを続ける意志を歌ったこの曲を選ぶということは、ファンもまたチェコとこれからも生きていくという意志を示したということなのだから。
アンコールではまず砂川が1人で登場し、観客の歓声をタモリのように操って喝采を浴びる。ツアーTシャツに着替え、メガネも今までの黒縁のものに戻っている。
すると正太郎もステージに登場し、
「ちょっといい?俺今日まだ一言も喋ってない(笑)」
と言って、日比谷野音ワンマンから始めた物販紹介MCを始める。トランプやバンダナという他のバンドの物販ではあまり見られないアイテムはおうち時間がまだ多かったり、手洗いを今まで以上にしたりという状況だからこそのアイテムであるとのこと。
物販紹介を終えると優心とタカハシマイもツアーTシャツを着てステージに戻り、砂川の先ほどまでつけていた新しいメガネを
「気持ち悪かった(笑)」
といじりながら、
「スピッツみたいにアンコール出てきてすぐに曲やりたいけど、もう手遅れなくらいに喋ってる(笑)」
と言って演奏されたのは、高らかになるホーンの音をタカハシがシンセで奏でる、自身のボーカリストとしての才覚を発揮し始めた曲である「For You」。
リリース当時にスペシャのポッキーのCMとして踊りながら歌うタカハシの姿が大量オンエアされていたが、愛しい人に向けたラブソングであるこの曲はこの日は間違いなくここに来てくれた人のために歌われていた。
「全ての音楽を鳴らしている仲間に捧げます」
と言って演奏された「Melody」は昨年のBAYCAMPでもそう言って演奏されていた。
「涙が 止まらない 夜には
歌うよ 不思議な メロディ」
というフレーズは優心が音楽に救われてきた人であるということ、この1年間はそれを再度実感した年月だったということを感じさせるが、チェコはこれまでにも様々なバンドと対バンしてきたし、主催フェスも開催したことがある。この日優心やメンバーの脳内にはどんなバンドたちの姿が去来していたのだろうか。
そして10周年を祝うこの日の最後に演奏されたのは、これまでもライブの最後ならではの光景を生み出してきた「ダイナソー」。
優心は何度も
「心で歌ってくれ!」
と言い、頭を振ったりしながらギターを弾いていた砂川はメガネが外れているくらいに感情を吐き出すような形で演奏している。正太郎のスネアのアタックの強さ、タカハシのシンセと優心のボーカルに重なるコーラス。観客の声がそこに重なることはないけれど、4人だけのサウンドでもチェコは「強い」と感じられるバンドになっている。だからこそなんだか感動してしまっていた。「楽しい」や「祝祭」というチェコのライブで感じられるものが極まった瞬間だった。
演奏が終わると優心は
「今日来てくれたみなさんと八木さんに心から感謝して拍手を送ります!」
と言って拍手をした。我々もバンドに向けて拍手をしていた。その一方通行ではない、双方向の愛情とリスペクトはこれからもこのバンドを見続けていたいと思わせるものだったし、優心は
「またライブで会いましょう!」
とも言った。揺らいだ瞬間もたくさんあっただろうけれど、こうしてライブがあればチェコの音楽を愛している人たちの姿を見ることができて、直接向き合って演奏したり、自分の心の内を聞いてもらうことができる。きっとこれからもチェコはこうして我々にたくさんの楽しさや感動を与えながら続いていくはずだ。
好きなバンドは数え切れないくらいにたくさんいる。でもそのバンドの中で「バンドが始まった瞬間を知っている」という存在はそうそういない。大学や高校の同級生で結成して〜というバンドの学生時代はなかなか知る由もないところだからだ。
でもチェコはそんな、始まった時から知っている数少ないバンドだ。結成する前の優心も、結成してからの様々なメンバーの入れ替わりや記念碑的なライブも(過去2回の男性限定ライブも)ある程度見届けることができた。
そんなバンドの10周年までをもこうして祝うことができている。ここまで来たら15周年、20周年、さらにその先まで。このバンドの未来への好奇心は全く失われることはない。
1.No Way
2.MUSIC
3.Festival
4.レインボー
5.幽霊船
6.Call Her
7.ファインデイ
8.LALALA
9.Electric Girl
10.ショートバケーション
11.エンドルフィン
12.Everything
13.DANCE
14.Field Poppy
15.Crazy Crazy Love
16.MIKA
17.ネバーランド
18.Amazing Parade
19.Oh Yeah!!!!!!!
20.Firework
21.好奇心
encore
22.For You
23.Melody
24.ダイナソー
文 ソノダマン